Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #33
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式) アイリスの匣 #33



「あやめちゃん! いやあ、あやめちゃんやないの。いつ、もんて来たん!?(いつ、戻ってきたの!?)」

 鞍馬駅前の通りを歩むあやめに、一軒のみやげ物屋の店先から声が掛かった。「くらま」という分かりやすい屋号である。

「ちょっと、入りよし」
「こんにちは、お久しぶりです。兄が待ってますんで……」
「なに言うてんのん。久しぶりに会うたに。ちょっとくらいかめへんやん。お茶くらい飲んでき。はいり、入りて」

 抱きつかれ、抱え込まれ、半ば無理やり店内に引きずり込まれたあやめは、押し込むように肩を押えられ、丸椅子に座らされた。
 懐かしい店内の様子を眺めまわす。菓子の包みや、雑多な土産物などが所狭しと並べられている。天狗のお面、牛若丸の可愛い人形、独楽、組み紐、鞍馬山の写真……。天井にも壁にも、凧や壁飾りなど色とりどりの商品が掛けられている。
 どこにもある、観光地のみやげ物屋の風景だった。
 この店内や店先で、ころげ回るように遊んだ幼い頃の思い出が一気によみがえった。

「ほれ、お茶。ほれにしても何年ぶりやろかねえ」
「すみませえん。おばちゃん、変われへんねえ、お店」
「ほらほや、変わるかいな。五年たっても十年たっても、店は店、鞍馬は鞍馬や」

 あやめを捕まえたのは、幼いころからあやめを可愛がってくれたみやげ物屋「くらま」の女将、藤子である。四年前に鞍馬を離れて旅立つあやめを、涙交じりに見送ってくれた。
 あやめの向かいにでんと腰を下ろす。

「ほんまに久しぶりやねえ。いっこも顏出さんと」
「すみません、もう四年になります。御無沙汰してました」

 頭を下げるあやめの右手を、女将は小さなテーブル越しに取り、両手で何度も撫で擦る。

「ええねん、ええねん。大学、もう卒業やろ。もんてきたんやさかいなあ、あやめちゃん。これで『かわふ路』さんも安泰や。兄ちゃんも喜んではるやろ」

 「かわふ路」は、あやめの実家の屋号である。鞍馬駅からは歩いて10分ほどの至近距離にある。地元では老舗の料亭であるが、ここ数年、客足は落ちていると、それとなく兄から聞いていた。

「ええ、いえ、あの……」
「なんやのん。また、兄ちゃんと店やるんやろ。あんたの腕やったら、あっちゅう間に客増えるがな。鞍馬も賑わうし、うちらもおおきに、いうことになるわなあ」
「いえ、あの……」
「なんやのん、どないしたん、はっきりしよし」
「ええ、あの……今度もんてきたんは、別の店に修行に出よ、思て……」
「修業! 何であんたが今更。ほの腕で十分以上にやってけるやん。大体があんた、高校のころから厨房の中心やったやないの。鞍馬では誰でん知ってるこっちゃ」
「そんな、うちなんかまだまだどす」
「うーん。まあ、あんたはそういう子やけど。ほんでもなあ、苦労しとるで、兄ちゃん。あんたが厨房に入ったら、絶対客増えるし、店も持ち直すがな」
「お店、そないに大変なんどすか」
「はいな。前の板長の相良はん。体いわしてもうてやめたやろ。まあ、もうたいがい歳やったしなあ。ほんで、下の子ぉが居つかいでなあ。何人も入ってはやめ、入ってはやめ……。別に兄ちゃんがこき使うとか、虐めるとか、待遇悪いとか、そないなこともないのになあ。
 今はえーと、なんちゅうたかいな、幸治か、幸介とかいうたかいな。これがまた使いもんにならんみたいでなあ。今、厨房はほとんど兄ちゃん一人でやってるみたいやで」
「兄ちゃん、そないなこと、なんもうちに言わんし。板長はんがやめたんも聞き始めどす。知らんかった」

