2012.3.3(土)
み「さて、雪国の話にはオチが付いたみたいだけど……。
何の話、してたんだっけ?」
律「確か、お蕎麦の話よね」
み「大通りはそうだが……。
さっきまで、どのへんの小路を覗いてたんだっけな」
老「“さがり”小路じゃろ」
み「それだ!
それで先生が、ヤラシイこと言うから……。
話が転がるんだよ」
律「言ってないでしょ!」
み「まぁ、いいわい。
それじゃ、マスミン。
続けたんさい。
“さがり”方面」
↑これは“下り”
老「それでは……。
“さがり”が、何で出来てるか知っておるか?」
み「幕下以下はわかるよな」
律「何よ?」
み「縄のれん」
律「そんなので出来てるわけないでしょ」
み「でも、十両以上は……。
ちょっとわからねーな」
律「何で口調が変わるのよ」
み「知らない?
『ダウンタウンブギウギバンド』」
み「『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』って歌があるのよ」
み「歌っちゅうか、ほとんどセリフだけだけど」
律「なんとなく知ってる。
でも、何でここで出てくるわけ?」
み「ちょっとわからねーな」
律「単なる酔っぱらいってことね」
み「今の会社の同僚が、前に勤めてた会社でのエピソードなんだけど……」
律「ややこしい話ね」
↑ややこしい体勢
み「忘年会のカラオケで、この『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』を歌った人がいたんだって」
み「その人は、素晴らしい音痴でね」
み「カラオケなんて歌いたくなかったんだけど……。
諸般の事情で、歌わざるを得なかった。
で、『港のヨーコ……』なら、ほとんどメロディが無いでしょ。
画面に流れる歌詞をしゃべってるだけでいいんなら、イケると思ったわけね」
律「で、どうだったの?」
み「悲惨」
律「どうして?」
み「あれは……。
言ってみれば、セリフなわけでしょ」
律「そうよね」
み「セリフ回しみたいな才能って……。
歌の上手下手より、さらに如実に現れるわけよ。
結局、素人芝居みたいな棒読みセリフになって……」
み「聞いてる方が、いたたまれなかったってさ。
あれなら、下手くそな歌の方が千倍もマシだって」
律「なるほど」
み「参考になった?
先生も、セリフ入りの歌とかは、止めたほうがいいよ」
律「セリフ入りの歌なんて、どんなのがあるの?」
み「『俵星玄蕃』とか」
律「なにそれ?」
み「知らない?
三波春夫の名曲」
↑思わず最後まで聞き入ってしまった。これだけの歌手は、もう出ないでしょうね。
律「何でそんな歌、知ってるの?」
み「三波春夫先生は、新潟県民ですからね」
↑新潟県長岡市塚野山(生誕の地)に建つ銅像
み「五輪音頭は、知ってるよね?」
律「五人音頭?」
み「五輪!
オリンピック!」
↑東京オリンピックのメダル
律「いつのオリンピックよ?」
み「とぼけるな。
生まれてたくせに」
律「生まれてないわよ。
東京オリンピックは、昭和39年でしょ」
↑亀倉雄策(この人も新潟県人)による有名なポスター
み「知ってるじゃないの」
律「あ」
み「でも、『東京五輪音頭』、マジでいいよね」
み「あの脳天から突き抜けるような高音と相まってさ……。
高度成長期まっただ中、すべてが右肩上がりの時代」
み「その象徴みたいな歌だよ。
もう、あの時代は帰ってこないんだね」
律「なんか、定年間際のサラリーマンの愚痴みたい」
み「そう言えば!
三波春夫にあったじゃないの。
『チャンチキおけさ』」
み「『俵星玄蕃』は無理でも……。
これなら歌えるでしょ」
み「よし。
みんなで歌おう。
ほれ、箸持って」
律「イヤよ」
み「なんで?」
律「みっともない」
み「マスミンは?」
老「遠慮し申す」
み「協調性が無いのぅ。
それじゃ、わたしひとりで歌えってかよ」
律「別に歌わなくてもいいわよ」
み「うんにゃ。
歌うてみせようホトトギス」
律「完全に……。
脳細胞までアルコールが染みてるわね」
み「思うにさ……。
『チャンチキおけさ』って、出だしが命だよね」
律「人の話、聞いてないようね」
み「あの出だしさえクリアすれば……。
後は、勢いで行けると思うんだけどな。
三波先生の高音は、超音波級だからね」
律「だから、止めときなさいって」
み「それじゃ、いかせていただきます」
律「カーン」
↑チューブラーベルという楽器だそうです
み「何よそれ!」
律「鐘一つ。
退場」
み「まだ歌ってないでしょ!」
律「結果はわかりきってる」
み「こうなったら、意地でも歌ってやる。
♪つ、月がぁあぁあぁ~」
律「止めて!」
み「♪わび、わびしぃいぃい~」
み「フガフガ。
ちょっと、何で口塞ぐのよ!」
律「自分がどんな声出してるか、わかってるの!」
み「もう少しで、出だしの高音地帯をクリア出来そうだったのに」
律「最初から外れてたでしょ!」
み「そんなこと無いよ。
ねー、マスミン」
老「言語道断の音程じゃ。
以後、人前で歌うことを禁ずる」
み「なんでよ!
