2012.5.29(火)

↑舞台用語です(クリックで大きい画像が表示されます)。用語の解説は、第二場第二景のはじめにあります。

↑今回の舞台設定と、女優さんの動きです(クリックで大きい画像が表示されます)。
陽子「フルネームで呼ぶの止めてくださいって。
南香奈枝先生。
しかし……そう来ましたか」
香奈枝「接吻って……わかるよな」
陽子「せんせい。私が苦手な科目は数学だけですよ。
理科はもちろん、英語も国語も日本史も得意なんです」
香奈枝「お、そうか。理科ちゃん人形ではないのか。
それはご無礼。
で、どうよ。
そんなに考えこむほどのことでもないと思うが」
陽子「そりゃあ、キスくらいどってことないですけど。
さっきも言いましたように、
わたし面倒くさいの苦手なんですよ。他の子と揉めるとか」
香奈枝「ふむ。ま、無理にとは言わんよ。
こういうのも一期一会だ」
陽子「あ、そうだ、せんせい。
後ろのこれ、わたしピラミッドって名づけたんですけど」
香奈枝「ピラミッドお?
もしもし、前之園くん。
数学苦手の陽子さん。
ピラミッドは四角錐(しかくすい)、
後ろのこいつは、
ちょいと歪んでおるが、どう見ても三角柱だぞ。
この違い、わかるかあ」

↑“謎のピラミッド”と、ほんとのピラミッドの鳥瞰図(ちょっとオーバー)です(クリックで大きい画像が表示されます)。
陽子「ま、いいじゃないですか。三角つながり、ということで」
香奈枝「それはまあ、どう呼ぼうがあんたの勝手だが、
まえのえようこくん」
陽子「だから、フルネームはやめて下さいって」
香奈枝「では、四角錐の体積の公式を述べよ」
陽子「数学のテストは積極的にパスです。
それより先生。
このピラミッド、コンクリ製で摩擦係数大きいですから、
勢いつけて駆け上がれば、てっぺんに登れるんですよ。
ということで、接吻の件、条件付けます。
先生がこのピラミッドの登頂に成功すれば、
接吻に応じましょう。南先生」
香奈枝「ふぉっふぉっふぉ。まえのえくん。
わたしの趣味が山登りだということを知らんかったか。
無謀な条件だったのう。
あんたの唇は、もうもろたも同然じゃ」
陽子「バルタン星人ですか、先生。
山を甘く見るとえらい目に合いますよ。
ま、条件を出した以上、先ずわたしが見本を示しましょう。
一番、まえのえようこ、行きまーす」
軽く助走をつけ、“ピラミッド”の斜面を駆け上がり、頂上に腰を下ろして香奈枝を見下ろす陽子。
陽子「ま、こんな感じですね。では先生、どうぞ」
香奈枝「おーし。二番、みなみかなえ、行きまーす」
陽子と同様に軽々と“ピラミッド”を駆け上がり、陽子の傍らに立つ香奈枝。
香奈枝「どおんなもんだい。恐れ入ったか」
陽子「へえー。これは御見それしました。
もっとどんくさいかと思ってました」
香奈枝「うわあ、こっからだと眺めいいねえ」
陽子「ちょっと、先生。立ってたら危ないですよ」
香奈枝「なんのこれしき。
日本百名山を完登した香奈枝さんの実力、
近くば寄って目にも見よ」
陽子「ひゃくめいざん? なんですかあ、それ」
香奈枝「ふぉっふぉっふぉ。
可愛げなし陽子さんにも、知らぬものがあったか。
『日本百名山』。
深田久弥(きゅうや)の著した山岳随想の名著じゃ。
この美しい日本の、
数多(あまた)ある山岳から敢えて百座を選び出し、
実際に登頂した記録と感想を綴った、日本人必読の書物だ」
陽子「なんか、独りよがりの思い入れ、って気がしますけど」
香奈枝「おぬし、ほんに可愛げがないのう」
陽子「ね、せんせい。
そんなことより、条件クリアしたんだから、キスしていいよ。
しようよ、キス」
香奈枝「ふぉっふぉっ……」
陽子「バルタンはもういいから、早くう」
