2012.3.3(土)
食「野球場内に、ベースはいくつあるでしょう?」
み「12個くらい」
食「なんでですか!
4つでしょ」
み「そんなわけあるかい。
予備のヤツが、用具室に仕舞ってあるはずじゃ」
み「前に、テレビのスポーツニュース見てたら……。
判定に怒った監督が、ベース引っこ抜いて……」
み「退場になると、ベース抱えたまんま帰っちゃったことがあったからな」
食「はいはい。
質問が不正確でした。
言い直します。
グランド上に、ベースはいくつあるでしょう?」
み「これ以上ボケると、話が進まんな」
食「自分でわかってるじゃないですか」
み「4つだね」
み「あ、それで思い出したことがある」
食「またですか」
み「中学のときの体育の時間。
女子の授業が、自習になったの」
み「体育教師からは、ソフトボールの試合をやるようにという指示が出てた。
で、平和にやってたわけなんだけど……」
み「やがてそれは、ものスゴいシュールな試合となった」
律「どんな?」
み「1塁ベースに、ランナーが2人いたの」
律「は?」
み「なぜそうなったかは、覚えてないけどね。
しかも、ファーストを守ってる子は……。
それがルールだと思ってたのか、片足をずっとベースに着けてるわけ。
ランナーがそうしてたから、自分もそうしたのかも知れないけどね。
つまりさ。
ファーストベースに、3人が足着けて立ってるのよ」
食「誰も、何にも言わなかったんですか?」
み「淡々とゲームは進みましたね」
食「で、どうなったんです?」
み「どうにもならないわよ。
何の支障も無く、自習の体育は終了」
食「支障、あったと思うけどなぁ」
み「顛末を覚えてないんだから……。
何ごとも無かったのよ。
何年か経ってからだもん。
わたしも、あれが間違いだって気づいたのは」
食「はぁ。
話を続けていいですか?」
み「何の話?」
食「球場の話です。
ホームベースからの距離。
レフトとライトより、なぜセンター方向が広いのか?」
み「あぁ、それで……。
球場施工管理技士の話になったのか」
食「進めますよ。
ホームベースからの距離で測るから……。
イビツに思えるんです」
み「で、ベースが12個の話だったね」
食「4つです!
一塁ベース、二塁ベース、三塁ベース、ホームベース。
これらのベースは、正四角形の四隅に置かれています」
食「すなわち、これらのベースを結んだ線が作るエリアが、内野ですね。
ダイヤモンドとも呼ばれます。
一辺の長さは……」
食「知るわけないですよね?」
み「失敬な」
食「知ってるんですか?」
み「知らん」
食「いちいち反応してると、話がまたどこかに行っちゃうので……。
淡々と進めます。
一辺は、90フィートあります」
み「90フィートなんて云われても、わからんわい。
尺に換算せよ」
食「尺ですか!」
み「メートルでも良い」
食「メートルにします。
27.431メートル」
食「塁間はすべて同じ。
ホームベースから一塁も、ホームベースから三塁も……。
同じ、27.431メートルです」
み「わたしを、バカと思ってるだろ?」
食「思ってませんよ。
誤解の無いように、説明してるんです。
それでは、ここで問題です」
み「出たな」
食「ホームベースから二塁までは、何メートルでしょうか?」
み「電卓使っていいの?」
食「お。
わかったみたいですね。
いいですよ」
み「あ。
残念ながら、座席のカバンの中じゃ」
食「じゃ、ボクの貸しますから。
かっこいい電卓でしょ」
み「何でポケットに電卓なんか入れてるんだ?」
食「いろいろ便利だからですよ。
乗ってる列車のスピードとか、計算できて」
み「どうやって?」
食「線路脇に距離標が設置されてますから……」
食「その間を何秒で通過するか測れば、スピードがわかるわけです」
み「何メートル間隔?」
食「距離標は、甲乙丙と、3種類あります。
スピード測定に使うのは、一番短い丙号(↑の写真)ですね。
これは、100メートル間隔に置かれてます。
ちなみに、甲号が1キロ間隔。
乙号は、500メートル間隔です」
↑左:甲号/右:乙号
み「どういう計算になるんだ?」
食「簡単ですよ。
100を、かかった秒数で割れば、秒速が出ます。
単位は、メートルですね」
み「台風じゃないんだから……」
み「秒速何メートルなんて数字がわかったて、仕方ないだろ」
↑アニメ『秒速5センチメートル』。ちなみにこれは、桜の花びらの落ちるスピードだそうです。
食「換算すればいいじゃないですか。
時速に」
み「どうやって?」
食「少しは考えましょうよ」
み「下手な考え……」
み「あ、この例えはやめ」
食「何でヤメなんです?
