2012.3.3(土)
「もう!
駄々っ子なんだから。
みんな、笑って見てますよ。
分かりました。
新潟までお供します」
「ほんと?
でもまさか……。
新潟駅から、新幹線乗るつもりじゃないでしょうね」
「ダメですか?」
「ダメー!
もう1泊して!」
「でも、明日の授業が……」
「朝1番の新幹線に乗れば、東京には8時に着くよ。
マンション寄ってから大学行ったって……。
2限目くらいから出れるでしょ」
「でも、予習が……。
けっこう、当てられるんですよ」
「予習が心配なら、授業出なきゃいいの」
「もう。
強引なんだから。
わかりました。
じゃ、またお家に泊めてくれます?」
「もちろん!
何泊でもしていいよ」
「1泊しかしません。
ほんとに泣くんだから、信じられない」
「ここに置いてかれると思ったら、涙が噴き出した」
「じゃ、空港行きますか」
「は~い。
とは、言ったものの……。
出発まで、2時間もあるからな。
今から空港行っても、時間持てあますよなぁ」
「じゃ、どうします?」
「う~ん。
微妙な時間だね。
搭乗まで30分余裕を見るとして……。
残り、1時間半か。
遠出は出来ないなぁ」
「そうですね。
どうします?」
「ひとつの案としては……。
名島橋を見に行くって手があるんだけど……」
「それって、有名な橋なんですか?
九重みたいな吊り橋?」
「博多に吊り橋があるかい!
名島橋は、普通のコンクリート橋だよ。
それに、全国的に有名な橋ってわけじゃない」
「じゃぁ、どうして?」
「新潟市に、萬代橋って橋があるんだけど……。
名島橋は、その萬代橋と兄弟橋なんだよ」
「へ~。
橋に兄弟なんて、あるんですか?
兄弟ってことは、親が同じってこと?」
「橋の親って、なんだよ?」
「設計者が同じだとか?」
「なるほど、考えたね。
でも、設計者が同じなんて聞かないな。
役所の技術者が設計したんじゃないの?」
「じゃ、親は何なんですか?」
「親にこだわらない!
親はなくても、兄弟なの。
ほら、あるでしょ?
『親の血を引く~』ってやつだよ。
そうそう、義兄弟」
「その橋……。
ヤクザなんですか?」
「違う!
でも、固めの杯を交わしたことは確かだな。
1994年(平成6年)、兄弟橋の締結調印式が行われてるからね。
この2橋が兄弟になったのは……。
驚くほど似てるからなんだよ」
「萬代橋は昭和4年の竣工、名島橋は昭和8年竣工。
だから、萬代橋がお兄さんだね」
「へ~。
じゃ、Mikikoさん見たいでしょ?
行きましょうよ、名島橋。
遠いんですか?」
「こっからなら、30分くらいじゃないかな」
「それなら、往復に1時間で、橋の周辺で30分。
ちょうど1時間半じゃないですか」
「そうだけどさ~。
美弥は、別に興味ないでしょ?」
「いいですよ。
つきあいます」
「なんか、申し訳ないなぁ。
じゃ、どうやって行くのか、ちょっと地図見てみるね」
「貝塚って駅が、最寄り駅だね。
地下鉄箱崎線が、ここから西鉄に乗り入れてるんだな。
でも、博多駅から出る地下鉄は、空港線だから……。
中洲川端駅で乗り換えになるね」
「なるほど」
「でも……。
地図見ると、福岡ってスゴい大都会だよね」
「東京と変わりませんよ」
「新潟とは、大違いだ。
『大都会』、歌いたくなっちゃったな」
「お願いですから、歌わないでくださいね」
「わはは。
わたしの音程が、地の果てまで外れるってのを……。
ご存じのようで」
「だいたい予想がつきます」
「失敬なヤツ。
でも、ちょっと街に出てみたくなったな。
地下鉄、一駅だけ歩こうか?」
「それもいいですね。
今日は、馬車と電車で、ぜんぜん歩いてませんもん」
「そのくせ、お弁当は残さないで食べちゃったよね」
「美味しかったから。
綺麗だったし」
「だよね。
あ、美弥、いいこと思いついた」
「なんです?」
「腹ごなししよう」
「歩くんでしょ?」
「歩いたくらいじゃ、お腹こなれないよ。
運動、運動。
ここ、見てみ」
「『博多スターレーン』?」
「スターレーンって、ボウリング場?
ボウリングするんですか?」
「ピンポ~ン」
「でも、ボウリングなんてしてたら……。
名島橋、見に行けないですよ」
「名島橋は、どうしても見なきゃならないってもんじゃないからさ。
ネットで写真も見れるし。
それよか、旅行の最後に……。
美弥と楽しく遊びたいな」
「Mikikoさんさえ良ければ……。
わたしは別に構いませんけど」
「よし決まり!
レ~ッツ、ボウリング!」
博多駅の東側、筑紫口を出ます。
博多駅の表玄関は、西側の博多口です。
筑紫口は、表玄関じゃないといっても、十分に大都会ですね。
ここから、徒歩3分。
ありました、「博多スターレーン」。
ボウリング場なんて、久しぶりです。
前に行ったのがいつだったか、忘れちゃいましたが……。
東京時代だったと思います。
新潟に帰ってきてからは、1度も行ってないから。
といっても、東京で行ったのは、せいぜい1~2回だと思う。
どこに誰と行ったのか、ほとんど記憶がありません。
逆に、高校生のとき行ったボウリング場の方が覚えてる。
新潟アイスリンクという施設が、新潟駅裏にありました。
冬はスケートリンク、夏はプールとして営業してました。
で、この施設にボウリング場が併設されてたんです。
今はもう、スケートリンクは無くなりましたが……。
ボウリング場は、今もやってるんじゃないかな?
