2012.3.3(土)
バブルの階段を2階まで降り……。
大浴場の、婦人用のれんを潜ります。
ほんと、旅館みたいだよね。
お風呂は……。
新潟から乗ったお客さんが、仕舞湯を使うのでしょう。
けっこう混んでます。
脱衣所には、コインロッカーもありました。
部屋の鍵を持って来たので、ロッカーは大助かり。
さっそく洗い場へ。
なお、この大浴場は……。
営業時間内でも、入れなくなる場合があります。
時化(しけ)のとき。
浴槽のお湯が、波打って溢れちゃうらしいですね。
洗い場もまっすぐ歩けないだろうし。
今はまだ、出航前なのでぜんぜん揺れてません。
ちょっとくらい揺れた方が、おもしろいんだけどな。
さて、大浴場は広々と気持ちいいのですが……。
特に変わった設備があるわけじゃないので……。
体を洗うと、することもありません。
さっさと出ましょう。
お風呂入ったら、ノドが乾いちゃいましたね。
「お」
自動販売機がありましたぁ。
1日の締めに……。
ビールをもう一杯。
と、思ったら……。
な、なんと!
アルコール類の販売は、23時まででした!
なぜじゃ?
思うに……。
夜中に酒盛りして、周りに迷惑かけるやつが大勢いたんだろうな。
くそ。
2等の奴らに違いない。
下層民め。
わたしからビールを奪いおって……。
残念ながら……。
部屋に冷蔵庫があるのは、スイートのみ。
今夜は寝るだけと思って、特等にしたんですが……。
思わぬところで、差をつけられてしまった。
しかたなく、お茶を買って部屋に戻ります。
さすがに律子先生は、もうお風呂を出てました。
でも……。
「蒸気でホッとアイマスク」をかけ……。
壁際の布団に潜りこんでます。
部屋の明かりが点いてたので……。
てっきり起きてるかと思ったんですが……。
顔を近づけてみると、すでに寝息が聞こえました。
カンペキに熟睡中。
せっかく、大浴場の自慢をしてやろうと思ったのに……。
旅行初日から、早寝しなくてもいいじゃんね。
しかし……。
わたしを残して眠りこむとは……。
無防備なヤツ。
パイパンを拝んでやろうか?
いやいや。
わたしをバスルームから閉め出した罪は重い。
罰として……。
何か、いたずらしてやろうかしらん。
そういえば、修学旅行のいたずらで……。
ヒドいのがあったんだよ。
男子だけどさ。
雑誌で読んだんだっけな?
中学生だったと思うけどね。
寝ている友人のパンツを下げ……。
なんと!
ちんちんの先を、アロンアルファでくっつけちゃったんだって。
可哀想に、ホーケー君だったんでしょうね。
起きておしっこに行ったら……。
出なくて、大騒ぎ!
先を塞がれたら、どうなるんだろうね?
キトーと皮の間に、おしっこが溜まるんだろうか?
モノスゴいことになるよね。
ヨーヨー風船みたいになるのかな?
千枚通しか何かで突いたら…。
おしっこが吹き出すんじないの?
顛末は忘れましたが……。
確か、お医者さんにかつぎ込まれたんだと思います。
そんなこと思い出したら……。
いたずらする気は失せました。
さっさと寝ましょう。
明日、早いんだから。
備え付けの浴衣に着替えてると……。
足下がモツレました。
まだ酔ってるのかと思ったら……。
どうやら、船の方が動いてるらしい。
そっと障子を開け……。
窓を覗いてみます。
外は、当然のことながら真っ暗。
景色はまったくわかりませんが……。
出航しているようです。
夜遅いから、汽笛も鳴らさないんでしょうね。
船が出てると言うことは……。
もう11時半を回ってるということ。
秋田着は、5時50分ですから……。
5時には起きていたいです。
てことは、もう5時間ちょっとしかないじゃん!
早く寝なくちゃ。
先生の枕元の「蒸気でホッとアイマスク」を1枚いただきましょう。
いたずらしないであげたんだから……。
このくらい、いいよね!
それじゃみなさん、お休みなさい。
消灯。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
●10月9日(土)2日目
律「ちょっと。
いい加減、起きなさいよ。
もう、港に入るみたいよ」
み「うーん」
律「こうやって揺さぶると、枕元に手を伸ばして……。
何かを探ってるんだよな。
たぶん、目覚ましのスヌーズを押そうとしてるんだろうけど」
律「結局、また寝入っちゃうんだから。
ほんとにこの人、毎朝小説書けてるのかしら?
でも、そろそろほんとに起こさなくちゃね。
しかし……。
ヒドい寝相だよな。
これじゃ、嫁に行けんはずだわ。
ま、浴衣着て寝れば、たいがいこうなるんだろうけど……。
前がはだけて、パンツ丸見えじゃない。
普通、女がこんな格好になったら……。
しどけない感じになるんだろうに……。
このオンナは、全く違うね。
大正時代の子供って感じ」
律「さて、どうしてやろうか……。
そうだ。
足の裏くすぐってやろう。
ほーれ。
こちょこちょこちょこちょ。
律「痛っ。
痛いー。
このアマ、蹴りやがった。
優しくしてれば付けあがりやがって!
