2014.2.20(木)
ヴェロニカは、複雑な思いで様子をうかがった。
その思いを抱かせたのは、2004年に起きたベスラン学校占領事件からであった。
二十歳になっていたヴェロニカは、ナデージュダとともに北オセチア共和国のテロリスト掃討作戦に参加していた。
事件は、ベスラン市にある中学校で起こった。
9月1日、チェチェン独立派を含む多国籍武装集団30人が中学校へ乗り込み、人質1,100人近くを監禁し立てこもったのだ。
近くにいた彼女たちは、狙撃の腕を買われ現場へと派遣されたのだが、ヴェロニカにとって生涯忘れ得ぬことが目の前の体育館で起きた。膠着状態が続いた3日目、一つの爆発音からそれが始まった。双方の銃撃や砲撃で体育館の屋根が完全に崩落し、400人近くが死亡したのだ。その中には、子供が190人ほど含まれていた。
あまりの悲惨さに、強靭なスぺツナズの隊員でさえ嘔吐する者が続出した。

何の罪もない子供や母親たちが瓦礫の下に躯になって埋まっている姿や、黒こげになった光景は彼女の脳裏に焼き付き、自分たちが行ってきたことに対して疑問を持つようになった。しかし、テロリストに対する憎悪と命令に従った迄とその時は自分に言い聞かせ、今まで与えられた任務を遂行してきた。だが、ここでまた同じオセチア(南オセチア)で、ロシアとグルジアが帰順を巡り戦争を起こしたのだ。
しかも、2つの国が戦争を起こしたのにもかかわらず、世界は他の国に目を向けていた。
その事実が、駐屯地から出発するときのヴェロニカの目に映った。
それは、隊員たちが休憩の間に見ていたテレビのニュース番組だった。
当然、自分たちが参加しているこの戦いを、レポーターが緊迫した表情でライブ放送していると思った。だが、ブラウン管に映されていたのは、遥か彼方、中国北京の会場から打ち上げられる花火の映像だった。
夏季オリンピックの煌びやかな開会式を知らせるニュースだった。
あまりにも矛盾した世界に、「疑問」という文字が再び頭をもたげてきた。
そしてその会場には、皮肉にもアメリカの選手として、ヴェロニカと生き別れになっていた妹タチアナの姿があったのだ。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2014/02/20 09:14
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正式名は北オセチア・アラニア共和国。
カフカス山脈の北麓、カスピ海と黒海の間に位置する国ですね。
首都はウラディカフカス。
更に南オセチア共和国。
首都はツヒンヴァリ。
以前は自治州だったが、北のロシア、南のグルジアとが、南オセチア自治州の帰属を巡って2008年、戦争状態に。
現在、南オセチア共和国はグルジアからの分離・独立、ロシア連邦への加入を目指しているが、承認しているのはロシアを含め5か国のみ……。
もちろん、グルジアは承認していない。
しかしなんですなあ。
ベスラン中学校占拠事件、ロシア-グルジア紛争と、北京オリンピックを対比させるとは、憎いですなあ、マッチロックさん。
ヴェロニカ、タチアナ姉妹の今後の運命は?!
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2. Mikiko- 2014/02/20 19:40
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ほんとにある国なんですね。
ということは、事件も事実か。
フィクションかと思ってました。
ロシアといえば、ソチオリンピック。
どうやら、テロの方は大丈夫みたいですね。
日本は、金ひとつに終わりそうですが……。
これでも、バンクーバーよりいいんですからね。
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3. ハーレクイン- 2014/02/20 20:42
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いやあ、わたしも始めはフィクションかと思ったんですがね、あまりに生々しい話なんで調べたら事実でした。とんでもない話だよね。
日本の金。
本来ならもう一つあったのかもしれません。羽生結弦くんがいなければどうなっていましたかね
ま、
「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである」。
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4. Mikiko- 2014/02/21 07:52
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スキーに、あんな競技があるとは思わなんだ。
メダル数は8個となり、長野の10個に継ぐ数だとか。
もう1つくらい、欲しいところですけどね。
フィギュア、ロシアのダークホースが金を取りました。
採点競技は、イマイチすっきりしない感が残りますよね。
あと、団体を最後に持ってきた方が盛りあがるんじゃないか?
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5. ハーレクイン- 2014/02/21 10:20
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新種目だそうです。
見たかったなあ。
彩那ちゃん、銅メダルおめでとう。
>採点競技は、イマイチすっきりしない感が残りますよね。
全く同感です。
何メートル飛んだとか、何秒で駆け抜けたとか、だれがトップでゴールラインを通過したとか、だとすっきりするんだけどね。