2012.4.19(木)
江戸を発ってから十七目の朝、伊織たち一行は十名ほどの警護の者と共に野口家を出立した。
出立と共に激しい雨に見舞われて、この日は見附まで進む予定をひとつ手前の袋井に宿を求める事に予定を変更した。
いずれにしてもお蝶が待つ藩境の浜松まで、何とか次の一日で辿り着ける距離だったからである。五月はもう目前に迫ったとは言え、五月雨にしては伊織たちの足を重くする様な降られ方であった。
まだ日暮れまで間はあったが、伊織たち一行は街道沿いの大きな宿の暖簾をくぐった。
激しく降りしきる雨の中、街道に一人の尼が佇んでいる。
「ふっ、雨か・・・。」
赤蛇尼は、僧傘をうるさく叩く雨音を聞きながら呟いた。
“お頭の言葉ではあったが、藩境ももう目の前・・。幸い雨でもあるし、少し仕掛けてみるか・・・。”
赤蛇尼は、伊織たちの宿の軒先へと近づいて行く。
伊織たちは宿の二階の一室で、濡れた旅支度を解いていた。
両側の部屋には各々七、八名ずつ、野口家よりの警護の者が詰めている。
「ああ、さすがに濡れましたね・・。早速風呂でももらいましょうか。」
お美代や羅紗姫にさらし姿を見せる訳にもゆかず、伊織は苦笑いを浮かべながら言った。
「あたし、せっかく野口様からいただいた着替えを、もう濡らしちゃった。」
お美代が頬を膨らまして羅紗姫に訴える。
「私がまだ着替えを持っています。あとで出してあげますよ。」
「わあ、有難うっ。」
姫の申し出に、お美代は満面に笑みを浮かべて言った。
と、その時、
“チリ~ン・・。チリ~ン・・。”
雨音に交じって、何処からか小さな鐘の音が三人の耳に響いた。
“この様な雨の中、托鉢の鐘の音とは奇妙な・・・。”
そう思って伊織が表に面した窓を半ば開けかかったとたん、
「きゃああ~っ!」
つんざく様な姫の悲鳴が上がった。
伊織が瞬時に振り返った時、何とお美代が伊織の脇差を抜き、今にも羅紗姫に切りかかろうとしていたのだ。
「あっ、何をするっ!!」
伊織は叫びながら姫に向かって身を飛ばした。
同時に振り下ろされた脇差は、姫を跳ね除けた伊織の袂を切り裂いた。
「お美代ちゃんっ!?」
左手に微かな痛みを感じながら、伊織はそう叫んでお美代の顔を見た。
しかしお美代の目は、何かに魅入られた様に虚ろな光を放っているばかりであった。
お美代は呆然としたまま部屋を走り出ていく。
「お美代ちゃん、待てっ!! ・・ひ、姫、大丈夫ですかっ?!」
「ええ、わ、私は大丈夫です。」
顔面蒼白のまま姫が答えた時、叫びを聞いた警護の者達がどやどやと駆けつけて来た。
「何事でござるっ!!」
伊織はそれには答えぬまま、表に面した窓を開け放った。
降りしきる雨の中を、尼僧とそれに従って走り去るお美代の姿が見えた。
「姫を頼みます!」
そう言うと、伊織は大刀を掴み表へ走り出て行く。
激しい雨が必死に走る伊織の身体を叩く。
鍛えたその足は、次第に逃げる二人との間合いを詰めていた。
だがあと五、六間に迫って以降、いくら走っても二人との間合いを詰めることが出来ない。
息を切らしながら、伊織はいくつもの辻を曲がって二人を追い続けた。
ある辻を曲がったとたん、伊織は急にその走る足を止めた。
「はあっ、はあっ・・。」
激しく息を吐きながら、伊織は道端の店を振り返った。
“くっ・・・、またしても幻術か・・・。”
目の前に、今しがた目にして通り過ぎたはずの、めし屋の赤い提灯がぶら下がっていた。
伊織は二人の幻を追って、同じ所をぐるぐる走り回っていたのである。
肩で息をしながら振り返った時には、二人の後ろ姿は忽然と何処かへ消え去っていた。
旅籠の一室で、春秋花は不満げな声を出した。
「まだ交代は早いじゃないか。それに、まだ何もするなってお頭のお達しなのに、叱られたって知らないからねっ!」
赤蛇尼は優雅な笑みを湛えて答える。
「ふふふ・・、この雨の中、私にも考えがあってのこと。小手調べはしくじりましたが尾張までお出ましのお方様にはよい土産ができました・・。」
黒麗と春秋花の呆れ顔を見ながら赤蛇尼は続ける。
「どうせ尾張までは、きゃつらを見守るだけのこと。そのうち水月も姿を現すでしょう。
私は一足先に、土産を送り届けてきますよ
でもその前に、この娘に少し磨きをかけておかねば・・・。」
傍らで焦点の合わぬ眼差しで座っているお美代を、赤蛇尼は潤んだ目で見つめた。
「これは貸しだからねっ!」
春秋花は膨れっ面のまま部屋を出て行く。
「ふん、あんたのおぼこ好きにも困ったもんだ。あたしゃあ賭場にでも行ってくるよ。
