2015.1.1(木)
丹波の国。
睦月にしては珍しく晴れ渡った空から、二の丸を爽やかな風が吹き抜けてゆく。
衣替えの行事が進む中、羅紗姫は忙しく立ち回る腰元たちを満足げに見渡した。
もう年も20代半ばを過ぎて可憐な蕾の風情こそなくなったが、その大輪の花が開いたような気高い美しさは城内でもひと際輝いていた。
父である大殿の意向を受けて、今では城内の家事取り仕切り一般を引き受けている。
粛々と家事をこなしていた腰元たちが、突然一斉に顔を上げて周囲を見回した。
場内にあるまじき床を走りくる音に、羅紗は振り返って声を上げる。
「これ、鶴千代! 場内をそのように走ってはなりません。何度申したら分かるのですか」
「はあはあ……。しかし母上、……はあ……」
色白の細面を紅潮させて鶴千代は羅紗に訴える。
綺麗な顔立ちながら、繊月に似てつり上がった眉と涼しげな目元が凛々しさ感じさせた。
「初音婆から本日は城内で衣替えの行事が執り行われると聞きました。私にも何かお手伝いすることはないのでしょうか?」
その健気な言葉に、つい羅紗はその表情を緩めた。
「あなたの気持ち、母はとても嬉しく思います。ですが場内ではそれぞれ役向きの者がぬかりなく準備を進めており、あなたが間に入ってはかえって手はずが狂うかもしれませんね」
「そうですか……」
母の言葉を聞くと、もう10歳を迎えた鶴千代は落胆の表情を浮かべた。
「ですが鶴千代、あなたに出来る事はありますよ。それぞれ皆が何をしているのか学んで、そして時折ねぎらいの言葉をかけておやりなさい。喜んでくれるかもしれません」
「ええ、わかりました母上。では早速行ってまいります」
鶴千代はにわかに顔を輝かすと、言うが早いか再び走り出す。
「あっ、これ鶴千代、走ってはなりません。これ! 鶴千代! もう……しようのない」
みるみる走り去っていくわが子の後姿を、羅紗は笑顔と共に眩しく見つめた。
“もう10年が過ぎたのですね、伊織様……。あの子はあなたそっくりになって参りました。”
何年が過ぎても、その人のことを思い出す時、微かに羅紗の胸は痛んだ。
江戸屋敷からの便りでは、伊織はお蝶ともども恙無く暮らしているということであった。
“二人で元気にしていれば、それが何より……。”
羅紗はそう思って、会う事は勿論、便りすら送ることはなかったのである。
そしてこの時羅紗は、もう一生再び、伊織と会うことはない運命だと思っていた。
日も西に傾き、そろそろ今日の衣替えを終えようと思いながら、羅紗は城内の各所を調べ歩いていた。
最後に寝所近くに赴いた時、廊下の先で鶴千代の前にかしずく女の姿が見えた。
どうやらその女はねぎらいの言葉をもらって、鶴千代に頭を下げて礼を言っている様子である。
羅紗はその光景が微笑ましく、自分も一言言葉をかけようと二人に近づいて行った。
女は羅紗が近づくのに気付いてまた深々と頭を下げた。
「ほほほ、もうよいよい。御苦労、顔を上げよ」
女は羅紗の言葉におずおずとその顔を上げる。
「はっ! そ、そなたは……!!」
みるみる羅紗の顔色が変わった。
「お……、お通さん!!」
その女は在りし日のお通と瓜二つの顔をしていた。
「ら、羅紗様……。恐れながらわたくし、昨日よりお城に上がりました鷹と申します」
「母上、どうかしたのですか……?」
鶴千代も母の驚いた顔を心配そうに覗き込む。
「そ、そうか、そなた鷹と申すか……」
そうであった。
もしお通が生きているとしても、もう今は40代後半の年になっているはずである。
それに引き替えこの鷹という女は、どう見てもまだ30代そこそこであった。
まさに琵琶湖近くの山中で、最後に別れた時のお通に生き写しだったのである。
鷹は立ち上がって羅紗の身体を支えた。
「羅紗様、どうかしばらくお部屋でお休み遊ばされませ。きっと行事でお忙しく、お疲れが溜まっておられるに違いありません。わたくしがこうしてお助け申し上げます」
「そうか、すまぬ。ではしばらく部屋で休むことにしましょう。鶴千代、お前は初音婆の所にゆき夕餉をいただきなさい。母はしばらく休めば大丈夫ですから」
「分かりました。では、母上お気をつけて……」
鶴千代はまだ不安げな表情のまま去って行った。
「さあお部屋に参りましょう、羅紗様」
「では頼みます……」
