2014.5.22(木)
「私、疲れたわ。シャワー浴びていい?」
ミッシェルはタチアナにもう一度口づけをすると、そう告げた。
タチアナはゆっくりと頷き、脱衣所に向かう彼女を見送ったあと自分のつま先を見つめた。
ブロンドのヘアーにハンチグ帽を被り、淡いサングラスといういでたちだったミッシェルは、帽子をフックにかけ、サングラスを外すと溜息をついた。思い直したようにブロンドヘアーの頭頂部をつまみ、一気に引き上げた。
そこに現れたのは、髪の毛1本生えていないスキンヘッドの頭だった。衣服をすべて脱ぎ去り、洗面台に向かう。ゆっくりと水道の水で顔を洗うと、眉毛もまつ毛もすべて流され、毛髪というものがすべてなくなった顔が現れた。
収抗がん剤の副作用で、体毛すべてが失われていたのだ。
洗い終わると鏡を見つめた。
幼いころ自分が想像していた年齢の体には遠く及ばない体が映し出されていた。
体毛のない顔と頭。頬がこけ、アバラ骨が浮き出た胸、そして骨に皮が付いているように細くなった手足。人間には見えない、まるで映画に出てくるような宇宙人そのもの。
見るたびに愕然とし、膝から崩れそうになる。そんな気持ちを彼女が支えてきてくれた。
ふと鏡を見ると、生まれたままの姿のタチアナが背後に立っているのが見えた。
「お願いだから私の姿を見ないで」
ミッシェルは両手で胸を押さえ、その場にしゃがみ込んでしまった。
タチアナは背後からゆっくりと腕を回し、彼女を立ち上がらせ耳元に告げた。
「素敵よ。大丈夫。安心して。私の愛は変わらないわ……」
そう、その言葉でどれだけ心が救われてきたか計り知れなかった。
己の姿を見るたびに襲ってくる恐怖と嫌悪感、そして絶望。
その気持ちが、彼女の魔法のような“安心”という一言で溶かされていくのが分かった。
「ありがとう……でもこんな体嫌いでしょ?」
タチアナは首を横に振った。
「そう、以前はあなたの体に惹かれ繋がりたいと常日頃思っていた。もちろん今でも体で繋がりたいと思うけど、それ以上にあなたと心と心で繋がっていたいと思う。
ミッシェル。
あなたはあなただから、どんなことになっても私は愛し続ける」
ミッシェルは振り向くと、タチアナの胸に顔を埋め嗚咽を漏らした。
「タチアナ、あなたと永遠に愛を続けた……」
タチアナはミッシェルの顎を上げ、唇を彼女の唇に重ね、言葉の続きをさえぎった。
2人の裸婦はお互いを強く抱きしめあい、4つの瞳からは水晶の様に輝く涙が流れた。
リビングのTVではニュースが流れおり、体操の結果がタチアナの演技と共に伝えられていたが、画面下部にテロップが小さく流れていたことを、2人は知る由もなかった。
『南オセチアでの5日間に及ぶロシアとグルジアの紛争が、フランスの調停により停戦合意となった』
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2014/05/22 11:21
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位置関係がわかりにくいなあ。3回くらい読み返したよ。
で、衝撃の事実!
抗がん剤の影響で、ズルむけのミッシェル。しかし、眉毛までむけるか。
わたしの姉も、抗がん剤治療の影響でしばらくカツラをかぶっていたけど、今は元通りだよ。だいじょうぶ大丈夫。
ま、しかし、そんなこと言うとお話しが出来んわなあ。
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2. Mikiko- 2014/05/22 19:43
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副作用が辛いそうですね。
うちの会社にも、しばらく毛糸の帽子を被ってた女性がいます。
抗ガン剤治療によるカツラは、健康保険が利きませんが……。
医療保険の特約には組み込めるそうです(AIU損害保険)。
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3. ハーレクイン- 2014/05/22 21:39
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よくわかりませんが、帽子ならともかく、カツラとなると結構するんでしょうねえ。
保健が効いたほうがいいか。
わたしなら帽子もカツラも不要ですが。
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4. Mikiko- 2014/05/23 06:34
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外見からは、わからんということですな。
それはそれで、気の毒な気も……。
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5. ハーレクイン- 2014/05/23 17:35
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髪の量で人生が決まるわけでもなかろうが。
ただ、夏場冬場の帽子は欠かせません。