2012.2.7(火)
「え、いやあ由美さん、ごめんなさい、ごめんなさい」
夏実の両眼から、新たな涙が吹き零れる。
由美は、あっけにとられたように夏実を見つめる。
「どうしたのよ夏実、なぜそんなに泣くの」
「だって、だって……ほどくって、由美さん」
「もう必要ないでしょ、ほどいたらまた始めるの? リターンマッチの続き」
「いえ、そんな……。あの……ほどくから、もう帰れって……言われたかと思って」
「馬鹿ね、なぜそんな風に考えるの。あなたが辛いかと思って、それだけよ」
夏実は、幼女のようにしゃくりあげながら、由美に訴える。
「わたしが……あんまり、泣くから……涙が止まらないから……それで……愛想、尽かされたかと……思って……それで……」
「ばかね。ほんとにお馬鹿さんね、夏実は」
由美は、もう一度夏実に軽くキスし、声をかける。
「ほどくよ」
由美は四つん這いで夏実の頭の先に向かう。
夏実は、両手、両手首に由美の手が触れるのを感じる。しばらくして、両腕を引き延ばしていた力がなくなる。両腕は自然に胸元に戻る。
夏実は少し迷ったのち、腹筋を使って上体を起こした。
由美は窓を開け、夏実の右脚を固定していたシーツの先を室内に取り込んでいる。窓を閉じる。
夏実の右足首に巻き付いているシーツをほどこうとする由美に、夏実は声をかける。
「あ、わたし、やります」
「そお。じゃ、こっちほどくね」
由美は、夏実の左足首を固定している夏実のジーンズをほどき始める。夏実は右脚のシーツを手早くほどくと、ジーンズにてこずっている由美の手に手を添え、いっしょに結び目を緩めていく。
「ね、こんなことしてるとなんだか、結婚披露宴の『二人で行う初めての共同作業』みたいだね」
「はあ? あのケーキカットのことですか」
「そうそう、やってることはかなり違うけどね」
二人は目を見交わし、くすくすと笑う。
夏実の脳裏を、つい先ほどお互いを叩きのめそうと、殴り合い、蹴り合い、投げ、抑え込み、締め上げた情景が行き過ぎる。
(あれはいったい……)
何だったんだろうと考える夏実に、嬉しそうに由美が声をかける。
「さあ、ほどけた。でも、御免ね、くしゃくしゃになっちゃったね、ジーンズ」
「え、由美さん。そのジーンズ、もともとくしゃくしゃのよれよれなんですよ。どうってことありません」
答える夏実を、由美がそっと引き寄せる。
ささやく。
「夏実……お風呂、入ろうか」
「え、由美さん、わたし……汗臭いですか」
「うん、汗の匂いはするけどね。でも臭くはないよ」
「すみません、わたし、汗の臭いなんて慣れっこなんで」
「だから、臭くはないって。でも夏実、鏡見てごらん。あなたの顔、涙でぐちょぐちょだよ。わたしの涎も混ざってるんだろうけど」
夏実はあわてて両手で顔を擦る。由美の言うとおり、顔全体が濡れそぼっている。その手触りは皮を剥いた果実のようだ。
「あ、ほんとだ、やだ」
「ね、お風呂入って綺麗にしよう。おいで」
由美は立ち上がり、手を引いて夏実を引っ張り上げる。夏実は機敏に立ち上がる。浴室までの短い距離を、二人は手をつないだままゆっくりと歩む。
学校帰りの仲良しどうしの小学生が、手を繋ぎ、手を振り、歌をうたいながら、スキップしながら、転げるように……そのような情景を思わせる二人の歩みである。
由美はバスタブの底に栓をはめ、湯栓を開く。シャワーも開く。
「夏実、洗ったげる」
「あ、そんな、いいです。自分で……」
「いいから、ちょっと上向いて、目つぶって」
夏実は母親に体を洗ってもらう幼女のように、由美に体を預ける。シャワーヘッドから吹き出す湯を顔に浴びる。由美の手が夏実の顔を撫で、汗と涙と涎を落としていく。
夏実の顔にはじけた湯は、夏実の首筋を、肩を、胸を、背を……浸し、流れ落ち、夏実の全身を濡らしていく。
「じゃ、石けんつけるね。後ろ向いて、壁に手をついて。高くよ」
夏実は言われたとおりに由美に背を向け、壁の、顔より高い位置に両手をつく。由美は、もう一度夏実の全身に湯を浴びせてから、シャワーヘッドのストップボタンを押して湯を止める。シャワーヘッドを壁のフックに掛ける。
ボディソープのポンプを押してソープ液を手に取る。両手を擦り合わせて泡立てる。
「顔は後で洗おうね。背中から擦るよ」
由美は夏実の両腕、首筋から肩、背にソープを塗り、揉むように、擦るように両手で塗り拡げて行く。由美の手の動きとともに、夏実の呼吸が次第に荒くなって行く。
「ん……」
(きもち、いい)
由美は両手で夏実の尻を掴む。
「あ……」
「夏実……凄い体だねえ」
「え、由美さん、すごいって」
