2012.3.3(土)
車両間の扉が開き、食い鉄くんが入って来ました。
み「なんだ、あいつ。
へろへろじゃん」
座席に、へたり込みます。

食「ま、間に合ったぁ」
み「何してたんだよ?」
食「これですよ、これ」
み「それってまさか……。
弁当じゃないだろうな」
食「ほかに何に見えるんです?
能代駅名物!
ミキ寿司の『季節のばらちらし』です」

み「今、何と言った?」
食「だから、『ばらちらし』ですって。
ほら」
み「その前!」
食「能代駅名物」

み「ワザと外してるだろ」
食「は?
何か言いましたっけ?」
み「弁当屋の名前だよ」
食「あぁ。
ミキ寿司ですか」
み「どんな字、書くんだ?
三本の木?」

食「カタカナで、“ミキ”じゃなかったかな?」

み「すんばらしい名前ではないか」
食「どうしてです?」
み「わたしのご芳名だよ」
食「あぁ。
三木さんって云われるんですか。
三木と云えば、三木のり平」

食「何は無くとも、江戸むらさき」

み「人の話を聞いてるのか!
苗字では無いわ」
食「あ、これは失礼しました。
お名前が“ミキ”さんですか。
ミキと云えば……。
ミキゴルフ」
み「ニキだろ!」

み「とにかく!
その素晴らしい名前は別にして……。
弁当買うには早すぎだろ。
まだ、10時前だぞ」
食「ちょうどいい時間じゃないですか。
10時のおやつ」

↑これは、昭和のワイドショー
み「さっき、“鳥わっぱ”食べたばっかりじゃない」

食「昔のことは忘れました」

食「とにかく!
能代駅には、いい駅弁があるんです。
でも、買うためには、予約しておかなきゃならないんですよ」
み「してたわけ?」
食「はいなー。
だから、あんなに慌てたんじゃないですか」
み「そんなら、バスケットなんかしなきゃいいのに」
食「この記念グッズも、どうしても欲しかったんです。
ほんとうに、ありがとうございました」

み「ま、取っときたまえ」
食「あなたに貰ったんじゃありません。
あなたからは、ボールの直撃を貰いましたけどね」

食「ムチ打ちになりそうでしたよ」

↑これは、意味が違うが……。
み「大げさじゃのぅ。
とにかくそれ、開けてみんさい。
天下の“ミキ寿司”」

食「天下のってほどじゃありませんけどね。
それじゃ……。
ご開帳。
ほら」

み「おー、綺麗じゃん」
律「ほんと、美味しそう」
食「でしょー。
どれにしようか、ちょっと迷ったんです。
ほかにも、美味しそうなお弁当が揃ってますから。
山久の『食彩人弁当』とか……」

食「シャトー赤坂の『能代牛ステーキ弁当』とか」

食「前に来たときは、これの2個食いをやりました」

食「幸せだったなぁ」

み「聞いてるだけで、胸が悪くなってくる」
食「2個食いのときは、お昼でしたけど……。
今日は、おやつですからね。
小腹抑えには、チラシ寿司がピッタリというわけです」

み「大腹だろ」

↑タイの布袋さん
食「少しお分けしましょうか?
言っときますけど、こちらの先生にだけです。
あなたにはやりませんよ」
み「なんでじゃ!」

食「あなたには、借りがありませんからね」

食「逆に、ボールをぶつけられた貸しがあります」

み「案外、根に持つタイプだね」
食「貸し借りの感覚を持つことは、社会人として重要なことですよ」

食「こちらの先生には、貴重な記念グッズを頂いたという、大きな借りがあります。
ですから、分けてさしあげるとしたら……。
こちらの先生だけです」
律「ありがたいけど、遠慮しとくわ」
み「なんで?」
律「間食の習慣が無いので」

食「なるほど。
それでそんなにスマートなんですか。
ボクは、完食の習慣しかありません」

食「意味、わかります?
このスマートな洒落。
一粒残らず食べる完食のことですよ」

律「鬱陶しい解説、せんでいい」
食「それじゃ、仕方ありません。
ひとりで、ぜーんぶ食べちゃいますから。
ガツガツガツ。
まいう~」

律「えーい、鬱陶しい。
何でこんなのと、向かい合わせで座ってなきゃならんのだ」
食「すみませんね。
しばし、食事に集中させていただきます」

律「でも、ほんとに美味しそうな食べっぷり。
お嫁さん、きっと作る幸せを感じると思う」

み「そんなのは、最初のうちだけ。
家計簿付けたら、エンゲル係数の高さに仰天して……」

み「幸せが怒りに変じるのに、長くはかからないね」

律「夢の無い人ね。
だから、結婚出来なかったのか」
み「出来なかったのでは無い!
しなかったのだ」

↑そーゆー男は、あんたを選ばない
み「しかもなんで、“出来なかった”って過去形なわけ?」
律「まさか、するつもり?」
み「まさかとは何よ。
可能性はあるだろ」
律「確かに、富士山が噴火する可能性だってあるわけだしね」

