2012.3.3(土)
み「何でピルは、薬局とかで売られないんだろ?」
コンドーム業界から、多額の政治献金でもあるのかね?」
律「ピルは、ホルモン剤だからね。
副作用がつきものなのよ。
やっぱり、医師の指導のもとで服用すべきね」

み「ふーん。
でもさ、ピルが自由に買えるようになったら……。
若い連中は、誰とでもやりまくるに違いないって……。
起たなくなったジイサン議員が法案を通さない、ってのもあるんじゃない?」

律「それは……。
いくらなんでも、うがちすぎでしょ。
実際、避妊具を装着しないでするのは、危険であることは確かだからね。
性病が蔓延する可能性もある」

み「なるほど。
エイズとかだったら、怖いよなぁ」

み「結局、『女性解放』って観点から見たら……。
人の意識も状況も、そのCM当時と、あんまり変わってない感じだね」
律「そうね。
うっかりすると今でも、そんなCM作っちゃうかもね」
み「見る方だって、ほとんどの人が、ぜんぜん不思議に思わないでさ……。
一部の人が騒ぎだして、初めて気づくんじゃないの?」
律「この35年間で……。
人の意識は、ほとんど進歩しなかったってことね」
み「そう言えばさ。
わたしの子供のころは……。
大人になったら、SFみたいな世界になると思ってたよ」

律「それ、わかる。
学習雑誌とかに、そういうイラスト出てたものね。
自家用車みたいな車が、空飛んでるやつ」

み「あったあった。
科学の進歩は、思ったより遅かったって感じだよね。
鉄腕アトムってさ……。
設定が、2003年なんだよ」

律「描かれたのは、いつごろ?」
み「1950年代じゃない?」
律「なるほど。
当時の日本人は……。
50年後の21世紀には、感情を持ったロボットが生まれると思ったわけか」

み「そゆこと」
律「あぁ、それにしても、いいお湯ね。
透けて見えないって、楽だわ」
み「楽?
隠さなくていいから?」
律「そうね。
でも、毛が無いのが恥ずかしいわけじゃないのよ。
楽な姿勢ってさ……。
端から見ると、だらしない姿勢なわけじゃない?」
み「今、どんな格好してるの?」
律「それが見えないから便利よね」
み「だから、どんな格好よ?」
律「普通にお尻つけてるわよ。
でも、両脚は長々伸ばして、開いてる」

み「どれどれ」
律「触るな!」
み「良いではないか、減るものではあるまいし」
律「なりませぬ!
でも、透明なお湯だったら……。
こんな格好できないわよ」
み「そうなの?
わたし、普通にしてたけど」
律「それは、たしなみが無さ過ぎ」
み「いいじゃん。
女しか見てないんだから」
律「矜持のないヤツ。
女の目で見られるからこそ、シャンとしなきゃならないのよ」

み「そんなもんかぁ。
女だけだと、だらしなくなるもんだよ。
先生は、女子校だった?」
律「ううん。
ずっと共学よ」
み「わたしもそうだったけどさ。
高校の更衣室、ヒドく無かった?
汚くて」

律「うちの学校は、そんなでも無かったと思うけど」
み「へ~。
躾のいい学校だね」
律「先生のチェックが厳しかったからね」
み「あ、そのせいかな。
うちは公立校で、制服も無かったからね。
試験の日なんか、セーターの下にパジャマ着てる女もいたよ」
律「試験が何で関係あるの?」
み「前の日、遅くまで試験勉強してるでしょ」

み「で、朝ギリギリだから、パジャマの上に重ね着して、そのまま出ちゃうんだよ」
律「それ、Mikiちゃんじゃないの?」
み「違います。
わたしは、夜遅くまで試験勉強なんか、しなかったから」
律「余裕じゃない」
み「諦めがいいの」
律「志が低いとも言うわね」
み「でも、足は高く上がるぞ。
ほれ!
シンクロナイズドスイミング」

律「やめなさい!」
み「ほれほれ。
見よ、この爪先。
草刈民代も真っ青」

み「こんな芸、透明なお湯では、ぜったいできんよな」
律「やったらヘンタイよ」
み「それじゃ……。
これはどうだっ!
ぶくぶくぶくぶく」

律「やめんか!」
み「あぶぶぶぶぶ。
ぶふぁ~!」
律「何よ、ヘンな声出して?」
み「あ、足が吊った!」

律「バチがあたったのよ」
み「痛いぃ。
先生、助けて!」
律「すがるな!」
み「鬼ぃ」
律「つま先を引っ張れば治るわよ」

み「よけい痛い~!」
律「下に引っ張ってどうする!
スネに引きつけるの」
み「はぁはぁ。
死ぬかと思った」
律「あんたの場合……。
一度死んだほうがいいと思う」
み「『由美美弥』を書き上げるまで、死ねるか」
律「そんな立派な志があるんなら……。
お風呂でバカな真似しないの」
み「いけずぅ。
ハメを外したい年ごろなのよ」
律「四捨五入したら、40でしょ」
み「四捨五入、すな!」

み「わたしの辞書には、切り捨てという文字しか無い」

律「消費税か」

み「そう言えばさ……。
この見えないお湯なら……。
オナニーだって出来るよね」
律「するなよ」
み「しないけどさ。
でも、してもわからないでしょ」
律「あんたの場合、顔でわかる」
み「何で?」
律「↓こんな顔するからよ」

み「するかい!」
律「小説の中で、みんなにさせてるじゃないの」
み「ま、一種の理想郷ではありますからね。
白目で思い出したけど……。
白湯チャンポンの話してたんだよね。
大分で食べたシーフードチャンポン、美味しかったんだよ」

