2012.3.3(土)
さて、バスは再び走り出しました。
眼下の海は、いろんな形の岩が延々と続き……。
見ていて飽きません。
ガ「このあたりの男鹿西海岸は、『秋田三十景』の第1位に選ばれてております」
大桟橋を出て25分。
ようやくバスは速度を緩めました。
み「まもなく……。
午前中の立ち寄りポイント、『男鹿水族館GAO』に到着いたします。
揺れますのでご注意ください」
バスが大きくS路を切りながら、崖下に下りていきます。
10:40。
『男鹿水族館GAO』に到着です。
ガ「ここでは、見学時間を1時間取ってあります。
出発は11:40ですので、それまでにバスにお戻りください」
客「は~い」
『男鹿水族館GAO』の入館料は、1,000円です。
これが、観光バス料金の5,300円に、込みですからね。
実質、4,300円になっちゃいました。
律「Mikikoちゃん、ほら見て。
窓の外がすぐ海だよ」
み「海なら、ずっと見てきたでしょ。
早く!」
律「何あわててるの?
1時間もあるじゃない」
み「1時間なんてあっという間だよ。
急げ!」
律「引っ張らないでよ。
ほんとにもぅ。
子供連れて来たみたい」
館内マップは以下のとおり。
さっそく、1Fから見ていきましょう。
まず、わたしたちを迎えてくれたのが……。
『男鹿の海大水槽』。
律「おっきぃ~」
み「総水量は815トンで、それほど驚くことはないんだけどね。
由美ちゃんと行った『アクアマリンふくしま』の……。
『潮目の海』という大水槽は、2つ合わせて、2,050トンだったからね。
でも、『男鹿の海大水槽』の特徴は、その水深。
深さが8メートルもあるんだ」
律「ビルの2階分以上あるってことね」
み「北海道・東北エリアの水族館では、一番の深さ。
2,000匹の魚が泳いでるんだって」
律「ほんとに海の中を見てるみたい」
み「こっちから見たら、もっとそう思えるよ」
律「また引っ張る!
袖が伸びちゃうでしょ」
み「どう?」
律「すごーい。
ほんとに海の中だわ。
お魚が上に見える」
さて、ここであんまり時間を食ってるわけにはいきません。
時間が限られてますからね。
2Fに上がりましょう。
み「ほら、秋田名物がいる」
律「なに?」
み「ハタハタ」
ここは、ハタハタだけが泳ぐ水槽のようです。
律「ハタハタって、あの秋田音頭に出てくる魚?」
み「そう。
♪秋田名物 ハツモリハタハタ、オガデオガブリコ♪」
律「コリャコリャ♪」
み「違~う!
アーソレソレ♪」
律「それじゃ、もう一度!」
み「♪秋田名物 ハツモリハタハタ、オガデオガブリコ♪」
律「アーソレソレ♪」
み「……」
律「アーソレソレ♪」
み「後は、知りませぬ♪」
律「知らんのかい!
相の手まで入れさせといて。
じゃ、しつもーん!」
み「あ、何じゃいな♪」
律「それって、トンヤレ節じゃないの?」
み「宮さん、宮さん、お馬の前に、ひらひらするのは何じゃいな♪」
律「歌わんでいい!
質問、質問!」
み「質問を許可する」
律「なんで偉そうになるわけ?」
み「早くして!
ハタハタ水槽で、あんまり時間使えないんだから」
律「手間取らせてるのはどっちじゃ。
じゃ、取り急ぎ。
ハタハタはわかるけど……。
ハツモリって何?」
み「なんだろ?」
律「また、知らんのかい!
結局、何知ってるのよ?」
み「出だしの1節だけ」
律「こりゃダメだ」
「代わりに、わたしがお答えしましょう」
いきなり声を掛けられ……。
驚いて振り向くと……。
可愛いバスガイドさんでした。
律「お~。
ぜひお願いします。
この人、偉そうにしてるくせに、何にも知らないんだから」
ガ「一節歌えれば、たいしたものですわ。
“ハツモリ”というのは地名なんです。
標準語の発音では、“ハチモリ”。
八つの森と書いて、八森。
秋田県北部、青森県との境に、かつて八森町(はちもりまち)がありました」
“かつて”と云いましたのは……。
平成18年に、峰浜村と合併し……。
八峰町(はっぽうちょう)となったからです」
律「なるほど。
つまり、その八森の名物が、ハタハタってことね」
ガ「そうです」
律「じゃ、それに続く“オガデオガブリコ”の“オガ”は……。
男鹿半島の男鹿ですね?」
ガ「そのとおり~。
賢いですね~」
み「普通、わかるわい」
律「黙ってなさい。
わたしが、“オガデオガブリコ”を解明してあげるから。
“ハツモリハタハタ”が……。
八森の“ハタハタ”ってわけよね。
で、当然、“オガデオガブリコ”も、これと同じ作りのはず。
とすれば……。
男鹿の名物は、ずばり!
“デオガブリコ”ってことね。
……。
どうしたのよ?
2人ともずっこけて」
み「先生……。
ほんとに医学部出たの?
普通、そうは思わんだろ!
“デオガブリコ”ってなに?
デカプリオの親戚?」
可哀想に、バスガイドさんは……。
背中を震わせて笑ってます。
律「どうしてよ!
『地名』+『特産品』の組み合わせでしょ」
み「それはそうだけどさ。
歌なんだから……。
調子を合わせなきゃならないでしょ。
最初の“で”は、場所を表す助詞」
律「そんなもんなの?
スッキリしないな。
だから文系は嫌いよ。
じゃ、名産品の名は、“オガブリコ”ってこと?」
み「そうでなくてね……。
最初の“男鹿で”は、音数を合わせるために付けてあるわけ」
律「てことは……。
最初の“男鹿で”を取って考えればいいわけ?」
み「さようです」
律「つまり、“オガブリコ”が残るわけか。
当然、地名が男鹿で、名産がブリコになるわけね」
み「ようやくわかってくださいましたね」
律「わからんわい。
そもそも、ブリコって何よ?」
み「……。
一粒で二度美味しい?」
律「それは、グリコ!
