2014.5.24(土)
亜希子は薫に会った時から感じていた素朴な疑問を口にした。
「失礼ですが、小山内さんはこちらのご出身なんですか? その……、貴女に全く訛りを感じないもので」
「いいえ、出身は全く別の場所で、関東なんです」
「じゃあこちらの県庁にお勤めって、学校の関係とか……?」
「いえ学校も東京なんです。何と言うか……、最初は旅行で来て、そのままひょんな縁でここに住み着いてしまいました」
「まあ、そうなんですか……」
その時庭に出ていた真希が縁側から声をかけた。
「昔と違って、お風呂も薪じゃなくてプロパンになってますね。ところで、あたしお腹空いて来ちゃったな、食事は何時ごろですか?」
薫は縁側の真希に向って答える。
「夜は7時、それから朝8時に朝食とお昼のお弁当を届ける様に言ってあります」
亜希子は薫の背中に向けて言った。
「色々とお手数をおかけします。あと十日間、宜しくお願いします」
薫はまた亜希子に向き直って口を開く。
「では私は村の知り合いの所に泊まりますので、これで……。それから、夜お休みになる前に用を足しておかれた方がいいですよ。夜中に一人で外のトイレに行くのは怖いですから……」
「え~やだ、そんなこと言われると余計怖くなっちゃう! 田代さんお願い、寝る前に一緒にトイレに行きましょう」
真希が肩をすくめて声を上げた。
「あはは、ええそうしましょう。ほんとにあたしも怖いわ」
亜希子が真希にそう答えると、薫は笑いながら二人に頭を下げて玄関へと向かった。
夜具の中で亜希子はふと目を開けた。
こんな時に皮肉なものである、就寝前に用を足したにも拘らず亜希子は強い尿意を覚えていた。
枕元の携帯で時間を確かめてみる。
午前3時半。
この時間では、とても夜明けまで尿意を我慢し通すことは出来そうになかった。
窓のカーテンが微かに明らんでいる。
トイレ小屋の外壁には電灯が点いているので、全くの闇夜を手探りで歩く訳ではない。
亜希子は隣室で寝ている真希を起こして付き合ってもらうことにした。
亜希子は夜具から起きだして隣室に続く襖を開けた。
“あれ………?”
隣室に入っていくら目を凝らしても、布団の中に真希の姿は無かった。
こんな夜更けにどこにも行くはずはない。
“ひょっとしたら、あたしみたいにトイレに行きたくなったのかも……。”
それしか考えられなかった。
しかしそうは言っても、尿意に増して真希の事も心配になってくる。
亜希子は思い切って玄関を出て外へ向かった。
「真希ちゃん。真希ちゃん……?」
トイレの小屋の前まで行くと、亜希子は小声で真希の名を呼んだ。
しかし中から真希の返事は無かった。
ふと周囲を見回した亜希子は、奥の小屋の雨戸の隙間に何かが煌めいたように感じた。
“あの小屋に誰かいるのかしら………?”
尿意も忘れて亜希子はその小屋に近づいて行った。
あと2…3メートルの所まで近づくと、先ほどの煌めきは雨戸の隙間から漏れて来る光だと分かった。
そして亜希子の耳に微かな女の声が聞こえた。
糸を引く様に細く長く、恨むような甘えるような女の声だった。
息を殺して雨戸の隙間に顔を近づけて行く。
亜希子は手の平にじっとりと汗をかいているを感じた。
“はっ……!!”
雨戸の隙間から、何か白いものが動いているのが見えた。
それは蝋燭の火にゆらゆらと照らしだされた、若い女の身体だった。
上向きの乳房がうねりながら、張りを持って細かく震えている。
細い隙間で見えなかったが、女の下半身にも誰か居るのは確かである。
「ああ、もう……」
そう声を漏らすと、若い女は堪りかねた様に上半身を持ち上げて足の方を見た。
“まっ、真希ちゃん!!”
大北真希だった。
亜希子の頭は混乱した。何故真希がここでこんなことを……。
真希の若い胸の肌を、蝋燭に煌めきながら一筋二筋汗が流れ落ちるのが見えた。
「あ、はあっ……!」
後頭部を引っ張られる様に、再び真希の上半身が後ろに反りかえった。
「ああっ………、はっ……、いっいぐうううう……」
揺すり上げる様に上体を揺らしながら、真希は濁った唸りを漏らした。
誇らしく上向いた乳房の先で、弾き立った乳首が細かく震えた。
亜希子は中に気付かれぬようにようやく生唾を呑みこんだ。
真希が目の前でオーガズムに達したのは明らかだった。
しかし細い雨戸の隙間からは真希の上半身の一部しか見えず、快楽を与えている相手を知る事は出来なかった。
亜希子は足を忍ばせて次の雨戸の隙間に移動した。
そこには1センチほどの隙間があり、ある程度視野が広くなりそうだった。
“ええっ!? 女の人!”
