2013.5.7(火)
あやめは、香奈枝の背後からその背に覆いかぶさり、香奈枝の上半身を羽交い絞めにした。その両手には二つ目の縄束が握られ、香奈枝の顔を執拗に嬲る。左の頬を右へ押しやり、右の頬を左へ押しやり、顎を上へねじ上げ、顔全体を擦り上げる。
香奈枝は、その縄による蹂躙に逆らうことなく身を任せた。縄が動くたびに、その動きのままに、香奈枝の顔は右を向き、左を向き、仰け反る。時に縄の動きに逆らうようにも見えるが、実はそれも縄の支配下にある動きなのだ。香奈枝の首は捩じれ、よじれ、撓み……。
それはマリオネットのようにも見えた。糸ではなく、麻縄で操られる人形。麻縄と生身の肉体による人形劇が今、開演したのかも知れない。
あやめは、先ほどと同じように縄束を解いた。先ほどと同じように解けた縄は、今度は正座する香奈枝の両の腿の上に蟠った。
香奈枝には、縄が声を掛けているように思えた。
縛るぞ、今からお前を縛るぞ、お前の体に巻きつくぞ、締めつけるぞ、束縛するぞ、覚悟はいいか……。
香奈枝は、その呼びかけに心中で答えていた。
来て、来て、縛って、巻きついて、締めつけて、きりきりと、音のするほどきつく、きつく、きつく……。
あやめは、やはり先ほどと同じように縄を扱き、二重にし、縄尻を香奈枝の両手首に巻きつける。そして、先ほどと全く同様に香奈枝の左の二の腕から胸前に縄を絡める。ただし先ほどとは異なり、縄の線路は香奈枝の両乳房の下の麓を通って右腕に伸ばされた。香奈枝の胸に敷設されたレールは6本、線路は三本になった。三本目の線路は、やはり先ほどと同じく香奈枝の背、手首の結び目でUターンし、胸に戻ってきた。乳房の下の麓を通って左の二の腕を経由し、背の手首に戻り固定される。
香奈枝の胸前を通る麻のレールはこれで合計8本。四本の線路が二本ずつ、それぞれ乳房の上下を通って敷設されたことになる。複々線である。香奈枝の両の乳房はその上下を通る4本ずつの麻縄に締め上げられ、軽く押し潰されてその高さを増した。両の乳房の頂上の乳首は、香奈枝の興奮をそのまま表すように高く突き出ている。
あやめは、香奈枝を背後から抱きすくめるように両腕を回し、香奈枝の両の乳房を鷲掴みにした。指先で香奈枝の両乳首を捉える。
「はんっ」
香奈枝の口から悲鳴のような吐息が漏れた。
「香奈ぁ。どないしたん。乳首、びんびんに立ってるやん」
「いひぃ」
「縛られて、興奮したんか、ん、香奈ぁ」
香奈枝は声が出ない。
がくがくと、壊れた人形のように首を振った。縦にも、横にも振った。あやめの言葉を全て肯定しているようにも、否定しているようにも見える矛盾した動きだが、それが今の香奈枝の心中の思いそのものなのだろう。
気持ちいい、もっと、もっと、して。
気持ちよすぎる、止めて、もうやめて、狂っちゃう……。
香奈枝は、がくりと首を前に折った。口元から、一筋の涎が糸を引き、電灯の明かりを照り返しながら太腿に垂れた。目ざとく見つけたあやめは、垂れ下がる涎の糸を指で絡め取り、自らの口に持って行く。舌を伸ばし、指先を舐める。香奈枝に口づけをするように、香奈枝の唾液にまみれた指先を舐める。
あやめの股間から一筋、やはり光る液が垂れ、内腿を伝い下りていった。膣液だった。
「香奈ぁ。まだまだこれからやで」
あやめは三つめの縄束を解き、縄の先端を、香奈枝の手首をすでに縛っている縄の隙間にひっかけて縛り、固定した。そして、その縄尻を、香奈枝の左脇からこじ入れて体の前に通す。香奈枝の胸に敷設された上下二本ずつの縄の線路のちょうど中間に、縄尻が顔を覗かせた。通した縄尻をあやめは引いた。縄は、香奈枝の左腕の内側と胸の左側を擦りながら、左脇の下を通り抜けていく。
縄の全てが香奈枝の左脇下を通り抜けた。縄の先端は香奈枝の手首に固定してある。軽く縄を引いてそのことを確認したのち、あやめは縄尻を香奈枝の背に戻すように、再び左脇下に押し込んだ。ただし、押し込む位置は、胸前の線路の最も下、香奈枝の乳房の下の麓を通る二本の線路の更に下であった。
あやめは縄を引く。先ほどとは逆に香奈枝の背に縄を戻す方向に引く。全ての縄が香奈枝の背に戻ってきた。あやめはその縄を引き絞る。香奈枝の胸前を通る8本のレールのうち、乳房の下を通る4本が引き絞られた。香奈枝を正面から見ると、新しく絡みついた縄は、立体交差する道路の様に4本のレールに覆いかぶさり、引き絞っている。あやめはそのことを確かめた後、香奈枝の背に戻った縄尻を取り、今度は右脇に全く同様に縄を絡めた。縄尻を香奈枝の手首に固定する。
あやめは改めて香奈枝を正面から見た。8本の麻縄が香奈枝の胸を締め上げ、両の乳房を絞り上げている。新たに加わった縄は正面からはほとんど見えない。両脇下に少し覗いている程度だ。だが、この縄の効果は大きかった。香奈枝の乳房の下の麓を通る4本の麻縄は、この新しい縄によって引き絞られ、香奈枝の胸をさらに強く締めつけるようになった。
香奈枝の口をついて吐息が漏れる。
「くううぅ」
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2013/05/07 10:55
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さて、わたしの入院騒ぎで心ならずも中断し、ご迷惑をおかけしてしまいました『リュック』小説バージョン『アイリスの匣(はこ)』。再開で御座います。引き続きご贔屓のほど、御願い奉ります。
表題は、たかてこてしばり、と読みます。あやめさんによる、香奈枝縛りは、「高手小手」からスタートです。
