2015.5.19(火)
相良直(ただし)は懐から懐紙に包んだ小さな包みを取出し、両の掌の上で開いた。白い紙の上に、緑の葉に包まれた膨らみが現れた。こんもりと、まるでおもちゃの俵であるかのように盛りあがっていた。
だが、緑の葉にくるまれているものが俵でないことは明らかだ。両端に覗ける膨らみの一部は、薄い桜色をしていた。しかし、その表面は俵の中身のように見えた。つまり、多くの米粒の集まりに……。
↑桜餅(関西風)。クリックすると、大きい画像が見られます。
相良には、薄暗い室内の灯かりに浮かび上がる桜色の膨らみは、あの、竹から生まれ、多くの男を惑わし、そして天上の世界に戻って行ったという、あの伝説の女性の置き土産のようにも見えた。
(あの女性ほど桜が似合う人は、この世にいてへんやろ……)
相良は桜餅を見詰めながら、そんなことを考えた。
(そらそや。あのお人は、この世のものやないんやから……)
室内に、唾液を呑み込む音が響いた。その音は、相良の夢想を断ち切るのに、現実に引き戻すのに十分な効果があった。
待ちかねた野田太郎が唾を呑んだのだ。
相良は目を上げ野田を見た。野田の口元からは実際にわずかだが唾液が垂れていた。その目は、仇のように桜餅を睨んでいる。目で桜餅を呑み込もうとでもするようであった。
少しひるんだ相良は、野田に声を掛けた。
「おまん、好きなんか、甘いもん」
「へえ……はい」
「ほうか。ほなこれ、一人で食え」
「いや、そんな……」
相良の勧めを断る野田の目は、しかし既に桜餅に喰いついていた。
「ええから、食えて(食べなさい)。儂、あんまし好きやないねん、甘いもん」
その相良の言葉は、いかにも説得力が無かった。
野田は絞り出すように言った。
「わし……こんまい(幼い)ころから、おかん(母親)に言われてましてん。食べもんは何でも分け合わなあかん。一人占めするような、さむしい真似したらあかん、て」
「さむしい、やない。さもしい、やろ」
「あ、へえ」
「しやけど、偉いお母(かあ)はんやなあ」
「へえ」
「お前のうち(家)、何してはんねん」
「百姓ですわ。ちっこいでんぱた(田畑)つくって、牛とニワトリこ(飼)うて……」
「なんや、うちとよう似とるなあ」
「相良はんとこも百姓でっか」
「おう、近江の、能登川(のとがわ)っちゅうとこや。知っとるか」
「すんまへん、知りまへん」
「そら、知らんわなあ。何も無いど田舎でなあ。山ん中、いうわけやないんやけど、ほんまになあんもないとこでなあ」
「あの、すんまへん、相良はん。そろそろ……」
野田の辛抱は、もう限界のようだった。
「お、すまんすまん。ほな分けよか」
「へえ」
「あんなあ、こういう時なあ。どっちゃからも文句の出ん分け方、あんねん。知っとるか」
相良は、少し楽しそうに野田に言った。
「さあ……知りまへん。どないするんでっか」
「ええか。まずな、どっちかが真っ二つに割る。自分が『真っ二つや』と得心いくように、慎重にな」
「へえ」
「ほんでやな。その分けたんのどっちゃを選ぶかは、もう一人の方や。でや、これで痛み分け、公平やろ」
「ああ……へえ……そう、でんなあ」
野田太郎はよく呑み込めないのか、不得要領な返事をしていたが、その顔が次第に輝いてきた。
「なあるほどぉ! そらあ、上手い方法でんなあ」
「納得したか。ほな、おまん、分けぇ」
「え? わしがでっか」
「せや。上手いことやれよ」
相良は、掌の上の桜餅を懐紙ごと野田に突き付けた。輝いていた野田の顔が曇った。
「い、いや、わし、ぶっきょ(不器用)やさかい……。相良はん、やっとくんなはれ」
「ええからやれ。おまんも料理人になろかっちゅうんやろ。せやったら、餅、分けるくらいなんやねん。ほれ、手ぇ出せ」
相良は片手で桜餅を取り、おずおずと差し出す野田の掌に載せた。
「へ、へえ……」
野田は、受け取った桜餅をそのまま自分の目の前に捧げ持った。その目は、睨み付けるように桜餅を見詰めていた。
相良は手を体の横に伸ばし、空になった懐紙を布団の脇の畳の上に置いた。その目は、野田と同様に桜餅を見詰めている。
「ほ、ほな……やりますわ」
野田は桜餅を両手の指先で掴んだ。
相良が慌てて止めた。
「お、ちょ、ちょう(少し)待て。はっぱ葉っぱ。葉っぱ剥がさんかい。そのまんまやったら、うもう(上手く)割れんやろ」
「ああ……葉っぱ……」