み「フェリーの発着場にある食堂だったから……」

み「旅情という味付けもあったけどね」
律「上手いこと言うじゃない」
み「でしょ?
座布団一枚?」

律「半枚」
み「切ってどうする!」
律「それじゃ綿だけ」

み「けち。
それじゃ、これは?
白湯チャンポンならぬ……。
パイパンちゃんぽん!」
律「座布団、没収!」

み「え~」
律「でも、ほんとにいいお湯よね。
白い色ってさ、心まで安らぐ感じ。
ほんとにこれ、源泉じゃないの?」
み「ここの源泉は、檜風呂に入ってたお湯でしょ」
律「透き通った茶色?」

み「そう。
でも、あの色だって作れるけどね」
律「釘入れるとか?」

み「あなたも原始的なこと言いますね。
あれだけのお湯に色着けようとしたら……。
どんだけの釘入れるのよ?」
律「じゃ、どうやって色着けるっての?
透明なんだから、絵の具とかじゃダメよね」

み「熱帯魚の水槽とかで使われる方法だと思う」
律「なんで熱帯魚の水に、色づけするのよ?」
み「熱帯魚っていうか……。
アクアリウムだね。
見たことない?
自然の風景を切り取ったみたいに作った水槽」

律「あぁ、あれ。
病院の待合室にある。」

律「でも、茶色く無いわよ」
み「何を表したいかによって、演出の仕方も違うでしょ。
茶色い水が使われるのは……。
アマゾン川とかを表現した水槽じゃないの」

律「どうやって作るの?」
み「よう知らん」
↑知ったかぶりは良くありませんね。
てっきり、そういう薬剤でもあるのかと思ってましたが……。
調べてみたら、そんな薬は無いようです。
流木や、落ち葉を入れると、水が茶色くなるそうです。

ブラックウォーターと云うとか。
魚が落ち着くそうです。
落ち葉は、クヌギなどの落葉広葉樹が良いみたいですね。

と、ここまで書いたところで、もう一度探してみたら……。
やっぱり、ありました。
薬剤。

なお、落ち葉なんか使うんだったら……。
ピートモスの方が、ずっと手っ取り早いみたいです。

律「じゃ、この温泉も、その方法?」
み「そんなわけないでしょ。
このお湯を、茶色くしなきゃならない必然性なんか無いんだから」
律「な~んだ」
み「でも、いっそジャングル風呂とかも作れば……。
雰囲気出るのにね」

律「アマゾンのジャングル?」
み「そうそう。
ワニの人形、置いたりしてさ」

律「この環境なら、本物も住めるんじゃない?」
み「そう言えば、別府であったよ。
ワニ地獄」

律「へ~。
運が悪いお客さんが、食べられるとかね」

み「恐ろしいこと言いますね」
律「次、行きましょ」
次のお風呂は……。
座湯です。

ホームページの「湯ぶねガイド」に、そう書いてありました。
座湯と言っても、浸かるのは膝下だけ。
湯ぶねの側面が、岩でできた長椅子みたいになってるんですね。
そこに、腰を掛けます。
律「背もたれに、お湯が流れるんだ」
み「うーん。
確かに気持ちいいけど……。
できれば、肩にあててほしい」
律「よっぽど、ヒドいみたいね。
肩こり」
み「パソに座ってると、ほんとに辛い」

み「体が、ギシギシ言うみたいなんだ」
律「油切れじゃないの?」

律「潤いが無くなってるのよ」
み「失敬な。
ちゃんと潤うぞ」

律「まーた、そっちに話を持っていく。
肩の話でしょ」
み「何かいい薬無い?」
律「肩こりを消滅させる薬が出来たら……。
ノーベル賞ものじゃないの?」

み「やっぱり無理か。
あんまり辛いんで、マッサージ器を買った」
律「また、そっち方面に行くわけ?」
み「なんでよ?
行ってないよ」
律「だって……。
マッサージ器って……。
あれでしょ?」
み「何よ?」
律「電マ」

み「ばかもん!
違うわい」
律「なんだ、違うの」
み「ベストみたいに、装着するマッサージ器だよ」

律「へー。
そんなのあるの?」
み「出たんですね。
肩に当てるタイプのマッサージ器は、前から持ってたんだけど……」

律「やっぱり、持ってたんじゃない」
み「電マではないわ!
わたしの肩は、あんな振動くらいじゃほぐれないの。
ガンガン叩くタイプじゃないとダメ。
で、そのマッサージ器……。
っていうか、肩たたき機ね。
これは、結構強烈でね。
刺激は気に入ってたんだけど……」
律「ヘンなとこ当ててないでしょうね」
み「当てるかい!
あんなの当てたら、目玉が飛び出しちゃうよ」

律「そんなにいい機械があるのに、なんで新しいの買ったわけ?」
み「手で支えて、肩に当てなきゃなんないのよ」
律「当然でしょ。
それで不都合なわけ?」
み「キーボードが打てない!」

律「そりゃそうでしょうよ」
み「執筆に追われてましてね。
とっても、マッサージにだけ使う時間は取れないの」
律「流行作家みたいね」
み「1回の投稿量を、原稿用紙に換算すると……。
本編が約3枚。
コメントが5枚。
合計8枚。
年間の投稿数が、260回。
つまり、年に2,000枚書かなきゃならんわけ」

