Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #49
コメント一覧へジャンプ    コメント投稿へジャンプ
戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式) アイリスの匣 #49



「おう、女将。聞いたで」

 祇園きっての呉服商「宝月」の主、宝田晋(すすむ)は盃を片手に、座敷に侍る「花よ志」の女将、志摩子に声を掛けた。

「なんでっか、旦さん」
「とぼけるんやないわ。あの、鞍馬の、女子高生料理人。今この店におるそやないか。なんで披露せんのや」
「はあ、確かにおりまっけど、まだ追い回しでんがな旦さん。披露もなんも……」
「追い回しぃ!? アホなこと言いな。あんだけの腕の料理人、なんちゅうもったいない事すんねん」
「旦さん。何年前の話しておいやすな。鞍馬におった頃はいざ知らず、その後何年も板場を離れてた子ぉでっせ。一からやり直しでんがな」
「板場離れてたて、何しとったんや」
「学生やと聞いとりま」
「学生? 大学生かい!?」
「へえ」
「ほれで卒業して、今また板場かい!?」
「へえ」
「おもろい! ほら、おもろい! 女将! なんで使わんのや、もったいないやないか、追い回しなんぞ」
「ほない言わはっても、旦さん」
「ええい。ほれやったら、儂が見たる。腕、見たるわ。作らせ。なんぞ作らせ。なんでもええわ」

 宝田晋(すすむ)は、駄々っ子のように志摩子に命じた。
 志摩子は、腹を決めた。手を叩いて、仲居頭のお道を呼ぶ。

「お道」
「へえ」
「板場へ行(い)てな。あやめになんぞ一品作らせ。刺身でも碗物でも、何でもええわ」
「へ!? あやめにでっか。おかみはん」
「そない言うとるやろが。さっさとせえ!」
「へ! へえ!!」

 お道は、あたふたと座敷を出て行った。
 志摩子は、宝田に酌をしながら問いかける。

「ほれにしても旦さん。どっからあやめのこと、聞かはりましたん?」
「どっからもこっからも、今、祇園界隈の旦那衆の間では評判やがな。伝説の女子高生料理人、今、祇園にあり、てな」
「はあーぁ、ほないでっかいな」

 志摩子は思案した。
 先のことはともかく、こうなれば、今が今あやめを押えるのは難しかろう。
 なら……。とりあえずこれで一儲けさせてもらおか。


「板はん! 源蔵はん!」

 お道は、板場の端に立って、立板の源蔵を呼んだ。

「なんや、お道はん」
「あやめ、あやめになんぞ一品作らせとくんなはれ」
「なんじゃ、それ?」
「いやあ、うちもようわからんねやけど、お客はんの要望らしいわ。ほんで、女将さんがそないせえ、言わはって」
「ふん。わかった」
「頼んます。急がせとくんなはれ。ここで待ってますよって」

 京都祇園の料亭「花よ志」。立板の関目源蔵は、板場内に声を張り上げた。

「おう、ど新入り! どこじゃい」

 あやめは洗い物の手を止め、即座に返答した。

「へえ、兄さん。ここどす」

 源蔵は、あやめに一瞥を与えた後、命じた。

「なんでもええ、今すぐなんぞ一品つくれ。材料は、今あるもん、何、使(つこ)てもええ。急げよ」
「へ、へえ!」

 板場に緊張感が走った。
 碗方の銀二の目があやめを捉える。が、何も言わない。
 焼方の良雄は、あやめに声を掛けた。

「ひええええ。いよいよ出番でんなあ、あやめちゃん。でや、何作んねん。手伝(てった)うで」

 源蔵が一喝した。

「かまうな! 良雄!!」
「へっ」

 あやめは、いきなりの事態に戸惑いながらも、身体と心は、料理人としての臨戦態勢に入った。何を躊躇うこともない。これまでの待機時間が長すぎたのだ。
 板場に今あるすべての食材は頭に入っている。時間は掛けられない。瞬時にあやめは判断した。
 冷蔵庫を開ける。中段の隅に、使い残しの蛸の足がある。取り出す。
 良雄が思わず声を上げた。