この縛りは、最も基本的で、シンプルで、被虐効果が大きく、見る者の目をこよなく楽しませてくれる美しい緊縛法ではないでしょうか。
なにそれ、とおっしゃる方も、緊縛ものの動画や画像に少し目を通せば、ああこれかぁと納得されるはず。それほどポピュラーな縛りです。
少しわかりにくいのは、三本目の縄の掛け方ですね。
脇下を通して、背から胸へ縄を往復させ、胸に横方向に掛けた縄を引き絞るわけです。そのことにより、横縄のゆるみを防止するとともに、より強く締めつける。つまり緊縛効果を高めるわけです。
この縄を緊縛用語で「カンヌキ」というようです。動画などを注意深く見ていますと、「高手小手」に限らず、各種の緊縛でこの「カンヌキ」が用いられるのがわかります。
と、エラそうに書いていますが、私は緊縛はど素人。縛られたことはもちろん、縛ったこともありません。ですから、緊縛に詳しい方から見れば「なにをアホなこと書いとんねん」と思われる部分が多々あろうかと思います。お叱りとご教示を頂ければ幸いです。
さて、こんなつもりではなかった『アイリス』、まさか緊縛講座に突入しようとは。こんなことをやっていては、アイリスの匣が開くのはいつになることやら。
しかし、せっかく始めた緊縛ものです。わたしは「高手小手」が大好きですが、これだけではあまりにもったいない。あと幾つか、代表的な緊縛で香奈枝せんせをいぢめてから、先に進みたいと思います。よろしくお付き合いください。
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2. Mikiko- 2013/05/07 20:19
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こんなことを考えてたかと思うと、何ともはやですね。
カンヌキ。
これが入ると、縄が肌に食いこみ、括れが出来ます。
絵的にも際立ちますよね。
縛りに使われる麻縄ですが……。
さぞかし痛かろうと思ってたんですが……。
煮沸して柔らかくした後、蜜蝋などが塗られてるそうです。
生成りの麻縄でカンヌキなんかしたら……。
きっと、擦過傷だらけになっちゃうよね。
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3. ハーレクイン- 2013/05/07 20:52
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近い内に書かせていただきます、縄目の跡。
緊縛を解かれた直後の女性の体に残るこの名残の跡は、緊縛ものの醍醐味の一つなのですが、これはこの時の女性の内面描写を抜きにしては語れません。
乞う、ご期待。
麻縄の表面の毛羽立ちは、仰せのとおり緊縛用のものは処理してあります。でなくてカンヌキなんぞかませば、女性は擦過傷どころか大火傷ですね。
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4. Mikiko- 2013/05/08 07:57
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お手並み拝見です。
麻縄。
↓表面処理を、自分でやってみた記事がありました。
http://blog.livedoor.jp/msonline/archives/65671183.html
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5. ハーレクイン- 2013/05/08 11:40
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麻縄のと手入れ・保管方法のサイトさん、ご紹介もありましたのでいろいろ拝見しました。
へえ、こんな複雑な工程踏むんや、めんどくせー。
最も重要な作業は「油塗り」と「毛羽焼き」、というのはどのサイトさんも共通しています。油は「馬油」が最もお勧めのようですね。金かかりそー。
手入れを繰り返すことによって麻縄を「育てる」と書いてあるサイトさんがありました。一方、縄は基本的に「消耗品」である、とするサイトさんもありました。
表現の仕方は異なりますが、麻縄に対する強い思い入れ、というのは共通して感じられました。
いいですねえ、こういう世界。
>大きく出ましたな
わはは。
ついつい、酔った勢いじゃ。
聞き流してくれい。
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6. Mikiko- 2013/05/08 19:47
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あれは高いですね。
乾癬治療中に使ったことがありますが……。
高いので止めました。
匂いも何もなく、使い心地は良かったです。
↓原材料を見ると、引きますけど。
http://blog-imgs-46.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201006062018166db.jpg
すでに、勢いがつくほど飲んでるとは、呆れたやつ。
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7. ハーレクイン- 2013/05/08 20:51
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そんなに大量には飲んでませんぜ。
1か月の禁酒で、弱くなったようです。