Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
元禄江戸異聞(一)
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「元禄江戸異聞」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(一)


陣内伊織は、ようやく寒さも和らいだ江戸の町筋を、本所の中川家下屋敷へと向かっていた。
普段は文武両道に渡り修行の日々を送っている。
何か目新しいものを見つけ、つい歩みを緩めて店先を覗きこんでしまうのは、まだ歳も18という若侍の伊織にとって無理からぬことであった。
「まあ、ほら、伊織様よ。」
「あら、本当に・・・。」
そばで若い娘が伊織を見つけて囁きあっている。
伊織はその様子に気づくと、顔を赤らめてまた足を速めるのであった。
実際伊織は若い娘ばかりでなく、すれ違う年増までつい振り向くほどの美貌である。
色白で長い睫毛に涼しげな目元、上品に鼻筋が通った下に端正な唇の赤が、なおさらその美貌を引き立てている。
すらりと大島の羽織袴を着こなしたその姿は、そこらの歌舞伎役者など足元にも及ばぬ程の魅力を漂わせていた。

伊織は足を速めながら懐に手を差し入れ、伯父より託された書状の無事を確かめた。
「伊織、今日の書状は殊の外大事な書付じゃ。間違いなきよう下屋敷にお届けいたせ。たとえお前が・・・。」
左内は言葉尻を濁すとまた続ける。
「・・・若輩とはいえ、お前より頭が切れ、腕も確かな者はここにはおらん。心してお役目を果たすのじゃぞ。」
「は、承知致しました。」
伯父の言葉を思い出すと、伊織は改めて繊月の眉を吊り上げた。

ところが町筋を道のりの半ばを過ぎたあたりから、何故か伊織の足取りが不自然なものに変わっていった。
ふらりと横道に彷徨い込むかと思えば、急にその歩みを速めたりする。
ついに下屋敷は前方の大辻を左に曲がるところを、平然とまっすぐに歩き去っていく。
やがて人影も無く、川沿いの松林が続く辺りで伊織はふと足を止めた。
「おい、そこの者・・・。もういい加減で姿を現したらどうだ。」
伊織は前を見たまま、そっと羽織の紐を解きながら言った。
「あら・・、お気づきになってらしたんですか? お人の悪い・・・。」
太い松の幹の後ろから、旅芸人風の女がゆっくりと姿を現した。
年の頃は25,6か、粋に結い上げた黒髪を直しながら口元をほころばすと、何とも色気のある眼差しで伊織を見つめる。
「何ゆえ私の後をつけてくる・・。」
伊織は依然として険しい顔付で、女との間合いを詰めながら言った。
「何故って・・・、そんなことあたしの口から言わせるんですか・・? でもお疑いなら仕方ありませんわ。あたし前から伊織様のことを・・・。今日はたまたま伊織様をお見かけしたもんで、ついつい・・・。でもこうしてお傍で見るとなおさら・・・。」
女は恥ずかしげに長い睫毛を伏せた。
しかし伊織は眉も動かさずに言った。
「どうかな・・? お前あの林の中を、枯葉の音ひとつさせずによく歩けたな。」
女の目が彷徨うように動いた。
瞬間、伊織の太刀が閃光と共に弧を描いた。
女の身体がとんぼを打って後ろへ舞い上がり、北辰一刀流居合、気鋭の切り上げは空を切った。
女は地に着くや否や、着物の足の運びでは信じられないほどの速さで、林の中へと駈け込んで行く。
「くっ、待て!。」
伊織は己が渾身の一撃をかわされ、我を忘れてその後を追った。女は林の中の農具小屋へと駈け込んで行く。
血相を変えて小屋へ飛び込んだとたん、白いものが顔を襲い、伊織は片手で目を覆って昏倒した。
腕は立つが経験の少ない伊織は、目潰しの罠にまんまと嵌ってしまったのである。
「おのれ、卑怯な!」
腰砕けのまま、伊織はめくら滅法に刀を振り回した。
だが太刀は壁や農具を叩いたに過ぎず、何かで小手を叩かれ剣を落とすと、次々と手足を縄のような物に絡まれた挙句に身動き出来なくなってしまった。

