Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #41
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式) アイリスの匣 #41



 あやめは、両の腕から上体、両脚、膝から踝から足先まで、その全身の隅々まで縄で縛られたように身動きできなくなった。口に猿轡を噛まされた様に、一言も声を出せない。いや、舌先すら動かせない。口中の唾液は干上がり、下顎すら痺れきったようだった。

(縄が……)
(いや、蛇だ)
(蛇が、絡みつく)
(た、助けて、誰か……)

 耳鳴りがする。
 目が霞む。
 世界が暗く反転した。
 闇の奥に引きずり込まれるようだった。
 闇の彼方から蛇の声が聞こえた。

「なんや、この頃の若いもんは挨拶一つでけんのかいのう」

 あやめは、その声に縋るように闇から抜け出た。

「あ、す、すんまへん。関目兄さん。東中あやめでございます。どうぞよろしゅうに、お頼ん申します」
「ふん。関目や。おまん(お前)なかなか腕立つそやないか」
「とんでもございません。未熟者でございます。どうぞよろしゅう御指導お願い申します」
「そないに謙遜せいでもええわ。かえって嫌味な奴(や)っちゃ。せやけどな、うちにはうちのやり方がある。この板場仕切ってんのは儂や。ここでは全部儂の指示に従う(したごう)てもらう」
「へえ」

 焼方の平野が口を挟んだ。軽い口調である。

「せや、ここの監督、ディレクターは関目の兄さん。親父(おや)っさんは、せやなあ、総合プロデューサーいうとこやな。ほんでわてら(私達)は俳優」
「アホ、そないなええもんかい。ドジばっかり踏みよって」

 碗方の田辺が平野を叱りとばした。

「そんな兄さん。この頃はちゃんとやってますやん。ほれにしても、女優さんが一人混ざると、舞台も華やかになりますなあ」
「ドアホ。こんなんのどこが女優や。太秦(うずまさ)行ってみい、もっときれいなんがそこらじゅうに転がっとるわ」
「ほらほうですやろけんど、本ま物(ほんまもん)と比べたったら可哀想でんがな」
「よーし、そんくらいにしとけ。銀二、良雄、とっとと仕込みに掛かれ」
「へい」
「ほーい」
「おう、新入り。お前はとりあえず洗い場や。手ぇ抜くんやないぞ」
「へい!」

 あやめは流しの前に立ち、山のような洗い物に取り掛かった。
 板長の野田は姿が見えない。
 初めての洗い場だがすぐに慣れた。洗い物の手順が定まると体は機械的に動くようになる。あやめは次々と洗い物を片付けながら、頭の中で蛇目の男のことを考えた。

 兄嫁潔子の浮気相手。
 間違いない。
 あの目は、死んだ魚のようなあの目は見間違えようもない。

「花よ志」の立て板、関目源蔵。
 潔子が誰と浮気しようが、あやめには関係はない。兄健三のこと、「かわふ路」のことは気になるが、それは兄の問題だ。
 気になるのは、その浮気相手がよりによってあやめの新しい奉公先、「花よ志」の板前であること。しかも立板という高い地位にあること。

(偶然だろうか)
(たまたまなんだろうか)
(いや……)
(とうてい偶然とは思えない。あまりに時宜にかないすぎる)

 あやめは、正体はわからないが、何者かの底知れない悪意のようなものを感じた。

「あっ」

 しまった、と思ったときには遅かった。あやめの手をすり抜けた半月皿が床に落ちて砕けた。
 かなり大きな音が厨房内に響き渡った。

「あーあぁ、やってもうたなあ(やってしまった)あやめちゃん」
「す、すみません」
「どれ、片付けたろ」
「あ、いえ、そんな平野兄さん。自分でやります」
「かまうな、良雄」

 床にうずくまって砕けた皿の破片を拾い集めるあやめの襟首を、立板の源蔵、蛇目の男が掴み、引きずり上げた。

「何をやっとんじゃい! 新入り」

 あやめの視界がいきなり白くなった。
 全身に衝撃が走った。
 ………………………………
 白い視界が徐々に元に戻る。
 まばゆい蛍光灯の光が目に入った。

(あれは……天井の明かり)
(床に寝ているのか、あたしは)
(気を失っていたのか)
(殴られたのか)
(殴り倒されたのか)

 あやめは口元、唇の端がずきずきと脈打つのを感じた。血が滲んでいるようだ。

(殴られたのは……生まれて初めてだ)
(ドラマや映画ではよく見るけど)
(殴られるというのは、こういうことなのか)
(立たなきゃ)

