Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
東北に行こう!(5)
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「いいとこそうだね」
千秋公園の風景

「桜の名所らしいよ」
桜の名所・千秋公園

 さすがに、この程度の知識はありました。
 ま、城跡公園ってのは、たいがい桜の名所ですけどね。

 東北では、弘前城(弘前公園)が有名。
弘前城(弘前公園)の桜

 新潟では、高田城(高田公園)。
高田城(高田公園)の桜

 どちらも、「さくらの名所100選」に選ばれてます。
 もちろん!
 千秋公園も、入ってます。

 ちなみに千秋公園は、ほかにもいろいろな「100選」に選ばれてます。
 「日本の歴史公園100選」。
 「日本の都市公園100選」。
 「日本100名城」。

 全国的には、あまり知られてませんが……。
 かなり評価の高い公園のようですね。

 あ、「千秋」の謂われを書いてませんでしたね。
 命名者は、秋田県出身の漢学者・狩野良知(かのうりょうち・1829年【文政12】~1906年【明治39】)。
 “秋”はもちろん、秋田の秋です。
 そこに、長久を意味する“千”を冠して……。
 千秋。
 いい名前ですよね。
 秋田市には、“千秋(ちあき)”という名前の子が多いんじゃないでしょうか?
 きっと美人だろうな。

 千秋公園は、前にも書いたとおり、佐竹氏の居城、久保田城の城跡です。
千秋公園は、久保田城の城跡

 久保田は、地名のようですね。

 その久保田城ですが……。
 大政奉還により、一旦は国のものとなりました。
 しかし、明治23年、佐竹氏に払い下げられます。
 同時に、秋田市が佐竹氏より借り受け、千秋公園として開放されました。
 昭和28年には、14万6千㎡(4万4千坪!)の土地が、佐竹氏から秋田市に寄贈され……。
 名実ともに、市民公園となったとか。

 春は、桜。
千秋公園・春は、桜

 夏は、葉緑。
千秋公園・夏は、葉緑

 秋は、紅葉。
千秋公園・秋は、紅葉

 冬は、雪。
千秋公園・冬は、雪

 1年を通して、市民の憩いの場所となっています。

 こういう公園が、駅の真ん前にあるのは……。
千秋公園位置図

 うらやましい限りです。

 今日は、あまり時間を取れないので……。
 さわりだけ、見て行きましょう。

 絵図がありました。
千秋公園の絵図

 今いるのは……。
 バス通りの広小路から、堀を渡ったあたりですね。
 とりあえず、真っ直ぐ行ってみましょう。

 長い坂を登ります。
千秋公園・長い坂

 ようやく、大きな門が見えてきました。
 久保田城の表門です。
久保田城の表門

 と言っても、10年ほど前に再建されたものですけど。
 20万石の表門……。
 さすがに立派ですね。
立派な久保田城表門

 絵図を見ると……。
 一番左奥に、御隅櫓(おすみやぐら)というのがあります。
久保田城御隅櫓

 でも、そこまで足を伸ばすと……。
 朝ご飯の時間に響きそうです。
 このへんを一回りして、引き返すことにしましょう。
 後から調べたら、この判断は正解。
 御隅櫓の観覧時間は、9時からでした。

 紅葉前の木々は、まだ青々とした葉を付けてます。
千秋公園・紅葉前

律「紅葉のころ、もう一度来てみたいな」
み「紅葉もいいけど……。
 桜も捨てがたいよ。
 桜を追って北上する旅なんて、どう?」
桜前線

律「乗った」

 さて、バスを降りた広小路まで戻りましょう。
千秋公園前・広小路

み「じゃ、当初の予定通り……。
 市場まで歩こう」

 千秋公園入口のバス停からは……。
 徒歩、6~7分。
秋田市民市場位置図

み「着きました」
秋田市民市場の看板

律「ここ?」
秋田市民市場の入口

み「どうしたの?
 きょとんとしちゃって」
律「だって。
 イメージとぜんぜん違うんだもの」
み「ひょっとして……。
 露天の朝市を想像してた?」
露天の朝市

律「それそれ」
み「確かに露天の方が、風情はあるけどね」
律「なんで、こんなとこ入っちゃったの?」
み「もちろん……。
 雪だよ。
 雪国で、露天の市場だったら……。
 冬期休業になっちゃうでしょ」
律「あ、そうか」
み「新潟市の本町市場も……。
 アーケードの下だしね」
新潟市の本町市場