「あらあら可哀そうに。 とうとう動けなくなってしまいましたわねえ・・・。」
女のからかうような声が聞こえた。
「くっ、忍びか・・、な、何者だ!。」
女はそれには答えずに口を開く。
「あ~あ、白い粉でいい男が台無し。それに目も痛うござんしょう? ちょっとお待ちを・・・。」
女は何か水のようなものを伊織の両目に垂らしだした。徐々に粉は流れ落ち、やがて瞬きと共に伊織の視野が開けだした。
女は伊織の顔を手拭いで拭くと言った。
「まあ・・・、噂には聞いてたけど本当にいい男・・・。」
「く・・・、貴様、何者だ! 何ゆえこの私を・・!。」
伊織は色白の顔を紅潮させ、切れ長の目に無念を滲ませながら言った。
「ふふ、先ずは書状をいただきましょう。それからそれを、何処へお届けになるはずだったのかお聞きしたいんですよ・・・。」
「そんな事を私が話すと思うかっ!」
「うふふ、そうでしょうねえ。でも先ず書状はいただきますよ・・・。」
女はゾクッとするような妖艶な笑みを漏らすと、伊織の着物の合わせ目に手をかけていった。
初孫(下)目次元禄江戸異聞(ニ)




コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2011/10/27 09:47
    • Mikiko’s Room初の時代劇。
      『元禄江戸異聞』。
      時は元禄(当たり前)。
      所は(とりあえず)本所。
      本所ってのがええのう。
      本所とくれば深川。
      芸者衆は登場するのかのう。
      伯父佐内に「お前より頭が切れ、腕も確かな者はここにはおらん」とまで持ち上げられながら、あっさり敵の姦計に嵌る伊織クン。
      敵の探索は後、なにより書状を届けるのが最優先であろう、と思うがのう。
      伊織クン。
      「おのれ、卑怯な!」って、果し合いじゃないんだから“そおれは聞こえません”だぞ。
      まだまだ若いぞ、伊織クン。
      で、このあと「旅芸人風妖艶女」に童貞を奪われちゃうと……。
      おっとっと。
      こおれは槍すぎ、しくじった。
      次回を楽しみにしております。
      『槍姫七変化』は、やはり八十郎さんにお任せですなあ。

    • ––––––
      2. 海苔ピー
    • 2011/10/27 11:22
    • HQさんよ!
      伊織は女の子だよ!初孫と同じく話題になった作品だよ!
      ボケてはいけないよ!
      ビアン小説に最初から主役級の男が出てくるはずもないでしょ。
      懐の書状を奪う時に女性だとバレちゃうと云うお決まり的シーン後が楽しみだなぁ~!

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2011/10/27 23:15
    • >伊織は女の子
      えー、そう?
      佐内伯父がちょっと口を濁したのは、この伏線かあ。
      >話題になった作品
      ええー、知らんぞ。
      >ビアン小説
      えええー、そうなん。
      んじゃこの後の作品も、全部ビアン小説なんですかあ。
      知らなかった……。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2011/10/28 07:39
    •  「Mikiko's Room」に、ビアン小説以外載せるかい。
       話題になったってのは、わたしも初めて知りましたが。

    • ––––––
      5. 八十八十郎
    • 2011/10/28 10:15
    • これは確か、初孫のすぐ後に書いた事を覚えています。
      その前に書いた2作が長い上にごちゃごちゃしてて、
      読んでいて自分でも頭が痛くなったので(笑)、
      短めでもまとめようとした記憶があります。
      何で時代物になっっちゃったのかは、
      全く記憶がありません。(笑)
      時代物といっても、雰囲気が伝わればいいか、
      程度の動機だったでしょうか。
      で、この後はまた現代物に戻ったと思います。
      書いたのは全部で6作だけでした。
      なにせ、何も下調べや勉強もせず書いたので、
      服装その他は、テレビや映画の映像などで
      読む方の想像にお任せする他はありませんでした。(笑)
      読んでいただき、有難うございました。