もう、怒った。
両足を抱えあげて……。
電気アンマの刑!」
律「そ~~れ。
ぐりぐりぐりぐり」
み「あんぎゃ、あんぎゃ、あんぎゃー」
律「何て声出すのよ!」
み「ひぃぃぃ。
そ、そっちこそ……。
な、何してんのよ」
律「起こしてるんじゃないの」
み「こんな起こし方ってある!」
律「起きないからでしょ。
もう、秋田港に入るよ」
み「うそ!」
律「ほら、窓の外見なさいよ。
港が見えるでしょ」
み「何で起こしてくれないのよ!
自分だけ支度して……。
着替えまで済ましてさ。
ズルい!」
律「何べん起こしたと思ってるの!
そのたんびに、枕元に手を伸ばして……。
畳を探ったかと思うと、また寝ちゃうんだから。
ほんとに、毎朝、小説書けてるの?」
み「書けてるから、先生がいるんでしょ」
律「ま、それはそうだけど」
み「う~。
酒が残ってるな。
先生は大丈夫?」
律「ぜんぜん平気。
もう飲みたいくらい」
み「アル中じゃないの?」
律「人のこと言ってないで、早く着替えなさいよ」
み「わたし、シャワー使いたい」
律「夕べお風呂入ったから、いいでしょ。
ほら、早く起って。
浴衣を脱ぐ。
わたしが、脱がせてあげる。
帯を解いて……。
そ~れ」
み「あ~れ~。
ご無体な~」
律「ほら、早く服着て。
すぐ出るよ」
み「わたし、うんこ」
律「ご飯も食べないで、よく出るね」
み「先生、便秘なの?」
律「ひどいときは、下剤のお世話になるわね」
み「由美ちゃんに処方した下剤は、自分でも使ってるやつなのね」
律「よく知ってるね」
み「えっへん。
これでも、作者だからね」
律「何にも考えないで書いてるくせに。
そんなこといいから。
早く済まして来てよ。
籠城しないでよね。
置いてくわよ」
み「大丈夫。
座ったとたん、どばどばと出るから」
律「くそ。
うらやましいヤツ」
特等のトイレは、シャワー付きなので快適です。
便秘気味の方の中には……。
便座に座ると、まずシャワーを使う人もいるそうです。
肛門を刺激して、便意を促すわけですね。
そういう方は、旅先のトイレにシャワーが無いと困るので……。
携帯用をお持ちの方も多いとか。
さて、トイレを済ませたら……。
部屋を出ましょう。
名残惜しや、特等和室。
さらばじゃ。
バブルの階段を駆け足で回り下りてると……。
なんか、シンデレラになった気分。
“プロムナード”には……。
朝の光が差しこんでました。
さようなら、“あざれあ”。
また、必ず乗るからね。
まだまだ引退しないで……。
バブルの証人として、活躍してください。
み「もう、接岸したみたいだね」
律「今、何時?」
み「5時50分。
時刻表、ジャストだ」
律「秋田で下りる人は、少ないみたいね」
み「新潟で乗って秋田で下りるのは、わたしらくらいかな?」
律「秋田出航は、何時なの?」
み「えーと。
時刻表がポッケにあったはず……。
あった。
7時ジャストだね」
律「ちょっと……。
1時間10分も停泊するの?」
み「だから……。
クルマの積み下ろしとか、あるからでしょ」
律「そんなら何も、5時50分に下りなくてもいいんじゃないの?
出航までに降りれば」
み「あ”。
なんだ、もうちょっと寝られたんじゃないか。
ムリヤリ起こされて、損した」
律「秋田着の時間しか、教えてくれなかったじゃない!」
み「そうだっけ?」
律「そうだよ。
もう、後の祭り」
み「福助、盆に帰らず」
律「それを言うなら、“覆水盆に返らず”でしょ。
何で福助なのよ?」
み「福助さんが、お盆に帰省しませんでしたという意味」
律「意味……、無いじゃん。
アホなこと言ってないで……。
下りるよ」
早朝の秋田港です。
夕べ遅くまで新潟で飲んで……。
翌朝6時に、秋田の港に立ってる。
ちょっと、ヘンな気分ですね。
律「これから、どうするの?」
み「とりあえず、秋田駅前まで行く。
そこで、朝ご飯食べよう」
律「港から近いの?」
み「腹ごなしに歩くには、ちょーっと距離があるね」
律「どのくらい?」
み「1時間半くらい。
歩く?」
律「わけないでしょ!
じゃ、またタクシーか」
み「最初っからそんな横着してどうすんの!
『紙上旅行倶楽部』は……。
可能な限り公共交通機関を使うってのが、モットーなんです」
律「夕べは、いきなりタクシー使ってたじゃないの」
み「あれは……。
旅行に出る前だからいいの!
つべこべ言ってないで……。
バスに乗るよ!」
律「バス停、どこよ?」
み「あそこにタワーが見えるでしょ」
み「あの下にあるはず」
律「さっきから気になってたんだけど……。
何なの、あれ。
あの細さじゃ、ビルじゃないよね」
み「だから……。
ポートタワーという塔です。
セリオンという名前が付いてる」
律「へー。
詳しいね。
セリオンって、どういう意味?」
み「確か、“Sea”と“Pavilion”の合成語だったと思う」
律「そんな繋げ方したら、元の語がわからないじゃないの」
み「わたしに言わないでちょうだい。
で、“セリオン線”という路線バスが、あそこから秋田駅まで走ってるわけ」
律「こんな朝から、バスなんかあるの?