確か、男女3人くらいずつで行ったんだよな。
まだ、“グループ交際”などという言葉が、かすかに残ってた時代。
携帯なんか、誰一人持ってなかったころです。
男が、2人のはずが3人来ることになったとかで、わたしは数合わせで誘われたんです。
男なんぞに興味は無かったんですが……。
誘ってくれた女子に、ちょっと引かれてたんですね。
無論、その子は、完全なノンケでしたけど。
2レーン使ってゲームを始めました。
で、指の汗を乾かす送風口みたいなとこがあるでしょ?
そこに、ついと手を出したら、隣のレーンの男が一緒に出してね。
指先がぶつかりました。
あのころは、そんなことでもドギマギしたものです。
今時の高校生には、信じられないだろうね。
今の子なんか、平気で手つないでるからな。
それどころか、新潟でも、キスしてるカップルまでいる。
2人とも制服着てるんだよ。
あんなのは即刻補導して、鞭打ち千回くらいの刑にすべきじゃないか。
そうしないと、そのうち……。
路上で、犬みたいに番うヤツまで出てきかねんぞ。
話が、ずれてしまった。
で、そのグループボウリングの感想は、男ってタイヘンだなってことでした。
女は、ヘタクソでも、それなりに愛嬌だけどね。
男はやっぱ、100ピンとかだと、かっちょ悪いよね。
その日の男どもは、確か120ピン前後だったと思いますが……。
女3人が、1人として100ピンに届かないというレベルだったので……。
120ピンでも、面目が立ったようです。
ちなみに、このボウリング場の思い出に、後日談はありません。
その日、1日ボウリングしただけ。
手がぶつかった男とも、以後、口を利くことさえありませんでした。
さて、『博多スターレーン』に、戻りましょう。
平日の真っ昼間とあって、そんなに混んでませんね。
母の話だと……。
昭和40年代、ブームのころのボウリング場は……。
プレー出来るまで、3時間待ちくらいはザラだったそうです。
久々に、ボウリングシューズを履きました。
「美弥のサイズなんか、ある?」
「失礼ですね。
25.5センチなんですから、無いわけないでしょ」
「へ~。
案外、デカくないんだな。
無理してるんじゃないの?」
「してませんっ。
このバッシュ買うとき、見てたでしょ?」
「あ、そうか。
あのね、うちの会社の取引先の女で、すげー大足がいるんだよ。
背は、美弥より低いんだけどね。
全体に骨太でさ。
あの女、遺骨になると、骨壺に収まらないんじゃないか?
でさ、うちの会社って、土足禁止なんだよ。
来客には、スリッパに履き代えてもらうわけ。
で、そいつのパンプスが、通用口に脱いであるの見ると……。
ギョッとするよ。
空母が乗り上げたみたいなんだから」
「ヒドいですね。
その人、きっと気にしてますよ。
靴脱がなきゃならないとこなんて、行きたくないだろうな」
「ま、そう思うから……。
誰も口には出さないけどね。
でもわたし、どうしても我慢できなくて……。
1度だけ、足入れてみたことがあるんだ。
誰もいないとき。
もう、子供が大人の靴、突っかけたみたいでさ。
カカトんとこ、ゲンコが入りそうなほど空いてんだよ。
そのまま会社飛び出して……。
物陰に隠れて、10分くらい笑ったね。
ハラワタが千切れるかと思った」
「ほんとに、ヒドいんだから」
さて、バカ話してないで、次はボールですね。
「美弥は、何ポンドにするの?」
「久しぶりだから、14ポンドくらいにしようかな?」
「げ。
よくそんなの持てるな。
足に落としたら、大変だぜ」
「落とさなきゃいいでしょ」
「わたしは、握力が弱いの。
指も細いから、すっぽ抜けちゃうんだよ」
「何ポンドにするんですか?」
「8ポンドかな」
さ~て。
ジャンケンして、ゲーム開始です。
美弥ちゃんが先攻。
レーンに立つ後ろ姿は、ほれぼれするほど格好いいです。
流れるようなフォームで、第1投。
ところが……。
ボールはピンに向かわず、大きくそれて行きいます。
「やった!
いきなりガーター!」
と、喜んだのもつかの間。
なんと!
生意気にも、ボールが急角度でフックしました。
そのまま、まっすぐストライクポケットへ。
『ガッシャ~ン!』
破裂音を響かせ、全ピンが一瞬で吹き飛びました。
ストライクです。
美弥ちゃんは、控えめなガッツポーズを取ると……。
得意げな顔で引き上げてきます。
「や、やるじゃないの……」
「さ、Mikikoさんも続いてくださいよ」
「よ~し。
よっこらせ」
8ポンドでも、十分重たいわい。
7ポンドにすりゃ良かったかな。
必ず落っことすので、バックスイングなんて出来ません。
ボールを抱えたまま、ファールラインまでよろめいて行きます。
そのまんま、ボールを放り出すように離すと……。
『ガン!』
レーンに大穴が空きそうな音を立てて、ボールが着地。
なんとか、転がって行きました。
蝿が止まりそうな速度ですが……。
ピンに近づいて行きます。
「おぉ、いい線いってる」
と思ったのもつかの間。
ボールは、ピン手前で大きくスライスし……。
『ガッタン』
ガーター溝に落ちてしまいました。
「くっそー。
ままならぬボールじゃ」
「Mikikoさん、ピン見ないで、スパット狙って投げるといいですよ」
「なに?
スパッツ?
わたしゃ、穿いてないぞ」
「スパッツじゃなくて、スパット!
ほら、レーンの途中に三角の目印が並んでるでしょ」
「で、ボールがまっすぐ転がることを前提に話しますけど……。
ボールを離す位置と、狙ったピンを一直線で結ぶと……。
どのスパットを通るかわかるでしょ?
