2012.3.3(土)
食「LPレコードくらいありましたよね」
み「絵の出るレコードと言われておった。
あの機械、うちにあったのだよ」
↑こんないいやつではなかった
み「て言うか……。
捨てた覚えないから、今もどこかにあるな」
食「へー、スゴいじゃないですか」
み「父親が新しもの好きでね。
出て間もなく買った。
だけどさ。
ソフトがバカ高い上に……」
み「レンタルも無い。
テレビの録画もできない。
あれじゃ、いくら画質がいいからって……。
普及せんわな。
結局、ソフトを2,3枚買っただけでお終い」
食「わかった。
その数少ないソフトの1枚が……。
『犬神家の一族』なわけですね」
み「うんにゃ。
あんなアホな映画、レーザーディスクで買うかいな」
食「……。
それじゃ、どうしてレーザーディスクの話なんて、持ちだしたんですか」
み「単に、思い出したからだよ。
思い出は、大切なものじゃ」
食「今度こそ、席に戻ります」
み「あんちゃん。
そう、連れないことを言うでない。
最後まで話しを聞かにゃ……。
未練が残るじゃろ?」
食「ぜんぜん、残りません」
み「付き合いの悪いヤツじゃな」
↑『酔っぱらい5人衆(実際に売られてるフィギュアです)』
食「十分付き合いました」
み「『犬神家の一族』は……。
テレビで見たんじゃよ。
『日曜洋画劇場』だったかな?」
食「洋画じゃないでしょ」
↑こてこての和物
み「なぜか日本映画もやってたの!
覚えてる?
淀川長治?」
食「まあね。
印象的なキャラでしたから」
み「物真似してみな」
↑小松政夫の十八番
食「なんでボクが!」
み「淀川長治を持ちだしておいて……。
物真似しなきゃ、失礼だろ?」
食「どういう論理ですか」
み「それじゃ……。
わたしが手本を示そう。
よく聞けよ。
“わ・て・が、淀川長治だす”」
食「それは、芦屋雁之助でしょ」
み「そうだっけ?
なら、やってみ。
淀川長治」
食「“サイナラ、サイナラ、サイナラ”」
み「似てない。
よくそんな下手な物真似が、人前で出来るの」
食「無理にやらせたんじゃないですか!
こんなの、持ちネタにありません」
み「持ちネタなんて、あるの?」
食「ありますよ。
“まいうー”」
み「それって、体型が似てるだけじゃん」
食「物真似は、形から入らなきゃなりません」
み「ほー。
するとわたしは、誰だろう?
佐々木希とか?」
食「ボク、もう疲れました」
み「まだ、走りだしたばっかりだろ。
近ごろの若いもんは、鍛え方が足りんな」
み「で……。
『青沼静馬』に戻る」
食「戻るんですか!」
み「ブーメラン、ブーメラン」
み「“きっとぉ、あなたーは、戻ってくるだろぉぉ。”
知ってとるけ?
西城秀樹?」
食「これ以上、話題を広げないで下さい!」
み「つまらんのぅ。
じゃ、手短に語ってやるか。
小学校のときだったかな。
テレビで、『犬神家の一族』が放送されたわけ。
で、あの青沼静馬のマスク姿って……。
異様にインパクトがあるじゃん」
み「学校で流行ったんだよ。
『青沼静馬』の物真似」
食「なに気に、ネタバレしてるんじゃないですか?
あれって、犬神佐清と思われてたんじゃ……」
み「あ。
ま……。
有名な映画だから、もうみんな知ってるよね?」
律「わたし知らなかった」
み「あんたは、いいの。
もともと常識無いんだから」
律「失礼ね!」
み「常識が無いのは、先生と呼ばれる人種の共通点よね。
学校の先生に始まって……」
み「お医者さんでしょ」
み「政治家ももちろんだし……」
み「弁護士とかも……。
先生と呼ばれるようになると、非常識になってくる」
食「あのー。
こちらの方は、どの先生に当たるんですか?」
み「ほー。
興味あるわけ?」
食「いえ。
興味とか、そういうことじゃなくですね……」
み「正直に言ったんさい。
九州男児だろ」
食「だから、違いますって」
み「九州男児が愛の告白をするときのセリフ……。
知っとるけ?」
食「知りませんよ。
そもそも、愛の告白だなんて……」
み「良いか。
“とっとっとー”に続く、九州弁講座第二弾。
愛の告白編」
み「心して聞け」
食「いいですって」
み「すいとー」
食「は?」
み「だから……。
“すいとー”」
食「何です、それ?」
み「愛の告白だと言ったろうが。
まさしく、『I Love You.』だよ」
食「ひょっとして……。
好いとー?」
み「左様じゃ。
石橋凌が……」
み「原田美枝子に告白するとき……」
み「この“すいとー”を、ぶちかましたそうじゃ。
原田美枝子は……。
この人は、いったい『水筒』をどうしたいのかと、首をひねったそうな」
食「いろんなこと知ってますね」
律「いらないことばっかりね」
み「失敬な!