くっそー。
おもろない。
マスミン、一杯もらうからね」
老「ほれ、そんな注ぎ方をしたらこぼすじゃろ。
お前さまは、完全に飲み過ぎじゃ」
み「ほんなことは、無い!」
老「それじゃ……。
何の話をしてたか、言ってみんさい」
み「ん?
三波春夫の話じゃないの?」
↑この歌もいいですね。1970年、大阪万博の歌。
老「それは、お前さまがいきなり持ち出した話題じゃろ。
お前さまに任せとくと、一向に話が進まんわい。
以後、発言を禁ずる」
み「何でよ!」
老「途中で潰れられて話が中途半端になったら、気持ちが悪い」
み「それは、そっちの都合だろ」
老「潰れたら、耳元で続きを語るぞ」
み「げ。
うなされそうだから止めて」
老「きっちりと語り終えんと、すっきりせんのじゃ」
み「わかった!
語り終えてすっきるすることを……。
カタルシスと云う」
老「案外、しっかししておるではないか」
み「だろー」
老「それでは、話を戻す。
相撲の“さがり”は、何から出来ているか?」
み「だから、縄のれんでしょ?」
老「そこに戻るでない!
“さがり”は、廻しと同じ材質なんじゃ。
と云うか……。
廻しを仕立てた端切れから、“さがり”が作られるのじゃ」
み「じゃ、廻しって何から出来てるんだ?
あ!
わかった!」
み「ずいぶんと遠回りしてくれたじゃないの。
わかっちまったぜ。
すまんのー、カンが鋭くて」
老「威張ってないで、言ってみんさい」
み「ズバリ!
相撲の廻しは、小千谷縮から出来ているでしょう!」
老「……」
み「当たりよね」
老「ま、小千谷縮のことを覚えてただけでも、上等じゃろうの」
み「なんだよ!
違うの?」
老「麻布なんぞを、股ぐらに巻いたら……。
擦れてしょうがないじゃろ」
み「まー、お下品」
老「お前さまに言われたくないわ。
良いか。
廻しには、2種類ある。
稽古廻しと、締込みじゃ。
稽古廻しは……。
横綱審議委員会の稽古総見なんかが、テレビで放映されるじゃろ。
そのときに力士が締めている廻しじゃ」
み「白い廻しだね」
老「左様。
ただし、白い稽古廻しを締められるのは、関取だけじゃ」
み「そうなの?
幕下以下は?」
老「材質は同じじゃが、色は黒じゃな」
み「なるほど。
稽古廻しが、白と黒。
関取以上と、それ以外が、ひと目でわかるってわけだね」
老「そのとおり」
み「まさに、階級社会だ」
老「幕下以下は……。
本場所でも、同じ稽古廻しで相撲を取る」
み「ふむふむ。
ところで、材質は何なのよ?
小千谷縮じゃないっていうと」
老「木綿じゃよ」
み「ふーん。
それなら、幕下以下の“さがり”も、木綿で出来てるってこと?」
老「そのとおり」
み「ま、それなら……。
ダラーンってなってても、当たり前だわな」
み「それじゃ、関取が本場所で着ける廻しは……。
木綿じゃないってことだよね?」
老「関取が、本場所で締める廻しを、“締込み”と云う。
材質は、繻子織の絹じゃ」
律「まぁ。
繻子織って、サテンのことですよね?」
み「へー。
いいもん使ってるじゃない」
老「1本で200万くらいするようじゃな」
み「どひゃー」
み「小千谷縮も真っ青。
でも、アレルギーの人なんて、どうすんだろ?
絹アレルギーって、けっこういるんでしょ?」
律「サポーターの上から巻けば、大丈夫なんじゃない」
み「お相撲さんは、廻しの下にサポーターなんて着けないよ。
いきなり廻しよ」
律「えー。
そうなの。
Tバッグみたいなサポーター、着けると思ってた」
み「着けません。
ナマぐるみです」
律「それじゃ、アレルギーの人は、ムリだわね」
み「カイカイよね。
玉袋腫れ上がって、八畳敷。
廻しの中に収まらないね」
律「また、そっちの方に行く!」
み「あのさ……。
廻しって洗わないの、知ってる?」
律「ウソ!
