2013.5.28(火)
高手小手に縛られ、床に横たわった状態から立ち上がるというのはかなり困難なことである。
「香奈、立たんかいな。早よ立つんや」
あやめは見ているだけ、叱咤するだけで手を貸そうとはしない。
香奈枝はもがいた。何とか立ち上がろうと必死にもがいた。
早く立たないと、またあやめに叱られる。ぶたれる。帰れ、と言われる。
叱られ、ぶたれるのは構わない、平気だ。それは、あやめとの絆のようなものだ。
しかし「もう帰れ」と言われるのは耐えがたい。今の香奈枝にとっては身を切られるより辛いことだった。
泣きそうな思いでもがき続けた香奈枝は、何とかやり遂げた。立ち上がった。
「やっと立ったか、もたもたしよって。どんくさいやっちゃ」
部屋の中央に直立し、罵りながら、睨むように見つめてくるあやめに向かい合う香奈枝は、ふと、全裸であることに改めて気付いた。意識が、剥き出しの股間に集中する。
一気に全身が熱くなった。あやめの視線を股間に感じる。腰が引ける。両腿が知らぬまにきつく合わさり、両脚の備えが内股になる。
「なんや香奈、そのかっこは。恥ずかしいんか、いまさら」
「うん、恥ずかしい。無茶苦茶、恥ずかしい……」
「ほうか。ほな、もっと恥ずかしさしたるわ」
香奈枝は、顏を歪めた。
「いやあ、いややあ。許して」
「まだわかってへんな、香奈。奴隷に『いや』なんちゅう言葉は許されへんのやで」
「そんな……」
あやめは口調を改めた。
「『そんな』やない! おい、奴隷。奴隷女! 女王さまにいちいち口答えするんやない!」
「は、はい……女王さま」
重ねて、いや、と言おうとした言葉を香奈枝は無理やり飲み下した。
しかし、何をされるのだろう、その思いが、胃の腑に向かって落ちていくその言葉を途中で押しとどめた。
香奈枝の体内で、あやめに抗議したい思いと、その仕打ちを受け入れようとする思いがぶつかり合い、鬩ぎ合う。
香奈枝は思う。
本当に……、
先ほどあれだけあやめと絡み合い、あれだけ恥知らずな恰好を曝していながら、なぜいまさらこんなに恥ずかしいのだろう。それは……。
縛られているからだ。自由を奪われているからだ。この後、どんな恥ずかしい恰好、どんな恥ずかしい行為を強要されても、抗うことができないからだ。
縛られるというのは……こういうことなのだ。
香奈枝は、自分に言い聞かせる。
もう、今後、あやめに何を言われても、何をされても、何をさせられても、一切、抗えないのだ。あたしの人生は今後、あやめのものなのだ。それはつまり、あたしはあやめの、まさしく奴隷ということなのだ……。
奴隷、どれい、ど・れ・い。
あたしは、奴隷。
あやめ女王さまの……あたしは、どれい。
「よおし、やっとわかったようやな、奴隷女」
まるで、香奈枝の思考をそっくり読み取ったかのように、あやめが声を掛けてきた。香奈枝は返事を返す。
「はい、女王さま」
あやめは新しい縄束を取り上げた。
ほどかない。束のままの縄を右手に提げ、縄束の先でときおり軽く香奈枝の体に触れながら、ゆっくりと香奈枝の周りを回る。
「香奈。奴隷の香奈。両脚を開くんや」
「は、はい。こうですか」
香奈枝は、しっかり合わせていた両腿、膝、脹脛から踝にかけて、軽く開く。
「もっとや」
香奈枝の両脚がさらに開く。
「まだや、もっとや」
さらに開く。
「何してんねん、もっとしっかり開かんかいな。肩幅よりも広う開くんや」
あやめは、香奈枝の股間に縄束の先を押し込み、両腿の内側を押し広げるように左右に振った。
「は……は、い」
香奈枝の声が掠れ、心中の躊躇いが滲み出るが、両脚は更に大きく開いた。
「こ……こう、ですか」
あやめは、股間に差し込んだ縄束を上に持ち上げ、香奈枝の陰部を擦り上げた。
「いやあん」
「こら、逃げるんやない」
思わず腰を引く香奈枝をあやめは叱りつける。
「何や、その屁っ放り腰は」
あやめは股間から縄束を引き抜く。その縄束で、鞭打つように香奈枝の尻をしばきあげた。
「いひいいいいっ」
二度、三度、四度……縄束による鞭打ちは続いた。
「ひいっ、やっ、あはああっ」
「この、この、このお」
「やめて、やめて、くださいっ」
「腰を前に突き出せて、ゆうてるんや!」
「あ、はいっ、こう、ですか」
香奈枝は、縄の打擲から尻を逃がすように、腰を前方に突き出した。同時に、薄い陰毛に縁どられ、小高く盛り上がる陰部も付き出される。
縄束は再び香奈枝の前に戻り、陰部を擦り上げた。
「いやあーん」
再び、尻が鞭打たれる。
「ひいいいいい」
縄束による尻と陰部との往復ビンタが数度続いた後、香奈枝の腰は大きく前に突き出されたまま動かなくなった。両脚は大きく開かれ、両腕はもちろん背中で固定されている。突きだされた腰の中心には、陰毛に縁どられて盛り上がる陰部が女であることを主張していた。縦に一筋、盛り上がりを深々と割る陰裂。
いやあ、こんなの……。
恥ずかしい……なんて恰好。
惑乱する香奈枝の目の前に、縄の端が付きつけられた。縄束を解いたものではない。縄束は変わらずあやめの右手にある。別の縄だった。
「香奈枝、香奈。この縄でええことしたる」
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2013/05/28 12:04
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高手小手に始まり、主な縛りを二つ三つ書いておしまい、さあ次だ、のつもりだったんですが、いつ終わるともしれぬ大長編になりそうです。
なんせ、香奈枝せんせがいちいち感想を独白するからなあ。でも、まさかせんせに止めろ、とも言えないしなあ。
あやめさんの言ういいこと、あ、いや「ええこと」とはなんなのでしょう。次回、乞うご期待!
