2012.3.3(土)
さて、ついに最後の地獄となりました。
第8の地獄は……。
龍巻地獄。
龍巻という名称は、ちょっとコジツケですね。
早い話、間欠泉なんです。
噴出の間隔は、20~40分。
同様の間欠泉は、アイスランドやニュージーランドにもありますが……。
これほど、周期は短くないそうです。
せっかく龍巻地獄に来たからには……。
1度は、噴出する様子を見たいものです。
長くて40分待ちなら、よほどお急ぎの人じゃない限り、見れますね。
観光バスのコースで、ここが最後になってるのは……。
お客さんに、必ず間欠泉を見てもらうためじゃないでしょうか。
コースの途中にあると、後の時間計算が面倒ですからね。
さて、この間欠泉。
地上50メートルまで噴き上げる力があるそうですが……。
今は、屋根で止められてます。
観光客の頭上から降り注いだら、大変だからです。
なにしろ、加圧された熱泉は、150度もあるそうです。
圧力釜が破裂したようなものですよね。
さて、そうこうするうちに……。
龍巻地獄のまわりに人が集まってきました。
そろそろ、噴出時間のようです。
一同、固唾を飲んで見守るなか……。
「おぉ~」
噴き出しました~。
群衆から、歓声が沸き上がります。
そっと、美弥ちゃんの横顔を、覗き込みます。
心なしか……。
上気してるような……。
たぶんですが……。
この間欠泉から、別のことを連想してるのは、わたしだけじゃ無いはず……。
ですよね?
男性のあの瞬間。
もちろん、こんな勢いがあったら……。
女性は、ロケットみたいに飛んでっちゃいますけど。
「美弥……。
今、スケベなこと考えてたでしょ?」
「そ、そんなこと、考えてませんよ!」
「うそこけ。
何で、顔赤くしてる?」
「だって……。
Mikikoさんが、ヘンなこと言うから」
「ほー」
「だって、わたし、まだ見たことないんですからね」
「何を?」
「あ”」
美弥ちゃん、語るに落ちちゃいましたね。
顔真っ赤にして、そっぽ向いてます。
可愛ゆ~い♪
ふっふ。
今宵こそ……。
さて、地獄めぐりのバスは、無事、別府駅に戻ってきました。
おぉ~。
懐かしや、油屋熊八っつぁん。
全行程、2時間半。
でもまだ、15:30です。
宿に入って、ゆっくりするのもいいけど……。
この紙上旅行倶楽部は、欲張りです。
もう1カ所、行きましょう。
別府駅から、日豊本線の普通列車に乗り込みます。
15:41発。
「降りるよ」
「え?
一駅?」
そう、たった一駅。
隣の駅は、別府大学駅。
4分間の乗車で、15:45着。
駅名となってる別府大学ですが……。
もちろん、近くに別府大学があるからです。
別府大学は、外国人(主にアジア)留学生が多いことで有名。
しかも、別府にはもうひとつ、立命館アジア太平洋大学があります。
その名のとおり、ものスゴく留学生が多いです(日本一みたいです)。
ということで、別府の町には、外国人留学生が溢れてます。
今年のミス別府には、立命館アジア太平洋大学の留学生(ベトナム出身)が選ばれたそうです。
駅を出て、ちょっと東に歩き……。
国道10号線を渡ると、そこはもう海です。
砂浜の向こうに、別府湾が広がってます。
地獄めぐりで、たっぷりと別府を満喫しましたが……。
ここでトドメを刺しましょう。
別府、そして砂浜と云えば……?
そう、砂湯です!
昔テレビで見て、一度体験したく思ってました。
砂に埋もれるって、ぜったい気持ちいいに違いない。
程なく着いたのは、その名も「別府海浜砂湯」。
市営の施設です。
入口は、何の変哲もない銭湯のよう。
今日は祝日とあって、少し混んでるようです。
順番待ちでした。
やっぱりというか、何というか……。
順番を待ってる人たちは、おとっつぁん、おっかさんが多いです。
あと、アジア系観光客。
その中にあって、わたしは残念ながら、あんまり異質感無かったんですが……。
美弥ちゃんは、異質感ありまくり。
好奇の視線を浴びて、ちょっと居心地悪そうでした。
さて、程なくわたしたちの順番が回ってきました。
浴衣を渡され、そのまま男女別のロッカーへ移動。
浴衣に着替えます。
もちろん、浴衣の下はすっぽんぽんになります。
美弥ちゃんは、周りの視線が恥ずかしいのか、浴衣を羽織って下を脱いでました。
可愛ゆい!
後ろから抱きしめたくなったけど……。
周りの目があるので、自粛。
さて、無事お召し替えも済ませ……。
外に出ると……。
大きな砂場がありました。
コンクリートの縁で囲まれ……。
まさしく、公園の砂場のよう。
もちろん、それよりずっとでかいですが。
長辺は、20メートルくらいあるでしょうか。
短辺は、6メートルくらい。
ちょっとしたプールのような大きさです。
短辺と平行に2段になって、たくさんの人が、砂に埋もれてます。
中には、明らかに爆睡中の人も……。
よっぽど気持ちいいんでしょうね。
わたしたち2人が砂場に降りると……。
もんぺスタイルも勇ましい砂かけさんが、人型の穴を掘ってくれます。
クワみたいな道具を使うんですが……。
湿った重たい砂が、見る見る除けられていきます。
ほとんど土木作業と同じでしょうに、息一つ乱しません。
わたしなら、一日で腰が伸びなくなるでしょうね。
さて、あっという間に、墓穴のような窪みが掘られました。
ここに、寝ころぶわけです。
もちろん、頭だけは、穴の外に出します。
頭は、木枕に載せます。
男性は、枕にタオルを載せるだけで大丈夫ですが……。
髪の長い女性は、ちょっとやっかい。
そのままだと、髪が砂に着いちゃいます。
砂から上がった後は、内湯で砂を落とすので……。
髪まで洗うつもりなら、気にする必要もありませんけど。
リンスインシャンプーやドライヤーが、無料で使えますし。
でも、ここで髪まで洗いたくない人には……。
売店で、ヘアキャップを売ってます。
110円。
でも、たぶん蒸れちゃって……。
髪を洗いたくなると思います。
あと、タオルも有料で、250円。
バスタオルは用意されてないようなので……。
タオルは、自分で持ってない限り、買うしかないみたいですね。
さらに言うと、コインロッカーも有料で、100円です。
そのほかにもちろん、入浴料が1,000円かかります。
1,500円でもいいから、タオルもヘアキャップもロッカーもコミコミにしてくれた方が、便利みたいなんだけど……。
さて、観念して墓穴に入ったわたしたちに……。
砂かけさんが、容赦なく砂をかけてくださいます。
地獄の鬼みたいですね。
やはり、別府。
湿った砂は……。
思いのほか、重い!
