2012.3.3(土)
律「白いお酒ね」
み「マッコリかな?」
み「あれは、飛良泉のどぶろくじゃな」
み「いくら?」
老「これも180mlボトルで、600円」
み「う。
こいつもまた、厳しい値段……。
マッコリなら、1リットル飲めるぜ」
み「大吟醸は、半分マスミンに出してもらったから……。
490円で済んだからね。
ひとりで600円は……。
キビシ~」
律「何よそれ?」
み「知らないの?
有名なギャグだよ」
律「テレビ見ないから」
み「最近のギャグじゃないって。
知らない、財津一郎?」
律「チューリップの?」
み「それは、財津和夫!
もう、既定路線でボケるんだから。
どう?
一口、乗らない?」
律「また、五勺酒?」
↑この寸法、間違ってることが判明しました(正しい寸法は、後で出てきます)
み「左様じゃ」
律「みみっちいわね」
み「そんならおごって」
律「やなこった。
でも……。
ちょっと興味あるな」
み「でしょ。
どぶろくって、強いのかな?」
律「名前からして、強そうじゃない」
み「でも、マスミン。
たしか、どぶろくとマッコリって同じみたいなこと言ってたよね」
老「そうじゃな」
み「じゃ、どぶろくの度数も、マッコリくらい?」
律「マッコリって、ビールくらいよね」
老「いやいや。
ぜんぜん違う。
どぶろくの度数は、日本酒と同じくらいじゃ。
飛良泉のどぶろくは、もっと高く……。
17~8度はある」
↑これは、大吟醸の“おリ”をブレンドした生酒
老「マッコリと同じ気で飲んだら、大変なことになるぞ」
↑この人、帰れたんでしょうか?
み「やっぱり強いのか。
味は、どうなの?
マッコリみたいに酸っぱいわけ?」
老「酸っぱくは無いな」
み「なんだよ。
結局似てるのは、見た目だけじゃん。
そもそもさ……。
マッコリってのは、乳酸菌が入ってるから、酸っぱいわけよね?」
老「ふむふむ」
み「でも、日本酒にも入ってるわけよね。
乳酸菌がいなくちゃ、お酒の“もと”が出来ないって言ってたよね?」
老「左様じゃ。
よく覚えておったの」
み「まだそこまで酔ってないわい。
どうして日本酒は、酸っぱくないわけ?」
老「それはな……。
製品化される段階では、乳酸菌が存在しないからじゃよ」
み「なんでよ!
さっきまでいたじゃん」
み「蔵の中に棲んでるヤツを取りこんだり……。
“速醸もと”では、わざわざ投入したりするんでしょ?」
老「よく覚えてるの」
み「ビールと酒1合で酔っぱらうかい」
老「オナゴが、そんなことで威張るでない」
み「あ、わかった!
“火入れ”でしょ?」
み「乳酸菌を、茹で殺すんだね?」
老「それなら、日本酒の“生酒”は酸っぱいことになってしまうぞ」
み「……酸っぱく、ないわけね」
老「“生酒”にも、乳酸菌はいないのじゃ」
み「なんでよ?
まさか……。
殺菌剤でも入れてるんじゃないでしょうね?」
老「馬鹿なことを言うでない。
乳酸菌は、ひとりでに死んでしまうんじゃよ」
み「どうして?」
老「アルコールに弱い」
み「うそだー。
だって、マッコリには生きてるでしょ」
老「じゃから、マッコリは度数が低いじゃろ」
み「へ?」
老「発酵が進み……。
アルコール度数が上がると、乳酸菌は死滅するんじゃよ。
マッコリは、まだ乳酸菌が生きてる段階で製品化したものじゃ」
み「どひゃー。
こりゃ知らなんだ。
じゃ、マッコリの発酵を進めると……。
乳酸菌が死んじゃって、酸っぱくなくなるってこと?」
老「そういうことになる。
乱暴な言いまわしになるが、それがどぶろくというわけじゃ」
老「さらにそれを沈殿濾過させれば、清酒になる」
※↑このへんの記述は、かなりいい加減です。間違ってる可能性大。HQ氏が訂正してくださるでしょう。
み「ふーん。
なんか、興味出てきた。
先生、ほんとに飲んでみない?
マッコリの進化形」
律「そうね。
18度あるんなら、5勺でもいいか」
↑前に掲げた五勺枡の寸法は間違いで、こっちが正解です。
み「店員さーん。
ちょっとちょっと。
あなた今、目を逸らそうとしなかった?
気のせいです?
ほんまかー?」
み「まあいいわ。
それじゃ、飛良泉の“どぶろく”を下さいな」
店「何本お持ちしましょう?」
み「こんなの何本も飲んだら、ひっくり返っちゃうでしょ。
1本です。
でも……。
隣の品のいいおじいさんの機嫌によっては……。
2本になるかも?