律「もう!
助詞の講釈までしておいて、結局わかんないじゃない。
ガイドさん、お願いします」
ガ「ブリコというのは、ハタハタの卵のことです」
律「そうなの?
てことは……。
親のハタハタは、八森が名産で……。
子の卵は、男鹿の名産ってこと?
どゆこと?」
み「わかりません」
律「ガイドさ~ん?
あれ、どこ行っちゃったんだろ?」
バスガイドさんの姿は、風のように消えていました。
み「逃げたな……」
さて、ハタハタ水槽です。
ハタハタは、秋田県の県魚。
“しょっつる鍋”に必ず入ってます。
み「別名、カミナリウオだって」
律「えー。
なんでそんな怖い名前なの?
可愛い顔じゃない」
み「雷が鳴り始める11月末ごろから採れるから」
律「雷って、夏じゃないの?」
み「日本海側では、雷が鳴るのは冬なんだよ」
律「ふ~ん、そうなんだ」
まだ名残惜しそうな律子先生を引っ張って……。
ようやく、ハタハタ水槽前を離れます。
隣の水槽は、一転して淡水です。
『秋田の森と川』と題されてます。
どうやら水槽は館の外にあるようです。
それを、館の中からガラス越しに見てるわけですね。
わたしは昔から、里山の自然なんかが好きだったので……。
淡水魚には、興味津々です。
食べるのは苦手だけどね。
ヤマメも泳いでました。
川の断面図が見れるというコンセプトのようです。
なんか、ガラス板のアリの巣に通じるものがあるかも。
見てて飽きないだろうな。
『秋田の森と川』の水路は、人工ですが……。
新潟には、実際の川底に観察室が面してるという施設があるんです。
県北の村上市にある「イヨボヤ会館」。
村上市は、三面川(みおもてがわ)を遡る鮭の町として有名。
「イヨボヤ」ってのは、村上の言葉で「鮭」のこと。
この「イヨボヤ会館」の地下に……。
三面川の分流の種川を遡上してくる鮭の群れを、ガラス越しに観察できる施設があるんです。
対岸に揺れるススキは、本物の景色です。
わたしは、1度だけ行ったことがあります。
こういうのに見入ってると……。
時間があっという間に過ぎてしまうんですよね。
危ない危ない。
時間配分を考えなくちゃ。
み「次、行くよ」
律「もう?」
み「誰かさんのおかげで……。
ハタハタで、はなはだ時間食っちゃったから」
律「誰かさんが、秋田音頭なんか歌い出すからでしょ」
さて、次の水槽は……。
魚じゃありませんでした。
律「うわ。
きゃわいぃ~。
タマちゃんだ~」
み「タマちゃんとは、別人でしょ。
これは、ゴマフアザラシで……。
タマちゃんはアゴヒゲアザラシ」
律「でも、そっくり」
み「そりゃそうだろ。
同じアザラシなんだから。
律「水族館って、魚以外もいるんだね」
み「“水族”って括りなわけだから……。
魚類じゃなくてもいいわけでしょ」
律「でも、この子……。
すっごいマジメな顔で、こっち見てるよ」
み「ほんとはここは……。
アザラシのための『人族館』なのかも。
向こうから、人間を観察してるってわけだね」
律「あれは、観察してる目じゃないわよ」
み「どんな目?」
律「あなたに惚れましたって目」
み「……。
嬉しいわけ?」
律「別にぃ。
慣れてるから。
ほら」
律子先生が顎を向けた先には……。
例の女子大生2人組が(水着ではありませんが)。
み「次、行くよ!」
さて、実は次に向かったのが……。
この『男鹿水族館GAO』、いち押しの人気コーナー。
といっても、水槽ではありません。
そこにいたのは……。
律「うわ。
スゴい。
シロクマ!」
そう。
シロクマくんでした。
律「大っきいね-」
テレビで、里に現れたクマの映像とか見ますが……。
それとは比べものにならない大きさ。
シロクマは、地上最大の肉食獣なんです。
大きさを比べてみましょう。
律「でもさ……。
シロクマって、“水族”なの?」
み「いいんじゃない。
プールもあるし」
律「あ、こっち来るよ。
やっぱ、わたしが好きなんだ」
み「いったい……。
どっからその自信が……。
そもそも、オスなの?」
律「ぜったい男の子。
わたしを好きなのは、メスでも一緒だけどね。
ほら、来た」
一瞬……。
律子先生の言葉を信じかけましたが……。
どうやら違うようです。
シロクマくんのお部屋は、1箇所、館内に突き出してるとこがあります。
わたしたちが見てたのは、そこ。
彼は、一直線にそこにやって来たのです。
すぐかたわらに、飼育員さんがいました。
しゃがみ込んで、ガラスの下で、何かしてます。
育「豪太~」
律「ほら。
やっぱり男の子じゃん」
飼育員さんが呼ぶと、スゴい鼻息が聞こえてきました。
どうやらそこに、豪太くんの部屋と繋がる穴があるようです。
顔が、デカい!
こうしてるの見ると、太ったオッサンみたいですね。
飼育員さんが、穴から何か投げ込みました。
おやつの時間だったようです。
先生なんか、眼中にありません。
み「どうやら……。
先生がお目当てじゃなかったみたいね」
律「きっと、まだ子供なのよ。
色気より食い気ね」
み「幾つなんだろ?」
育「もうすぐ、7歳です」
おやつをやってた飼育員さんが答えてくださいました。
律「ほら、子供じゃん」
み「人間と一緒にしないでよ。
熊の7歳は、大人じゃないの?」
育「もう2年前から、発情期も確認されてますので……。
立派な大人ですね」
み「ほら、見なさい」
律「そうなの?
