2014.12.16(火)
〔前回までのあらすじ〕
わたしの3か月の入院騒ぎで、心ならずも掲載が中断してしまいました「アイリス」。再開にあたり、ここまでの話の筋を簡単に振り返っておきましょう。
京都・祇園の料亭「花よ志」の料理人あやめ。
花板(板場の№1料理人)の野田太郎や仲居の久美のような味方は少なく、女将の志摩子、仲居頭のお道、立板(№2料理人)の関目源蔵、焼方の平野良雄などの曲者連中に囲まれ、悪戦苦闘しております。
祇園の呉服商・宝田晋(すすむ)の姪、宝田明子に招かれて京都・東山の料亭でご馳走になったあやめは、その後明子のマンションで二人きりの酒宴を持ちます。そこへ……。
ということでございます。
大変長らくお待たせいたしました。戯曲「センセイのリュック」の幕間小説(なんじゃあ?)にして、長編エロ料理小説「アイリスの匣」。再開で御座います。
戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン
幕間(小説形式)アイリスの匣#79
どのくらいグラスを重ねたのだろう。ウィスキーの瓶はほとんど底をつきそうである。
あやめと明子は陶然となった。
「ああ、やはり昼酒は効きますなあ、あやめさん」
「そうどすなあ」
「あやめさん、よう飲みはるのん、昼間から」
「へえ……学生の頃はよう飲みましたけど、今はお店に住み込みの身ですさかい……」
「ああ、そらそうどすなあ。ほな、またお誘いしましょうなあ、昼酒」
明子はウィスキーの瓶をあやめのグラスの上で傾ける。最後の一滴があやめのグラスに注がれた。
「無(の)うなりましたなあ」
明子は未練たらしく、しばらく瓶を傾けたままでいたが、ようやくあきらめた。あやめのグラスから瓶を引く。
「すんまへん明子はん。うちが最後の一滴をもろてしもて」
「なあんも謝ることおへんよ、あやめさん」
明子はグラスを置いて立ち上がり、食器棚の最下段の引き戸を開けた。しゃがみこんで手を突っこむ。新しいウィスキーの瓶を取り出した。
満面に笑みを湛え、立ち上がりながらあやめに向かって瓶を掲げる。
「ほおら、あやめさん。まだおますんや、ウィスキー」
あやめも笑みを返す。こちらは無言である。
「さあ、もっと飲も、あやめさん」
「明子はん。氷は出来てますやろか」
「出来てますやろ。製氷皿、冷凍庫に入れときましたさかい」
あやめは、再びアイスペールを氷で満たした。製氷皿に水を注ぎ、冷凍庫に戻す。
アイスペールを手にテーブルに戻る。明子のグラスに氷を投入し、ウィスキーを注ぐ。二人の酒宴は、いつ果てるともなく続いた……。
玄関のチャイムが鳴った。明子はのろのろと立ち上がり、インターホンの受話器を取り上げた。
「はぁい」
「あ、宝田明子はんのお宅どすなあ。こちらに、えーと、東中あやめさん、いてはりますやろか」
「あやめさん? 何やの、あんたは」
「あ、申し遅れました。警察です、京都府警のものです」
「警察ぅ?! 警察があやめさんに何の用なん」
「いや、それは東中はんに直接……」
明子の目尻が釣りあがった。
「なんやと、おう、こら! ここはうちの家や。ほんで、あやめさんは大事なお客はんや。で、今飲んどるとこや。
警察なんぞに用はないわ!!」
警察、の一言で扉が開くと思っていたのだろう、扉の外には少し慌てたようなざわめきが生じた。何人かがいるのだろう。もちろん、警察官が単独で動くことは通常ありえない。
「い、いや、そこを枉(ま)げてお願いします。緊急事態ですので」
「なんやねん、緊急事態て。はっきり言わんかい!」
「いや、これは東中はんご本人に」
「なんやねん、うちには言えんっちゅうんかい。うちは祇園の宝田の身内や。舐めとったらあかんぞ!」
「い、いや、ともかく東中はんをですな……」
「ええい、去(い)ね! 卑しい官憲なんぞに用はないわ!!」
酔いのまわっている明子には話が通じそうにない。
これは埒が明かない、と考えたあやめは玄関に向かった。
「明子はん、代わりましょ」
「ああ、あやめさん、こいつらほんまにしつこうてなあ。ひとつびしっと言うてやって」
あやめは、ドアチェーンを確認したうえで玄関扉を開けた。もちろんチェーンに阻まれ、10センチほどしか開かない。
「はい……」
「東中あやめさんですな」
「その前に、警察のお方やゆうことですけんど、手帳見せていただけますやろか」
「お、これは失礼」
通常なら、内懐に手を突っこんで、というところなのだろうが、今は8月。真夏の京都のしかも昼間。午後の日差しに炙られる京の街は、到底上着など着けていられるものではない。刑事の上着は、軽く曲げた左腕にひっかけてあった。