そしたら、投げるときは、そのスパットめがけて投げるんです。
目標が近い方が、コントロールしやすいですからね」
「なるほど。
そういうインチキ技を使っておったのか」
「インチキじゃありませんって。
そのためにスパットがあるんです」
「よし。
じゃ、第2投は、そうしてみる」
ボールを落っことすあたりと、ピンの真ん中を目で結び……。
どのスパットを通るか見定めるわけだな。
で、そのスパットを睨みながら……。
ボールを抱えて、よろめいて行きます。
『ガン!』
大きな音を立ててボールが落ち……。
いい具合にスパットの方に転がっていきます。
「おぉっ」
なんと、目指すスパットの真上を通過しました。
こんどこそ、ストライクかっ?(2投目だから、スペアだけど)
こんどこそ、ストライクかっ?
……と、喜んだのもつかの間。
ボールは、ピンの手前まで来ると……。
まるで立ち並ぶピンに怖じ気づいたように、大きく左に逸れていきました。
『カッタン』
悲しい音を残し、ボールはガーター溝を去っていきます。
「くっそ~。
なぜに、あそこで曲がるのか……」
「魔球ですね」
続いて、美弥ちゃんの第2フレーム。
大きなストライド、高いバックスイング。
格好いいです。
豪快なフォームから繰り出されるボールは、威力十分。
ピンの手前で、食い込むように曲がります。
『ガッシャ~ン』
快音を残し、ピンが弾け飛びました。
美弥ちゃんは、意気揚々と引き上げて来ます。
『パチパチパチパチ』
真後ろから、拍手が聞こえました。
近くのレーンで、投球した人はいないので……。
この拍手は、どう考えても美弥ちゃんに対してです。
怪訝に思い、振り向くと……。
高校生くらいでしょうかね。
2人組の女が、ハウスボールのラックの後ろから、拍手を送ってました。
平日の真っ昼間に堂々とボウリング場来てるとは、太てーヤツら。
……と思ったけど、よく考えたら春休みでした。
2人組の視線の先は、明らかに美弥ちゃんです。
「知り合い?」
「そんなわけないでしょ。
福岡に知り合いなんて、いるわけないです」
「いきなりファンが出来たってこと?」
「そうかも。
昔は、こういうのが、スゴくイヤだったんです。
でも今は、けっこう平気みたい。
Mikikoさんと一緒だからですね」
「そんなら、仲いいとこ、見せつけてやろうか?
ここで、キスするとか?」
「そんな仲じゃないでしょ」
「いけずぅ。
あの視線、腹立つんだよ。
わたしを見るときの目が、あからさまに冷たいんだから」
「気にしない。
ほら、Mikikoさんの番ですよ」
後ろ髪を引かれつつ、レーンにあがります。
ボールを抱え、斜めになりながら、よろめいて行きます。
『ガッタン』
派手なバウンド音を響かせ、8ポンドのヘロヘロ玉が転げていきます。
またピン手前で、ヘタレましたが……。
2人組に対する怒りのパワーが乗り移っていたのか……。
溝に落ちる手前で、ピンにあたりました。
『カタ、カタ、カタ』
3ピン、ゲットです!
派手なアッパーカットガッツポーズを作り、振り向きます。
美弥ちゃんは、微妙な顔ながら、拍手を送ってくれました。
対して!
後ろの2人組からは、拍手が聞こえませんでした。
睨み付けると、2人してペチャペチャくっちゃべってて……。
わたしのことなんか、見てもいない!
ほんのこつ、腹ん立つ……。
ボールが、帰ってきました。
さらに怒りのパワーを注入し……。
果敢にスペアを取りに行きます。
しかし……。
ボールは、またもやピン手前でひねくれ……。
それでも、反対側の3ピンを倒しました。
まずまずの収穫です。
10ピン中、6ピンも取ったんだから……。
良しとしましょう。
打率6割。
イチローより、はるかに上じゃ。
さて、その後のプレーですが……。
美弥ちゃんは、後ろの2人組が過剰に反応するので、集中できないらしく……。
途中、オープンフレームも作りましたが……。
最後は、パンチアウトで締めくくりました。
スコアは……。
172ピン!
「なんか、インチキしたろ?」
「してませんって。
隣で見てたでしょ」
「じゃ、計算間違いか?」
「計算は、機械がするんですから……。
間違いっこありません。
172くらい出す人、ざらにいますよ。
それより……。
Mikikoさんの点数の方がスゴいです。
34ピンって……。
どうやったら、こんな点が出せるんです?」
「やかましい。
完全にボールが悪い。
次は、7ポンドにする」
「次って……。
まだやる気なんですか?」
「あたりまえだろ。
勝ち逃げは許さん。
次は、勝ってやる」
「勝つ気……、なんですか?
怖い人……。
そうだ。
ハンデあげますよ」
「バカにすな!
そんなの、いらんわい」
「わたし実は、子供のころから、ボウリングやってたんです。
父に連れられて。
父は、上手かったんですよ。
アベレージ、200越えてたんじゃないかな?
その父に習ってたんですからね。
高校時代は、よく1人でボウリング場行ってました。
250くらい出したこともあります」
「セミプロじゃないの!
そんなら、ハンデもらっても恥じゃないな」
「何ピン、あげます?」
「う~ん、そうだな……。
300ピン、くれる?」
「あげません。
今の点差にしましょう。
172引く34で……。
138ピンか。
よし、オマケして、140ピン」
「もう、一声!」
「う~ん。
145ピン」
「案外、セコいな。
こういうのは、100ピン単位で括ってよ。
200ピン」
「ダメ!
わかりました。
じゃ、150ピンね。
これ以上は、絶対にダメです」
「けち」
「けちで結構。
じゃ、始めますよ。
早く、7ポンドのボールに換えてきてください」
「なんか……。
急に怖くなったんですけど……」
「当たり前でしょ。
150ピンもハンデあげたら……。
アドレナリンが、全身をかけ巡り始めました」
そして、第2ゲームの結果は……。
美弥ちゃん、188ピン。
Mikiko、28ピン。
「くっそー。
160ピン差か……。
ハンデの150ピンを引くと、10ピン差。
僅差で破れてしまった。
よーし、次は6ポンドのボールで……」
「Mikikoさん!
