Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
東北に行こう!(12)
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律「寒風山って云うんだから……」
 すごい風が吹くんじゃないの?」
寒うござんす

ガ「いえいえ。
 決して、木が育たないほどの気候じゃないんです。
 この草で覆われた山肌は、人工的に維持されて来たものなんですよ」
み「なんでまた?」
ガ「昔は、馬の牧草地だったらしいです」
馬の牧草地

ガ「『秣刈場(まぐさかりば)』と呼ばれてました。
 刈り取る日や刈り取る場所も、厳重に決められてたとか」
律「今もそうなの?」
ガ「いいえ。
 牧草地だったのは、昭和40年頃までみたいです。
 その後はもっぱら、景観維持のために刈られて来ましたが……。
 なかなか、すべてを刈りきるわけにはいかなくて……。
 灌木が目立つようになって来たんです。
 で、2003年からは、山焼きも行われるようになりました」
寒風山の山焼き
※今年(2011年)は、3月27日(日)に予定されてます。

み「なるほどねー。
 いろいろタイヘンだわな」
ガ「ほら!
 みなさん、あちらをご覧ください」

 ガイドさんが、なだらかな山肌を指さしました。

み「あ」
寒風山のパラグライダー

律「パラシュート?
 自衛隊の訓練かしら?」
自衛隊のパラシュート訓練

み「あんなカラフルなパラシュート、あるかい!
 敵にすぐ見つかっちゃうだろ。
 あれは、パラ……、なんだっけ?
 パラボラアンテナじゃないし……」
ガ「パラグライダーです」
み「それそれ」
ガ「寒風山は、パラグライダーのメッカなんです」
寒風山は、パラグライダーのメッカ

み「へ~。
 確かにここなら、木に引っかかることも無いよね」
ガ「はい。
 インストラクターと2人乗りの、体験コースもあるんですよ」
寒風山パラグライダー・インストラクターと2人乗りの体験コース

ガ「今日は無理ですが……。
 今度来たときはぜひ、体験してみてください」
律「Mikiちゃん、明日やってみようよ」
み「明日は、大風の予報です」
律「ほんとに?」
み「足が着かないところは、パス」
律「あ、そうか。
 高所恐怖症だったわね。
 聞いたよ~、美弥ちゃんから。
 吊り橋で、お漏らししたんだって?」
吊り橋で、お漏らし

み「あのおしゃべりオンナ!」

 さてさて、バスは山頂まで登りきり……。
 ガラス張りの建物の前に止まりました。
スカイパーク寒風山回転展望台

 時間は、15時ジャスト。

ガ「こちらが、『スカイパーク寒風山回転展望台』でございます。
 オープンは、昭和39年(1964年)。
 昭和63年に改装され、現在に至ります」

 “スカイパーク”ってネーミングからは、古き良き時代、昭和の香りが漂います。
スカイパーク

 でも、回転ってのは、どういうことだ?

ガ「なお、こちらの入館料550円も、“なぎさGAOコース”の料金に含まれております」

 お~。
 改めてすごいですね、“なぎさGAO”。
 もう一度、おさらいしてみましょう。
 “なぎさGAOコース”の料金は、5,300円。
“なぎさGAOコース”の料金

 ここに含まれる入場料は……。
 まず、「男鹿水族館GAO」の1,000円。
 「男鹿真山伝承館」と「なまはげ館」の共通入場券、800円。
 そしてこの「スカイパーク寒風山回転展望台」が、550円。
 合計なんと、2,350円。
 5,300円から、これを引くと……。
 残りは、たったの2,950円!
 バスガイド付きで丸1日(9時間!)乗って、この料金!
 レンタカーより、遙かにお得です!
 みなさん、男鹿に行くなら、ぜひぜひ秋田中央交通の“なぎさGAOコース”に乗りましょう!
秋田中央交通