2時間待ちとか、イヤだからね」
み「大丈夫。
6時23分発がある」
フェリー乗り場からセリオンまでは、歩いて10分くらいです。
今は、6時を回ったくらいなので、ゆっくり歩いても十分間に合います。
律「秋田にこんなタワーがあるなんて、ちょっと意外。
新潟には無いでしょ、こんな高い建物?」
み「バカにすな!
新潟には、万代島ビルという、31階建ての高層ビルがあります」
み「夕べ、柳都大橋渡るとき、見えたでしょ?」
律「ごめん……。
記憶にありません」
み「そういえば……。
寝てやがったな。
セリオンの高さは、143メートルなんだけど……。
万代島ビルも、なぜか同じ高さ」
律「何で同じなの?」
み「知らん。
ひょっとしたら、対抗したのかも。
セリオンができたのが、1994年」
律「それって、“あざれあ”や“しらかば”と一緒じゃない?」
み「あ、だよね」
律「あれも、バブルの産物?」
み「まさしくそうなんだ。
“バベルの塔”ならぬ……」
み「“バブルの塔”と呼ばれてるらしい」
律「勢いがなきゃ……。
ちょっとあれは、作れないよな。
万代島ビルもそうなの?」
み「あれは、ずっと遅い。
2003年だから、10年遅れだね」
律「バブルが消えた後に、よく建てたね」
み「新潟では、2002年に、ちょっとしたバブルがあったんだよ」
律「2002年のバブル?
何、それ?」
み「サッカーのワールドカップ」
律「新潟は、2002年の開催地のひとつだったからね」
み「ワールドカップが始まったのは、5月31日。
その12日前の、5月19日に……。
『柳都大橋』と『みなとトンネル』が、同時に開通してる」
律「大バブルじゃない」
み「でしょ。
信濃川の最下流に、海底トンネルと地上橋が同時に出来たんだからね。
2002年のワールドカップに向けて、インフラが一気に整備されたってわけ。
街並みが、あんなに一気に変わったのは、1964年の新潟国体以来だって」
律「そのバブルに乗って……。
セリオンと同じ高さのビルを建てたわけか」
み「かもね。
でも、展望台の高さでは……。
万代島ビルが勝ってるんだよ」
律「ほー」
み「セリオンは、100メートルだけど……。
万代島ビルは、125メートルです」
律「なんか……。
哀しい争い」
み「哀しくない!
本州日本海側唯一の政令指定都市としては……。
高さの一番も譲れません」
律「驚いた。
こんなに愛郷精神のある人だとは、思わなかった」
み「わたしも、自分で驚いた」
セリオンの麓まで来ました。
見上げると、やっぱり高いですね。
律「ねえ。
バス、一便遅らせて……。
これ、上ってみない?」
み「ダメ」
律「何でよ。
愛郷精神?」
み「違うよ。
オープンが、9時なの」
律「う。
まだ、3時間近くあるわけね」
み「そゆこと」
律「正月くらい、夜明け前にオープンしないのかな?」
み「なんで?」
律「ご来光よ。
絶好のビューポイントでしょ」
み「ま、そうとう運が良くないとね」
律「どうして?」
み「新潟もそうだけど……。
冬の日本海側は、滅多に晴れないんだよ。
ご来光が拝めるお正月なんて……。
10年に1回くらい」
律「そうなの?
東京は、ご来光が拝めない正月なんて滅多に無いのにね」
み「東京が晴れてる日には……。
日本海側では、雪が降ってる」
律「大変だね」
み「ほとんど毎日雪だよ。
あー、考えただけで憂鬱になってくる。
ほんと、冬だけでも東京に住みたい」
律「お天気って、精神状態に影響するからね」
み「するする。
日本海側に転勤になった人の中に……。
冬期鬱病を発症する人が、けっこういるらしいよ」
律「転勤に付いていった奥さんの方が、ひょっとしたら危ないかも」
み「そうか。
誰も友達がいない土地で……。
マンションに籠もりっきりだと……。
アブナいかもね」
律「その奥さんが妊娠してたりすると、最悪じゃん」
み「冬の間は、実家に戻った方がいいかも」
律「よくそんなとこに住んでるね」
み「ま、生まれちゃったんだから仕方ないよ。
でも、冬の天気のおかげで、いいこともあるんだよ」
律「冬の新潟のお天気で……。
いいことなんて、なさそうだけど」
み「お肌にいいの。
新潟や秋田で、女性の肌が綺麗なのは……。
冬のせいだって」
律「なんで?」
み「冬の間、ほとんど陽が当たらないでしょ。
しかも、湿度が高いからね。
窓に結露した水滴が、ダラダラ流れるほど」
み「保湿の必要なんか、まったく無いわけ。
こういう季節が、1年の3分の1以上続くんだからさ」
律「なるほど。
でも、Mikiちゃんだけは……。
例外みたいね」
み「大きなお世話!」
アホなことを言ってるうちに、バス停に着きました。
なんと、海っぱた。
海が荒れたら、波を被るんじゃないでしょうか。
ほどなく、6時23分発の秋田中央交通バスが入ってきました。
ここが始発ですので、誰も乗ってません。
律子先生は、さっさと後方に歩いて行きます。
最後部のひとつ前、2人掛けの座席に座りました。
み「ちょっと……。
イヤな予感がするんですけど」
律「何が?」
み「この席って……。
あのシーンと同じじゃん。
『Sentimental Journey』。
まさか、ヘンなことするつもりじゃないでしょうね?」
律「アホか!