仕草なんか、可愛いのにね」
み「可愛いっていうか……。
ちょっと、アホなんじゃないの?」
律「被り物が好きなんですか?」
育「はぁ。
なぜか」
律「なまはげの影響かしら?」
み「なまはげなんか、見たことないでしょ」
育「いや、あるかも知れません」
律「なまはげが、水族館に来るんですか?」
育「はい。
お正月限定ですが……。
なまはげダイバーが登場します」
律「ま、なまはげの真似してるかどうかはともかくとして……。
精神的には、まだ子供なんじゃない」
み「結婚したら、大人になるのかもね」
律「それじゃ、お嫁さん見つけなくちゃ」
育「それなんです。
これには、苦労させられました」
律「どうして?
こんなにイケメンなのに?」
み「熊の顔にイケメンとかあるの?」
律「高貴そうな顔してるよ?」
み「そぉかぁ?」
律「で、どうしてお嫁さんが見つからないんです?」
育「そもそも、日本の動物園には、独身のメスがほとんどいないんです。
いても、どこの動物園でも人気者でしてね。
嫁に出してくれるようなところは無いのです」
み「婿取り娘ってわけですね。
シロクマの婚活も、大変なんだね」
育「でも、ようやく決まりそうなんですよ」
律「ホントに?
良かったね、豪太くん」
み「お嫁さんは、どこの子?」
育「釧路動物園にいる、ツヨシです」
律「ちょっと待って……。
ツヨシ?
いくら嫁が見つからないったって……。
ゲイ婚はマズいんじゃないですか?
第一、子供ができないでしょ」
育「いえ。
ツヨシは、メスなんです」
み「はぁ?
まさか……。
TS(Trans Sexual)?」
育「なんですそれ?」
み「『Mikipedia』の『トラ!トラ!トラ!』を読んでないな?」
育「は?」
み「つまり、『性転換手術』を受けたんじゃないの?」
育「なんで、シロクマが『性転換手術』を受けるんです?」
み「だから!
『性同一性障害』よ」
育「……。
そんなクマは、聞いたことありません」
み「それじゃ、何で“ツヨシ”を嫁にするわけ?」
豪太の方が、そっちの趣味なの?」
育「どうも誤解があるようですが……。
ツヨシは、れっきとしたメスなんです」
み「じゃ、なんで“ツヨシ”なんて名前なのよ?」
育「それが実は……。
長い間、オスだとばかり思われてたんですよ」
律「そんなことってあるの?」
育「あったんですね。
生まれたのは、札幌の円山動物園なんです」
育「当時、日本ハムに新庄選手がいましてね。
それで、ツヨシとなったわけです」
み「新庄剛志のツヨシだったのか……」
育「で、そのツヨシが、釧路動物園に婿入りしたんです」
み「間違われたまま?」
育「そうです」
律「ヒドすぎ」
育「婿取りのメスグマ・クルミとは、すぐに仲良くなったんで……。
2世誕生が期待されました。
でも……。
四六時中寄り添ってるくらい仲がいいのに……。
繁殖行動がまったく見られない。
で、こりゃおかしいと」
↑右:ツヨシ・左:クルミ
み「人間の方がおかしいワイ」
育「それで、跡取りが欲しい釧路動物園は、新しい婿を探すことになったわけで……。
わたしらにとっては、願ってもないチャンスですよ。
さっそく、見合いを申し入れました」
律「で、首尾は?」
育「上々です」
律「じゃ、決まりじゃない」
育「実は……。
もうひとり、候補がいましてね」
み「なに!
今度は、フタマタ?」
育「そういうわけでもないんですが……。
例の、ツヨシが婿入りした相手のクルミ……。
この子が、もうひとりの候補なんです」
み「どゆこと?」
育「クルミは13歳なのに対し、ツヨシは6歳。
釧路動物園としては……。
若いメスを残したい気持ちがあるんじゃないでしょうか」
律「結局、どっちに決まりそうなんです?」
育「クルミは、借り受けたオスと交尾をしてましてね。
今、妊娠してるかどうかを観察中なんです」
律「なるほど。
クルミちゃんが妊娠してれば……。
豪太のお嫁さんには、ツヨシちゃん。
妊娠してなければ、クルミちゃんってこと?」
育「そうです」
み「豪太としては……。
若い嫁の方がいいだろうな」
律「何でよ!」
み「普通、そう思うでしょ」
律「そうとも限らないわよ。
熟女の方が好きってオトコも、たくさんいるんだから」
育「はい!」
み「ちょっと……。
あなたもそうなの?」
飼育員さんの目は、律子先生を見つめたまま、ハート型になってました。
気に入らん。
ここで、ちょっと補足です。
↑のシーンは、10月9日の設定ですが……。
豪太の嫁取り話に、その後進展がありましたので、お知らせしておきます。
2010年の暮れも押し詰まった12月29日、毎日新聞に次のような記事が掲載されてました。
--------------------------------------------------
【毎日新聞】ホッキョクグマ「クルミ」(釧路市動物園)、出産に至らず/2010年12月29日
釧路市動物園(山口良雄園長)は28日、ホッキョクグマのメス「クルミ」(14歳)について「出産に至らないと判断した」と発表した。11月から産室に隔離して妊娠の兆候を見守ってきたが、「残念。今回の経験を生かして次の出産につなげたい」と話している。
クルミは、札幌・円山動物園から繁殖のため貸し出されていたオス「デナリ」(17歳)との間で1月に繁殖行動が確認されたことから、釧路市動物園は出産の可能性を11月以降と予測。11月4日から産室に隔離していた。