ガ「なお、こちらの出発は、15:30となっておりますので……。
 みなさま、ご協力をお願いいたします」

 げ。
 30分しかないじゃん。
 さっそく、昭和の香り漂う展望台に登りましょう。
寒風山・昭和の香り漂う展望台

 中に入ると、展望台系お決まりの土産物屋さんがありました。
寒風山回転展望台・展望台系お決まりの土産物屋

 レストランもあります。
寒風山回転展望台・レストランもあります

 ここにも、“男鹿しょっつる焼きそば”がありました(700円)。
寒風山回転展望台レストラン・“男鹿しょっつる焼きそば”

 中を覗くと……。
 パラグライダーの飛ぶ景色を見ながら、ゆったりと食事ができるようです。
寒風山回転展望台レストラン・パラグライダーの飛ぶ景色を見ながら、ゆったりと食事

 ここでお昼を摂るのも、いいかもですね。
 奥の入館カウンターをフリーパスで通ると、螺旋階段がありました。

 2階に上がると、何かの展示コーナーのようです。
寒風山回転展望台・展示コーナー

 B級テイストに、大いにそそられますが……。
 時間があまりありません。
 とりあえず、最上階の展望台を堪能し……。
 時間が余ったら、展示室を見ることにしましょう。

 螺旋階段を、さらに3階に登ります。

「お~」
寒風山回転展望台

 一同から、思わず声が上がりました。
 ま、外観から見てわかってたことですが……。
 360度、ガラス張り。
 355メートルの寒風山頂上からの景色は……。
 まさに絶景です。
寒風山頂上からの景色

律「すご~い」
み「鳥になった気分だね」
律「ちょっと、Mikiちゃん。
 この床、回ってるよ」


 展望台の“回転”の意味が、ようやくわかりました。
 展望台の外側が回転してるんです。

律「こんな展望台、初めて」
み「わたしは……。
 初めてじゃないな」
律「え?
 ここ来たことあるの?」
み「新潟にもあるんだよ。
 日本海タワーっていう、回転する展望台が」
日本海タワー

律「また、負けず嫌いが出たね」
み「本当のことだもん」
律「新潟って、新潟市?」
み「新潟市の中心部。
 夕べ寄った『せきとり』とか『越乃寒梅 Manjia』からも、そんなに遠くないとこ」
律「あんなあたり?
 展望台のある山なんて、ありそうに思えないけど」
み「それが、あるんですね」
律「何て山?」
み「新潟砂丘」
新潟砂丘

律「砂丘?」
み「そう。
 新潟の中心部では、海際が一番高くなってるんだ」
新潟の中心部・断面図

律「鳥取砂丘みたいな感じなの?」
み「ぜんぜん違う。
 道路はアスファルトで覆われ、住宅がびっしり建ってる」
新潟砂丘上の住宅街

み「つまり、高台の住宅街って感じ。
 でも、アスファルトの下は、れっきとした砂丘なんだよ」
律「へ~。
 でも、砂丘の斜面ってけっこう急じゃない?」
み「うん。
 車道は通せないから……。
 階段になってる」
新潟砂丘の斜面

み「てっぺんまで登ると、けっこう高いんだよ」
新潟砂丘からの眺め

律「砂丘の高さはどれくらい?」
み「それを聞かれると……。
 ちと弱いんだけどね。
 日本海タワーのあるあたりで……。
 20メートルちょいくらいかな」
律「ありゃりゃ。
 そんなとこに、何で展望台なんて作ったのよ?」
み「砂丘の上には、水道局の南山(みなみやま)配水場が建ってるんだ」
南山(みなみやま)配水場

み「高台にあるから、自然流下方式で水道水を供給できるからね。
 で、貯水タンクが、上下二層になってる」
律「それって、珍しいの?」
み「配水場の完成は、昭和43年(1968年)だったんだけど……。
 当時は、日本初の階層式配水池だった。
 上下に重なってるから……。
 外からは、ビルみたいに見える。
 で、配水場完成の2年後(1970年)、新潟市の水道創設60周年を記念し……。
 屋上に、展望室が設置されたわけ」
日本海タワーの構造