鷹は羅紗の両肩を抱くと部屋へ向かい始める。
羅紗はそんな鷹の行いに胸を熱くしながら、ますます在りし日のお通と自分を思い出していた。
ただそんな羅紗の思いに反して、鷹の目は鋭い眼光を宿し始めていたのである。
寝所をもう宵闇が包んでいた。
「はっ……!」
うっすらと目を覚ました羅紗は、布団の中で自分が誰かに抱かれているのに気付いた。
「お目覚めになられましたか、羅紗様……」
部屋の隅の蝋燭の明かりが、かろうじて目の前の鷹の顔を映し出した。
「そ、そなた何をしている!」
身を逃がしながら羅紗は言った。
「も、申し訳ございません。お休みになってから寒そうに身体を震わしておられたので、畏れ多いとは存じましたが、私が抱いて温め申し上げておりました」
羅紗の動きが止まった。
四日市の船の上でお通と過ごした思い出が、まざまざと羅紗の脳裏に甦ったのである。
「それは……なんと礼を言えばよいか……」
それを聞いて、意味深な笑みが鷹の顔に浮かんだ。
「畏れながら………」
鷹は左手を羅紗の背中に廻して引き寄せながら囁く。
「羅紗様にはお疲れの他にも、もっと悪いところがございます」
そのまま右手が羅紗姫のものを包み込む。
「なっ、なにをする! 離しなさい!!」
眠り込んでいる間に仕込まれたのだろう、羅紗のものはこれ以上ないほど熱く強張っていた。
「この事は、わたくし以前より存じ上げてりました……。それにこんなに精をお溜めになっては、お体に障ります」
「や、やめて! 離しなさい!」
羅紗の懸命な抗いも、鷹は巧みに羅紗の身体を抱きすくめて離さないのだ。
「もう、やめなさい! 大きな声を出しますよ!」
「どうぞご自由に。いま人をお呼びになるのは賢いお考えではないと存じますが……」
鷹の言う通りだった。
今城内の者が大勢来れば、困ったことになるのは羅紗も同じなのである。
一瞬羅紗の抵抗が弱まった。
「羅紗様、お可哀そうに。今まで気を晴らすこともお出来にならなかったでしょう? 今宵はわたくしが思う存分、その気を晴らして差し上げますよ……」
「い、いや。やめて……」
鷹に絶妙に強張りをしごかれて、羅紗は身を捩って女の声を上げた。
背中に廻した鷹の左手が羅紗の襦袢を肩脱ぎに引くと、女盛りの乳房が弾み出る。
ますます固く反り返ったものを煽られながら、乳房の先を鷹の口に吸い含まれた。
「あ、いやあっ……!」
熱くぬめぬめとした物に絡まれて、みるみる乳首が頭をもたげる。
弾き立った乳首を吸い離すと、鷹は熱い吐息と共に囁いた。
「いやなんですか、こんなによだれを流しといて……」
もう鷹の右手が弄ぶ強張りの先からは、透明な露が次々と垂れ落ちていた。
鷹は素早く起き上がって馬乗りになると、羅紗の襦袢の前を引き開ける。
普段の清楚な美しさとは違って、匂い立つ様な女盛りの裸体が露わになった。
そしてその下半身には、美しい女の身体に似つかわしくない、猛々しい物が屹立していた。
鷹は羅紗と逆向きにその身を伏せる。
「はっ! ああだめっ!!!」
羅紗の身体が反り返って跳ねた。
脈打つ強張りを鷹の口の中に吸い含まれたのである。
「あ、だめ……あああ、くうっ!」
その反応に鷹は慌てて羅紗のものを吸い離した。
「おっと、危ない危ない。どんなに嫌がっても、気を遣る時はやっちゃいますからねえ」
片手でゆっくり怒張をなぶると、鷹はその脇の袋をやわやわと口中に吸い含んだ。
透明の露が反り返った物の先から溢れ出し、蝋燭の炎にきらきらと輝いた。
「くうう~、もうゆるして……」
眉の間に深い縦皺を刻んで羅紗は泣き声を上げる。
そんな訴えに羅紗の袋を吐き出すと、鷹は振り返ってにやりと笑った。
顔が向き合う様に座り直し、目を閉じて荒い息を吐いている羅紗の耳元に囁く。
「うふふ……、 今宵は私の中で思う存分……気をおやりくださいませ……」
鷹は右手で羅紗のものを自分の中に導いていった。
「くうう……」
羅紗は鷹の熱いものに包まれて呻きを上げた。
鷹の腰から下が、まるで別の生き物の様に蠢き始める。
「ああだめっ……ああもうっ……」
白い裸身がくねり返って、上向きの乳房がぶるぶると弾む。
「羅紗様。さあ早く、こちらに!」
鷹は羅紗の上体を引き起こしてそのまま自分の上に誘った。
羅紗の白い尻に下から鷹の両足が巻き付く。
「さあ羅紗様、お情けをッ!」
羅紗は夢うつつで鷹の顔を見た。