あんたは見張りの数には入れないから、好きにしな。
その代わり、今日の負け分はあんたのツケだからね。」
黒麗は素肌にまだ湿った着物を着こむと、二三度ぶるっと身体を震わせながら部屋を出て行った。
赤蛇尼はお美代の耳元で何かを囁いている。
左手に吊り下げた小さな鐘が二三度振られると、部屋の中に涼やかな音色が響き渡った。
「はいっ!」
赤蛇尼の声と共に、お美代はパチパチと目を瞬かせた。
うっすらと笑みを湛えた赤蛇尼は、ふと立ち上がって衣服を脱ぎ去っていく。
もう薄暗くなった部屋の中で、赤蛇尼の一糸まとわぬ裸身がほの白く浮かんだ。
部屋の隅の蝋燭が灯される。
振り返った赤蛇尼の身体は、陰影に揺らぎながら白く輝き、なだらかな肩先にだけ伊織につけられた赤い傷跡を見せていた。
「私のことを、どう思いますか、お美代・・?」
「・・・和尚人さま、とてもきれいです・・・。」
驚いた事にお美代は、赤蛇尼の身体をうっとりと見つめながら呟いたのだ。
まだお美代の心の呪縛は解けてはいなかった。いや更にその琴線は、新たな結び目を作ったのかもしれなかった。
「私の事が、欲しいですか・・・?」
赤蛇尼の目が、益々淫らな輝きを増していく。
「ええ、和尚人さまが欲しいのです。お願いです、和尚人さま・・・。」
「どうして女のあなたが、女の私のことを・・・?」
わざと恥ずかしげに眼差しを伏せ、赤蛇尼はお美代に探りを入れる。
「ああ、分かりません。きれいな和尚人さまを見ていると、もうあたし、堪らなくて。
優しく美しい女の心と体・・・、女だからこそ分かるのです。お願いです・・。」
赤蛇尼は待ちかねた様に身を寄せると、お美代に囁いた。
「よく申された・・。そう・・、そんなに私の事が・・・。」
赤蛇尼は、お美代の目を見つめながら続ける。
「あなたも着ている物を脱いで、私をあなたの身体で好きになさい・・・。」
誘う様にお美代を見つめながら、赤蛇尼はゆっくりと畳の上に横たわった。
揺らめく光に照らされて、畳の上に赤蛇尼の裸体がなだらかな曲線を描いている。
ふっくらと盛り上がった乳房が微かに息づき、白いお尻とくびれた腰の繋がりの下には、三寸ほども畳との間に隙間を作っていた。
「ああ、和尚人さまっ!」
お美代はもどかしげに着物を脱ぎ捨てると、夢中で赤蛇尼の身体に武者ぶりついていった。
「あ、・・あああ・・。」
仰向けの乳房を己が両手で掴み、赤蛇尼は反らせた喉の奥から強張った声を上げ続けていた。
くねる柳腰の下で大きく開いた太腿の付け根に、町娘の髷を乱してお美代の顔が揺れている。
「はああ~・・お美代、心地よい・・。私と睦み合って嬉しいか。お美代・・・?」
「うむん・・、ぷはあっ・・嬉しい。はあ・・たまんなく・・嬉しい・・。」
赤蛇尼の股間から顔を上げたお美代は、愛液で口元を光らせながら答えた。
「さあお美代、また私の胸や口が恋しゅうはないか・・? 早ようこちらへ来て、もう私を往生させておくれ・・。」
「はあ、和尚人さま、今参ります・・。」
お美代はそう言って身をずり上げると、夢中で赤蛇尼のふくよかな乳房に吸い付いていく。
「あはあっ・・、ふふ、可愛いのう・・。さあ、早よう、あなたの手で・・・。」
赤蛇尼は自分の左の乳房を掴んでいるお美代の右手を、広げている足の間に押し下げた。
餌にありついた獣の様にお美代の右手が陰毛を掻き分け、乱暴に二本の指が潤みに潜り込む。
「あぐうう~、うっ!」
赤蛇尼のうなり声と共に、お美代の指は熱く蠢くものに締め付けられた。
「ああ、もっと、好きにして!・・あああ・・もっと苛めておくれっ!」
赤蛇尼は腰のくびれに皺を刻んで、白い尻を振り立てる。
お美代は紅潮した顔を上げて赤蛇尼の顔を見ると、乱暴に右手を動かしていく。
「あああ~っ、そうじゃそうじゃ! お美代、お美代っ!」
赤蛇尼の両手が狂おしく肩を抱いて来て、お美代は夢中で赤蛇尼の唇を奪った。
「ふんぐううう・・!」
「ふんっ、ふんっ!」
二人の鼻息が激しく互いの頬を叩く。
「んぐううう・・・!」
赤蛇尼の腰が激しく競り上げて来て、お美代の中指と薬指を根本まで飲み込んだ。
お美代は暴れる赤蛇尼の身体に縋り付いて、指を呑みこまれたまま、手の平で濡れたものを押し揉んだ。
手の平を押し返して来る固くぷりぷりした感触も、我を忘れたお美代が揉み込んでいく。
「んご~~~・・!」
夢中で絡み付くお美代の口の中に、赤蛇尼は喜びの唸りを上げる。
「ふぐぐ~・・・ぷはっ!・・ああいいっ、もっと!もっと苛めてっ!」
苦しさのあまり、お美代の唇を振りほどいて赤蛇尼は叫んだ。