み「これが、日本海タワー」
日本海タワー

律「へ~。
 寒風山展望台の昭和39年には及ばないけど……。
 けっこう歴史があるんだね」
み「日本初ってのがすごいでしょ。
 さて、ここで問題です!」
律「いきなり、来たわね」
み「南山配水場は……。
 歴史ある施設であることが認められ……。
 ある百選に選ばれました。
 さて、それは何でしょう?」
律「また百選か。
 この旅行、百選を巡る旅みたいになってきたね」
み「あ、そういうのも面白いかも」
律「この問題は、簡単ね。
 当然、『展望台百選』でしょ?」
み「ブー。
 そんな百選はありません。
 さっき、ヒント言ってるじゃない。
 南山配水場が選ばれてるって。
 日本海タワーじゃないんだよ」
律「『配水場百選』?」
み「狭めすぎ!
 『近代水道百選』」
近代水道百選

律「そんなの、誰がわかるかい!」
み「で、話を日本海タワーに戻すけどね。
 まわりは住宅地で、高いビルが無いから……。
 眺望は抜群」
日本海タワーの立地
み「晴れた日には、日本海の向こうに佐渡ヶ島まで見えるんだよ」
日本海タワーからは佐渡ヶ島まで見えるんだよ

み「その佐渡に沈む夕日がウリでね。
 夏は日没まで営業が延長されてるほど」
日本海タワー・佐渡に沈む夕日

み「喫茶スペースもあるから、デートスポットになってるんだ」
日本海タワー・喫茶スペース

律「ふーん。
 そこでデートしたこと、あるの?」
日本海タワー・デートスポット

み「ございません」
律「じゃ、ひとりで行ったわけ?」
み「もちろん」
律「さびし~」
み「うるさい!
 高さはかなり負けるけど……。
 ここと同じく、360度ガラス張りでね……。
 確か、25分くらいで一周するんじゃなかったかな?」
日本海タワー・回転する展望台

み「ここは、1周するのに何分くらいかかるんだろ?」
律「もっと早そうよね」


み「だね。
 正直、日本海タワーの25分は遅すぎると思った。
 1周するまで、じっとしてられなかったもん」
律「Mikiちゃんは、“いらち”だからね」
み「何も建物が回らなくても……。
 自分の足で回ればいいんだよ」

「ほっほっほっ」

 突然、高らかな笑い声が聞こえて来ました。
 窓際のベンチに座ってた髭のおじいさんが、振り向いて笑ってます。

老「若い方は、元気がよろしいのぅ。
 わしらみたいな年寄りには……。
 こうして座りながら景色を眺められるのは、ありがたいことじゃよ」

 おじいさんは、宗匠帽を被り……。
宗匠帽

 裾の広がらない軽衫(かるさん)のような袴を穿き、羽織を着てます。
 足元は草履。
 昔の茶人みたいな感じです。
軽衫・昔の茶人みたいな感じ

み「この展望台は、何分くらいで1周するんですか?」
老「計ったわけじゃないがの……。
 ま、7~8分といったところじゃないかな」
み「思ったより、早いですね。
 これくらいなら、座ってても飽きませんよね。
 あっ。
 八郎潟!」
寒風山から見る八郎潟

老「ほう。
 八郎潟を知っておるかの?」
み「もちろんですよ」
老「昔とは、まったく変わってしまったがの」
み「ここから見ると……。
 人の手が入ってることが、はっきりとわかりますね。
 形が幾何学的」
老「昔の潟は、あの左手に広がっておった」
八郎潟の地図

老「水面に、この寒風山が逆さまに映ってのぅ。
 茫漠とした景色じゃった」
八郎潟に写る寒風山
↑『わたしたちの八郎潟町(八郎潟町教育委員会)/干拓前の八郎潟』より