野田は片手の掌に桜餅を載せ、もう片方の手の指先を、餅を包む葉の端に伸ばした。摘まもうとするが、薄い桜の葉は桜色の餅にぴたりと張り付き、野田の太い指では到底摘まめそうにない。焦る野田の指は葉の表面を幾度も滑り、餅を押し潰しそうであった。
見かねた相良が手を伸ばした。
「おい、ちょう(ちょっと)貸してみい(貸してみなさい)」
「あ、ああ……」
野田の掌の上の桜餅を摘み上げた相良は、器用に葉を剥き取った。葉を片手の指先に摘まんだまま、もう一方の手で餅を野田に返した。
「ほれ、剥いたぞ」
「へえ、すんまへん。ほな(それでは)……」
野田は、改めて両手の指先で餅を掴んだ。指先が鉤状に曲がる。力が入る。指がぶるぶると震えた。その様子は、爪も立たない様な硬い物を割ろうとするように見えた。
(だいじょうぶかいな、こいつ)
相良は思わず声を出しそうになった。
野田の指先がようやく餅に喰い込んだ。桜色の塊りが拉げる。黒い漉し餡が指先を伝ってはみ出る。餅は二つに割れた。
野田は、詰めていた息を大きく吐いた。何か大仕事を成し遂げたような、安堵の吐息だった。
少し間をおいて、野田は左右の掌に桜餅の断片を一つずつ載せ、両手を相良に差し出した。
「分けました」
二つの断片の大きさは異なっていた。その大きさの違いは、誰の目にも明らかだった。大きい断片は小さい方の二倍はあった。
「よっしゃ。ほな選ぶで」
相良はためらいなく片手を伸ばし、分けられた桜餅の一つを摘まみとった。それは、小さい方だった。
野田は思わず声を上げた。
「あ……」
その時はもう、相良は桜餅を口に入れていた。二、三度噛んであっさり呑み込み、野田に声を掛けた。
「何してんねん。早よ食わんかい」
野田は少し躊躇ったが、残った桜餅を口に運んだ。相良と同様、ほんの二、三度かみ締めてから飲み込んだ。先ほど口元から唾液を漏らしたように、野田の目尻から少し涙がこぼれた。
相良は、まだ指先で摘まんでいた桜の葉を見た。
「おい。これ、食うか」
野田は黙ったまま二度三度、かぶりを振った。
相良は少し考えたが、先ほどの懐紙の上に、指先の桜の葉を擦り落した。
(食うてもええけど、今日はもうええわ。明日片付けよ)
相良は少し声を大きくして、野田に声を掛けた。
「ねるぞ寝るぞ。『寝て起きたら次の日』や。明日はまた早い」
相良は、薄い掛け布団をひっかぶるように顔まで被せた。
野田も寝ころんだ。
「相良はん……」
「あ、明日は早めに出て路地の掃除せなあかんなあ。野田よう、覚えといてくれよぉ」
「はひ……」
野田と相良は、ほとんど同時に、墜落するように眠りについた。部屋の薄暗い灯かりはつけっぱなしである。その灯りは、八坂神社の常夜灯のように二人を見守っていた。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2015/05/19 10:32
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野田はもちろん、相良も若い。正確には決めていませんが14,5歳というところでしょうか、まだまだ子供です。しかも時代が時代。これもきちんと決めたわけではありませんが戦後間もなく、昭和20年代の初めころとお考え下さい。まだまだ物のない時代です。
野田も相良も腹を減らしています。さすがに食べ物屋に勤めていれば「飢える」ということは無いでしょうが、美味いものはそうそう口に入りません。甘いものなどとてもとても……。
ですから、餅ひとつで涎を垂らすというのは無理からぬところ。決して野田がいやしいというわけではないのです。
ということでございまして、生八つ橋に続きまして、京の和菓子シリーズ第二弾『桜餅』です(いつからシリーズになったんや)。とはいえ、決して珍しい菓子ではないというのは、読者諸兄姉、よくご存知の通り。桜餅を一度も食されたことのないお方は少ないでしょう。かく申す私も何度か食べました。
和菓子と云いますのは、まず見た目が楽しい。そもそも可愛いものです。桜餅も例外ではありません。色はまさに淡い桜色。それを包む鮮やかな桜葉の緑。浮き立つような春の華やぎがあります。そういえば、春の季語だそうです、桜餅。
ところで本文中の画像にも書きましたが、桜餅には関西風と関東風があるそうです。これは知りませんでした。へええ、です。