まぁ、いい。
チミ、この失敬オンナが何の先生か、当ててみなさい」
律「いいわよ、当てなくても」
み「当たったら、先生からキスのプレゼント~」
律「しません!」
み「そんなに過酷に断ったら、気の毒でしょ」
↑誰だこれ?
律「冗談が過ぎるわ」
み「ノリの悪い女だのぅ。
チミ、残念ながら、キスは貰えないが……。
当ててみ」
食「さっきの例から選べばいいんですね?
教師か、医者か、政治家か、弁護士」
み「ま、それでいいよ」
食「うーん。
政治家は有り得ないとして……」
み「何で有り得ないんだ?」
食「だって、こんな美人の議員さんがいたら……。
ぜったいネットで評判になってますからね。
美人すぎる市議とか、一時期流行ったでしょ」
み「ああいうものは、流行りモノなのか?」
食「ある程度、そうなんじゃないですか」
み「それじゃ……。
残るは3つ」
食「旅行のスケジュールは、明日までですか?」
み「うんにゃ。
まだ続くよ」
食「それじゃ……。
学校の先生でもありえないな。
3連休は、明日で終わりですからね」
み「そういう質問は、反則だろう」
食「残る2つで、時間が自由になるのは……。
やっぱり、弁護士の方かな?」
み「外れです」
食「え?
それじゃ、お医者さま?
これは、お見それしました」
み「何科の医者だと思う?」
食「優しそうだから……。
小児科かな?」
み「どこが優しいか。
さっきからツンケンしてるではないか。
↓こんな顔」
律「してないわよ」
み「この人は……。
泌尿器科の先生」
み「チミも一度、見てもらいなさい。
ホーケーだろ?」
食「違いますよ!
第一、包茎なら整形外科じゃないですか」
み「ほー。
整形外科で手術したのか?」
食「してません!」
み「愚か者が。
泌尿器科なら、保険が効くのに」
食「してませんって」
律「もう。
いい加減なことばっかり言わないでちょうだい」
み「ほんとは、産婦人科だよ」
食「へー。
生命の誕生に日々関われるなんて、素晴らしいお仕事ですね」
み「どーも口調に、下心が見え透くのぅ」
食「誤解です!」
律「この話は、もうお終い」
み「なんでよ?」
律「旅先で、仕事のこと思い出したく無いの」
食「そうですよね。
やめましょう、やめましょう。
話を変えますね。
何の話しようかな……。
そうだ!
『青池』は、すでに語ったとして……。
まだ、『くまげら』と『ブナ』が残ってました」
み「そんなの、わざわざ語るまでもないじゃないの。
クマゲラってのは、キツツキでしょ?」
食「そうです。
日本に生息するキツツキでは……。
最大種になります」
み「どのくらいデカいの?