ねぇ、マ~スミ~ン」
老「気色悪い声を出すでない」
み「♪こっち向いて」
老「歌い出すでない」
み「くっそー。
乗ってこないわけね。
けちー」
み「じゃ、店員さん。
どうやら、因業じいさんの財布は緩まないみたいだから……」
老「誰が因業じゃ」
み「1本だけね。
悪いわねー。
1本くらいで呼びつけちゃって」
店「いいえ、ぜんぜん」
み「本音で言ってる?」
店「は、はい」
律「Mikiちゃん、絡まないの」
み「あと、グラスも2つ持ってきてちょうだい。
わたしのグラスは空だけど……。
隣の美人の先生のグラスには、まだ秋田泉が残ってるでしょ」
み「きっとこのグラスの残り、わたしに分けてくれると思うの。
だから、どぶろく用に、新しいグラスが欲しいのよ」
店「かしこまりました」
律「勝手に筋立てしないでちょうだい。
ちょっと!
お鍋、もういいんじゃないの?」
み「そうだった!
煮立ってるよ」
み「マスミンのウンチクが長すぎるからだよ」
老「人のせいにするでない。
自分らの鍋であろう。
ほれ、早うセリを入れなさい」
み「人の鍋に、口を挟まないでちょうだい。
あげませんからね。
先生、早く、セリセリ」
律「もー。
指図ばっかりして。
女の子は、率先してやるものよ」
み「酒が入った状態で、そういうことをしようとすると……。
必ずしくじるのじゃ」
律「酔っぱらいのブッキーじゃねー。
しかたない。
ひっくり返されでもしたらタイヘン」
律「ほら、セリが入りましたよ」
律「う~ん、いい匂い。
わたしが取ってあげるから、手を出すんじゃないわよ」
み「くそー、先に食べる気だな」
律「食べませんって。
ほら、美味しそうな鶏肉」
み「ネギ、ちゃんと火が通ってる?」
律「もう、シナシナよ」
み「ネギも入れて」
律「はいはい。
セリは?」
み「比内地鶏を入れて」
律「もう入ってるって」
み「もうひとつ」
律「はいはい」
み「そのキノコも入れて」
律「これ?
何てキノコだっけ?」
み「マスミン、何だっけ?」
老「舞茸じゃ」
律「大きいわ、これ。
ほら、みんな手をつないでる」
み「輪になって踊ってるみたいだから……。
舞茸って言うのかな?」
律「食べた人が踊りだすからじゃない?」
み「それじゃ、毒キノコだろ!」
老「昔は、滅多に採れない”幻”のきのこじゃった。
で、見つけた人は喜びのあまり踊りだすことから……」
老「舞茸と呼ばれた」
み「踊り出すほど嬉しいわけ?
スーパーで、普通に売ってますけど」
老「それは、人工栽培に成功してからの話じゃ」
み「いつのこと?」
老「1970年代の半ばじゃな」
み「へー、案外最近なんだ」
老「加熱しても目減りせず、歯応えも残るから、便利な食材じゃよ」
↑『炊飯器で舞茸とベーコンのバター醤油ピラフ』
み「踊りだすほどウマイものとも思えんけどね」
律「じゃ、入れない」
み「入れて!」
律「大きすぎて入んないわよ。
もう、てんこ盛りじゃない。
こっちの小さいヤツ、入れてあげる。
ほら、これで食べなさい」
み「ちぇ~。
舞茸、ぜんぶ食べないでよ」
律「キノコばっかり食べてたまりますか」
店「お待ちどうさまでした~」
↑これは180mlではありません
み「おー、どぶろくが来たー」
律「熱いきりたんぽ鍋に、冷たいどぶろく。
合いそうね」
み「合わいでか。
どぶろく、注いで」
律「そのくらい、自分でやりなさい!」
み「もう。
怒らいでもいいでしょ。
ちぇ、どぶろくの手酌酒か。
おー、下の方に白いのが沈殿してる」
み「マスミン、これって、混ぜていいんだよね」
老「よく混ぜてからお飲み下さい」
み「効能書きか。
それじゃ……。
シャカシャカ」
↑あまり激しく振ると、人間まで分離します
老「これ!
シェーカーじゃあるまいし、もっと穏やかに揺らしなさい」
↑これはショッカー
み「混ざれば一緒でしょ。
そんじゃま、グラスに注いで……」
律「早く飲んでみて」
み「ひょっとして……。
毒見させてない?」
律「そんなら、わたしが飲むからよこしなさい」
み「やだー」
律「体で隠すな」
律「卑しい子ね」
み「じゃ、飛良泉のどぶろく、いただきます。
……」
律「どう?」
み「美味しい。
口当たりがいいよ」
律「どれどれ。
わたしにもちょうだいよ。
半分出したんだからね」
み「わたしがお酌してあげる」
律「零すからいいわよ」
み「そこまで酔っておらんわい」
律「それじゃ、お注ぎいただきましょうか」
み「はい、どうぞ」
律「ちょっと!
5ミリしか注いでないじゃないの。
小学生みたいなこと、やめてちょうだい」
み「毒見用よ。
口に合ったら、また注いであげるんじゃない」
律「あら、それは失礼しました。
どれどれ。
ほんとだ。
美味しいわ、これ。
もっとちょうだい」
み「……」
律「こら!