刑事は、右手をズボンの尻ポケットに突っ込み、しばらくごそごそとやった後、黒皮の手帳を引っ張り出してあやめの前にかざした。表紙には金文字・縦書きで「京都府警」とある。
あやめは、そこまで確認したうえで、ドアの隙間ごしに刑事の顔を見つめた。
「うちが東中どす。で、なんですやろ」
「お休みのとこほんまに申し訳ないんですが、あんさんがお勤めの祇園の『花よ志』はんでちょっと事件が起こりましてなあ。従業員さんはじめ、関係者の方々皆さんにお話を伺いたい、とこういうことでして」
「はあ、事件……ほれはどないな……」
「ま、現場も見ていただかなあきまへんし、ご面倒ですが今から『花よ志』はんまで、ご同道願いたいと思いまして。事件の概略はその道すがらでお話します」
「はあ……」
「車で来てますよって、お願いします」
あやめは室内を振り返った。ガラステーブルの脇では相変わらず明子が飲んだくれている。
わたしの3か月の入院騒ぎで、心ならずも掲載が中断してしまいました「アイリス」。再開にあたり、ここまでの話の筋を簡単に振り返っておきましょう。
京都・祇園の料亭「花よ志」の料理人あやめ。
花板(板場の№1料理人)の野田太郎や仲居の久美のような味方は少なく、女将の志摩子、仲居頭のお道、立板(№2料理人)の関目源蔵、焼方の平野良雄などの曲者連中に囲まれ、悪戦苦闘しております。
祇園の呉服商・宝田晋(すすむ)の姪、宝田明子に招かれて京都・東山の料亭でご馳走になったあやめは、その後明子のマンションで二人きりの酒宴を持ちます。そこへ……。
ということでございます。
大変長らくお待たせいたしました。戯曲「センセイのリュック」の幕間小説(なんじゃあ?)にして、長編エロ料理小説「アイリスの匣」。再開で御座います。
どのくらいグラスを重ねたのだろう。ウィスキーの瓶はほとんど底をつきそうである。
あやめと明子は陶然となった。
「ああ、やはり昼酒は効きますなあ、あやめさん」
「そうどすなあ」
「あやめさん、よう飲みはるのん、昼間から」
「へえ……学生の頃はよう飲みましたけど、今はお店に住み込みの身ですさかい……」
「ああ、そらそうどすなあ。ほな、またお誘いしましょうなあ、昼酒」
明子はウィスキーの瓶をあやめのグラスの上で傾ける。最後の一滴があやめのグラスに注がれた。
「無(の)うなりましたなあ」
明子は未練たらしく、しばらく瓶を傾けたままでいたが、ようやくあきらめた。あやめのグラスから瓶を引く。
「すんまへん明子はん。うちが最後の一滴をもろてしもて」
「なあんも謝ることおへんよ、あやめさん」
明子はグラスを置いて立ち上がり、食器棚の最下段の引き戸を開けた。しゃがみこんで手を突っこむ。新しいウィスキーの瓶を取り出した。
満面に笑みを湛え、立ち上がりながらあやめに向かって瓶を掲げる。
「ほおら、あやめさん。まだおますんや、ウィスキー」
あやめも笑みを返す。こちらは無言である。
「さあ、もっと飲も、あやめさん」
「明子はん。氷は出来てますやろか」
「出来てますやろ。製氷皿、冷凍庫に入れときましたさかい」
あやめは、再びアイスペールを氷で満たした。製氷皿に水を注ぎ、冷凍庫に戻す。
アイスペールを手にテーブルに戻る。明子のグラスに氷を投入し、ウィスキーを注ぐ。二人の酒宴は、いつ果てるともなく続いた……。
玄関のチャイムが鳴った。明子はのろのろと立ち上がり、インターホンの受話器を取り上げた。
「はぁい」
「あ、宝田明子はんのお宅どすなあ。こちらに、えーと、東中あやめさん、いてはりますやろか」
「あやめさん? 何やの、あんたは」
「あ、申し遅れました。警察です、京都府警のものです」
「警察ぅ?! 警察があやめさんに何の用なん」
「いや、それは東中はんに直接……」
明子の目尻が釣りあがった。
「なんやと、おう、こら! ここはうちの家や。ほんで、あやめさんは大事なお客はんや。で、今飲んどるとこや。
警察なんぞに用はないわ!!」
警察、の一言で扉が開くと思っていたのだろう、扉の外には少し慌てたようなざわめきが生じた。何人かがいるのだろう。もちろん、警察官が単独で動くことは通常ありえない。
「い、いや、そこを枉(ま)げてお願いします。緊急事態ですので」
「なんやねん、緊急事態て。はっきり言わんかい!」
「いや、これは東中はんご本人に」
「なんやねん、うちには言えんっちゅうんかい。うちは祇園の宝田の身内や。舐めとったらあかんぞ!」
「い、いや、ともかく東中はんをですな……」
「ええい、去(い)ね! 卑しい官憲なんぞに用はないわ!!」
酔いのまわっている明子には話が通じそうにない。
これは埒が明かない、と考えたあやめは玄関に向かった。
「明子はん、代わりましょ」