み「おじいさんは、干拓前の八郎潟を知ってらっしゃるんですね」
干拓前の八郎潟

老「もちろんじゃよ」
み「じゃ、お詳しいですね」
老「ま、年の功というやつじゃな」
み「いろいろと聞いちゃおうかな?」
老「何なりと」
み「それじゃ、遠慮なく。
 八郎潟って、全部埋められたんだと思ってましたけど……。
 そうじゃないんですね」
老「あの妙な形の水面は、調整池として残されたものじゃ。
 あれでもまだ、全国の湖沼で18番目の広さなんじゃよ」
み「へー、けっこう広いんだ。
 ま、干拓前の八郎潟は……。
 琵琶湖に次いで2番目の広さでしたもんね。
 あの残った部分も、汽水(淡水と海水が混ざった状態)なんですか?」
老「ほっほ。
 いろいろと知ってる娘さんじゃの」
み「ま。
 いやですわ、娘さんだなんて」
老「ん?
 息子さんじゃったか?」
み「違います!」
老「なんじゃ、違うのか。
 てっきり、今はやりのニューハーフかと思った。
 昔は、陰間と言ったがの」
陰間

み「話がずれてます」
老「おぉ、そうじゃった。
 今は、防潮水門で締め切られておるから、完全に淡水じゃ」
八郎潟・防潮水門

老「シジミも採れなくなってるらしい」
八郎潟・シジミ漁

み「へ~。
 干拓前は、シジミが採れてたんですか」
老「シジミどころじゃないぞ。
 川の魚、海の魚、合わせて……。
 実に、70種類以上の魚介が採れたそうじゃ」
八郎潟・70種類以上の魚介が採れた

老「真冬には、氷を割って網を入れる『氷下漁業』なども行われていた」
八郎潟・氷下漁業

老「なにしろ、潟のまわりに、3,000人もの漁民が生活しておったのだから……。
 豊かな漁場じゃ」
八郎潟・笑う漁師

み「今も、何らかの漁は行われてるんでしょうか?」
老「細々とは続いておるかも知れんが……。
 専業は無理じゃろうの。
 趣味の釣り人は、けっこう来ておるようじゃが」
み「何が釣れるんですか?」
老「ブラックバスじゃ」
八郎潟・ブラックバス

み「あちゃ~」
老「うようよいるらしいぞ。
 県外からも釣り客が来るらしい。
 ま、八郎が戻らなくなって……。
 潟もすっかり様変わりしてしまったようじゃな」
み「あ。
 それ、前から気になってたんです。
 “八郎潟”の名前の由来。
 やっぱり“八郎”は、人の名前だったんですね」
老「『三湖伝説』というのを知っておるかの?
 秋田県にある3つの湖の成り立ちが語られる伝説じゃ」
み「いいえ、知りません。
 秋田にある3つの湖って云うと……。
 当然ひとつは、八郎潟ですよね。
 それに、日本一の深さを誇る田沢湖」
日本一の深さを誇る田沢湖

み「あとひとつは……。
 なんでしたっけ?」
老「青森県との県境にある、十和田湖じゃ」
青森県との県境にある、十和田湖

み「あ、そうか。
 3つとも、全国的に有名な湖ですね。
 八郎潟は、あんなになっちゃったけど。
 それでもまだ、18番目でしたっけ?」
老「そう。
 十和田湖は12番目。
 田沢湖が19番目じゃ」
み「それでも、ベストテンには入ってないんですね」
老「ま、面積ではそうじゃが……。
 そのかわり、この2つの湖は深さがすごい。
 十和田湖の最大水深は327メートルで、全国3位。
 田沢湖は、おおせのとおり……。
 423メートルで、堂々の1位じゃ。
 深さ300メートルを超える湖は、2位の支笏湖(北海道・363メートル)を入れて、全国に3つしかない。
 そのうちの2つが、秋田にあるということじゃ」
湖沼ランキング