汗まみれでしょ。
なんでよ?」
み「よーわからんが……。
洗うと、ゴワゴワするからじゃない?」
律「ぜったい洗ってるわよ。
コインランドリーとかで」
み「今度、相撲部屋の前で見張っててみ」
律「そんなヒマじゃないわ」
老「稽古廻しは、水洗いしておるようじゃな」
み「どうやって洗うの?」
老「コンクリートの上に伸ばして……。
水を撒きながら、デッキブラシでこする」
↑岐阜農林高校相撲部
老「後は、天日干しじゃ」
↑青春の風景ですね~
み「思い切りゴワゴワしそうだ。
本場所の締込みは、洗わないの?」
老「絹の繻子織を、デッキブラシでは擦れんじゃろ」
み「それじゃ、洗わないってこと?」
老「本場所は、あっという間に勝負が付くでな」
老「さほど、汗も染みんじゃろ」
み「そんなもんかのー。
不潔っぽいけど」
老「大学や高校の相撲部では……。
廻しを共有しとることもあるらしいの」
み「許せん!
洗わないパンツを共有してるようなものじゃん」
律「それは、ほんとに不潔だわ。
陰部には、感染する病気も少なくないのに」
み「陰金田虫」
律「想像しただけで、全身が痒くなる」
み「こら、マスミン。
酒がマズくなるではないか。
なんで、こんな汚い話をしてるわけ?」
老「そっちに話を持っていくのは、常にお前さまじゃろ。
わしは、“さがり”の話をしたいのじゃ」
み「要点を語れ」
老「関取の“さがり”は、なぜ固いのか?」
み「材質は……。
締込みと同じなんだよね」
老「左様じゃ」
み「てことは、絹でしょ。
何で固いの?」
老「あのな……。
すでに、読者のほとんどが、そのわけに気づいとると思うが」
み「そんなバカな!
わたしがバカみたいじゃん」
律「そうなんじゃない?」
み「失敬な!
バカではなく……。
罪のない酔っぱらいじゃ」
律「威張るな」
み「それじゃ、先生もわかったっての?
“さがり”が固いわけ」
律「たぶん読者は……。
“さがり”が持ち出された時点で気づいてるはず。
“さがり”は、布海苔で固めるんです」
み「なんですとー」
律「素っ頓狂な声、出さないで!」
み「ふっふっふ。
わたしだって、わかっておったよ。
しかし!
この“なんですとー”が言いたいばっかりに……。
ボケておったのじゃ」
律「ウソ言いなさい」
み「懐かしいのぅ。
うな丼くん。
受験の時期になると、思い出すよ」
律「今、10月ですけど」
み「え゛。
ま、いいじゃない。
ささ。
マスミン、続けてちょうだい」
律「誤魔化すんだから」
老「布海苔を煮て溶かすと……」
老「細胞壁を構成する多糖類がゾル化し……。
ドロドロの糊状になる」
み「てことは……。
“海苔”が“糊”に変じるってことね?
言ってること、わかる?」
老「面白いことを言うの。
マイナス9万9千999点に格上げじゃ」
み「たった、1点かい!」
老「1点を笑うものは、1点に泣く」
律「プラ転までのは、遙かな道のりね」
み「納得いかん」
老「それでは、この布海苔が、小千谷縮のどの工程で使われるか……。
もうわかったじゃろ?」
律「わかりましたわ!
布海苔の糊で、横糸をくっつけて……。
撚りが戻らないようにするんですね」
老「見事、正解です。
99点に格上げです」
み「何じゃそりゃ!」
老「布海苔から作られる糊の特徴は……。
接着力が、あまり強くないことにある」
み「なーんだ。
使えない糊じゃん」
老「真逆じゃよ。
そういう糊だからこそ……。
横糸の糊付けに使えるのじゃ」
み「なんで?」
老「布が織りあがった後には……。
接着力は、消えて無くならねばならんからの」
律「撚りが戻らなければ、縮の皺が出来ませんものね」
老「左様です。
織りあがった布は、お湯の中で揉み洗いされる。
この作業を、“湯揉み”と呼ぶ」
み「♪草津よいとこ~」
律「違うでしょ!」
老「つまり、縮織に使う糊は……。
接着剤のように永続性があるものでは、いかんのじゃ。
綺麗さっぱり、洗い流せる糊で無いとな」
律「だから……。
布海苔が使われたんですね」
老「左様です。
すなわち、小千谷にはもともと……。
布海苔を、“糊”として使う産業があったというわけじゃ」
律「なるほど」
老「布海苔の粘着力を知っていたとなれば……」
老「これを、蕎麦の繋ぎに使ってみようという発想の転換は……。
さほど突飛なものではなかったのではないかな。
布海苔はもともと、食べられる海藻なんじゃからな」
み「なるほろ!」
律「あんた、もう舌が回ってないんだけど」
み「小千谷の蕎麦に、布海苔が使われれようになった経緯はわかった。
ひかひ!」
律「ひかひ?」
み「しかひ!