 あやめは、藤子の話を聞きながら、ここ数年、あまりに店のことに無関心だった自分を省みた。

 兄ちゃん……

「なあ、あやめちゃん。こんなん聞いたらあかんねやろけど、ほんでも気になってしゃあないから聞くんやけど、兄ちゃんの嫁さんて、どないなん?」
「どないて、おばちゃん……」
「ほら、人様のうち内のことや。ほないなこと聞くもんやない、くらいの分別はうちらかてある。
 ほんでもな、あやめちゃん。うち、あんたを他人とは思てへん。あんたがどない思おうと、うちにとってあんたは娘どうぜんや。かわいいて可愛いてたまらん。ほんなあんたの家のこと、気になるやん」
「おおきに、おおきにおばちゃん。うちかておばちゃんはお母ちゃんやと思てる」
「ほうか。ほうか、あやめちゃん。そない言うてくれるんやったらはっきり聞くけど。あの、兄ちゃんの嫁さん、潔子はんやったかいな。どないやのん、あのお人は」
「どないって、おばちゃん……」
「店の女将やのに近所づきあいはせえへんし、お運びどころか、店の仕事ろくろくせえへんいう噂やで。座敷に挨拶に出るんは、じぶんの気に入った客の座敷だけやとか。気にいったいうんは、若うてハンサムな男、いうことやけど」
「おばちゃん……」
「あんたが店出て大学に行ったんも、あの潔子はんとあえへんかったからや、いうのんはこの界隈のだあれでも承知してることやがな。『潔子はんがあやめちゃんを追い出した』てな」
「やめてえや、おばちゃん。仮にも兄ちゃんのお嫁さんや。そないなこと、うちから言えるわけないやん」
「ああ、ごめん、ごめんやで。せやなあ、あんたはそういう子ぉや。ほんでもなあ『かわふ路』はんは鞍馬きっての老舗や。うちら、心配でなあ」
「おばちゃん……」


 あやめは、「くらま」の藤子から聞いた話で少し暗い気持ちを抱えながら、実家の料亭の門前に立った
 門脇の柱には「かわふ路」の表札。
 何も変わっていない。あやめは門をくぐり敷石を踏んで玄関の前まで進み、改めて建物を見やった。柱の一本、瓦の一枚まで昔のままだった。
 まさか玄関から入るわけにはいかない。それなりに大きな構えの建物の脇を回り込み、あやめは裏庭に回った。
 裏庭には、けっこう大きな物置がある。その脇に、茱萸(ぐみ)の木。

 ああ、まだあるんや。

 懐かしさに駆け寄ろうとするあやめは、足を止めた。茱萸の木の脇に人影がある。二人。男と女だ。女はこちらに背を、男は顔を向けている。知らない顔だ。
 女はよく見れば兄嫁の潔子だ。
 男女は抱き合っている。女の両腕は見えない。男の背に回されているのか。男の両腕は、女をしっかり抱え込んでいた。
 二人は口を合わせているようである。あやめは凍りついた。指一本動かせない。両足は、地面に縫い付けられたようだった。
 男の手が女の尻に回り、スカートをたくし上げた。女のショーツが剥き出しになる。色は黒、尻のふくらみが半分ほど剥き出しになっている。男の手が、ショーツの上から女の尻を鷲掴みにした。