聞いてる方が、赤くなるわ。
するわけないでしょ」
み「ほんまかぁ?」
ジャケットの裾を……。
ペラッ。
律「何すんの!」
み「痛い!
叩かなくてもいいでしょ。
でも……。
アレは、着けて来てないようだね」
律「ほんとにアホなんじゃないの?」
み「アホで結構。
アホでなきゃ、あんな小説は書けんのじゃ」
アホなことを言ってるうちに……。
バスは走り出しました。
ここで、車中を利用して、秋田市をご紹介しましょう。
人口や面積のデータは、以下のとおり。
ちなみに新潟市は……。
ふふ。
勝った。
同じ日本海側の県庁所在地ということで……。
どうしても、対抗心がクビをもたげてしまいます。
秋田の気候は、新潟と同じく……。
典型的な日本海側気候です。
同じ冬を過ごしているかと思うと……。
対抗心は消え、親近感が湧いてきます。
下は、主な都市の降雪量・積雪量(平年値)。
左が日本海側、右が太平洋側。
新潟県でも、上越市は強烈ですが……。
新潟市の雪は、それほど多くないことがわかります。
鳥取よりも降らないんですね。
続いて、歴史。
秋田市は、秋田藩二十万石の城下町。
フェリーを降りた港には、北前船が入ってました。
さらに遡りましょう。
飛鳥時代。
大化の改新から2年を経た、647年(大化3年)。
新潟市に、渟足柵(ぬたりのき)が造られます。
柵というのは、蝦夷(えみし)との戦争に備えた軍事施設です。
やがて、平城京に都が移される、2年前……。
708年(和銅元年)のこと。
今年が、平城遷都1,300年ですから……。
そのくらい昔です。
越後国に出羽柵(でわのき)が造られます。
間違いじゃ無いですよ。
越後国に、出羽柵が造られたんです。
同時に、出羽郡が置かれました。
712年(和銅5年)、出羽郡は出羽国に昇格。
出羽国は、大和朝廷が勢力を広めるにつれ、北へ広がっていきます。
当然、最前線の出羽柵も北上していきます。
やがて、山形県の庄内地方を経て……。
秋田市まで移ったのが、733年(天平5年)。
新潟市から秋田市まで勢力を拡げるのに、100年近くかかったってことですね。
蝦夷の抵抗のほどがうかがわれます。
この調子で書いてると大変なことになるので……。
以下、割愛。
続いて、交通。
秋田新幹線を利用しても、秋田から東京までは、4時間。
新潟が、上越新幹線で2時間なのと比べると……。
やはり、遠いですね。
飛行機を使わない限り、日帰り出張はムリでしょう。
でも仙台までなら、2時間ちょいで行けます。
仙台には、1度行ったことがありますが……。
新潟とは比べものにならない大都会でした。
対抗心も湧かないほど。
ほとんど、東京と変わりなかった。
新潟から都会に出ようとすると、東京しかありませんが……。
秋田なら、仙台という選択肢もあるんですね。
仙台は、住んでみたい街のひとつなので……。
ちょっぴりうらやましい。
さて、そうこうするうち……。
バスは、秋田市街に入りました。
み「次で降りるよ」
律「え?
秋田駅まで行くんじゃないの?」
み「ひとつ手前だけど……。
朝ご飯の予定地、そこから近いから」
停留所は、千秋公園入口。
時刻は、まだ6時46分です。
セリオン前からは、23分で着きました。
律「大きそうな公園だね。
道路端に、いきなり池がある」
律「どっかで見たような風景だな……。
そうか!
皇居よ」
律「Mikiちゃん、ここって……。
お城だったんじゃない?
これは池じゃなくて、お堀よ」
み「ピンポーン!
やっぱり城下町はいいよね。
こんな駅前の一等地に、城跡の大公園があって」
律「ちょっと、見て行こうよ」
み「う。
予定してなかったけど……」
律「ムリそう?」
み「ま、いいか。
実は、市場を見たかったんだけど」
律「そっちも魅力的だな……。
よし、欲張って両方見よう」
み「じゃ、急ぎ足ね」
お堀を渡りましょう。
城跡に入るときは……。
いつものことながら、わくわくします。
今まで、同じ日本海側の県庁所在地として……。
対抗心から、新潟と秋田を比較して来ましたが……。
お城に関しては、完敗です。
新潟にも……。
大昔、渟足柵(ぬたりのき)という砦がありましたが……。
今では、どこにあったかさえも定かではありません。
それに……。
お城と云えば、やっぱり江戸時代ですよね。
実はわたし……。
新潟みたいな港町の雰囲気が、ちょっと苦手なんです。
開放的で、外に向かって開けた感じがね。
性格的なものでしょうかね。
A型のせいかな?