「えー、タコって、あやめちゃん。もっとええもん、なんぼでもあるやん」

 焼方・平野良雄は、悲鳴のような声を上げた。
 源蔵が一喝する。

「かまうな言うとるやろ! 良雄!!」
「へえっ」

 タコの足を取り上げたあやめは、愛用の刺身包丁を手にした。ここ半年、砥石に触れるほか、なんの食材に接することもなかった包丁は、まるで自ら意思を持つかのように光を照り返した。
 あやめは、左手に持ったタコの足を、右手の包丁で捌いていく。単に切るのではない。剥き、回し、削り、開き、刻み……。ほんの数分後には、タコは蛸には見えなくなっていた。

「お道さん、ほなこれ、お願いします」

 仲居頭のお道は、もちろん自ら調理することはない。だが、長年料理を運んできた経験から、その一品の見事さに打たれた。体が動かない。

(これは……刺身のようやけど、いったい……)

 お道には、その食材の見当がつかなかった。まじまじと盆の上の料理に見入る。

(これ……何やろ)

「何してまんねん、お道はん。急いでんのんちゃいまんのか」

 叱咤する源蔵の言葉に、お道は弾かれたように動いた。

「あ、ほ、ほな。持(も)て行きますわ」

 盆の上にあやめの一品を乗せ、あたふたとお道は板場を遠ざかっていった。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #48】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #50】

コメント一覧
コメント投稿へジャンプ    ページトップへ

    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2014/02/04 10:39
    •  小ネズミ、平野良雄でなくても、思わず声を掛けたくなります。
      「待ってました、あやめ姐さん!」というところでしょうか。
       それにしても、あやめさんの高校生の頃の料理は、祇園の食通旦那を唸らせるほどのものだったんですねえ。つくづく凄いお方です、あやめさん。
       しかし心配なのは、志摩子女将の言うように、長年板場を離れていたあやめさんの現在の腕。鞍馬の「かわふ路」の新米、幸介君はえらく感心してくれましたがさあ、なんかうるさそうな食通旦那、宝田のおっさんを感心させることができるでしょうか。気の揉めるところではあります。
       今回のあやめさんの料理「タコの足の刺身」です。これだけ聞けば“なんやしょうもない”、というところですが、とんでもない。ただ切っただけではないのですね。御説明しづらいのですがまあ“タコの足の桂剥き”とでも申しましょうか。いやいや、そんなものでもありません。なんせあやめさんの柳葉(刺身)包丁は、タコの足を「剥き、回し、削り、開き、刻」んでいくわけですから……。で、タコはついにタコとはわからなくなる、と。
       ま、これは少しおおげさですがね。
       白状しちゃいましょう。この料理、もちろんわたしの創作ではありません。テレビの料理番組で見たんです。
       で、今回分を書くに当たり、もう一度見ておこうと思って探しました。わたしは録画した映像は「料理」とか「鉄道」とか「映画」とか、内容別のファイルに分けて整理してあります。ですから、間違ってゴミ箱に放り込んだということは、まあありえない。ところが、いくら探しても件の番組が見つからない。
       ええい、またかい。
       よくあるんですよ、近ごろ。いつの間にか保存しておいた映像が消えている。どないなってんねん、です。
       ま、タコ料理は印象が強かったので、何とか記憶を基に書くことが出来ましたが……。もう少し丁寧に書きたかったなあ。
       それはともかく、次回は、妙な言い方ですが「あやめvs.宝田の料理対決」。軍配はどちらに。
       乞う、ご期待!

