2012.4.17(火)
…………………………………………………………………………
舞台監督「えー、舞台上は希美ちゃんの独壇場。
フルスロットルでぶっとばしておりますが、ここで異例の休憩を挟みたいと思います」
希美「こら、おっさん、今ええとこやないか。
邪魔すな、へぼ監。にしこりといっしょにぶっ飛ばすぞ」
舞台監督「これ、若い子がそんな乱暴な言葉を……」
希美「なに言うとんねん。
こっちは台本通りにしゃべっとるんや。
文句あるならど素人劇作家に言え!
とにかくひっこんどれ、邪魔すな!」
舞台監督「いや、あのな。そこを堪えてくれ。
ちょっと都合がな」
希美「アホか、進行中の舞台を途中で止めるやなんて、
聞いたことないわ」
舞台監督「わしもやったことない。すまんすまん。
おーい幕下ろしてくれ。
緞帳ちゃうぞ、何ぼなんでも緞帳下ろしたらまずい。二幕ものになってまう。
緞帳のすぐ後ろ、暗転幕や。暗転幕下ろして舞台隠せ。
なにい、さっき暗転やったばかりですう。
そんなことはわかっとるわい。ええから下ろせ。
照明も落とせ。
希美のことは頼んだで。くれぐれも怒らすなよ」
舞台監督「えー、大変お騒がせいたしております。
希美に言われるまでもなく、舞台進行を途中で止めるという、暴挙。
いったい何やねん、ということですが、実は劇場の管理人さんからクレームがつきました。
『舞台用語なぞ知らんぞ』。
『図がない、説明ヘタ。で、舞台設定がわかりにくい』
あ、なるほどー。これはごもっとも。
ということで、
急きょ説明を加えさせていただくことに致しました。図は暗転幕にスライドで映写させていただきます。
それではまず、舞台用語のご説明から」
↑クリックで大きい画像が表示されます
【上手(かみて、かみ)】客席から見て、舞台の右手方向。
【下手(しもて、しも)】同じく、舞台の左手方向。
なぜ「右・左」と言わんのか。こういう風に使い分けます。
ある日の舞台稽古。
演出家「はーい香奈枝さん。
そこから3歩「上(かみ)」に歩く。
で、「右」に45度向き直って5歩、歩いて下さーい」
香奈枝「はーい」
つまり「上・下」は舞台の方向を基準にした向きを表し、右・左(前・後も)は役者さんを基準にした向きを表すわけですね。
落語の用語に
“上下(かみしも)を振る”というのがございます。
熊五郎「(上手に顔を向けて)
おう、いるかい、ご隠居」
隠居「(下手に顔を向けて)
おや、熊さん、ま、お上がり」
【舞台奥(おく)】「かみ・しも」方向に直交する方向で、
客席から遠い側。
【舞台面(つら)】同じく、客席に近い側。
【舞台袖、袖(そで)】舞台上・下の奥にある準備用のスペース。
次に登場する役者さんが待機したり、
次の場で使う道具類などを置く場所。
袖が狭いと非常に不便。
【袖幕】舞台と袖を仕切り、客席から袖が見えないようにする幕。
【緞帳(どんちょう)】舞台最前面に位置し、舞台全体を隠す幕。
上げて開き、下げて閉じる。
かみしも方向に開閉する劇場もある。
緞帳を開いて開演、閉じて終演の芝居を、
「一幕物(ひとまくもの)」という。
芝居の途中で1回開閉すると「二幕物」。
【暗転幕】緞帳のすぐ奥に位置する、緞帳と同じサイズの薄い幕。
暗転時、これを閉じてその奥で舞台道具などを入れ替える。
暗転幕を下ろさない暗転もある
【ホリゾント幕】舞台最奥、背景を成す幕。
幕自体は緞帳と同じく垂直に垂れ下がる。
平行に数枚のホリゾント幕を設定する場合もある。
舞台監督「えー、続きまして。現在、舞台は第二場、「テニス部用具室の場」、でありますが、ここまでの舞台設定と役者さんの動きを、図でご説明しましょう