「鍛えてあるってこと。なんか、指が弾き返されそうだよ」
「あん……」
由美は、夏実の身体を確かめるようにその尻、脇腹、背、肩、首筋、両腕にかけ幾度も両手を滑らせ、擦り、愛おしそうに撫でまわす。その両手の動きは、洗うというよりも、愛撫のようになって行く。
「は、ああん、ん……んんっ」
夏実の呼吸も、その由美の両手の動きに敏感に反応し、切なげな吐息に変化していく。
「じゃ、前も洗おうね、そのままでいいよ」
由美は、夏実の腋の下から脇腹にかけて数度両手を上下させたのち、両腕で夏実をくるみ込むように抱きしめる。由美の乳房が夏実の背に押し潰される。夏実の尻の頂点に由美の両脚の付け根が触れる。
由美の両手は夏実の両の乳房をしっかりつつみ込んだ。
「んんっ、あ、ああっ、ゆ……由美、さんっ」
由美は体全体を使って夏実の背と尻を擦りながら、両手とその指で夏実の乳房を、乳首を揉みたてる。
「あああっ、由美……さん、んんっ」
「夏実、夏実ぃ、いいの? 気持ち、いいの?」
「いいっ、いいっ、いいです、気持ち、いいです、由美さぁん、どうしてこんなに、気持ちいいの……」
夏実は、壁についた両手を下ろして、由美の手に、体に触れる。背後からではもどかしい。夏実は、由美の両手を振りほどくように由美の両腕の中で反転し、ぶつかるように由美を正面から抱きしめる。
だが……。
その夏実を、由美は叱りつけるように制止する。
「だめ! 駄目よ、夏実。勝手に動いちゃ駄目。わたしは両手は、壁につけておくように言ったはずよ」
夏実は、叱責された子犬のように身をすくませ、再び壁に向かう。両手を壁に戻す。恨めしそうな吐息が、夏実の口から洩れる。
由美は、無防備な夏実の上半身を、乳房を胸を腹を、腋下を脇腹を、背を尻を、隈なく蹂躙する。
(どうして? わたしも由美さんに触れたいのに)
「いいいっ、いいっ、気持ち、いいっ」
(由美さんに触りたい、気持ちよくしてあげたいのに)
「由美さん、由美さん、好き、大好きっ、いいっ」
夏実は、由美の愛撫に蕩けるような快感を感じながら、自分も由美に触れたいという思いを押えられない。
「お、お願い由美さん、わたしにも触らせて、由美さんのこと」
「だあめ、駄目よ、夏実」
夏実は泣きそうな声で由美に訴える。
「おねがい、お願いします由美さん、わたしにも……」
「だめよ、夏実、駄目よ。あなたはこのまま、わたしのするままになるの」
「そんな、どうしてそんな意地悪……」
「さっき、わたしの言うことは何でも聞く、と言ったのは誰かな。嘘つき夏っちゃんかな。
それにね、これは意地悪でしてるんじゃないの。わたしね、夏実のことで一つ気付いたことがある。それを確かめるためなの。
あとで教えてあげるけどね。今はとりあえず、一人で気持ちよくなりなさい」
由美は、右手を夏実の乳房からはずし、夏実の背後から股間に差し込んだ。夏実の肉芽を的確に探り当てる。
「いいいいっ、いやああ、あっ、由美、さんっ」
由美の指は、ボディソープの泡に塗れ、ほとんど抵抗もなく、夏実の股間を軽快に駆け、踊る。夏実の肉芽を、膣前庭を、膣口を、会陰を、肛門を……隈なく的確に、撫で、擦る。熟練のピアニストの指が、88の鍵盤の上を自在に踊るように……。
「ああっ、ああっ、いやあ、あ、あ、あ、あ、駄目」
夏実の体勢が、急激に高まる快感に耐えかねたように崩れかける。
「動くな、夏実!」
命令のような由美の叱咤に、夏実の両手の十指は、岩盤に指先を掛けて高みを目指すクライマーのように、浴室の壁をしっかり掴む。その指に体全体を預けるように、一切の身動きをすることなく、由美の愛撫を受けとめる。
「ううっ、ううっ、うふう、うううっ」
由美は右腕を更に深く差し込み、夏実の股間のあらゆる場所を、肘から先の全てを使って、捏ねるように、押し揉むように、強く激しく擦りたてた。
夏実は一気に上り詰める。股間からあの熱い液が激しく吹き零れ、由美の右手を濡らすのを感じる。
「いやあ、いく、いきますっ」
夏実の膝が砕けそうになる。
(あ、このまま倒れたら、由美さんを押し潰しちゃう)
夏実は薄れようとする意識を全身全霊でつなぎ留め、倒れることなく徐々に膝を折り、浴室の床にかろうじて座りこんだ。両脚を、尻を、温かい湯が洗っていく。
(なんだろう)
(そうか、浴槽のお湯が溢れているんだ)
そんなことを考えながら、夏実の意識は薄れていく。
夏実は横向けの体勢で上体も床に倒しこんだ。両腕が自然に膝を抱える。夏実の右頬を、右腕を、右の脇腹を腰を、右脚の太腿から膝、足先まで、豊かに溢れ流れる温かな湯が洗っていく。