しかしその後、動物の性ステロイドホルモンと繁殖行動の研究に詳しい岐阜大学の調査で、クルミの妊娠を継続させるホルモンが7月をピークに低い値で推移していることが判明。他の関係データとも合わせて「出産の可能性は低い」と結論付けた。
同園では、秋田県男鹿市の「県立男鹿水族館GAO」のオス「豪太」(7歳)の“嫁”に、クルミか、もう1頭のメス「ツヨシ」(7歳)を貸し出す話があり、山口園長は「元々は『出産がないなら、繁殖適齢期のクルミを』との方針だったが、今後は繁殖計画で連携している道内の他の3園と協議して結論を出したい」と話している。【山田泰雄】
--------------------------------------------------
どうやら、クルミの線が濃厚みたいですね。
豪太の年齢が7歳となってるのは、誕生日が11月26日だからです。
律「あんなことして遊んでるの見ると……。
子供としか思えないよね」
み「毎日遊び暮らして……。
端の人間が、婚活までしてくれる。
野生とは大違い。
桂浜水族館のウミガメでも思ったけど……。
水族館暮らしって、幸せそう」
律「豪太は、野生を知らないの?」
み「あの顔見れば、わかるでしょ」
育「はい。
動物園生まれです」
み「げ。
まだいたの。
まぁいいや。
どこの動物園なんです?」
育「モスクワ動物園です」
み「そりゃまた、遠方から……」
育「実は、こいつが来るときも、大騒動だったんですよ」
律「聞きたい、聞きたい」
育「当初は……。
カナダのケベック動物園が引き取り手を募集してた……。
野生の子供2頭のどちらかを、もらい受けるつもりだったんです。
でも、向こうからは、難しい条件を付けられてました。
野生の子供は、2頭ともオスでしてね。
ケベック動物園の付けた条件は……。
ペアリングの出来るメスがいることでした」
み「そりゃ、無理な話でしょ。
メスグマがいるくらいなら……。
もう1頭、探したりしないじゃないね」
育「おっしゃるとおりです。
ま、一応当たってはみましたがね。
やはりダメでした。
結局この2頭は、オーストラリアのシーワールドに引き取られて行きました」
律「そこって、動物園?」
育「遊園地と水族館がひとつになったような、いわゆるアミューズメントパークです」
み「デカそうだね」
育「25万㎡あるそうです」
律「想像つかないわ。
相手が悪かったってことね」
育「ところが、ここでまた話が動くんです。
なんだか、ドミノ倒しみたいなんですがね」
「どういうこと?」
育「2頭を引き取ることになったシーワールドなんですが……。
実は、ロシアのモスクワ動物園とも交渉してたんです」
み「さすが、抜け目ないわ」
律「で、そっちとも話がまとまってしまった?」
み「交渉力がありすぎたってわけね」
育「で、そっちの1頭を……。
うちに、無期限で貸してくれることになったんです。
これが、豪太です」
律「めでたしめでたし」
育「でも結局、ここの開館には間に合わなかったんです。
シロクマは、GAOの目玉に据えてたんですけどね」
み「なんだ。
じゃ、開館式は、イマイチ盛り上がらなかっただろうね」
育「そうでもありません」
律「どゆこと?」
育「当時の佐藤一誠市長が……。
シロクマが間に合わなかったお詫びということで……。
暑い暑い7月13日の開館当日、シロクマの着ぐるみを着て、来館者をお迎えしたんです」
律・み「すげー」
育「報道陣もたくさん詰めかけて、大賑わいでした」
おやつを食べ終わった豪太くんは、また遊び始めました。
彼を巡って、人間たちが大騒動を起こしてたことなど……。
ボクには関係ないも~ん、って感じですね。
み「ちょっと、先生。
だいぶ時間食っちゃった。
まだ、3階もあるんだよ」
律「急ごう」
名残惜しそうな飼育員さんを残し、階段へ向かいます。
途中、ペンギンの水槽がありました。
深さのある水槽で、ペンギンが魚雷のように泳いでます。
ここにいるペンギンは、ジェンツーペンギン。
ペンギン界ナンバーワンのスピードを誇ります。
時速、35キロだそうです。
大したことないじゃんと、一瞬思いません?
でもこれ、とんでもないスピードなんですよ。
ちなみに、男子50メートル自由形の世界記録は、20秒91ですが……。
これを時速に換算すると、たったの8.6キロにしかなりません。
ジェンツーペンギンの時速35キロは、50メートルを、5秒14で泳ぐ計算になります。
さて、3階です。
そこには……。
懐かしい生き物がいました!
まずは、こいつ。
覚えてますか?
そう。
ピラルクです。
「大分に行こう!」で会いましたね。
別府の白池地獄でした(「大分に行こう!(Ⅰ)」をご参照ください)。
あそこは、いかにも見世物的でしたが……。
ここは、水族館。
それなりに、学術的でした。
さて、懐かしい顔が、もうひとつありました。
それは……。
コイツだ~!
覚えてますか?
コイツとは、「福島に行こう!」で会いました。
そう。
チンアナゴくんです。
『アクアマリンふくしま』でしたね(「福島に行こう!(Ⅱ)」をご参照ください)。
しかし、東北の人って、チンアナゴが好きなのかね?
それとも、全国的なブームなの?