どうして、この助平蕎麦にも、布海苔が使われているのか!
それがわからん」
律「お蕎麦の名前が違ってるでしょ」
み「何だっけ?」
律「弥太郎蕎麦」
み「違う気がする」
律「助平蕎麦より近いわよ。
寄り道ばっかりしてるから、わかんなくなっちゃったじゃない。
読者だって、きっと覚えてないわ」
老「弥助蕎麦ですな」
み「ほれほれ!」
律「それそれ?」
老「弥助が、大阪の砂場で、蕎麦打ちの修行をして来たと云うことは……。
覚えておるか?」
律「もちろんですわ。
砂場蕎麦も、布海苔を使うんですか?」
老「使いませんな」
み「にゃにっ」
み「使わぬとな」
老「使わんな」
律「じゃ、どうして……」
老「修行を終えた弥助は……。
また、北前船に便乗して秋田へ帰ったのじゃろ」
老「しかし……。
生来の放浪癖じゃ。
とうてい、真っ直ぐ帰ったとは思えん。
船が港に着けば、下りたくなったじゃろうな」
律「なるほど。
それじゃ、小千谷の近くでも?」
老「北前船は、柏崎の港にも入ります」
律「港で、小千谷の蕎麦の話でも聞きつけたのかも知れませんね」
老「大いにあり得ます。
柏崎から小千谷は、20キロほどですからな」
律「へー。
弥助というひとりの風来坊のおかげで……。
大阪の砂場蕎麦と、小千谷の布海苔蕎麦が合体して……。
不思議なお蕎麦が出来たってわけですね」
律「でも、なんで“冷がけ”になったんでしょ?」
老「それは……。
永遠に解明できない謎かも知れませぬな」
み「わたひ、わかる!」
律「ウソ言いなさい」
み「弥助はね……。
猫ひただったの」
律「猫又?」
み「ネコヒタっ」
律「わからん女ね。
あ、ひょっとして、猫舌?」
み「わからん女はホマエじゃ。
ふんとにもう……」
律「ちょっと、Mikiちゃん!
あんた、何やってんの!
お猪口に、お蕎麦なんか漬けて!
ざる蕎麦じゃないのよ!」
律子先生の声が、だんだん遠くなり……。
わたしの意識は、薄れて行きました。
頭の片隅に……。
菅江真澄翁の高笑いが、微かに聞こえたような……。
『また、どこかで会おうぞ』
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
●10月10日(日)3日目
律「Mikiちゃん。
いい加減、起きなさいよ」
み「う~ん」
律「こういうのを、寝穢い(いぎたない)って云うのよね。
鼻つまんでやろうっと」
律「どうだ。
まだ、起きないか」
み「ふ、ふが!
ふがふがふが」
律「頑張るわね。
口も塞いだらどうかしら?」
み「うっ。
ぐぐぐぐぐ……。
ぐふぁっ。
はぁ、はぁ」
律「やっと目が覚めた?」
み「こ、殺される夢を見た」
律「寝覚めが悪くて、残念ね」
み「ここ、どこ?」
律「ホテルに決まってるでしょ」
み「明るい……」
律「朝だからね」
み「あの……。
記憶が……」
律「そうでしょうね」
み「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
律「何よ?」
み「ゆ、浴衣に……。
き、着替えさせられてるぅぅぅ」
律「しかも、着衣が乱れてる!
ほれ、こんなに胸がはだけて」
み「自分で開くな!」
み「まさか……、先生。
わたしが抵抗できないのをいいことに……。
力づくで……。
じ、自分のものに……」
律「してません」
み「なんでしないの?」
律「誰がするか。
服は、自分で脱いだのよ」
み「わたしが?」
律「そうよ。
一騒動だったけどね。
パンツの上から帯締めて……」
律「仕切りを始めたりね」
み「そ、そんなこと……。
わたしがするわけないじゃん。
話作らないでよ」
律「したの。
やっとこさ部屋に運びこんだ途端、元気になるんだから……。
腹が立つのなんの」
み「漁屋酒場から、どうやって帰ってきたの?」
律「タクシーに決まってるでしょ。
お店で潰れちゃったんだから。
あのおじいさんに手伝ってもらって……。
ようやく押しこんだのよ」
み「ホテルに帰ってからは、どうしたの?」
律「歩けそうにないから……。
ホテルの人に手伝ってもらったわよ。
ちょうど、女性スタッフがいて助かったわ。
ようやく部屋に運びこんだと思ったら……。
突如立ち上がって、服脱ぎ散らかしてさ」
み「ウソ……」
律「ホントです。
浴衣に着替えるのかと思ったら……。
帯で廻し締めて、四股踏みはじめたのよ」
律「しかも、片足上げるごとにひっくり返ってさ……」
律「そのたんびに、ケラケラ笑うんだから。
射殺しようかと思ったわよ」
何の話、してたんだっけ?」
律「確か、お蕎麦の話よね」
み「大通りはそうだが……。
さっきまで、どのへんの小路を覗いてたんだっけな」
老「“さがり”小路じゃろ」
み「それだ!
