2014.8.9(土)
障子の前で亜希子と薫は二つの影になりつつあった。
雨風で家が軋む音に、その影は自然と前かがみに近づいていく。
「とうとう役人はその娘を幽閉することにしました。大人を蝕む恐ろしい娘という理由があったそうですが、いわゆる心の病として隔離しようとしたと思われます」
「そんな………」
亜希子は悲しげな呟きを漏らした。
「役人の妻は自分も一緒に室に入ると主張しました。
最初役人はその要望に取り合いもしませんでしたが、出来なければ室の前で自らの命を絶つという妻の言葉にしぶしぶその主張を呑んだのです」
「では奥様も一緒に室に入ったのですね?」
「ええ、しかし……」
「しかし………?」
薄暗がりの中で、薫の目が異様に輝いた。
「その時、役人の心に悪魔が宿りました」
「悪魔が………?」
薫は黙って頷くと続ける。
「室の中の命は、外からも奪う事が出来ると妻に告げたのです」
亜希子は目方慶子の言葉を思い出した。
「悪魔の策略は卑劣なものでした。室の中の二人の内、一人は助かる方法があると言うのです」
「二人の内、一人だけが助かると………?」
「ええ………。そしてその方法を、役人は妻に教えたのです」
何故か亜希子は、夢中で耳を塞いだ。
「亜希子さん、亜希子さん………」
呼びかける声に亜希子は目を開いた。
どうやら少しの間、自分を失っていたようだった。
心配そうな薫の顔が横から亜希子を覗き込んでいた。
「ごめんなさい。少し怖がらせ過ぎてしまったようですね」
「い、いえ、私どうしたのかしら……? 心配させてすみません」
薫はほっとしたように自分の座布団に座り直す。
「じゃあ、残りの話は十日室が終わってからにしましょう」
「そ、そんな」
亜希子は慌てて薫の顔を見た。
「大事な行事の前に体調でも崩したら大変ですから。……ね?」
「娘と奥様はそれからどうなったんですか!?」
亜希子は縋り付く様に薫に問いかける。
薫は呆れ顔で大きな溜息をついた。
「その役人はそんな邪心に捕らわれたせいか、放心したように何処へともなく姿を消したということです。
その後十日間に渡って娘がその室の中で祈りを捧げると、その年は大変な豊作になったといい、どうやらそれをきっかけに乙女の室籠りが始まったようですね」
「で、奥様はどうなったの!?」
薫は亜希子の真剣なまなざしから目を逸らした。
「それくらいは、後の楽しみに残しましょう」
「いいえ、このままじゃ心残りで室に入れないわ」
「仕方ありませんね……」
薫は目を伏せた。
「奥様は生き残る方を選びませんでした」
「そ、それじゃ………」
薫は黙って頷く。
「奥様は娘の為に死を選んだのです」
「な、なんてこと…………」
亜希子の目がみるみる潤んだ。
「それから亜希子さん、これは明日からの介添えにも関係あることですから、もうひとつだけ聞いてください」
やっと頷いた亜希子の目から一筋の涙がこぼれた。
「室から出た娘は、自分の処女を奥様に捧げたかったと呟いたそうです」
亜希子は目を見開いた。
「では……、その娘は処女のままだったと………?」
「ええ」
亜希子は小さな眩暈を感じた。
「つまり介添えの役割は………」
「もうやめて!」
「介添えは、奥様に娘の処女を捧げる役割なんです」
薫の言葉が頭の中に響き渡った。
「じゃあ始めましょうか。申し訳ありませんがここに布団を敷いて、服を脱いでいただけますか? この暗いままでも大丈夫ですよ」
そう言うと薫は自分のブラウスのボタンを外し始めた。
しかしまだ座ったまま動かない亜希子に気付くと、諭すように声をかける。
「亜希子さん、碧ちゃんは毎日お祈りしながらあなたを待っているのよ。
正直言ってこんなこと初めてだけど、何だか私、あなたと碧ちゃんが昔の奥様と娘に重なって見えるの」
亜希子の瞳に再び魂が宿った。
「でも今度は、是非あなたに生きて出てきてもらいたいのよ」
「え……!?」
「い、いえ冗談よ。昔じゃないんだもの、二人とも元気で出て来るに決まってるじゃありませんか」
後ろ手でブラジャーを外す薫を見ながら、亜希子は布団の入った押し入れに向けて立ち上がった。
亜希子は布団の上に仰向けになった。
軽く片手で胸を隠して、まだパンツは着けたままである。
片肘を付いて薫がその横に寄り添った。
横から亜希子の顔を見ると、薫の顔に微かな笑みが浮かんだ。
「ごめんなさい。初めての時、自分で下着まで脱いでしまう女性もいないわよね」
亜希子は返事をしないまま、天井を見つめた。
それは最近の既製品の天井では見られない様な、複雑な木目を見せていた。
「実を言うと今回は、私ほとんど心配してないの。おそらくあなたと碧ちゃんは、自然に事が運ぶはずよ」
天井の木目の中に、うっすらと碧の顔が浮かんだ。
「最初はキスしたり抱き締めたり、それから…………、わかるでしょう? そして準備が出来たら、指で彼女をあなたのものにするの」
「指で………?」
「そう、指で」
薫は容量を得ない顔をした亜希子に続ける。
「中指か人差し指……。細い割には意外に深く入るから、初めては人差し指がいいかもしれないわ。やってみましょうか? ちょっと失礼」
薫は起き上がると、脇から亜希子の下着に両手を添えて引き下ろす。
亜希子は自らお尻を浮かし、膝を曲げて下着を抜き取らせた。
再び横に寄り添うと、薫は指を口に含む。
じっと目を見つめながら、その右手が亜希子の下半身に降りていった。
「ほら、こんなふうに……」
ぬうっと薫の指が押し入って来るのと同時に、亜希子は背筋を震わせた。
「あら……?」
亜希子は目を閉じた。
「指を濡らさなくても大丈夫だったようね。私にも試してみる?」
「そんなこと言わないで。もう分かったわ」
亜希子は薫から顔を逸らした。
「ごめんなさい、からかってるわけじゃないのよ。でも覚えといて。その時、碧ちゃんの目を見つめてあげて。きっと碧ちゃんも見つめ返してくると思うわ。そして奥様に思いが通じるのよ」
亜希子は黙って頷いた。
「そしてその後が大事。あなたと碧ちゃんは思いをひとつにするの、ある方法で」
それを聞いたとたん、亜希子にある考えが浮かんだ。
「お道具でひとつになるの?」
