2014.12.23(火)
「少々お待ちください、支度しますので」
あやめは刑事に声を掛けた上で、ソファに戻った。
「明子はん」
「ああ、あやめさん。うっとうしいおっさんら、帰った?」
「いえ、あの、店に戻らなあかんようになりました」
「なんですのん、それ。警察が引っぱって行きよるいうこと?」
「いえ、まあ、そない言うたらとりあえずそういうことに……」
明子はいきり立った。
「なんですのん、それ! あやめさんを引っぱるやなんて、許さん! ようし、とりあえず伯父に電話して……」
「やめとくれやす、明子はん。事情を聴いてみんと何とも分かりまへんし、そもそもどないな事態なんか……。
すんまへんが、行(い)てきます。今日はほんまにおおきに、ありがとさんどした」
「あやめさあん。ほんまに行(い)かはるのん」
明子の両眼から涙が溢れた。
「あやめさん、あやめさあん」
「すんまへん、明子はん。失礼します。鍵、ちゃんと掛けとくんなはれや」
「あやめさあん」
後ろ髪を引かれるような思いで、あやめはドアチェーンを外し、ドアを開けて廊下に出た。廊下には二人の刑事が立っていた。一人は若い。もう一人は比較的年輩の男、先ほどドア越しに話した刑事であった。
年配の方が先導するように、廊下をエレベーターに向かう。後ろから、若い刑事がついてくる。
年配の刑事が、エレベーターのボタンを押しながら、あやめに声を掛けた。
「すんまへんなあ、お休みのとこ」
「いえ。ほんで、何がおましたん」
「まあまあ、事情は車の中で」
エレベーターのドアが開いた。年配の刑事、あやめ、若い刑事の順で乗り込む。エレベーターの中でも、1階の玄関ホールでも、三人は無言だった。
玄関を出たすぐ脇に車が1台停まっていた。ごく普通の国産の乗用車である。
(パトカーやないんや)
(天井の警告灯も無いし)
「ふうん」
思わず漏らすあやめに、年配の刑事が声を掛けた。
「どないしはりました」
「あ、いえ。てっきりパトカーやと思てたもんどすさかい」
左側後部座席のドアを開け、あやめに乗車を促しながら、半ば笑い混りに刑事は答えた。
「別に事件現場に来たわけやなし、犯人逮捕に来たわけでもなし、パトカーでは失礼やと思いましてな。ほれともあんさん、犯人でっか」
口の軽そうな刑事だった。あやめは答えなかった。
運転席に若い刑事が、後部座席のあやめの右隣に年配の口軽刑事が乗り込んだ。車はすぐに発車した。鴨川沿いの道に出る。今朝がた、あやめと明子がタクシーで走った東大路通(どおり)であるが、走る方向は逆であった。
(なんや、遠い昔のことのように思えるなあ)
「ほれでですな」
口軽刑事があやめに声を掛けた。
「へえ」
「今から事件現場を見ていただきまっけど、あんさんお若い女性やし、いきなりいうのもどうかと思いますんで、あらかじめお伝えしときます」
「へえ」
「実は、さきほど『花よ志』はんの裏庭で死体が見つかりましてな」
「死体!」
「関係者はん全員に現場を見てもろてから、思いましてまだ動かしてまへん。せやからまだ断定はでけまへんが、状況から見ておそらく他殺やろと……」
「他殺……なんでまた」
あやめは混乱した。テレビや映画では珍しいことではないが、現実の世界で殺人などという事態に出くわすとは。
「さあ、なんでですやろなあ。それをこれから調べるわけでして、あんさんに現場みていただくのもその一環ですわ」
「へえ……」
あやめは押し黙り、口軽刑事の肩越しに右側の車窓を見た。鴨川の流れは、変わらず陽に煌めいている。
口軽刑事が再び声を掛けてきた。
「あんさん、仲居やのうて板場のお人らしいですな」
「へえ、そうどす」
「珍しいですなあ、こないなお若い女性が板場はんとは」
いろんな人から掛けられた言葉だ。あやめはうんざりしたが、律義に答える。
「へえ、そうどすなあ」
「『花よ志』はんは長いんでっか」
「いえ、まだ1年にもなりません」
「ほう、その前はどちらに」
「学生でした」
「学生! 大学生でっか」
「へえ」
「ははあ、それは凄いですなあ。で、大学はどちらの」
「I県のK大学どす」
「ほほう、京都やないんでっか」
「へえ」
車が右折した。鴨川を渡る。渡りきったあたりで強引に通りを横切り、狭い繁華街に乗り入れた。普段は人でごった返す通りだが、交通規制をしているのだろう。歩く人は無く、ひっそりと静まり返っていた。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2014/12/23 08:38
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京都祇園殺人事件。
山村美紗作品の雰囲気ですが、もちろん関係ありません。わたしに舞妓はんが書けるわけもなし。
舞台は祇園の料亭「花よ志」の裏庭。被害者は、犯人は、事件の真相は……もちろんまだまだこれからです。
どう展開するのでしょうか「祇園殺人事件」。作者にも全くわかりません。
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2. Mikiko- 2014/12/23 12:25
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70と71で、すでに始まってますって。
さて、『京都祇園殺人事件』。
いったい、どんなトリックが仕掛けられているのでしょう?