香奈枝「おー、愛(う)いやつ」
陽子「むふ」
香奈枝「んーん」
“ピラミッド”の頂上に座り、キスを交わす香奈枝と陽子。
互いの唇をついばむような、軽いキスである。
香奈枝「なあ、陽子」
陽子「なあに、せんせい」
香奈枝「一つ忠告じゃ。
将来、後悔したくなかったら、ブラは着けた方がよいぞ」
陽子「えーっ、なんでわかるんですかあ、ノーブラって」
香奈枝「んなもん、見りゃわかるわい、服の上からでも。
それに今触ったし。
第一おぬし、上から見下ろすと、
ブラウスの襟元から乳首が見えとるぞ。
綺麗なピンク色、おっぱい自体は少し小振りじゃのう」
陽子「もう、やだ、せんせい。
かなわねえなあ」
香奈枝「亀の甲より年の劫、というやつだな。
ふぉっふぉっふぉ」
陽子「バルタンはもういいって」
香奈枝「んじゃ、キスもしたことだし。
さっきの話の続きをするか」
陽子「なんだっけ」
香奈枝「たわけ。
江戸のお妾さんの『生活と意見』であろうが」
陽子「ああ、
煙管(きせる)と煙草盆(たばこぼん)の話でしたね」
香奈枝「それは小道具じゃ。
主役はお妾さん。
なーんにもすることないから、
日がな一日ごろごろして、女中のお清さんを使いたおす、
あのお妾さんの話だよ」
陽子「ふんふん」
香奈枝「でね、お妾さん。
することといったら煙草を吸うくらいなんだね。
だから、煙管(きせる)は常に手にしておる。
もうアクセサリーみたいなもんだな。
煙草盆はごろごろしてる近くに必ず置いてある」
陽子「ほうほう」
香奈枝「でね、
たまたま煙草盆が少し遠くにあって手が届かない。
どうするか。
普通なら起き上がって取りに行くところだが、
そうはしないよ、お妾さん。
寝転んだまま腕を伸ばし、煙管(きせる)を伸ばし、
煙管の雁首(がんくび)で、
煙草盆(たばこぼん)の縁を引っ掛けて引き寄せるわけ」
陽子「はあー、またなんと」
香奈枝「で、たまにどうしても届かないことがある。
どうするか。
起き上がらないよ、お妾さん。
相変わらず寝っ転がったまま、女中さんを呼び付けるわけよ。
『お清、ちょいとお清ぉ』ってね」
陽子「ふううーん。
なんか、自堕落の極みって気がしますけど」
香奈枝「そうだねえ。
いいなあ、お妾さん。
憧れるなあ、こういう自堕落な暮らし。理想の暮らしだね。
なりたいよ、お妾さん。
誰かしてくれんかのう、お妾さんに」
陽子「えーっ、先生の理想の生活って、お妾さんなの?」
香奈枝「正確には、江戸のお妾さんだ。
現代の妾なぞ、風情も何もない。
そんなものになる気はないぞ」
陽子「はあー。なんか、すごいっていうか……。
いや、先生らしいっていうか……」
香奈枝「どおだ、まいったか」
陽子「まいったか、と言われれば、
完敗です、と答えるしかありませんね」
香奈枝「そうかそうか、よしよし」
陽子「ところで先生。このピラミッドの正体、知ってます?」
香奈枝「いやあ、知らんのう。
ファラオの墓……ではないわな」
陽子「じゃ、この下に何があるか知ってます?」
香奈枝「いやあ、知らんのう。
ファラオのミイラ……ではないわな」
陽子「先生はこの学校の先生ですよね」
香奈枝「前之園陽子、日本語、大層、変」
陽子「漢字だけでしゃべらないで下さい」
香奈枝「感じ悪いってかあ」
陽子「おやじギャグもやめて下さい。
この学校の先生が、なんで知らないんですかあ。
この下は美術室でしょうが」
香奈枝「ほー、美術室」
陽子「で、このピラミッドは、
美術室の天井の明り取りの窓が、
屋上に突き出たものなんですよ」
香奈枝「ほうほう、それはそれは。
それはなかなか風情があるというか、邪魔っけというか」
陽子「ピラミッドの反対側に回れば窓があるのがわかりますよ。
気、つきませんでした?」