律「ひえー。
可愛いね」
み「だしょー。
『アクアマリンふくしま』で、この子のぬいぐるみ売ってたんだ」
み「大きすぎて買えなかったのが、今でも残念」
律「あ、泳いだ」
み「うわ。
長げー」
初めて、チンアナゴの全貌を見ました。
こんなに長かったとは……。
ギョーチューみたいです。
チンアナゴに惹かれる方は……。
なぜか少なくないようです。
男鹿水族館を訪れた秋田市のシンガーソングライター渡部絢也さんは……。
このチンアナゴに惚れこみ……。
歌を作ってしまいました。
その名も「ちんあなごのうた」。
ご鑑賞ください。
この歌を聴いてから……。
サビの、「チン♪ チン♪ チンアナゴ♪ チンチンチンチン、チンアナゴ♪」が……。
しばらく脳裏から去りませんでした。
要注意です。
眼下の海は、いろんな形の岩が延々と続き……。
見ていて飽きません。
ガ「このあたりの男鹿西海岸は、『秋田三十景』の第1位に選ばれてております」
大桟橋を出て25分。
ようやくバスは速度を緩めました。
み「まもなく……。
午前中の立ち寄りポイント、『男鹿水族館GAO』に到着いたします。
揺れますのでご注意ください」
バスが大きくS路を切りながら、崖下に下りていきます。
10:40。
『男鹿水族館GAO』に到着です。
ガ「ここでは、見学時間を1時間取ってあります。
出発は11:40ですので、それまでにバスにお戻りください」
客「は~い」
『男鹿水族館GAO』の入館料は、1,000円です。
これが、観光バス料金の5,300円に、込みですからね。
実質、4,300円になっちゃいました。
律「Mikikoちゃん、ほら見て。
窓の外がすぐ海だよ」
み「海なら、ずっと見てきたでしょ。
早く!」
律「何あわててるの?
1時間もあるじゃない」
み「1時間なんてあっという間だよ。
急げ!」
律「引っ張らないでよ。
ほんとにもぅ。
子供連れて来たみたい」
館内マップは以下のとおり。
さっそく、1Fから見ていきましょう。
まず、わたしたちを迎えてくれたのが……。
『男鹿の海大水槽』。
律「おっきぃ~」
み「総水量は815トンで、それほど驚くことはないんだけどね。
由美ちゃんと行った『アクアマリンふくしま』の……。
『潮目の海』という大水槽は、2つ合わせて、2,050トンだったからね。
でも、『男鹿の海大水槽』の特徴は、その水深。
深さが8メートルもあるんだ」
律「ビルの2階分以上あるってことね」
み「北海道・東北エリアの水族館では、一番の深さ。
2,000匹の魚が泳いでるんだって」
律「ほんとに海の中を見てるみたい」
み「こっちから見たら、もっとそう思えるよ」
律「また引っ張る!
袖が伸びちゃうでしょ」
み「どう?」
律「すごーい。
ほんとに海の中だわ。
お魚が上に見える」
さて、ここであんまり時間を食ってるわけにはいきません。
時間が限られてますからね。
2Fに上がりましょう。
み「ほら、秋田名物がいる」
律「なに?」
み「ハタハタ」
ここは、ハタハタだけが泳ぐ水槽のようです。
律「ハタハタって、あの秋田音頭に出てくる魚?」
み「そう。
♪秋田名物 ハツモリハタハタ、オガデオガブリコ♪」
律「コリャコリャ♪」
み「違~う!
アーソレソレ♪」
律「それじゃ、もう一度!」
み「♪秋田名物 ハツモリハタハタ、オガデオガブリコ♪」
律「アーソレソレ♪」
み「……」
律「アーソレソレ♪」
み「後は、知りませぬ♪」
律「知らんのかい!
相の手まで入れさせといて。
じゃ、しつもーん!」
み「あ、何じゃいな♪」
律「それって、トンヤレ節じゃないの?」
み「宮さん、宮さん、お馬の前に、ひらひらするのは何じゃいな♪」
律「歌わんでいい!
質問、質問!」
み「質問を許可する」
律「なんで偉そうになるわけ?」
み「早くして!
ハタハタ水槽で、あんまり時間使えないんだから」
律「手間取らせてるのはどっちじゃ。
じゃ、取り急ぎ。
ハタハタはわかるけど……。
ハツモリって何?」
み「なんだろ?」
律「また、知らんのかい!
結局、何知ってるのよ?」
み「出だしの1節だけ」
律「こりゃダメだ」
「代わりに、わたしがお答えしましょう」
いきなり声を掛けられ……。
驚いて振り向くと……。
可愛いバスガイドさんでした。
律「お~。
ぜひお願いします。
この人、偉そうにしてるくせに、何にも知らないんだから」
ガ「一節歌えれば、たいしたものですわ。
“ハツモリ”というのは地名なんです。
標準語の発音では、“ハチモリ”。
八つの森と書いて、八森。
秋田県北部、青森県との境に、かつて八森町(はちもりまち)がありました」
“かつて”と云いましたのは……。
平成18年に、峰浜村と合併し……。
八峰町(はっぽうちょう)となったからです」
律「なるほど。
つまり、その八森の名物が、ハタハタってことね」
ガ「そうです」
律「じゃ、それに続く“オガデオガブリコ”の“オガ”は……。
男鹿半島の男鹿ですね?」
ガ「そのとおり~。
賢いですね~」
み「普通、わかるわい」
律「黙ってなさい。
わたしが、“オガデオガブリコ”を解明してあげるから。
“ハツモリハタハタ”が……。
八森の“ハタハタ”ってわけよね。
で、当然、“オガデオガブリコ”も、これと同じ作りのはず。
とすれば……。
男鹿の名物は、ずばり!
“デオガブリコ”ってことね。
……。
どうしたのよ?
2人ともずっこけて」
み「先生……。
ほんとに医学部出たの?
普通、そうは思わんだろ!
“デオガブリコ”ってなに?
デカプリオの親戚?」
可哀想に、バスガイドさんは……。
背中を震わせて笑ってます。
律「どうしてよ!
『地名』+『特産品』の組み合わせでしょ」
み「それはそうだけどさ。
歌なんだから……。
調子を合わせなきゃならないでしょ。
最初の“で”は、場所を表す助詞」
律「そんなもんなの?
スッキリしないな。
だから文系は嫌いよ。
じゃ、名産品の名は、“オガブリコ”ってこと?」
み「そうでなくてね……。
最初の“男鹿で”は、音数を合わせるために付けてあるわけ」
律「てことは……。
最初の“男鹿で”を取って考えればいいわけ?」
み「さようです」
律「つまり、“オガブリコ”が残るわけか。
当然、地名が男鹿で、名産がブリコになるわけね」
み「ようやくわかってくださいましたね」
律「わからんわい。
そもそも、ブリコって何よ?」
み「……。
一粒で二度美味しい?」
律「それは、グリコ!