律「量だけは……。
大したもんよね」
み「量だけぇ?
まぁ、いいけど。
それも、執筆に専念できる身分ならまだしも……。
フルタイムで働いてて、その合間に書かにゃならんわけでしょ」
律「いくら私生活が充実してなくても……。
容易ではない?」
み「やかましい!
しかし、まさにそうなわけよ。
すなわち、マッサージにだけに使う時間は取れない。
で……。
キーボード打ちながら使えるマッサージ器を探してたわけ。
見つけたのはだいぶ前なんだけど……。
けっこう高かったから、ずっと我慢してた。
でも、あまりの痛さに逆上し……。
衝動的に注文しちゃいました」
律「で、どうなの?
使い心地は」
み「ま……、そこそこだね」
律「あらま。
大満足じゃないわけ?」
み「重いんだよ」

律「どのくらい?」
み「あんまり重いんで、説明書見たら……。
3.6kgだった」
律「赤ん坊背負ってるのと同じじゃないの」

み「肩こりそう……」
律「わはは。
何でそんなに重いわけ?」
み「軽かったら、マッサージ器の方が跳ね上がっちゃうからでしょ」
律「なるほど。
肩に効果的な打撃を与えるためには……。
自重が必要ってわけね」
み「でも、叩いてもらってるときは……。
けっこう気持ちいいよ」
律「キーボード打てるの?
み「弱くしとけば、打てる。
ただ、首から下がってる部分は、ボタンを前で留めるようになってるんだけど……。
それは、留められないね」

律「なんで?」
み「机につかえて、キーボードに手が届かなくなる」

律「どうしてキーボードが、そんな遠くにあるのよ?」
み「手前にノートとか置いてるんだよ」
律「逆にすればいいんじゃないの?」
み「今度は、ノートに届かなくなるだろ。
まぁ、前ボタン留めなくても、あんまり効果に差はないみたいだしね。
でも、使いながら打てるのは……。
ネットサーフィンとかで、検索窓に入力するくらいだね。
弱くしてても、小説の執筆中には無理かも」
律「強くしたらどうなるの?」
み「モニターがブレて見える」

律「わはは。
それは、キーボードに届かないどころの話じゃないわね。
そのマッサージ器、いくらしたのよ?」
み「9,000円弱かな」
律「なんだ、そんなに高くないじゃないの」
み「わたしにとっては、高いの!
ま、わたしのは、充電式じゃないからね。
電源コードを繋いだまま使わなきゃなんない」
律「何で充電する必要があるの?」
み「背負ったまま家事とか出来るでしょ。
お掃除とか」
律「マッサージ器背負って、掃除するのか……。
なんか、切ないものがあるわね」
み「わたしも、あれ背負って歩き回る気にはならないよ。
見た目、尋常じゃ無いし。
電源ケーブル式で十分」
律「背負ってるとこ、見てみたいものね」
み「後ろから見たら、大黒さまだよ」

律「振動で頭がぶれてたら、面白いけど」
み「デン助人形じゃん」

律「なにそれ?」
み「知らない?
デン助っていう、昔のコメディアン。
首を振りながら歩いたり、しゃべったりする人」

律「存じません」
み「ほんまかぁ?
若ぶってるんじゃないの?」
律「いつごろの人よ?」
み「ようわからんが、昭和40年ころじゃないの?」
律「知ってるわけないじゃない。
生まれる前よ。
何であんたが知ってるの?」
み「うちに、デン助の人形があったんだよ。
いわゆる、首振り人形だね」
律「メジャーリーグの球場なんかで配られるやつ?」

み「そうそう。
なぜか、そのデン助人形が……。
ばあちゃんの部屋の神棚に上がってた」

↑わが家の神棚ではありません
律「御利益でもあるの?」
み「ビリケンさんと混同してたのかも知れない」

み「で、うちは建て付けが悪くてさ。
ばあちゃんの部屋は、道路に面してたから……。
道をダンプとかが通ると、家が揺れるんだよ」

み「神棚のデン助人形も一緒に揺れてた。
子供のころ、その人形が欲しくてしかたなかったんだけど……。
神棚は天井近くに吊られてて、とても手が届かない。
ばあちゃんに取ってくれって言っても、取ってくれなかった。
神様をお守りしてる人形だとか言ってさ。
今考えたら、デン助が神様をお守りしてるわけ無いよね。
たぶん……。
わたしに触らせたら、首を引っこ抜くとかすると思ったんでしょ」
律「神棚にあげたのも、Mikiちゃんからの避難だったのかも?」
み「あ、ありうる。
そうか。
そういうことだったのか」
律「じゃ、その人形、ずっと触らせてもらえなかったの?」
み「1年に1度だけ、さわれた。
大晦日の大掃除のとき」

み「じいちゃんが、お札を取り替えるとき、神棚の掃除もするんだ。
で、神棚に上がってるものが、一時的に下ろされるわけ」

律「天井人のご光臨ってわけね」
み「しかし……。
なんで、あんなのばっかり載ってたのか……。
不思議なんだよね。
ほとんどガラクタ。
獅子頭の貯金箱とか……」

↑こんな感じだけど、紙製のハリボテでした
み「瓢箪型の入れ物とか……」

↑こんな立派なものではなかった
み「ただの石ころとか」

↑もっと黒ずんだ汚い石だった
律「瓢箪なんて、何か由緒があるんじゃないの?」
み「無いよ。
プラスチックだもん」
律「プラスチックが珍しかった時代のものとか?」
み「そんなに貴重なもんなら、瓢箪なんか作るかい」
律「聞いてみなかったの?」」
み「大きくなってからは、神棚の掃除も手伝わなくなっちゃったし。
じいちゃんもばあちゃんも死んじゃったし。
聞いとけば良かったってこと、たくさんあるよ。
ほんとにもう、取り返しがつかないけど」
み「ところで、何の話してたんだっけ?」
律「最近、このパターン多いわね」
み「あっちゃこっちゃ、話が飛ぶからね」
律「神棚の前は……」
み「デン助人形!」