聞こえないフリするな!」
律「そんならいいわよ。
きりたんぽ鍋の方、先にいただくから」
み「ダメー。
これは、わたしによそってくれたんでしょ。
お箸出さないで!
比内地鶏の一番もわたしなの!
いっただきまーす」
み「はが!
はがががが」
律「吐き出すな!」
み「あぢぃ、あぢぢぢぢぢ。
お、おのれ。
わたしが猫舌と知っての謀略か」
律「自分で勝手に食べたんじゃないのよ。
猫舌忘れてかぶりつくんだから、卑しさもここに極まれりだわ」
み「み、水」
律「お冷や、もらおうか?」
み「間に合わないから、これでいい」
律「ちょっと!
それ、どぶろくじゃないの!」
み「うっ。
濃いー」
律「あたりまえでしょ。
あきれた女ね。
もう、五勺以上飲んだじゃないの。
残りはあたしのだから、飲まないでよね」
み「まだ舌がビリビリするんですけど」
律「ビール頼んだら?」
み「こんなとこでビール飲んだら……。
お腹いっぱいになって、割り勘負けするだろ」
律「つくずく……。
志が低いと言うか……」
み「余計なお世話じゃ」
律「ところで、どうなのよ?
比内地鶏のお味は?」
み「味わう前に吐き出しちゃったもん。
どれどれ、もう一度」
律「出したやつを食うな!」
み「そう言えば、お昼の『石焼き鍋』も、出してたな」
律「牛か、おまえは」
律「↑こんなに可愛らしくないでしょ!」
み「自分が吐き出したんだから、汚くないもんねー。
あ、美味し~。
先生も食べてごらん。
ほれ、あ~ん」
律「出したやつは、いりません!
こっちをいただくわ」
み「あ~。
人の器から勝手に取った!」
律「ほんとだ。
これは、美味しいわね。
煮過ぎたと思ったけど……。
固くなってない」
老「それが、比内地鶏の特徴のひとつじゃな。
加熱しても、固くなりすぎることが無いんじゃ。
もちろん、適度な歯ごたえもある」
み「やっぱり、ブロイラーとは違う感じだよね。
味が濃いもの」
老「濃厚な脂の旨味もまた、特徴のひとつじゃな」
律「おネギにスープが染みて、美味しいこと」
律「レンジでチンするだけの手抜き鍋とは大違い」
み「それは、誰のことを言っておるのだ」
律「ほら、お皿が空いたら、舞茸入れてあげるわよ」
み「おー。
レンジでチンには、これも入ってなかった」
律「プリプリして美味しそうよ。
早く食べてごらんって」
み「まーた、味見させようとしてるな。
毒キノコじゃないんだからね」
律「わかってるわよ。
そんなら、わたしが食ーべよっと」
み「ダメー。
わたしが先!
ふがっ。
ふがっ」
律「また、出す!
どうして出すのよ」
み「あぢぢぢぢぢ。
おのれ……。
また熱いことを知ってて勧めたな」
律「お鍋から取ったばかりなんだから、熱くてあたりまえでしょ」
み「くそー。
どぶろく、ちょうだい」
律「ダメよ。
残りは、あたしのなんだから」
み「舌がビリビリするぅ」
律「だから、“お冷や”もらえば?」
↑カレーのスプーンは、なぜ“お冷や”に入って出てくるのか?
み「やだ。
水なんか飲んだら、割り勘負けする」
律「はぁ。
そこまで意地汚いと、逆に感心するわね。
じゃ、もう1本、どぶろく頼めば?
もちろん、自腹よ」
↑有名な最中のようです
み「くっそー」
老「おまえさんは、ちょっとピッチが早過ぎるようじゃ。
お酒でなく、食べ物の冷たいものを頼めば良いのではないか」
み「なるほど。
さすが、年の功」
↑亀仙人のそっくりさんが、タミルにいた!
み「どんなのがあるの?」
老「蕎麦なんかどうじゃ?」
み「お蕎麦か」
み「なんか、もう仕上げみたいじゃない」
老「いやいや。
蕎麦を肴に飲むってのも、粋なもんじゃぞ」
み「なるほど。
ちょっと、小説家っぽいかも。
着流しで、ひょいと蕎麦屋の暖簾をくぐるわけか」
み「で、お銚子と蕎麦を頼むんだね」
律「いつの時代の小説家よ」
み「小説家っていうより……。
文士って感じかな」
み「うん、気に入った。
お蕎麦は何が似合うかな?