コンドルくらい?」
食「そんなキツツキはいません。
巣にできる木が無いでしょ。
クマゲラは、カラスくらいです」
み「なんだ。
ぜんぜん大したことないじゃん。
クマゲラなんて云うから、クマを襲って食べるのかと思った」
食「それじゃ、ラドンですよ」
み「何それ?」
食「怪獣です」
み「おまえは、小学生か」
食「失礼な」
み「何で、クマなんて名前が付いてるの?」
食「単に大きいからです。
セミにも、クマゼミってのがいるでしょ?」
み「なるほど」
食「近くで見ると、見栄えがする鳥らしいですよ」
食「アイヌの人には、『船を彫る鳥』と呼ばれ……。
神として崇められてたそうです」
み「ふーん。
で、この鳥が、白神山地にいるわけなんだね」
食「そうです。
ブナ林に生息してます」
み「なるほど。
それで、最後が『ブナ』ってことか」
食「もう、よろしいでしょうか?」
み「ならぬと言っとるだろ。
まだ、最初の質問に答えてないじゃろうが?」
食「なんでしたっけ?」
み「やっぱり、脳みそに飯粒が詰まってるな」
食「詰まるほど食べさせてもらってませんから」
み「解説がまだでしょ。
なんで、こんな立派な内装なのに……。
ディーゼル車なのかってこと」
食「あ、元々はその話でしたね。
そうそう。
3編成のうちの『青池』が、この12月(2010年)、新車両になるんですよ」
み「やっと、ディーゼルじゃなくなるわけね」
食「いえいえ。
ディーゼルは、ディーゼルのままです。
でも、リチウムイオン蓄電池を組み合わせた、ハイブリッド車両なんです」
み「ハイブリッドって……。
プリウスとかの?」
食「はいなー。
蓄電池に蓄えた電力で発車しますから……。
静音性に優れてます」
み「この列車みたいに、唸りながら走り出さないわけね」
食「そうそう。
で、加速すると、ディーゼルエンジンが稼働を始め……。
蓄電池の電力と合わせて、モーターを回すわけです。
減速時には、ブレーキエネルギーを電気に変えて、充電するんです」
↑充電中
み「ほー。
最新システムってわけね」
↑縮むことも出来る!
食「スゴいでしょ。
クルマに負けてませんよ」
律「あの……。
ひとつ、疑問があるんですけど」
食「はい。
なんでもどうぞ」
律「ハイブリッドって、そんなにスゴいんですか?」
食「最新のシステムです」
律「クルマのハイブリッドって……。
完全な電気自動車に移行するまでの、中途のシステムとして位置づけられてますよね」
み「電気自動車は、まだまだ高いしねー。
充電できる場所も、普及してないし」
律「だっておかしいじゃないの。
鉄道には、電車があるのよ。
100%電気の」
み「あ。
そう言えば……。
新潟の通勤でも、ディーゼルの車両なんてないや。
みんな電車だもの」
↑新潟駅にて。見事な国鉄色ですが、ちゃんと電車です。
律「でしょ。
100%電気で走る車両が普及してるのに……。
いまさらディーゼルのハイブリッドなんて……。
むしろ、退化なんじゃないですか?」
食「お2人とも……。
あまりローカル線には、乗られないみたいですね」
み「ま、新潟市という大都会に住んでおるからのー」
↑実は、大きな農村
食「『リゾートしらかみ』がこれから乗り入れるのは……。
五能線です」
み「そのくらい知っとるわい。
ローカル線の中のローカル線、みたいな路線でしょ」
食「そのとおりです。
すなわち……。
五能線ってのは、全区間、非電化なんです」
↑リゾートしらかみ『くまげら』と岩木山
み「は?」
食「線路の上に、架線が無いんです。
線路が敷いてあるだけ」
み「あっちゃー。
そんなとこが、まだあったのね」
食「ローカル線には、まだまだたくさんあります……。
ていうか、今後、電化される見込みも無いんじゃないかな」
み「つまり……。
電車は走れないってわけね」
食「そうなります」
み「しかし……。
鉄道ってのは……。
どうしてこう、歪んだかたちで発展するのかね?」
食「どういうことです?」
み「一方では、リニアモーターカーとか……。
空を飛ぶみたいな列車が開発されてるわけでしょ」
食「2020年、『相模原・甲府』間で開業ですね」
み「その一方ではさ……。
まだ、電車が走れない線路があるわけでしょ」
食「ま、そうですけど」
み「それだけじゃないぞ。
ここ秋田でもそうだと思うけど……。
雪が降ると、当たり前みたいにダイヤが滅茶苦茶になる」
み「リニアモーターカーが作れる金と技術があったら……」
み「雪でも遅れないシステムを作れってんだ」
↑全車両をラッセル車にするとか
律「実感こもってるわね」
み「恨みがこもってる」
律「でも、全区間の電化くらいは、進めてほしいものよね」
み「そんなの、もう無理だよ。
今どき非電化の路線に……。
電化するメリットなんて、あるわけないじゃん。
お客が少ないから、非電化なわけでしょ」
み「今後、増える見込みなんてないもの。
人は減るばっかり」
律「厳しいわね」
み「廃線にならないだけで、ありがたいと思わにゃならん」
み「そんな時代よ」
律「鉄道愛好家のみなさんで、運動などなさったら?」
食「どんな運動です?」
律「非電化の路線を無くす運動とか」
食「それは……。
かなり、無理っすね」
み「なんでよ?」
食「特に『撮り鉄』なんか、非電化の路線大好きですから」
み「どうして?」
食「架線も鉄柱も無いんですよ」
食「すなわち、視角を横切る邪魔物が無い。
ヌケがいいって云うんですけどね。
高台とかから狙うと……。
ほんとに、ジオラマみたいな写真が撮れるんです」
み「上から狙えるような、高い建物なんて、あるの?