律「でも、赤ちゃんは難しいかもよ」

み「あ、知ってる。
こないだ、NHKでやってたね。
卵子の老化って問題でしょ?」

律「そうそう。
お気の毒な夫婦が多いのよ」

律「あー、仕事、気になって来ちゃった」
み「それはイカン。
せっかく取れたお休みなのに。
話題を変えよう。
あ、そうだ。
能代工業で思い出した」

み「新潟も、けっこう高校バスケは強いんだよ」
律「そうなの?」
み「インドアスポーツなら、雪国のハンデが無いからね」

↑旭川工業野球部の雪上練習。大変じゃのぅ。
み「だから、秋田も強いんじゃないの。
新潟では……。
新潟商業が、インターハイで優勝してる(1999年)」

律「へー。
スゴいじゃない」
み「だろー。
この新潟商業ってのは、古い学校でね……。
全国でも、6番目に開校した商業学校」

↑開校(1883年)ころの校舎前にて
み「昔は高校野球も強かったんだよ。
甲子園にも、8回くらい出てるんじゃないかな」

↑大正15年、3回目の甲子園出場メンバー
律「あんまり聞かないけど」
み「最後に出てから、たぶん30年以上になるからね(昭和50年が最後)」
律「弱くなっちゃったの?」
み「県立の商業高校だから。
全国的な傾向だろうけど……。
生徒が女子ばっかりになっちゃったのよ」
律「ふーん」
み「お待ちどう様です!
ただいま、完食しました」

み「早っ」
食「おやつですから」
み「一心不乱に食べてたからだろ」
食「とんでもない。
食べながら、ミキ寿司のキャッチフレーズを考えてました」
み「どんな?」
食「ミキミキミキミキ、ミキの寿司。
ウマくてどーも、すいません(こちらの1959年をご参照ください)」
み「完全なパクリだろうが!
あ、そうそう。
値段聞いて無かった」
食「1,000円ですよ」
み「高け~おやつ」
食「旅行に出たときは、食事をケチらない。
それがボクの主義です」
み「都合のいい主義だな」
食「これがなきゃ、食い鉄なんて名乗れませんよ」

み「ま、そりゃそうだ。
ところで、能代名物は、バスケットだけ?」
食「とんでもない。
いっぱいありますよ。
何からいきます?」
み「じゃ、日帰り温泉はあるの?」
食「温泉かぁ。
そうそう。
その名も、『湯らくの宿 のしろ』」

食「昔の国民年金健康保養センターです」

み「もちろん、300円?」
食「いえ。
ここは、400円でしたね」
み「いかんじゃないか、統一してもらわなきゃ」
食「ボクに言わないでくださいよ」
み「温泉探査に、お金がかかったのかな?」
食「昭和41年に、石油を掘ってたら熱湯が噴きだしたそうです」
み「また石油か!」

み「森岳温泉もそうだったじゃないの」
食「ですね。
昔は、けっこうあったんじゃないですか」
み「石油ねー。
それじゃ今は……。
偶然、温泉が湧くってことは、無くなっちゃったわけか」
食「温泉が湧きそうだって場所、どうやって調べるんでしょうね。
人の土地を、無闇矢鱈と掘れないですもんね」
み「温泉探知犬とか、いるんじゃないの?」

↑これはにゃんと、シロアリ探知犬
食「ここ掘れワンワン?」

み「そうそう。
温泉玉子を嗅がせて、探させるんだよ」

食「硫黄温泉ばかりとは限らないでしょ」

み「うーん。
人のお尻ばかり嗅いだりしてね」

律「お下品!」
食「食事したばっかりなのに」
み「悪うござんしたね、下品で。
ところで、市営の温泉施設は無いわけ?」
食「さぁ。
あんまり聞かないなぁ。
あ、市営の保養所ならありますよ。
『はまなす荘』」

↑“皆様の憩いの館”。すばらしいキャッチです。
み「なんとなく……。
外観が想像できそうな名前だね」
食「ご想像通りの佇まいでしたね」

食「内部も、思い切り昭和でした」

み「いろんなとこ寄ってるね」
食「鉄道ファンは、温泉フリークも兼ねてる場合が多いんです」

食「もちろん、安い日帰り温泉ですけど。
夜行列車と日帰り温泉があれば、宿に泊まる必要がありませんからね」

み「青春の旅路じゃのぅ」

食「最近は、夜行列車がどんどん廃止されて……。
そういう旅も出来なくなってきましたね」

↑寝台特急:日本海(2012年3月廃止)
み「最近の夜行列車は、豪華路線だよね」
食「ですね。
トワイライトエクスプレスに……」

食「カシオペア」

み「高いんだろ?」
食「確かにね。
カシオペアのスイートは……。
運賃、特急料金、寝台料金を合わせると、1人5万円近いです(正確には、46,360円)」

み「どひゃー。
2人で10万!
カシオペアって、どっからどこまで?」
食「上野から札幌です」

み「何時間、かかるわけ?」
食「上野を、16:20分に出て……。
札幌着が、翌朝の9:32分です。
約17時間ですね」

み「飛行機なら、1時間くらい?」
食「1時間半です」

み「料金だって、飛行機の方が安いよね」
食「正規運賃でも、3万5千円くらいでしょう。
格安航空券なら、もう1万くらい下がるんじゃないかな」
み「5万円って、個室露天風呂付きの高級旅館に泊まれる値段じゃん」