それで先生が、ヤラシイこと言うから……。
話が転がるんだよ」
律「言ってないでしょ!」
み「まぁ、いいわい。
それじゃ、マスミン。
続けたんさい。
“さがり”方面」
↑これは“下り”
老「それでは……。
“さがり”が、何で出来てるか知っておるか?」
み「幕下以下はわかるよな」
律「何よ?」
み「縄のれん」
律「そんなので出来てるわけないでしょ」
み「でも、十両以上は……。
ちょっとわからねーな」
律「何で口調が変わるのよ」
み「知らない?
『ダウンタウンブギウギバンド』」
み「『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』って歌があるのよ」
み「歌っちゅうか、ほとんどセリフだけだけど」
律「なんとなく知ってる。
でも、何でここで出てくるわけ?」
み「ちょっとわからねーな」
律「単なる酔っぱらいってことね」
み「今の会社の同僚が、前に勤めてた会社でのエピソードなんだけど……」
律「ややこしい話ね」
↑ややこしい体勢
み「忘年会のカラオケで、この『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』を歌った人がいたんだって」
み「その人は、素晴らしい音痴でね」
み「カラオケなんて歌いたくなかったんだけど……。
諸般の事情で、歌わざるを得なかった。
で、『港のヨーコ……』なら、ほとんどメロディが無いでしょ。
画面に流れる歌詞をしゃべってるだけでいいんなら、イケると思ったわけね」
律「で、どうだったの?」
み「悲惨」
律「どうして?」
み「あれは……。
言ってみれば、セリフなわけでしょ」
律「そうよね」
み「セリフ回しみたいな才能って……。
歌の上手下手より、さらに如実に現れるわけよ。
結局、素人芝居みたいな棒読みセリフになって……」
み「聞いてる方が、いたたまれなかったってさ。
あれなら、下手くそな歌の方が千倍もマシだって」
律「なるほど」
み「参考になった?
先生も、セリフ入りの歌とかは、止めたほうがいいよ」
律「セリフ入りの歌なんて、どんなのがあるの?」
み「『俵星玄蕃』とか」
律「なにそれ?」
み「知らない?
三波春夫の名曲」
↑思わず最後まで聞き入ってしまった。これだけの歌手は、もう出ないでしょうね。
律「何でそんな歌、知ってるの?」
み「三波春夫先生は、新潟県民ですからね」
↑新潟県長岡市塚野山(生誕の地)に建つ銅像
み「五輪音頭は、知ってるよね?」
律「五人音頭?」
み「五輪!
オリンピック!」
↑東京オリンピックのメダル
律「いつのオリンピックよ?」
み「とぼけるな。
生まれてたくせに」
律「生まれてないわよ。
東京オリンピックは、昭和39年でしょ」
↑亀倉雄策(この人も新潟県人)による有名なポスター
み「知ってるじゃないの」
律「あ」
み「でも、『東京五輪音頭』、マジでいいよね」
み「あの脳天から突き抜けるような高音と相まってさ……。
高度成長期まっただ中、すべてが右肩上がりの時代」
み「その象徴みたいな歌だよ。
もう、あの時代は帰ってこないんだね」
律「なんか、定年間際のサラリーマンの愚痴みたい」
み「そう言えば!
三波春夫にあったじゃないの。
『チャンチキおけさ』」
み「『俵星玄蕃』は無理でも……。
これなら歌えるでしょ」
み「よし。
みんなで歌おう。
ほれ、箸持って」
律「イヤよ」
み「なんで?」
律「みっともない」
み「マスミンは?」
老「遠慮し申す」
み「協調性が無いのぅ。
それじゃ、わたしひとりで歌えってかよ」
律「別に歌わなくてもいいわよ」
み「うんにゃ。
歌うてみせようホトトギス」
律「完全に……。
脳細胞までアルコールが染みてるわね」
み「思うにさ……。
『チャンチキおけさ』って、出だしが命だよね」
律「人の話、聞いてないようね」
み「あの出だしさえクリアすれば……。
後は、勢いで行けると思うんだけどな。
三波先生の高音は、超音波級だからね」
律「だから、止めときなさいって」
み「それじゃ、いかせていただきます」
律「カーン」
↑チューブラーベルという楽器だそうです
み「何よそれ!」
律「鐘一つ。
退場」
み「まだ歌ってないでしょ!」
律「結果はわかりきってる」
み「こうなったら、意地でも歌ってやる。
♪つ、月がぁあぁあぁ~」
律「止めて!」
み「♪わび、わびしぃいぃい~」
み「フガフガ。
ちょっと、何で口塞ぐのよ!」
律「自分がどんな声出してるか、わかってるの!」
み「もう少しで、出だしの高音地帯をクリア出来そうだったのに」
律「最初から外れてたでしょ!」
み「そんなこと無いよ。
ねー、マスミン」
老「言語道断の音程じゃ。
以後、人前で歌うことを禁ずる」
み「なんでよ!
