2012.12.27(木)
壁掛けの時計の針が午前一時を廻っていた。
奈緒美は深々と背中をソファーに沈めたまま、ふうっと大きな息を吐いた。
テーブルの上には空になりかけのワインが3本並んでいる。
響子の部屋でおしゃべりを始めて、既に3時間以上が経っていたのだ。
奈緒美はもう目の焦点が合わないほど酔いが廻っている。
響子はひっきりなしに面白い話をして奈緒美を楽しませた。
だが今はしゃべり疲れたのか、おぼろげな瞳にうっすらと笑みを浮かべたまま、床に座り込んでテーブルに顎を乗せている。
「う、うふふふ・・・。」
奈緒美はそんな響子がおかしくて小さな笑い声を漏らした。
しかし笑わす方は笑わせたくても、笑う方は笑いたくても、ワインの酔いと軽い眠気が徐々に二人を静寂の中に包み込もうとしていた。
奈緒美はソファーにもたれたまま窓の外を見上げた。
「わあ、星がきれいねえ・・・。」
都会では気付きもしないのだが、ここでは暗い空にばら撒いた様に小さな光が瞬いている。
響子は思い出した様に瞳を動かすと、テーブルの上で顔を傾けた。
「ねえ、奈緒美ちゃんの婚約者ってどんな人・・・?」
奈緒美は相変わらず星を見つめながら答える。
「え? そうねえ・・、まあ優しいかな・・。こう見えて、あたし結構神経質なの。色々あって男の人にはなかなか馴染めなかったんだけど、彼はあたしの嫌なことはしないし、その・・平凡だけど・・・あはは・・・まあいいかって感じ。」
「ふうん、そう・・・・。」
響子はぼんやりとつぶやいた。
「幸せなのね・・・?」
「さあ・・・? 幸せって、まだよく分からないわ・・・。」
「うん、・・そうだよね・・・。」
夜更けの静けさが二人を包んだ。遠くから波の音だけが聞こえてくる。
ふと響子は口を開いた。
「さっき話したホテルの人って、私の彼氏じゃないの。ほんとは、彼女なの・・・。」
奈緒美は返事をすることが出来なかった。しかしその言葉の意味は自然と理解出来た。
何故かあまり驚きはしなかった。
静かな時間の流れに埋もれて、その返事を見つけることも出来そうになかった。
ただ見つめる星の瞬きが、急にその輝きを増したように感じた。
ふと奈緒美は目を開いた。
気が付くと照明の消えた部屋の中でベッドに身を横たえている。
裸身の上に白いシーツが掛けられていた。
部屋の中程に、天窓から斜めに青い月明かりが差し込んでいる。
“こんなトップライトがあったのね。知らなかった・・・。”
照明が点いていた時は分からなかったんだと思いながら、心細くなって響子の姿を探した。
ゆっくりと周囲を見回した奈緒美はハッと息を呑んだ。
ベランダに続くテラス戸の前で、向こう向きに響子が佇んでいた。
窓から差し込む月の光が響子のシルエットを黒く浮かび上がらせている。
“響子さん・・・。”
今度は月明かりの窓のキャンバスに響子は現れたのだ。
滑らかなその身体のラインは、彼女が何も身に着けていないことを伝えていた。
伸びやかで幻想的な姿は、まるで月の精のようだった。
奈緒美はうっとりとその姿に見とれていた。
「奈緒美ちゃん、目が覚めたのね・・・。」
ふと響子は振り返ってつぶやいた。
月明かりを背にした影の中で、不思議とその瞳だけが輝いて見える。
「奈緒美ちゃん、横に行ってもいい・・・?」
「ええ・・・。」
奈緒美は自然にそう答えた。
響子はすっとシーツの中に滑り込んで奈緒美に身を添わせる。
そして二人の身体をベッドの背もたれに起こすと、両手を廻して優しく奈緒美を肩を抱いた。
“はっ・・・・。”
奈緒美は小さく息を呑んだ。
だがしかし、そうされる事が自然で、そして自分自身が心のどこかで望んでいる事だとさえ感じた。
「奈緒美ちゃん、驚いた・・? でもあたし・・・、あなたのことが好きになってしまったの。 あなたとの忘れられない思い出が欲しいの・・。」
奈緒美は響子の腕の中で身体が震えるのを覚えた。
何故だか解らない。しかし臆病な自分が、そのまま彼女の胸に顔を埋めたい気さえするのである。
響子は奈緒美の髪に頬を触れ合わせながら囁いた。
「奈緒美ちゃん、あたしの気持ちを見せてあげる。ほら・・・。」
響子は右手を奈緒美の肩から離し、ゆっくりとテラスの方へ差し出した。
奈緒美は何かを指し示すような響子の指を見つめた。