 あやめはもがき、身をよじり、床に這いつくばったのち何とか立ち上がった。

「すみませんでした、兄さん」

 源蔵はすでにあやめに背を向け、調理台に向かっている。銀二も良雄もあやめから目をそむけ、素知らぬ風で自分の作業に専念していた。

 あやめは惨めな思いを抱えて洗い物に戻った。
 苦労は覚悟の上とはいえ、いきなり殴られるとは……。
 しかも殴った相手はあの、蛇目の男。
 あやめは、先ほど感じた何者かの悪意のようなものを再び思い返したが、何もかも忘れ、洗い物に集中しようとした。




 あやめは、身体にも気持にも枷をはめられたように感じながら、今日から自分の住まいとなる仲居部屋の一室の襖を開けた。室内には布団が二組敷いてあり、その一方にお久美、田所久美が潜り込んでいた。

「遅かったなあ、あやめちゃん。初手からこき使われてるやん」
「ああ、久美さん。布団敷いてくれはったんですか。すみません」

 あやめは、のろのろと仕事着を脱ぎ捨て、これもお仕着せの浴衣を羽織って布団に入った。
 あやめの顔を見た久美が息を呑んだ。

「いやあ、あやめちゃん。どないしたん、その顔」

 あやめの顔は唇の端が切れて血が滲み、片頬が腫れ上がっていた。

「ええ、ちょっと。粗相をしてしもて」
「ははあ、やられたんやろ源蔵に。狂犬源蔵」
「狂犬?」
「せや、だれかれ構わず当たり散らすやろ。すうぐ手ぇ出すし。しかも相手が女やろうと見境なし、手加減なしやもんね。仲居は誰(だあれ)も近寄らんよ。お道さんくらいやね、相手するのは。
 ほれにあの目。どない見てもイッてるよ」
「はは」
「あやめちゃん、顏、冷やしたほうがええよ」
「だいじょうぶ」
「大丈夫やないよ。ちょっと待っとき」

 布団を捲り上げ、部屋を出た久美はすぐに戻ってきた。濡らしたハンカチを手にしている。

「ほら、これでも無いよりましやろ。氷枕でもあればええんやけどねえ」
「ううん、これで十分よ。おおきに」

 ハンカチを頬に当て薄く微笑むあやめの顔に、久美はそっと手を伸ばした。

「かわいそう、あやめちゃん」
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #40】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #42】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2013/12/10 10:09
    • そおなんですわ。
      「花よ志」の板場は「蛇目男(へびめおとこ)」の支配下なんですわ。たまたまなのか、どうなんか知りまへんけど(知ってまっけど)。
      野田の親父(おや)っさんはお飾りみたいなもんなんですねえ。
      で、あやめさんはとりあえず下働き、と……。
      大丈夫かなあ、あやめさん。
      ほんででんなあ、前回、蛇目の男、「花よ志」の立て板を「関目重郎」、「重」とご紹介しましたが、今回、どういうわけでしょうか関目「源蔵」となってしまいました。
      今後は「源蔵」で宜しくお願い申し上げます。結構、重要な登場人物です。
      「重郎」より「源蔵」の方がエラそげですね。
      今回、あやめさんが壊した半月皿。
      壊したことについては言い訳はかないませんが、ま、気ぃつけとくんなはれ、あやめはん。
      半月皿。
      手前が一直線で。向こうが円形の、まさに半円形のお皿ですね。お刺身を盛るのによう用います。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2013/12/10 19:50
    •  わたしなら、1時間も持ちませんね。
       関目源蔵。
       最後は、無惨な死にざまが見られますように。
       ↓半月皿。
      http://blog-imgs-47.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20131210171254d53.jpg
       見たことはある気もするんですが……。
       新潟では、あまり使わないんじゃないかな?
       これなら、不慣れな仲居さんでも、上下を間違えなく置けますね。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2013/12/10 21:56
    • まあそう言いはらんと、最後をお楽しみに暫くおつきあいください。
      最後の死にざま。
      ちゃんと考えてまっせ。
      半月皿。
      よろしおまっしゃろ。
      上の円が十七夜くらいになってるのもおます。
      どうぞご贔屓に。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2013/12/11 07:39
    •  ↓こういうやつでしょうか?
      http://blog-imgs-47.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20131211063220da4.jpg
       色鍋島。
       1枚で141,750円(「税込」の表示が間違ってますよ→http://www.imaemon.co.jp/monthly/200705.html)。
       落としたら、一月分の給料が吹っ飛びますね。

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2013/12/11 12:53
    • なんのこっちゃ、で考え込みましたが、
      141,750円(税込135,000円)
      これですな。
      正しくは、135,000円(税込141,750円)ですね。
      計算は合ってるんだけどね。
      そのあたりよろしく「今右衛門」はん。
      来春から計算し直さななりまへんがな。
      あやめさんだと、二月分のお給金になるかな。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2013/12/11 19:38
    •  「税込」を「税抜」にすればいいわけです。
       割ったお皿の代金って、ほんとに給料から引かれるんでしょうか?