わたしが食べたのはもちろん関西風です。では関東風はと申しますと、わたしはコメに画像をよう載せません(大阪語;載せる能力がない)。管理人さんに送っておきますので、お手数を煩わせることにしましょう(勝手に決めるな)。
で、関西風ですが、餡を包む皮は道明寺粉(蒸したもち米を干した後、粗めに挽いたもの)を蒸して餅にし、小豆餡を詰めて塩漬けの桜の葉で包む、というもの。
一方関東風は小麦粉、または上新粉(うるち米を細かく挽いたもの)を水に溶き、薄く延ばして加熱する。これを軽く焼いた後に小豆餡を包み、さらに全体を桜の葉で包む、というものだそうです。
関西・関東風共に細かいバリエーションの違いはあるようです。
一個しかないものを、不平不満の出ないように分ける。相良の示した方法はなかなか考えたものですが、さあ、これを何で知ったのか、まったく覚えていません。
それはともかく、相良は野田に大きい方を食べさせてやろうと考えてこのような段取りを考えたのでしょうか。それともたまたまこうなったのでしょうか、作者にもわかりません。
始めは相良が二つに割るように書いたのですが、あまりに見え見えだし、何か深読みできそうな気がして野田に分けさせることにしました。
まあ、もう終わったことです。相良じゃありませんが「寝て起きたら次の日」。終わった日はもう過去の事です。
これ、実は私の母親の得意ゼリフなんですね。小さい頃、兄弟で「母ちゃん、また言うとるわ」と囁き合ったものです。
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2. Mikiko- 2015/05/19 20:18
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関東風、関西風があるとは知りませんでした。
うどんみたいですね。
わたしは、焼いた桜餅は食べたことがありません。
新潟は、関西風なんでしょうか。
桜餅の風習では、葉っぱを食べるかどうかというのも興味深いところです。
わたしは、必ず食べます。
お餅より好きかも知れません。
人間が食べても美味しいくらいですから……。
桜の葉っぱには、毛虫がたくさん付きます。
桜を植えて良かったと思うのは、花どきの10日だけで、あとの355日は後悔ばっかりだそうです。
画像は、まだ送られて来てません。
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3. ハーレクイン- 2015/05/20 00:41
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桜餅に必ず付いて回るこの問題。
どうなんでしょうねえ。
これは関東・関西に関わりなく、人によりさまざまなのでは。
しかも、「食べる派」「食べない派」どちらもこだわる方が多いようです。
「食べる派」の方は必ず食べる。「葉っぱも餅の一部やん。食べんかいな、もったいない」ということですね。
「食べない派」の場合、「葉っぱは言うてみたら“包装紙”やん。あんた“紙”食べるんか」ということのようです。
まあ、わたしの行った調査結果でサンプルが少ないですから、あまりあてにはなりません。
で、とりあえずの結論は、「別に『決まり』があるわけでなし、お好きにどうぞ」というところでしょうか。
いずれにしましても、葉っぱが無ければ『桜餅』とはいえません。それほど、この餅を特徴づける重要な“部品・パーツ”です。誰がこんな餅、考えついたんでしょうねえ。
桜餅画像、遅くなりましたが送付しました。よろしくお願いします。
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4. Mikiko- 2015/05/20 07:43
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↓左が関西風、右が関東風だそうです。
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2015052007375852e.jpg
やはり、関東風には見覚えがありません。
新潟の桜餅は、関西風ですね。
↓関西風を道明寺、関東風を長命寺とも呼ぶようです。
http://afun7.com/archives/2953.html
葉っぱを食べると、胸焼けが防げるんじゃないでしょうか?