そうだな……。
鴨南蛮とか?」
律「熱いお蕎麦頼んでどうすんのよ。
舌を冷やすんでしょ」
み「あ、そうか。
冷たい蕎麦って、何だろ?」
律「ざる蕎麦とか?」
み「そうか。
天ざるだ」
↑埼玉県久喜市「奥会津」の『海老・穴子 天ざる蕎麦(大盛り)』1,470円
み「天ぷらをツマミに飲めばいいんだ。
よし、天ざる一丁!」
老「そんなものは、置いとらんわ。
わしがすすめるのは、『ひやがけ』と云ってな……。
冷たい汁を掛けた蕎麦があるんじゃよ」
み「ふーん。
ここらの名物?」
老「西馬音内(にしもない)に、『弥助蕎麦屋』という店がある」
老「創業は、文政元年(1818年)。
秋田出身の漫画家、矢口高雄氏の漫画にも出てくる名店じゃ」
み「矢口高雄って、『釣り吉三平』の?」
老「左様じゃ」
み「よし、乗った」
律「わたしも!」
み「先生は猫舌じゃないでしょ」
律「わたし、隣でお蕎麦食べられると、我慢出来ないのよ」
み「好きなの?」
律「大好き」
↑そういえば、湯布院の金鱗湖にもいました。蕎麦を食うガチョウ。
み「店員さ~ん。
ちょっと、あなた。
おどおどしながら寄ってくることないじゃない。
取って食おうってんじゃないんだからさ。
いいこと。
注文しますよ。
お蕎麦を2つね。
なんとか蕎麦屋のやつ。
なんだっけ?
弥太郎蕎麦?」
律「与太郎じゃなかった?」
み「それじゃ、落語だろ」
律「与次郎?」
み「猿回しだろ!」
み「え?
弥助です?
それよ、それ。
さすが、良く知ってるじゃない。
その、冷たいやつね。
間違っても、熱いお蕎麦持ってこないでよ。
舌を冷やすために食べるんだから。
え?
冷たいお蕎麦しかありません?
あら、そうなの?」
老「『弥助蕎麦屋』には、温かい蕎麦は置いてないのじゃ」
み「へー。
変わった蕎麦屋だね」
老「この蕎麦屋には謂われがあってな」
み「ほー。
ってことは、また語りたいわけね。
お蕎麦が出るまでにしてちょうだいよ。
あ、店員さん、ちょっと待った。
お酒も注文します」
律「また、どぶろく?」
み「いえいえ。
冷たいお蕎麦と来れば……。
徳利でしょ。
これこれ。
飛良泉の大徳利。
850円」
み「先生も、半分飲むよね?
ね。
大徳利は2合入りだから、半分こしても1合あるよ」
律「1合で、425円か。
これなら、許容範囲ってわけね」
み「500円切ると、なぜか許容範囲に思える」
律「単純なヤツ」
み「じゃ、いいわね。
店員さん、それじゃ復唱しますよ。
まず、冷たいお蕎麦ね。
『早駆け』」
み「え?
『ひやがけ』です?
それよ、それ。
それ2つと……。
飛良泉の大徳利をひとつね。
うーむ、今さらながら思いついたが……。
この、復唱ってパターンはいいよな。
行が稼げる」
律「なに独りごと言ってんのよ」
店「お猪口は、いくつお持ちしましょう?」
み「いくつお持ちしてもタダなわけね?」
店「はい」
み「そんなら……。
100万個くらい、持ってきてくださる?」
律「Mikiちゃん!
すみません、酔っぱらいで。
お猪口は、3つお願いします」
み「何で3つなのよ?」
律「お隣にもお裾分けしなきゃならないでしょ。
これからまた、お話してくださるんだから」
み「マスミン、遠慮しなさい」
老「家訓により……。
勧められた酒を断ることは、固く禁じられておる」
み「ウソこけ!
まぁ、いいや。
ただし、お猪口の底に、2ミリだけね」
律「セコイこと言うんじゃないの」
み「話が面白かったら、注ぎ足してやる。
早く、語りんしゃい」
老「どこの言葉じゃ?」
み「蕎麦が来る前に語り終えよ」
老「それでは、先を急ぎ申そう。
今から200年と少し前、江戸時代後期のことじゃ。
寛政年間(1789~1800)の終わりころになる」
↑「和暦西暦相互変換」というフリーソフト。結構便利です。
老「西馬音内(にしもない)に、弥助という少年がおった」
み「たんま。
まず、その“にしもない”ってどこよ?
“西も無い”なら“東も無い”わけ?」
老「だいぶ回ってきたのではないか?」
老「“にし”は確かに、東西の西じゃが……。
“もない”は、少し変わった字を書く。
動物の“馬”に、音楽の“音”、内外の“内”で、“もない”と読ませる。
当て字じゃろうがの」
み「なんで?」
老「最後に付いた、“内(ない)”じゃよ。
これは、明らかにアイヌ語じゃな」
老「秋田には、毛馬内(けまない)という土地もある」
老「お尻に“内(ない)”の付く地名は、アイヌ語である可能性が高いんじゃ」
↑北海道の札沼線(学園都市線)「石狩当別ー新十津川間」にある駅
老「アイヌ語で“ナイ(nay)”は、川を意味するからの」
老「北海道には……。
岩内(いわない)、木古内(きこない)、歌志内(うたしない)、稚内(わっかない)……」
老「山ほどあるぞ」
み「川も、山ほどあるって云うのか?」
律「茶々入れないの」
↑新潟の一口饅頭(1個10円です)
老「馬音内(もない)は、真ん中に“音”が入っておるから……。
元々は、“まおんない”とでも呼ばれた地名じゃろうな」
み「“まおんない”が詰まって、“もない”に変化したってわけね」
老「そうじゃ」
み「マッコリかな?」
み「あれは、飛良泉のどぶろくじゃな」
み「いくら?」
老「これも180mlボトルで、600円」
み「う。
こいつもまた、厳しい値段……。
マッコリなら、1リットル飲めるぜ」
み「大吟醸は、半分マスミンに出してもらったから……。
490円で済んだからね。
ひとりで600円は……。
キビシ~」
律「何よそれ?」
み「知らないの?