“お通さんが……、お通さんが私を欲している……。”
羅紗はもう我を忘れた。
腰のくびれを捩って、鷹の潤みの中に強張った物をうねらせる。
「ああ~~~、羅紗様っ」
吸い付く様に鷹の熱いものが纏わり付いて来る。
下から顔を引き寄せると、鷹は貪る様に羅紗と唇を重ねた。
「んむっ……んぐううう~~~っ!!」
羅紗の白い裸身が強張って震えた。
堰を切った様に精がほとばしり出る。
鷹と深く口を吸い合ったまま、羅紗姫の身体に断続的な痙攣が走った。
「んぐっ! ………ぐっ!! ……ぐっ!! ……ぐうっ ……!!」
全身の柔らかみを震わせながら、熱い情念を吐き出すように羅紗は鷹の中に幾度も精を放ったのである。
物音ひとつしない真夜中、再び羅紗は深い眠りに落ちていた。
鷹も羅紗に身を添わせて微かな寝息を立てている。
しかし何故か寝所の蝋燭が微かに揺らいだ時、鷹の目がゆっくりと開いた。
起き上がって外の欄干へと向かう。
すだれを上げると、子供を肩に担いだ女が瓦の上に立っていた。
その女は身の丈6尺もあろうか、癖のある長い髪を背中に束ねて、黒い獣の毛皮に身を包んでいる。
「首尾は……?」
鷹はその女に問いかけた。
「ご覧の通り……」
「でかした。では参ろう……」
再び寝所の中に戻ると、何やら書付を羅紗の枕元に置く。
「うっふふふ、では羅紗様、今宵はこれにて……。また、お会いしましょう」
そう呟くと、鷹は軽々と欄干を越えて漆黒の闇に消えて行った。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2015/01/01 09:31
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わたしのところが休載日なので、『八十八十郎劇場』をお借りして、ご挨拶させていただきます。
本年もよろしくお願いします。[絵文字:v-527]
さてさて。
2015年、始まりましたね。
そしていきなり!
みなさまに、素敵なお年玉を差し上げることができました。
すなわち、『元禄江戸異聞』、続編の連載開始です。
いやー。
初回から面白いですね。
2015年、楽しい年になりそうです。
あ、『八十八十郎劇場』の掲載日ですが、また木曜日に戻ります。
お間違えなく!
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2. ハーレクイン- 2015/01/01 13:04
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お懐かしや羅紗姫様!
管理人さんは「素敵なお年玉」と仰せですが、正月早々「うーん、ダイナマイト」ですね。こういうのを「爆弾お年玉」というのでしょうか(いわん言わん)。
懐かしの『元禄』。続々編ということになるのでしょうが、タイトルは「根来」。
ふうむ。当然忍者物ですよね。前作『続元禄』でもわんさと登場した忍者、今回は根来衆ですか。むむむ。いや、実に楽しみです。
とはいえ、わたしとしては少し困っております。といいますのは、前作『十日室』。再読してコメの続きを……としばらく前に申しあげましたが、まったく進んでおりません。
弱ったな、『十日室』を差し置いて『元禄根来』に先にコメするのもなあ。どうすんべ。
ということで、少し悩んでみます。
それにしても八十郎さん、えらい勢いで書かはってますなあ。いやいやいや、これはわたしものんびりしておれぬ、頑張ります。
しかし、『アイリス』『リュック』の行く末は、いまだ深い霧の中……。
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3. 八十八十郎- 2015/01/01 17:00
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畏れ多くも、今年は元日からMikiko姫(?)に奉納の運びとなってしまいました。
全く荒唐無稽に進んでおりますので、
もしお読みになる方がいらっしゃれば、
お屠蘇をほどよく召しあがった後の方が
よろしいかと思います。(笑)
ハーレクンさん、コメントはどうかお気になさらず。
今年もよろしくお願いいたします。