港町は、空が広すぎる。
●三月は空ばかりなり川みなと
開けた港町よりも……。
外界から自らを閉ざしたような、城下町の雰囲気が好きなんです。
松江、仙台……。
住んでみたい町は、みんな城下町。
律「秋田って、何藩?」
み「秋田藩じゃないの?」
律「やっぱり。
殿様は、誰だっけ?」
み「……。
秋田さん?」
律「鹿島アントラーズの?」
律「あの人は、もう引退したでしょ」
み「そうだっけ?」
律「今は、どっかの監督だよ。
ていうか……。
ぜんぜん関係ないじゃない!」
当初計画に無いとこに入ると……。
無知がバレバレですね。
大浴場の、婦人用のれんを潜ります。
ほんと、旅館みたいだよね。
お風呂は……。
新潟から乗ったお客さんが、仕舞湯を使うのでしょう。
けっこう混んでます。
脱衣所には、コインロッカーもありました。
部屋の鍵を持って来たので、ロッカーは大助かり。
さっそく洗い場へ。
なお、この大浴場は……。
営業時間内でも、入れなくなる場合があります。
時化(しけ)のとき。
浴槽のお湯が、波打って溢れちゃうらしいですね。
洗い場もまっすぐ歩けないだろうし。
今はまだ、出航前なのでぜんぜん揺れてません。
ちょっとくらい揺れた方が、おもしろいんだけどな。
さて、大浴場は広々と気持ちいいのですが……。
特に変わった設備があるわけじゃないので……。
体を洗うと、することもありません。
さっさと出ましょう。
お風呂入ったら、ノドが乾いちゃいましたね。
「お」
自動販売機がありましたぁ。
1日の締めに……。
ビールをもう一杯。
と、思ったら……。
な、なんと!
アルコール類の販売は、23時まででした!
なぜじゃ?
思うに……。
夜中に酒盛りして、周りに迷惑かけるやつが大勢いたんだろうな。
くそ。
2等の奴らに違いない。
下層民め。
わたしからビールを奪いおって……。
残念ながら……。
部屋に冷蔵庫があるのは、スイートのみ。
今夜は寝るだけと思って、特等にしたんですが……。
思わぬところで、差をつけられてしまった。
しかたなく、お茶を買って部屋に戻ります。
さすがに律子先生は、もうお風呂を出てました。
でも……。
「蒸気でホッとアイマスク」をかけ……。
壁際の布団に潜りこんでます。
部屋の明かりが点いてたので……。
てっきり起きてるかと思ったんですが……。
顔を近づけてみると、すでに寝息が聞こえました。
カンペキに熟睡中。
せっかく、大浴場の自慢をしてやろうと思ったのに……。
旅行初日から、早寝しなくてもいいじゃんね。
しかし……。
わたしを残して眠りこむとは……。
無防備なヤツ。
パイパンを拝んでやろうか?
いやいや。
わたしをバスルームから閉め出した罪は重い。
罰として……。
何か、いたずらしてやろうかしらん。
そういえば、修学旅行のいたずらで……。
ヒドいのがあったんだよ。
男子だけどさ。
雑誌で読んだんだっけな?
中学生だったと思うけどね。
寝ている友人のパンツを下げ……。
なんと!
ちんちんの先を、アロンアルファでくっつけちゃったんだって。
可哀想に、ホーケー君だったんでしょうね。
起きておしっこに行ったら……。
出なくて、大騒ぎ!
先を塞がれたら、どうなるんだろうね?
キトーと皮の間に、おしっこが溜まるんだろうか?
モノスゴいことになるよね。
ヨーヨー風船みたいになるのかな?
千枚通しか何かで突いたら…。
おしっこが吹き出すんじないの?
顛末は忘れましたが……。
確か、お医者さんにかつぎ込まれたんだと思います。
そんなこと思い出したら……。
いたずらする気は失せました。
さっさと寝ましょう。
明日、早いんだから。
備え付けの浴衣に着替えてると……。
足下がモツレました。
まだ酔ってるのかと思ったら……。
どうやら、船の方が動いてるらしい。
そっと障子を開け……。
窓を覗いてみます。
外は、当然のことながら真っ暗。
景色はまったくわかりませんが……。
出航しているようです。
夜遅いから、汽笛も鳴らさないんでしょうね。
船が出てると言うことは……。
もう11時半を回ってるということ。
秋田着は、5時50分ですから……。
5時には起きていたいです。
てことは、もう5時間ちょっとしかないじゃん!
早く寝なくちゃ。
先生の枕元の「蒸気でホッとアイマスク」を1枚いただきましょう。
いたずらしないであげたんだから……。
このくらい、いいよね!
それじゃみなさん、お休みなさい。
消灯。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
●10月9日(土)2日目
律「ちょっと。
いい加減、起きなさいよ。
もう、港に入るみたいよ」
み「うーん」
律「こうやって揺さぶると、枕元に手を伸ばして……。
何かを探ってるんだよな。
たぶん、目覚ましのスヌーズを押そうとしてるんだろうけど」
律「結局、また寝入っちゃうんだから。
ほんとにこの人、毎朝小説書けてるのかしら?
でも、そろそろほんとに起こさなくちゃね。
しかし……。
ヒドい寝相だよな。
これじゃ、嫁に行けんはずだわ。
ま、浴衣着て寝れば、たいがいこうなるんだろうけど……。
前がはだけて、パンツ丸見えじゃない。
普通、女がこんな格好になったら……。
しどけない感じになるんだろうに……。
このオンナは、全く違うね。
大正時代の子供って感じ」
律「さて、どうしてやろうか……。
そうだ。
足の裏くすぐってやろう。
ほーれ。
こちょこちょこちょこちょ。
律「痛っ。
痛いー。
このアマ、蹴りやがった。
優しくしてれば付けあがりやがって!
