2014.7.26(土)
亜希子は何かに誘われるように暗い廊下を歩いて行った。
やがて北向きにその廊下は行き止まりになり、突き当りの部屋の中から切迫した息遣いが聞こえてくるのだった。
古民家にしては防寒ざくりの無い方立(ほうだて)の隙間から、薄赤い光が漏れて来る。
「ふんっ……ぐっ! ……ふんん~~~っ!!!」
戸襖の向こうで獣の様な息遣いが起きた。
亜希子は夢中で建具脇の隙間に顔を押し付ける。
突然わずかな隙間が数センチにも広がった様な気がした。
霜降りの下腹部から内腿の柔らかみがぶるぶると震えていた。
肉食獣が獲物の喉に食らいつく様に、目方慶子は絶頂に強張る民を組み敷いたまま唇を重ねていた。
息を呑んだ亜希子の背筋が震えた。
疼く様な情欲が身の内に湧き上がってくる。
反り返った裸体を横抱きにしたまま、まだ慶子の右手は民の女を侵していた。
その引き締まった腕の筋肉が動くと、改めて民の女を掴み込む。
「ふんぐっ……! ……はっ! ……ちょっと待って………。はあっ……、はあっ……」
民は唇を逃がして荒い息を吐いた。
慶子の首に両手を廻して抱きつくと、その首筋に顔を埋める。
「もうっ……、こんなおばさんに恥ずかしい真似させて……」
「うふふ……」
恨みがましい民の口調に、慶子は小さく笑った。
布団の上に起き直ると、ふくよかな民を軽々とその胸に抱き起す。
「あら、それは残念。眼鏡かけてなかったから、みっともないところはほとんど見えなかったわ」
「もうっ!」
民は身を捩って慶子の胸から逃れようとする。
慶子は片手でその裸身を抱き留めると、枕元の眼鏡をかけて民の顔を覗き込む。
「嘘よ、ちゃんと見えたわ。民さん、とてもきれいだった」
「そんなお世辞言っても……、むん……」
何か言おうとする民の唇が再び慶子の唇に塞がれた。
顎を上げてその唇と舌を受け入れる内に、再び民の両手は慶子の肩先をさ迷う。
息を潜めて亜希子が見つめる中、二人の唇がゆっくりと離れた。
民は潤んだ眼差しで慶子を見上げる。
「じゃあ今度は……、あたしがお山の奥様の様にあなたを愛してあげるわ」
「その……さっき聞いた、昔の奥様の様に………?」
「父が秘密にしていた研究記録を、ここを改装した時に見つけ出したの」
慶子は改めて片手で眼鏡をずり上げながら頷いた。
「その記録を元にお道具も自分で作ったのよ」
「お道具………?」
「そう……、女と女が身も心もひとつになれるもの……」
「女同士がひとつに………?」
「芋の皮を煮詰めて、その樹脂と繊維を固めたものよ」
民は黙って立ち上がる。
亜希子は立ち上がった民の向こうに、縁側の雨戸が細く開けられているのを見た。
息を止めて後ずさると、自分の部屋へ戻る。
しばらく亜希子は布団の上で息を静めると、暗い縁側を降りて庭伝いに北側の部屋へ向かった。
雨戸は30センチ以上開いていた。
亜希子は自分の姿に気付かれないように、建物から少し離れた大きな庭石の影に身を潜めた。
この暗がりの中なら、中の二人が岩陰の亜希子に気付くことはなさそうに思えた。
何故なら部屋の中には薄赤く小さな豆球が灯るばかりだったからである。
逆に漆黒の闇の中からは、中の様子が妙に鮮明に見て取れた。
二人は犬の様に繋がっていた。
四つん這いの慶子の後ろで、ふくよかだが上品に膨らんだ民の乳房が揺れている。
慶子のお尻と民の下半身とは、何かで繋がっている様に動いている。
「あ……うう…………ん……」
ロングヘアーを揺らして頭を垂れたまま、慶子が低い声で呻いた
民は慶子の腰のくびれを両手で掴むと、その下半身の動きを速めだした。
そのふくよかな体型に似合わず、下腹の肉を揺らしながら絶妙に腰を蠢かせている。
「あ………ああああ……あいい……」
上ずった声を上げて慶子は亜希子の方へ顔を上げた。
“んぐっ………。”
眉を寄せて快感に身を焼く表情に亜希子は生唾を呑んだ。
「気持ちいいでしょう……?」
「あううう、こんなの初めて……。身体の中が溶けて出そう……」
「あたしの近くで縛ったから、あなたには深く入ってるはずよ。うふふ……、でも少ししか入ってなくても、あたしもあなたと溶け合いそうに気持ちいいの」
二人を繋ぐものは、何か芋のつるの様なもので民の腰と一体になっていた。
女主人は、あの気さくな性格からは信じられない様な妖艶な笑みを浮べた。
「もう満足させてあげようか……?」
「ええ、お願い……して……」
民は上から慶子の背中にのしかかった。
両手を廻して慶子の豊かな乳房を鷲掴みにすると、お尻から煽る様に腰を動かし始める。
「はあっ、ねえ……お、重い……?」
「ううん、大丈夫……。き、気持ちいい……」
民が慶子のお尻に腰を振る度に湿った音がし始める。
「はあ、いい………ぞくぞくするう………」
慶子は民を背中に乗せたまま、声を上げて身を捩った。
民の右手が乳房を離れて、慶子の太腿の付け根へと滑り降りて行く。
「あっ、くう~~……!」
慶子は背を丸くして裏返った声を上げた。
「まあ……、あなたのここ、すごく固くて張ってるわ……」
忙しなく腰を使いながら、民の右手が慶子の股間で動き始めた。
「ああっだめっ………、ああもう溶けそう……」
その伸びやかな裸身が崩れ落ちそうに、布団についた慶子の両手がブルブルと震える。
