Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #56
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式) アイリスの匣 #56



 あやめは、鱧(ハモ)包丁を片手に、一心不乱にハモの身に切れ目を入れていた。
 ハモは体長1メートル近く。ウナギやアナゴ、タチウオなどと同様に細長い体型の魚である。ハモの全身には、長くて硬い小骨が無数にと言っていいほど多く存在し、この小骨を細かく刻まないと食用には適さない。今あやめが行っているのは「骨切り」と云われるこの作業であった。
 ハモ包丁と呼ばれる大型で肉厚の包丁を用い、腹開きに三枚に下ろしたハモを、体軸方向と直角に、ハモ包丁の先端から付け根近くまでを大きく使い、細かく刻んでいく。1ミリと少しほどの間隔で包丁を入れることができて一人前のハモ料理人とされる。それほど細かい作業である。
 ただしもちろん、切断してはいけない。身のみに刻みを入れ、裏側の皮ぎりぎりで包丁を止める。この加減も難しい。弱気になって中途半端に包丁を入れると、骨が残ってしまうからだ。

 ハモは京の夏の風物詩である。

 大阪でも夏はハモ。六月下旬から七月二十五日にかけ、ほぼ一か月に渡って行われる天神祭。この頃、大阪の料理屋はハモ一色になる。
 京都でも、七月いっぱいにかけて行われる祇園祭の頃が、ハモ料理の最盛期である。今日は八月十六日、「五山の送り火」の夜である。京都市内の料亭、特に鴨川べりの店は、東山の「大文字」見物の客でごった返していた。
 ハモの注文もひっきりなしである。祇園の「花よ志」では、あやめだけでなく立板の源蔵も、碗方の銀二も、ハモ料理に専念していた。

 骨切りを終えたあやめは、ハモの身を数センチの長さに切り分け、小鍋に沸かした湯の中に入れた。ハモ料理の基本は、この茹でる作業にある。これを「湯引き」というが、茹で時間の見極めが難しい。短くても長くても、ハモ本来の旨味を引き出せなくなる。特に茹ですぎると、湯の中に鱧の旨味が逃げてしまい、到底食べるに値しないものになってしまう。

 あやめは、鍋の中を見詰めながら、引き上げるタイミングを計った。もちろん、時計などは使わないが目安は数十秒だろうか。ハモの身が、皮を中にして丸くなる。骨切りした身の刻み目が開き、花が咲いたようになる。
 火を止める。鍋を下ろし、流しの上で一気に中身をザルに空ける。手早く、用意しておいた、氷水を張ったボールの中にハモを入れ、冷やす。これも時間が大事である。十数秒というところであろうか、短くても長くてもいけない。
 ボールから引き上げたハモをキッチンペーパーでくるみ、水分を取る。

 これで下ごしらえは終わりだ。
 ハモを腹開きにした後、骨切りから始まる一連の作業は、いずれも神経を使うものである。これらの作業のどこで失敗しても、到底評価に値しない料理になってしまう。たとえここから先、どのような味付けをしようとも、だ。

 あやめは、ふっと緊張感が薄れる自分を感じたが、まだ料理は完成していない。改めて気を引き締め、板場内にちらと目を遣った。
 源蔵は、オーソドックスに梅肉、それと辛子酢味噌で味付けするようである。碗方の銀二はもちろん、椀物にするだろう。
 あやめは、ハモの身に塩をまぶした。皿に盛り、パセリ、セージ、ローズマリー、タイムを刻んでハモの上に散らす。胡椒を振り、エキストラバージンオリーブオイルを振り掛け、和えた。

(よし、でけた)
(しやけどこれ、ちょっとやり過ぎかなあ)
(これやと、まるっきりイタリア料理やもんなあ)
(ま、たまには搦め手もええやろ)