律「その前は?」
み「何だっけ?
ビリケン人形か?」

律「違うわよ。
そうだ、思い出した。
マッサージ器よ」

み「それがどうして、デン助人形に行ったんだ?」
律「振動が強くて、頭が揺れるって話からでしょ」

み「お~。
繋がりましたね」
律「使い心地はイマイチってことだったわよね」
み「ま、ちょっと重いってのがマイナスポイントだけど……。
やっぱ両手を使えるのは、便利。
価格なりには、満足してます」
律「やっぱり、人間の手が一番ってことよね」

み「でも、あのマッサージ器、冬はいいだろうと思うよ」
律「なんで?」
み「暑いんだよ。
首の後ろから回って、襟周りからぶら下がるからね。
しかもね……。
スイッチ入れると、15分で切れるんだけど……。
それじゃ満足できないから、続けて何度も稼動させるわけ。
すると……。
だんだん、マッサージ器自体が発熱して来るの」
律「それって、危ないんじゃないの?」
み「かもね……。
でもひょっとして、温熱効果もあったりして」
律「夏は暑そうだよ」
み「エアコンは必須だね。
エアコンつけてても、汗かくかも」
律「なんだかんだ言って……。
結局、失敗だったんじゃないの?」
み「うんにゃ。
お酒飲みながらネットサーフィンするときなら、十分使えるもん」
律「負け惜しみみたいに聞こえるなぁ」
み「気のせいです。
ただ、スイッチが切れたときのずっしり感は……。
夏目漱石の『夢十夜』を思い出すけど」
++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「ここだ、ここだ。ちょうどその杉の根の処だ」
雨の中で小僧の声は判然聞えた。自分は覚えず留った。いつしか森の中へ這入っていた。一間ばかり先にある黒いものはたしかに小僧の云う通り杉の木と見えた。
「御父さん、その杉の根の処だったね」
「うん、そうだ」と思わず答えてしまった。
「文化五年辰年だろう」
なるほど文化五年辰年らしく思われた。
「御前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」
自分はこの言葉を聞くや否や、今から百年前文化五年の辰年のこんな闇の晩に、この杉の根で、一人の盲目を殺したと云う自覚が、忽然として頭の中に起った。おれは人殺であったんだなと始めて気がついた途端に、背中の子が急に石地蔵のように重くなった。(『第三夜』より)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++
み「しかし……。
世のお母さんたちって、あんな重いもの背負ってたんだね」

律「そうよ」
さて、次なるお風呂は……。
み「出た~。
寝湯だ~」

律「これはちょっと、勇気いるわね。
お湯も透き通ってるし」
み「ホームページでは、『ごろりん湯』ってなってた」
律「お湯が流れてるのね」
み「誰も見てないし、誰も入ってないから……。
思い切って、やっちゃえば?」
律「お風呂は、やっちゃうものじゃないでしょ」
み「そんなら、わたしがやって進ぜましょう。
杉乃井ホテルの寝湯でもやった、大技。
秘技、『ワニ地獄』」

律「這うな!」
み「おもしろかろ?」
律「異様すぎ。
お尻の穴が見えてる!」
み「それがいいんじゃないの。
犬は、みんなお尻の穴見せながら歩いてるよ」

律「人は犬じゃありません」
み「わたしも犬じゃありません。
ワニなのです。
でも、そう言われてみれば……。
ワニって肛門見せてないよな」

み「もっと、腰を落とさなきゃならんのかな。
こんなふうに……。
あ、あぎゃ。
こ、股関節が……」

律「体が固いくせに、無理するからよ。
よく考えたら、体にタオルを載せればいいんだわ」
み「ずる~い。
湯ぶねにタオルを浸けないでください」

律「↑なんで名古屋の心得を出してくるわけ?
第一わたし、浸けてないわよ。
体の上に置いてるんだから」
み「インチキ」
律「あ~、いい気持ち。
ほんとに体が浮かんでるみたい」

み「なるほど。
やっぱり、這うより仰向けの方が、気持ちよさそうだ。
それでは……。
秘技、『大の字』」

律「それのどこが秘技だ!
股を閉じなさい」
み「聞こえませ~ん。
あ~、気持ちいい」
律「せめてタオル、載せなさいよ」
み「洗い場に忘れて来た」
律「ほんとにもう!」
み「あれ?
もう起きちゃうの?」
律「こんなのと同類と思われたら……。
え~っと……」
み「なに詰まってるのよ?」
律「今、『何とか家の名折れ』って言いたかったのよ」
み「何で詰まるわけ?」
律「わたしの名字って、何よ?」
み「ボケたんじゃないの?」

律「あんたが決めてないんでしょ!」
み「そうだっけ?
由美ちゃんの藤村は……」

律「姉が嫁に行って、姓が変わってる」
み「なるほど」
律「決めてよ」
み「じゃぁ……。
湯舟」
律「安直な!
そんな名字、無いでしょ」
み「あるよ。
たしか、阪神のピッチャーにいた」

律「普通っぽくて……。
かっこいい名字がいい」
み「贅沢だなぁ。
たとえば、どんな名字よ?」
律「子供のころ読んだ少女マンガで、良く出て来たのが……。
結城」

み「ほー。
結城律子?」
律「いいじゃん」
み「いかにもって感じだよなぁ。
もっと普通なのがいい」
律「たとえば?」
み「グランティア律子とか」

律「どこが普通だ!
ここから離れなさいよ」
み「記念になるのに」
律「ならんでいい」
み「華の湯律子」
律「芸人だろ!
じゃ、これは旅行中の宿題ね。
いい名字付けてちょうだい」
み「スパ律子」
律「もう止め!」
コンドーム業界から、多額の政治献金でもあるのかね?」
律「ピルは、ホルモン剤だからね。
副作用がつきものなのよ。
やっぱり、医師の指導のもとで服用すべきね」