    • ––––––
      6. 海苔P
    • 2011/10/29 02:58
    • 八十郎さんがHard!のコメントで
      「時代物と言っても、これは史劇ではなく娯楽活劇です。
      若侍(実は女)が抜け忍の女と共に、刺客のくのいち集団(尾張白蝋)の襲撃に耐えつつ、姫を京都まで護送するという内容。 」
      書いてるだろ!
      散々、この後に弄りたおして遊んだくせに覚えて無いなんて信じられないわぁ!

    • ––––––
      7. Mikiko
    • 2011/10/29 07:41
    •  こんなところに解答が潜んでおったのか!
       まったく覚えておらなんだ。
       ていうか、サトさんの件とかの一連のやり取りは……。
       メールでしてたもんだと思ってた。
       コメントだったんですね。
       うーむ。
       アル中オヤジと同類になってしまった。
       脳で、麹菌が繁殖してるのかも知れん。

    • ––––––
      8. 還暦過のアル中オヤジ
    • 2011/10/29 10:39
    • 伊織「クン」は伊織「ちゃん」。
      八十郎さんのHard!のコメを読み返し、強引な言い訳で失態を正当化しようと試みたが、言い訳の余地はないようだな。
      無念。
      すまぬ。伊織ちゃん&八十八十郎さん。
      ついでに、佐内伯父殿。
      えー、となるとこの後、丹波までいくのか。
      大長編ですなあ。
      アル中オヤジって誰のことや!
        (お前のほかに誰がおる!!)

    • ––––––
      9. 八十八十郎
    • 2011/10/29 11:31
    • 僕も沢山は飲めませんが、
      日本酒は美味いと思います。
      何でも楽しみがある方がいいですよね。
      海苔ピーさん、ハーレクインさん。
      僕の説明が足りませんでした。
      時代物はこの元禄江戸異聞(4作目)、
      それから現代ものを挟んで、
      続元禄江戸異聞(6作目)の2作なんです。
      刺客くのいち団が登場する長編は続編の方で、
      この元禄江戸異聞は7章程度、結果的に、
      続編の主人公二人の出会いを書いた物になりました。
      結果的にというのは、
      元禄江戸異聞を書いた時には、
      続編を書くなどまだ考えていなかったからです。
      説明不足で申し訳ありません。
      海苔ピーさんが話題になったと言われるのは、
      こちらのサイトで話題に上がったという意味だと思いますが
      当時サトさんのサイトでは2週間おきに更新があり、
      掲載する度に一時閲覧者のカウンターが増えるのを見て
      ああ読んでくれる方がいるんだなあと
      有難く思ったのを覚えています。
      続編で面白かったのは、伊織サイドだけでなく、
      中には敵方のくのいちを応援してくださる方もいて、
      誰それを死なせないでくれ、
      と言われるのには困りました。(笑)
      興味を持ってご意見をいただき、有難うございます。

    • ––––––
      10. 還暦過のアル中オヤジ
    • 2011/10/29 12:26
    • >八十八十郎さん
      あれ、そうでしたっけ。
      たしかHard! でのコメで、今回掲載分が「続」の方、とあったような記憶が……。
      いやあ、もうやめとこう。
      この手の分析は酔っぱらいには無理。
      海苔ピーさんに任せて、私はひたすら作品を楽しませていただきます。

    • ––––––
      11. Mikiko
    • 2011/10/29 13:21
    •  「話題になった」というのは、『Hard!』でのやり取りのことだったのか。
       わたしも、アル中オヤジと同類だな……。
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