有名なギャグだよ」
律「テレビ見ないから」
み「最近のギャグじゃないって。
知らない、財津一郎?」
律「チューリップの?」
み「それは、財津和夫!
もう、既定路線でボケるんだから。
どう?
一口、乗らない?」
律「また、五勺酒?」
↑この寸法、間違ってることが判明しました(正しい寸法は、後で出てきます)
み「左様じゃ」
律「みみっちいわね」
み「そんならおごって」
律「やなこった。
でも……。
ちょっと興味あるな」
み「でしょ。
どぶろくって、強いのかな?」
律「名前からして、強そうじゃない」
み「でも、マスミン。
たしか、どぶろくとマッコリって同じみたいなこと言ってたよね」
老「そうじゃな」
み「じゃ、どぶろくの度数も、マッコリくらい?」
律「マッコリって、ビールくらいよね」
老「いやいや。
ぜんぜん違う。
どぶろくの度数は、日本酒と同じくらいじゃ。
飛良泉のどぶろくは、もっと高く……。
17~8度はある」
↑これは、大吟醸の“おリ”をブレンドした生酒
老「マッコリと同じ気で飲んだら、大変なことになるぞ」
↑この人、帰れたんでしょうか?
み「やっぱり強いのか。
味は、どうなの?
マッコリみたいに酸っぱいわけ?」
老「酸っぱくは無いな」
み「なんだよ。
結局似てるのは、見た目だけじゃん。
そもそもさ……。
マッコリってのは、乳酸菌が入ってるから、酸っぱいわけよね?」
老「ふむふむ」
み「でも、日本酒にも入ってるわけよね。
乳酸菌がいなくちゃ、お酒の“もと”が出来ないって言ってたよね?」
老「左様じゃ。
よく覚えておったの」
み「まだそこまで酔ってないわい。
どうして日本酒は、酸っぱくないわけ?」
老「それはな……。
製品化される段階では、乳酸菌が存在しないからじゃよ」
み「なんでよ!
さっきまでいたじゃん」
み「蔵の中に棲んでるヤツを取りこんだり……。
“速醸もと”では、わざわざ投入したりするんでしょ?」
老「よく覚えてるの」
み「ビールと酒1合で酔っぱらうかい」
老「オナゴが、そんなことで威張るでない」
み「あ、わかった!
“火入れ”でしょ?」
み「乳酸菌を、茹で殺すんだね?」
老「それなら、日本酒の“生酒”は酸っぱいことになってしまうぞ」
み「……酸っぱく、ないわけね」
老「“生酒”にも、乳酸菌はいないのじゃ」
み「なんでよ?
まさか……。
殺菌剤でも入れてるんじゃないでしょうね?」
老「馬鹿なことを言うでない。
乳酸菌は、ひとりでに死んでしまうんじゃよ」
み「どうして?」
老「アルコールに弱い」
み「うそだー。
だって、マッコリには生きてるでしょ」
老「じゃから、マッコリは度数が低いじゃろ」
み「へ?」
老「発酵が進み……。
アルコール度数が上がると、乳酸菌は死滅するんじゃよ。
マッコリは、まだ乳酸菌が生きてる段階で製品化したものじゃ」
み「どひゃー。
こりゃ知らなんだ。
じゃ、マッコリの発酵を進めると……。
乳酸菌が死んじゃって、酸っぱくなくなるってこと?」
老「そういうことになる。
乱暴な言いまわしになるが、それがどぶろくというわけじゃ」
老「さらにそれを沈殿濾過させれば、清酒になる」
※↑このへんの記述は、かなりいい加減です。間違ってる可能性大。HQ氏が訂正してくださるでしょう。
み「ふーん。
なんか、興味出てきた。
先生、ほんとに飲んでみない?
マッコリの進化形」
律「そうね。
18度あるんなら、5勺でもいいか」
↑前に掲げた五勺枡の寸法は間違いで、こっちが正解です。
み「店員さーん。
ちょっとちょっと。
あなた今、目を逸らそうとしなかった?
気のせいです?
ほんまかー?」
み「まあいいわ。
それじゃ、飛良泉の“どぶろく”を下さいな」
店「何本お持ちしましょう?」
み「こんなの何本も飲んだら、ひっくり返っちゃうでしょ。
1本です。
でも……。
隣の品のいいおじいさんの機嫌によっては……。
2本になるかも?