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2014/02/04 19:41
    •  俄然、面白くなりましたね。
       『包丁人味平』の絵が浮かぶようです。
       いっそ、エロシーンなんて無しにしたら?
       この調子で書いてけば、原稿の買い手が現れるかも知れませんよ。
       『女包丁人あやめ』。
       いいじゃないですか。
       京都取材、楽しみですね。
       お酒ばっかり飲んでないで、ちゃんと料理も研究して来てください。
       ↓生ダコの皮の剥き方がありました。
      http://temaeitamae.2-d.jp/top/t5/f/handled.octopus-3.html
       わたしには、ぜったいに出来ません。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2014/02/04 21:28
    • いやー、お褒め頂きありがとうございます。
      めったに褒めてもらえんもんなー。
      わたしも書いていて、あやめさんの包丁に同調するように筆が進みました。料理って、楽しいですね。
      でもこれは、これまで虐げられてきたあやめさんの苦闘の、反動なのかもしれません。揺り戻しが来ないことを祈るばかりです。
      エロシーン無し。
      んなら、金沢編を含め、これまでの多くのシーンを切り捨てることになります。それはでけんよ。
      物語には必ず影と光、陰と陽、裏と表があります。楽しいばかりの物語なんて、退屈なだけだろ。
      それに、『匣』を開けにゃならんのだし。
      タコの皮の剥き方画像。
      わたしは、イボは使いたくないなあ。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2014/02/05 07:56
    •  退屈なわけおへん。
       あやめさんの活躍、楽しみにしてます。
       ↓イボが楽しい、こんなお寿司がありました。
      http://blog-imgs-62.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201402050636032bc.jpg
       ↓蛸で有名な明石にあるお店です。
      http://www.kobekko-gohan.jp/2008/09/89.html

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2014/02/05 10:32
    • これはパスですが、突き出しに出てきた一品。
      これは見事ですね。
      『アイリス』にパクらせてもらうか。
      他の握りも美味そう。
      明石のKIRINさん、でいいのかな。
      お見事でした。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2014/02/05 20:05
    •  『鱧の湯引きと赤ウニ』でっか?
       わたしは、ウニがイマイチですねー。
       ウニだけ摘んで除けたら、怒られるかね?
       高槻から明石なら、快速で1時間かからないじゃないですか。
       行ってみなはれ。
       ↓お店の情報は、こちら。
      http://tuer.jp/kilin/

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2014/02/05 21:30
    • よくわかるねえ「鱧の湯引きと赤ウニ」。
      実はわたしもウニはパス、なんですよ。
      どこが美味いのかさっぱりわからん。
      『アイリス』でウニを出す羽目になったら、あやめさんにどう調理させるかなあ。
      「不味いウニというのはまがい物で、ほんとに不味い。本物はとろけるように美味いのだ」、なあんて仰る向きもありますが。
      ま、自分の舌に合わないものを、無理に食べることもありませんわな。
      ははあ、希凛さんはやはり「きりん」か。
      明石の寿司激戦区「魚の棚商店街」の一店だそうです。
      「明石海峡の荒波に揉まれた……新鮮な魚介類」を楽しんでいただく、と。
      ♪明石海峡冬景色ぃ~

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2014/02/06 07:41
    •  昔々、ある武将が、馬に乗って明石にさしかかりました。
       海沿いの街道です。
       突然、馬が棹立ちになったそうです。
       ようやく宥めて、前方を見ると……。
       街道を、何かが横切ってます。
       蛸でした。
       這ってたのではありません。
       脚で起ちあがり、大手を振って歩いてたそうです。
       明石海峡の激流に揉まれて育つ蛸は、脚が太短く、足腰が異常に強いのだとか。
       「明石の蛸は立って歩く」。
       有名な俚諺です。

    • ––––––
      9. ハーレクイン
    • 2014/02/06 11:35
    • また、よけいなウンチクを述べさせていただきますと、いわゆるタコの「脚」は、実はわれわれ脊椎動物や、また昆虫類でいう足(肢・脚)とは異なるんですね。
      タコやイカなど軟体動物のいわゆる足は「触手」、または「腕」といいます。彼らは、逆立ちして腕で歩いているんですね。

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2014/02/06 20:19
    •  お腹なんですよね。
       そう言えば、ワールドカップを予想した蛸がいましたが……。
       蛸は短命で、ワールドカップは、1度しか見れないそうです。

    • ––––––
      11. ハーレクイン
    • 2014/02/06 22:00
    • ははあ、この表現はなかなかよろしなあ。
      “寿命は2~3年”なんて当たり前の言い方より、ずっと心に染みます。
      謹んで、座布団1枚!