それにしても……どこへ行く『アイリス』。
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2. Mikiko- 2013/05/28 19:50
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捕縄術(ほじょうじゅつ)というのは、武術のひとつだったようです。
明治になってからも……。
警察では、逮捕術として教えられていたとか。
捕縄術では……。
取り押さえた者を素早く拘束する『早縄』や、拷問を加えるための『拷問縄』のほか……。
縛られた状態から脱出する『縄抜け』も重要な要素だったようです。
『アイリス』の舞台は、桜が終わったころの古びたアパートですよね。
長時間の裸は寒いだろうね。
トイレも行きたくなるわな。
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3. ハーレクイン- 2013/05/28 20:40
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>長時間の裸は寒い
二人とも気持ちが高揚しているから大丈夫だろ。
>トイレも行きたくなる
これ、余計なことを。
これ以上スカトロまでやっとったら収拾つかなくなるではないか。
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4. Mikiko- 2013/05/29 07:53
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スカトロは止めたほうがいいですね。
隣の部屋まで臭うと思うぞ。
ていうか、すでに声は筒抜けだよね。
隣に誰も住んでないのか?
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5. ハーレクイン- 2013/05/29 09:58
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だからやらんって。
うんこはさて置き、おしっこくらいなら……とは思ったんだけどね。
あれ、なんかやりたくなってきたぞ。
香奈枝せんせに、散々我慢させた上でおしっこさせ、それをあやめさんが美味しそうに飲む、というのはどうかな。もちろん香奈枝せんせは羞恥に身悶えします。
(今、広辞苑を引いたら、さて置きは「扨置き」と書くそうです)
隣に声が筒抜け、と言われてものう。
もはやお二人さん、隣のことなど全く念頭におまへん。いわゆる「二人の世界」というやつですな。
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6. Mikiko- 2013/05/29 19:55
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夜中に悲鳴が上がったら……。
ぜったいに110番されると思います。
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7. ハーレクイン- 2013/05/29 20:49
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こんなぼろアパートの住人、しかも多分学生、は部屋に電話なんか引いてないと思う。わざわざ夜中に公衆電話まで行く危篤、じゃなくて奇特な人もおらんやろ。
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8. Mikiko- 2013/05/30 07:27
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ピンク電話が設置されてたのではないか?
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9. ハーレクイン- 2013/05/30 08:54
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わたしの下宿にはありましたがね。あやめさんのアパートには無いのだよ(わはは)。
それにしても、ピンク電話。めっきり見なくなりましたが、まだあるみたいですね。正式名称は「特殊簡易公衆電話」らしいです。
特殊浴場とは関係ありません。スケベな電話という意味でもありません。
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10. Mikiko- 2013/05/30 19:39
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ご都合主義と言います。
ピンク電話は、一般回線を使ってるそうです。
てことは……。
ピンク電話に、外から電話を架けることも可能ということ。
つまり、受けることも出来る電話なんですね。
しかし……。
アパートの電話が鳴ったときって、誰が出るんだ?
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11. ハーレクイン- 2013/05/30 20:54
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何が悪い。
ピンク電話に誰が出る。
わたしの下宿では、たいがい電話のすぐ前の部屋の野郎が出てました。近い、ということもありますが、出ないとやかましいからね。わたしを含め他の連中は知らん顔でした。