もう、怒った。
両足を抱えあげて……。
電気アンマの刑!」
律「そ~~れ。
ぐりぐりぐりぐり」
み「あんぎゃ、あんぎゃ、あんぎゃー」
律「何て声出すのよ!」
み「ひぃぃぃ。
そ、そっちこそ……。
な、何してんのよ」
律「起こしてるんじゃないの」
み「こんな起こし方ってある!」
律「起きないからでしょ。
もう、秋田港に入るよ」
み「うそ!」
律「ほら、窓の外見なさいよ。
港が見えるでしょ」
み「何で起こしてくれないのよ!
自分だけ支度して……。
着替えまで済ましてさ。
ズルい!」
律「何べん起こしたと思ってるの!
そのたんびに、枕元に手を伸ばして……。
畳を探ったかと思うと、また寝ちゃうんだから。
ほんとに、毎朝、小説書けてるの?」
み「書けてるから、先生がいるんでしょ」
律「ま、それはそうだけど」
み「う~。
酒が残ってるな。
先生は大丈夫?」
律「ぜんぜん平気。
もう飲みたいくらい」
み「アル中じゃないの?」
律「人のこと言ってないで、早く着替えなさいよ」
み「わたし、シャワー使いたい」
律「夕べお風呂入ったから、いいでしょ。
ほら、早く起って。
浴衣を脱ぐ。
わたしが、脱がせてあげる。
帯を解いて……。
そ~れ」
み「あ~れ~。
ご無体な~」
律「ほら、早く服着て。
すぐ出るよ」
み「わたし、うんこ」
律「ご飯も食べないで、よく出るね」
み「先生、便秘なの?」
律「ひどいときは、下剤のお世話になるわね」
み「由美ちゃんに処方した下剤は、自分でも使ってるやつなのね」
律「よく知ってるね」
み「えっへん。
これでも、作者だからね」
律「何にも考えないで書いてるくせに。
そんなこといいから。
早く済まして来てよ。
籠城しないでよね。
置いてくわよ」
み「大丈夫。
座ったとたん、どばどばと出るから」
律「くそ。
うらやましいヤツ」
特等のトイレは、シャワー付きなので快適です。
便秘気味の方の中には……。
便座に座ると、まずシャワーを使う人もいるそうです。
肛門を刺激して、便意を促すわけですね。
そういう方は、旅先のトイレにシャワーが無いと困るので……。
携帯用をお持ちの方も多いとか。
さて、トイレを済ませたら……。
部屋を出ましょう。
名残惜しや、特等和室。
さらばじゃ。
バブルの階段を駆け足で回り下りてると……。
なんか、シンデレラになった気分。
“プロムナード”には……。
朝の光が差しこんでました。
さようなら、“あざれあ”。
また、必ず乗るからね。
まだまだ引退しないで……。
バブルの証人として、活躍してください。
み「もう、接岸したみたいだね」
律「今、何時?」
み「5時50分。
時刻表、ジャストだ」
律「秋田で下りる人は、少ないみたいね」
み「新潟で乗って秋田で下りるのは、わたしらくらいかな?」
律「秋田出航は、何時なの?」
み「えーと。
時刻表がポッケにあったはず……。
あった。
7時ジャストだね」
律「ちょっと……。
1時間10分も停泊するの?」
み「だから……。
クルマの積み下ろしとか、あるからでしょ」
律「そんなら何も、5時50分に下りなくてもいいんじゃないの?
出航までに降りれば」
み「あ”。
なんだ、もうちょっと寝られたんじゃないか。
ムリヤリ起こされて、損した」
律「秋田着の時間しか、教えてくれなかったじゃない!」
み「そうだっけ?」
律「そうだよ。
もう、後の祭り」
み「福助、盆に帰らず」
律「それを言うなら、“覆水盆に返らず”でしょ。
何で福助なのよ?」
み「福助さんが、お盆に帰省しませんでしたという意味」
律「意味……、無いじゃん。
アホなこと言ってないで……。
下りるよ」
早朝の秋田港です。
夕べ遅くまで新潟で飲んで……。
翌朝6時に、秋田の港に立ってる。
ちょっと、ヘンな気分ですね。
律「これから、どうするの?」
み「とりあえず、秋田駅前まで行く。
そこで、朝ご飯食べよう」
律「港から近いの?」
み「腹ごなしに歩くには、ちょーっと距離があるね」
律「どのくらい?」
み「1時間半くらい。
歩く?」
律「わけないでしょ!
じゃ、またタクシーか」
み「最初っからそんな横着してどうすんの!
『紙上旅行倶楽部』は……。
可能な限り公共交通機関を使うってのが、モットーなんです」
律「夕べは、いきなりタクシー使ってたじゃないの」
み「あれは……。
旅行に出る前だからいいの!
つべこべ言ってないで……。
バスに乗るよ!」
律「バス停、どこよ?」
み「あそこにタワーが見えるでしょ」
み「あの下にあるはず」
律「さっきから気になってたんだけど……。
何なの、あれ。
あの細さじゃ、ビルじゃないよね」
み「だから……。
ポートタワーという塔です。
セリオンという名前が付いてる」
律「へー。
詳しいね。
セリオンって、どういう意味?」
み「確か、“Sea”と“Pavilion”の合成語だったと思う」
律「そんな繋げ方したら、元の語がわからないじゃないの」
み「わたしに言わないでちょうだい。
で、“セリオン線”という路線バスが、あそこから秋田駅まで走ってるわけ」
律「こんな朝から、バスなんかあるの?