↑クリックで大きい画像が表示されます
用具室の、入り口引き戸のある壁は、柱のみで壁は実際にはありません。すけすけです。そうでないと、下手寄りの客席から室内が見えませんからね。もちろん演出上必要ですから、引き戸はあります。
舞台監督「はい、ということで、
大変長らくお待たせいたしました。
『センセイのリュック』第二場、再開でございます」
……………………………………………………………………
テニス部用具室内。立ち上がり、佳を見下ろす希美。
両腕両脚を拘束され、胸から太腿まで剥き出しにされ、うつぶせの姿勢から横向けになり、太腿を腹にひき付けてちぢこまる佳。
希美を止めることも、用具室に踏み込むこともできず、おろおろと通路を行き来する芳江。
希美「さあ、にしこり、いい格好だ。
そこらのスケベ親父が見たら生唾ごっくんものだな」
佳「いやあ」
希美「おい、にしこり。
こういうの緊縛っていうんだぞ。スケベ親父の大好物だ。
たぶん初めてだよなあ、裸で縛られるのって。
それとも経験ありかあ」
佳「あ、ありません、そんなの」
希美「そうかそうか。初体験か。
ん、しょたいけん、なんていうとなんかやらしいなあ。
ま、いいか。あんたのカッコ、ほんとにやらしいし。
これはわたしだけが見るのはもったいないと思わん?
ん? にしこりぃ」
佳「いやっ」
希美「誰か呼んでこようか、ん、とりあえず芳江が外におるぞ。
見てもらうかあ」
佳「いやあっ」
希美「それとも、テニス部全員に集合かけるか。
副部長さんが号令かければ、練習中断して皆集まるわな」
佳「いやああっ」
希美「お、もっといいこと思いついた。写真だよ、写真。
にしこりけいちゃんの初緊縛記念撮影。これにしよう」
佳「いやあああっ、やめてぇっ」
希美「おい、にしこり。これが保険だ。
もしちょっとでも喋ったら、
わたしの知ってる限りの相手にメールで送る。
『にしこりけい初緊縛画像』をな。それからネットだ。
ネットに流す。もちろん署名入りだ、あんたのな」
佳「やめてくださいぃ。しゃべりません、しゃべりません
しゃべりません、しゃべりません」
希美「だから保険だと言ってるだろうが。頭の悪い奴だなあ。
今日はカメラ持ってないからなあ。ま、携帯でも充分だろ」
佳「しゃべりません、しゃべりません」
希美「えーと、あれ、どこだ携帯。
南センセの携帯はすうぐわかるのに、なんで自分のが……。
ええい、ないぞ。しょうがないなあ。
カメラが無ければ撮影できんな。今日の所は中止か」
佳「はい、東せんぱい」
希美「ああ、あったあった、残念だったなあ、にしこり。
撮影続行だわ」
佳「うわあああ。いやだ、いやだあ。やめて下さあい。
しゃべりません、しゃべりません」
希美「ほれ、にしこり、こっち向け」
佳「いやっ」
希美「顔そむけてちゃ、記念撮影にならんだろうが。
こっち向けって」
佳「いやあ、やめてえ、いやあ」
希美「全く往生際の悪い奴だなあ。ちょっと気合い入れてやるか。
おい、にしこり、上向け」
携帯をポケットにしまい、左手で佳の胸倉をつかんで引き起こし、右手で平手打ちを見舞う希美。2度、3度……往復ビンタである。
頬を張られるごとに短い悲鳴を漏らす佳。
佳「ひっ……ひっ……ひっ……ひいっ」
希美「どうだ、どうだにしこり、堪えたか。
もっと欲しいか、ん? どうだ、にしこり」
佳「やめて、やめて、やめて……」
下手の袖から、舞台面の通路を通って登場する珠恵。フェンスの角を曲がり芳江を見つけ、声をかける。
救われたように駆け寄る芳江。