↑すぐ近くまで行った『由布院・玉の湯』
み「カシオペアって、お風呂も無いんでしょ?」
食「シャワーだけです」

食「食事代は、別料金ですし……。
確かに、高級旅館よりも高いかも知れませんね」

↑カシオペアの食堂車。フランス料理コースは、7,800円(お酒の値段は不明)。
み「なぜに、乗るわけ?」
食「そこに、カシオペアがあるからです」

み「カシオペアがあっても……。
財布に金が無い」

食「ある人が乗るんです」

食「とにかく、リビングみたいにゆったり座ってですね。
お酒飲みながらですよ。
目の前の景色が、飛ぶように動いていくのを見れば……」

食「それだけで、5万の価値がありますって」

み「そんならさ。
夜行列車じゃなくて、昼行列車にすればいいのに」

↑青空の下を疾走する『ゆふいんの森』
食「何です、それ?」
み「カシオペアは……。
16:20分発の、翌朝9:32分着でしょ」

み「冬なんか、窓の外が見えるのは……。
ほんの数時間だよ」

↑12月ころなら、出発後10分くらいで日没となります。
食「ま、確かにそれはありますね」
み「だから、夜行列車じゃなくて……。
昼間走るようにするわけ。
発車は……。
そうだね、朝の3時くらいか。
夜明けを車中で迎えたいからさ」

食「でも、上野まで3時に来なきゃいけませんよ」
み「今さらケチるでないわ。
タクシー奮発するか、前泊すればいいじゃないの。
上野3時なら、札幌20時よね。
夏なら、たっぷり丸一日、車窓が楽しめるよ」

食「確かに、それは悪くないですね」
み「でしょ。
眠くなったら、お昼寝すればいいわけだし。
ぜったい、受けるって。
企画書出さない?」
食「実現すれば……。
ボクも、ぜひ乗りたいですね。
でも……。
ムリだろうな」
み「何でよ?」
食「夜中に走るから……。
ダイヤの隙間に嵌めこめるわけです」

食「真昼間に、こんな列車走らせるの、ぜったいムリですよ」
み「その発想が間違っとる!
まず、カシオペアのダイヤを、バーンと取る」

み「ほかの列車は、その後に嵌めこめばいいじゃない」
食「そんな無茶なこと出来ませんよ。
公共交通機関なんだから」
み「株式会社だろ」

み「よし。
これから、社長に談判しに行こう」

食「青森に向かいながらそんなこと言ったってムリです。
社長は、東京ですから」
み「そんなら、わたしが社長になる」
食「朝から、酔ってるんじゃないですか?」

み「あ、鉄橋だ」

み「何て川?」
食「米代川です」

食「この橋は、米代川橋梁」

み「けっこう大きな川だね」

食「この先の河口が、能代港になります」

食「古くから栄えた港町なんですよ」
み「ふーん。
川港か。
新潟と似てるね。
冬は、風が強いんだろうな」

食「『風の松原』が有名ですよ」

食「見事な、黒松の砂防林です」

み「いつごろ植えられたの?」

食「江戸時代前期ですね。
地元の廻船問屋が、私費を投じて植え始めたようです」

↑海鮮丼屋に非ず
み「ま、儲けたんだろうから、そのくらいしなくちゃね」

食「その後、さまざまな人が植え継いで……。
今の『風の松原』となりました。
幅1キロ、延長14キロほどのエリアに……。
黒松が700万本植えられてるそうです」

み「そりゃ、スゴいわ。
↓新潟にも、西海岸公園って黒松林があるけど……」

み「規模が段ちだね。
新潟のは、幅が100メートルくらいしか無いんじゃないかな。
でも、大丈夫なのかな?」
律「何が?」
み「マツクイムシよ。
西海岸公園じゃ……。
毎年、梅雨のころ、大規模な薬剤散布が行われてるみたいなんだ」

み「近くに住んでる友達がいてね。
松林の中を、毎日ジョギングしてるんだって」
律「走りづらそうね」
み「ちゃんと遊歩道が作られてるよ。
固い砂地だけど……」

み「松の枝に遮られて、日が差さないから……」

み「紫外線を避けたい女性ジョガーには人気なのよ」

↑気持ちはわかるが、怪しすぎ
み「で、毎年、梅雨ころになると……。
マツクイムシ防除の予告看板が出るんだって」

み「1ヶ月おきに、2回やるって言ってた」

律「空から撒くの?」

み「無理無理。
松林のすぐ際まで、住宅街だし……。
反対側は海水浴場。
上からなんか撒けっこない」
律「じゃ、どうやるのよ」
み「そのジョガーの子ね、一度、探索に行ったんだって。
どんなふうにするのかって」
律「立入禁止じゃないの?」