身動きならんほどです。
首だけ出して、すっかり埋め尽くされると……。
温泉熱で暖められた砂で、まさに蒸し饅頭状態。
3月の風があたる顔から、汗が噴き出します。
体の方は、もっと発汗してるはず。
目の前には、広々とした別府湾。
まさに……。
極楽。
地獄をめぐって、極楽にたどり着いたって感じですね。
爆睡してた人の気持ちがわかりました。
蒸されること15分。
終了です。
もっと埋もれてたいけど……。
水分補給なしだと、下手すりゃ脱水状態になりかねません。
それほど、全身汗まみれ。
砂を掻き分け……。
ウミガメの孵化のように外に出ると……。
信じられないほど、体が軽い。
体重が30キロくらいになった気分です。
宙を歩くようにして、内風呂へ。
浴衣を脱ぎ捨てると……。
おぉ!
全裸が、気持ちえー。
美弥ちゃんも、恥ずかしさも忘れたように、すっぽんぽん。
なにしろ、汗と砂で、全身ドロドロ状態ですからね。
頭にタオル巻いてたんだけど……。
蒸され頭がカイカイです。
やっぱり、髪を洗わずにはおれません。
汗と砂を流して、湯船に浸かります。
「あ”~。
極楽じゃぁ」
「ほんとですね~」
「近くにあったら、ぜったいリピするわ」
「スーパー銭湯で砂湯やったら、ぜったい流行りますよね」
「間違いないね。
でも、砂かけさんの人材確保は……。
難しいだろうなぁ」
てなわけで、砂風呂、最高!
売店には、こんな強烈なのも売ってました。
さて、体が軽くなったところで……。
再び別府大学駅まで戻ります。
16:57分発の別府行きに乗車。
別府着、17:01。
別府駅には着きましたが……。
JRには乗りません。
駅を突っ切って、西口に出ます。
ここから再び、地獄めぐりでお世話になった亀の井バスに乗ります。
と言っても、今度のは路線バスです。
17:10分、別府駅西口発。
これから向かうのは、今日のお宿がある観音寺温泉。
と言っても、今夜の泊まりは、温泉旅館ではありません。
高知では、2日続けて国民宿舎でしたので……。
大分の初日は、気分を変えましょう。
今宵のお宿は、杉乃井ホテル。
スギノイパレス(劇場・大浴場)などのアミューズメント施設を併設した、大型リゾートホテルです。
客室数「562室」、収容宿泊客数「2,434名」。
別府最大の規模を誇ります。
バス停「スギノイパレス」着、17:24です。
見よ、この偉容。
大型の屋内プール(アクアビート)や、ボウリング場、ゲームセンターなども併設されてます。
たぶん、ここに丸1日いても、飽きないと思います。
わたしは、アクティブに遊ぶのが苦手なので……。
泊まるだけにしちゃったけどね。
「Mikikoさん、わたし、お腹空いた」
「わたしもペコペコ。
やっぱ、砂湯が効いたよな。
シーフードチャンポンなんか、跡形も無くなった。
ここは、お風呂が面白いんだけどな……」
「お夕食、先にしません?」
「賛成。
お風呂は、砂湯で入ったばっかりだしね」
今日の夕食は、バイキングです。
わたしのように、好き嫌いの多い人間には……。
好きなものを好きなだけ食べれるバイキングってのは、嬉しい限り。
さっそく、本館地下1階、バイキングレストラン「Seeds」に下りましょう。
レストランの営業は、17:30から21:00まで。
夕食前に遊ぼうって人は……。
時間を忘れて楽しんでると、夕食が短くなっちゃいますよ。
さすが、広いですね~。
コックさんが、ずらーっと並んでます。
オープンキッチンなんですね。
料理の作られていく様子が、ライブで見れます。
その料理も、盛りだくさん。
「Mikikoさん、席間違えないようにしてくださいね」
「酔っぱらったら、マジで迷子になりそうだな」
そして……。
……2時間半後。
「もしもし?
美弥?」
「Mikikoさんなの?
何で携帯なんかかけてくるんです?」
「席がわからなくなった。
迎えに来て」
「もう!
どこにいるんです?」
「それがわかったら、席に帰れるよ」
「酔っぱらいのくせに、理屈言って。
じゃ、コックさんの並んだカウンターのとこ行ってください。
迎えに行きますから」
「あ、美弥!
ここここ」
「手なんか振らないの。
子供が笑ってるじゃないですか」
「どこに?
キョロ@@キョロ。
ん、おまいか。
なるほで、こまっしゃくれたマセガオしとるな。
どっから来たんだ?
なに!
大阪ぁ。
エロの本場じゃないか。
『ikiko's Room』にスパムコメント入れる輩は……。
十中八九、大阪のプロバイダ経由だ。
こりゃ、ガキ。
いくらマセてても、まだ母ちゃん以外のアソコは見たことないだろ?
お姉さんが、見せてやろうか?
最上級アワビ。
もっとこっち寄りな。
ここで、ご開帳してやるから。
痛てっ。
美弥、痛い!