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2013/12/11 22:14
    • わたしが皿洗いのバイトをした大阪西区の店では、引かれませんでした。
      祇園の「花よ志」ではどうかな。
      なんせ場所が場所だけに器もええもん使(つこ)てるやろから、給料から引かれたら無くなってしまうことも考えられますね。それでなくても、割るたんびに殴られていたら身がもてへんし。
      注意しましょう、あやめさん。

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2013/12/12 07:18
    •  コンクリートなんでしょうか?
       掃除するには、それが一番楽でしょうけど。
       昔は、文字通り板敷きだったんでしょうね。
       今なら、ラバーとかにすればいいのに。

    • ––––––
      9. ハーレクイン
    • 2013/12/12 08:58
    • コンクリートです。
      掃除とかでしょっちゅう水を流しますので、コンクリが最適。
      その日の最後の床掃除は、ゴムホースで景気よく水を流しながら、デッキブラシで擦り倒します。ま、これは下っ端の仕事。あと、下っ端はゴミ出しもします。
      板さんは、食材の整理をします。冷蔵庫整理が主で、翌日の仕入れなんかも考えながら、もう使えないものは廃棄していきます。
      寿司屋なんかだと、カウンターにあるガラス製のショーケース。あの中身をすべて出して大型冷蔵庫に移します。もちろん、使えないものは廃棄処分。で、ケースが空になると、清潔な布で内側を綺麗に拭きあげていきます。俎板も水を流して洗い清め、拭きあげます。
      丁寧ですよ、板さんの掃除。このあたりの気遣いは「さすがプロ」と思わせてくれます。ガサツな仲居さんの掃除よりも、よっぽど細やかな仕事ですね。
      如何に狂犬とはいえ仮にも立板、関目源蔵。このあたりの清掃作業はきちんとやるでしょう
      床はいつも水で濡れていますから、歩くときは慎重に。
      洋食や中華の厨房では、足元はゴム長でしょうが、和食では裸足に高下駄が多いですね。
      あのスタイルはカッコつけではなく、濡れた床に対応するという実用なんですね。ただ、板さんのシンボルではあります、高下駄。

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2013/12/12 20:35
    •  どちらも、適切な履き物とは思えませんけどね。
       一番適してるのは、編み上げの安全靴じゃないでしょうか。
       でもこれだと、座敷に上がるときに面倒ですね。

    • ––––––
      11. ハーレクイン
    • 2013/12/12 21:54
    • やはり粋を尊ぶ仕事ですからね、ゴム長はともかく安全靴はねえ。いただけませんな。
      >座敷に上がるときに面倒
      その通りですね。座敷の客に挨拶に出たりしますからね。そんなにしょっちゅうではないですけど。

    • ––––––
      12. Mikiko
    • 2013/12/13 07:41
    •  濡れた床に素足じゃ、かなり寒いんじゃないでしょうか?
       新潟には、ロードヒーティングと云って、熱線が埋めこまれた歩道があります。
       ま、幹線道だけですけど。
       真冬でも、その歩道には雪が積りません。
       板場のコンクリートも、こうすればいいんじゃないかな?
       流した水も、すぐに乾くでしょうし。

    • ––––––
      13. ハーレクイン
    • 2013/12/13 09:37
    • 寒いでしょうね、冬の高下駄。
      ま、それを我慢するのが粋ってものでしょう。
      板場にロードヒーティングって……。
      そんな無駄!な経費をかける料理屋はないと思うぞ。そもそも火を使う職場なんだし。
      ま、足元は寒いでしょうが。

    • ––––––
      14. Mikiko
    • 2013/12/13 19:42
    •  温泉を床下に引けないかね?
       板場の足元が温かいということは、ほかの店との差別化になると思う。
       いい人材を確保できるんでないの?
       冬場の冷えに悩むベテランは、少なくないんじゃないかな。

    • ––––––
      15. ハーレクイン
    • 2013/12/13 21:52
    • オンドルの方が手軽なんじゃないかね。
      確かに、冬の板場の高下駄は、野田の親父っさんのようなベテランにはつらいだろうね。
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