お美代はその熱い息さえ吸いこみたくて、再び身をずり上げて赤蛇尼の唇を吸い塞ぐ。
上からのしかかる様にして唇を重ね、お美代は激しく右手で赤蛇尼の蜜壺を苛んでいく。
お美代の若い情欲が、急激に赤蛇尼の身体を極みへと押し上げていった。
「んぐっ!ぬぐううううっ!!」
お美代の肩を掴んで、赤蛇尼は胴のくびれから下を狂った団扇の様に振り立てた。
「んがっ! ひゃっ・・・! ひゃてるうっ・・・!!」
堪らず振り解きかけた舌をなおもお美代に吸われながら、赤蛇尼は喉の奥から押し潰した叫びを上げた。
なだらかな裸体が強張って反り上がり、極まって大きく痙攣する。
お美代は自分の指が固く食い縛られるのを感じながら、身体に赤い炎が満ち溢れる様な気がした。
濡れたものをしっかりと掴みながら、夢中で赤蛇尼の肩の白い肌に歯を立てた。
事切れる前の獣にとどめを刺す様に、なおも断続的に痙攣する赤蛇尼の身体にお美代の指が深く食い込んでいた。
お美代の腕の中でゆっくりと目を開いた赤蛇尼は、潤んだ目で見つめ続けているお美代に囁いた。
「ふう・・・、私、天国に昇らせていただきました。今度は生娘のあなたの、全てを私にいただけますか・・・・?」
「はい、和尚人さま・・。美代を・・・、美代をあなたのものにしてください・・。」
何とお美代は頬を赤らめて、うっとりと赤蛇尼の問いかけに答えたのである。
赤蛇尼はその言葉に顔を輝かせると、右手の人差し指と中指をお美代の口に含ませた。
そして艶やかにお美代の唾で濡れた指に、赤い舌で自分の唾を絡ませる。
赤蛇尼は優しくお美代に唇を重ねながら、その二本の指をお美代の中に沈めていく。
お美代は微かに眉を寄せながら、しかしその両手で、赤蛇尼の背中をしっかりと抱き寄せていた。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2012/04/19 12:08
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やはり赤蛇尼の後催眠か。
ロリコン趣味の赤蛇尼に絡め取られるお美代ちゃん。
赤蛇尼のいきっぷりはなかなか凄絶。「んご~~~・・!」は初めて見たなあ。
「ひゃてるうっ」は「果てるうっ」でいいのかな。
それにしてもお美代ちゃん。いつこんなテクを身に着けたっ。
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2. Mikiko- 2012/04/19 20:03
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時代劇ってのは、便利だよね。
山田風太郎は、書いてて楽しかったろうな。
伝奇SF風物語、なんだか書きたくなった。
由美美弥をタイムスリップさせるか?
由美対白蝋、面白いかもねー。
以前にも書きましたが……。
現代人が過去にタイムスリップして活躍する話は、とっても楽しいです。
石川英輔の『大江戸神仙伝』シリーズが、最たるものですが……。
http://blog-imgs-36.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20100226204707af3.jpg
光瀬龍の『夕ばえ作戦』も、抜群に面白い。
http://blog-imgs-36.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2010030206383680c.jpg
ジュブナイルだけど、大人でも十分わくわくできると思います。
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3. ハーレクイン- 2012/04/19 20:19
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これは面白いこと請け合いじゃ!
由美美弥タイムスリップもええが、新作でじっくり書き込んでもらうと凄いものになりそうな。
どうかな、時間的に無理かな。
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4. Mikiko- 2012/04/19 20:36
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無理ですね。
時代物は、執筆にかける時間以上に……。
調べる時間が必要でしょうから。