電化もされてないとこで」
食「五能線なんか、ありまくりですよ。
山が、海際まで迫ってるんですから」
み「あ、そういうこと」
食「撮り鉄の中には……。
崖に張りついて狙うヤツもいますからね」
み「プラントハンターみたいだな」
み「チミも、やったらいいんじゃないの?」
み「ちょっとは痩せるぞ」
食「ムダな運動はしない主義なんで」
み「主義で太ってるわけ?」
食「これは、自然体です」
み「不自然体だろ。
あ、きみ。
話は済んだから。
さっさと席にもどったんさい」
食「はぁ。
なんか最後は、あっけなく開放されちゃいましたね。
じゃ、お言葉に甘えて……。
食後食を続けさせてもらいます」
巨大な影が後ろにまわると……。
箸が弁当の底をかき回す音が聞こえてきました。
食「まいうー。
まいうー」
鬱陶しいやつ。
み「先生。
わたしちょっと、出かけてくるからね」
律「どこへ?」
み「決まってるでしょ」
律「どこよ?」
み「ほんと、デリカシーが無いんだから。
ちょっと耳貸して」
律「何よ?」
み「ふー」
律「息をかけるな!」
み「今、感じた?」
律「感じるか、バカモン!」
み「おトイレよ」
律「あ、うんこ?」
み「はっきり言うな!」
後ろのデブは食事に夢中で、どうやら聞こえてないようです。
み「そんじゃ、ちょっとばかし……」
通路を歩き始めると、律子先生まで立って来ました。
み「ちょっと、何でついてくんのよ。
先生も出るの?
わたしが先だからね」
律「わたしは、出ないけど……。
ああいうタイプ、苦手なのよ」
み「後ろの席の?」
律「そう」
み「人は良さそうじゃない」
律「そうなのよね。
医者のイヤな奴に比べたら……」
律「人間的には、よっぽどマシよ」
み「じゃ、いいじゃないの」
律「生理的にダメなの」
み「気の毒にのぅ」
律「案外、もう結婚してるかも」
み「してるわけ無いだろ」
律「ヒドいこと言うのね。
世の中には、“蓼食う虫も好き好き”って言葉もあるんだから」
み「そっちの方が、よっぽどヒドイこと言ってますけど」
律「鉄道マニア同士なら、いいカップルになれるんじゃない?」
み「そんなら、一人旅なんかしてないでしょ」
わたしたちが乗ったのは、4号車。
でも、これが先頭車両なんです。
わたしたちが座る座席の前方には、展望室のようなスペースがありました。
さっきまで、鉄ちゃんの卵みたいな小学生が、かぶりつきで進行方向を見てました。
彼にとってこの旅は……。
生涯忘れられない思い出となるのかも。
彼の人生は、走り出したばかり。
彼の未来に、幸あれ!
もちろんわたしたちも、あとで展望室に立ってみるつもり。
そのとき、まだあの小学生が占領してたら……。
ぶん殴ってやる。
とにかく今は、展望室よりトイレが先です。
座席と展望室の間には、トイレなんてありません。
で、当然わたしたちは、展望室とは逆、後ろ方向に歩き出したわけです。
車両端部の扉を開きます。
トイレが、ありました。
しかしながら……。
使用中!
み「なんで使用中なんだ!
まだ発車したばっかりじゃないか!」
律「人のこと言えないでしょ。
どうする?