み「ふーん。
でもさ、ピルが自由に買えるようになったら……。
若い連中は、誰とでもやりまくるに違いないって……。
起たなくなったジイサン議員が法案を通さない、ってのもあるんじゃない?」

律「それは……。
いくらなんでも、うがちすぎでしょ。
実際、避妊具を装着しないでするのは、危険であることは確かだからね。
性病が蔓延する可能性もある」

み「なるほど。
エイズとかだったら、怖いよなぁ」

み「結局、『女性解放』って観点から見たら……。
人の意識も状況も、そのCM当時と、あんまり変わってない感じだね」
律「そうね。
うっかりすると今でも、そんなCM作っちゃうかもね」
み「見る方だって、ほとんどの人が、ぜんぜん不思議に思わないでさ……。
一部の人が騒ぎだして、初めて気づくんじゃないの?」
律「この35年間で……。
人の意識は、ほとんど進歩しなかったってことね」
み「そう言えばさ。
わたしの子供のころは……。
大人になったら、SFみたいな世界になると思ってたよ」

律「それ、わかる。
学習雑誌とかに、そういうイラスト出てたものね。
自家用車みたいな車が、空飛んでるやつ」

み「あったあった。
科学の進歩は、思ったより遅かったって感じだよね。
鉄腕アトムってさ……。
設定が、2003年なんだよ」

律「描かれたのは、いつごろ?」
み「1950年代じゃない?」
律「なるほど。
当時の日本人は……。
50年後の21世紀には、感情を持ったロボットが生まれると思ったわけか」

み「そゆこと」
律「あぁ、それにしても、いいお湯ね。
透けて見えないって、楽だわ」
み「楽?
隠さなくていいから?」
律「そうね。
でも、毛が無いのが恥ずかしいわけじゃないのよ。
楽な姿勢ってさ……。
端から見ると、だらしない姿勢なわけじゃない?」
み「今、どんな格好してるの?」
律「それが見えないから便利よね」
み「だから、どんな格好よ?」
律「普通にお尻つけてるわよ。
でも、両脚は長々伸ばして、開いてる」

み「どれどれ」
律「触るな!」
み「良いではないか、減るものではあるまいし」
律「なりませぬ!
でも、透明なお湯だったら……。
こんな格好できないわよ」
み「そうなの?
わたし、普通にしてたけど」
律「それは、たしなみが無さ過ぎ」
み「いいじゃん。
女しか見てないんだから」
律「矜持のないヤツ。
女の目で見られるからこそ、シャンとしなきゃならないのよ」

み「そんなもんかぁ。
女だけだと、だらしなくなるもんだよ。
先生は、女子校だった?」
律「ううん。
ずっと共学よ」
み「わたしもそうだったけどさ。
高校の更衣室、ヒドく無かった?
汚くて」

律「うちの学校は、そんなでも無かったと思うけど」
み「へ~。
躾のいい学校だね」
律「先生のチェックが厳しかったからね」
み「あ、そのせいかな。
うちは公立校で、制服も無かったからね。
試験の日なんか、セーターの下にパジャマ着てる女もいたよ」
律「試験が何で関係あるの?」
み「前の日、遅くまで試験勉強してるでしょ」

み「で、朝ギリギリだから、パジャマの上に重ね着して、そのまま出ちゃうんだよ」
律「それ、Mikiちゃんじゃないの?」
み「違います。
わたしは、夜遅くまで試験勉強なんか、しなかったから」
律「余裕じゃない」
み「諦めがいいの」
律「志が低いとも言うわね」
み「でも、足は高く上がるぞ。
ほれ!
シンクロナイズドスイミング」

律「やめなさい!」
み「ほれほれ。
見よ、この爪先。
草刈民代も真っ青」

み「こんな芸、透明なお湯では、ぜったいできんよな」
律「やったらヘンタイよ」
み「それじゃ……。
これはどうだっ!
ぶくぶくぶくぶく」

律「やめんか!」
み「あぶぶぶぶぶ。
ぶふぁ~!」
律「何よ、ヘンな声出して?」
み「あ、足が吊った!」

律「バチがあたったのよ」
み「痛いぃ。
先生、助けて!」
律「すがるな!」
み「鬼ぃ」
律「つま先を引っ張れば治るわよ」

み「よけい痛い~!」
律「下に引っ張ってどうする!
スネに引きつけるの」
み「はぁはぁ。
死ぬかと思った」
律「あんたの場合……。
一度死んだほうがいいと思う」
み「『由美美弥』を書き上げるまで、死ねるか」
律「そんな立派な志があるんなら……。
お風呂でバカな真似しないの」
み「いけずぅ。
ハメを外したい年ごろなのよ」
律「四捨五入したら、40でしょ」
み「四捨五入、すな!」

み「わたしの辞書には、切り捨てという文字しか無い」

律「消費税か」

み「そう言えばさ……。
この見えないお湯なら……。
オナニーだって出来るよね」
律「するなよ」
み「しないけどさ。
でも、してもわからないでしょ」
律「あんたの場合、顔でわかる」
み「何で?」
律「↓こんな顔するからよ」

み「するかい!」
律「小説の中で、みんなにさせてるじゃないの」
み「ま、一種の理想郷ではありますからね。
白目で思い出したけど……。
白湯チャンポンの話してたんだよね。
大分で食べたシーフードチャンポン、美味しかったんだよ」