 あやめは、ハモの皿を料理の渡し口に運んだ。待機していたのは久美だった。

「これ、お願いします」
「ほいよ」

 皿を受け取りざま、久美の手があやめの手の甲を軽く擦った。顔を上げたあやめと、久美の視線が、一瞬絡み合う。それだけで二人の意思は通じた。

(相変わらず美味しそうやねえ、あやめ)
(おおきに久美、頑張ってな)

 久美は、皿を乗せた盆を捧げ、廊下を遠ざかって行く。あやめは調理台に戻り、次の作業に取り掛かった。


「おう、ど新入り」

 久美があやめのハモ料理を運んで行って30分も経ったろうか。「花よ志」の立て板、関目源蔵が声を上げた。

「へえ、兄さん」

 板場の隅で作業をしていたあやめが返事した。

「またおまんに、座敷に顏出せ、言うこっちゃ。ほんまにこのくそ忙しい時に、たいがいにせえ、言いたなるけんどな」
「へえ、すんまへん、兄さん」
「おまんに謝ってもろてもしゃあないわ。さっさと行(い)てこい」
「へえ」

 あやめは前掛けを外し、あたふたと板場から廊下に上がる。上り口には仲居頭のお道が待っていた。二階の座敷への階段を上がっていくお道の後について、あやめも階段を上った。お道は何も言わないが、道案内をするように二階の座敷の一つの前で立ち止まった。廊下に膝を突き、室内に声を掛ける。

「連れて参じました」

 座敷の中から声がする。

「おう、入れ」

 お道は襖の取っ手に手を掛けた。
 あやめは慌てて、板張りの廊下に膝を突き、お道が開く襖の前に手を突き、平伏した。

「おう、はいれ、入れ」

 声だけで正体が知れた。宝田だ。粗略にできる客ではない。あやめは、更に深く頭を下げた。

「ようこそ、お越しくださいました、宝田はん」
「何しとんねん。今更そないに畏まることないわ。はいれ、入れ。入らんかい、あやめ」
「へえ、失礼いたします」

 あやめは、頭を下げたまま、座敷に躙り入った。
 畳に両手を突いたまま、更に深く頭を下げる。

「ようこそお越しいただきまして、有難とさんでございます」
「ええから顔上げ」
「へえ」

 あやめは、畳に両手を突いたまま、顏を上げた。正面の宝田を見やる。その左右に女性。向かって左は女将の志摩子。和装である。
 宝田の右には、やはり和服姿の若い女性がいた。目を遣る。思わず声が出た。

「あ」

 女性も、あやめを一瞥した瞬間、声を放った。

「あ」

 宝田が、二人を交互に見やった後、声を掛けた。

「何や、知り合いかいな、おまんら」

 あやめと、宝田の右の若い女性は、同時に声を上げた。

「へえ」
「へえ」

 あの、久美と入った、四条烏丸の近くの、喫茶店のウェイトレスだった。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #55】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #57】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2014/03/25 10:06
    • 何を今さらと言われそうです。
      ハモ、ハモの骨切り。
      それでも、京の夏の話題には欠かせませんでしょう、ハモ。
      源蔵の作るように、湯引きしたハモを梅肉・辛子酢味噌でおあがりいただくのが普通でしょう。
      銀二の作るハモの碗物も美味しそうでございます。
      (「美味しうございました」は円谷幸吉)
      それに比べてあやめの「ハモとハーブのオリーブオイル和え」
      これはどない考えても“やり過ぎ”ですね。
      ま、宝田親子、おっと、宝田伯父と、明子姪には気に入っていただけたようですが……。
      宝田明子は、あの喫茶店のウェイトレス。
      この設定は企みどうりどす。
      どうぞよろしゅうに。
      で、今回あやめが用いたハーブ。
      パセリ、セージ、ローズマリー、タイムですが、何ぼなんでも多すぎ、用いるとしても、通常は2種類くらいでしょう。
      実はこれ、ご存知サイモン&ガーファンクルの『スカボロー・フェア』の歌詞中に出てくるんですね。ついつい、懐かしさに引用しちゃいました。
      Scarborough Fair
      Are you going to Scarborough Fair?
      Parsley, sage, rosemary and thyme,
      Remember me to one who lives there,
      For she once was a true love of mine.