開くの待つ?」
み「待ってられない。
便秘女だったらどうすんの」
み「次、行くぞ、次」
律「そんなに切迫してんの?」
み「火急の事態じゃ」
律「どうして、もっと早く行かないのよ」
み「バカをからかってたら……。
面白くて止められなかった」
律「悪いい女。
バチが当たって、きっと漏らすわよ」
み「縁起でもないこと言わんといて」
律「漏らしたら、もう一緒に座らないからね」
み「ヒドい」
隣の車両に移ります。
み「絵の出るレコードと言われておった。
あの機械、うちにあったのだよ」
↑こんないいやつではなかった
み「て言うか……。
捨てた覚えないから、今もどこかにあるな」
食「へー、スゴいじゃないですか」
み「父親が新しもの好きでね。
出て間もなく買った。
だけどさ。
ソフトがバカ高い上に……」
み「レンタルも無い。
テレビの録画もできない。
あれじゃ、いくら画質がいいからって……。
普及せんわな。
結局、ソフトを2,3枚買っただけでお終い」
食「わかった。
その数少ないソフトの1枚が……。
『犬神家の一族』なわけですね」
み「うんにゃ。
あんなアホな映画、レーザーディスクで買うかいな」
食「……。
それじゃ、どうしてレーザーディスクの話なんて、持ちだしたんですか」
み「単に、思い出したからだよ。
思い出は、大切なものじゃ」
食「今度こそ、席に戻ります」
み「あんちゃん。
そう、連れないことを言うでない。
最後まで話しを聞かにゃ……。
未練が残るじゃろ?」
食「ぜんぜん、残りません」
み「付き合いの悪いヤツじゃな」
↑『酔っぱらい5人衆(実際に売られてるフィギュアです)』
食「十分付き合いました」
み「『犬神家の一族』は……。
テレビで見たんじゃよ。
『日曜洋画劇場』だったかな?」
食「洋画じゃないでしょ」
↑こてこての和物
み「なぜか日本映画もやってたの!
覚えてる?
淀川長治?」
食「まあね。
印象的なキャラでしたから」
み「物真似してみな」
↑小松政夫の十八番
食「なんでボクが!」
み「淀川長治を持ちだしておいて……。
物真似しなきゃ、失礼だろ?」
食「どういう論理ですか」
み「それじゃ……。
わたしが手本を示そう。
よく聞けよ。
“わ・て・が、淀川長治だす”」
食「それは、芦屋雁之助でしょ」
み「そうだっけ?
なら、やってみ。
淀川長治」
食「“サイナラ、サイナラ、サイナラ”」
み「似てない。
よくそんな下手な物真似が、人前で出来るの」
食「無理にやらせたんじゃないですか!
こんなの、持ちネタにありません」
み「持ちネタなんて、あるの?」
食「ありますよ。
“まいうー”」
み「それって、体型が似てるだけじゃん」
食「物真似は、形から入らなきゃなりません」
み「ほー。
するとわたしは、誰だろう?
佐々木希とか?」
食「ボク、もう疲れました」
み「まだ、走りだしたばっかりだろ。
近ごろの若いもんは、鍛え方が足りんな」
み「で……。
『青沼静馬』に戻る」
食「戻るんですか!」
み「ブーメラン、ブーメラン」
み「“きっとぉ、あなたーは、戻ってくるだろぉぉ。”
知ってとるけ?
西城秀樹?」
食「これ以上、話題を広げないで下さい!」
み「つまらんのぅ。
じゃ、手短に語ってやるか。
小学校のときだったかな。
テレビで、『犬神家の一族』が放送されたわけ。
で、あの青沼静馬のマスク姿って……。
異様にインパクトがあるじゃん」
み「学校で流行ったんだよ。
『青沼静馬』の物真似」
食「なに気に、ネタバレしてるんじゃないですか?
あれって、犬神佐清と思われてたんじゃ……」
み「あ。
ま……。
有名な映画だから、もうみんな知ってるよね?」
律「わたし知らなかった」
み「あんたは、いいの。
もともと常識無いんだから」
律「失礼ね!」
み「常識が無いのは、先生と呼ばれる人種の共通点よね。
学校の先生に始まって……」
み「お医者さんでしょ」
み「政治家ももちろんだし……」
み「弁護士とかも……。
先生と呼ばれるようになると、非常識になってくる」
食「あのー。
こちらの方は、どの先生に当たるんですか?」
み「ほー。
興味あるわけ?」
食「いえ。
興味とか、そういうことじゃなくですね……」
み「正直に言ったんさい。
九州男児だろ」
食「だから、違いますって」
み「九州男児が愛の告白をするときのセリフ……。
知っとるけ?」
食「知りませんよ。
そもそも、愛の告白だなんて……」
み「良いか。
“とっとっとー”に続く、九州弁講座第二弾。
愛の告白編」
み「心して聞け」
食「いいですって」
み「すいとー」
食「は?」
み「だから……。
“すいとー”」
食「何です、それ?」
み「愛の告白だと言ったろうが。
まさしく、『I Love You.』だよ」
食「ひょっとして……。
好いとー?」
み「左様じゃ。
石橋凌が……」
み「原田美枝子に告白するとき……」
み「この“すいとー”を、ぶちかましたそうじゃ。
原田美枝子は……。
この人は、いったい『水筒』をどうしたいのかと、首をひねったそうな」
食「いろんなこと知ってますね」
律「いらないことばっかりね」
み「失敬な!