み「フェリーの発着場にある食堂だったから……」

み「旅情という味付けもあったけどね」
律「上手いこと言うじゃない」
み「でしょ?
座布団一枚?」

律「半枚」
み「切ってどうする!」
律「それじゃ綿だけ」

み「けち。
それじゃ、これは?
白湯チャンポンならぬ……。
パイパンちゃんぽん!」
律「座布団、没収!」

み「え~」
律「でも、ほんとにいいお湯よね。
白い色ってさ、心まで安らぐ感じ。
ほんとにこれ、源泉じゃないの?」
み「ここの源泉は、檜風呂に入ってたお湯でしょ」
律「透き通った茶色?」

み「そう。
でも、あの色だって作れるけどね」
律「釘入れるとか?」

み「あなたも原始的なこと言いますね。
あれだけのお湯に色着けようとしたら……。
どんだけの釘入れるのよ?」
律「じゃ、どうやって色着けるっての?
透明なんだから、絵の具とかじゃダメよね」

み「熱帯魚の水槽とかで使われる方法だと思う」
律「なんで熱帯魚の水に、色づけするのよ?」
み「熱帯魚っていうか……。
アクアリウムだね。
見たことない?
自然の風景を切り取ったみたいに作った水槽」

律「あぁ、あれ。
病院の待合室にある。」

律「でも、茶色く無いわよ」
み「何を表したいかによって、演出の仕方も違うでしょ。
茶色い水が使われるのは……。
アマゾン川とかを表現した水槽じゃないの」

律「どうやって作るの?」
み「よう知らん」
↑知ったかぶりは良くありませんね。
てっきり、そういう薬剤でもあるのかと思ってましたが……。
調べてみたら、そんな薬は無いようです。
流木や、落ち葉を入れると、水が茶色くなるそうです。

ブラックウォーターと云うとか。
魚が落ち着くそうです。
落ち葉は、クヌギなどの落葉広葉樹が良いみたいですね。

と、ここまで書いたところで、もう一度探してみたら……。
やっぱり、ありました。
薬剤。

なお、落ち葉なんか使うんだったら……。
ピートモスの方が、ずっと手っ取り早いみたいです。

律「じゃ、この温泉も、その方法?」
み「そんなわけないでしょ。
このお湯を、茶色くしなきゃならない必然性なんか無いんだから」
律「な~んだ」
み「でも、いっそジャングル風呂とかも作れば……。
雰囲気出るのにね」

律「アマゾンのジャングル?」
み「そうそう。
ワニの人形、置いたりしてさ」

律「この環境なら、本物も住めるんじゃない?」
み「そう言えば、別府であったよ。
ワニ地獄」

律「へ~。
運が悪いお客さんが、食べられるとかね」

み「恐ろしいこと言いますね」
律「次、行きましょ」
次のお風呂は……。
座湯です。

ホームページの「湯ぶねガイド」に、そう書いてありました。
座湯と言っても、浸かるのは膝下だけ。
湯ぶねの側面が、岩でできた長椅子みたいになってるんですね。
そこに、腰を掛けます。
律「背もたれに、お湯が流れるんだ」
み「うーん。
確かに気持ちいいけど……。
できれば、肩にあててほしい」
律「よっぽど、ヒドいみたいね。
肩こり」
み「パソに座ってると、ほんとに辛い」

み「体が、ギシギシ言うみたいなんだ」
律「油切れじゃないの?」

律「潤いが無くなってるのよ」
み「失敬な。
ちゃんと潤うぞ」

律「まーた、そっちに話を持っていく。
肩の話でしょ」
み「何かいい薬無い?」
律「肩こりを消滅させる薬が出来たら……。
ノーベル賞ものじゃないの?」

み「やっぱり無理か。
あんまり辛いんで、マッサージ器を買った」
律「また、そっち方面に行くわけ?」
み「なんでよ?
行ってないよ」
律「だって……。
マッサージ器って……。
あれでしょ?」
み「何よ?」
律「電マ」

み「ばかもん!
違うわい」
律「なんだ、違うの」
み「ベストみたいに、装着するマッサージ器だよ」

律「へー。
そんなのあるの?」
み「出たんですね。
肩に当てるタイプのマッサージ器は、前から持ってたんだけど……」

律「やっぱり、持ってたんじゃない」
み「電マではないわ!
わたしの肩は、あんな振動くらいじゃほぐれないの。
ガンガン叩くタイプじゃないとダメ。
で、そのマッサージ器……。
っていうか、肩たたき機ね。
これは、結構強烈でね。
刺激は気に入ってたんだけど……」
律「ヘンなとこ当ててないでしょうね」
み「当てるかい!
あんなの当てたら、目玉が飛び出しちゃうよ」

律「そんなにいい機械があるのに、なんで新しいの買ったわけ?」
み「手で支えて、肩に当てなきゃなんないのよ」
律「当然でしょ。
それで不都合なわけ?」
み「キーボードが打てない!」

律「そりゃそうでしょうよ」
み「執筆に追われてましてね。
とっても、マッサージにだけ使う時間は取れないの」
律「流行作家みたいね」
み「1回の投稿量を、原稿用紙に換算すると……。
本編が約3枚。
コメントが5枚。
合計8枚。
年間の投稿数が、260回。
つまり、年に2,000枚書かなきゃならんわけ」