律「なるほど。
 でもここ、相当新しいんじゃない?」
み「平成13年(2001年)に建て替えられてる。
 この建物は、二代目だって。
 初代の屋根付き市場が建ったのは……。
 昭和39年(1964年)のこと」
律「えー。
 わたしの生まれるより、ずっと前じゃない」
み「ほんま?」
律「あたりまえでしょ!」

 秋田市民市場の入口を入ると……。
 吹き抜けの広場になってました。
秋田市民市場・なんでも広場

律「なんだ。
 いきなり、お食事どころがあるじゃない。
 “やきやきあん”?」
秋田市民市場・焼焼庵

み「『焼焼庵』と書いて……。
 “ふうふうあん”と読ませるみたい」
秋田市民市場・ふうふうあん

律「ムリがあるでしょ」
み「承知の上でしょうね。
 魚介類の炭火焼き系みたいだよ」
律「あっちのお店は……。
 回転寿司らしいね。
 『いちばん寿司』」
秋田市民市場・いちばん寿司

律「これは、読み違えようがないわ」
み「でも……。
 両方とも、まだやってないよ」
律「そうみたいね。
 何時から開くのかな?」
み「これは、事前に調べてある。
 11時半だって」
律「うそ。
 お昼まで開かないの?
 何でよ?
 築地とか、市場の食物屋さんって……。
 朝からやってない?」
み「わたしに文句言わないでちょうだい。
 この2軒のお店は……。
 市場直営なんだけどさ」
律「じゃ、なおさらじゃないのよ」
み「確かに。
 で、わたしは……。
 ある疑いを持っておる」
律「何?」
み「ひょっとしたら……。
 市場の売れ残りを、材料に使うからじゃないかって」
律「う。
 そりゃ、ちょっとエグかろ……」
み「ま、これはさすがに穿ちすぎだろうね。
 たぶんほんとは……。
 店員さんが、朝方、市場で別の仕事をしてるからかな?」
律「なるほど」
み「でも、売れ残りの転用を、疑われても仕方ない開店時間ではあるよな」
律「ちょっと……。
 それじゃ、わたしたちの朝ご飯はどうなるのよ?
 11時半まで、市場回って過ごすわけ?」
み「なわけないでしょ。
 直営店以外に、テナントとして入ってるお店もあるんだよ。
 そういうとこは、朝早くからやってる」
律「良かった~」

 吹き抜けの広場には……。
 テーブルやイスもありました。
秋田市民市場・なんでも広場のテーブルとイス

律「なんだ。
 朝ご飯を市場で買って……。
 ここで食べてもいいんじゃない?」
み「でも、すぐ食べられるものなんて……。
 売ってるかね?
 野菜とか魚とか、生のばっかりじゃないの?」
律「あ、そうか……」
み「それに、この席……。
 使用料を取るみたい」
律「げ」
み「ホームページ見て、ちょっと驚いた。
 テーブルは、1日420円。
 イスは、105円だって」
秋田市民市場・なんでも広場のテーブルとイスの賃料

律「うっかり、座れないんだね」
み「駅まで5分くらいだからね。
 もし、タダにしちゃったら……。
 高校生の溜まり場になっちゃうんじゃない?」
律「なるほど」

 ↓こんなイベントに使われるスペースのようです。
秋田市民市場・なんでも広場のイベント

 ↓秋田市民市場のフロアマップ。
秋田市民市場のフロアマップ

 これでは見にくいと思うので……。
 秋田市民市場のホームページをご覧ください。

 さて、広場を抜けると……。
 お店がひしめくように並んでます。
秋田市民市場・お店へ

 さまざまな食材の放つ、独特の匂いが……。
 屋内なので、いっそう鼻を打ちますね。

み「こんなに早くから……。
 けっこう、人が歩いてるもんだね」
秋田市民市場・賑わい

律「まだ、7時過ぎだよ。
 何時からやってんの?」
み「5時からみたい」
律「さすが……。
 東北の人は、早起きだね」
み「朝食前に買い物出来て、便利なんじゃないの?
 ざっと、見て回ろう」