↑これは、又剣山(奈良県)にある看板。なんで禁止なんだ?
み「散布中って看板は出るらしいけど……。
入れなくなってるわけじゃないんだって」

み「で、こっそり入ってみたんだって。
すると……。
大きなタンクを背負ったトラックが、松林の際に付けられててね」

み「ゴム引きみたいな雨合羽着た人が……」

↑これとはちょっと違うかも
み「ホース持って松林に入って……。
下から農薬を噴き上げるんだって」

み「スゴい勢いらしいよ」

み「なにせ、松の高さは、30メートルくらいあるそうだから。
そこまで噴き上げにゃならんわけよ。
マツクイムシは、新芽にいるからね」

律「妙に詳しいわね」
み「これは、叔父さんからの受け売り。
わたしの園芸の先生なの。
石灰硫黄合剤をクルマの中にこぼしたり……」

↑ものすごく臭い薬です。まさに硫黄泉の臭い。
み「失敗ばかりしてる先生だけど」

律「そもそも、マツクイムシって、どんな虫なの?」
み「松を枯らす虫は……。
マツノザイセンチュウっていう、小さな線虫」

み「元々、日本にはいなかった虫なんだって。
北米からの木材に入って、日本に渡ってきたわけ」

み「で、日本の松には、この線虫に対する耐性が全くない。
なので、線虫に入りこまれた松は……。
通水障害を起こして、ほぼ100%、枯れてしまうのよ」

律「へー。
そこまでは知らなかったな」
み「大したもんじゃろ。
さらに!
わたしの海よりも深い知識をご披露しよう」
律「海よりも深い受け売りでしょ」
み「聞きなさい!」

み「松を枯らすのは、マツノザイセンチュウ。
でも、薬剤散布で殺すのは、別の虫なのよ」
食「は?」
律「どういうわけ?」
み「おわかりにならんようね。
それじゃ、質問を変えましょう。
線虫って、どんな虫か知ってる?」
食「文字通り、線みたいな虫なんじゃないですか?」

み「That's Right.
テレビで、松枯れの被害報道とか、見たことあるでしょ?
海岸の松が、次から次へと枯れていく。
まるで伝染病みたいに」

食「あぁ、その光景なら、海岸沿いを車で走ってると、ときどき見ますよ」
み「だろ?
それでは、どうして、被害が広がっていくのか?」

律「線虫が、松から松へと移っていくからじゃないの?」

み「That's Right.
それでは、どうやって、松から松へと移っていくのでしょう?」
律「どうやってって、飛んで行くんじゃないの?」

み「ブ、ブー。
激しく外れです。
答えからは、5万光年離れてます」

律「腹の立つ女ね」
み「線虫は、文字通り、線みたいな虫だって……。
さっき、このカニ道楽くんが言ったでしょ」

食「は?
ボクのことですか?」
み「ほかに誰がおる。
食道楽と言おうとして、口が滑っただけじゃ」
食「どんな滑り方ですか」

み「バラチラシに、カニの姿が見えた」
食「え?
どこに?」
み「そこじゃ、そこ」
食「あ、ほんとだ。
目がいいですね。
鳶みたいだ」

↑油揚げをさらう鳶(江ノ島付近)
み「油揚げも好物じゃが……。
カニも好むのだ。
それを一切れ、わたしに食わせてみないか?」
食「一切れしかないじゃないですか」

↑北海道の紋別にあるそうです。作るとき、誰も止めなかったのか?
み「それじゃ、ちょうどいいだろ」
食「イヤですよ」
み「カニは、痛風に悪いんだぞ」

食「痛風なんかありませんよ」
み「その体型なら、間違いなく出る」

食「嫌なこと言わないでくださいよ」
み「未来からの警告じゃ」
食「それじゃ、今のうちに食べておこうっと」
み「どうしてそういう発想になるわけ?
未来の自分のために、節制しようとは思わないの?」

食「若いうちから、そんな発想してるヤツいませんって。
とにかく、カニはあげません」
み「そんなら、イクラは?」

↑いくらの根付。その名も『いくらちゃん』。
食「好物です」
み「嫌いなもの無いの?
そんだけ具が入ってたら、ひとつくらいあるだろ?」
食「強いて食べられないものをあげるとしたら……。
折り詰めの箱と、割り箸くらいかな」

律「ちょっと……。
↑の記述、おかしくありません?
さっき、完食なさったでしょ?」
食「ボクもそう思うんですが……。
なぜかまた、わいてきたんです」
律「どうなの、“み”さん?
何、知らんぷりしてんのよ」
み「昔のことは忘れた」