耳がチギレる!」
「飲み過ぎです!
下品な酔い方して!
退場!」
「痛い痛い。
お願いだから……。
耳引っ張られながら、レストラン出るのは勘弁して……」
「2度と、ああいう言動しない?」
「しません」
「じゃ、耳は許してあげます」
「おー、痛かった。
耳を摘まれ、大分県」
「懲りてませんね?」
「反省してます!
ちょっと、何で襟首掴むのよ?」
「放し飼いに出来ない気分」
「猿回しのサルじゃないんだから……」
とうとう、襟首釣られたまま、部屋まで連れ戻されました。
お部屋は、広々とした和洋室。
ですが……。
このホテル、部屋でくつろぐよりは……。
併設されたアミューズメントで楽しむのが本道でしょう。
「美弥、お風呂行こうよ」
「もう少し、酔いが醒めてからにした方がいいんじゃないですか?
脳卒中になっちゃいますよ」
「年寄りみたいに言うな!
お風呂を楽しまなかったら、ここに泊まる意味が無いんだよ。
お風呂は、23時で終わっちゃうし」
「まだ2時間以上もあるじゃないですか」
「そのくらい、すぐに経っちゃうって。
なにしろ、入場が21:30までなんだから」
「え?
そんなに早く?
ほんとですか?」
「ほんとだよ。
ホームページをプリントしたの持ってきた。
見てみ」
「どれどれ。
……。
Mikikoさん、違うじゃない」
「どこが?」
「23時までなのは、日帰りの人じゃないですか。
21:30は、日帰り入場券の販売終了時間でしょ。
泊まりの人は、入場券買わなくていいんだから、もっと後でも入れるんじゃないですか?」
「なら、お泊まりの人は、23:00より遅くまで入ってられるの?」
「24:00になってますよ。
ほら」
「ほんとだ……。
でも……。
23時になったとき……。
どうやったら、日帰り客だけを風呂から上げられるんだ?
みんな素っ裸なんだから、日帰り客か泊まり客かなんて、わからんだろ」
「そうですよね。
玄関、締めちゃうんでしょうか?」
「そんなことしたら、帰りそびれた日帰り客が、朝まで居座っちゃうだろ。
ホテルにとっちゃ、大迷惑だよ」
「それもそうですね。
どうするんでしょう?」
「わたしに聞くな。
ともかく……。
うちらは泊まりなんだから、関係ないの!
でももし、泊まり客も21:30で打ち止めだったらタイヘンだ。
別府なんか、一生に一度来れるかどうかなんだから。
ささ、支度せい」
お風呂は、ホテルにつながったアミューズメント施設「スギノイパレス」にあります。
スギノイパレスには、お風呂のほかに、ボウリング場やゲームセンター、劇場があります。
スギノイパレスの向かいには、温泉プール「アクアビート」もあり……。
親子連れなら、ここだけで丸1日楽しめるでしょう。
さて、わたしらは、お風呂にしか用がありませんので……。
お風呂に直行。
お風呂に付けられた名前は、「棚湯」と云います。
さっそく入ってみましょう。
「広ろ」
まだ、お風呂には入ってません。
驚いたのは、脱衣場の広さ。
ま、当然ですよね。
収容人数は、男湯・女湯共に300人ずつ。
「美弥、また迷子になりそう……」
「ロッカーの番号でわかるでしょ。
鍵、無くさないでくださいね」
しかし……。
そう言いながら美弥ちゃんは、パッパカ浴衣を脱いでいきます。
変われば変わるもんだ。
置いてかれたらタイヘンナので……。
わたしも慌てて浴衣を脱ぎ捨てます。
自慢じゃないが……。
全裸になるスピードは速いです。
うぅ……。
お腹ぽっこり。
バイキング、目一杯詰め込んだからな。
隣の美弥ちゃんを盗み見ると……。
やっぱり膨れてる。
良かったぁ。
美女のぷっくりお腹、ものすげー萌える……。
思わず、手が伸びます。
その手を、美弥ちゃんの手が、がっしりと掴みます。
おぉ!
今夜は、バカに積極的じゃないか。
と思ったのも束の間、わたしの手を握ったまま、美弥ちゃんはズンズン歩き出しました。
「はぐれないでくださいよ。
今度は、携帯無いんですから」
「子供じゃないんだから」
「子供並みです」
「う。
それじゃ、オンブして」
「甘えない。
ほら、足元気をつけて。
滑らないようにね」
「デイサービスの祖母ちゃんじゃないわい!」
脱衣場を抜けたお風呂は、ずらーっとカランが並んだ内湯です。
ここでは、お湯をかぶるだけにしましょう。
まだ、先があるんです。
このお風呂の名称を、「棚湯」と云うことを書きましたが……。
これはもちろん、「棚田」をイメージしたもの。
つまり!
満々とお湯を湛えた湯船が、棚田のように続いてるってわけですね。
棚は5段あります。
最上段①が、今入った内湯。
内湯と云っても……。
全面ガラス張り。
この内湯だけでも、展望大浴場として売り出せるでしょう。
「ガラス越しじゃなくて、ジカに見よう」
「はい」
2段目②のお風呂へ……。
ここは、屋根が掛かった半露天。
屋根って云うか、庇が長~く伸びた感じですね。
壁はないので、景色はジカに見れます。
ホームページには、「雨天でも雨に濡れずゆったりと眺望をお楽しみいただけます」とあります。
裸でお風呂に入ってて、雨に濡れるのを気にする人がいるんでしょうか……。
今夜は晴れてるので、2段目は通過。
3段目③に進みます。
「おぉ~」
「広い~」
屋根がないと、一気に開放感を感じますね。
それにこの湯船、ほんとに広い。
露天風呂に付きものの岩組みなどは、まったく無く……。
まさしくプールのようです。
シンプルな作りが、広さをより強調してる感じ。
見渡す限り、別府の夜景が広がってます。
「綺麗ですね~」
「凄いほどの夜景だね」
昼間は、夜景の代わりに、別府湾が青々と広がります。
四国愛媛県の佐多岬まで見えるそうです。
夕景もまた、凄絶だとか。
「なんかさ、この世の景色じゃないよね」
「ほんとですね」
「真上を見れば、星空。
星の光を浴びながら、生まれたまんまの姿で、夜景を見下ろしてるんだよ。
なんだか昔、こんな夢を見た気がする」
「ほんとに、夢の中にいるみたいですね」
「美弥、つねってみてよ。
出来れば、乳首を……」
「もう!