み「八郎潟が干拓されてなかったら……。
 面積が2位の湖もあったってことですよね」
老「そういうことじゃ」
み「あ、それで八郎潟の名前の由来、ぜひ教えてください」
老「おぉ、そうじゃった。
 ちっとばかり長い話になるがの」

 わたしは、おじいさんの隣に腰かけました。

老「鹿角郡の草木(くさぎ)村というところから、話は始まる。
 今は、鹿角市の一部になっとるがの。
 十和田湖の南側じゃな」
秋田県鹿角郡の草木(くさぎ)村

老「その草木村に、八郎太郎という名の若者が暮らしておった。
み「八郎太郎?
 それって、ワンセットで名前なんですか?
 それとも、八郎が苗字?」
老「苗字のあるような生まれではない。
 昔は、こういう名前は、けっこうあったんじゃよ。
 たとえば……。
 茶屋四郎次郎という名は、聞いたことが無いかな?」
み「日本史の教科書で、読んだような……」
日本史の教科書

老「読んだような?」
み「読まなかったような……」
老「頼りないのぅ。
 茶屋四郎次郎は、織豊時代から江戸初期にかけて活躍した京都の豪商じゃよ」
茶屋四郎次郎

老「このヘンテコな名前は……。
 つまり、“茶屋四郎”さんと云う人の“次郎”、すなわち次男ということじゃ」
み「じゃ、“八郎太郎”ってのは、“八郎”さんの“太郎”、つまり長男ってことですか?」
老「そんなとこじゃろうな。
 続けてよいかの?」
み「すみません。
 お願いします」
老「八郎太郎は、旅の男と村娘との間に出来た子じゃった」
旅の男

み「う。
 その男……。
 村娘を孕ましたあと、またどっかに行っちゃったんじゃないですか?」
老「ほう。
 よくわかったの」
み「ありがちなパターンですから」


老「その男は、八郎太郎が生まれる前に……。
 寒風山で竜に姿を変えて消えたと言われておる」
竜に姿を変えて消えた

み「にゃにっ。
 ちょっと待ったぁ」
老「さっきから、待ったの多い娘さんじゃの。
 ん?
 息子さんじゃったか?」
み「違います!」
老「なんじゃ、違うのか。
 てっきり、今はやりのニューハーフかと思った。
 昔は、陰間と言ったがの」
陰間

み「そのボケは、さっき聞きました!(ほんまにボケとんのか?)
 話を進めますよ。
 その旅の男の名前は、八郎だったんですよね。
 なんか、意味深ですよ」
老「どういうことじゃ?」
み「だって、その人の本性は、竜だったんでしょ?
 ぜったい臭います」
老「ん?
 加齢臭が臭うか?
 朝方、ローズサプリを飲んで来たんじゃがな」
ローズサプリ

み「そんなの飲んでるんですか?
 って、違いますって!
 竜の名前が八郎だってことが、臭うんです。
 それって……。
 八岐(やまた)のオロチじゃないんですか?」
八岐(やまた)のオロチ

老「ほっほ。
 面白い発想をしよるの。
 8本首の竜で、八郎か」
み「出雲の八岐のオロチは……。
 高志(越)の国から来たと書かれてます。
 でも、ひょっとして、越よりも北……。
 出羽からだったんじゃ?」
老「出羽の国が出来る前は、越の国の一部だったようじゃの」
み「あ、そうか!
 初めは、越の国に出羽郡が建てられたんでしたよね。
 その後、出羽柵(でわのき)が設けられた前後に……」
出羽柵(でわのき)

み「出羽の国が分離したんですよ。
 いつ頃でしたっけ?」
老「712年(和銅5年)じゃな」
み「古事記が編纂されたのは、いつ頃でしたっけ?」
老「まさに、その712年じゃよ。
 太安万侶(おおのやすまろ)によって、『古事記』が元明天皇に献上されたのは」
太安万侶(おおのやすまろ)