薫は驚愕の表情が浮かべた。
「あなた知ってたの!?」
「ええ、室の外から中の人間を殺す方法だって……」
「あなた、一体誰から………」
言葉を呑みこんだ薫の顔を、亜希子は静かに見上げた。
「民さんね………。あなた、民さんから聞いたのね」
亜希子は黙って頷いた。
「あの人が普通にそんな事を話すはずはないわ。亜希子さん、あなた………、お道具を経験したの………?」
「いいえ、それはまだ……」
さすがに亜希子は首を横に振った。
薫は遠くを見る様な眼差しになると口を開いた。
「あの人が私にすべてを教えてくれたの……。私たちはお道具が溶けてなくなるまで愛し合ったのよ」
亜希子は初めて薫の表情に哀れを感じ、じっとその顔を見つめた。
「でもそれから、私とあの人の考えは食い違っていった……。あの人は、私に室を任せて身を引いてしまったの」
薫は何かに耐えるようにその目を閉じた。
「薫さん……」
再び開いた薫の目が赤く潤んでいた。
「亜希子さん、あなたには私と一緒に十日室を引き継いでいってほしいの」
「え……? そんな……」
亜希子は薫に強く抱き寄せられた。
「お道具の使い方も、あたしが教えてあげる」
「あ、ちょ、ちょっとまって……」
乳房を掴まれ、薫の熱い唇を首筋に受けながら、亜希子は疼く様な快感が背筋を這い上って来るのを感じていた。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2014/08/09 12:36
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鼈甲製の張り型が使われてたそうです。
その他、水牛の角、銅製や真鍮製のものもあったとか。
いずれも、中にお湯を入れて使うんだそうです。
いわゆる、人肌というやつですね。
確かに、金属製をそのまま真冬に使ったら、ちべたくて飛び上がるわな。
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2. ハーレクイン- 2014/08/09 13:59
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へええ、聞き始めです。
生々しいですなあ。
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3. Mikiko- 2014/08/09 19:41
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燗酒を入れておいて、あとで一緒に飲めばいいではないか。
まさしく、“挿しつ挿されつ”。
↓そう言えば、こんなのもありました。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20110102202405cf3.jpg
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4. ハーレクイン- 2014/08/09 20:20
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懐かしの「ほだれ酒」
相変わらず逞しいですなあ。
いつでしたっけ、ご登場は。
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5. ハーレクイン- 2014/08/10 01:16
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寝ていましたら、雨音で目が覚めました。
で、天気図を見ましたところ、
台風の野郎、足摺岬におるようです。
とっくに日本海に抜けたと思っていたのになあ。
もたもたしおって。
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6. Mikiko- 2014/08/10 08:08
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東北本編では無く、2011年のお正月特集でした。
↓618回のコメントですね。
https://mikikosroom.com/archives/2672006.html
にごり酒にすればいいのにね。
台風11号。
ようやく高知に上陸したようです。
近畿は、これからですね。
大阪府では、16市町村のおよそ9万5000人に避難勧告が出てるそうです。
高槻市は、まだ避難準備情報のようですが……。
↓すでに避難所が開設されてます。
http://www.city.takatsuki.osaka.jp/kinkyusaigai/201408091630.html
こんなことは滅多にありませんから、ぜひ行ってみてください。
お酒は飲めないと思いますが。
ただし、原稿だけは忘れずに。
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7. ハーレクイン- 2014/08/10 08:29
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手近の避難所は「五領公民館」のようですね。
ま、よっぽどのことが無い限り、転がり込む気はありません。
「よっぽどのこと」があってからでは遅いんだけどね。
しかし……今のところ、雨も風もありません。静かなものです。
「天には栄え、地には平和を」
原稿は、鋭意執筆中。











![[官能小説] 熟女の園](https://livedoor.blogimg.jp/mikikosroom2008/imgs/3/e/3e07a9c3.gif)





































































