そのとおりじゃないですか?」
み「失敬なヤツだな」
食「こちらから、説明してよろしいですか?」
み「特に許す」
食「もう、一々反応しません。
秒速を時速に換算するには……。
3,600をかければいいわけです。
1時間は、3,600秒ですからね。
で、メートルをキロメートルに換算するために、それを1,000で割るんです。
すなわち、秒速メートルから時速キロメートルの換算は……。
3.6を掛ければいいってわけです」
食「電卓と時計の秒針があれば、列車の速度は一瞬でわかります」
み「わかって、どうする?」
食「どうもしませんけど」
み「どうもしないのに、何で測るわけ?」
食「乗り物に乗ってるとき……。
今、どのくらいのスピードが出てるか、知りたくなりませんか?」
み「別に。
運転手さんに聞きに行けばいいじゃん」
食「運転席には、入れませんよ。
話を進めていいですか。
ほら、電卓使って下さいよ」
み「よく見ると安物だなぁ」
食「必要にして十分です。
わかりますか?
ここ押すと、電源が入るんですよ」
み「わかっとるわい!
人をアホみたいに言いおって」
み「さっき言っただろ。
会社では経理をやってるって」
食「あ、そうでしたね。
失礼しました」
み「ほんまに、失礼なヤツじゃ。
それでは、計算してつかわす。
ホームベースから、二塁までの距離だったな」
み「塁間は、何メートルだっけ?」
食「27.431メートルです」
み「よし。
27.431×2=54.862メートル。
簡単すぎて、電卓が泣いとるわ」
↑笑ってる
食「……。
何で、2を掛けるんです?」
み「チミは、掛け算が苦手か?
それじゃ、足し算にしてやろう。
27.431+27.431=54.862メートル。
おんなじになるじゃろ?」
食「何で、足すんです?
ホームから二塁の、直線距離ですよ」
み「チミは、野球のルールを知らんのか?
ファーストにランナーが2人いても気づかないクチだな。
良いかね。
バッターは、直接二塁に走っちゃいけないの。
いくら急いでても……。
かならず、一塁ベースを回ってこなきゃならんことになっとる」
み「もちろん、いきなり三塁に走ってもイカンわけよ」
食「そんなことはわかってます!」
み「そんなら、二塁までの距離もわかるだろうが。
すなわち、塁間×2だよ」
食「今は、そういう話じゃないでしょ」
み「どういう話よ?」
食「ルールの話じゃなくて!」
み「チミは、ルール無用の悪党か?」
食「ランナーがどう走るかじゃなくて……。
ボクは、ホームから二塁までの直線距離を問いたいわけです」
み「なぜじゃ」
食「なんか……。
目眩がしてきました」
み「乗り物酔いじゃないの?
トラベルミン飲んだか?」
食「乗り物酔いする“鉄”なんて、いません。
そういう話じゃなくて!
ホームから二塁までの直線距離をお答え下さい」
み「そないに怒らいでも……。
2倍じゃないわけよね?」
食「違います」
み「じゃ、だいたい1.5倍。
これで手を打たないか?」
食「大体じゃなくてですね。
ちゃんと式から導き出してください」
↑「クラマース・クローニッヒの関係式」だそうです(対角線の出し方ではありません)
み「つまりチミは……。
正方形の対角線の長さを問うておるのだな」
食「わかってるじゃないですか」
み「もちろん、問いはわかっておるぞ。
残念ながら、答えがわからんだけじゃ。
四角形の対角線の求め方なんて習ったっけ?
先生、知ってる?」
律「忘却の彼方ね」
↑佐渡ヶ島の尖閣湾にあります
み「ほー。
てことは、一度は覚えたってことだね」
律「当たり前でしょ。
理系なんだから」
み「あ、そうか。
わたし文系だから、習ってないんだ」
食「これは、中学校で習う問題です」
↑ほんまか?