いいかげん急がないと!
1便しかない飛行機、乗り遅れちゃいますよ」
「何時だ?」
「もう、3時半になります」
「どひゃー。
急げ~」
大慌てで精算してたら、さっきの2人組が近寄ってきました。
こいつら……。
美弥ちゃんに、話しかけるつもりだな。
させるかっ!
これ見よがしに美弥ちゃんの腕を抱えると……。
2人組、あからさまにムッとした顔。
頭の上に、吹き出しが出て見えます。
『こんな綺麗な人に、なんであんたみたいな小猿が付いてるの!』
『あんたじゃ、吊り合わないのよ!』
そんなこたぁ、わかっとるわい!
でも、これが創造主の特権なんじゃい!
2人組に向かって、思い切りアッカンベーをしてやりました。
「美弥、急ごう」
スターレーン入り口の階段を駆け降ります。
なんか、時間に追われるシンデレラみたいですね。
あるいは、略奪した花嫁と、手に手を取っての逃亡劇?
博多駅筑紫口が見えてきました。
どうやら、2人組は付いて来れなかったようです。
地下鉄の改札を抜け……。
地下鉄ホームに降りると、ちょうど電車が入ってきました。
飛び乗ります。
15:42。
でも、ここまで来ればもう大丈夫。
息を整える間もなく、15:47、福岡空港駅に着きました。
新潟行きの出発まで、30分弱。
これに乗り遅れたら、電車乗り継いで帰らにゃならんとこでした。
搭乗口に向かいます。
飛行機のシートに身を投げ出し、ホッと安心。
「やでやで」
ほんとうに、この旅が終わってしまうんですね。
また、感傷的な思いがこみ上げて来て……。
美弥ちゃんの手を握りしめました。
わたしの思いが伝わったのでしょう。
美弥ちゃんも、握り返してくれます。
新潟行き、全日空323便は……。
定刻の16時15分、福岡空港を離陸しました。
さようなら……。
楽しかった九州。
わたしはこの旅を、決して忘れません。
また来るからね、九州!
地面が見えなくなるまで、窓の外を見送ると……。
急に眠気が……。
さすがに、ボウリング2ゲームが効いたようです。
たちまち、夢の中に引きこまれていきました。
夢の中のわたしは……。
8ポンドのボールに乗って、必死に球転がしをしてました。
美弥ちゃんの声が、遠くから呼んでます。
一生懸命、声の方に転がそうとするんですが……。
球は、右へ左へ、ままなりません。
振り向くと……。
例の2人組が、追いかけてきます。
「Mikiko、さ~ん……」
「美弥ちゃん!
どこー?」
2人組の足音が、近づいてきます。
追いつかれる!
スピードを上げようと、前のめりになった途端……。
足元が滑りました。
「あっ」
落ちる!
と思った途端、跳ね起きました。
「あぁ、美弥ちゃん……。
ここにいたの?」
「何の夢見てたんです?
子供みたいに、びっくんびっくんしてましたよ」
「ここどこ?」
「もう、新潟の上空みたいですよ」
17:45。
新潟空港、着陸。
ここから伊丹空港に向けて飛び立ったのが、わずか4日前だったんですね。
なんか、信じられない気分。
4日ぶりに、懐かしき故郷の大地を踏みます。
「新潟のみなさん、Mikiko、ただいま帰って参りました!」
「タラップで立ち止まらないでください」
「はいはい」
早春の九州を旅して来たので……。
やっぱり、空気が少し冷たい。
季節を遡った感じですね。
来たときと同じ、エアポートリムジンに乗りこみます。
春の夕暮れは早く、もうあたりは真っ暗。
新潟の街は、何事も無かったように、灯を点してます。
「Mikikoさん……。
どうしたんです」
「わたしがこの世からいなくなっても……。
この町には、何の変わりもなく、新しい日々が巡って来るんだね」
「ずいぶんと感傷的になってますね」
「楽しいことの終わりって、どうしてこう悲しいんだろうね」
「楽しいことの終わりは……。
もっと楽しいことの始まりですよ」
「そうか~。
いいこと言うね」
新潟の街を、バスで走ってるってのが、まだ信じられない気分。
ほんの3時間前は、博多でボウリングしてたんだよ。
エアポートリムジンが、新潟駅南口に着きました。
美弥ちゃんの手を取って、歩き出します。
「ちょっと、Mikikoさん。
駅は反対側ですよ」
「いいの、こっちで!
こっちには、ボウリング場があるんだから!」
「ちょっと、まさか、Mikikoさん……」
「レ~ッツ、ボウリング!」
長い間、お付きあいくださいまして、ほんとうにありがとうございました。
「高知に行こう!」および「大分に行こう!」……。
これにて終了です。
連載開始が、3月5日……。
途中、何度か中断もありましたが、5ヶ月半に渡る長旅を、今、ようやく終えることができました。
一緒に旅をしてくれたみなさん、ほんとうにありがとう!
最後の方は、旅を終わらせたくなくて……。
ボウリングまでしちゃったけどね。
この後、普通のコメントが書けるか、ちょっと不安になってます。
駄々っ子なんだから。
みんな、笑って見てますよ。
分かりました。
新潟までお供します」
「ほんと?
でもまさか……。
新潟駅から、新幹線乗るつもりじゃないでしょうね」
「ダメですか?」
「ダメー!
もう1泊して!」
「でも、明日の授業が……」
「朝1番の新幹線に乗れば、東京には8時に着くよ。
マンション寄ってから大学行ったって……。
2限目くらいから出れるでしょ」
「でも、予習が……。
けっこう、当てられるんですよ」
「予習が心配なら、授業出なきゃいいの」
「もう。
強引なんだから。
わかりました。
じゃ、またお家に泊めてくれます?」
「もちろん!