 とりあえず、入口の広場から……。
 一番右手の通りを、進んでみます。
 ここは、「食品・雑貨・衣料通り」。
 その名のとおり……。
 パン屋さんや、お菓子屋さん、衣料品のお店などが並んでます。

 1本通りを移ると、八百屋さんがずらりと並びます。
 「青果通り」。
秋田市民市場・青果通り

律「けっこう、競争厳しいんじゃないの?」

 通りを、もう1本移ると……。
 「乾物・青果通り」。
 八百屋さんに混じり、乾物屋さんや佃煮屋さんが増えてきます。
秋田市民市場・乾物青果通り

律「なんだ、お総菜もあるじゃん」
秋田市民市場・お総菜屋

み「ほんとだ。
 広場のテーブルさえ、タダで使えたらね。
 白いご飯だけ持ってくれば……。
 ご飯食べられるのに」
律「そういうヤツがいるから……。
 有料にしてるのかも」

 次の通りに移ると……。
 乾物屋さんに、魚屋さんが混じってきます。
 「塩干し・乾物通り」と「水産通り」。
秋田市民市場・塩干し乾物通り/水産通り

み「宅配便の窓口まであるね」
秋田市民市場・宅配便の窓口

律「観光客でも、買い物出来るってわけね」
み「ATMもあったから……。
 買いすぎても大丈夫か」
秋田市民市場・ATM

律「ま、クレジット決済は、ムリでしょうからね」

 ここで、観光で行かれる方に、ひとこと。
 この市場、日曜日がお休みですので、ご注意ください。

 さて、もう1本移ると、完全に魚屋さんの通り。
 「水産通り」。
秋田市民市場・水産通り

 この通りで、行き止まりのようです。

 市場の建物は、2階建て。
 でも、2階は、100均や美容室なので……。
 観光客には、用が無さそうです。
秋田市民市場・2階

 さて、魚屋さんの通りを突き当たると……。
 お目当ての食堂街。
秋田市民市場・食堂街

 “街”と言っても、たった3軒ですけど。

律「みんな開いてるみたいだね」
み「ちょっと提案なんですけど……」
律「何?」
み「やっぱり市場の食堂だけあって……。
 定食系のお店は、海鮮ものが名物らしいんだ」
律「なるほど」
み「でさ。
 わたし、生魚がダメなわけでしょ」
律「それで、新潟でもニワトリ食べさせられたっけね」
み「美味しかったでしょ!」
律「うん。
 味には大満足」
み「で、秋田でも……。
 海鮮系は、出来ればパスしたいわけ」
律「ふーむ。
 ほかに、どんな美味しいものがあるの?
 その答え次第だねー」
み「1軒だけ、ラーメン屋さんなんだよ。
 “朝ラー”にしない?」
律「ほー。
 ちょっと、意表突いてきたね。
 “朝ラー”か……。
 夕べのカラ揚げが、がっつり系だったから……。
 朝は麺ってのも、ありかな」
み「決まり!」

 律子先生の気が変わらないうちに……。
 腕を取って、お店の前に。
秋田市民市場・支那そば伊藤

律「『支那そば伊藤』?
 すごい地味な名前」
み「有名なお店なんだよ」

 上の写真は、市場内からの入口です。
 でも、この『支那そば伊藤』には、市場の外にも入口があるんです。
秋田市民市場・支那そば伊藤/市場の外の入口

 外の入口の脇には……。
 お店の由来が掲げてあります。
秋田市民市場・支那そば伊藤/市場の外の入口に掲げられたお店の由来

 この由来にある「十文字中華そば」ですが……。
 秋田のご当地ラーメンとして、有名なんです。
 といっても……。
 秋田市のラーメンではありません。
 秋田県第2の都市、横手市。
秋田県横手市

 カマクラで有名なところですね。
秋田県横手市のカマクラ

 横手のB級グルメでは……。
 目玉焼きの乗った「横手やきそば」の方が、メジャーでしょう。
秋田県横手市の横手やきそば

 なにしろ、2009年「B-1グランプリ」で優勝してますから(開催地という地元の利もあったでしょうが……)。
2009年「B-1グランプリ」

 で、「十文字中華そば」のルーツは……。
 横手市の十文字地区にあります。
 横手から、奥羽本線を3駅南下すると、十文字という駅があります。
奥羽本線十文字駅

 ここは昔、十文字町(じゅうもんじまち)だったところ。
 十文字町は、平成17年(2005年)の市町村合併により、横手市となりました。

 さて、「十文字中華そば」。
 その特徴を、ざっと解説します。

 まずは、スープから。
 煮干しや鰹節などを使った魚介系の出汁です。
 和風醤油味のあっさりスープ。

 具材は、チャーシュー、メンマ、ネギ、ノリなど。
 オーソドックスですね。
 プラス、麩が入るのが、特徴と言えば特徴です。
 昔の駅前食堂にあったような、いわゆる“支那そば”系。