わたしの『日本海フェリー殺人事件』を超える仕掛けが作れるでしょうか?
警察側のキャラも楽しみですね。
はたして、“アイリスの匣”は開くのか?
乞うご期待。
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3. ハーレクイン- 2014/12/23 13:47
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今日はお休みですか、会社。
と思ったら旗日でしたな「天皇誕生日」。どうりで、今日はTVに天ちゃんがよく出るなあと思ったよ。
近ごろ、祝日がよく変化するのでついていけませんわい。もともと、祝日はあまり関係ない生活を送っておりますのでね。
祇園殺人事件。
「本格的に」始まりました。
トリックって、仕掛けって、そんな本格推理ものにするつもりはないんだけどなあ。『匣』を開くためのちょっとした準備として始めたんだけどね。
しかしそこまで言われれば、乗らざるべけんや(やめとけ)。
やるんなら「警察ドラマもの」かな。少し考えましょう。
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4. Mikiko- 2014/12/23 18:55
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そんなに変化するものではありません。
警察ドラマ、いいですね。
わたしは、2時間ドラマが大好きなのですが……。
刑事が主人公でないのは、あまり面白くありません。
ぜひ、意地悪な管理官とか出してください。
当然、キャリアも絡んでくるでしょうね。
警察組織について、猛勉強が必要ですぞ。
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5. ハーレクイン- 2014/12/23 20:44
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成人の日や体育の日は、元の日付からその月の第2月曜日に変わりました。連休を増やすためという目的なのでしょう。これをハッピーマンデー制度(なあにがハッピーやら)というそうです。
わたしは、このせいで祝日の記憶が混乱するようになりました。
天皇誕生日だって天皇が交替すれば変わるしね。
もちろん、元日や、春分・秋分の日など、変えようのない祝日もありますが。
それにしても思います。なぜ夏至と冬至は祝日じゃないんだろう。
と思ったら、春分・秋分は旧の皇霊祭(歴代の天皇・皇后の霊を祭る儀式)が行われる日だったそうです。どこまでも皇室が付いて回るんだなあ。
今年の冬至は12月22日。太陽は黄道の最南点(冬至点)を昨日通過し、春分点に向けて北上中です。
春は近いぞ(まだ早いって)。
>警察ドラマ、いいですね
やめてくれよ、その気になっちまうじゃねえか。
しかし、ドラマでも映画でも小説でも、警察ものってわんさとあるからなあ。下手するとパクリになりかねないし……どうしたものかね。
ま、書きながら考えるか。
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6. Mikiko- 2014/12/24 07:52
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わたしは、3連休より、週の真ん中に休みがある方がいいです。
やっと冬至が過ぎました。
でも、夏至が6月であることを思えば、冬本番はこれからということです。
お正月用に、梅の鉢を買いました。
わが家で一番暖かい、トイレに入れました。
蕾が、目に見えて膨らみ始めました。
わが家のトイレには、一足早く春が来そうです。
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7. ハーレクイン- 2014/12/24 09:21
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一輪程のあたたかさ(芭蕉門下 服部嵐雪)
梅はいいですね。
ウメには「熟む実」という意味があるとか。
百花にさきがけて咲く梅花。
冬の花です。











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