次、行きますよ
「いけずぅ」
4段目④に進みます。
「いきなり浅くなったね」
「足湯ですね」
「しかしさぁ……。
足湯ってのは、服着て、足だけ捲って入るもんだろ。
素っ裸で足湯ってのは、どういうもんかね?」
「確かに……。
ちょっと、寒いですね」
「次、行こ」
5段目⑤。
「なんだこれ」
「浅……」
さっきの足湯より、さらに浅いお湯です。
「うぅ。
寒くなってきた。
3段目に帰ろうよ」
↑棚湯の3,4,5段目
「Mikikoさん。
暖かそうなのがありますよ。
わたし、アレに入ろ」
美弥ちゃんが、ブリブリとお尻を振り立てながら駆けて行った先には……。
大樽が据えてありました。
掛け流しの湯が、縁から溢れてます。
美弥ちゃんは、たしなみもなく大股開きで湯の中へ。
ま、この大樽じゃ、お上品には入れませんわな。
さっそく、続きましょう。
「ちょっと、Mikikoさん!
何で同じとこ入って来るんです!
これって、たぶん一人用ですよ。
隣も空いてるでしょ」
「2人でも余裕じゃない。
おぉ~、湯が溢れる。
アルキメデスは……。
別府で、『アルキメデスの原理』を発見したんじゃなかろうか?」
「そんなわけないでしょ」
「なんか、こんな樽から首出してると……。
釜茹でにされる石川五右衛門みたいだね」
「はは。
それか……。
ジャングルに行った探検隊。
ほら、原住民に掴まって……」
「わはは。
縄でぐるぐるに縛られて、大鍋に入れられてるシーンだな。
漫画であったよな。
うぅ。
我が身もこれまでか……。
美弥、今生の別れに、最後にヤラせてくれ!」
「調子にのらない。
そういう子は、こうしてあげます。
えいっ」
「ブクブク。
ぷふぁ。
こ、殺す気か!
わたしは水中で呼吸出来ないんだぞ!」
「普通、出来ませんって。
ちょっと、Mikikoさん、わかった!」
「何だよ、急に。
何がわかったんだよ?」
「5段目の入り方。
ほら、あの人たち、見て」
美弥ちゃんの指指す先には……。
水死体が……。
しかも、3体。
死後、かなり経過してるらしく、ぶくぶくに膨れてます。
「ここって、寝湯ですよ」
「あっ、そうか!
仰向けになって漬かるお風呂なんだ」
3体の膨れた死体は、太ったオバサンたちでした。
「わたしも、やろ」
「わたしも!」
樽から飛び出した美弥ちゃんは、寝湯に滑りこみました。
はぁ、美しかぁ。
ミレーのオフィーリアと見紛うばかり。
水死体のオバハンとは、大違いだよ。
さっそく、わたしも続きます。
「こりゃ、ええわ」
泳げないわたしは、水に浮かないんですが……。
ここなら、背中が底に着いてるから、沈む心配がありません。
夜景は見えなくなりましたが……。
代わりに、視界の限りを星空が覆い尽くしてます。
「美弥……。
何だか、泣きそう……」
「ほんと……」
「この星空を仰げただけで……。
生まれてきた甲斐があったよ」
「Mikikoさん、わたしを生んでくれてありがとう……。
って、前にも同じセリフ、言いませんでした?」
「そうだっけ?
ま、いいじゃん。
感謝の心は、大切だよ。
それじゃ、感謝を体で表してちょうだい」
「やっぱり、そのパターン!
ちょっと、乗ってこないで!
わたしに力で勝てると思ってるの!
こうしてやる!」
「ぶくぶくぶく。
や、やめれー。
参った、参ったから!」
「これだけ学習しない人ってのも、珍しいと思います」
「一度くらい、いいじゃんよ-。
一度すれば、気が済むんだから」
「わたしの気が済みません」
「けち。
あ、美弥、面白い芸、思いついた」
「今度は、何するんです?」
「ワニ地獄の真似。
どう?」
「キモい!