くっそー。
おもろない。
マスミン、一杯もらうからね」
老「ほれ、そんな注ぎ方をしたらこぼすじゃろ。
お前さまは、完全に飲み過ぎじゃ」
み「ほんなことは、無い!」
老「それじゃ……。
何の話をしてたか、言ってみんさい」
み「ん?
三波春夫の話じゃないの?」
↑この歌もいいですね。1970年、大阪万博の歌。
老「それは、お前さまがいきなり持ち出した話題じゃろ。
お前さまに任せとくと、一向に話が進まんわい。
以後、発言を禁ずる」
み「何でよ!」
老「途中で潰れられて話が中途半端になったら、気持ちが悪い」
み「それは、そっちの都合だろ」
老「潰れたら、耳元で続きを語るぞ」
み「げ。
うなされそうだから止めて」
老「きっちりと語り終えんと、すっきりせんのじゃ」
み「わかった!
語り終えてすっきるすることを……。
カタルシスと云う」
老「案外、しっかししておるではないか」
み「だろー」
老「それでは、話を戻す。
相撲の“さがり”は、何から出来ているか?」
み「だから、縄のれんでしょ?」
老「そこに戻るでない!
“さがり”は、廻しと同じ材質なんじゃ。
と云うか……。
廻しを仕立てた端切れから、“さがり”が作られるのじゃ」
み「じゃ、廻しって何から出来てるんだ?
あ!
わかった!」
み「ずいぶんと遠回りしてくれたじゃないの。
わかっちまったぜ。
すまんのー、カンが鋭くて」
老「威張ってないで、言ってみんさい」
み「ズバリ!
相撲の廻しは、小千谷縮から出来ているでしょう!」
老「……」
み「当たりよね」
老「ま、小千谷縮のことを覚えてただけでも、上等じゃろうの」
み「なんだよ!
違うの?」
老「麻布なんぞを、股ぐらに巻いたら……。
擦れてしょうがないじゃろ」
み「まー、お下品」
老「お前さまに言われたくないわ。
良いか。
廻しには、2種類ある。
稽古廻しと、締込みじゃ。
稽古廻しは……。
横綱審議委員会の稽古総見なんかが、テレビで放映されるじゃろ。
そのときに力士が締めている廻しじゃ」
み「白い廻しだね」
老「左様。
ただし、白い稽古廻しを締められるのは、関取だけじゃ」
み「そうなの?
幕下以下は?」
老「材質は同じじゃが、色は黒じゃな」
み「なるほど。
稽古廻しが、白と黒。
関取以上と、それ以外が、ひと目でわかるってわけだね」
老「そのとおり」
み「まさに、階級社会だ」
老「幕下以下は……。
本場所でも、同じ稽古廻しで相撲を取る」
み「ふむふむ。
ところで、材質は何なのよ?
小千谷縮じゃないっていうと」
老「木綿じゃよ」
み「ふーん。
それなら、幕下以下の“さがり”も、木綿で出来てるってこと?」
老「そのとおり」
み「ま、それなら……。
ダラーンってなってても、当たり前だわな」
み「それじゃ、関取が本場所で着ける廻しは……。
木綿じゃないってことだよね?」
老「関取が、本場所で締める廻しを、“締込み”と云う。
材質は、繻子織の絹じゃ」
律「まぁ。
繻子織って、サテンのことですよね?」
み「へー。
いいもん使ってるじゃない」
老「1本で200万くらいするようじゃな」
み「どひゃー」
み「小千谷縮も真っ青。
でも、アレルギーの人なんて、どうすんだろ?
絹アレルギーって、けっこういるんでしょ?」
律「サポーターの上から巻けば、大丈夫なんじゃない」
み「お相撲さんは、廻しの下にサポーターなんて着けないよ。
いきなり廻しよ」
律「えー。
そうなの。
Tバッグみたいなサポーター、着けると思ってた」
み「着けません。
ナマぐるみです」
律「それじゃ、アレルギーの人は、ムリだわね」
み「カイカイよね。
玉袋腫れ上がって、八畳敷。
廻しの中に収まらないね」
律「また、そっちの方に行く!」
み「あのさ……。
廻しって洗わないの、知ってる?」
律「ウソ!