2時間待ちとか、イヤだからね」
み「大丈夫。
6時23分発がある」
フェリー乗り場からセリオンまでは、歩いて10分くらいです。
今は、6時を回ったくらいなので、ゆっくり歩いても十分間に合います。
律「秋田にこんなタワーがあるなんて、ちょっと意外。
新潟には無いでしょ、こんな高い建物?」
み「バカにすな!
新潟には、万代島ビルという、31階建ての高層ビルがあります」
み「夕べ、柳都大橋渡るとき、見えたでしょ?」
律「ごめん……。
記憶にありません」
み「そういえば……。
寝てやがったな。
セリオンの高さは、143メートルなんだけど……。
万代島ビルも、なぜか同じ高さ」
律「何で同じなの?」
み「知らん。
ひょっとしたら、対抗したのかも。
セリオンができたのが、1994年」
律「それって、“あざれあ”や“しらかば”と一緒じゃない?」
み「あ、だよね」
律「あれも、バブルの産物?」
み「まさしくそうなんだ。
“バベルの塔”ならぬ……」
み「“バブルの塔”と呼ばれてるらしい」
律「勢いがなきゃ……。
ちょっとあれは、作れないよな。
万代島ビルもそうなの?」
み「あれは、ずっと遅い。
2003年だから、10年遅れだね」
律「バブルが消えた後に、よく建てたね」
み「新潟では、2002年に、ちょっとしたバブルがあったんだよ」
律「2002年のバブル?
何、それ?」
み「サッカーのワールドカップ」
律「新潟は、2002年の開催地のひとつだったからね」
み「ワールドカップが始まったのは、5月31日。
その12日前の、5月19日に……。
『柳都大橋』と『みなとトンネル』が、同時に開通してる」
律「大バブルじゃない」
み「でしょ。
信濃川の最下流に、海底トンネルと地上橋が同時に出来たんだからね。
2002年のワールドカップに向けて、インフラが一気に整備されたってわけ。
街並みが、あんなに一気に変わったのは、1964年の新潟国体以来だって」
律「そのバブルに乗って……。
セリオンと同じ高さのビルを建てたわけか」
み「かもね。
でも、展望台の高さでは……。
万代島ビルが勝ってるんだよ」
律「ほー」
み「セリオンは、100メートルだけど……。
万代島ビルは、125メートルです」
律「なんか……。
哀しい争い」
み「哀しくない!
本州日本海側唯一の政令指定都市としては……。
高さの一番も譲れません」
律「驚いた。
こんなに愛郷精神のある人だとは、思わなかった」
み「わたしも、自分で驚いた」
セリオンの麓まで来ました。
見上げると、やっぱり高いですね。
律「ねえ。
バス、一便遅らせて……。
これ、上ってみない?」
み「ダメ」
律「何でよ。
愛郷精神?」
み「違うよ。
オープンが、9時なの」
律「う。
まだ、3時間近くあるわけね」
み「そゆこと」
律「正月くらい、夜明け前にオープンしないのかな?」
み「なんで?」
律「ご来光よ。
絶好のビューポイントでしょ」
み「ま、そうとう運が良くないとね」
律「どうして?」
み「新潟もそうだけど……。
冬の日本海側は、滅多に晴れないんだよ。
ご来光が拝めるお正月なんて……。
10年に1回くらい」
律「そうなの?
東京は、ご来光が拝めない正月なんて滅多に無いのにね」
み「東京が晴れてる日には……。
日本海側では、雪が降ってる」
律「大変だね」
み「ほとんど毎日雪だよ。
あー、考えただけで憂鬱になってくる。
ほんと、冬だけでも東京に住みたい」
律「お天気って、精神状態に影響するからね」
み「するする。
日本海側に転勤になった人の中に……。
冬期鬱病を発症する人が、けっこういるらしいよ」
律「転勤に付いていった奥さんの方が、ひょっとしたら危ないかも」
み「そうか。
誰も友達がいない土地で……。
マンションに籠もりっきりだと……。
アブナいかもね」
律「その奥さんが妊娠してたりすると、最悪じゃん」
み「冬の間は、実家に戻った方がいいかも」
律「よくそんなとこに住んでるね」
み「ま、生まれちゃったんだから仕方ないよ。
でも、冬の天気のおかげで、いいこともあるんだよ」
律「冬の新潟のお天気で……。
いいことなんて、なさそうだけど」
み「お肌にいいの。
新潟や秋田で、女性の肌が綺麗なのは……。
冬のせいだって」
律「なんで?」
み「冬の間、ほとんど陽が当たらないでしょ。
しかも、湿度が高いからね。
窓に結露した水滴が、ダラダラ流れるほど」
み「保湿の必要なんか、まったく無いわけ。
こういう季節が、1年の3分の1以上続くんだからさ」
律「なるほど。
でも、Mikiちゃんだけは……。
例外みたいね」
み「大きなお世話!」
アホなことを言ってるうちに、バス停に着きました。
なんと、海っぱた。
海が荒れたら、波を被るんじゃないでしょうか。
ほどなく、6時23分発の秋田中央交通バスが入ってきました。
ここが始発ですので、誰も乗ってません。
律子先生は、さっさと後方に歩いて行きます。
最後部のひとつ前、2人掛けの座席に座りました。
み「ちょっと……。
イヤな予感がするんですけど」
律「何が?」
み「この席って……。
あのシーンと同じじゃん。
『Sentimental Journey』。
まさか、ヘンなことするつもりじゃないでしょうね?」
律「アホか!