香奈枝「いやあ、全然」
陽子「ほんとにぼんやりさんですねえ」
香奈枝「役に立たない情報は極力取り込まず、
不要の情報は速やかに削除する。
何かの時のために、
ディスク領域を広く開けておくわけだな」
陽子「その前に、
ディスクの中を整理した方がいいと思いますけど」
香奈枝「お、面白い。座布団1枚」
陽子「ほんとに、堪(こた)えないひとですねえ。南せんせい」
香奈枝「どおだ、まいったか」
陽子「まいったか、と言われれば、
完敗です、と答えるしかありませんね」
香奈枝「そうかそうか、よしよし」
陽子「せんせい。おんなじ会話してますよ、わたしたち」
香奈枝「リングワンダリング、というやつだな」
陽子「なんですか、それ」
香奈枝「訳してみよ」
陽子「地理、数学の次は英語のテストですかあ。
えーと、始めのリングは円、輪、または“貞子”。
後のリングは動詞の現在進行形だろうから置いといて、
ワンダーだな問題は。
驚く、驚嘆する、感心する。
『円形に驚く』。うーむ、わけわからん。
まさか“貞子にびっくり”じゃないだろうし」
香奈枝「ワンダー違いじゃ。
あんたの考えてるのはWonder。
不思議の国のアリスAlice in Wonderlandのワンダーだな。
そうじゃなくてWanderじゃ」
陽子「へ? Wander? そんな英単語ありましたっけ」
香奈枝「ふぉっふぉっふぉ。情けないのう。
大丈夫か、大学入試は。
Wanderは『さまよう、踏み迷う、放浪する』。
西馬音内(にしもない)の弥助くんの得意技じゃ」
陽子「誰ですかあ、その人」
香奈枝「ま、♪人生いろいろ。
経験を重ねればわかる。
それよりどおなのだ。リングワンダリング」
陽子「あ、えーと、『円形にさまよう』『輪っか状の放浪』
ですかあ」
香奈枝「そういうことだな」
陽子「言葉はわかりましたが、意味わかりません」
香奈枝「ふぉっふぉっ……」
陽子「ふぉ、はもういいです。
意味意味」
香奈枝「広い荒野を歩く一人の男がおる」
陽子「ふむふむ」
香奈枝「急に深い霧が立ち込めて……、
登山俗語では“ガスる”と言うが、
一寸先も見えない。
自分の手すら顔の前に翳さんとわからん。
そのくらい深い霧だ」
陽子「ほうほう」
香奈枝「安全のためには立ち止まって、
霧の晴れるのを待つのが正解なのだが、この男、
事情があって先を急いでおる、または無類のせっかち男。
しゃにむに歩き続けた」
陽子「ふんふん」
香奈枝「どれだけ歩いたか。ふと気付くと、
霧がかかる直前に見た特徴のある形の岩が道の傍らに……」
陽子「う、…………」
香奈枝「『気のせいだろ』。
敢えて自分に言い聞かせ、
晴れる気配もない霧の中をひたすら進むせっかち男」
陽子「…………」
香奈枝「ふと気付くと、再び例の岩が傍らに!
と! その岩の陰から現れ、這い寄ってくる貞子!!
ぎゃあああああああああああ」
陽子「いやあああっ!」
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2012/05/29 10:06
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「用語解説」の図は、新ししました(文字を大きしました)で。差し替えとくんなはれや。
ついでに、3本目のサイドバー。
「第二場第五景」が二つに増殖しとりま。
さらについでに、『由美美弥』の目次。
第85章の「/場面」が“女子高”になってますが、これは「教授室」ではおまへんか~♪
さて『リュック』。
あらためて読み直してみますと、この「屋上」の場。
読者を舐めてるといいますか、完全に遊んでますなあ。
こんなんどこがエロや、何が小説や!