寝湯で這わないで!」
美弥ちゃんは、さっさと上がっちゃいました。
視線を感じて振り返ると……。
さっきの土左衛門3人組が起きあがり……。
四つん這いのわたしを、冷たい目で見ていました。
オバチャンに、ケツの穴まで見られちまったぜ……。
「美弥ちゃん、待って。
ひとりにしないで~」
棚湯には、5段の湯船のほかにも、まだまだいろんなお風呂があります。
さっき入った樽湯もそのひとつ。
美弥ちゃんは、その樽湯の脇を通って、デッキに据えられた“ほぐし湯”へ。
早い話、ジャグジーですわな。
「これは……。
一人用じゃないから、一緒に入ってもいいよな?」
「どうぞ」
「気持ちえぇ~」
「全身が、泡になって消えてしまいそう。
ちょっと、Mikikoさん。
起きあがって何しようとしてるんです」
「背中でこんな気持ちいいんだから……。
アソコに当てたら、どんだけいいかと思ってね」
「や・め・な・さいっ!」
「痛い、痛い。
耳、引っ張らないでって」
ムリヤリ引きずり上げられちゃいました。
その隣には、一筋の太い水の柱が……。
一瞬、龍巻地獄かと思いましたが……。
お湯の方向が、逆さまです。
上から下に落ちてます。
打たせ湯です。
美弥ちゃんは、さっそくに打たれてます。
第8の地獄は……。
龍巻地獄。
龍巻という名称は、ちょっとコジツケですね。
早い話、間欠泉なんです。
噴出の間隔は、20~40分。
同様の間欠泉は、アイスランドやニュージーランドにもありますが……。
これほど、周期は短くないそうです。
せっかく龍巻地獄に来たからには……。
1度は、噴出する様子を見たいものです。
長くて40分待ちなら、よほどお急ぎの人じゃない限り、見れますね。
観光バスのコースで、ここが最後になってるのは……。
お客さんに、必ず間欠泉を見てもらうためじゃないでしょうか。
コースの途中にあると、後の時間計算が面倒ですからね。
さて、この間欠泉。
地上50メートルまで噴き上げる力があるそうですが……。
今は、屋根で止められてます。
観光客の頭上から降り注いだら、大変だからです。
なにしろ、加圧された熱泉は、150度もあるそうです。
圧力釜が破裂したようなものですよね。
さて、そうこうするうちに……。
龍巻地獄のまわりに人が集まってきました。
そろそろ、噴出時間のようです。
一同、固唾を飲んで見守るなか……。
「おぉ~」
噴き出しました~。
群衆から、歓声が沸き上がります。
そっと、美弥ちゃんの横顔を、覗き込みます。
心なしか……。
上気してるような……。
たぶんですが……。
この間欠泉から、別のことを連想してるのは、わたしだけじゃ無いはず……。
ですよね?
男性のあの瞬間。
もちろん、こんな勢いがあったら……。
女性は、ロケットみたいに飛んでっちゃいますけど。
「美弥……。
今、スケベなこと考えてたでしょ?」
「そ、そんなこと、考えてませんよ!」
「うそこけ。
何で、顔赤くしてる?」
「だって……。
Mikikoさんが、ヘンなこと言うから」
「ほー」
「だって、わたし、まだ見たことないんですからね」
「何を?」
「あ”」
美弥ちゃん、語るに落ちちゃいましたね。
顔真っ赤にして、そっぽ向いてます。
可愛ゆ~い♪
ふっふ。
今宵こそ……。
さて、地獄めぐりのバスは、無事、別府駅に戻ってきました。
おぉ~。
懐かしや、油屋熊八っつぁん。
全行程、2時間半。
でもまだ、15:30です。
宿に入って、ゆっくりするのもいいけど……。
この紙上旅行倶楽部は、欲張りです。
もう1カ所、行きましょう。
別府駅から、日豊本線の普通列車に乗り込みます。
15:41発。
「降りるよ」
「え?
一駅?」
そう、たった一駅。
隣の駅は、別府大学駅。
4分間の乗車で、15:45着。
駅名となってる別府大学ですが……。
もちろん、近くに別府大学があるからです。
別府大学は、外国人(主にアジア)留学生が多いことで有名。
しかも、別府にはもうひとつ、立命館アジア太平洋大学があります。
その名のとおり、ものスゴく留学生が多いです(日本一みたいです)。
ということで、別府の町には、外国人留学生が溢れてます。
今年のミス別府には、立命館アジア太平洋大学の留学生(ベトナム出身)が選ばれたそうです。
駅を出て、ちょっと東に歩き……。
国道10号線を渡ると、そこはもう海です。
砂浜の向こうに、別府湾が広がってます。
地獄めぐりで、たっぷりと別府を満喫しましたが……。
ここでトドメを刺しましょう。
別府、そして砂浜と云えば……?
そう、砂湯です!
昔テレビで見て、一度体験したく思ってました。
砂に埋もれるって、ぜったい気持ちいいに違いない。
程なく着いたのは、その名も「別府海浜砂湯」。
市営の施設です。
入口は、何の変哲もない銭湯のよう。
今日は祝日とあって、少し混んでるようです。
順番待ちでした。
やっぱりというか、何というか……。
順番を待ってる人たちは、おとっつぁん、おっかさんが多いです。
あと、アジア系観光客。
その中にあって、わたしは残念ながら、あんまり異質感無かったんですが……。
美弥ちゃんは、異質感ありまくり。
好奇の視線を浴びて、ちょっと居心地悪そうでした。
さて、程なくわたしたちの順番が回ってきました。
浴衣を渡され、そのまま男女別のロッカーへ移動。
浴衣に着替えます。
もちろん、浴衣の下はすっぽんぽんになります。
美弥ちゃんは、周りの視線が恥ずかしいのか、浴衣を羽織って下を脱いでました。
可愛ゆい!
後ろから抱きしめたくなったけど……。
周りの目があるので、自粛。
さて、無事お召し替えも済ませ……。
外に出ると……。
大きな砂場がありました。
コンクリートの縁で囲まれ……。
まさしく、公園の砂場のよう。
もちろん、それよりずっとでかいですが。
長辺は、20メートルくらいあるでしょうか。
短辺は、6メートルくらい。
ちょっとしたプールのような大きさです。
短辺と平行に2段になって、たくさんの人が、砂に埋もれてます。
中には、明らかに爆睡中の人も……。
よっぽど気持ちいいんでしょうね。
わたしたち2人が砂場に降りると……。
もんぺスタイルも勇ましい砂かけさんが、人型の穴を掘ってくれます。
クワみたいな道具を使うんですが……。
湿った重たい砂が、見る見る除けられていきます。
ほとんど土木作業と同じでしょうに、息一つ乱しません。
わたしなら、一日で腰が伸びなくなるでしょうね。
さて、あっという間に、墓穴のような窪みが掘られました。
ここに、寝ころぶわけです。
もちろん、頭だけは、穴の外に出します。
頭は、木枕に載せます。
男性は、枕にタオルを載せるだけで大丈夫ですが……。
髪の長い女性は、ちょっとやっかい。
そのままだと、髪が砂に着いちゃいます。
砂から上がった後は、内湯で砂を落とすので……。
髪まで洗うつもりなら、気にする必要もありませんけど。
リンスインシャンプーやドライヤーが、無料で使えますし。
でも、ここで髪まで洗いたくない人には……。
売店で、ヘアキャップを売ってます。
110円。
でも、たぶん蒸れちゃって……。
髪を洗いたくなると思います。
あと、タオルも有料で、250円。
バスタオルは用意されてないようなので……。
タオルは、自分で持ってない限り、買うしかないみたいですね。
さらに言うと、コインロッカーも有料で、100円です。
そのほかにもちろん、入浴料が1,000円かかります。
1,500円でもいいから、タオルもヘアキャップもロッカーもコミコミにしてくれた方が、便利みたいなんだけど……。
さて、観念して墓穴に入ったわたしたちに……。
砂かけさんが、容赦なく砂をかけてくださいます。
地獄の鬼みたいですね。
やはり、別府。
湿った砂は……。
思いのほか、重い!