汗まみれでしょ。
なんでよ?」
み「よーわからんが……。
洗うと、ゴワゴワするからじゃない?」
律「ぜったい洗ってるわよ。
コインランドリーとかで」
み「今度、相撲部屋の前で見張っててみ」
律「そんなヒマじゃないわ」
老「稽古廻しは、水洗いしておるようじゃな」
み「どうやって洗うの?」
老「コンクリートの上に伸ばして……。
水を撒きながら、デッキブラシでこする」
↑岐阜農林高校相撲部
老「後は、天日干しじゃ」
↑青春の風景ですね~
み「思い切りゴワゴワしそうだ。
本場所の締込みは、洗わないの?」
老「絹の繻子織を、デッキブラシでは擦れんじゃろ」
み「それじゃ、洗わないってこと?」
老「本場所は、あっという間に勝負が付くでな」
老「さほど、汗も染みんじゃろ」
み「そんなもんかのー。
不潔っぽいけど」
老「大学や高校の相撲部では……。
廻しを共有しとることもあるらしいの」
み「許せん!
洗わないパンツを共有してるようなものじゃん」
律「それは、ほんとに不潔だわ。
陰部には、感染する病気も少なくないのに」
み「陰金田虫」
律「想像しただけで、全身が痒くなる」
み「こら、マスミン。
酒がマズくなるではないか。
なんで、こんな汚い話をしてるわけ?」
老「そっちに話を持っていくのは、常にお前さまじゃろ。
わしは、“さがり”の話をしたいのじゃ」
み「要点を語れ」
老「関取の“さがり”は、なぜ固いのか?」
み「材質は……。
締込みと同じなんだよね」
老「左様じゃ」
み「てことは、絹でしょ。
何で固いの?」
老「あのな……。
すでに、読者のほとんどが、そのわけに気づいとると思うが」
み「そんなバカな!
わたしがバカみたいじゃん」
律「そうなんじゃない?」
み「失敬な!
バカではなく……。
罪のない酔っぱらいじゃ」
律「威張るな」
み「それじゃ、先生もわかったっての?
“さがり”が固いわけ」
律「たぶん読者は……。
“さがり”が持ち出された時点で気づいてるはず。
“さがり”は、布海苔で固めるんです」
み「なんですとー」
律「素っ頓狂な声、出さないで!」
み「ふっふっふ。
わたしだって、わかっておったよ。
しかし!
この“なんですとー”が言いたいばっかりに……。
ボケておったのじゃ」
律「ウソ言いなさい」
み「懐かしいのぅ。
うな丼くん。
受験の時期になると、思い出すよ」
律「今、10月ですけど」
み「え゛。
ま、いいじゃない。
ささ。
マスミン、続けてちょうだい」
律「誤魔化すんだから」
老「布海苔を煮て溶かすと……」
老「細胞壁を構成する多糖類がゾル化し……。
ドロドロの糊状になる」
み「てことは……。
“海苔”が“糊”に変じるってことね?
言ってること、わかる?」
老「面白いことを言うの。
マイナス9万9千999点に格上げじゃ」
み「たった、1点かい!」
老「1点を笑うものは、1点に泣く」
律「プラ転までのは、遙かな道のりね」
み「納得いかん」
老「それでは、この布海苔が、小千谷縮のどの工程で使われるか……。
もうわかったじゃろ?」
律「わかりましたわ!
布海苔の糊で、横糸をくっつけて……。
撚りが戻らないようにするんですね」
老「見事、正解です。
99点に格上げです」
み「何じゃそりゃ!」
老「布海苔から作られる糊の特徴は……。
接着力が、あまり強くないことにある」
み「なーんだ。
使えない糊じゃん」
老「真逆じゃよ。
そういう糊だからこそ……。
横糸の糊付けに使えるのじゃ」
み「なんで?」
老「布が織りあがった後には……。
接着力は、消えて無くならねばならんからの」
律「撚りが戻らなければ、縮の皺が出来ませんものね」
老「左様です。
織りあがった布は、お湯の中で揉み洗いされる。
この作業を、“湯揉み”と呼ぶ」
み「♪草津よいとこ~」
律「違うでしょ!」
老「つまり、縮織に使う糊は……。
接着剤のように永続性があるものでは、いかんのじゃ。
綺麗さっぱり、洗い流せる糊で無いとな」
律「だから……。
布海苔が使われたんですね」
老「左様です。
すなわち、小千谷にはもともと……。
布海苔を、“糊”として使う産業があったというわけじゃ」
律「なるほど」
老「布海苔の粘着力を知っていたとなれば……」
老「これを、蕎麦の繋ぎに使ってみようという発想の転換は……。
さほど突飛なものではなかったのではないかな。
布海苔はもともと、食べられる海藻なんじゃからな」
み「なるほろ!」
律「あんた、もう舌が回ってないんだけど」
み「小千谷の蕎麦に、布海苔が使われれようになった経緯はわかった。
ひかひ!」
律「ひかひ?」
み「しかひ!