律「ほんとに忘れてたんだわ。
自分が書いたこと。
呆れた人」
み「なんだ、あいつ。
へろへろじゃん」
座席に、へたり込みます。

食「ま、間に合ったぁ」
み「何してたんだよ?」
食「これですよ、これ」
み「それってまさか……。
弁当じゃないだろうな」
食「ほかに何に見えるんです?
能代駅名物!
ミキ寿司の『季節のばらちらし』です」

み「今、何と言った?」
食「だから、『ばらちらし』ですって。
ほら」
み「その前!」
食「能代駅名物」

み「ワザと外してるだろ」
食「は?
何か言いましたっけ?」
み「弁当屋の名前だよ」
食「あぁ。
ミキ寿司ですか」
み「どんな字、書くんだ?
三本の木?」

食「カタカナで、“ミキ”じゃなかったかな?」

み「すんばらしい名前ではないか」
食「どうしてです?」
み「わたしのご芳名だよ」
食「あぁ。
三木さんって云われるんですか。
三木と云えば、三木のり平」

食「何は無くとも、江戸むらさき」

み「人の話を聞いてるのか!
苗字では無いわ」
食「あ、これは失礼しました。
お名前が“ミキ”さんですか。
ミキと云えば……。
ミキゴルフ」
み「ニキだろ!」

み「とにかく!
その素晴らしい名前は別にして……。
弁当買うには早すぎだろ。
まだ、10時前だぞ」
食「ちょうどいい時間じゃないですか。
10時のおやつ」

↑これは、昭和のワイドショー
み「さっき、“鳥わっぱ”食べたばっかりじゃない」

食「昔のことは忘れました」

食「とにかく!
能代駅には、いい駅弁があるんです。
でも、買うためには、予約しておかなきゃならないんですよ」
み「してたわけ?」
食「はいなー。
だから、あんなに慌てたんじゃないですか」
み「そんなら、バスケットなんかしなきゃいいのに」
食「この記念グッズも、どうしても欲しかったんです。
ほんとうに、ありがとうございました」

み「ま、取っときたまえ」
食「あなたに貰ったんじゃありません。
あなたからは、ボールの直撃を貰いましたけどね」

食「ムチ打ちになりそうでしたよ」

↑これは、意味が違うが……。
み「大げさじゃのぅ。
とにかくそれ、開けてみんさい。
天下の“ミキ寿司”」

食「天下のってほどじゃありませんけどね。
それじゃ……。
ご開帳。
ほら」

み「おー、綺麗じゃん」
律「ほんと、美味しそう」
食「でしょー。
どれにしようか、ちょっと迷ったんです。
ほかにも、美味しそうなお弁当が揃ってますから。
山久の『食彩人弁当』とか……」

食「シャトー赤坂の『能代牛ステーキ弁当』とか」

食「前に来たときは、これの2個食いをやりました」

食「幸せだったなぁ」

み「聞いてるだけで、胸が悪くなってくる」
食「2個食いのときは、お昼でしたけど……。
今日は、おやつですからね。
小腹抑えには、チラシ寿司がピッタリというわけです」

み「大腹だろ」

↑タイの布袋さん
食「少しお分けしましょうか?
言っときますけど、こちらの先生にだけです。
あなたにはやりませんよ」
み「なんでじゃ!」

食「あなたには、借りがありませんからね」

食「逆に、ボールをぶつけられた貸しがあります」

み「案外、根に持つタイプだね」
食「貸し借りの感覚を持つことは、社会人として重要なことですよ」

食「こちらの先生には、貴重な記念グッズを頂いたという、大きな借りがあります。
ですから、分けてさしあげるとしたら……。
こちらの先生だけです」
律「ありがたいけど、遠慮しとくわ」
み「なんで?」
律「間食の習慣が無いので」

食「なるほど。
それでそんなにスマートなんですか。
ボクは、完食の習慣しかありません」

食「意味、わかります?
このスマートな洒落。
一粒残らず食べる完食のことですよ」

律「鬱陶しい解説、せんでいい」
食「それじゃ、仕方ありません。
ひとりで、ぜーんぶ食べちゃいますから。
ガツガツガツ。
まいう~」

律「えーい、鬱陶しい。
何でこんなのと、向かい合わせで座ってなきゃならんのだ」
食「すみませんね。
しばし、食事に集中させていただきます」

律「でも、ほんとに美味しそうな食べっぷり。
お嫁さん、きっと作る幸せを感じると思う」

み「そんなのは、最初のうちだけ。
家計簿付けたら、エンゲル係数の高さに仰天して……」

み「幸せが怒りに変じるのに、長くはかからないね」

律「夢の無い人ね。
だから、結婚出来なかったのか」
み「出来なかったのでは無い!
しなかったのだ」

↑そーゆー男は、あんたを選ばない
み「しかもなんで、“出来なかった”って過去形なわけ?」
律「まさか、するつもり?」
み「まさかとは何よ。
可能性はあるだろ」
律「確かに、富士山が噴火する可能性だってあるわけだしね」