何泊でもしていいよ」
「1泊しかしません。
ほんとに泣くんだから、信じられない」
「ここに置いてかれると思ったら、涙が噴き出した」
「じゃ、空港行きますか」
「は~い。
とは、言ったものの……。
出発まで、2時間もあるからな。
今から空港行っても、時間持てあますよなぁ」
「じゃ、どうします?」
「う~ん。
微妙な時間だね。
搭乗まで30分余裕を見るとして……。
残り、1時間半か。
遠出は出来ないなぁ」
「そうですね。
どうします?」
「ひとつの案としては……。
名島橋を見に行くって手があるんだけど……」
「それって、有名な橋なんですか?
九重みたいな吊り橋?」
「博多に吊り橋があるかい!
名島橋は、普通のコンクリート橋だよ。
それに、全国的に有名な橋ってわけじゃない」
「じゃぁ、どうして?」
「新潟市に、萬代橋って橋があるんだけど……。
名島橋は、その萬代橋と兄弟橋なんだよ」
「へ~。
橋に兄弟なんて、あるんですか?
兄弟ってことは、親が同じってこと?」
「橋の親って、なんだよ?」
「設計者が同じだとか?」
「なるほど、考えたね。
でも、設計者が同じなんて聞かないな。
役所の技術者が設計したんじゃないの?」
「じゃ、親は何なんですか?」
「親にこだわらない!
親はなくても、兄弟なの。
ほら、あるでしょ?
『親の血を引く~』ってやつだよ。
そうそう、義兄弟」
「その橋……。
ヤクザなんですか?」
「違う!
でも、固めの杯を交わしたことは確かだな。
1994年(平成6年)、兄弟橋の締結調印式が行われてるからね。
この2橋が兄弟になったのは……。
驚くほど似てるからなんだよ」
「萬代橋は昭和4年の竣工、名島橋は昭和8年竣工。
だから、萬代橋がお兄さんだね」
「へ~。
じゃ、Mikikoさん見たいでしょ?
行きましょうよ、名島橋。
遠いんですか?」
「こっからなら、30分くらいじゃないかな」
「それなら、往復に1時間で、橋の周辺で30分。
ちょうど1時間半じゃないですか」
「そうだけどさ~。
美弥は、別に興味ないでしょ?」
「いいですよ。
つきあいます」
「なんか、申し訳ないなぁ。
じゃ、どうやって行くのか、ちょっと地図見てみるね」
「貝塚って駅が、最寄り駅だね。
地下鉄箱崎線が、ここから西鉄に乗り入れてるんだな。
でも、博多駅から出る地下鉄は、空港線だから……。
中洲川端駅で乗り換えになるね」
「なるほど」
「でも……。
地図見ると、福岡ってスゴい大都会だよね」
「東京と変わりませんよ」
「新潟とは、大違いだ。
『大都会』、歌いたくなっちゃったな」
「お願いですから、歌わないでくださいね」
「わはは。
わたしの音程が、地の果てまで外れるってのを……。
ご存じのようで」
「だいたい予想がつきます」
「失敬なヤツ。
でも、ちょっと街に出てみたくなったな。
地下鉄、一駅だけ歩こうか?」
「それもいいですね。
今日は、馬車と電車で、ぜんぜん歩いてませんもん」
「そのくせ、お弁当は残さないで食べちゃったよね」
「美味しかったから。
綺麗だったし」
「だよね。
あ、美弥、いいこと思いついた」
「なんです?」
「腹ごなししよう」
「歩くんでしょ?」
「歩いたくらいじゃ、お腹こなれないよ。
運動、運動。
ここ、見てみ」
「『博多スターレーン』?」
「スターレーンって、ボウリング場?
ボウリングするんですか?」
「ピンポ~ン」
「でも、ボウリングなんてしてたら……。
名島橋、見に行けないですよ」
「名島橋は、どうしても見なきゃならないってもんじゃないからさ。
ネットで写真も見れるし。
それよか、旅行の最後に……。
美弥と楽しく遊びたいな」
「Mikikoさんさえ良ければ……。
わたしは別に構いませんけど」
「よし決まり!
レ~ッツ、ボウリング!」
博多駅の東側、筑紫口を出ます。
博多駅の表玄関は、西側の博多口です。
筑紫口は、表玄関じゃないといっても、十分に大都会ですね。
ここから、徒歩3分。
ありました、「博多スターレーン」。
ボウリング場なんて、久しぶりです。
前に行ったのがいつだったか、忘れちゃいましたが……。
東京時代だったと思います。
新潟に帰ってきてからは、1度も行ってないから。
といっても、東京で行ったのは、せいぜい1~2回だと思う。
どこに誰と行ったのか、ほとんど記憶がありません。
逆に、高校生のとき行ったボウリング場の方が覚えてる。
新潟アイスリンクという施設が、新潟駅裏にありました。
冬はスケートリンク、夏はプールとして営業してました。
で、この施設にボウリング場が併設されてたんです。
今はもう、スケートリンクは無くなりましたが……。
ボウリング場は、今もやってるんじゃないかな?
確か、男女3人くらいずつで行ったんだよな。
まだ、“グループ交際”などという言葉が、かすかに残ってた時代。
携帯なんか、誰一人持ってなかったころです。
男が、2人のはずが3人来ることになったとかで、わたしは数合わせで誘われたんです。
男なんぞに興味は無かったんですが……。
誘ってくれた女子に、ちょっと引かれてたんですね。
無論、その子は、完全なノンケでしたけど。
2レーン使ってゲームを始めました。
で、指の汗を乾かす送風口みたいなとこがあるでしょ?