身動きならんほどです。
首だけ出して、すっかり埋め尽くされると……。
温泉熱で暖められた砂で、まさに蒸し饅頭状態。
3月の風があたる顔から、汗が噴き出します。
体の方は、もっと発汗してるはず。
目の前には、広々とした別府湾。
まさに……。
極楽。
地獄をめぐって、極楽にたどり着いたって感じですね。
爆睡してた人の気持ちがわかりました。
蒸されること15分。
終了です。
もっと埋もれてたいけど……。
水分補給なしだと、下手すりゃ脱水状態になりかねません。
それほど、全身汗まみれ。
砂を掻き分け……。
ウミガメの孵化のように外に出ると……。
信じられないほど、体が軽い。
体重が30キロくらいになった気分です。
宙を歩くようにして、内風呂へ。
浴衣を脱ぎ捨てると……。
おぉ!
全裸が、気持ちえー。
美弥ちゃんも、恥ずかしさも忘れたように、すっぽんぽん。
なにしろ、汗と砂で、全身ドロドロ状態ですからね。
頭にタオル巻いてたんだけど……。
蒸され頭がカイカイです。
やっぱり、髪を洗わずにはおれません。
汗と砂を流して、湯船に浸かります。
「あ”~。
極楽じゃぁ」
「ほんとですね~」
「近くにあったら、ぜったいリピするわ」
「スーパー銭湯で砂湯やったら、ぜったい流行りますよね」
「間違いないね。
でも、砂かけさんの人材確保は……。
難しいだろうなぁ」
てなわけで、砂風呂、最高!
売店には、こんな強烈なのも売ってました。
さて、体が軽くなったところで……。
再び別府大学駅まで戻ります。
16:57分発の別府行きに乗車。
別府着、17:01。
別府駅には着きましたが……。
JRには乗りません。
駅を突っ切って、西口に出ます。
ここから再び、地獄めぐりでお世話になった亀の井バスに乗ります。
と言っても、今度のは路線バスです。
17:10分、別府駅西口発。
これから向かうのは、今日のお宿がある観音寺温泉。
と言っても、今夜の泊まりは、温泉旅館ではありません。
高知では、2日続けて国民宿舎でしたので……。
大分の初日は、気分を変えましょう。
今宵のお宿は、杉乃井ホテル。
スギノイパレス(劇場・大浴場)などのアミューズメント施設を併設した、大型リゾートホテルです。
客室数「562室」、収容宿泊客数「2,434名」。
別府最大の規模を誇ります。
バス停「スギノイパレス」着、17:24です。
見よ、この偉容。
大型の屋内プール(アクアビート)や、ボウリング場、ゲームセンターなども併設されてます。
たぶん、ここに丸1日いても、飽きないと思います。
わたしは、アクティブに遊ぶのが苦手なので……。
泊まるだけにしちゃったけどね。
「Mikikoさん、わたし、お腹空いた」
「わたしもペコペコ。
やっぱ、砂湯が効いたよな。
シーフードチャンポンなんか、跡形も無くなった。
ここは、お風呂が面白いんだけどな……」
「お夕食、先にしません?」
「賛成。
お風呂は、砂湯で入ったばっかりだしね」
今日の夕食は、バイキングです。
わたしのように、好き嫌いの多い人間には……。
好きなものを好きなだけ食べれるバイキングってのは、嬉しい限り。
さっそく、本館地下1階、バイキングレストラン「Seeds」に下りましょう。
レストランの営業は、17:30から21:00まで。
夕食前に遊ぼうって人は……。
時間を忘れて楽しんでると、夕食が短くなっちゃいますよ。
さすが、広いですね~。
コックさんが、ずらーっと並んでます。
オープンキッチンなんですね。
料理の作られていく様子が、ライブで見れます。
その料理も、盛りだくさん。
「Mikikoさん、席間違えないようにしてくださいね」
「酔っぱらったら、マジで迷子になりそうだな」
そして……。
……2時間半後。
「もしもし?
美弥?」
「Mikikoさんなの?
何で携帯なんかかけてくるんです?」
「席がわからなくなった。
迎えに来て」
「もう!
どこにいるんです?」
「それがわかったら、席に帰れるよ」
「酔っぱらいのくせに、理屈言って。
じゃ、コックさんの並んだカウンターのとこ行ってください。
迎えに行きますから」
「あ、美弥!
ここここ」
「手なんか振らないの。
子供が笑ってるじゃないですか」
「どこに?
キョロ@@キョロ。
ん、おまいか。
なるほで、こまっしゃくれたマセガオしとるな。
どっから来たんだ?
なに!
大阪ぁ。
エロの本場じゃないか。
『ikiko's Room』にスパムコメント入れる輩は……。
十中八九、大阪のプロバイダ経由だ。
こりゃ、ガキ。
いくらマセてても、まだ母ちゃん以外のアソコは見たことないだろ?
お姉さんが、見せてやろうか?
最上級アワビ。
もっとこっち寄りな。
ここで、ご開帳してやるから。
痛てっ。
美弥、痛い!