律「でも、赤ちゃんは難しいかもよ」

み「あ、知ってる。
こないだ、NHKでやってたね。
卵子の老化って問題でしょ?」

律「そうそう。
お気の毒な夫婦が多いのよ」

律「あー、仕事、気になって来ちゃった」
み「それはイカン。
せっかく取れたお休みなのに。
話題を変えよう。
あ、そうだ。
能代工業で思い出した」

み「新潟も、けっこう高校バスケは強いんだよ」
律「そうなの?」
み「インドアスポーツなら、雪国のハンデが無いからね」

↑旭川工業野球部の雪上練習。大変じゃのぅ。
み「だから、秋田も強いんじゃないの。
新潟では……。
新潟商業が、インターハイで優勝してる(1999年)」

律「へー。
スゴいじゃない」
み「だろー。
この新潟商業ってのは、古い学校でね……。
全国でも、6番目に開校した商業学校」

↑開校(1883年)ころの校舎前にて
み「昔は高校野球も強かったんだよ。
甲子園にも、8回くらい出てるんじゃないかな」

↑大正15年、3回目の甲子園出場メンバー
律「あんまり聞かないけど」
み「最後に出てから、たぶん30年以上になるからね(昭和50年が最後)」
律「弱くなっちゃったの?」
み「県立の商業高校だから。
全国的な傾向だろうけど……。
生徒が女子ばっかりになっちゃったのよ」
律「ふーん」
み「お待ちどう様です!
ただいま、完食しました」

み「早っ」
食「おやつですから」
み「一心不乱に食べてたからだろ」
食「とんでもない。
食べながら、ミキ寿司のキャッチフレーズを考えてました」
み「どんな?」
食「ミキミキミキミキ、ミキの寿司。
ウマくてどーも、すいません(こちらの1959年をご参照ください)」
み「完全なパクリだろうが!
あ、そうそう。
値段聞いて無かった」
食「1,000円ですよ」
み「高け~おやつ」
食「旅行に出たときは、食事をケチらない。
それがボクの主義です」
み「都合のいい主義だな」
食「これがなきゃ、食い鉄なんて名乗れませんよ」

み「ま、そりゃそうだ。
ところで、能代名物は、バスケットだけ?」
食「とんでもない。
いっぱいありますよ。
何からいきます?」
み「じゃ、日帰り温泉はあるの?」
食「温泉かぁ。
そうそう。
その名も、『湯らくの宿 のしろ』」

食「昔の国民年金健康保養センターです」

み「もちろん、300円?」
食「いえ。
ここは、400円でしたね」
み「いかんじゃないか、統一してもらわなきゃ」
食「ボクに言わないでくださいよ」
み「温泉探査に、お金がかかったのかな?」
食「昭和41年に、石油を掘ってたら熱湯が噴きだしたそうです」
み「また石油か!」

み「森岳温泉もそうだったじゃないの」
食「ですね。
昔は、けっこうあったんじゃないですか」
み「石油ねー。
それじゃ今は……。
偶然、温泉が湧くってことは、無くなっちゃったわけか」
食「温泉が湧きそうだって場所、どうやって調べるんでしょうね。
人の土地を、無闇矢鱈と掘れないですもんね」
み「温泉探知犬とか、いるんじゃないの?」

↑これはにゃんと、シロアリ探知犬
食「ここ掘れワンワン?」

み「そうそう。
温泉玉子を嗅がせて、探させるんだよ」

食「硫黄温泉ばかりとは限らないでしょ」

み「うーん。
人のお尻ばかり嗅いだりしてね」

律「お下品!」
食「食事したばっかりなのに」
み「悪うござんしたね、下品で。
ところで、市営の温泉施設は無いわけ?」
食「さぁ。
あんまり聞かないなぁ。
あ、市営の保養所ならありますよ。
『はまなす荘』」

↑“皆様の憩いの館”。すばらしいキャッチです。
み「なんとなく……。
外観が想像できそうな名前だね」
食「ご想像通りの佇まいでしたね」

食「内部も、思い切り昭和でした」

み「いろんなとこ寄ってるね」
食「鉄道ファンは、温泉フリークも兼ねてる場合が多いんです」

食「もちろん、安い日帰り温泉ですけど。
夜行列車と日帰り温泉があれば、宿に泊まる必要がありませんからね」

み「青春の旅路じゃのぅ」

食「最近は、夜行列車がどんどん廃止されて……。
そういう旅も出来なくなってきましたね」

↑寝台特急:日本海(2012年3月廃止)
み「最近の夜行列車は、豪華路線だよね」
食「ですね。
トワイライトエクスプレスに……」

食「カシオペア」

み「高いんだろ?」
食「確かにね。
カシオペアのスイートは……。
運賃、特急料金、寝台料金を合わせると、1人5万円近いです(正確には、46,360円)」

み「どひゃー。
2人で10万!
カシオペアって、どっからどこまで?」
食「上野から札幌です」

み「何時間、かかるわけ?」
食「上野を、16:20分に出て……。
札幌着が、翌朝の9:32分です。
約17時間ですね」

み「飛行機なら、1時間くらい?」
食「1時間半です」

み「料金だって、飛行機の方が安いよね」
食「正規運賃でも、3万5千円くらいでしょう。
格安航空券なら、もう1万くらい下がるんじゃないかな」
み「5万円って、個室露天風呂付きの高級旅館に泊まれる値段じゃん」