 麺にも特徴があります。
 “かんすい”を用いてないんですね。
 はて、“かんすい”とは何ぞやということですが……。
 わたしも、元々知ってたわけじゃないので……。
 Wikipediaから、抜粋します。
-------------------------------------------------------
 鹸水(かんすい)は、中華麺やワンタンの皮などに食品添加物として加えるアルカリ塩水溶液である。
 モンゴル(現内蒙古)で偶然、鹸水(塩湖のアルカリ塩水)を使った製麺技法が発見され、麺類の伝播とともに日本にも広がった。
 本来、麺のコシを高めるために用いられるが、副次的要素として麺の色調が向上する(黄色みを帯びる)効果もある。このため、日本で製麺される中華麺には欠かせない成分である。
 忌避される副次効果として、かん水独特の臭気と苦味の発生がある。
-------------------------------------------------------
 よくわかりませんが……。
 中華麺に欠かせない成分とあるからには……。
 どうやら、黄色くて腰がある麺を作る成分らしいですね。
 わたしは今まで、あの黄色は、卵を使うからだとばっかり思ってました。
 違ったんですね。
 となると、“かんすい”が入ってなければ、中華麺じゃないんじゃないの?
 ……って気もしますが……。
 「十文字中華そば」を名乗るからには……。
 ちゃんと、“中華”なんでしょうね。
 この“かんすい”を使わない、極細の縮れ麺こそが……。
 「十文字中華そば」の最大の特徴のようです。
十文字中華そば・極細の縮れ麺

 やっぱり、黄色みが薄い感じですよね。
 インスタントラーメンみたい?

 「十文字中華そば」の誕生は、昭和10年ころ。
 現在も営業してる「マルタマ」さんで出されたのが始まりとか。
十文字中華そば・マルタマ

 重労働の多かった時代……。
 こんなあっさりラーメンが誕生したのは、ちょっと不思議な気もしますが……。
 どうやらこのラーメン……。
 三食とは別に、おやつとして食べられてたようです。

 で、この「十文字中華そば」には、名店と呼ばれるお店が、3つあります。
 元祖の「マルタマ」。
十文字中華そば・「マルタマ」のラーメン

 確かに、麩が入ってますね。

 あとは、「丸竹食堂」。
十文字中華そば・「丸竹食堂」のラーメン

 そして……。
 「名代三角そばや」。
十文字中華そば・「名代三角そばや」のラーメン

 「支那そば伊藤」の玄関前にあった立て看板には……。
 『「十文字中華そば」の名店で修行を積み』とありますが……。
 この名店は、「名代三角そばや」さんだそうです。

 さっそく、お店に入りましょう。
 今の時間は、朝8時。
 満員ではありませんが、けっこうお客さんがいます。
 お店は、7時から開いてますので……。
 朝ラーにはうってつけなんですね。

律「カウンターでいいよね」
み「その前に、券売機」
律「あ、食券買うのか」
支那そば伊藤・券売機

律「何にしようかな……。
 ん?」
支那そば伊藤・券売機

律「なんだ。
 けっこうメニューがあると思ったら……。
 盛り方が違うだけじゃん。
 下の方は、トッピングのオプションだし」
み「メニューが多くても、全部食べられるわけじゃないでしょ」
律「そりゃそうだけど。
 結局……。
 お醤油の『中華そば』と……。
 『みそ中華』だけじゃない。
 あとは……。
 何、これ?
 『そのまんま冷やし』?
 これって、冷やし中華?」
支那そば伊藤・券売機/そのまんま冷やし