ま、お怒りはごもっとも。せやけど、
♪いいじゃないの楽しければ
(佐良直美やっとる場合か!)
で、前回、長々とうんち、じゃなくてうんちくを垂れ流した「煙管(きせる)と煙草盆(たばこぼん)」。
これも前回コメで予告させていただきましたように、このうんちくは今回の伏線でした。
前回コメでの予告はこれ↓。
>次回のわずか三行をすらっと書きたいがための
壮大!?な伏線。これが今回の煙草話なんですね。
で、その三行が今回のこれ↓です。
>寝転んだまま腕を伸ばし、煙管(きせる)を伸ばし、
煙管の雁首(がんくび)で、
煙草盆(たばこぼん)の縁を引っ掛けて引き寄せる
このシーン。何かで読むか観るかしたと思うんですけどね。
すでに「忘却の彼方」です。
『リュック』第三場「屋上」。
香奈枝サンと陽子ちゃんのアホ話は、もう少し続きます。
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2. Mikiko- 2012/05/29 19:40
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図は、差し替えさせていただきました。
ついでのご指摘、サイドバーと目次の件、ありがとうございます。
これは……。
前から気づいてたんじゃないのかぁ?
煙管のシーンは……。
杉浦日向子の漫画で読んだような気がします。
46歳。
あまりにも若死にですよね。
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3. ハーレクイン- 2012/05/29 20:33
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お手数をおかけしました。
すこし見やすくなりましたね。
サイドバーと目次一件。
うん。
前から気付いてたよ。
すぐにいうのもどうかなあと思い、時が熟するのを待ってました(なんのこっちゃ)。
煙管と煙草盆。
ふむ。杉浦日向子か。
大いにありそうだなあ。探してみよう。
あの独特の風貌と、似合ってるのかいないのかよくわからない和服姿(ひなちゃん、ごめん)。
懐かしいなあ。
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4. ハーレクイン- 2012/05/30 02:34
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携帯の方も同様に間違うてまっせ。
そういえば「PCでは修正されたけど、携帯の方はそのまま」という、こういうケースは以前にもあったなあ。
“時が熟するのを待って”いるうちに、忘れてしもた。
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5. Mikiko- 2012/05/30 08:00
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前から気づいておったのか。
いらんことはまっ先に騒ぎ立てるくせに、ふんとにもー。
携帯の方も、直しておきました!
似合ってるのか云々は、失礼だぞ~。
杉浦日向子は、日本橋の呉服屋の生まれです。
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6. ハーレクイン- 2012/05/30 11:35
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この手のミスをいちいち言挙げすると、口うるさい姑の嫁いびりのような気がしてのう。
姑「ちょっと、みきこさん、みきこさーん」
嫁「はい、おかあさま、何でしょう」
姑「何でしょうじゃないでしょ。
85章の章題が『女子高』はおかしいでしょ」
嫁「あ、すみません。『教授室』ですね」
姑「それに『センセイのリュック』の図がそのままよ。
『第二場第五景』が二つに増えてるし……。
十も二十にもなったらどうするのかしら」
嫁「すみませーん。直しておきます」
姑「ほんとに、えらい嫁をもらったものだわ」
嫁「すみませえーん(クソババ、いつか殺してやる)」
では今後は、ねちねちと重箱の隅をつつきまわすことにしますか。
>杉浦日向子は、日本橋の呉服屋の生まれ
ほう。んじゃ「紺屋の白袴」ってやつだな。
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7. Mikiko- 2012/05/30 19:47
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「重箱の隅」とか「紺屋の白袴」とか……。
ご隠居の例えは、古くそーてかなんのー。
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8. ハーレクイン- 2012/05/30 21:58
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悪ガキ呼ばわりの次は隠居扱いか。
いそがしいのう。











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