そこに、ついと手を出したら、隣のレーンの男が一緒に出してね。
指先がぶつかりました。
あのころは、そんなことでもドギマギしたものです。
今時の高校生には、信じられないだろうね。
今の子なんか、平気で手つないでるからな。
それどころか、新潟でも、キスしてるカップルまでいる。
2人とも制服着てるんだよ。
あんなのは即刻補導して、鞭打ち千回くらいの刑にすべきじゃないか。
そうしないと、そのうち……。
路上で、犬みたいに番うヤツまで出てきかねんぞ。
話が、ずれてしまった。
で、そのグループボウリングの感想は、男ってタイヘンだなってことでした。
女は、ヘタクソでも、それなりに愛嬌だけどね。
男はやっぱ、100ピンとかだと、かっちょ悪いよね。
その日の男どもは、確か120ピン前後だったと思いますが……。
女3人が、1人として100ピンに届かないというレベルだったので……。
120ピンでも、面目が立ったようです。
ちなみに、このボウリング場の思い出に、後日談はありません。
その日、1日ボウリングしただけ。
手がぶつかった男とも、以後、口を利くことさえありませんでした。
さて、『博多スターレーン』に、戻りましょう。
平日の真っ昼間とあって、そんなに混んでませんね。
母の話だと……。
昭和40年代、ブームのころのボウリング場は……。
プレー出来るまで、3時間待ちくらいはザラだったそうです。
久々に、ボウリングシューズを履きました。
「美弥のサイズなんか、ある?」
「失礼ですね。
25.5センチなんですから、無いわけないでしょ」
「へ~。
案外、デカくないんだな。
無理してるんじゃないの?」
「してませんっ。
このバッシュ買うとき、見てたでしょ?」
「あ、そうか。
あのね、うちの会社の取引先の女で、すげー大足がいるんだよ。
背は、美弥より低いんだけどね。
全体に骨太でさ。
あの女、遺骨になると、骨壺に収まらないんじゃないか?
でさ、うちの会社って、土足禁止なんだよ。
来客には、スリッパに履き代えてもらうわけ。
で、そいつのパンプスが、通用口に脱いであるの見ると……。
ギョッとするよ。
空母が乗り上げたみたいなんだから」
「ヒドいですね。
その人、きっと気にしてますよ。
靴脱がなきゃならないとこなんて、行きたくないだろうな」
「ま、そう思うから……。
誰も口には出さないけどね。
でもわたし、どうしても我慢できなくて……。
1度だけ、足入れてみたことがあるんだ。
誰もいないとき。
もう、子供が大人の靴、突っかけたみたいでさ。
カカトんとこ、ゲンコが入りそうなほど空いてんだよ。
そのまま会社飛び出して……。
物陰に隠れて、10分くらい笑ったね。
ハラワタが千切れるかと思った」
「ほんとに、ヒドいんだから」
さて、バカ話してないで、次はボールですね。
「美弥は、何ポンドにするの?」
「久しぶりだから、14ポンドくらいにしようかな?」
「げ。
よくそんなの持てるな。
足に落としたら、大変だぜ」
「落とさなきゃいいでしょ」
「わたしは、握力が弱いの。
指も細いから、すっぽ抜けちゃうんだよ」
「何ポンドにするんですか?」
「8ポンドかな」
さ~て。
ジャンケンして、ゲーム開始です。
美弥ちゃんが先攻。
レーンに立つ後ろ姿は、ほれぼれするほど格好いいです。
流れるようなフォームで、第1投。
ところが……。
ボールはピンに向かわず、大きくそれて行きいます。
「やった!
いきなりガーター!」
と、喜んだのもつかの間。
なんと!
生意気にも、ボールが急角度でフックしました。
そのまま、まっすぐストライクポケットへ。
『ガッシャ~ン!』
破裂音を響かせ、全ピンが一瞬で吹き飛びました。
ストライクです。
美弥ちゃんは、控えめなガッツポーズを取ると……。
得意げな顔で引き上げてきます。
「や、やるじゃないの……」
「さ、Mikikoさんも続いてくださいよ」
「よ~し。
よっこらせ」
8ポンドでも、十分重たいわい。
7ポンドにすりゃ良かったかな。
必ず落っことすので、バックスイングなんて出来ません。
ボールを抱えたまま、ファールラインまでよろめいて行きます。
そのまんま、ボールを放り出すように離すと……。
『ガン!』
レーンに大穴が空きそうな音を立てて、ボールが着地。
なんとか、転がって行きました。
蝿が止まりそうな速度ですが……。
ピンに近づいて行きます。
「おぉ、いい線いってる」
と思ったのもつかの間。
ボールは、ピン手前で大きくスライスし……。
『ガッタン』
ガーター溝に落ちてしまいました。
「くっそー。
ままならぬボールじゃ」
「Mikikoさん、ピン見ないで、スパット狙って投げるといいですよ」
「なに?
スパッツ?
わたしゃ、穿いてないぞ」
「スパッツじゃなくて、スパット!
ほら、レーンの途中に三角の目印が並んでるでしょ」
「で、ボールがまっすぐ転がることを前提に話しますけど……。
ボールを離す位置と、狙ったピンを一直線で結ぶと……。
どのスパットを通るかわかるでしょ?
そしたら、投げるときは、そのスパットめがけて投げるんです。
目標が近い方が、コントロールしやすいですからね」
「なるほど。
そういうインチキ技を使っておったのか」
「インチキじゃありませんって。
そのためにスパットがあるんです」
「よし。
じゃ、第2投は、そうしてみる」
ボールを落っことすあたりと、ピンの真ん中を目で結び……。
どのスパットを通るか見定めるわけだな。
で、そのスパットを睨みながら……。
ボールを抱えて、よろめいて行きます。
『ガン!』
大きな音を立ててボールが落ち……。
いい具合にスパットの方に転がっていきます。
「おぉっ」
なんと、目指すスパットの真上を通過しました。
こんどこそ、ストライクかっ?(2投目だから、スペアだけど)
こんどこそ、ストライクかっ?