母の胎内の胎児を浸す羊水のように……。
遠くで呼びかける由美の声が聞こえたような気がした……。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2012/02/07 19:42
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これってまだ、披露宴で言われてるんですかね?
なんか、すっげー恥ずかしいよね。
わが身になぞらえて想像するだけで、冷や汗が出そうです。
ケーキ入刀ではありませんが……。
結婚式での面白いハプニング映像がありました。
http://www.youtube.com/watch?v=_2Ded7k3o9U
本編の方も……。
いつもにも増して、今回は恥ずかすぃですな。
まともに読めんぞ。
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2. ハーレクイン- 2012/02/07 20:07
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わたしの時は言われましたけどね。
(何十年前の話や)
当人はそれどころやないんですね。自分でシナリオ書くわけにもいかんしねえ。まわりの関係者のやりたい放題でしたね。
わが身になぞらえてって……想像することあるんや。
ハプニング映像、なんかのTVで見たなあ。
まともに読めんほど恥ずいかあ。どこがや!
次回、由美ちゃんの口からいよいよ、かなり強引な推測を交えてですが、夏実の正体が明かされることになります。ま、もうだいたいお解りでしょうが。
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3. Mikiko- 2012/02/07 20:19
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人後に落ちませんのでね。
ついつい、わが身になぞらえてしまうのじゃ。
恥ずかしさのあまり……。
ケーキに大外刈を掛けてしまいそうになる。
あの文章を、還暦すぎのオヤジが書いてるかと思うと……。
ほとんど呆然とします。
あれを書きながら恥ずかしくないってのは、一種の才能です。
わたしの及ぶところではありません。
夏実の正体は……。
さっぱりわからん。
まともに読めんせいか?
海苔ピーは、わかってるんでしょうか?
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4. ハーレクイン- 2012/02/07 20:25
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恥ずかしさのポイントが全く異なるのであろうか。
まともに読めんって……読めよ!
夏実の正体、わからんかあ。ここまで小出しにしてきたぞ。
さては……ちゃんと読んでおらぬな。
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5. Mikiko- 2012/02/07 20:34
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読んではおります。
なにしろ、ワードの文章を、テキストに変換する作業がありますので。
自動変換のルーチンは作ってありますが……。
最終的には、この目で確認してますから。
でもやっぱり、身を入れては読めんのぅ。
恥ずかしゅうて。
なぜでしょうね?
わたしの作った登場人物が、人の手で痴態を晒すのが恥ずかしいからでしょうか?
身内の見てはならないシーンを、覗き見てる気分になるからかも。
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6. ハーレクイン- 2012/02/07 20:43
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“痴態”って、“見てはならないシーン”って……。
造形した人物は作者にとって“身内”なのか。
でもって、自分が痴態を晒しているように思えるのか。
ふーむ。
そういえば美弥ちゃん。
両親の寝室を覗き見したんだったよなあ。











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