↑すぐ近くまで行った『由布院・玉の湯』
み「カシオペアって、お風呂も無いんでしょ?」
食「シャワーだけです」

食「食事代は、別料金ですし……。
確かに、高級旅館よりも高いかも知れませんね」

↑カシオペアの食堂車。フランス料理コースは、7,800円(お酒の値段は不明)。
み「なぜに、乗るわけ?」
食「そこに、カシオペアがあるからです」

み「カシオペアがあっても……。
財布に金が無い」

食「ある人が乗るんです」

食「とにかく、リビングみたいにゆったり座ってですね。
お酒飲みながらですよ。
目の前の景色が、飛ぶように動いていくのを見れば……」

食「それだけで、5万の価値がありますって」

み「そんならさ。
夜行列車じゃなくて、昼行列車にすればいいのに」

↑青空の下を疾走する『ゆふいんの森』
食「何です、それ?」
み「カシオペアは……。
16:20分発の、翌朝9:32分着でしょ」

み「冬なんか、窓の外が見えるのは……。
ほんの数時間だよ」

↑12月ころなら、出発後10分くらいで日没となります。
食「ま、確かにそれはありますね」
み「だから、夜行列車じゃなくて……。
昼間走るようにするわけ。
発車は……。
そうだね、朝の3時くらいか。
夜明けを車中で迎えたいからさ」

食「でも、上野まで3時に来なきゃいけませんよ」
み「今さらケチるでないわ。
タクシー奮発するか、前泊すればいいじゃないの。
上野3時なら、札幌20時よね。
夏なら、たっぷり丸一日、車窓が楽しめるよ」

食「確かに、それは悪くないですね」
み「でしょ。
眠くなったら、お昼寝すればいいわけだし。
ぜったい、受けるって。
企画書出さない?」
食「実現すれば……。
ボクも、ぜひ乗りたいですね。
でも……。
ムリだろうな」
み「何でよ?」
食「夜中に走るから……。
ダイヤの隙間に嵌めこめるわけです」

食「真昼間に、こんな列車走らせるの、ぜったいムリですよ」
み「その発想が間違っとる!
まず、カシオペアのダイヤを、バーンと取る」

み「ほかの列車は、その後に嵌めこめばいいじゃない」
食「そんな無茶なこと出来ませんよ。
公共交通機関なんだから」
み「株式会社だろ」

み「よし。
これから、社長に談判しに行こう」

食「青森に向かいながらそんなこと言ったってムリです。
社長は、東京ですから」
み「そんなら、わたしが社長になる」
食「朝から、酔ってるんじゃないですか?」

み「あ、鉄橋だ」

み「何て川?」
食「米代川です」

食「この橋は、米代川橋梁」

み「けっこう大きな川だね」

食「この先の河口が、能代港になります」

食「古くから栄えた港町なんですよ」
み「ふーん。
川港か。
新潟と似てるね。
冬は、風が強いんだろうな」

食「『風の松原』が有名ですよ」

食「見事な、黒松の砂防林です」

み「いつごろ植えられたの?」

食「江戸時代前期ですね。
地元の廻船問屋が、私費を投じて植え始めたようです」

↑海鮮丼屋に非ず
み「ま、儲けたんだろうから、そのくらいしなくちゃね」

食「その後、さまざまな人が植え継いで……。
今の『風の松原』となりました。
幅1キロ、延長14キロほどのエリアに……。
黒松が700万本植えられてるそうです」

み「そりゃ、スゴいわ。
↓新潟にも、西海岸公園って黒松林があるけど……」

み「規模が段ちだね。
新潟のは、幅が100メートルくらいしか無いんじゃないかな。
でも、大丈夫なのかな?」
律「何が?」
み「マツクイムシよ。
西海岸公園じゃ……。
毎年、梅雨のころ、大規模な薬剤散布が行われてるみたいなんだ」

み「近くに住んでる友達がいてね。
松林の中を、毎日ジョギングしてるんだって」
律「走りづらそうね」
み「ちゃんと遊歩道が作られてるよ。
固い砂地だけど……」

み「松の枝に遮られて、日が差さないから……」

み「紫外線を避けたい女性ジョガーには人気なのよ」

↑気持ちはわかるが、怪しすぎ
み「で、毎年、梅雨ころになると……。
マツクイムシ防除の予告看板が出るんだって」

み「1ヶ月おきに、2回やるって言ってた」

律「空から撒くの?」

み「無理無理。
松林のすぐ際まで、住宅街だし……。
反対側は海水浴場。
上からなんか撒けっこない」
律「じゃ、どうやるのよ」
み「そのジョガーの子ね、一度、探索に行ったんだって。
どんなふうにするのかって」
律「立入禁止じゃないの?」