み「えー。
新潟じゃ、習わなかったぞ」
食「必ず習ってますって」
み「その日、休んだかも」
食「ピタゴラスの定理ですよ」
み「おー。
そのお名前は知ってる。
何した人だっけ?」
↑読んだ気もするのだが、まったく覚えてない。
食「だから、ピタゴラスの定理を発見した人ですって。
別名、三平方の定理」
み「三平三平(みひらさんぺい・『釣りキチ三平』の本名です)の定理?」
食「わざとボケましたね」
み「わかる?」
食「字面がわからなきゃ、できない連想でしょ」
み「ま、そういう定理があるのは知ってるよ。
中身は知らないけど」
食「知らないんじゃなくて、忘れたんです」
食「質問は取り下げます。
ボクの方で、一方的に進めさせてください」
み「許可する」
食「……。
ありがとうございます。
直裁に言うと……。
直角三角形の斜辺の長さを“c”とし、その他の辺の長さを“a,b”としたとき……。
“a2+b2=c2”なる関係が成立するという定理です」
み「怒りを覚えるほど、わからん」
食「二塁ベースとホームベースを直線で繋ぐと……。
三角形が2つできますよね」
食「この場合、四角形は正方形だから……。
直角二等辺三角形になります。
すなわち、直角を挟む2辺の長さは同じです。
定理の証明は省いて、結論だけ言いますね。
辺の長さの比は、『1:1:√2』」
食「最後の√2が、斜辺、すなわち対角線の長さになります」
み「それで?」
食「それでって……。
これでお分かりでしょ?」
み「お分かりにならない」
食「つまり……。
正方形の1辺の長さ×√2ってことですよ」
食「もう、電卓で計算できるでしょ」
み「ふーむ。
√キーを使うのは、生まれて初めてかも」
み「じゃ、いくぞ。
塁間は何メートルだっけ?」
食「27.431メートルです」
み「よし。
[27.431][*][√][2][=]。
答えは……。
なんだ、やっぱり54.862になるじゃんか」
食「そんな順番で押したらダメですよ。
[√]が無視されちゃって、単なる[*][2]になったんです。
こういう順番で押すんです。
[27.431][*][2][√][=]。
ほら。
38.793」
み「何でそんな順番で押すんだよ。
√2なのに、[2][√]って押すなんて、納得できん」
食「√2がいくつなのか覚えてれば、√キーを使わなくても計算できます」
み「あ、それ思い出したかも。
えーっと。
『富士山麓にオウム啼く』」
み「そんなとこで、オウムが啼くかい!」
食「それは、√5です」
み「そうだっけ?
それじゃ……。
『一富士二鷹三茄子』」
食「違います!」
み「惜しい?」
食「5万光年離れてます」
み「くっそー。
なんだっけ?」
食「♪人世人世に人見ごろ」
み「なんじゃ、そのおかしな節は?」
食「知りませんか?
『受験生ブルース』」
食「有名ですよ。
♪富士山麓にオウム啼く」
み「♪一富士二鷹三茄子」
食「違います!
♪サインコサイン何になる♪
♪おいらにゃおいらの夢がある♪」
み「いつごろの歌なの?」
食「1968年です」
↑1年違いですが
み「ぜんぜん年代が合わないじゃないか」
食「オヤジに聞いたんですよ。
でも、この歌を覚えとけば……。
少なくとも、√2と√5だけは暗記できますよ」
み「そんなもん覚えたって、役にたたんだろ」
食「√5は、まず日常で使う用事は無いでしょうね」
食「でも、√2は、覚えといて損はないです。
実際、今、使えるじゃないですか」
み「何で、√2から√5に飛ぶんだ?
√3は?」
食「『人並みにおごれや』」
み「なんで歌詞に入ってないわけ?」
食「音数が合わないからでしょ」
み「√4は?」
食「√4は、2じゃないですか。
2×2=4」
み「√4は、覚えなくてもいいわけね」
食「九九の世界でしょ」
食「とにかく!
今は、√2が問題なんです」
み「イトヨイトヨに糸見ごろ、だっけ?」
食「違います。
だいたい何のたとえですか、それ」
み「イトヨ釣りの極意じゃ」
食「『人世人世に人見ごろ』。
つまり、1.41421356ですよ。
ほら、掛けて下さい」
み「すでに座っておる」
食「席に掛けるんじゃなくて!
塁間に掛けるんです!」
み「塁間って、何メートル?」
食「27.431!」
み「[27.431][*]……。
イトヨ……」
食「人世!
1.41421356!
