2013.5.9(木)
「この季節限定のお弁当、美味しかったね。」
優美は傍らの奈緒子に語りかけた。
奈緒子のマンションに帰る前に、二人は近くのコンビニで昼食を調達していたのだった。
「ええ、そうね。正解正解・・。」
先に食べ終えていた奈緒子はそう答えると、空の弁当箱を見つめて黙り込んだ。
奈緒子はここ2週間ほどのことを考えていた。
それ以前と較べて、これから先奈緒子の仕事は激減していくことが予想された。
もともと奈緒子の仕事は大半がN局相手で、それも幸枝を通じて奈緒子の会社に発注されていたのである。
それがこの2週間というもの、今進行中の件以外に新規の打合せが殆ど無いのである。
勿論奈緒子も幸枝に色々と打診した。
幸枝の話では、
「今、番組編成替えの時期でしょ。最近の経済情勢もあって、会社をあげて業務の見直しをやらされてるのよ。だから色々と、ね? 今注意しとかないと。しばらくしたら、また落ち着くから。」
という事だった。
しかし何故か幸枝からプライベートのお呼びもかからない。
今まで一週間も連絡が無いという事は稀であった。
優美に比べれば全く割り切った関係とは言っても、今の状況は仕事に深刻な影響を及ぼしそうな気がしていた。
N局のビッグイベントの一つである24時間TVが1か月後に迫ったにも関わらず、幸枝から何の連絡も無い。
奈緒子の悪い予感は徐々に辻褄が合い始めていた。
最近N局で幸枝と若い女の子が一緒に居るところを奈緒子は何度か目撃している。
最初は新人タレントかと思ったが、どうもそれは違うようだった。
“ここ2、3日のうちにはっきりさせとかなくっちゃ・・。”
テーブルの一点を見つめながら奈緒子はそう思った。
「な、奈緒子さん、大丈夫・・・?」
奈緒子はその声に顔を上げた。
横から優美が心配そうに奈緒子を覗き込んでいた。
「え・・? 大丈夫よ、ちょっと考え事してただけ。さあ、そろそろ仕事に戻ろうかな。」
「そう・・、じゃあ頑張って。でも、あんまり無理しないでね。」
その優しい笑顔に、自然と奈緒子の顔にも笑みが浮かぶ。
奈緒子は改めて、自分が優美を愛していると感じた。
河野幸枝は忙しなく局内の通路をスタジオへと歩いていた。
後ろからほとんど小走りで矢野彩香がその背中を追いかけている。
「ああ忙しない。今日はお昼も15分しか取れなかったのよ。」
「ほんとですか? お忙しかったんですね。私も24時間に向けて頑張っているんですけど、なかなか捌けなくて・・・。」
幸枝は片頬で笑うと言った。
「それはまだ仕方ないわよ。まあ、あたしがフォローしていくから心配しないで。」
「部長・・・、申し訳ありません。よろしくお願いいたします。」
初々しく答える矢野彩香は、まさに好感度溢れる若い人であった。
そんな彩香の顔を見た幸枝は、ふと自分の腕時計に目をやる。
「まだちょっと早いわね。ちょっとトイレ・・。」
女子トイレに入って行く幸枝に、慌てて彩香も入って行った。
幸枝はトイレの水を流しながら小用を足していた。
矢野彩香は洗面ミラーの前で、ヘアスタイルと服装のチェックに余念がなかった。
人並み外れた魅力を持ちながら、その仕草はまだ高卒の女性の初々しさを感じさせる。
幸枝はブースを出ると、そんな彩香の背中に近づいて行った。
「彩香ちゃん・・。」
人が居ないことを確認して、幸枝は彩香の肩を抱く。
しなやかな身体を振り向かせて、そのままその唇を求めていった。
「あっ・・・。」
その要求に少したじろいだ彩香だったが、すぐ幸枝の背中に手を廻してその唇を受け入れる。
いや受け入れるどころか、彩香は幸枝の唇を揉み込むように吸い返していた。
中年の女の舌がまだ十代の娘の口に吸い出され、甘酸っぱい唾液にまみれて遊ばれていた。
幸枝の挑む様に廻した両手がとたんに背中をさ迷い、身体ごと彩香にしなだれかかっていく。
彩香がやっとその可愛い唇を離すと、幸枝は熱を帯びた眼差しで言った。
「彩香ちゃん、会いたかった・・。」
そう囁く幸枝に、彩香は愛くるしい笑顔で答える。
「嬉しい、お姉さま・・。でも一昨日も会ってたし、あたしお邪魔じゃないかなあって・・・。」
「どうして彩香ちゃん・・? あたしはずっと一緒にいたいの。ね、今夜はあたしのホテルに来て。打合せもあるし・・。」
「ええ、分かりました。うふふ・・、嬉しい。」
そう言うと彩香は幸枝のジャケットの下に手を差し込み、24HのロゴがプリントされたTシャツの上から幸枝の胸に触れた。
「まあお姉さま、どうして先っぽこんなになってるの? ねえお姉さま、あたしのが・・・欲しい?」
幸枝は彩香の熱い吐息を耳に受けながら、堪らなくなって答える。
「ええ彩香ちゃん・・。彩香ちゃんが、欲しいの・・・。」
「あたしの何が欲しいの、お姉さま。」
彩香は思いがけず、身が震う様な黒い声を出した。
「彩香ちゃんの・・・、お、おちんちん・・・。」
それを聞くと彩香は輝く様な笑みを浮かべた。
「うれしい、お姉さま。後で、う~んと可愛がってあげる。じゃあお姉さま、今これ以上しちゃうと仕事出来なくなっちゃうから、もう行きましょう?」
「ええ、分かったわ。じゃ、行きましょ」
二人は鏡に向かって改めて身づくろいすると、トイレを出て再びスタジオへと急いだ。