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5. ハーレクイン- 2015/05/20 11:44
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お手数でした、ありがとうございます。
関東風は本当に、まったく初見参でした。実際に食べてみないとわかりませんが、なんとなく味に想像はつきます。
別に関西の肩を持つわけではありませんが、わたしはやはり関西風に一票、ですね。まあ、食べ慣れたもの、ということなんでしょうが。
関西風桜餅の原料、道明寺粉の由来になったのは、大阪府藤井寺市の尼寺「道明寺」。この寺で保存食として作られた(桜餅じゃなく、粉の方)のが始まりとか。
藤井寺市には、近鉄(近畿日本鉄道)の「道明寺駅」があります。
長命寺は江戸向島の古刹だそうです。この門前で売り出されたのが「長命寺桜餅」の始まりだとか。
長命寺といいますと、こちらでは近江八幡市ですがね。西国三十一番札所。
♪西国十番 長命寺
汚れの現世 遠く去りて
黄金の波にいざ漕がん
語れ我が友 熱き心
(『琵琶湖周航の歌』
三十一番の長命寺がなぜ十番になったのかはわかりません)
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6. Mikiko- 2015/05/20 19:48
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舌触りのプチプチ感にあります。
関東風を食べたら、桜餅に思えないでしょうね。
↓西国十番の理由は、実にいい加減みたいです。
http://www.geocities.jp/ikikansai_ryokoukenbunroku2/ryokoukenbunrokuno2/h19biwakosyuukousiryoukan.html
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7. ハーレクイン- 2015/05/20 22:16
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『琵琶湖周航の歌』。
作詞の小口太郎氏は長野県、現在の岡谷市の生まれ。三高から東大理学部に進学。享年27、自死だそうです。
作曲は吉田千秋氏。新潟県中蒲原郡小鹿村、現在の新津市の生まれ。享年24、こちらは病死(おそらく肺結核)。
作詞者・作曲者ともに早逝したんですね。
で、問題の「十番」です。
“いいかげんな理由サイト”さんによりますと、作詞の小口太郎氏曰く「『西国三十一番長命寺』では歌にならない。で、語呂合せで『西国十番長命寺』とした」との事。
ということは“一番”でも“六番”でも“八番”でもよかったわけだ。長命寺の方からのおとがめは無かったそうです。
ちなみに、実際の西国十番は、京都宇治市の三室戸寺。こちらからも特にクレームは無かったようで、いずれも“大人の対応”というところでしょうか。
わたしとしましては、長年の疑問が解消されて、詰まっていたうんこが出たような気分です。Mikikoさん、ありがとー。
ところが新たな疑問が!