み「同じ年?
 なんか、気持ち悪いな。
 まあ、いいや。
 てことは……。
 八岐のオロチのお話は、当然、712年より前の出来事だから……。
 出羽は、まだ越の国の一部だったってことじゃないですか。
 つまり、八岐のオロチが、越より向こうの出羽から来たとしても……。
 出雲の人は、越の国から来たと書き記すでしょうね」
老「ほっほっほ。
なるほどなるほど」
み「実はわたし……。
 八岐のオロチは、火山噴火の溶岩流じゃないかって思ってるんです」
八岐のオロチは、火山噴火の溶岩流

老「寺田寅彦が、そんなことを書いてたようじゃの」
寺田寅彦随筆集

み「げ。
 ご存じでした?」
老「確かに、秋田にも火山は多いな。
 そもそも、この寒風山も火山じゃしな。
 十和田湖も田沢湖も、火山の噴火口に出来たカルデラ湖じゃ」
火山の噴火口に出来たカルデラ湖

み「ちょっと待ってくださいよ。
 それじゃ、三湖伝説の3つの湖には、ことごとく火山があるってことじゃないですか!
 う~む
 ますますもって怪しいぞ。
 出羽の八郎……」
老「どうも、話が進まんの。
 続けていいかな?」
み「すみません。
 どうぞ」
老「村娘は、八郎太郎を産み落とすとすぐに、死んでしまった」
村娘の墓

み「えー。
 かわいそう。
 死因は何だったんですか?」
老「また脱線じゃな。
 ひどい難産だったそうじゃ」
み「竜の子が出てくるんですもんね。
 ……」
老「ん?
 どうした?
 考え込んで」
み「出てくるときも、難産だったでしょうけど……。
 たぶん、八郎太郎を身ごもったときも……。
 タイヘンだったんじゃないかと思って」
老「どういう風にタイヘンじゃったんじゃ?」
み「どういう風にって。
 そんなこと、真っ昼間から言えませんよ。
 ひょっとして、あそこも8本あったんじゃないかなんて」
あそこも8本あった

老「言うとるではないか。
 話を進めるぞ」
 両親を失った八郎太郎は……。
 祖父母に育てられ、マタギとなった」
マタギ

老「ある日のこと、仲間2人と山に入った。
 その日は、八郎太郎が食事の支度をする番じゃった。
 奥入瀬の谷川に水を汲みに下りると……。
 イワナの姿が見えた」
イワナの姿が見えた

老「八郎太郎は、ようやくのことで、3匹のイワナを捕らえた」
3匹のイワナを捕らえた

老「イワナを焼きながら仲間を待ったが……」
イワナを焼きながら仲間を待った

老「なかなか帰ってこない。
 腹が空いてしょうがなかったので……。
 自分の分を1匹食べた」
自分の分を1匹食べた

老「しかし……。
 あまりの美味しさに、止められなくなり……。
 仲間の分のイワナも、全部食べてしまった。
 さて、それからが大変じゃ。
 突然、ノドが焼けるように渇きだした。
 水筒の水では足りず、イワナを捕った川まで下りて……。
 川の水に直接口を付けて飲んだ。
 しかし、いくら飲んでも、乾きはいっこうに収まらない。
 33夜も水を飲み続けたあげく……。
 とうとう八郎太郎は、33尺の竜になってしまったんじゃ」
八郎太郎は、33尺の竜になってしまった

老「自分の身に起きた報いを知った八郎太郎は……。
 谷川を堰き止めて湖を作ると、そこに住むようになった。
 それが、今の十和田湖ということじゃ」
十和田湖

み「え?
 八郎潟じゃないんですか?」
老「だから、長い話になると言ったじゃろ。
 しかし、八郎太郎が、八岐のオロチだという説は……。
 面白いのぅ」
八郎太郎が、八岐のオロチだという説