まぁ、いい。
チミ、この失敬オンナが何の先生か、当ててみなさい」
律「いいわよ、当てなくても」
み「当たったら、先生からキスのプレゼント~」
律「しません!」
み「そんなに過酷に断ったら、気の毒でしょ」
↑誰だこれ?
律「冗談が過ぎるわ」
み「ノリの悪い女だのぅ。
チミ、残念ながら、キスは貰えないが……。
当ててみ」
食「さっきの例から選べばいいんですね?
教師か、医者か、政治家か、弁護士」
み「ま、それでいいよ」
食「うーん。
政治家は有り得ないとして……」
み「何で有り得ないんだ?」
食「だって、こんな美人の議員さんがいたら……。
ぜったいネットで評判になってますからね。
美人すぎる市議とか、一時期流行ったでしょ」
み「ああいうものは、流行りモノなのか?」
食「ある程度、そうなんじゃないですか」
み「それじゃ……。
残るは3つ」
食「旅行のスケジュールは、明日までですか?」
み「うんにゃ。
まだ続くよ」
食「それじゃ……。
学校の先生でもありえないな。
3連休は、明日で終わりですからね」
み「そういう質問は、反則だろう」
食「残る2つで、時間が自由になるのは……。
やっぱり、弁護士の方かな?」
み「外れです」
食「え?
それじゃ、お医者さま?
これは、お見それしました」
み「何科の医者だと思う?」
食「優しそうだから……。
小児科かな?」
み「どこが優しいか。
さっきからツンケンしてるではないか。
↓こんな顔」
律「してないわよ」
み「この人は……。
泌尿器科の先生」
み「チミも一度、見てもらいなさい。
ホーケーだろ?」
食「違いますよ!
第一、包茎なら整形外科じゃないですか」
み「ほー。
整形外科で手術したのか?」
食「してません!」
み「愚か者が。
泌尿器科なら、保険が効くのに」
食「してませんって」
律「もう。
いい加減なことばっかり言わないでちょうだい」
み「ほんとは、産婦人科だよ」
食「へー。
生命の誕生に日々関われるなんて、素晴らしいお仕事ですね」
み「どーも口調に、下心が見え透くのぅ」
食「誤解です!」
律「この話は、もうお終い」
み「なんでよ?」
律「旅先で、仕事のこと思い出したく無いの」
食「そうですよね。
やめましょう、やめましょう。
話を変えますね。
何の話しようかな……。
そうだ!
『青池』は、すでに語ったとして……。
まだ、『くまげら』と『ブナ』が残ってました」
み「そんなの、わざわざ語るまでもないじゃないの。
クマゲラってのは、キツツキでしょ?」
食「そうです。
日本に生息するキツツキでは……。
最大種になります」
み「どのくらいデカいの?