律「もう!
助詞の講釈までしておいて、結局わかんないじゃない。
ガイドさん、お願いします」
ガ「ブリコというのは、ハタハタの卵のことです」
律「そうなの?
てことは……。
親のハタハタは、八森が名産で……。
子の卵は、男鹿の名産ってこと?
どゆこと?」
み「わかりません」
律「ガイドさ~ん?
あれ、どこ行っちゃったんだろ?」
バスガイドさんの姿は、風のように消えていました。
み「逃げたな……」
さて、ハタハタ水槽です。
ハタハタは、秋田県の県魚。
“しょっつる鍋”に必ず入ってます。
み「別名、カミナリウオだって」
律「えー。
なんでそんな怖い名前なの?
可愛い顔じゃない」
み「雷が鳴り始める11月末ごろから採れるから」
律「雷って、夏じゃないの?」
み「日本海側では、雷が鳴るのは冬なんだよ」
律「ふ~ん、そうなんだ」
まだ名残惜しそうな律子先生を引っ張って……。
ようやく、ハタハタ水槽前を離れます。
隣の水槽は、一転して淡水です。
『秋田の森と川』と題されてます。
どうやら水槽は館の外にあるようです。
それを、館の中からガラス越しに見てるわけですね。
わたしは昔から、里山の自然なんかが好きだったので……。
淡水魚には、興味津々です。
食べるのは苦手だけどね。
ヤマメも泳いでました。
川の断面図が見れるというコンセプトのようです。
なんか、ガラス板のアリの巣に通じるものがあるかも。
見てて飽きないだろうな。
『秋田の森と川』の水路は、人工ですが……。
新潟には、実際の川底に観察室が面してるという施設があるんです。
県北の村上市にある「イヨボヤ会館」。
村上市は、三面川(みおもてがわ)を遡る鮭の町として有名。
「イヨボヤ」ってのは、村上の言葉で「鮭」のこと。
この「イヨボヤ会館」の地下に……。
三面川の分流の種川を遡上してくる鮭の群れを、ガラス越しに観察できる施設があるんです。
対岸に揺れるススキは、本物の景色です。
わたしは、1度だけ行ったことがあります。
こういうのに見入ってると……。
時間があっという間に過ぎてしまうんですよね。
危ない危ない。
時間配分を考えなくちゃ。
み「次、行くよ」
律「もう?」
み「誰かさんのおかげで……。
ハタハタで、はなはだ時間食っちゃったから」
律「誰かさんが、秋田音頭なんか歌い出すからでしょ」
さて、次の水槽は……。
魚じゃありませんでした。
律「うわ。
きゃわいぃ~。
タマちゃんだ~」
み「タマちゃんとは、別人でしょ。
これは、ゴマフアザラシで……。
タマちゃんはアゴヒゲアザラシ」
律「でも、そっくり」
み「そりゃそうだろ。
同じアザラシなんだから。
律「水族館って、魚以外もいるんだね」
み「“水族”って括りなわけだから……。
魚類じゃなくてもいいわけでしょ」
律「でも、この子……。
すっごいマジメな顔で、こっち見てるよ」
み「ほんとはここは……。
アザラシのための『人族館』なのかも。
向こうから、人間を観察してるってわけだね」
律「あれは、観察してる目じゃないわよ」
み「どんな目?」
律「あなたに惚れましたって目」
み「……。
嬉しいわけ?」
律「別にぃ。
慣れてるから。
ほら」
律子先生が顎を向けた先には……。
例の女子大生2人組が(水着ではありませんが)。
み「次、行くよ!」
さて、実は次に向かったのが……。
この『男鹿水族館GAO』、いち押しの人気コーナー。
といっても、水槽ではありません。
そこにいたのは……。
律「うわ。
スゴい。
シロクマ!」
そう。
シロクマくんでした。
律「大っきいね-」
テレビで、里に現れたクマの映像とか見ますが……。
それとは比べものにならない大きさ。
シロクマは、地上最大の肉食獣なんです。
大きさを比べてみましょう。
律「でもさ……。
シロクマって、“水族”なの?」
み「いいんじゃない。
プールもあるし」
律「あ、こっち来るよ。
やっぱ、わたしが好きなんだ」
み「いったい……。
どっからその自信が……。
そもそも、オスなの?」
律「ぜったい男の子。
わたしを好きなのは、メスでも一緒だけどね。
ほら、来た」
一瞬……。
律子先生の言葉を信じかけましたが……。
どうやら違うようです。
シロクマくんのお部屋は、1箇所、館内に突き出してるとこがあります。
わたしたちが見てたのは、そこ。
彼は、一直線にそこにやって来たのです。
すぐかたわらに、飼育員さんがいました。
しゃがみ込んで、ガラスの下で、何かしてます。
育「豪太~」
律「ほら。
やっぱり男の子じゃん」
飼育員さんが呼ぶと、スゴい鼻息が聞こえてきました。
どうやらそこに、豪太くんの部屋と繋がる穴があるようです。
顔が、デカい!
こうしてるの見ると、太ったオッサンみたいですね。
飼育員さんが、穴から何か投げ込みました。
おやつの時間だったようです。
先生なんか、眼中にありません。
み「どうやら……。
先生がお目当てじゃなかったみたいね」
律「きっと、まだ子供なのよ。
色気より食い気ね」
み「幾つなんだろ?」
育「もうすぐ、7歳です」
おやつをやってた飼育員さんが答えてくださいました。
律「ほら、子供じゃん」
み「人間と一緒にしないでよ。
熊の7歳は、大人じゃないの?」
育「もう2年前から、発情期も確認されてますので……。
立派な大人ですね」
み「ほら、見なさい」
律「そうなの?