律「量だけは……。
大したもんよね」
み「量だけぇ?
まぁ、いいけど。
それも、執筆に専念できる身分ならまだしも……。
フルタイムで働いてて、その合間に書かにゃならんわけでしょ」
律「いくら私生活が充実してなくても……。
容易ではない?」
み「やかましい!
しかし、まさにそうなわけよ。
すなわち、マッサージにだけに使う時間は取れない。
で……。
キーボード打ちながら使えるマッサージ器を探してたわけ。
見つけたのはだいぶ前なんだけど……。
けっこう高かったから、ずっと我慢してた。
でも、あまりの痛さに逆上し……。
衝動的に注文しちゃいました」
律「で、どうなの?
使い心地は」
み「ま……、そこそこだね」
律「あらま。
大満足じゃないわけ?」
み「重いんだよ」

律「どのくらい?」
み「あんまり重いんで、説明書見たら……。
3.6kgだった」
律「赤ん坊背負ってるのと同じじゃないの」

み「肩こりそう……」
律「わはは。
何でそんなに重いわけ?」
み「軽かったら、マッサージ器の方が跳ね上がっちゃうからでしょ」
律「なるほど。
肩に効果的な打撃を与えるためには……。
自重が必要ってわけね」
み「でも、叩いてもらってるときは……。
けっこう気持ちいいよ」
律「キーボード打てるの?
み「弱くしとけば、打てる。
ただ、首から下がってる部分は、ボタンを前で留めるようになってるんだけど……。
それは、留められないね」

律「なんで?」
み「机につかえて、キーボードに手が届かなくなる」

律「どうしてキーボードが、そんな遠くにあるのよ?」
み「手前にノートとか置いてるんだよ」
律「逆にすればいいんじゃないの?」
み「今度は、ノートに届かなくなるだろ。
まぁ、前ボタン留めなくても、あんまり効果に差はないみたいだしね。
でも、使いながら打てるのは……。
ネットサーフィンとかで、検索窓に入力するくらいだね。
弱くしてても、小説の執筆中には無理かも」
律「強くしたらどうなるの?」
み「モニターがブレて見える」

律「わはは。
それは、キーボードに届かないどころの話じゃないわね。
そのマッサージ器、いくらしたのよ?」
み「9,000円弱かな」
律「なんだ、そんなに高くないじゃないの」
み「わたしにとっては、高いの!
ま、わたしのは、充電式じゃないからね。
電源コードを繋いだまま使わなきゃなんない」
律「何で充電する必要があるの?」
み「背負ったまま家事とか出来るでしょ。
お掃除とか」
律「マッサージ器背負って、掃除するのか……。
なんか、切ないものがあるわね」
み「わたしも、あれ背負って歩き回る気にはならないよ。
見た目、尋常じゃ無いし。
電源ケーブル式で十分」
律「背負ってるとこ、見てみたいものね」
み「後ろから見たら、大黒さまだよ」

律「振動で頭がぶれてたら、面白いけど」
み「デン助人形じゃん」

律「なにそれ?」
み「知らない?
デン助っていう、昔のコメディアン。
首を振りながら歩いたり、しゃべったりする人」

律「存じません」
み「ほんまかぁ?
若ぶってるんじゃないの?」
律「いつごろの人よ?」
み「ようわからんが、昭和40年ころじゃないの?」
律「知ってるわけないじゃない。
生まれる前よ。
何であんたが知ってるの?」
み「うちに、デン助の人形があったんだよ。
いわゆる、首振り人形だね」
律「メジャーリーグの球場なんかで配られるやつ?」

み「そうそう。
なぜか、そのデン助人形が……。
ばあちゃんの部屋の神棚に上がってた」

↑わが家の神棚ではありません
律「御利益でもあるの?」
み「ビリケンさんと混同してたのかも知れない」

み「で、うちは建て付けが悪くてさ。
ばあちゃんの部屋は、道路に面してたから……。
道をダンプとかが通ると、家が揺れるんだよ」

み「神棚のデン助人形も一緒に揺れてた。
子供のころ、その人形が欲しくてしかたなかったんだけど……。
神棚は天井近くに吊られてて、とても手が届かない。
ばあちゃんに取ってくれって言っても、取ってくれなかった。
神様をお守りしてる人形だとか言ってさ。
今考えたら、デン助が神様をお守りしてるわけ無いよね。
たぶん……。
わたしに触らせたら、首を引っこ抜くとかすると思ったんでしょ」
律「神棚にあげたのも、Mikiちゃんからの避難だったのかも?」
み「あ、ありうる。
そうか。
そういうことだったのか」
律「じゃ、その人形、ずっと触らせてもらえなかったの?」
み「1年に1度だけ、さわれた。
大晦日の大掃除のとき」

み「じいちゃんが、お札を取り替えるとき、神棚の掃除もするんだ。
で、神棚に上がってるものが、一時的に下ろされるわけ」

律「天井人のご光臨ってわけね」
み「しかし……。
なんで、あんなのばっかり載ってたのか……。
不思議なんだよね。
ほとんどガラクタ。
獅子頭の貯金箱とか……」

↑こんな感じだけど、紙製のハリボテでした
み「瓢箪型の入れ物とか……」

↑こんな立派なものではなかった
み「ただの石ころとか」

↑もっと黒ずんだ汚い石だった
律「瓢箪なんて、何か由緒があるんじゃないの?」
み「無いよ。
プラスチックだもん」
律「プラスチックが珍しかった時代のものとか?」
み「そんなに貴重なもんなら、瓢箪なんか作るかい」
律「聞いてみなかったの?」」
み「大きくなってからは、神棚の掃除も手伝わなくなっちゃったし。
じいちゃんもばあちゃんも死んじゃったし。
聞いとけば良かったってこと、たくさんあるよ。
ほんとにもう、取り返しがつかないけど」
み「ところで、何の話してたんだっけ?」
律「最近、このパターン多いわね」
み「あっちゃこっちゃ、話が飛ぶからね」
律「神棚の前は……」
み「デン助人形!」