ねぇ、マ~スミ~ン」
老「気色悪い声を出すでない」
み「♪こっち向いて」
老「歌い出すでない」
み「くっそー。
乗ってこないわけね。
けちー」
み「じゃ、店員さん。
どうやら、因業じいさんの財布は緩まないみたいだから……」
老「誰が因業じゃ」
み「1本だけね。
悪いわねー。
1本くらいで呼びつけちゃって」
店「いいえ、ぜんぜん」
み「本音で言ってる?」
店「は、はい」
律「Mikiちゃん、絡まないの」
み「あと、グラスも2つ持ってきてちょうだい。
わたしのグラスは空だけど……。
隣の美人の先生のグラスには、まだ秋田泉が残ってるでしょ」
み「きっとこのグラスの残り、わたしに分けてくれると思うの。
だから、どぶろく用に、新しいグラスが欲しいのよ」
店「かしこまりました」
律「勝手に筋立てしないでちょうだい。
ちょっと!
お鍋、もういいんじゃないの?」
み「そうだった!
煮立ってるよ」
み「マスミンのウンチクが長すぎるからだよ」
老「人のせいにするでない。
自分らの鍋であろう。
ほれ、早うセリを入れなさい」
み「人の鍋に、口を挟まないでちょうだい。
あげませんからね。
先生、早く、セリセリ」
律「もー。
指図ばっかりして。
女の子は、率先してやるものよ」
み「酒が入った状態で、そういうことをしようとすると……。
必ずしくじるのじゃ」
律「酔っぱらいのブッキーじゃねー。
しかたない。
ひっくり返されでもしたらタイヘン」
律「ほら、セリが入りましたよ」
律「う~ん、いい匂い。
わたしが取ってあげるから、手を出すんじゃないわよ」
み「くそー、先に食べる気だな」
律「食べませんって。
ほら、美味しそうな鶏肉」
み「ネギ、ちゃんと火が通ってる?」
律「もう、シナシナよ」
み「ネギも入れて」
律「はいはい。
セリは?」
み「比内地鶏を入れて」
律「もう入ってるって」
み「もうひとつ」
律「はいはい」
み「そのキノコも入れて」
律「これ?
何てキノコだっけ?」
み「マスミン、何だっけ?」
老「舞茸じゃ」
律「大きいわ、これ。
ほら、みんな手をつないでる」
み「輪になって踊ってるみたいだから……。
舞茸って言うのかな?」
律「食べた人が踊りだすからじゃない?」
み「それじゃ、毒キノコだろ!」
老「昔は、滅多に採れない”幻”のきのこじゃった。
で、見つけた人は喜びのあまり踊りだすことから……」
老「舞茸と呼ばれた」
み「踊り出すほど嬉しいわけ?
スーパーで、普通に売ってますけど」
老「それは、人工栽培に成功してからの話じゃ」
み「いつのこと?」
老「1970年代の半ばじゃな」
み「へー、案外最近なんだ」
老「加熱しても目減りせず、歯応えも残るから、便利な食材じゃよ」
↑『炊飯器で舞茸とベーコンのバター醤油ピラフ』
み「踊りだすほどウマイものとも思えんけどね」
律「じゃ、入れない」
み「入れて!」
律「大きすぎて入んないわよ。
もう、てんこ盛りじゃない。
こっちの小さいヤツ、入れてあげる。
ほら、これで食べなさい」
み「ちぇ~。
舞茸、ぜんぶ食べないでよ」
律「キノコばっかり食べてたまりますか」
店「お待ちどうさまでした~」
↑これは180mlではありません
み「おー、どぶろくが来たー」
律「熱いきりたんぽ鍋に、冷たいどぶろく。
合いそうね」
み「合わいでか。
どぶろく、注いで」
律「そのくらい、自分でやりなさい!」
み「もう。
怒らいでもいいでしょ。
ちぇ、どぶろくの手酌酒か。
おー、下の方に白いのが沈殿してる」
み「マスミン、これって、混ぜていいんだよね」
老「よく混ぜてからお飲み下さい」
み「効能書きか。
それじゃ……。
シャカシャカ」
↑あまり激しく振ると、人間まで分離します
老「これ!
シェーカーじゃあるまいし、もっと穏やかに揺らしなさい」
↑これはショッカー
み「混ざれば一緒でしょ。
そんじゃま、グラスに注いで……」
律「早く飲んでみて」
み「ひょっとして……。
毒見させてない?」
律「そんなら、わたしが飲むからよこしなさい」
み「やだー」
律「体で隠すな」
律「卑しい子ね」
み「じゃ、飛良泉のどぶろく、いただきます。
……」
律「どう?」
み「美味しい。
口当たりがいいよ」
律「どれどれ。
わたしにもちょうだいよ。
半分出したんだからね」
み「わたしがお酌してあげる」
律「零すからいいわよ」
み「そこまで酔っておらんわい」
律「それじゃ、お注ぎいただきましょうか」
み「はい、どうぞ」
律「ちょっと!
5ミリしか注いでないじゃないの。
小学生みたいなこと、やめてちょうだい」
み「毒見用よ。
口に合ったら、また注いであげるんじゃない」
律「あら、それは失礼しました。
どれどれ。
ほんとだ。
美味しいわ、これ。
もっとちょうだい」
み「……」
律「こら!