珠恵「芳江」
芳江「ああ、珠恵ぇ」
珠恵「芳江、希美、見なかった?」
芳江「ああ、希美ね、あのね、にしこりって子、
ね、珠恵、あのね」
珠恵「落ち着きなさい、何を言ってるの。
希美は来たの」
芳江「うん、あのね、うちに、にしこりっているかって。
それでね、希美ね」
珠恵「落ち着きなさいって。にしこりって、1年の西木織だろ」
芳江「うん、そうそう。でね、呼んで来いって、希美」
珠恵「で、会わせたの?」
芳江「うん、そしたらね、希美ね、なんか血相変えてね」
珠恵「やっぱり、希美の奴……。
で、二人は今一緒なのね。どこへ行ったの」
芳江「そこ……」
珠恵「はあ? そこって、あんたんとこの用具室?」
芳江「そう、希美、見張ってろって」
珠恵「あほ! それを早よ言わんか!」
用具室に駆け寄り、入り口の引き戸をバンバン叩く珠恵。
珠恵「希美、のぞみ! いるんでしょ。ここ開けなさい!」
希美「うるさい、邪魔するな!」
珠恵「馬鹿なことするんじゃないよ、希美。開けなさいって。
開けろ、のぞみ!」
芳江「珠恵、鍵かかってないよ。壊れてるもん」
珠恵「どあほ! それを早よ言わんかい! のぞみい!」
用具室の引き戸を引き開け、室内に入る珠恵。あとに続く芳江。
横たわる佳の前に仁王立ちになり、珠恵と芳江に立ちはだかる希美。
希美「邪魔するなって言ってるだろ、出てけ!」
珠恵「この、馬鹿!」
いきなり希美に平手打ちを見舞う珠恵。佳に寄り添うように倒れ伏す希美。
起き上がり、珠恵に掴みかかろうとする希美を珠恵が一喝する。
珠恵「いいかげんにしな!!
こんなことして、
よけい南先生に迷惑になるのがわからないの!
もう少し分別を持ちなさい!!」
途端に毒気を抜かれたようにへたり込み、泣き出す希美。
希美「ふえええええーん。
だって、だあって、この子の口を塞がないと、
センセが、センセが、クビになっちゃう。
センセがいなくなっちゃう。
いやだ、いやだあ。そんなのいやだあ」
珠恵「芳江。その子ほどいて、服、着せてやって」
芳江「ああ、うん」
珠恵「さあ希美、先生は大丈夫だから。
この子はしゃべったりしないから。
わたしにまかせときな」
希美「ほんと? ほんとに大丈夫?」
珠恵「大丈夫だいじょうぶ、心配せんでええ。
まかせときな」
希美「ほんとね、ほんとに大丈夫ね。
センセ、いなくなったりしないね」
珠恵「大丈夫だって、先生はずっと一緒だよ。
あとは私に任せて、今日はもう帰りな。
芳江、悪いけど通用門まで希美を送ってってくれる」
芳江「ああ、うん。いこ、希美」
希美「うん、じゃね、珠恵」
珠恵「ああ、また明日ね。
芳江、そこ閉めてってね」
コメント一覧
-
––––––
1. ハーレクイン- 2012/04/17 11:30
-
えー改めまして、ご挨拶とお詫びを申し上げます。
本文にも書かせていただきましたが、進行中の舞台を途中で止め、急きょ“解説”を入れるという暴挙。
独り、舞台監督の責任ではありません。もちろん女優陣には何の失態もありません
ど素人劇作家の読みの甘さが、すべての原因でございます。伏してお詫び申し上げます。
こんなことなら始めに戻って書き直したいくらいですが、まさかそうもなりませぬ。
くどいようですが舞台は進行中。一時停止をかけている状態です。
お、そういえばご存じでしょうか。
1960年代に放映された懐かしのTVアニメ『スーパージェッター』。
(そんな古いの、誰も知らんって)
30世紀からやってきたスーパーヒーロー「ジェッター」が、数々の能力や武器を駆使して悪人を退治する物語です。