「ああ、あやめさん、こいつらほんまにしつこうてなあ。ひとつびしっと言うてやって」
あやめは、ドアチェーンを確認したうえで玄関扉を開けた。もちろんチェーンに阻まれ、10センチほどしか開かない。
「はい……」
「東中あやめさんですな」
「その前に、警察のお方やゆうことですけんど、手帳見せていただけますやろか」
「お、これは失礼」
通常なら、内懐に手を突っこんで、というところなのだろうが、今は8月。真夏の京都のしかも昼間。午後の日差しに炙られる京の街は、到底上着など着けていられるものではない。刑事の上着は、軽く曲げた左腕にひっかけてあった。
刑事は、右手をズボンの尻ポケットに突っ込み、しばらくごそごそとやった後、黒皮の手帳を引っ張り出してあやめの前にかざした。表紙には金文字・縦書きで「京都府警」とある。
あやめは、そこまで確認したうえで、ドアの隙間ごしに刑事の顔を見つめた。
「うちが東中どす。で、なんですやろ」
「お休みのとこほんまに申し訳ないんですが、あんさんがお勤めの祇園の『花よ志』はんでちょっと事件が起こりましてなあ。従業員さんはじめ、関係者の方々皆さんにお話を伺いたい、とこういうことでして」
「はあ、事件……ほれはどないな……」
「ま、現場も見ていただかなあきまへんし、ご面倒ですが今から『花よ志』はんまで、ご同道願いたいと思いまして。事件の概略はその道すがらでお話します」
「はあ……」
「車で来てますよって、お願いします」
あやめは室内を振り返った。ガラステーブルの脇では相変わらず明子が飲んだくれている。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2014/12/16 08:08
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どんどん悪くなっていきます。
酔いのまわるとともに地が出てきた、というところでしょうか。
一方、同様に飲んでいるにもかかわらず、あやめは冷静です。素面ということはもちろんないのでしょうが、強いんですねえ。あやめ酒(なんじゃあ?)。
尋ねてきたのは府警の刑事。いったい何事でしょうか。
「花よ志」で起こった事件とは?!
作者はもちろん承知しております。
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2. Mikiko- 2014/12/16 19:51
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酒の場面を書くのは、止めなはれ。
こういうのを書くから、ついつい飲んでしまうのではないか?
そもそも、この2人の飲みっぷりは、明らかに尋常じゃありません。
正直、引いてしまいました。
事件のことはすでに書いてるんだから、読者だって知っております。
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3. ハーレクイン- 2014/12/16 21:27
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実際に飲むのとはまた別です。
事件のこと。
詳しい内容までは書いていないと思うが。
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4. Mikiko- 2014/12/17 06:34
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70と71で、状況はかなり書かれておりますぞ。
むろん、真相はまだですが。
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5. ハーレクイン- 2014/12/17 08:49
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「花よ志」への父兄の、おっと府警の事情聴取はもう始まっていましたなあ。ころっと忘れていました。コメも含め、けっこう状況は明かされています。
ま、捜査はこれからですが(京都府警)。











![[官能小説] 熟女の園](https://livedoor.blogimg.jp/mikikosroom2008/imgs/3/e/3e07a9c3.gif)





































































