ほら、早くキー押して。
忘れるじゃないですか」
み「人をバカだと思ってるだろ。
失敬な。
[1.41421356][=]。
おー、出た。
38.79329216436」
食「おわかりでしょ?」
み「何が?」
食「だから、ホームベースから一三塁は、何メートルでした?」
み「イトヨイトヨに……」
食「違います。
27.431メートル。
で、ほら、電卓の答えは……。
38.793メートル」
み「さっきまでの電卓と違う気がするが」
食「気のせいです!」
み「液晶のフォントも、違う気がするが」
食「枝葉末節にこだわらない!」
食「いいですか。
ここから、27.431メートルを引きますよ。
ほら。
その差は、11.362メートルもあるわけです」
み「それで、わたしに何が言いたいの?」
食「スタンドまでの距離の話でしょ。
ライト、レフト方向より……。
センターが広がってたわけでしょ」
食「もし、外野スタンド全体が、ホームベースから等距離だったら……。
外野のセンター部分が狭くなっちゃうんですよ」
み「それで、何か不都合でも?」
食「センターの守備範囲が狭くなっちゃいます」
み「いいじゃん。
楽になって」
食「それは、センターの言い分でしょ。
とにかく、わかりましたよね?」
み「球場の両翼とセンターでは、どのくらい距離が違うの?」
食「基本的に……。
両翼が100メートル、センターが120メートルくらいですかね」
み「おかしいじゃん」
食「何がです?」
み「ベースの距離の差は、11メートルくらいだっただろ?」
食「いやなことだけ覚えてますね」
み「うやむやにしようとしても、そうはいかん。
何でスタンドまでが、20メートルの差になるんだ?」
食「ま、それはきっとあれですよ。
センターは、両脇にライトとレフトが守ってるから……。
横方向の守備は、助けてもらえる」
食「でも、ライトとレフトは、片側には誰もいませんからね」
食「ということで、その分、センターは奥行きが深くなってる」
み「ほんまかー。
後で調べるぞ」
食「すいません。
今、思いつきました」
み「ほれ、見ろ。
まぁ、いい。
でもそれって、守備側の理屈でしょ。
バッターにとってみれば……。
センターのスタンドまでの距離が、20メートルも遠いことには変わりないわけだ」
食「ですね」
み「そんならやっぱり……。
ホームランの打ちこまれた場所によって、点数を変えるべきじゃないのか?
コリントゲームは、入るポケットによって、点数が違うぞ」
食「野球は、コリントゲームとは違います」
↑似てるけど
食「あ、そうそう。
バックスクリーンへのホームランと云えば……」
み「話題を変えおったな」
食「有名な出来事があります。
バックスクリーン、3連発です」
み「高校野球で?」
食「日本のプロ野球ですよ。
昭和60年だから……。
1985年ですね」
み「新潟南の翌年だね」
食「阪神対巨人、伝統の一戦です」
食「開幕直後の4月17日のことでした。
阪神のクリーンアップ。
バース、掛布、岡田の3人が……」
食「3者連続して、バックスクリーンにホームランを打ちこんだんです」
↑実況中継
み「珍しいわけ?」
食「もちろんですよ。
その後は、出てないはずです」
み「ピッチャーがヘボなんじゃないの?」
食「とんでもない。
後のジャイアンツのエースですよ」
み「わかった!
皆まで言うな。
星飛雄馬だな」
↑いちいち泣くな!
食「違います!
当時、入団4年目の槙原……」
み「敬之(のりゆき)か?」
食「……言うと思った。
槙原寛己(ひろみ)ですよ」
食「後に、完全試合も達成してます」
み「ふーん。
ところで、クリーンアップってなに?」
食「またですか……。
打順の3番、4番、5番を、クリーンアップって云うんです」
み「その心は?」
食「塁上のランナーを掃除する役目だからです」
み「ほー。
掃除屋ってこと。
アメリカ人は、そういうとこ洒落てるよね」
食「ですね。
もっともアメリカでは……。
4番打者だけを、そう呼ぶみたいですけど。
あ、そうそう。
三連発の口火を切ったバースですが……」
食「綴りで書くと、“Bass”です」
食「当然、その発音は、“バス”になります。
では、ここで問題です」
み「突然来たな。
油断ならんヤツ」
食「日本での登録名が、なぜ“バス”では無く、“バース”になったのでしょう?」
律「あ、わたしわかった」
み「実に久しぶりに発言したな。
いるの忘れてたぜ」
律「うちの先生で、熱烈な阪神ファンがいるのよ」
律「優勝した時の話も、よく聞かされるわ。
はっきり言って、迷惑だけど」
食「はは。
お気の毒に」
律「その先生が、飲み会で酔っ払うと、必ず阪神の応援歌を歌うの」
食「『六甲おろし』ですね」
律「それそれ。
それがまた、いい声なのよ。
ハリがあって。
で、その先生が歌いだすと……。
巨人ファンの先生が、対抗し始めるわけ」
み「大丈夫か、その病院?」
律「巨人の応援歌って、何て云うんだっけ?」
み「『雷おろし』」
律「何でよ?」
み「『六甲おろし』に対抗して……。
東京名物『雷おこし』をもじった」
律「ぜんぜん面白くない」
み「12個くらい」
食「なんでですか!