コンドルくらい?」
食「そんなキツツキはいません。
巣にできる木が無いでしょ。
クマゲラは、カラスくらいです」
み「なんだ。
ぜんぜん大したことないじゃん。
クマゲラなんて云うから、クマを襲って食べるのかと思った」
食「それじゃ、ラドンですよ」
み「何それ?」
食「怪獣です」
み「おまえは、小学生か」
食「失礼な」
み「何で、クマなんて名前が付いてるの?」
食「単に大きいからです。
セミにも、クマゼミってのがいるでしょ?」
み「なるほど」
食「近くで見ると、見栄えがする鳥らしいですよ」
食「アイヌの人には、『船を彫る鳥』と呼ばれ……。
神として崇められてたそうです」
み「ふーん。
で、この鳥が、白神山地にいるわけなんだね」
食「そうです。
ブナ林に生息してます」
み「なるほど。
それで、最後が『ブナ』ってことか」
食「もう、よろしいでしょうか?」
み「ならぬと言っとるだろ。
まだ、最初の質問に答えてないじゃろうが?」
食「なんでしたっけ?」
み「やっぱり、脳みそに飯粒が詰まってるな」
食「詰まるほど食べさせてもらってませんから」
み「解説がまだでしょ。
なんで、こんな立派な内装なのに……。
ディーゼル車なのかってこと」
食「あ、元々はその話でしたね。
そうそう。
3編成のうちの『青池』が、この12月(2010年)、新車両になるんですよ」
み「やっと、ディーゼルじゃなくなるわけね」
食「いえいえ。
ディーゼルは、ディーゼルのままです。
でも、リチウムイオン蓄電池を組み合わせた、ハイブリッド車両なんです」
み「ハイブリッドって……。
プリウスとかの?」
食「はいなー。
蓄電池に蓄えた電力で発車しますから……。
静音性に優れてます」
み「この列車みたいに、唸りながら走り出さないわけね」
食「そうそう。
で、加速すると、ディーゼルエンジンが稼働を始め……。
蓄電池の電力と合わせて、モーターを回すわけです。
減速時には、ブレーキエネルギーを電気に変えて、充電するんです」
↑充電中
み「ほー。
最新システムってわけね」
↑縮むことも出来る!
食「スゴいでしょ。
クルマに負けてませんよ」
律「あの……。
ひとつ、疑問があるんですけど」
食「はい。
なんでもどうぞ」
律「ハイブリッドって、そんなにスゴいんですか?」
食「最新のシステムです」
律「クルマのハイブリッドって……。
完全な電気自動車に移行するまでの、中途のシステムとして位置づけられてますよね」
み「電気自動車は、まだまだ高いしねー。
充電できる場所も、普及してないし」
律「だっておかしいじゃないの。
鉄道には、電車があるのよ。
100%電気の」
み「あ。
そう言えば……。
新潟の通勤でも、ディーゼルの車両なんてないや。
みんな電車だもの」
↑新潟駅にて。見事な国鉄色ですが、ちゃんと電車です。
律「でしょ。
100%電気で走る車両が普及してるのに……。
いまさらディーゼルのハイブリッドなんて……。
むしろ、退化なんじゃないですか?」
食「お2人とも……。
あまりローカル線には、乗られないみたいですね」
み「ま、新潟市という大都会に住んでおるからのー」
↑実は、大きな農村
食「『リゾートしらかみ』がこれから乗り入れるのは……。
五能線です」
み「そのくらい知っとるわい。
ローカル線の中のローカル線、みたいな路線でしょ」
食「そのとおりです。
すなわち……。
五能線ってのは、全区間、非電化なんです」
↑リゾートしらかみ『くまげら』と岩木山
み「は?」
食「線路の上に、架線が無いんです。
線路が敷いてあるだけ」
み「あっちゃー。
そんなとこが、まだあったのね」
食「ローカル線には、まだまだたくさんあります……。
ていうか、今後、電化される見込みも無いんじゃないかな」
み「つまり……。
電車は走れないってわけね」
食「そうなります」
み「しかし……。
鉄道ってのは……。
どうしてこう、歪んだかたちで発展するのかね?」
食「どういうことです?」
み「一方では、リニアモーターカーとか……。
空を飛ぶみたいな列車が開発されてるわけでしょ」
食「2020年、『相模原・甲府』間で開業ですね」
み「その一方ではさ……。
まだ、電車が走れない線路があるわけでしょ」
食「ま、そうですけど」
み「それだけじゃないぞ。
ここ秋田でもそうだと思うけど……。
雪が降ると、当たり前みたいにダイヤが滅茶苦茶になる」
み「リニアモーターカーが作れる金と技術があったら……」
み「雪でも遅れないシステムを作れってんだ」
↑全車両をラッセル車にするとか
律「実感こもってるわね」
み「恨みがこもってる」
律「でも、全区間の電化くらいは、進めてほしいものよね」
み「そんなの、もう無理だよ。
今どき非電化の路線に……。
電化するメリットなんて、あるわけないじゃん。
お客が少ないから、非電化なわけでしょ」
み「今後、増える見込みなんてないもの。
人は減るばっかり」
律「厳しいわね」
み「廃線にならないだけで、ありがたいと思わにゃならん」
み「そんな時代よ」
律「鉄道愛好家のみなさんで、運動などなさったら?」
食「どんな運動です?」
律「非電化の路線を無くす運動とか」
食「それは……。
かなり、無理っすね」
み「なんでよ?」
食「特に『撮り鉄』なんか、非電化の路線大好きですから」
み「どうして?」
食「架線も鉄柱も無いんですよ」
食「すなわち、視角を横切る邪魔物が無い。
ヌケがいいって云うんですけどね。
高台とかから狙うと……。
ほんとに、ジオラマみたいな写真が撮れるんです」
み「上から狙えるような、高い建物なんて、あるの?