……と、喜んだのもつかの間。
ボールは、ピンの手前まで来ると……。
まるで立ち並ぶピンに怖じ気づいたように、大きく左に逸れていきました。
『カッタン』
悲しい音を残し、ボールはガーター溝を去っていきます。
「くっそ~。
なぜに、あそこで曲がるのか……」
「魔球ですね」
続いて、美弥ちゃんの第2フレーム。
大きなストライド、高いバックスイング。
格好いいです。
豪快なフォームから繰り出されるボールは、威力十分。
ピンの手前で、食い込むように曲がります。
『ガッシャ~ン』
快音を残し、ピンが弾け飛びました。
美弥ちゃんは、意気揚々と引き上げて来ます。
『パチパチパチパチ』
真後ろから、拍手が聞こえました。
近くのレーンで、投球した人はいないので……。
この拍手は、どう考えても美弥ちゃんに対してです。
怪訝に思い、振り向くと……。
高校生くらいでしょうかね。
2人組の女が、ハウスボールのラックの後ろから、拍手を送ってました。
平日の真っ昼間に堂々とボウリング場来てるとは、太てーヤツら。
……と思ったけど、よく考えたら春休みでした。
2人組の視線の先は、明らかに美弥ちゃんです。
「知り合い?」
「そんなわけないでしょ。
福岡に知り合いなんて、いるわけないです」
「いきなりファンが出来たってこと?」
「そうかも。
昔は、こういうのが、スゴくイヤだったんです。
でも今は、けっこう平気みたい。
Mikikoさんと一緒だからですね」
「そんなら、仲いいとこ、見せつけてやろうか?
ここで、キスするとか?」
「そんな仲じゃないでしょ」
「いけずぅ。
あの視線、腹立つんだよ。
わたしを見るときの目が、あからさまに冷たいんだから」
「気にしない。
ほら、Mikikoさんの番ですよ」
後ろ髪を引かれつつ、レーンにあがります。
ボールを抱え、斜めになりながら、よろめいて行きます。
『ガッタン』
派手なバウンド音を響かせ、8ポンドのヘロヘロ玉が転げていきます。
またピン手前で、ヘタレましたが……。
2人組に対する怒りのパワーが乗り移っていたのか……。
溝に落ちる手前で、ピンにあたりました。
『カタ、カタ、カタ』
3ピン、ゲットです!
派手なアッパーカットガッツポーズを作り、振り向きます。
美弥ちゃんは、微妙な顔ながら、拍手を送ってくれました。
対して!
後ろの2人組からは、拍手が聞こえませんでした。
睨み付けると、2人してペチャペチャくっちゃべってて……。
わたしのことなんか、見てもいない!
ほんのこつ、腹ん立つ……。
ボールが、帰ってきました。
さらに怒りのパワーを注入し……。
果敢にスペアを取りに行きます。
しかし……。
ボールは、またもやピン手前でひねくれ……。
それでも、反対側の3ピンを倒しました。
まずまずの収穫です。
10ピン中、6ピンも取ったんだから……。
良しとしましょう。
打率6割。
イチローより、はるかに上じゃ。
さて、その後のプレーですが……。
美弥ちゃんは、後ろの2人組が過剰に反応するので、集中できないらしく……。
途中、オープンフレームも作りましたが……。
最後は、パンチアウトで締めくくりました。
スコアは……。
172ピン!
「なんか、インチキしたろ?」
「してませんって。
隣で見てたでしょ」
「じゃ、計算間違いか?」
「計算は、機械がするんですから……。
間違いっこありません。
172くらい出す人、ざらにいますよ。
それより……。
Mikikoさんの点数の方がスゴいです。
34ピンって……。
どうやったら、こんな点が出せるんです?」
「やかましい。
完全にボールが悪い。
次は、7ポンドにする」
「次って……。
まだやる気なんですか?」
「あたりまえだろ。
勝ち逃げは許さん。
次は、勝ってやる」
「勝つ気……、なんですか?
怖い人……。
そうだ。
ハンデあげますよ」
「バカにすな!
そんなの、いらんわい」
「わたし実は、子供のころから、ボウリングやってたんです。
父に連れられて。
父は、上手かったんですよ。
アベレージ、200越えてたんじゃないかな?
その父に習ってたんですからね。
高校時代は、よく1人でボウリング場行ってました。
250くらい出したこともあります」
「セミプロじゃないの!
そんなら、ハンデもらっても恥じゃないな」
「何ピン、あげます?」
「う~ん、そうだな……。
300ピン、くれる?」
「あげません。
今の点差にしましょう。
172引く34で……。
138ピンか。
よし、オマケして、140ピン」
「もう、一声!」
「う~ん。
145ピン」
「案外、セコいな。
こういうのは、100ピン単位で括ってよ。
200ピン」
「ダメ!
わかりました。
じゃ、150ピンね。
これ以上は、絶対にダメです」
「けち」
「けちで結構。
じゃ、始めますよ。
早く、7ポンドのボールに換えてきてください」
「なんか……。
急に怖くなったんですけど……」
「当たり前でしょ。
150ピンもハンデあげたら……。
アドレナリンが、全身をかけ巡り始めました」
そして、第2ゲームの結果は……。
美弥ちゃん、188ピン。
Mikiko、28ピン。
「くっそー。
160ピン差か……。
ハンデの150ピンを引くと、10ピン差。
僅差で破れてしまった。
よーし、次は6ポンドのボールで……」
「Mikikoさん!
いいかげん急がないと!
1便しかない飛行機、乗り遅れちゃいますよ」
「何時だ?」
「もう、3時半になります」
「どひゃー。
急げ~」
大慌てで精算してたら、さっきの2人組が近寄ってきました。
こいつら……。
美弥ちゃんに、話しかけるつもりだな。
させるかっ!
これ見よがしに美弥ちゃんの腕を抱えると……。
2人組、あからさまにムッとした顔。
頭の上に、吹き出しが出て見えます。
『こんな綺麗な人に、なんであんたみたいな小猿が付いてるの!』
『あんたじゃ、吊り合わないのよ!』
そんなこたぁ、わかっとるわい!