み「さようです」
律「“そのまんま東”の洒落だってのはわかるけど……。
 どう繋げてるんだろ?
 わかった。
 宮崎名物の具が、ずらっと載ってるんだ。
 宮崎牛とかさ。
 美味しそうだな」
み「それにする?」
律「そうだねー。
 Mikiちゃんは?」
み「わたしは、普通の『中華そば』にする」
律「じゃ、わたしは『みそ中華』にしようかな?」
「ダメ!
 『そのまんま冷やし』にしなさい」
律「何でよ?」
み「その方が面白いでしょ。
 帰ってからも、ネタに出来るよ」
律「別に、ネタ作りに来たわけじゃないですから。
 コメント面白くしたかったら……。
 Mikiちゃんが食べればいいじゃない?」
み「だから……。
 半分こすればいいの。
 半分食べたら取り替えっこ」
律「そうか。
 そんならいいや」

 てことで、『中華そば』と『そのまんま冷やし』の食券を購入。

 店内は、4人掛けのテーブル席がいくつかと……。
 あとは、L字のカウンター。
支那そば伊藤・店内

 15人も入れば、満員でしょうか?
 店内は新しく……。
 いかにも“ラーメン屋”的なアトモスフィアは醸されてません。
 この点、女性でも抵抗無く入れるんじゃないでしょうか?

 カウンターに座ります。
 カウンターの上にも、外玄関と同じ看板が掲げられてました。
支那そば伊藤・店内/店の由来

 お品書きもありますが……。
支那そば伊藤・店内/お品書き

 食券買うんだから、あんまり意味ないんじゃ……?

 待つことしばし。

「お待ち!」

 威勢のいい声とともに、わたしの前に『中華そば』が置かれました。

「へー。
 綺麗なラーメンだね」
支那そば伊藤・中華そば

 律子先生が覗きこんできました。

み「ちゃんとわけてあげるから……。
 うらやましそうな声出さないの」

 薄い飴色をした透明なスープに……。
 細い縮れ麺が沈んでます。
支那そば伊藤・細い縮れ麺

 まさしく、“支那そば”という名称にぴったり。
 オプションのトッピングは、追加しなかったんですが……。
 みんな載ってるみたいですね。
 「十文字中華そば」の特徴である、麩も入ってます。
 どうして追加のオプションなんか、あるんでしょうね?

「お待ち!」

 律子先生の前に、『そのまんま冷やし』が置かれました。
支那そば伊藤・そのまんま冷やし

 案の定、律子先生は……。
 目の前に置かれた器を、呆然と眺めてます。
 うぷぷ。
 笑いを堪え切れません。

 先生が顔を寄せてきました。

律「ちょっと、Mikiちゃん。
 どうしよう?
 あのご主人……。
 具を乗せ忘れてるよ」

 ま、そう思うのもムリありませんね。
 麺の上に載ってるのは……。
 ネギだけなんですから。
支那そば伊藤・そのまんま冷やし・具はネギだけ

み「違うの。
 『そのまんま』ってのは……。
 こういうことなの」
律「えー。
 具が入ってないから、『そのまんま』なわけ?」
み「さようです」
律「おのれ。
 わかってて、注文させたな。
 せっかく、宮崎牛が載ってると思ったのに……」
宮崎牛

み「そんな風に思う方が、尋常じゃないでしょ。
 わたしの『中華そば』が、650円で……。
 『そのまんま冷やし』は、500円なんだから」
支那そば伊藤・券売機

み「第一、なんで秋田で、宮崎牛なのよ」
律「世の中に、奇跡はないってことね」
み「もともとは、忙しい市場の店員さんが……。
 手っとり早く食事を摂るために……。
 具のない冷やし中華が編み出されたんだって」
律「でも、これって……。
 栄養的には、どうなんだろ?
 栄養士さんは……。
 お勧めしないよね」
み「3食、これを食べるわけじゃないんだからさ。
 昼間は、炭水化物さえ摂れれば十分だって。
 つべこべ言ってないで、食べてみて。
 きっと、美味しいから」
律「じゃ、いただきます。
 これでマズかったら……。
 ドンブリひっくり返すからね」
み「どう?」
律「……。
 美味しい!
 当たりだよ、これ」
み「だしょー」