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2014/03/25 19:38
    •  一度も食べたことありません。
       新潟では、たぶん食べることができないのでしょう。
       魚は仕入れられても、骨切りの出来る板前さんがいないでしょうから。
       ハーブ。
       これまた、わが家では、食卓に出て来ません。
       香りの強い草は苦手です(雑草臭い!)。
       山菜も、ほとんど食べませんし。
       造園会社に勤める叔父から聞いた話。
       ある公園で、ハーブの花壇を作りました。
       夏になり、草ぼうぼうになったので……。
       農家のオバちゃんに草取りを頼みました。
       仕上がりを見に行って、仰天したそうです。
       花壇には草1本残っておらず、更地になってたそうです。
       農家のオバちゃんには、ハーブは雑草にしか見えなかったんですね。
       そんな所です。
       新潟って。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2014/03/25 20:15
    • 骨切りが出来ない新潟。
      ふーむ。
      ま、そないに美味い魚でもおまへん、ハモ。
      淡泊な味ですからねえ。
      ほれでもやはり、夏はハモ。
      ハーブ。
      雑草って……。
      山菜は、ワラビ、ゼンマイ、ウド、セリなどでしょうか。あ、タケノコもありますね。
      おっと、「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草」。いわゆる、春の七草ですね。
      山菜。
      学生時代はよく食べましたが、近ごろはさっぱりです。ワラビ、ゼンマイくらいはスーパーに売ってるんですけどね。
      あれまあ。
      新潟のおばちゃん。
      ふうむ。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2014/03/26 07:41
    •  山野草なんてのも、雑草にしか思えませんね。
       あんな鉢を、金出して買う人の気が知れん。
       山菜好きの人には、これからの新潟は楽しいところでしょう。
       でも、冬眠明けの熊には要注意。
       子熊を連れ、お腹を空かせてます。
       ↓新潟のホームセンターでは、熊よけの鈴が並びます。
      http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20140326063328b5a.jpg

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2014/03/26 11:53
    • 野草は雑草。
      あやめに、野草料理をさせようと思てるんですけどね。
      クマよけの鈴。
      さすが新潟ですなあ。
      こちらのホームセンターに並ぶことはありません。
      買うとしたら山用品店ですね。
      わたしは二つ持っています。
      おかげで、クマに出くわしたことはありません。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2014/03/26 20:56
    •  クマは食べないそうです。

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2014/03/26 22:04
    • んじゃ、いらんじゃねえかよ、鈴。
      鈴の音を聞いた熊は、自分から逃げていくそうです。

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2014/03/27 07:33
    •  熊の首に鈴を付けたら、どうなるのじゃ?
       熊は、どこまでも逃げ続けて、ついにパッタリと倒れる。
       そこを仕留めて、熊の胆を取る。
       実に楽な猟ではないか。
       問題は、誰が熊の首に鈴を付けるかだが。

    • ––––––
      9. ハーレクイン
    • 2014/03/27 14:47
    • やはり猫だよね。
      「だれがネコの首に鈴をつけるか」という会議をネズミがやったんだよね。

    • ––––––
      10. ハーレクイン
    • 2014/03/27 18:12
    • しゃっくりが止まりません。
      しかも二連発連続。
      誰か助けてくれ。

    • ––––––
      11. Mikiko
    • 2014/03/27 19:53
    •  ↓こんな方法はいかが?
      http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n20998
       それでも止まらなければ……。
       心臓を止めれば、必ず止まると思います。

    • ––––––
      12. ハーレクイン
    • 2014/03/27 20:37
    • なんとしても止まりません、しゃっくり。
      やはり、心臓を止めるしかないのでしょうか。
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