聞こえないフリするな!」
律「そんならいいわよ。
きりたんぽ鍋の方、先にいただくから」
み「ダメー。
これは、わたしによそってくれたんでしょ。
お箸出さないで!
比内地鶏の一番もわたしなの!
いっただきまーす」
み「はが!
はがががが」
律「吐き出すな!」
み「あぢぃ、あぢぢぢぢぢ。
お、おのれ。
わたしが猫舌と知っての謀略か」
律「自分で勝手に食べたんじゃないのよ。
猫舌忘れてかぶりつくんだから、卑しさもここに極まれりだわ」
み「み、水」
律「お冷や、もらおうか?」
み「間に合わないから、これでいい」
律「ちょっと!
それ、どぶろくじゃないの!」
み「うっ。
濃いー」
律「あたりまえでしょ。
あきれた女ね。
もう、五勺以上飲んだじゃないの。
残りはあたしのだから、飲まないでよね」
み「まだ舌がビリビリするんですけど」
律「ビール頼んだら?」
み「こんなとこでビール飲んだら……。
お腹いっぱいになって、割り勘負けするだろ」
律「つくずく……。
志が低いと言うか……」
み「余計なお世話じゃ」
律「ところで、どうなのよ?
比内地鶏のお味は?」
み「味わう前に吐き出しちゃったもん。
どれどれ、もう一度」
律「出したやつを食うな!」
み「そう言えば、お昼の『石焼き鍋』も、出してたな」
律「牛か、おまえは」
律「↑こんなに可愛らしくないでしょ!」
み「自分が吐き出したんだから、汚くないもんねー。
あ、美味し~。
先生も食べてごらん。
ほれ、あ~ん」
律「出したやつは、いりません!
こっちをいただくわ」
み「あ~。
人の器から勝手に取った!」
律「ほんとだ。
これは、美味しいわね。
煮過ぎたと思ったけど……。
固くなってない」
老「それが、比内地鶏の特徴のひとつじゃな。
加熱しても、固くなりすぎることが無いんじゃ。
もちろん、適度な歯ごたえもある」
み「やっぱり、ブロイラーとは違う感じだよね。
味が濃いもの」
老「濃厚な脂の旨味もまた、特徴のひとつじゃな」
律「おネギにスープが染みて、美味しいこと」
律「レンジでチンするだけの手抜き鍋とは大違い」
み「それは、誰のことを言っておるのだ」
律「ほら、お皿が空いたら、舞茸入れてあげるわよ」
み「おー。
レンジでチンには、これも入ってなかった」
律「プリプリして美味しそうよ。
早く食べてごらんって」
み「まーた、味見させようとしてるな。
毒キノコじゃないんだからね」
律「わかってるわよ。
そんなら、わたしが食ーべよっと」
み「ダメー。
わたしが先!
ふがっ。
ふがっ」
律「また、出す!
どうして出すのよ」
み「あぢぢぢぢぢ。
おのれ……。
また熱いことを知ってて勧めたな」
律「お鍋から取ったばかりなんだから、熱くてあたりまえでしょ」
み「くそー。
どぶろく、ちょうだい」
律「ダメよ。
残りは、あたしのなんだから」
み「舌がビリビリするぅ」
律「だから、“お冷や”もらえば?」
↑カレーのスプーンは、なぜ“お冷や”に入って出てくるのか?
み「やだ。
水なんか飲んだら、割り勘負けする」
律「はぁ。
そこまで意地汚いと、逆に感心するわね。
じゃ、もう1本、どぶろく頼めば?
もちろん、自腹よ」
↑有名な最中のようです
み「くっそー」
老「おまえさんは、ちょっとピッチが早過ぎるようじゃ。
お酒でなく、食べ物の冷たいものを頼めば良いのではないか」
み「なるほど。
さすが、年の功」
↑亀仙人のそっくりさんが、タミルにいた!
み「どんなのがあるの?」
老「蕎麦なんかどうじゃ?」
み「お蕎麦か」
み「なんか、もう仕上げみたいじゃない」
老「いやいや。
蕎麦を肴に飲むってのも、粋なもんじゃぞ」
み「なるほど。
ちょっと、小説家っぽいかも。
着流しで、ひょいと蕎麦屋の暖簾をくぐるわけか」
み「で、お銚子と蕎麦を頼むんだね」
律「いつの時代の小説家よ」
み「小説家っていうより……。
文士って感じかな」
み「うん、気に入った。
お蕎麦は何が似合うかな?