4つでしょ」
み「そんなわけあるかい。
予備のヤツが、用具室に仕舞ってあるはずじゃ」
み「前に、テレビのスポーツニュース見てたら……。
判定に怒った監督が、ベース引っこ抜いて……」
み「退場になると、ベース抱えたまんま帰っちゃったことがあったからな」
食「はいはい。
質問が不正確でした。
言い直します。
グランド上に、ベースはいくつあるでしょう?」
み「これ以上ボケると、話が進まんな」
食「自分でわかってるじゃないですか」
み「4つだね」
み「あ、それで思い出したことがある」
食「またですか」
み「中学のときの体育の時間。
女子の授業が、自習になったの」
み「体育教師からは、ソフトボールの試合をやるようにという指示が出てた。
で、平和にやってたわけなんだけど……」
み「やがてそれは、ものスゴいシュールな試合となった」
律「どんな?」
み「1塁ベースに、ランナーが2人いたの」
律「は?」
み「なぜそうなったかは、覚えてないけどね。
しかも、ファーストを守ってる子は……。
それがルールだと思ってたのか、片足をずっとベースに着けてるわけ。
ランナーがそうしてたから、自分もそうしたのかも知れないけどね。
つまりさ。
ファーストベースに、3人が足着けて立ってるのよ」
食「誰も、何にも言わなかったんですか?」
み「淡々とゲームは進みましたね」
食「で、どうなったんです?」
み「どうにもならないわよ。
何の支障も無く、自習の体育は終了」
食「支障、あったと思うけどなぁ」
み「顛末を覚えてないんだから……。
何ごとも無かったのよ。
何年か経ってからだもん。
わたしも、あれが間違いだって気づいたのは」
食「はぁ。
話を続けていいですか?」
み「何の話?」
食「球場の話です。
ホームベースからの距離。
レフトとライトより、なぜセンター方向が広いのか?」
み「あぁ、それで……。
球場施工管理技士の話になったのか」
食「進めますよ。
ホームベースからの距離で測るから……。
イビツに思えるんです」
み「で、ベースが12個の話だったね」
食「4つです!
一塁ベース、二塁ベース、三塁ベース、ホームベース。
これらのベースは、正四角形の四隅に置かれています」
食「すなわち、これらのベースを結んだ線が作るエリアが、内野ですね。
ダイヤモンドとも呼ばれます。
一辺の長さは……」
食「知るわけないですよね?」
み「失敬な」
食「知ってるんですか?」
み「知らん」
食「いちいち反応してると、話がまたどこかに行っちゃうので……。
淡々と進めます。
一辺は、90フィートあります」
み「90フィートなんて云われても、わからんわい。
尺に換算せよ」
食「尺ですか!」
み「メートルでも良い」
食「メートルにします。
27.431メートル」
食「塁間はすべて同じ。
ホームベースから一塁も、ホームベースから三塁も……。
同じ、27.431メートルです」
み「わたしを、バカと思ってるだろ?」
食「思ってませんよ。
誤解の無いように、説明してるんです。
それでは、ここで問題です」
み「出たな」
食「ホームベースから二塁までは、何メートルでしょうか?」
み「電卓使っていいの?」
食「お。
わかったみたいですね。
いいですよ」
み「あ。
残念ながら、座席のカバンの中じゃ」
食「じゃ、ボクの貸しますから。
かっこいい電卓でしょ」
み「何でポケットに電卓なんか入れてるんだ?」
食「いろいろ便利だからですよ。
乗ってる列車のスピードとか、計算できて」
み「どうやって?」
食「線路脇に距離標が設置されてますから……」
食「その間を何秒で通過するか測れば、スピードがわかるわけです」
み「何メートル間隔?」
食「距離標は、甲乙丙と、3種類あります。
スピード測定に使うのは、一番短い丙号(↑の写真)ですね。
これは、100メートル間隔に置かれてます。
ちなみに、甲号が1キロ間隔。
乙号は、500メートル間隔です」
↑左:甲号/右:乙号
み「どういう計算になるんだ?」
食「簡単ですよ。
100を、かかった秒数で割れば、秒速が出ます。
単位は、メートルですね」
み「台風じゃないんだから……」
み「秒速何メートルなんて数字がわかったて、仕方ないだろ」
↑アニメ『秒速5センチメートル』。ちなみにこれは、桜の花びらの落ちるスピードだそうです。
食「換算すればいいじゃないですか。
時速に」
み「どうやって?」
食「少しは考えましょうよ」
み「下手な考え……」
み「あ、この例えはやめ」
食「何でヤメなんです?