 この『そのまんま冷やし』ですが……。
 ネーミングの妙と……。
 その不思議な美味しさで、新聞ネタにもなりました。
支那そば伊藤・そのまんま冷やし・新聞記事

律「醤油味のスープに、酢が効いてるね。
 さっぱりしてて、いくらでも入りそう。
 飲んだ後の締めにも良さそうだし……。
 二日酔いの朝でも食べられそう」
み「ちょっと、半分以上食べないでちょうだい。
 交換、交換」
律「あんた、チャーシュー食べちゃったじゃないの!
み「よく見てよ。
 1枚あるでしょ」
律「出てきたとき、3枚あったじゃないの」
支那そば伊藤・中華そば・チャーシュー3枚

み「よく見てんな……。
 その代わり、メンマ食べてないから」
支那そば伊藤・中華そば・メンマ

律「ずいぶん、軽重が違うんじゃないの?」
み「いいから、交換!
 あ、ネギなら食べていいからね」
律「医者に生ネギは禁物。
 客商売だからね」
み「旅先なんだから、いいじゃん」
律「食べないのがクセになっちゃったから。
 はい、じゃあ、交換」
み「わーい」
律「いただきまーす」
み「いただきまーす」
律「おー。
 冷えた口に、温かいラーメンが美味しい」
み「温まった口に、冷えた麺が美味しい」
律「これ、男の人なら、両方いっぺんにいけるよね」
支那そば伊藤・中華そば+そのまんま冷やし

み「十文字の人が、おやつに食べたラーメンだからね。
 ぜんぜん大丈夫じゃない?
 でも、値段がねー。
 2つで、1,150円だからなぁ」
律「さっき、券売機で気づいたんだけど……」
み「何?
 急に小声で」
律「ここの大盛りって、高いよね」
支那そば伊藤・大盛りが高い

律「具は変わらないで、麺だけ増えるんでしょ?
 それで、並の650円が、中で800円になっちゃうんだからさ。
 大なんて、さらに100円増しで、900円だよ」
み「900円だったら、ラーメンと冷やしを注文しても、大して変わらないね」
律「でも、美味しいことは、間違いなし。
 スープも飲んじゃおぅっと」
支那そば伊藤・中華そば・完食

み「あー。
 みんな飲んじゃった!
 信じらんない!
 わたしも飲みたかったのに!」
律「チャーシュー2枚も食べた罰よ。
 冷やしのスープ飲めばいいでしょ」
み「酸っぱいんだもん」
律「えー。
 そんなに酸っぱくなかったよ。
 どれどれ。
 お皿よこしなさい。
 なんだ、ぜんぜん飲めるじゃない。
 いらないんなら、わたしが飲んじゃうよ」
み「あーー。
 冷やしの汁まで飲んじゃった!
 ひどすぎる!」
律「いらないって言ったじゃない」
み「言ってないよ!
 酸っぱいって言っただけ」
律「チャーシューの恨み……。
 思い知ったか」
み「くそー。
 こんなに執念深い女だったとは……。
 しかし、執念深さでは、わたしも負けないのだ。
 かならず仇は取ってくれる……」

 さて、遺恨を残したまま……。
 秋田市民市場を出ましょう。

 秋田駅までは、徒歩5分で着きました。
秋田駅西口

 線路を跨いで西口と東口を繋ぐ自由通路上に、駅があります。
秋田駅構内図

 この通路が開通したのは、平成12年。
秋田駅・ぽぽろーど

み「ここ、『ぽぽろーど』っていうらしいよ」
律「どういう意味?」
み「えーと、手帳にメモして来た。
 イタリア語で“人”を意味する“Popolo”と、英語の“Road(道)”を組み合わせたんだって」
律「セリオンもそうだったけど……。
 秋田の人って、組み合わせるのが好きだね。
 しかも、ムリヤリ」

 名前はどうあれ……。
 明るくてうらやましいです。
 新潟駅は、どこも薄暗くて狭苦しいから。
 将来的には、線路が高架になって、駅も建て替えられるようですが……。
 事業計画を見ると……。
 完成予定は、平成39年(2027年)。
 もう、平成じゃなくなってるんじゃないの?

律「ちょっと、Mikiちゃん。
 改札、通り過ぎちゃったよ」
秋田駅・改札

み「いいの。
 汽車には乗らないから」
律「じゃ、なんで駅に来たのよ」
み「東口に渡るためです」

 東口は、こんな感じ。
秋田駅・東口

律「そろそろ、今日の予定、教えてよ」
み「今日は……。
 男鹿半島を一周します」

 律子先生は、宙を睨みながら、懸命に秋田県地図を思い浮かべてるようす。
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