亜希子は口の中がカラカラに乾いているのを感じた。
とうとう右手を下着の中に滑り込ませた。
そしてそこは、もうとっくに愛液が溢れ出していたのだった。
「ふうっ、ほら、あなたとあたしはひとつに溶け合ってるよ。はああ……、あたしも気持ちいい……」
民と慶子が狂おしく下半身を競り合わせる度に、湿った粘着音と空気音が薄明かりの中に響いた。
「ああっ、だめ! ……ああもうっ!」
とうとう慶子の身体が布団の上に突っ伏した。
民はそのまま慶子の上にのしかかって激しく腰を使う。
「ああもうだめっ、………………ゆるしてっ!」
慶子の両手が布団を掴んだ。
民のぽってりとした指が、慶子の大きめなクリトリスを器用に転がす。
「はっ………く…………いくうう~………!!」
両手で布団を鷲掴みにしたまま、慶子の身体が絶頂に強張った。
「あうっ!………くうっ!……………!」
極みの痙攣が幾度も背中の民を揺るがせた。
その時、急に民は自分と慶子を繋げていたものを外した。
濡れ光った長芋の様なものが、民の下半身から慶子の両足の間に落ちた。
民は切迫した様子で縁側から外へ出て来る。
自分を慰めていた手を引くと、亜希子は庭石の影で身を固くした。
しかし民は亜希子の方には近づかず、縁側のあがり段の石に腰を降ろした。
そして何ということか、両足を開いて自分を慰め始めたのである。
狂おしく両足の間で右手が動き続ける。
「あ………ああっ!」
民は左手を付いて身をのけ反らすと、その身体が引きつって痙攣した。
裸の柔らかみがブルブルと震えたかと思うと、民のものから薄明かりを映して露が飛んだ。
「ふうう………」
やがてゆっくりと身を起こした民は、再び縁側に上がり雨戸を閉めた。
亜希子は気付かれぬように足音を忍ばせて自室へと戻った。
そして数分後には、声を立てぬようにタオルを噛みながら、亜希子自身も快感の絶頂に身を縛られたのである。
一夜明けて、碧が室に籠ってから六日目の朝になった。
明後日は亜希子自身も室に入ることになるのだ。
まるで何もなかったかの様に朝食をとった亜希子と慶子は、清々しい朝の庭に下り立った。
民は食器を下げて、台所に向かったようである。
「亜希子さん、あたし急に一旦岡山まで帰らなくちゃならなくなったの。あなたが室に入るまでに帰れるかどうか分からないけど、気を付けてね」
「え、そうなの? それに気を付けるって……何を?」
指で押し上げた黒縁眼鏡が朝日に光った。
「昨夜いろいろ聞くことが出来たんだけど、今は説明している時間は無いわ。それにまだ、分からない事もあるし……」
「分からないことって?」
「うん……。室の中に入らなくても外から中の命を奪えるとか……、三孔一命という走り書きとか……」
「え! それ何のこと? なんだか怖いわ」
「え……? あはは、いえ、言い伝えの話よ。そんなに怖がらなくてもいいわ」
「大丈夫かしら………」
慶子は時折見せる優しげな眼差しで亜希子を見下ろした。
「大丈夫、あたし大急ぎで帰って来るから。よし、早速バイクの点検して出発しなきゃ」
そう言うと慶子は大股で歩き出した。
「あ、ちょ、ちょっと慶子さん」
「なによ、大丈夫だって、すぐ帰って来るから」
そう胸を張って答えた慶子に、亜希子は気の毒そうに口を開いた。
「ええ……、いえそうじゃないの……。玄関はこっちなんだけど……」
慶子は立ち止まると、再び眼鏡を上げる。
「ちょっと散歩がてらに遠回りで行こうと思っただけでしょう。分かってます」
亜希子は一瞬介添えという不安も忘れて、微かな笑みとともに肩を怒らせて歩いて行く慶子の背中を見つめた。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2014/07/26 20:08
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最初、何のことかわかりませんでした。
ひょっとして“防寒づくり”のミスタッチかと思い、八十郎さんに尋ねたところ……。
↓の図入りで丁寧に解説していただきました。
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20140726200141e04.jpg
不思議なのは……。
八十郎さんの住まわれる九州にはあるのに、新潟では見かけないことです。
で、わたしなりに考えてみました。
九州では、隙間風さえ防げば、暖房なしに過ごせるからではないでしょうか。
それに対し、新潟の冬は、暖房なしにはいられません。
となると、逆に気密性を高くし過ぎると、一酸化炭素中毒などの危険が増すわけです。
そのため、安全弁としての隙間風を容認してるのではないかと。
穿ち過ぎでしょうか。
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2. ハーレクイン- 2014/07/26 20:31
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これのないのが「方立(ほうだて)」。
全くの聞き始めです。
やはり、建築関係の専門用語なんですかね。
それとも、九州方面の方言だったりして。