どうして、この助平蕎麦にも、布海苔が使われているのか!
それがわからん」
律「お蕎麦の名前が違ってるでしょ」
み「何だっけ?」
律「弥太郎蕎麦」
み「違う気がする」
律「助平蕎麦より近いわよ。
寄り道ばっかりしてるから、わかんなくなっちゃったじゃない。
読者だって、きっと覚えてないわ」
老「弥助蕎麦ですな」
み「ほれほれ!」
律「それそれ?」
老「弥助が、大阪の砂場で、蕎麦打ちの修行をして来たと云うことは……。
覚えておるか?」
律「もちろんですわ。
砂場蕎麦も、布海苔を使うんですか?」
老「使いませんな」
み「にゃにっ」
み「使わぬとな」
老「使わんな」
律「じゃ、どうして……」
老「修行を終えた弥助は……。
また、北前船に便乗して秋田へ帰ったのじゃろ」
老「しかし……。
生来の放浪癖じゃ。
とうてい、真っ直ぐ帰ったとは思えん。
船が港に着けば、下りたくなったじゃろうな」
律「なるほど。
それじゃ、小千谷の近くでも?」
老「北前船は、柏崎の港にも入ります」
律「港で、小千谷の蕎麦の話でも聞きつけたのかも知れませんね」
老「大いにあり得ます。
柏崎から小千谷は、20キロほどですからな」
律「へー。
弥助というひとりの風来坊のおかげで……。
大阪の砂場蕎麦と、小千谷の布海苔蕎麦が合体して……。
不思議なお蕎麦が出来たってわけですね」
律「でも、なんで“冷がけ”になったんでしょ?」
老「それは……。
永遠に解明できない謎かも知れませぬな」
み「わたひ、わかる!」
律「ウソ言いなさい」
み「弥助はね……。
猫ひただったの」
律「猫又?」
み「ネコヒタっ」
律「わからん女ね。
あ、ひょっとして、猫舌?」
み「わからん女はホマエじゃ。
ふんとにもう……」
律「ちょっと、Mikiちゃん!
あんた、何やってんの!
お猪口に、お蕎麦なんか漬けて!
ざる蕎麦じゃないのよ!」
律子先生の声が、だんだん遠くなり……。
わたしの意識は、薄れて行きました。
頭の片隅に……。
菅江真澄翁の高笑いが、微かに聞こえたような……。
『また、どこかで会おうぞ』
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●10月10日(日)3日目
律「Mikiちゃん。
いい加減、起きなさいよ」
み「う~ん」
律「こういうのを、寝穢い(いぎたない)って云うのよね。
鼻つまんでやろうっと」
律「どうだ。
まだ、起きないか」
み「ふ、ふが!
ふがふがふが」
律「頑張るわね。
口も塞いだらどうかしら?」
み「うっ。
ぐぐぐぐぐ……。
ぐふぁっ。
はぁ、はぁ」
律「やっと目が覚めた?」
み「こ、殺される夢を見た」
律「寝覚めが悪くて、残念ね」
み「ここ、どこ?」
律「ホテルに決まってるでしょ」
み「明るい……」
律「朝だからね」
み「あの……。
記憶が……」
律「そうでしょうね」
み「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
律「何よ?」
み「ゆ、浴衣に……。
き、着替えさせられてるぅぅぅ」
律「しかも、着衣が乱れてる!
ほれ、こんなに胸がはだけて」
み「自分で開くな!」
み「まさか……、先生。
わたしが抵抗できないのをいいことに……。
力づくで……。
じ、自分のものに……」
律「してません」
み「なんでしないの?」
律「誰がするか。
服は、自分で脱いだのよ」
み「わたしが?」
律「そうよ。
一騒動だったけどね。
パンツの上から帯締めて……」
律「仕切りを始めたりね」
み「そ、そんなこと……。
わたしがするわけないじゃん。
話作らないでよ」
律「したの。
やっとこさ部屋に運びこんだ途端、元気になるんだから……。
腹が立つのなんの」
み「漁屋酒場から、どうやって帰ってきたの?」
律「タクシーに決まってるでしょ。
お店で潰れちゃったんだから。
あのおじいさんに手伝ってもらって……。
ようやく押しこんだのよ」
み「ホテルに帰ってからは、どうしたの?」
律「歩けそうにないから……。
ホテルの人に手伝ってもらったわよ。
ちょうど、女性スタッフがいて助かったわ。
ようやく部屋に運びこんだと思ったら……。
突如立ち上がって、服脱ぎ散らかしてさ」
み「ウソ……」
律「ホントです。
浴衣に着替えるのかと思ったら……。
帯で廻し締めて、四股踏みはじめたのよ」
律「しかも、片足上げるごとにひっくり返ってさ……」
律「そのたんびに、ケラケラ笑うんだから。
射殺しようかと思ったわよ」