でも、これが創造主の特権なんじゃい!
2人組に向かって、思い切りアッカンベーをしてやりました。
「美弥、急ごう」
スターレーン入り口の階段を駆け降ります。
なんか、時間に追われるシンデレラみたいですね。
あるいは、略奪した花嫁と、手に手を取っての逃亡劇?
博多駅筑紫口が見えてきました。
どうやら、2人組は付いて来れなかったようです。
地下鉄の改札を抜け……。
地下鉄ホームに降りると、ちょうど電車が入ってきました。
飛び乗ります。
15:42。
でも、ここまで来ればもう大丈夫。
息を整える間もなく、15:47、福岡空港駅に着きました。
新潟行きの出発まで、30分弱。
これに乗り遅れたら、電車乗り継いで帰らにゃならんとこでした。
搭乗口に向かいます。
飛行機のシートに身を投げ出し、ホッと安心。
「やでやで」
ほんとうに、この旅が終わってしまうんですね。
また、感傷的な思いがこみ上げて来て……。
美弥ちゃんの手を握りしめました。
わたしの思いが伝わったのでしょう。
美弥ちゃんも、握り返してくれます。
新潟行き、全日空323便は……。
定刻の16時15分、福岡空港を離陸しました。
さようなら……。
楽しかった九州。
わたしはこの旅を、決して忘れません。
また来るからね、九州!
地面が見えなくなるまで、窓の外を見送ると……。
急に眠気が……。
さすがに、ボウリング2ゲームが効いたようです。
たちまち、夢の中に引きこまれていきました。
夢の中のわたしは……。
8ポンドのボールに乗って、必死に球転がしをしてました。
美弥ちゃんの声が、遠くから呼んでます。
一生懸命、声の方に転がそうとするんですが……。
球は、右へ左へ、ままなりません。
振り向くと……。
例の2人組が、追いかけてきます。
「Mikiko、さ~ん……」
「美弥ちゃん!
どこー?」
2人組の足音が、近づいてきます。
追いつかれる!
スピードを上げようと、前のめりになった途端……。
足元が滑りました。
「あっ」
落ちる!
と思った途端、跳ね起きました。
「あぁ、美弥ちゃん……。
ここにいたの?」
「何の夢見てたんです?
子供みたいに、びっくんびっくんしてましたよ」
「ここどこ?」
「もう、新潟の上空みたいですよ」
17:45。
新潟空港、着陸。
ここから伊丹空港に向けて飛び立ったのが、わずか4日前だったんですね。
なんか、信じられない気分。
4日ぶりに、懐かしき故郷の大地を踏みます。
「新潟のみなさん、Mikiko、ただいま帰って参りました!」
「タラップで立ち止まらないでください」
「はいはい」
早春の九州を旅して来たので……。
やっぱり、空気が少し冷たい。
季節を遡った感じですね。
来たときと同じ、エアポートリムジンに乗りこみます。
春の夕暮れは早く、もうあたりは真っ暗。
新潟の街は、何事も無かったように、灯を点してます。
「Mikikoさん……。
どうしたんです」
「わたしがこの世からいなくなっても……。
この町には、何の変わりもなく、新しい日々が巡って来るんだね」
「ずいぶんと感傷的になってますね」
「楽しいことの終わりって、どうしてこう悲しいんだろうね」
「楽しいことの終わりは……。
もっと楽しいことの始まりですよ」
「そうか~。
いいこと言うね」
新潟の街を、バスで走ってるってのが、まだ信じられない気分。
ほんの3時間前は、博多でボウリングしてたんだよ。
エアポートリムジンが、新潟駅南口に着きました。
美弥ちゃんの手を取って、歩き出します。
「ちょっと、Mikikoさん。
駅は反対側ですよ」
「いいの、こっちで!
こっちには、ボウリング場があるんだから!」
「ちょっと、まさか、Mikikoさん……」
「レ~ッツ、ボウリング!」
長い間、お付きあいくださいまして、ほんとうにありがとうございました。
「高知に行こう!」および「大分に行こう!」……。
これにて終了です。
連載開始が、3月5日……。
途中、何度か中断もありましたが、5ヶ月半に渡る長旅を、今、ようやく終えることができました。
一緒に旅をしてくれたみなさん、ほんとうにありがとう!
最後の方は、旅を終わらせたくなくて……。
ボウリングまでしちゃったけどね。
この後、普通のコメントが書けるか、ちょっと不安になってます。
コメント一覧
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1. フェムリバ- 2010/08/23 23:51
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旅費精算が終わってからにしようと思ったんですけど・・・
我慢できず、一気読みしちゃいました(苦笑)
はぁ~
長い旅路でしたね・・・
この旅には、ドキドキとワクワクと切なさが、い~っぱい詰まってます!
特に後半は、ニヤニヤと切なさを行ったり来たりで不思議な感覚に襲われました・・・
馬車のシーンなんて、胸が苦しくって苦しくって(涙)
ミキコ様。
今回も、素敵な旅をありがとうございました♪
とってもとっても楽しかったです♪
次回も、楽しみに待ってますね♪
コメントは・・・
そんなに力まなくってもいいじゃないですか。
ミキコ様の気の向くままに、お書きになればいいんです。
ミキコ様なら、大丈夫!
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2. Mikiko- 2010/08/24 07:38
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幸せな書き手であることを、実感してます。
誰からも反応が無かったら……。
あれだけの量を書き続けるなんて、出来っこありませんから。
馬車は楽しかったけど……。
やっぱり、もう旅行が終わるんだって切なさが、ついつい胸を過ぎるんですよね。
一番楽しかったのは、ひょっとして、わたしだったかも。
また、一緒に旅に出ましょう。
もう、次回の旅、計画してますよ。
そうだよね。
コメントが負担になったら、本末転倒だ。
気楽にのんびり、自然体でつぶやいていきたいと思います。