このジェッターの武器の一つに「タイムストッパー」があります。時間を30秒間止めることのできるすぐれもの。腕時計型の、一種のタイムマシンです。
現在舞台は、ジェッターに無理言って借りてきたタイムストッパーで停止中、とお考え下さい。
(お前の話は、必ずSFになるのう)
あー、え、で今回、説明用に載せていただいた2枚の図は私が描いたものです。
手描きですのでまことに不細工な図ですが、ご辛抱ください。
(図はまだしも、へったくそな文字やなあ。何とかならんのかい)
申し訳ございません。その点はいずれ改良していきたいと考えております。
それではそろそろ、タイムストッパーの効力が時間切れのようです。
変態エロ舞台劇『センセイのリュック』。第二場第二景、続行でございます。
どうぞお楽しみください。
-
––––––
2. Mikiko- 2012/04/17 20:26
-
絵も字も、これだけ描ければ十分ですよ。
携帯では、小さすぎて読めないでしょうけど。
前回の『第二場 第一景』にも、同じ図を入れますか?
舞台用語。
無縁のものばかりですが……。
緞帳だけは、馴染みがあります。
学校の視聴覚室だったかな。
重くて、なめらかな布地の感触が、手に残ってます。
独特の匂いもあったような。
緞帳フェチって人も、いるんじゃなかろうか。
体育用具室ってのも……。
匂いの思い出があるな。
跳び箱が、ひっそりとうずくまってるイメージ。
ここで、けしからぬことをした人も、いるんでないか?
-
––––––
3. ハーレクイン- 2012/04/17 21:31
-
「第二場 第一景」にも同じ図かあ。
確かにわかりやすくなるが、そうするとさらに「お詫び言い訳コメ」が必要になるしなあ。
いや、コメはいくらでも書かせてもらうが、全体の“流れ”がなあ。時を遡って図を追加するわけだから、今回の「幕間」とのつながりをなあ、どうするか、よく考えんならんし。
それにそうなると「第一場」にも図が欲しいなあ、となるし。
うーむ。
どおしたもんかのう。
緞帳を初めて見たのは、小学校の講堂だったなあ。
開いてるところを見るのは入学式とか、卒業式とか、なんか大きな行事がある時だけ。
普段はほとんど閉めっぱなしでした。
緞帳にはたいがい絵が描いてありますが、学校の緞帳は学校のマークでしたね。これはも一つだったなあ。
緞帳フェチねえ……。
AVで「体育用具室もの」って、結構あります。
ノーマルのにも、ビアンものにもあります。
みな好きなんだなあ。用具室。
「理科室もの」ってのは見たことないなあ。
-
––––––
4. Mikiko- 2012/04/18 07:41
-
そうですね。
『第二場 第一景』では……。
「次回に図を入れました」って注釈にします?
体育用具室。
AVで、ここのシーンが多いのは……。
セット作りが簡単だからではなかろうか?
そう言えば……。
教室のシーンとかは、どういうとこで撮ってるんでしょうね?
-
––––––
5. ハーレクイン- 2012/04/18 11:30
-
そうですねえ。第一景に注釈を入れるにしても、どこに入れるか……もう少し考えましょう。
とりあえず『第二場 第三景』を早よ書かんと。
教室のシーン。
どこで撮ってるのかは知りませんが、一応椅子と机はそれらしく並べてありますね。
ただ、“生徒は女優さん独りだけ”とか、“男子ばっかしで女生徒は女優さん一人だけ”とか、不自然な設定が多いですね。
例外は「ビアン女学校」ものですね。これは当たり前ですが、生徒は全員女子。製作費、かかるやろなあ。