聞いてる方が、赤くなるわ。
するわけないでしょ」
み「ほんまかぁ?」
ジャケットの裾を……。
ペラッ。
律「何すんの!」
み「痛い!
叩かなくてもいいでしょ。
でも……。
アレは、着けて来てないようだね」
律「ほんとにアホなんじゃないの?」
み「アホで結構。
アホでなきゃ、あんな小説は書けんのじゃ」
アホなことを言ってるうちに……。
バスは走り出しました。
ここで、車中を利用して、秋田市をご紹介しましょう。
人口や面積のデータは、以下のとおり。
ちなみに新潟市は……。
ふふ。
勝った。
同じ日本海側の県庁所在地ということで……。
どうしても、対抗心がクビをもたげてしまいます。
秋田の気候は、新潟と同じく……。
典型的な日本海側気候です。
同じ冬を過ごしているかと思うと……。
対抗心は消え、親近感が湧いてきます。
下は、主な都市の降雪量・積雪量(平年値)。
左が日本海側、右が太平洋側。
新潟県でも、上越市は強烈ですが……。
新潟市の雪は、それほど多くないことがわかります。
鳥取よりも降らないんですね。
続いて、歴史。
秋田市は、秋田藩二十万石の城下町。
フェリーを降りた港には、北前船が入ってました。
さらに遡りましょう。
飛鳥時代。
大化の改新から2年を経た、647年(大化3年)。
新潟市に、渟足柵(ぬたりのき)が造られます。
柵というのは、蝦夷(えみし)との戦争に備えた軍事施設です。
やがて、平城京に都が移される、2年前……。
708年(和銅元年)のこと。
今年が、平城遷都1,300年ですから……。
そのくらい昔です。
越後国に出羽柵(でわのき)が造られます。
間違いじゃ無いですよ。
越後国に、出羽柵が造られたんです。
同時に、出羽郡が置かれました。
712年(和銅5年)、出羽郡は出羽国に昇格。
出羽国は、大和朝廷が勢力を広めるにつれ、北へ広がっていきます。
当然、最前線の出羽柵も北上していきます。
やがて、山形県の庄内地方を経て……。
秋田市まで移ったのが、733年(天平5年)。
新潟市から秋田市まで勢力を拡げるのに、100年近くかかったってことですね。
蝦夷の抵抗のほどがうかがわれます。
この調子で書いてると大変なことになるので……。
以下、割愛。
続いて、交通。
秋田新幹線を利用しても、秋田から東京までは、4時間。
新潟が、上越新幹線で2時間なのと比べると……。
やはり、遠いですね。
飛行機を使わない限り、日帰り出張はムリでしょう。
でも仙台までなら、2時間ちょいで行けます。
仙台には、1度行ったことがありますが……。
新潟とは比べものにならない大都会でした。
対抗心も湧かないほど。
ほとんど、東京と変わりなかった。
新潟から都会に出ようとすると、東京しかありませんが……。
秋田なら、仙台という選択肢もあるんですね。
仙台は、住んでみたい街のひとつなので……。
ちょっぴりうらやましい。
さて、そうこうするうち……。
バスは、秋田市街に入りました。
み「次で降りるよ」
律「え?
秋田駅まで行くんじゃないの?」
み「ひとつ手前だけど……。
朝ご飯の予定地、そこから近いから」
停留所は、千秋公園入口。
時刻は、まだ6時46分です。
セリオン前からは、23分で着きました。
律「大きそうな公園だね。
道路端に、いきなり池がある」
律「どっかで見たような風景だな……。
そうか!
皇居よ」
律「Mikiちゃん、ここって……。
お城だったんじゃない?
これは池じゃなくて、お堀よ」
み「ピンポーン!
やっぱり城下町はいいよね。
こんな駅前の一等地に、城跡の大公園があって」
律「ちょっと、見て行こうよ」
み「う。
予定してなかったけど……」
律「ムリそう?」
み「ま、いいか。
実は、市場を見たかったんだけど」
律「そっちも魅力的だな……。
よし、欲張って両方見よう」
み「じゃ、急ぎ足ね」
お堀を渡りましょう。
城跡に入るときは……。
いつものことながら、わくわくします。
今まで、同じ日本海側の県庁所在地として……。
対抗心から、新潟と秋田を比較して来ましたが……。
お城に関しては、完敗です。
新潟にも……。
大昔、渟足柵(ぬたりのき)という砦がありましたが……。
今では、どこにあったかさえも定かではありません。
それに……。
お城と云えば、やっぱり江戸時代ですよね。
実はわたし……。
新潟みたいな港町の雰囲気が、ちょっと苦手なんです。
開放的で、外に向かって開けた感じがね。
性格的なものでしょうかね。
A型のせいかな?
港町は、空が広すぎる。
●三月は空ばかりなり川みなと
開けた港町よりも……。
外界から自らを閉ざしたような、城下町の雰囲気が好きなんです。
松江、仙台……。
住んでみたい町は、みんな城下町。
律「秋田って、何藩?」
み「秋田藩じゃないの?」
律「やっぱり。
殿様は、誰だっけ?」
み「……。
秋田さん?」
律「鹿島アントラーズの?」
律「あの人は、もう引退したでしょ」
み「そうだっけ?」
律「今は、どっかの監督だよ。
ていうか……。
ぜんぜん関係ないじゃない!」
当初計画に無いとこに入ると……。
無知がバレバレですね。