そのとおりじゃないですか?」
み「失敬なヤツだな」
食「こちらから、説明してよろしいですか?」
み「特に許す」
食「もう、一々反応しません。
秒速を時速に換算するには……。
3,600をかければいいわけです。
1時間は、3,600秒ですからね。
で、メートルをキロメートルに換算するために、それを1,000で割るんです。
すなわち、秒速メートルから時速キロメートルの換算は……。
3.6を掛ければいいってわけです」
食「電卓と時計の秒針があれば、列車の速度は一瞬でわかります」
み「わかって、どうする?」
食「どうもしませんけど」
み「どうもしないのに、何で測るわけ?」
食「乗り物に乗ってるとき……。
今、どのくらいのスピードが出てるか、知りたくなりませんか?」
み「別に。
運転手さんに聞きに行けばいいじゃん」
食「運転席には、入れませんよ。
話を進めていいですか。
ほら、電卓使って下さいよ」
み「よく見ると安物だなぁ」
食「必要にして十分です。
わかりますか?
ここ押すと、電源が入るんですよ」
み「わかっとるわい!
人をアホみたいに言いおって」
み「さっき言っただろ。
会社では経理をやってるって」
食「あ、そうでしたね。
失礼しました」
み「ほんまに、失礼なヤツじゃ。
それでは、計算してつかわす。
ホームベースから、二塁までの距離だったな」
み「塁間は、何メートルだっけ?」
食「27.431メートルです」
み「よし。
27.431×2=54.862メートル。
簡単すぎて、電卓が泣いとるわ」
↑笑ってる
食「……。
何で、2を掛けるんです?」
み「チミは、掛け算が苦手か?
それじゃ、足し算にしてやろう。
27.431+27.431=54.862メートル。
おんなじになるじゃろ?」
食「何で、足すんです?
ホームから二塁の、直線距離ですよ」
み「チミは、野球のルールを知らんのか?
ファーストにランナーが2人いても気づかないクチだな。
良いかね。
バッターは、直接二塁に走っちゃいけないの。
いくら急いでても……。
かならず、一塁ベースを回ってこなきゃならんことになっとる」
み「もちろん、いきなり三塁に走ってもイカンわけよ」
食「そんなことはわかってます!」
み「そんなら、二塁までの距離もわかるだろうが。
すなわち、塁間×2だよ」
食「今は、そういう話じゃないでしょ」
み「どういう話よ?」
食「ルールの話じゃなくて!」
み「チミは、ルール無用の悪党か?」
食「ランナーがどう走るかじゃなくて……。
ボクは、ホームから二塁までの直線距離を問いたいわけです」
み「なぜじゃ」
食「なんか……。
目眩がしてきました」
み「乗り物酔いじゃないの?
トラベルミン飲んだか?」
食「乗り物酔いする“鉄”なんて、いません。
そういう話じゃなくて!
ホームから二塁までの直線距離をお答え下さい」
み「そないに怒らいでも……。
2倍じゃないわけよね?」
食「違います」
み「じゃ、だいたい1.5倍。
これで手を打たないか?」
食「大体じゃなくてですね。
ちゃんと式から導き出してください」
↑「クラマース・クローニッヒの関係式」だそうです(対角線の出し方ではありません)
み「つまりチミは……。
正方形の対角線の長さを問うておるのだな」
食「わかってるじゃないですか」
み「もちろん、問いはわかっておるぞ。
残念ながら、答えがわからんだけじゃ。
四角形の対角線の求め方なんて習ったっけ?
先生、知ってる?」
律「忘却の彼方ね」
↑佐渡ヶ島の尖閣湾にあります
み「ほー。
てことは、一度は覚えたってことだね」
律「当たり前でしょ。
理系なんだから」
み「あ、そうか。
わたし文系だから、習ってないんだ」
食「これは、中学校で習う問題です」
↑ほんまか?