電化もされてないとこで」
食「五能線なんか、ありまくりですよ。
山が、海際まで迫ってるんですから」
み「あ、そういうこと」
食「撮り鉄の中には……。
崖に張りついて狙うヤツもいますからね」
み「プラントハンターみたいだな」
み「チミも、やったらいいんじゃないの?」
み「ちょっとは痩せるぞ」
食「ムダな運動はしない主義なんで」
み「主義で太ってるわけ?」
食「これは、自然体です」
み「不自然体だろ。
あ、きみ。
話は済んだから。
さっさと席にもどったんさい」
食「はぁ。
なんか最後は、あっけなく開放されちゃいましたね。
じゃ、お言葉に甘えて……。
食後食を続けさせてもらいます」
巨大な影が後ろにまわると……。
箸が弁当の底をかき回す音が聞こえてきました。
食「まいうー。
まいうー」
鬱陶しいやつ。
み「先生。
わたしちょっと、出かけてくるからね」
律「どこへ?」
み「決まってるでしょ」
律「どこよ?」
み「ほんと、デリカシーが無いんだから。
ちょっと耳貸して」
律「何よ?」
み「ふー」
律「息をかけるな!」
み「今、感じた?」
律「感じるか、バカモン!」
み「おトイレよ」
律「あ、うんこ?」
み「はっきり言うな!」
後ろのデブは食事に夢中で、どうやら聞こえてないようです。
み「そんじゃ、ちょっとばかし……」
通路を歩き始めると、律子先生まで立って来ました。
み「ちょっと、何でついてくんのよ。
先生も出るの?
わたしが先だからね」
律「わたしは、出ないけど……。
ああいうタイプ、苦手なのよ」
み「後ろの席の?」
律「そう」
み「人は良さそうじゃない」
律「そうなのよね。
医者のイヤな奴に比べたら……」
律「人間的には、よっぽどマシよ」
み「じゃ、いいじゃないの」
律「生理的にダメなの」
み「気の毒にのぅ」
律「案外、もう結婚してるかも」
み「してるわけ無いだろ」
律「ヒドいこと言うのね。
世の中には、“蓼食う虫も好き好き”って言葉もあるんだから」
み「そっちの方が、よっぽどヒドイこと言ってますけど」
律「鉄道マニア同士なら、いいカップルになれるんじゃない?」
み「そんなら、一人旅なんかしてないでしょ」
わたしたちが乗ったのは、4号車。
でも、これが先頭車両なんです。
わたしたちが座る座席の前方には、展望室のようなスペースがありました。
さっきまで、鉄ちゃんの卵みたいな小学生が、かぶりつきで進行方向を見てました。
彼にとってこの旅は……。
生涯忘れられない思い出となるのかも。
彼の人生は、走り出したばかり。
彼の未来に、幸あれ!
もちろんわたしたちも、あとで展望室に立ってみるつもり。
そのとき、まだあの小学生が占領してたら……。
ぶん殴ってやる。
とにかく今は、展望室よりトイレが先です。
座席と展望室の間には、トイレなんてありません。
で、当然わたしたちは、展望室とは逆、後ろ方向に歩き出したわけです。
車両端部の扉を開きます。
トイレが、ありました。
しかしながら……。
使用中!
み「なんで使用中なんだ!
まだ発車したばっかりじゃないか!」
律「人のこと言えないでしょ。
どうする?
開くの待つ?」
み「待ってられない。
便秘女だったらどうすんの」
み「次、行くぞ、次」
律「そんなに切迫してんの?」
み「火急の事態じゃ」
律「どうして、もっと早く行かないのよ」
み「バカをからかってたら……。
面白くて止められなかった」
律「悪いい女。
バチが当たって、きっと漏らすわよ」
み「縁起でもないこと言わんといて」
律「漏らしたら、もう一緒に座らないからね」
み「ヒドい」
隣の車両に移ります。