耳がチギレる!」
「飲み過ぎです!
下品な酔い方して!
退場!」
「痛い痛い。
お願いだから……。
耳引っ張られながら、レストラン出るのは勘弁して……」
「2度と、ああいう言動しない?」
「しません」
「じゃ、耳は許してあげます」
「おー、痛かった。
耳を摘まれ、大分県」
「懲りてませんね?」
「反省してます!
ちょっと、何で襟首掴むのよ?」
「放し飼いに出来ない気分」
「猿回しのサルじゃないんだから……」
とうとう、襟首釣られたまま、部屋まで連れ戻されました。
お部屋は、広々とした和洋室。
ですが……。
このホテル、部屋でくつろぐよりは……。
併設されたアミューズメントで楽しむのが本道でしょう。
「美弥、お風呂行こうよ」
「もう少し、酔いが醒めてからにした方がいいんじゃないですか?
脳卒中になっちゃいますよ」
「年寄りみたいに言うな!
お風呂を楽しまなかったら、ここに泊まる意味が無いんだよ。
お風呂は、23時で終わっちゃうし」
「まだ2時間以上もあるじゃないですか」
「そのくらい、すぐに経っちゃうって。
なにしろ、入場が21:30までなんだから」
「え?
そんなに早く?
ほんとですか?」
「ほんとだよ。
ホームページをプリントしたの持ってきた。
見てみ」
「どれどれ。
……。
Mikikoさん、違うじゃない」
「どこが?」
「23時までなのは、日帰りの人じゃないですか。
21:30は、日帰り入場券の販売終了時間でしょ。
泊まりの人は、入場券買わなくていいんだから、もっと後でも入れるんじゃないですか?」
「なら、お泊まりの人は、23:00より遅くまで入ってられるの?」
「24:00になってますよ。
ほら」
「ほんとだ……。
でも……。
23時になったとき……。
どうやったら、日帰り客だけを風呂から上げられるんだ?
みんな素っ裸なんだから、日帰り客か泊まり客かなんて、わからんだろ」
「そうですよね。
玄関、締めちゃうんでしょうか?」
「そんなことしたら、帰りそびれた日帰り客が、朝まで居座っちゃうだろ。
ホテルにとっちゃ、大迷惑だよ」
「それもそうですね。
どうするんでしょう?」
「わたしに聞くな。
ともかく……。
うちらは泊まりなんだから、関係ないの!
でももし、泊まり客も21:30で打ち止めだったらタイヘンだ。
別府なんか、一生に一度来れるかどうかなんだから。
ささ、支度せい」
お風呂は、ホテルにつながったアミューズメント施設「スギノイパレス」にあります。
スギノイパレスには、お風呂のほかに、ボウリング場やゲームセンター、劇場があります。
スギノイパレスの向かいには、温泉プール「アクアビート」もあり……。
親子連れなら、ここだけで丸1日楽しめるでしょう。
さて、わたしらは、お風呂にしか用がありませんので……。
お風呂に直行。
お風呂に付けられた名前は、「棚湯」と云います。
さっそく入ってみましょう。
「広ろ」
まだ、お風呂には入ってません。
驚いたのは、脱衣場の広さ。
ま、当然ですよね。
収容人数は、男湯・女湯共に300人ずつ。
「美弥、また迷子になりそう……」
「ロッカーの番号でわかるでしょ。
鍵、無くさないでくださいね」
しかし……。
そう言いながら美弥ちゃんは、パッパカ浴衣を脱いでいきます。
変われば変わるもんだ。
置いてかれたらタイヘンナので……。
わたしも慌てて浴衣を脱ぎ捨てます。
自慢じゃないが……。
全裸になるスピードは速いです。
うぅ……。
お腹ぽっこり。
バイキング、目一杯詰め込んだからな。
隣の美弥ちゃんを盗み見ると……。
やっぱり膨れてる。
良かったぁ。
美女のぷっくりお腹、ものすげー萌える……。
思わず、手が伸びます。
その手を、美弥ちゃんの手が、がっしりと掴みます。
おぉ!
今夜は、バカに積極的じゃないか。
と思ったのも束の間、わたしの手を握ったまま、美弥ちゃんはズンズン歩き出しました。
「はぐれないでくださいよ。
今度は、携帯無いんですから」
「子供じゃないんだから」
「子供並みです」
「う。
それじゃ、オンブして」
「甘えない。
ほら、足元気をつけて。
滑らないようにね」
「デイサービスの祖母ちゃんじゃないわい!」
脱衣場を抜けたお風呂は、ずらーっとカランが並んだ内湯です。
ここでは、お湯をかぶるだけにしましょう。
まだ、先があるんです。
このお風呂の名称を、「棚湯」と云うことを書きましたが……。
これはもちろん、「棚田」をイメージしたもの。
つまり!
満々とお湯を湛えた湯船が、棚田のように続いてるってわけですね。
棚は5段あります。
最上段①が、今入った内湯。
内湯と云っても……。
全面ガラス張り。
この内湯だけでも、展望大浴場として売り出せるでしょう。
「ガラス越しじゃなくて、ジカに見よう」
「はい」
2段目②のお風呂へ……。
ここは、屋根が掛かった半露天。
屋根って云うか、庇が長~く伸びた感じですね。
壁はないので、景色はジカに見れます。
ホームページには、「雨天でも雨に濡れずゆったりと眺望をお楽しみいただけます」とあります。
裸でお風呂に入ってて、雨に濡れるのを気にする人がいるんでしょうか……。
今夜は晴れてるので、2段目は通過。
3段目③に進みます。
「おぉ~」
「広い~」
屋根がないと、一気に開放感を感じますね。
それにこの湯船、ほんとに広い。
露天風呂に付きものの岩組みなどは、まったく無く……。
まさしくプールのようです。
シンプルな作りが、広さをより強調してる感じ。
見渡す限り、別府の夜景が広がってます。
「綺麗ですね~」
「凄いほどの夜景だね」
昼間は、夜景の代わりに、別府湾が青々と広がります。
四国愛媛県の佐多岬まで見えるそうです。
夕景もまた、凄絶だとか。
「なんかさ、この世の景色じゃないよね」
「ほんとですね」
「真上を見れば、星空。
星の光を浴びながら、生まれたまんまの姿で、夜景を見下ろしてるんだよ。
なんだか昔、こんな夢を見た気がする」
「ほんとに、夢の中にいるみたいですね」
「美弥、つねってみてよ。
出来れば、乳首を……」
「もう!