み「えー。
新潟じゃ、習わなかったぞ」
食「必ず習ってますって」
み「その日、休んだかも」
食「ピタゴラスの定理ですよ」
み「おー。
そのお名前は知ってる。
何した人だっけ?」
↑読んだ気もするのだが、まったく覚えてない。
食「だから、ピタゴラスの定理を発見した人ですって。
別名、三平方の定理」
み「三平三平(みひらさんぺい・『釣りキチ三平』の本名です)の定理?」
食「わざとボケましたね」
み「わかる?」
食「字面がわからなきゃ、できない連想でしょ」
み「ま、そういう定理があるのは知ってるよ。
中身は知らないけど」
食「知らないんじゃなくて、忘れたんです」
食「質問は取り下げます。
ボクの方で、一方的に進めさせてください」
み「許可する」
食「……。
ありがとうございます。
直裁に言うと……。
直角三角形の斜辺の長さを“c”とし、その他の辺の長さを“a,b”としたとき……。
“a2+b2=c2”なる関係が成立するという定理です」
み「怒りを覚えるほど、わからん」
食「二塁ベースとホームベースを直線で繋ぐと……。
三角形が2つできますよね」
食「この場合、四角形は正方形だから……。
直角二等辺三角形になります。
すなわち、直角を挟む2辺の長さは同じです。
定理の証明は省いて、結論だけ言いますね。
辺の長さの比は、『1:1:√2』」
食「最後の√2が、斜辺、すなわち対角線の長さになります」
み「それで?」
食「それでって……。
これでお分かりでしょ?」
み「お分かりにならない」
食「つまり……。
正方形の1辺の長さ×√2ってことですよ」
食「もう、電卓で計算できるでしょ」
み「ふーむ。
√キーを使うのは、生まれて初めてかも」
み「じゃ、いくぞ。
塁間は何メートルだっけ?」
食「27.431メートルです」
み「よし。
[27.431][*][√][2][=]。
答えは……。
なんだ、やっぱり54.862になるじゃんか」
食「そんな順番で押したらダメですよ。
[√]が無視されちゃって、単なる[*][2]になったんです。
こういう順番で押すんです。
[27.431][*][2][√][=]。
ほら。
38.793」
み「何でそんな順番で押すんだよ。
√2なのに、[2][√]って押すなんて、納得できん」
食「√2がいくつなのか覚えてれば、√キーを使わなくても計算できます」
み「あ、それ思い出したかも。
えーっと。
『富士山麓にオウム啼く』」
み「そんなとこで、オウムが啼くかい!」
食「それは、√5です」
み「そうだっけ?
それじゃ……。
『一富士二鷹三茄子』」
食「違います!」
み「惜しい?」
食「5万光年離れてます」
み「くっそー。
なんだっけ?」
食「♪人世人世に人見ごろ」
み「なんじゃ、そのおかしな節は?」
食「知りませんか?
『受験生ブルース』」
食「有名ですよ。
♪富士山麓にオウム啼く」
み「♪一富士二鷹三茄子」
食「違います!
♪サインコサイン何になる♪
♪おいらにゃおいらの夢がある♪」
み「いつごろの歌なの?」
食「1968年です」
↑1年違いですが
み「ぜんぜん年代が合わないじゃないか」
食「オヤジに聞いたんですよ。
でも、この歌を覚えとけば……。
少なくとも、√2と√5だけは暗記できますよ」
み「そんなもん覚えたって、役にたたんだろ」
食「√5は、まず日常で使う用事は無いでしょうね」
食「でも、√2は、覚えといて損はないです。
実際、今、使えるじゃないですか」
み「何で、√2から√5に飛ぶんだ?
√3は?」
食「『人並みにおごれや』」
み「なんで歌詞に入ってないわけ?」
食「音数が合わないからでしょ」
み「√4は?」
食「√4は、2じゃないですか。
2×2=4」
み「√4は、覚えなくてもいいわけね」
食「九九の世界でしょ」
食「とにかく!
今は、√2が問題なんです」
み「イトヨイトヨに糸見ごろ、だっけ?」
食「違います。
だいたい何のたとえですか、それ」
み「イトヨ釣りの極意じゃ」
食「『人世人世に人見ごろ』。
つまり、1.41421356ですよ。
ほら、掛けて下さい」
み「すでに座っておる」
食「席に掛けるんじゃなくて!
塁間に掛けるんです!」
み「塁間って、何メートル?」
食「27.431!」
み「[27.431][*]……。
イトヨ……」
食「人世!
1.41421356!