仕草なんか、可愛いのにね」
み「可愛いっていうか……。
ちょっと、アホなんじゃないの?」
律「被り物が好きなんですか?」
育「はぁ。
なぜか」
律「なまはげの影響かしら?」
み「なまはげなんか、見たことないでしょ」
育「いや、あるかも知れません」
律「なまはげが、水族館に来るんですか?」
育「はい。
お正月限定ですが……。
なまはげダイバーが登場します」
律「ま、なまはげの真似してるかどうかはともかくとして……。
精神的には、まだ子供なんじゃない」
み「結婚したら、大人になるのかもね」
律「それじゃ、お嫁さん見つけなくちゃ」
育「それなんです。
これには、苦労させられました」
律「どうして?
こんなにイケメンなのに?」
み「熊の顔にイケメンとかあるの?」
律「高貴そうな顔してるよ?」
み「そぉかぁ?」
律「で、どうしてお嫁さんが見つからないんです?」
育「そもそも、日本の動物園には、独身のメスがほとんどいないんです。
いても、どこの動物園でも人気者でしてね。
嫁に出してくれるようなところは無いのです」
み「婿取り娘ってわけですね。
シロクマの婚活も、大変なんだね」
育「でも、ようやく決まりそうなんですよ」
律「ホントに?
良かったね、豪太くん」
み「お嫁さんは、どこの子?」
育「釧路動物園にいる、ツヨシです」
律「ちょっと待って……。
ツヨシ?
いくら嫁が見つからないったって……。
ゲイ婚はマズいんじゃないですか?
第一、子供ができないでしょ」
育「いえ。
ツヨシは、メスなんです」
み「はぁ?
まさか……。
TS(Trans Sexual)?」
育「なんですそれ?」
み「『Mikipedia』の『トラ!トラ!トラ!』を読んでないな?」
育「は?」
み「つまり、『性転換手術』を受けたんじゃないの?」
育「なんで、シロクマが『性転換手術』を受けるんです?」
み「だから!
『性同一性障害』よ」
育「……。
そんなクマは、聞いたことありません」
み「それじゃ、何で“ツヨシ”を嫁にするわけ?」
豪太の方が、そっちの趣味なの?」
育「どうも誤解があるようですが……。
ツヨシは、れっきとしたメスなんです」
み「じゃ、なんで“ツヨシ”なんて名前なのよ?」
育「それが実は……。
長い間、オスだとばかり思われてたんですよ」
律「そんなことってあるの?」
育「あったんですね。
生まれたのは、札幌の円山動物園なんです」
育「当時、日本ハムに新庄選手がいましてね。
それで、ツヨシとなったわけです」
み「新庄剛志のツヨシだったのか……」
育「で、そのツヨシが、釧路動物園に婿入りしたんです」
み「間違われたまま?」
育「そうです」
律「ヒドすぎ」
育「婿取りのメスグマ・クルミとは、すぐに仲良くなったんで……。
2世誕生が期待されました。
でも……。
四六時中寄り添ってるくらい仲がいいのに……。
繁殖行動がまったく見られない。
で、こりゃおかしいと」
↑右:ツヨシ・左:クルミ
み「人間の方がおかしいワイ」
育「それで、跡取りが欲しい釧路動物園は、新しい婿を探すことになったわけで……。
わたしらにとっては、願ってもないチャンスですよ。
さっそく、見合いを申し入れました」
律「で、首尾は?」
育「上々です」
律「じゃ、決まりじゃない」
育「実は……。
もうひとり、候補がいましてね」
み「なに!
今度は、フタマタ?」
育「そういうわけでもないんですが……。
例の、ツヨシが婿入りした相手のクルミ……。
この子が、もうひとりの候補なんです」
み「どゆこと?」
育「クルミは13歳なのに対し、ツヨシは6歳。
釧路動物園としては……。
若いメスを残したい気持ちがあるんじゃないでしょうか」
律「結局、どっちに決まりそうなんです?」
育「クルミは、借り受けたオスと交尾をしてましてね。
今、妊娠してるかどうかを観察中なんです」
律「なるほど。
クルミちゃんが妊娠してれば……。
豪太のお嫁さんには、ツヨシちゃん。
妊娠してなければ、クルミちゃんってこと?」
育「そうです」
み「豪太としては……。
若い嫁の方がいいだろうな」
律「何でよ!」
み「普通、そう思うでしょ」
律「そうとも限らないわよ。
熟女の方が好きってオトコも、たくさんいるんだから」
育「はい!」
み「ちょっと……。
あなたもそうなの?」
飼育員さんの目は、律子先生を見つめたまま、ハート型になってました。
気に入らん。
ここで、ちょっと補足です。
↑のシーンは、10月9日の設定ですが……。
豪太の嫁取り話に、その後進展がありましたので、お知らせしておきます。
2010年の暮れも押し詰まった12月29日、毎日新聞に次のような記事が掲載されてました。
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【毎日新聞】ホッキョクグマ「クルミ」(釧路市動物園)、出産に至らず/2010年12月29日
釧路市動物園(山口良雄園長)は28日、ホッキョクグマのメス「クルミ」(14歳)について「出産に至らないと判断した」と発表した。11月から産室に隔離して妊娠の兆候を見守ってきたが、「残念。今回の経験を生かして次の出産につなげたい」と話している。
クルミは、札幌・円山動物園から繁殖のため貸し出されていたオス「デナリ」(17歳)との間で1月に繁殖行動が確認されたことから、釧路市動物園は出産の可能性を11月以降と予測。11月4日から産室に隔離していた。
しかしその後、動物の性ステロイドホルモンと繁殖行動の研究に詳しい岐阜大学の調査で、クルミの妊娠を継続させるホルモンが7月をピークに低い値で推移していることが判明。他の関係データとも合わせて「出産の可能性は低い」と結論付けた。