そしてその直後、奈緒美は我が目を疑った。
響子の右手がもう伸びきったと思った後、その手の形が滑らかに歪んだかと思うとCGの様にさらに伸びていくのである。
そしてその伸び行く手の先は、次第に透明に流体化していったのだった。
奈緒美は呆然とその伸び行くものを目で追っていく。透明のものは窓から月の光の中へ伸びて行った。
そして光の中へ入ると、部屋が明らむほどの青白い輝きを発した。
「あたしの心が月の光の美しさを感じたのよ・・・。」
響子は優しく奈緒美に囁いた。奈緒美は我を忘れてその伸び行く先を見つめている。
まだ青白い光を残しながら、響子の透明な手はカウンターの上の鉢植えの花へと向かっていく。
奈緒美は思わず今日話した“ニュー・シネマ・パラダイス”の一場面を思い浮かべた。
花の上まで来ると、突然透明なものは漂うティッシュの様にふわっと薄く広がった。
そして柔らかく花を取り囲むと、ピンク色に明かりを放ち始めた。
「まあ、ピンクに光ったわ。きれいね・・・。」
響子は奈緒美の髪に頬をあてながらつぶやいた。
肩を抱かれたまま、奈緒美は響子の肩に頭を預けてその光に見とれている。
やがて透明なものは、ゆっくりと二人が寄り添うベッドへと近づいて来た。
もう響子の元の手の長さになりつつある。
「奈緒美ちゃん、どう変わるか分からないけど、これが私の気持ちよ。」
透明なものは徐々に響子の手の形に戻りながら、奈緒美の豊かに息づく胸の上に舞い降りて来た。
乳房に触れるか触れないかの所で、眩しいほどのオレンジの輝きが湧き起った。
奈緒美は自分の胸に温かいものを感じながら、その輝きをじっと見つめた。
やがて温かいものの下から熱い思いが込み上げて来て、その瞳に何故か涙が溢れ始めた。
そして無言のまま、奈緒美は響子に抱きついていった。
「奈緒美ちゃんっ・・・。」
響子はしっかりと奈緒美を胸に抱きしめた。
やがて響子が泣き濡れた奈緒美の顔を上向かせると、どちらともなく求めるように唇を重ね合ったのである。
コメント一覧
-
––––––
1. ハーレクイン- 2012/12/27 10:17
-
歪み、流れ、光の中に伸びていく響子の“気持ち”。
輝き、光り、奈緒美に触れる恭子の“気持ち”。
ニュー・シネマ・パラダイスの一シーンですか。
うーむ、夢か現か幻か。
幻想的な光景ですが、奈緒美さんの夢の中なのでしょうか。
それとも、ワインの酔いのせい、なのでしょうか。
いやいや、これが二人の現実なのでしょう。
-
––––––
2. Mikiko- 2012/12/27 19:56
-
イカを連想しました。
こういうシーンこそが、小説を書く醍醐味ですね。
わたしも、妄想シーンを書いてるときが、一番楽しいです。
-
––––––
3. ハーレクイン- 2012/12/27 21:24
-
というとホタルイカだが……。
腕が伸びる、というイメージとしてはどうかな。
なんかここ数日。
「イカ」にこだわってなイカ。
-
––––––
4. Mikiko- 2012/12/28 07:56
-
ホタルイカだけではありません。
↓アオリイカも光ります。
http://blog-imgs-53.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2012122807512471e.jpg
こちらのページから、拝借しました。
http://makabe.blog39.fc2.com/blog-date-200912.html
-
––––––
5. ハーレクイン- 2012/12/28 09:30
-
おりょ。
発光したっけ?
-
––––––
6. Mikiko- 2012/12/28 19:57
-
↓参照。
http://hal-park.blog.so-net.ne.jp/2009-10-03











![[官能小説] 熟女の園](https://livedoor.blogimg.jp/mikikosroom2008/imgs/3/e/3e07a9c3.gif)





































































