ほら、早くキー押して。
忘れるじゃないですか」
み「人をバカだと思ってるだろ。
失敬な。
[1.41421356][=]。
おー、出た。
38.79329216436」
食「おわかりでしょ?」
み「何が?」
食「だから、ホームベースから一三塁は、何メートルでした?」
み「イトヨイトヨに……」
食「違います。
27.431メートル。
で、ほら、電卓の答えは……。
38.793メートル」
み「さっきまでの電卓と違う気がするが」
食「気のせいです!」
み「液晶のフォントも、違う気がするが」
食「枝葉末節にこだわらない!」
食「いいですか。
ここから、27.431メートルを引きますよ。
ほら。
その差は、11.362メートルもあるわけです」
み「それで、わたしに何が言いたいの?」
食「スタンドまでの距離の話でしょ。
ライト、レフト方向より……。
センターが広がってたわけでしょ」
食「もし、外野スタンド全体が、ホームベースから等距離だったら……。
外野のセンター部分が狭くなっちゃうんですよ」
み「それで、何か不都合でも?」
食「センターの守備範囲が狭くなっちゃいます」
み「いいじゃん。
楽になって」
食「それは、センターの言い分でしょ。
とにかく、わかりましたよね?」
み「球場の両翼とセンターでは、どのくらい距離が違うの?」
食「基本的に……。
両翼が100メートル、センターが120メートルくらいですかね」
み「おかしいじゃん」
食「何がです?」
み「ベースの距離の差は、11メートルくらいだっただろ?」
食「いやなことだけ覚えてますね」
み「うやむやにしようとしても、そうはいかん。
何でスタンドまでが、20メートルの差になるんだ?」
食「ま、それはきっとあれですよ。
センターは、両脇にライトとレフトが守ってるから……。
横方向の守備は、助けてもらえる」
食「でも、ライトとレフトは、片側には誰もいませんからね」
食「ということで、その分、センターは奥行きが深くなってる」
み「ほんまかー。
後で調べるぞ」
食「すいません。
今、思いつきました」
み「ほれ、見ろ。
まぁ、いい。
でもそれって、守備側の理屈でしょ。
バッターにとってみれば……。
センターのスタンドまでの距離が、20メートルも遠いことには変わりないわけだ」
食「ですね」
み「そんならやっぱり……。
ホームランの打ちこまれた場所によって、点数を変えるべきじゃないのか?
コリントゲームは、入るポケットによって、点数が違うぞ」
食「野球は、コリントゲームとは違います」
↑似てるけど
食「あ、そうそう。
バックスクリーンへのホームランと云えば……」
み「話題を変えおったな」
食「有名な出来事があります。
バックスクリーン、3連発です」
み「高校野球で?」
食「日本のプロ野球ですよ。
昭和60年だから……。
1985年ですね」
み「新潟南の翌年だね」
食「阪神対巨人、伝統の一戦です」
食「開幕直後の4月17日のことでした。
阪神のクリーンアップ。
バース、掛布、岡田の3人が……」
食「3者連続して、バックスクリーンにホームランを打ちこんだんです」
↑実況中継
み「珍しいわけ?」
食「もちろんですよ。
その後は、出てないはずです」
み「ピッチャーがヘボなんじゃないの?」
食「とんでもない。
後のジャイアンツのエースですよ」
み「わかった!
皆まで言うな。
星飛雄馬だな」
↑いちいち泣くな!
食「違います!
当時、入団4年目の槙原……」
み「敬之(のりゆき)か?」
食「……言うと思った。
槙原寛己(ひろみ)ですよ」
食「後に、完全試合も達成してます」
み「ふーん。
ところで、クリーンアップってなに?」
食「またですか……。
打順の3番、4番、5番を、クリーンアップって云うんです」
み「その心は?」
食「塁上のランナーを掃除する役目だからです」
み「ほー。
掃除屋ってこと。
アメリカ人は、そういうとこ洒落てるよね」
食「ですね。
もっともアメリカでは……。
4番打者だけを、そう呼ぶみたいですけど。
あ、そうそう。
三連発の口火を切ったバースですが……」
食「綴りで書くと、“Bass”です」
食「当然、その発音は、“バス”になります。
では、ここで問題です」
み「突然来たな。
油断ならんヤツ」
食「日本での登録名が、なぜ“バス”では無く、“バース”になったのでしょう?」
律「あ、わたしわかった」
み「実に久しぶりに発言したな。
いるの忘れてたぜ」
律「うちの先生で、熱烈な阪神ファンがいるのよ」
律「優勝した時の話も、よく聞かされるわ。
はっきり言って、迷惑だけど」
食「はは。
お気の毒に」
律「その先生が、飲み会で酔っ払うと、必ず阪神の応援歌を歌うの」
食「『六甲おろし』ですね」
律「それそれ。
それがまた、いい声なのよ。
ハリがあって。
で、その先生が歌いだすと……。
巨人ファンの先生が、対抗し始めるわけ」
み「大丈夫か、その病院?」
律「巨人の応援歌って、何て云うんだっけ?」
み「『雷おろし』」
律「何でよ?」
み「『六甲おろし』に対抗して……。
東京名物『雷おこし』をもじった」
律「ぜんぜん面白くない」