    • ––––––
      12. Mikiko
    • 2014/02/07 07:55
    •  あの巨大なダイオウイカも、寿命は3年程度だそうです。
       たった3年で、15メートルになるってことですよね。

    • ––––––
      13. ハーレクイン
    • 2014/02/07 11:03
    • 人間は18年で1.8メートル。
      こないだ、日本海で全長8メートルのダイオウイカが捕獲されましたね。残念ながら死んでいたそうですが。
      鳥取県だったかな。
    コメントする   【センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #49】
コメント一覧へジャンプ    ページトップへ


Comment:本文 絵文字  ※入力できるのは、全角で800字までです。

↓お帰りのさいには↓
愛のワンクリ お願いします
新しいウィンドウは開きません

相互リンクサイトのみなさま(Ⅰ)
問答無用の吸血鬼R18 新・SM小説書庫2 Japanese-wifeblog 愛と官能の美学
知佳の美貌録 未知の星 熟女と人妻エロンガ 赤星直也のエロ小説
[官能小説] 熟女の園 電脳女学園 官能文書わーるど 只野課長の調教日記
ちょっとHな小説 都会の鳥 人妻の浮気話 艶みるく 西園寺京太郎のSM官能小説

相互リンクサイトのみなさま(Ⅱ)
熟女・おばさんの性体験談 黒い教室 人に言えない秘密の性愛話 Playing Archives
被虐願望 女性のための官能小説 性転換・TS・女体化劇場 性小説 潤文学ブログ
羞恥の風 女の陰影 女性のH体験告白集 変態小説
むね☆きゅんファンサイト 週刊リビドー かおるの体験・妄想 ぺたの横書き
あおいつぼみ 葵蕾 最低のオリ 魔法の鍵 Mikiko's Roomの仮設テント
恥ずかしがりたがり。 官能的なエロ小説 濠門長恭の過激SM小説 淫芯

相互リンクサイトのみなさま(Ⅲ)
お姫様倶楽部.com 被支配中毒 出羽健書蔵庫 かめべや
HAKASEの第二読み物ブログ 女教師と遊ぼう 平成な美少女ライトノベル 官能の本棚
禁断の体験 エッチな告白集 おとなの淫文ファイル エッチのあとさき 恥と屈辱の交差点 潤文学
ましゅまろくらぶ 空想地帯 恍惚團 ~ドライ・オーガズムの深淵~ Angel Pussy 週刊創作官能小説
ろま中男3 渡硝子の性感快楽駆け込み寺 漂浪の果てに アダルト検索一発サーチ

快感小説 SM・お仕置き小説ブログ 官能秘宝園 制服美少女快楽地獄
秘密のエッチ体験談まとめ 18's Summer 淫鬼の棲む地下室 被虐のハイパーヒロインズ
ひめ魅、ゴコロ。 おしっこ我慢NAVI 妄想ココット ライトHノベルの部屋
レズ画像・きれいな画像倉庫 riccia 調教倶楽部 ちょっとHなおとなのための…
緊縛新聞 Eros'Entertainment オシッコオモラシオムツシーン収集所 エピソードセックス
マルガリテの部屋 アダルト官能小説快楽機姦研究所 渋谷子宮 RE:BIRTH 羞恥集
黒塚工房 プライド 女性作家専門官能小説 官能小説 レイプ嗜好
人妻!人妻!人妻! wombatの官能小説 黒イ都 羊頭狗肉
ひよこの家 美里のオナニー日記 エロショッカー軍団 相互リンク、募集してます!
★相互リンク募集中!(メールしてね)★

ランキング/画像・動画(1~10)
シンプルアダルト動画サーチ 人気ブログランキング
にほんブログ村 ライブドアブログ
官能小説アンテナ エログちゃんねる
官能文章アンテナ アダルトブログランキング


ランキング/画像・動画(11~30)
GL Search Adult Novels Search オンライン小説検索・R小説の栞 おたりんく








<ランキング/画像・動画(31~50)ここまで-->
△Top