そうだな……。
鴨南蛮とか?」
律「熱いお蕎麦頼んでどうすんのよ。
舌を冷やすんでしょ」
み「あ、そうか。
冷たい蕎麦って、何だろ?」
律「ざる蕎麦とか?」
み「そうか。
天ざるだ」
↑埼玉県久喜市「奥会津」の『海老・穴子 天ざる蕎麦(大盛り)』1,470円
み「天ぷらをツマミに飲めばいいんだ。
よし、天ざる一丁!」
老「そんなものは、置いとらんわ。
わしがすすめるのは、『ひやがけ』と云ってな……。
冷たい汁を掛けた蕎麦があるんじゃよ」
み「ふーん。
ここらの名物?」
老「西馬音内(にしもない)に、『弥助蕎麦屋』という店がある」
老「創業は、文政元年(1818年)。
秋田出身の漫画家、矢口高雄氏の漫画にも出てくる名店じゃ」
み「矢口高雄って、『釣り吉三平』の?」
老「左様じゃ」
み「よし、乗った」
律「わたしも!」
み「先生は猫舌じゃないでしょ」
律「わたし、隣でお蕎麦食べられると、我慢出来ないのよ」
み「好きなの?」
律「大好き」
↑そういえば、湯布院の金鱗湖にもいました。蕎麦を食うガチョウ。
み「店員さ~ん。
ちょっと、あなた。
おどおどしながら寄ってくることないじゃない。
取って食おうってんじゃないんだからさ。
いいこと。
注文しますよ。
お蕎麦を2つね。
なんとか蕎麦屋のやつ。
なんだっけ?
弥太郎蕎麦?」
律「与太郎じゃなかった?」
み「それじゃ、落語だろ」
律「与次郎?」
み「猿回しだろ!」
み「え?
弥助です?
それよ、それ。
さすが、良く知ってるじゃない。
その、冷たいやつね。
間違っても、熱いお蕎麦持ってこないでよ。
舌を冷やすために食べるんだから。
え?
冷たいお蕎麦しかありません?
あら、そうなの?」
老「『弥助蕎麦屋』には、温かい蕎麦は置いてないのじゃ」
み「へー。
変わった蕎麦屋だね」
老「この蕎麦屋には謂われがあってな」
み「ほー。
ってことは、また語りたいわけね。
お蕎麦が出るまでにしてちょうだいよ。
あ、店員さん、ちょっと待った。
お酒も注文します」
律「また、どぶろく?」
み「いえいえ。
冷たいお蕎麦と来れば……。
徳利でしょ。
これこれ。
飛良泉の大徳利。
850円」
み「先生も、半分飲むよね?
ね。
大徳利は2合入りだから、半分こしても1合あるよ」
律「1合で、425円か。
これなら、許容範囲ってわけね」
み「500円切ると、なぜか許容範囲に思える」
律「単純なヤツ」
み「じゃ、いいわね。
店員さん、それじゃ復唱しますよ。
まず、冷たいお蕎麦ね。
『早駆け』」
み「え?
『ひやがけ』です?
それよ、それ。
それ2つと……。
飛良泉の大徳利をひとつね。
うーむ、今さらながら思いついたが……。
この、復唱ってパターンはいいよな。
行が稼げる」
律「なに独りごと言ってんのよ」
店「お猪口は、いくつお持ちしましょう?」
み「いくつお持ちしてもタダなわけね?」
店「はい」
み「そんなら……。
100万個くらい、持ってきてくださる?」
律「Mikiちゃん!
すみません、酔っぱらいで。
お猪口は、3つお願いします」
み「何で3つなのよ?」
律「お隣にもお裾分けしなきゃならないでしょ。
これからまた、お話してくださるんだから」
み「マスミン、遠慮しなさい」
老「家訓により……。
勧められた酒を断ることは、固く禁じられておる」
み「ウソこけ!
まぁ、いいや。
ただし、お猪口の底に、2ミリだけね」
律「セコイこと言うんじゃないの」
み「話が面白かったら、注ぎ足してやる。
早く、語りんしゃい」
老「どこの言葉じゃ?」
み「蕎麦が来る前に語り終えよ」
老「それでは、先を急ぎ申そう。
今から200年と少し前、江戸時代後期のことじゃ。
寛政年間(1789~1800)の終わりころになる」
↑「和暦西暦相互変換」というフリーソフト。結構便利です。
老「西馬音内(にしもない)に、弥助という少年がおった」
み「たんま。
まず、その“にしもない”ってどこよ?
“西も無い”なら“東も無い”わけ?」
老「だいぶ回ってきたのではないか?」
老「“にし”は確かに、東西の西じゃが……。
“もない”は、少し変わった字を書く。
動物の“馬”に、音楽の“音”、内外の“内”で、“もない”と読ませる。
当て字じゃろうがの」
み「なんで?」
老「最後に付いた、“内(ない)”じゃよ。
これは、明らかにアイヌ語じゃな」
老「秋田には、毛馬内(けまない)という土地もある」
老「お尻に“内(ない)”の付く地名は、アイヌ語である可能性が高いんじゃ」
↑北海道の札沼線(学園都市線)「石狩当別ー新十津川間」にある駅
老「アイヌ語で“ナイ(nay)”は、川を意味するからの」
老「北海道には……。
岩内(いわない)、木古内(きこない)、歌志内(うたしない)、稚内(わっかない)……」
老「山ほどあるぞ」
み「川も、山ほどあるって云うのか?」
律「茶々入れないの」
↑新潟の一口饅頭(1個10円です)
老「馬音内(もない)は、真ん中に“音”が入っておるから……。
元々は、“まおんない”とでも呼ばれた地名じゃろうな」
み「“まおんない”が詰まって、“もない”に変化したってわけね」
老「そうじゃ」