次、行きますよ
「いけずぅ」
4段目④に進みます。
「いきなり浅くなったね」
「足湯ですね」
「しかしさぁ……。
足湯ってのは、服着て、足だけ捲って入るもんだろ。
素っ裸で足湯ってのは、どういうもんかね?」
「確かに……。
ちょっと、寒いですね」
「次、行こ」
5段目⑤。
「なんだこれ」
「浅……」
さっきの足湯より、さらに浅いお湯です。
「うぅ。
寒くなってきた。
3段目に帰ろうよ」
↑棚湯の3,4,5段目
「Mikikoさん。
暖かそうなのがありますよ。
わたし、アレに入ろ」
美弥ちゃんが、ブリブリとお尻を振り立てながら駆けて行った先には……。
大樽が据えてありました。
掛け流しの湯が、縁から溢れてます。
美弥ちゃんは、たしなみもなく大股開きで湯の中へ。
ま、この大樽じゃ、お上品には入れませんわな。
さっそく、続きましょう。
「ちょっと、Mikikoさん!
何で同じとこ入って来るんです!
これって、たぶん一人用ですよ。
隣も空いてるでしょ」
「2人でも余裕じゃない。
おぉ~、湯が溢れる。
アルキメデスは……。
別府で、『アルキメデスの原理』を発見したんじゃなかろうか?」
「そんなわけないでしょ」
「なんか、こんな樽から首出してると……。
釜茹でにされる石川五右衛門みたいだね」
「はは。
それか……。
ジャングルに行った探検隊。
ほら、原住民に掴まって……」
「わはは。
縄でぐるぐるに縛られて、大鍋に入れられてるシーンだな。
漫画であったよな。
うぅ。
我が身もこれまでか……。
美弥、今生の別れに、最後にヤラせてくれ!」
「調子にのらない。
そういう子は、こうしてあげます。
えいっ」
「ブクブク。
ぷふぁ。
こ、殺す気か!
わたしは水中で呼吸出来ないんだぞ!」
「普通、出来ませんって。
ちょっと、Mikikoさん、わかった!」
「何だよ、急に。
何がわかったんだよ?」
「5段目の入り方。
ほら、あの人たち、見て」
美弥ちゃんの指指す先には……。
水死体が……。
しかも、3体。
死後、かなり経過してるらしく、ぶくぶくに膨れてます。
「ここって、寝湯ですよ」
「あっ、そうか!
仰向けになって漬かるお風呂なんだ」
3体の膨れた死体は、太ったオバサンたちでした。
「わたしも、やろ」
「わたしも!」
樽から飛び出した美弥ちゃんは、寝湯に滑りこみました。
はぁ、美しかぁ。
ミレーのオフィーリアと見紛うばかり。
水死体のオバハンとは、大違いだよ。
さっそく、わたしも続きます。
「こりゃ、ええわ」
泳げないわたしは、水に浮かないんですが……。
ここなら、背中が底に着いてるから、沈む心配がありません。
夜景は見えなくなりましたが……。
代わりに、視界の限りを星空が覆い尽くしてます。
「美弥……。
何だか、泣きそう……」
「ほんと……」
「この星空を仰げただけで……。
生まれてきた甲斐があったよ」
「Mikikoさん、わたしを生んでくれてありがとう……。
って、前にも同じセリフ、言いませんでした?」
「そうだっけ?
ま、いいじゃん。
感謝の心は、大切だよ。
それじゃ、感謝を体で表してちょうだい」
「やっぱり、そのパターン!
ちょっと、乗ってこないで!
わたしに力で勝てると思ってるの!
こうしてやる!」
「ぶくぶくぶく。
や、やめれー。
参った、参ったから!」
「これだけ学習しない人ってのも、珍しいと思います」
「一度くらい、いいじゃんよ-。
一度すれば、気が済むんだから」
「わたしの気が済みません」
「けち。
あ、美弥、面白い芸、思いついた」
「今度は、何するんです?」
「ワニ地獄の真似。
どう?」
「キモい!
寝湯で這わないで!」
美弥ちゃんは、さっさと上がっちゃいました。
視線を感じて振り返ると……。
さっきの土左衛門3人組が起きあがり……。
四つん這いのわたしを、冷たい目で見ていました。
オバチャンに、ケツの穴まで見られちまったぜ……。
「美弥ちゃん、待って。
ひとりにしないで~」
棚湯には、5段の湯船のほかにも、まだまだいろんなお風呂があります。
さっき入った樽湯もそのひとつ。
美弥ちゃんは、その樽湯の脇を通って、デッキに据えられた“ほぐし湯”へ。
早い話、ジャグジーですわな。
「これは……。
一人用じゃないから、一緒に入ってもいいよな?」
「どうぞ」
「気持ちえぇ~」
「全身が、泡になって消えてしまいそう。
ちょっと、Mikikoさん。
起きあがって何しようとしてるんです」
「背中でこんな気持ちいいんだから……。
アソコに当てたら、どんだけいいかと思ってね」
「や・め・な・さいっ!」
「痛い、痛い。
耳、引っ張らないでって」
ムリヤリ引きずり上げられちゃいました。
その隣には、一筋の太い水の柱が……。
一瞬、龍巻地獄かと思いましたが……。
お湯の方向が、逆さまです。
上から下に落ちてます。
打たせ湯です。
美弥ちゃんは、さっそくに打たれてます。