↑これは、又剣山(奈良県)にある看板。なんで禁止なんだ?
み「散布中って看板は出るらしいけど……。
入れなくなってるわけじゃないんだって」

み「で、こっそり入ってみたんだって。
すると……。
大きなタンクを背負ったトラックが、松林の際に付けられててね」

み「ゴム引きみたいな雨合羽着た人が……」

↑これとはちょっと違うかも
み「ホース持って松林に入って……。
下から農薬を噴き上げるんだって」

み「スゴい勢いらしいよ」

み「なにせ、松の高さは、30メートルくらいあるそうだから。
そこまで噴き上げにゃならんわけよ。
マツクイムシは、新芽にいるからね」

律「妙に詳しいわね」
み「これは、叔父さんからの受け売り。
わたしの園芸の先生なの。
石灰硫黄合剤をクルマの中にこぼしたり……」

↑ものすごく臭い薬です。まさに硫黄泉の臭い。
み「失敗ばかりしてる先生だけど」

律「そもそも、マツクイムシって、どんな虫なの?」
み「松を枯らす虫は……。
マツノザイセンチュウっていう、小さな線虫」

み「元々、日本にはいなかった虫なんだって。
北米からの木材に入って、日本に渡ってきたわけ」

み「で、日本の松には、この線虫に対する耐性が全くない。
なので、線虫に入りこまれた松は……。
通水障害を起こして、ほぼ100%、枯れてしまうのよ」

律「へー。
そこまでは知らなかったな」
み「大したもんじゃろ。
さらに!
わたしの海よりも深い知識をご披露しよう」
律「海よりも深い受け売りでしょ」
み「聞きなさい!」

み「松を枯らすのは、マツノザイセンチュウ。
でも、薬剤散布で殺すのは、別の虫なのよ」
食「は?」
律「どういうわけ?」
み「おわかりにならんようね。
それじゃ、質問を変えましょう。
線虫って、どんな虫か知ってる?」
食「文字通り、線みたいな虫なんじゃないですか?」

み「That's Right.
テレビで、松枯れの被害報道とか、見たことあるでしょ?
海岸の松が、次から次へと枯れていく。
まるで伝染病みたいに」

食「あぁ、その光景なら、海岸沿いを車で走ってると、ときどき見ますよ」
み「だろ?
それでは、どうして、被害が広がっていくのか?」

律「線虫が、松から松へと移っていくからじゃないの?」

み「That's Right.
それでは、どうやって、松から松へと移っていくのでしょう?」
律「どうやってって、飛んで行くんじゃないの?」

み「ブ、ブー。
激しく外れです。
答えからは、5万光年離れてます」

律「腹の立つ女ね」
み「線虫は、文字通り、線みたいな虫だって……。
さっき、このカニ道楽くんが言ったでしょ」

食「は?
ボクのことですか?」
み「ほかに誰がおる。
食道楽と言おうとして、口が滑っただけじゃ」
食「どんな滑り方ですか」

み「バラチラシに、カニの姿が見えた」
食「え?
どこに?」
み「そこじゃ、そこ」
食「あ、ほんとだ。
目がいいですね。
鳶みたいだ」

↑油揚げをさらう鳶(江ノ島付近)
み「油揚げも好物じゃが……。
カニも好むのだ。
それを一切れ、わたしに食わせてみないか?」
食「一切れしかないじゃないですか」

↑北海道の紋別にあるそうです。作るとき、誰も止めなかったのか?
み「それじゃ、ちょうどいいだろ」
食「イヤですよ」
み「カニは、痛風に悪いんだぞ」

食「痛風なんかありませんよ」
み「その体型なら、間違いなく出る」

食「嫌なこと言わないでくださいよ」
み「未来からの警告じゃ」
食「それじゃ、今のうちに食べておこうっと」
み「どうしてそういう発想になるわけ?
未来の自分のために、節制しようとは思わないの?」

食「若いうちから、そんな発想してるヤツいませんって。
とにかく、カニはあげません」
み「そんなら、イクラは?」

↑いくらの根付。その名も『いくらちゃん』。
食「好物です」
み「嫌いなもの無いの?
そんだけ具が入ってたら、ひとつくらいあるだろ?」
食「強いて食べられないものをあげるとしたら……。
折り詰めの箱と、割り箸くらいかな」

律「ちょっと……。
↑の記述、おかしくありません?
さっき、完食なさったでしょ?」
食「ボクもそう思うんですが……。
なぜかまた、わいてきたんです」
律「どうなの、“み”さん?
何、知らんぷりしてんのよ」
み「昔のことは忘れた」

律「ほんとに忘れてたんだわ。
自分が書いたこと。
呆れた人」