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3. Mikiko- 2014/07/27 09:00
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“方立”というのは、引き戸が閉まったときに当たる角材のことです。
引き戸の当たる面は、平滑なのが普通です。
一方、隙間風を防ぐため、引き戸が入り込む窪みを付けた方立があります。
この窪みを、“さくり”と云うわけです。
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4. ハーレクイン- 2014/07/27 10:23
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いや、そんなものは八十郎さんの図を見ればわかるよ。
言葉自体が聞き始めだと言っておるのだ。
もちろん、実物を見たことはありません。
漢字はあるのかね。
「狭刳り」というのはどうだろう。
ま、しかし。
確かに前コメの言いかたは不正確だったなあ。
「さくり」のある方立と、ない方立がある、ということですね。
八十郎さんって、建築関係のお方なんですかね。
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5. Mikiko- 2014/07/27 12:55
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関西でも、さくりのある方立は無いんですね。
技法的に、さほど難しいとは思えないのに……。
隙間風を防ぐ方策としては、優れてると思います。
刳り貫くのが面倒なら、両端に細い角材を打ちつけても実現できますよね。
なんで、全国的に普及しないんでしょう。
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6. ハーレクイン- 2014/07/27 14:31
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ほんとに初めて聞きました。
隙間風を防ぐだけなら、隙間テープを張ればいいじゃん、と思いますが。
いやいやもちろん、「さくり」という発想と、その技法の凄さには一言もありません。
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7. Mikiko- 2014/07/27 19:44
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さほどのものとは思いません。
バルサ材みたいなのを打ち付ければ、同じ効果が実現出来ると思います。
ただ、見た目は、そうとう違うでしょうけど。
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8. ハーレクイン- 2014/07/27 21:37
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“さくる”のとではぜんぜん違うと思うが。
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9. Mikiko- 2014/07/28 07:55
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わざわざ刳り貫くなんて面倒なことしたんでしょうね。
両側に細い板を打ち付けるだけでいいのに。
やっぱり、大工さんの矜持でしょうかね。
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10. ハーレクイン- 2014/07/28 12:49
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確かにそういうのはあるようです。
ま、矜持も何もない社会人・学生が増えているようですが。
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11. Mikiko- 2014/07/28 19:30
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やはり、経師屋でしょうか?
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12. ハーレクイン- 2014/07/29 00:27
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久々の大駄洒落。
矜持をもつ経師屋!
きょうじ‐や【経師屋】
①経師を職業とする人。表具屋。
② 婦女子を手に入れようとねらう人。経師が物を「貼る」に、
「張る(見はってつけねらう意)」をかけていった語。
広辞苑第六版
②は今でいうストーカーですな。
しかし「経師屋」って、ほとんど死語だよな。