同園では、秋田県男鹿市の「県立男鹿水族館GAO」のオス「豪太」(7歳)の“嫁”に、クルミか、もう1頭のメス「ツヨシ」(7歳)を貸し出す話があり、山口園長は「元々は『出産がないなら、繁殖適齢期のクルミを』との方針だったが、今後は繁殖計画で連携している道内の他の3園と協議して結論を出したい」と話している。【山田泰雄】
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どうやら、クルミの線が濃厚みたいですね。
豪太の年齢が7歳となってるのは、誕生日が11月26日だからです。
律「あんなことして遊んでるの見ると……。
子供としか思えないよね」
み「毎日遊び暮らして……。
端の人間が、婚活までしてくれる。
野生とは大違い。
桂浜水族館のウミガメでも思ったけど……。
水族館暮らしって、幸せそう」
律「豪太は、野生を知らないの?」
み「あの顔見れば、わかるでしょ」
育「はい。
動物園生まれです」
み「げ。
まだいたの。
まぁいいや。
どこの動物園なんです?」
育「モスクワ動物園です」
み「そりゃまた、遠方から……」
育「実は、こいつが来るときも、大騒動だったんですよ」
律「聞きたい、聞きたい」
育「当初は……。
カナダのケベック動物園が引き取り手を募集してた……。
野生の子供2頭のどちらかを、もらい受けるつもりだったんです。
でも、向こうからは、難しい条件を付けられてました。
野生の子供は、2頭ともオスでしてね。
ケベック動物園の付けた条件は……。
ペアリングの出来るメスがいることでした」
み「そりゃ、無理な話でしょ。
メスグマがいるくらいなら……。
もう1頭、探したりしないじゃないね」
育「おっしゃるとおりです。
ま、一応当たってはみましたがね。
やはりダメでした。
結局この2頭は、オーストラリアのシーワールドに引き取られて行きました」
律「そこって、動物園?」
育「遊園地と水族館がひとつになったような、いわゆるアミューズメントパークです」
み「デカそうだね」
育「25万㎡あるそうです」
律「想像つかないわ。
相手が悪かったってことね」
育「ところが、ここでまた話が動くんです。
なんだか、ドミノ倒しみたいなんですがね」
「どういうこと?」
育「2頭を引き取ることになったシーワールドなんですが……。
実は、ロシアのモスクワ動物園とも交渉してたんです」
み「さすが、抜け目ないわ」
律「で、そっちとも話がまとまってしまった?」
み「交渉力がありすぎたってわけね」
育「で、そっちの1頭を……。
うちに、無期限で貸してくれることになったんです。
これが、豪太です」
律「めでたしめでたし」
育「でも結局、ここの開館には間に合わなかったんです。
シロクマは、GAOの目玉に据えてたんですけどね」
み「なんだ。
じゃ、開館式は、イマイチ盛り上がらなかっただろうね」
育「そうでもありません」
律「どゆこと?」
育「当時の佐藤一誠市長が……。
シロクマが間に合わなかったお詫びということで……。
暑い暑い7月13日の開館当日、シロクマの着ぐるみを着て、来館者をお迎えしたんです」
律・み「すげー」
育「報道陣もたくさん詰めかけて、大賑わいでした」
おやつを食べ終わった豪太くんは、また遊び始めました。
彼を巡って、人間たちが大騒動を起こしてたことなど……。
ボクには関係ないも~ん、って感じですね。
み「ちょっと、先生。
だいぶ時間食っちゃった。
まだ、3階もあるんだよ」
律「急ごう」
名残惜しそうな飼育員さんを残し、階段へ向かいます。
途中、ペンギンの水槽がありました。
深さのある水槽で、ペンギンが魚雷のように泳いでます。
ここにいるペンギンは、ジェンツーペンギン。
ペンギン界ナンバーワンのスピードを誇ります。
時速、35キロだそうです。
大したことないじゃんと、一瞬思いません?
でもこれ、とんでもないスピードなんですよ。
ちなみに、男子50メートル自由形の世界記録は、20秒91ですが……。
これを時速に換算すると、たったの8.6キロにしかなりません。
ジェンツーペンギンの時速35キロは、50メートルを、5秒14で泳ぐ計算になります。
さて、3階です。
そこには……。
懐かしい生き物がいました!
まずは、こいつ。
覚えてますか?
そう。
ピラルクです。
「大分に行こう!」で会いましたね。
別府の白池地獄でした(「大分に行こう!(Ⅰ)」をご参照ください)。
あそこは、いかにも見世物的でしたが……。
ここは、水族館。
それなりに、学術的でした。
さて、懐かしい顔が、もうひとつありました。
それは……。
コイツだ~!
覚えてますか?
コイツとは、「福島に行こう!」で会いました。
そう。
チンアナゴくんです。
『アクアマリンふくしま』でしたね(「福島に行こう!(Ⅱ)」をご参照ください)。
しかし、東北の人って、チンアナゴが好きなのかね?
それとも、全国的なブームなの?
律「ひえー。
可愛いね」
み「だしょー。
『アクアマリンふくしま』で、この子のぬいぐるみ売ってたんだ」
み「大きすぎて買えなかったのが、今でも残念」
律「あ、泳いだ」
み「うわ。
長げー」
初めて、チンアナゴの全貌を見ました。
こんなに長かったとは……。
ギョーチューみたいです。
チンアナゴに惹かれる方は……。
なぜか少なくないようです。
男鹿水族館を訪れた秋田市のシンガーソングライター渡部絢也さんは……。
このチンアナゴに惚れこみ……。
歌を作ってしまいました。
その名も「ちんあなごのうた」。
ご鑑賞ください。
この歌を聴いてから……。
サビの、「チン♪ チン♪ チンアナゴ♪ チンチンチンチン、チンアナゴ♪」が……。
しばらく脳裏から去りませんでした。
要注意です。