「はんっ」

 女が声を上げた。
 あやめの足が無意識に地を掻いたのだろうか。男が目を上げた。あやめと視線が絡み合った。
 蛇の目だった。何の感情も表さない、死んだ魚の目のようだった。あやめの視線は、蛇の目に絡め取られた。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #32】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #34】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2013/10/15 09:55
    • 今回冒頭の藤子おばちゃんのセリフ「いつ、もんて来たん」は、京都語で「いつ戻ってきたの」です。注釈を入れるつもりだったのですが、入れそこねたようです。
      藤子はん曰く「高校のころから厨房の中心やったやないの」。
      ほうか、あやめさんの料理の腕って、ほないに凄いんか。
      ほらまあ、上には板長はんがおって全体を仕切ってはったんやろけど、ほうかあ、兄ちゃんも顔負けやな。
      あ、あやめさんの兄ちゃんは、今回はまだ登場しません。
      で、問題はその兄ちゃんの嫁、潔子はん。藤子おばちゃんによるとなかなかの?人物のようですが、初登場シーンがなんと浮気の現場。いやあ、物語りを盛り上げてくれはりますなあ。黒いショーツがエロいよ。
      さらに「蛇の目」の男。
      『豹(ジャガー)の目』や『虎の目』は聞いたことありますが、
      蛇の目(Eye of Snake)!
      一体何者。あやめさんにどう絡んでくるのでしょうか。
      一気に緊迫する『アイリス』(近頃、アイリスオーヤマを連想するようになった)。それはともかく、
      次回、乞うご期待。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2013/10/15 19:34
    •  京都弁を知らない人は、ミスタイプと思うかもね。
       注釈、入れますか?
       鞍馬駅前。
       土産物屋が並んでるんですか。
       何が名物なんでしょう?
       鞍馬寺くらいしか無さそうだけど。
       あ、『くらま温泉』ってのがあるようですね。
       初めて聞く温泉ですが。
       蛇の目。
       最初、“じゃのめ”と読んでしまった。
       今回は、はっきりした映像が次々見えて……。
       2時間ドラマを見てるみたいで、とても面白かったです。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2013/10/15 20:21
    • あ、入れさしてもろてよろしおますか。
      ほなら……今回の1行目を以下のように変更お願いします。次回以後もこのような形で京都語解説が出てきます
      「……いつ、もんてきたん!?」→「……いつ、もんてきたん!?(いつ、戻ってきたの!?)」
      鞍馬駅前のみやげ物屋は二軒ありましたが、名物というほどのものはないようです。しいて言えば本文中に書きましたように、天狗と牛若丸ですね。鞍馬駅を出てすぐ脇には、人の背丈よりも高い巨大な天狗の面が飾ってあります。
      蛇の目。
      土俵話で出したばかりだからなあ。
      「へびのめ」ですね。
      お褒め頂きありがとうございます。
      自分でもどうなってんねん、ですが、一気に筆が進み鞍馬話は終了。話は祇園に移りました。ここからが苦労しそうだなあ。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2013/10/16 19:37
    •  鞍馬駅の土産物屋。
       名物も無いのに、よくやっていけますよね。
       しかも、2軒。
       同じ経営者が、2軒出してたりして。
       『古事記』や『日本書紀』に出てくる猿田彦命が、天狗の原型のようですね。
       赤ら顔で、鼻が高く、身長が七尺(210㎝)あったそうです。
       これは、明らかに白人ですよね。

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2013/10/16 20:34
    • 確認しました。
      お手数でした。
      観光地のみやげ物屋の売れ行きは、ほんとに客の出足次第だろうからなあ。夏はともかく、冬場は大変だろうね。冬の京都で鞍馬に行く人なんてあまりおらんだろうし。
      だからこそ、あやめさんに頑張ってもらって料理で客を呼ぶ……藤子おばちゃんの思惑はそういうことなんだろうね。
      鞍馬駅前の巨大天狗面。まわりの風景からは浮きまくっていますが、ああ鞍馬に来たなあ、とは実感させてくれます。
      身長210㎝は凄いよね。
      大関琴欧州が202㎝。
      琴欧州の本名はカロヤン・ステファノフ・マハリャノフ。で、愛称がカロヤン。まんまやんけ。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2013/10/17 07:33
    •  鞍馬出身なんでしょうかね?
       鞍馬天狗に扮した人が、ときどき駅前通りに出現するようにしたら、人を呼べないか?
       鞍馬天狗に斬られると悪縁が切れる、とか宣伝すればどうでしょう?

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2013/10/17 08:52
    • それはただのお話や(あやめ)
      えー、牛若丸に剣術教えたんじゃ(香奈枝)
      それはただの伝説や(あやめ)
      以上『アイリスの匣』#4より。番宣を終わります。
      チャンバラの方は、とんま天狗も有名です。
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