律「その前は?」
み「何だっけ?
ビリケン人形か?」

律「違うわよ。
そうだ、思い出した。
マッサージ器よ」

み「それがどうして、デン助人形に行ったんだ?」
律「振動が強くて、頭が揺れるって話からでしょ」

み「お~。
繋がりましたね」
律「使い心地はイマイチってことだったわよね」
み「ま、ちょっと重いってのがマイナスポイントだけど……。
やっぱ両手を使えるのは、便利。
価格なりには、満足してます」
律「やっぱり、人間の手が一番ってことよね」

み「でも、あのマッサージ器、冬はいいだろうと思うよ」
律「なんで?」
み「暑いんだよ。
首の後ろから回って、襟周りからぶら下がるからね。
しかもね……。
スイッチ入れると、15分で切れるんだけど……。
それじゃ満足できないから、続けて何度も稼動させるわけ。
すると……。
だんだん、マッサージ器自体が発熱して来るの」
律「それって、危ないんじゃないの?」
み「かもね……。
でもひょっとして、温熱効果もあったりして」
律「夏は暑そうだよ」
み「エアコンは必須だね。
エアコンつけてても、汗かくかも」
律「なんだかんだ言って……。
結局、失敗だったんじゃないの?」
み「うんにゃ。
お酒飲みながらネットサーフィンするときなら、十分使えるもん」
律「負け惜しみみたいに聞こえるなぁ」
み「気のせいです。
ただ、スイッチが切れたときのずっしり感は……。
夏目漱石の『夢十夜』を思い出すけど」
++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「ここだ、ここだ。ちょうどその杉の根の処だ」
雨の中で小僧の声は判然聞えた。自分は覚えず留った。いつしか森の中へ這入っていた。一間ばかり先にある黒いものはたしかに小僧の云う通り杉の木と見えた。
「御父さん、その杉の根の処だったね」
「うん、そうだ」と思わず答えてしまった。
「文化五年辰年だろう」
なるほど文化五年辰年らしく思われた。
「御前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」
自分はこの言葉を聞くや否や、今から百年前文化五年の辰年のこんな闇の晩に、この杉の根で、一人の盲目を殺したと云う自覚が、忽然として頭の中に起った。おれは人殺であったんだなと始めて気がついた途端に、背中の子が急に石地蔵のように重くなった。(『第三夜』より)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++
み「しかし……。
世のお母さんたちって、あんな重いもの背負ってたんだね」

律「そうよ」
さて、次なるお風呂は……。
み「出た~。
寝湯だ~」

律「これはちょっと、勇気いるわね。
お湯も透き通ってるし」
み「ホームページでは、『ごろりん湯』ってなってた」
律「お湯が流れてるのね」
み「誰も見てないし、誰も入ってないから……。
思い切って、やっちゃえば?」
律「お風呂は、やっちゃうものじゃないでしょ」
み「そんなら、わたしがやって進ぜましょう。
杉乃井ホテルの寝湯でもやった、大技。
秘技、『ワニ地獄』」

律「這うな!」
み「おもしろかろ?」
律「異様すぎ。
お尻の穴が見えてる!」
み「それがいいんじゃないの。
犬は、みんなお尻の穴見せながら歩いてるよ」

律「人は犬じゃありません」
み「わたしも犬じゃありません。
ワニなのです。
でも、そう言われてみれば……。
ワニって肛門見せてないよな」

み「もっと、腰を落とさなきゃならんのかな。
こんなふうに……。
あ、あぎゃ。
こ、股関節が……」

律「体が固いくせに、無理するからよ。
よく考えたら、体にタオルを載せればいいんだわ」
み「ずる~い。
湯ぶねにタオルを浸けないでください」

律「↑なんで名古屋の心得を出してくるわけ?
第一わたし、浸けてないわよ。
体の上に置いてるんだから」
み「インチキ」
律「あ~、いい気持ち。
ほんとに体が浮かんでるみたい」

み「なるほど。
やっぱり、這うより仰向けの方が、気持ちよさそうだ。
それでは……。
秘技、『大の字』」

律「それのどこが秘技だ!
股を閉じなさい」
み「聞こえませ~ん。
あ~、気持ちいい」
律「せめてタオル、載せなさいよ」
み「洗い場に忘れて来た」
律「ほんとにもう!」
み「あれ?
もう起きちゃうの?」
律「こんなのと同類と思われたら……。
え~っと……」
み「なに詰まってるのよ?」
律「今、『何とか家の名折れ』って言いたかったのよ」
み「何で詰まるわけ?」
律「わたしの名字って、何よ?」
み「ボケたんじゃないの?」

律「あんたが決めてないんでしょ!」
み「そうだっけ?
由美ちゃんの藤村は……」

律「姉が嫁に行って、姓が変わってる」
み「なるほど」
律「決めてよ」
み「じゃぁ……。
湯舟」
律「安直な!
そんな名字、無いでしょ」
み「あるよ。
たしか、阪神のピッチャーにいた」

律「普通っぽくて……。
かっこいい名字がいい」
み「贅沢だなぁ。
たとえば、どんな名字よ?」
律「子供のころ読んだ少女マンガで、良く出て来たのが……。
結城」

み「ほー。
結城律子?」
律「いいじゃん」
み「いかにもって感じだよなぁ。
もっと普通なのがいい」
律「たとえば?」
み「グランティア律子とか」

律「どこが普通だ!
ここから離れなさいよ」
み「記念になるのに」
律「ならんでいい」
み「華の湯律子」
律「芸人だろ!
じゃ、これは旅行中の宿題ね。
いい名字付けてちょうだい」
み「スパ律子」
律「もう止め!」











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