くびれたウエストからお尻に盛り上がる曲線は、まさに女の身体だった。
そしてその女性は腹ばいになって、真希の両足の間に顔を埋めていた。
ゆっくりと顔を左右に動かしながら、まだ快感の余韻が残る真希の秘部を口で優しく愛しているようである。
亜希子は全身の血が逆流して、何かが背筋をざわざわと這い上がるのを覚えた。
「はあ……はあ……、ね、ねえ抱いて……」
真希の声にその女性は顔を上げた。
“……おっ………! ……小山内さん!!!”
亜希子は危うく声を呑みこんだ。
「あんまり声出しちゃだめよ」
小山内薫は、しなやかな身体をずり上げて真希に重なりながらそう言った。
肉感的な真希の裸身を抱くと、互いの太腿が局部にあたる様に足を交差させる。
「んむう…………」
薫は深々と真希の唇を奪った。
両手を薫の背中に廻して、真希は身体ごとその口づけに応える。
亜希子は全裸で絡み合う二人を呆然と見つめた。
彼女たちは昨日や今日出会った関係とはとても思えないのだ。
薫はウエストのくびれから下をゆるゆると動かし始めた。
すぐに互いの身体の間から湿った音がし始めて、下半身に性急な動きが加わっていく。
薫の唇を振りほどいて真希が声を上げた。
「ああ……、あたしまたすぐいきそう………」
「大きな声出しちゃだめよ、いい? 今度はあたしも…………むんん………」
再び唇を重ねながら、薫は忙しなく腰を振り始める。
「むぐうううう………!」
薫に合わせて浅ましく腰を振りながら、真希が強張った唸りを上げた。
亜希子はその光景から固く目を閉じた。
眩暈で気が遠くなりそうだった。
やっと身体のバランスを取りながら母屋へと向かう。
何か悪い夢を見たような気がした。
しかしそれでいて、亜希子の身体にこれ以上ないほど濡れそぼった部分があるのも確かだった。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2014/05/24 15:19
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そういう関係だったのか!
しかし、岡山県の職員(だよね)と、東京の出版社の社員(だよね)が何処で知り合ったんだろう。
大学で、かなあ。学生時代からのつき合いだったりして。
惑乱する亜希子さん。
おしっこしなくていいのか。
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2. Mikiko- 2014/05/24 19:34
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サービスカットの挿入。
さすがですね。
マッチロック・ショーも、いよいよ濡れ場に入りそうです。
一方、さーっぱりご無沙汰なのが、『アイリス』です。
いっそ、料亭の座敷で始めなはれ。
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3. 八十郎- 2014/05/24 19:57
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しかしいつも思うのですが、
さすがですハーレクインさん。
おしっこを気にされるところ。
以前こちらにお世話になった時もそうなのですが、
布石を見逃しませんね。
大丈夫です。します。(笑)
書き込み有難うございました。
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4. ハーレクイン- 2014/05/24 20:26
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「濡れ場はええから料理を書け」とおぬかしになったのはどこのどなたさんだ!
>さすがです
何が「さすが」かようわかりませんが、とりあえず「おしっこ大王」と呼んで下され。
それにしても八十郎さん。
ほんとに「やられたー」という感じです。
タイトルの「十日室」もそうですし、舞台の岡山山中もそうですし、話の流れもそうですし……怪しさ満載ですね。
私が書きたい!です。
亜希子さんの体の「濡れそぼった部分」ってどこでしょう。
で、何で濡れているのでしょう。
(亜希子さんを明子さんと書いちまったよ)
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5. Mikiko- 2014/05/25 08:05
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そないなこと、言いまひたか?
『アイリス』もいっそ、伝奇ものにしたら?
明子に連れられ、丹波山中にある宝田の別邸を訪ねるってのはどうだ?
その別邸は、古民家を買い取って改築したもの。
でも、改築されないままの離れや蔵もあるわけです。
『真夜中の檻』。
ど真ん中ですぞ。
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6. ハーレクイン- 2014/05/25 08:59
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そんな、八十郎さんの後追いのような真似はでけまへんがね。
そもそも、『アイリス』は料理小説、あやめは料理人。
ろくに料理もできん場所では活躍のしようがおまへんがね。
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7. Mikiko- 2014/05/25 12:38
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わたしにとっても、とても刺激的でした。
『由美美弥』も、せっかく夏休みなんだから……。
後半は、山の中の離れ家みたいなところに行かせようかな。
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8. ハーレクイン- 2014/05/25 15:46
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都会っ子だろ。
そんな場所に耐えられるかな。
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9. Mikiko- 2014/05/25 19:30
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共に、地方出身者です。
田舎暮らしに馴染めるかどうかは、それまでの生活環境よりむしろ……。
各自の資質の方が、大きく影響するんでないでしょうか。
都会出身者で、田舎に嫁入りした人って、テレビ東京の番組なんかでよく見ますよね。
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10. ハーレクイン- 2014/05/25 21:05
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ま、確かになじめるかどうかはご本人次第なんでしょうね。
わたしなんかは、どっぷり嵌まってしまいました、田舎にね。