滋賀県の三十三所は、長命寺以外に大津市の正法寺(十二番)、同じく大津市の石山寺(十三番)および園城寺(十四番)、竹生島の宝厳寺(三十番)、安土町の観音正寺(三十二番)があります。観音正寺は無理として、それ以外の寺は語呂が合います。
なぜ、長命寺だったんでしょう。作詞者がお亡くなりの今となっては、真実を知ることはできません。残念なことです。
西国三十一番長命寺の所在地は、滋賀県近江八幡市長命寺町です。
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8. Mikiko- 2015/05/21 07:36
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そんな村があったとは、知りませんでした。
なお、新津市は現在、新潟市秋葉区となっています。
長命寺という寺は、全国的にあるようです。
檀家がつきそうな名前ですからね。
新潟県五泉市にもあります。
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9. ハーレクイン- 2015/05/21 08:27
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もうないの? 新津市。
2005年3月31日、新潟市に編入合併。
現在は新潟市秋葉区ですか。
ふむ。
♪西国じゅうばん~ちょおおめえいじぃ~
昨日から耳について離れぬのだよ。
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10. Mikiko- 2015/05/21 20:47
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『琵琶湖周航の歌』は、水難事故を悼んだ歌だと思ってました。
冥福を祈る意味で、長命寺が出てくるのかと。
でも、改めて歌詞を見直すと、それらしき文言がありません。
そこで、改めてネット検索しました。
わたしが思ってた歌は、『真白き富士の根』でした。
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11. ハーレクイン- 2015/05/21 23:01
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緑の江の島……
は、確かに水難事故を歌ったものですが、琵琶湖の水難事故に題材を取り、東海林太郎が歌った『琵琶湖哀歌』というのがありまして、『琵琶湖周航の歌』とよく混同されるそうです。
琵琶湖哀歌
♪遠くかすむは彦根城
波に暮れゆく竹生島
三井の晩鐘音絶えて
なにすすりなく浜千鳥
この事故は、Wikiによりますと……、
「1941年(昭和16年)4月6日、大津市で合宿していた金沢第四高等学校(現・金沢大学)の漕艇部員8名は、京都大学の学生ら3名を加えた合計11名で、今津町(現・高島市)の琵琶湖畔からボートに乗って午前7時頃出発した。しかし、午後6時になっても戻らなかったため、翌4月7日朝より大がかりな捜索が行われたが発見できず、11名の生存は絶望視された。11名全員の遺体が発見されたのは2ヶ月後である」
小口太郎氏が『琵琶湖周航の歌』を作詞したのは1917年(大正6年)から18年にかけてだそうですので、周航の歌は上記の水難事故を歌ったものではありませんね。
作曲の吉田千秋氏。
夭折が惜しまれる一種の天才だったそうです。
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12. Mikiko- 2015/05/22 07:09
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やっぱり、琵琶湖の水難事故の歌があったんですね。
そりゃ、間違うわ。
しかし、琵琶湖で、11人も亡くなって、そのご遺体が2ヶ月も見つからなかったとは驚きです。
ネッシーみたいなバケモノが、ボートをひっくり返したんでしょうかね。
琵琶湖は、なんか住んでそうですけどね。
ナマズかな?
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13. ハーレクイン- 2015/05/22 15:22
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Wikiによりますと「春に起こる琵琶湖地方特有の突風、比良八荒であると言われている」。
比良は比良山。琵琶湖西岸に沿って南北に伸びる、標高1000メートル前後の山地です。春、北西の突風が比良から琵琶湖に吹き降ろす、いわゆる「比叡颪」です。
この季節に比叡山延暦寺などで行われる天台宗の行事「比良八講」にかけて「比良八荒」とも呼ばれるようになったとか。
この強風・突風の影響をもろに受けるのがJR西日本の「湖西線」。強烈な横風にあおられて貨物列車が転覆したこともあるとか。駅に停車中だったのは不幸中の幸いというべきでしょうか。
このため、JRでは風による運行抑制が強化されるようになったそうです。
「湖」と聞くとピンときませんが、とんでもない規模です、琵琶湖。風のある時の荒れ具合は海と変わりません。
普段はただただ広く、大きく、対岸は霞の向こう。穏やかな水面なんですがね。
♪風は琵琶湖に落ちてくる
北山杉を下に見て
……………………
うちは比叡おろしですねん
あんさんの
胸を雪にしてしまいますえ
(松岡正剛作詞・作曲『比叡おろし』)
琵琶湖の成立は400万~600万年前。生息する生物は魚類だけで50種類以上、固有種は10数種。どんなとんでもない生き物がいるか……“びわっしー”とか。