み「でしょ」
老「十和田湖の噴火では……。
 積もった降下物が、そこここで川を堰き止めた。
 それが決壊して、各地で大洪水が起きたらしい」
噴火の降下物による大洪水

み「おぉ。
 ますます八岐のオロチっぽいじゃないですか」
老「ちょっと、年代が合わんがな」
み「え?
 そうなんですか?」
老「有史後に起きた噴火は、西暦915年(延喜15年)じゃからな」
西暦915年十和田火山噴火

み「古事記が編纂されてから、200年も後か……。
 その前には、噴火は無かったんですか?」
老「もちろんあった。
 しかし……。
 その前は、5,000年以上も前のようじゃな」
み「うーん。
 八岐のオロチと繋げるのは、やっぱり無理か……」
老「八岐のオロチでは無かったとしても……。
 三湖伝説の竜が、915年の噴火に関係してるということは……。
 大いに考えられることなんじゃ」
み「ほんとですか!」
老「915年の平安噴火は……。
 日本で起こった有史以降の噴火としては、最大級の規模じゃったらしい。
 被害は広範囲に及んだ。
 そして……。
 その被害が及んだと考えられる地域と……。
 三湖伝説が分布する地域が、みごとに重なるんじゃよ」
み「スゴいじゃないですか!
 それって、おじいさんの新説ですか?」
老「そうじゃ!
 と言いたいところではあるが……。
 残念ながら、受け売りじゃ。
 1966年に、平山次郎と市川賢一という人によって論文になっておる(『1000年前のシラス洪水』)」
み「へ~。
 てことは、その噴火で十和田湖が出来たんですよね?」
その噴火で十和田湖が出来た?

老「それは……。
 違うようじゃ」
み「え~。
 それじゃ、三湖伝説と合わないじゃないですか。
 八郎太郎が変じた竜が、915年の噴火を表してるとすれば……。
 そのときに、十和田湖が出来たことになるじゃないですか」
老「十和田湖は、ひとつの噴火で出来たわけじゃないんじゃ。
 湖を作っている噴火口は、いくつもある。
 いちばん外縁を作った噴火は、3万年から2万5先年前と云われておる。
 中湖と呼ばれる一番深い部分が出来たのは、5,400年前の噴火じゃ」
十和田湖:中湖

老「この噴火で、外縁のカルデラに溜まってた湖水が、真ん中の火口に流れ込んだんじゃな」
み「うーん」
老「ほっほ。
 考え込んでしまったな。
 そろそろ、三湖伝説の続きを話しても良いかの?」
み「あ、お願いします。
 なぜ、八郎太郎が八郎潟に来ることになったのか」
老「青森県の三戸郡に、斗賀村というところがあった。
 今は、南部町の一部になっておるがの」
青森県三戸郡斗賀村

老「そこの神社の別当の家に、男の子が生まれ、南祖丸と名付けられた。
 幼いころから利発で、神懸かりめいたこともするため、神童と呼ばれるようになった。
 17歳になった南祖丸は、名を南祖坊と改め、諸国行脚の旅に出た」
み「南祖坊って、お坊さんみたいな名前ですね。
 神社の子なんでしょ?」
老「だから、別当の子じゃ」
み「なんです、それ?」
老「難儀じゃの。
 『別当』とは、神社に属しつつ……。
 仏教儀礼を行う僧侶のことなんじゃ。
 神仏習合の結果生じたものじゃな。
 続けて良いかの?」
み「お願いします」
老「さて、その南祖坊が……。
 諸国を巡り巡って、熊野大権現を33回目に参詣したおり……。
 『この草鞋が切れた場所が終の棲家になる』との神託を受け、鉄の草鞋を授ったそうじゃ」
鉄の草鞋を授った
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