2014.1.30(木)
町外れの小高い丘に小さな茂みが盛り上がっていた。
はた目には只の茂みにしか見えないが、事実はカモフラージュを施した服……ギリースーツを着た人物が二人佇んでいた。
潜入してから、およそ2時間の間、その状態のまま待機していた。
「標的の乗った車が来た」
「確認した」
高倍率の観測用スコープからは、手が届くように見える。
標的が装甲車から降り立ったのが見えた。
「標的を確認」
事前に手渡された写真と標的を見比べた。
「間違いない」
「……・ニエット。彼は囮」
スコープから目を離すと、狙撃手の顔を見た。
まだ、あどけなさが残る顔ながらも、見る人が息をのむほどの顔立ちをしていた。
狙撃銃に取り付けたスコープから目を離さず狙撃手は続けた。
「歩き方……それと警備が緩すぎる」
言われてみれば、微妙ながら彼の歩き方はVTRで見た歩き方とは違和感があった。
(流石だ。伊達に銃にキルマークをつけているわけではない)
銃にキルマークをつけることは忌み嫌われる行為だったが、狙撃手は敢えてそうしていた。
スコープを再び覗くと先ほどの車が去った後、暫らくして古ぼけたジープが到着した。
運転席から降り立った一般兵士を見て狙撃手は言った。
「あの人物が標的」
観測員は唖然としながらも双眼鏡向こうの動向を見続けた。
一般兵士に士官が慌てて駈け寄り敬礼を送る姿を見て、狙撃手の洞察力に舌を巻いた。
「訂正する。標的は彼……・右からの風、風力1」
「了解」
狙撃手がスコープのダイヤルをほんの少し動かした。
「スー……・」
聞こえるか聞こえないかの息を止める声の後、引き金が引かれたのが分かった。
バッスン・キーン! 独特の射撃音と共に放たれた7.92mm弾は、標的の後頭部へ向け高速で一直線に突き進んだ。
次の瞬間、スコープの向こうで標的が崩れ落ちるのが見えた。
標的が立っていた向こうの壁に、赤いペンキをぶちまけたような染みが広がっていた。
傍にいた士官の男は敬礼をしたまま、崩れ落ちた人物を唖然とした顔で見つめていた。
「完了」
「了解、速やかに撤収する」
「了解」
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2014/01/30 11:22
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義理スーツではなかろう。
なんじゃい、と思ってWikiを見ましたら、
「職業柄、身を隠す必要がある場合が多い狙撃手やハンターが、山間部や草原においてカモフラージュの為に着用するもので、短冊状の布や糸を多数縫いつけて垂らしたジャケットやベストに草木や小枝などを貼り付けたもの」
ということらしいです。
画像も見ましたが、実に怪しい。
まるでマタンゴ。
と言っても若いお方にはわからんか。わたしが中学生のころ(たぶん)に公開された怪奇もの映画に出てくる怪獣です。その正体は「キノコ怪獣」だとか。
>……ニエット。彼は囮
ふうむ、なかなか鋭いのう、ヴェロニカはん(で、いいんだよな)。
銃にキルマークねえ。
銃はゴルゴのM16かと思ったけど、あれは口径5.56mm。それにUSAの製造、アメリカ軍の正式銃だしねえ。
7.92mmといいますとかなりの大型弾。機関銃にも使われるそうですが、ヴェロニカはんの使用したのはもちろんライフルでしょうね。
やはりドイツ製かなあ。教えてえや、マッチロックさん。
距離はわかりませんが「一直線」はどうなん。やはり弾道は曲線になると思いますが。
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2. Mikiko- 2014/01/30 19:58
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わたしも、初めて聞きました。
↓きたねー。
http://blog-imgs-62.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20140130194208501.jpg
↑漁師に撃たれると思います。
↓なんとこれ、市販品でした。
http://www.first-jp.com/items/07/01/03/detail.php?itemcode=0701GST00081
キルマークも、初耳でした。
文字通り、殺した標的の数を銃に刻んでるわけですね。
戦闘機のパイロットが、撃墜した敵機の数を愛機に刻むこともあったようです。
『ゴルゴ13』だったか、弾道がカーブするというシーンがあったような……。
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3. ハーレクイン- 2014/01/30 21:27
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結構有名ですよ。
狙撃や戦闘機だけでなく、日常でも。
確か、打ったホームランの数をバットに刻む、なあんて漫画があったような……。
ゴルゴの弾道。
ありましたねえ。
強風の中で、ゴルゴと相手が撃ち合うわけですね。で。風の影響を正確に計算しきったゴルゴの銃弾は、大きな曲線を描いて見事相手を射抜く。相手の銃弾はゴルゴの頬を掠めて後方に抜けていく。倒れ伏す相手、と。
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4. Mikiko- 2014/01/31 07:59
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バットが折れたら、新しいバットに刻みなおすのか?
あ、そのバットで打った分だけが刻まれるわけか。
ゴルゴ13は……。
社会情勢の勉強も出来ました。
東京のラーメン屋が懐かしい。
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5. ハーレクイン- 2014/01/31 10:14
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ま、漫画だからね。折れないようにすればいいだけのことでしょう。
ゴルゴを、そういう観点から評価する人は多いようです。わたしもいろんなことを学びました。
しかしゴルゴ。長いこと見ていないなあ。
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6. Mikiko- 2014/01/31 20:10
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『探検バクモン』で、“さいとうプロ”に潜入したことがありましたよね。
さいとう先生、強烈でした。
ホワイトをタバコの火で乾かす、という荒業を見せてくださいました。
世界情勢の裏付けについては、専門家のブレーンがいるそうです。
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7. ハーレクイン- 2014/01/31 21:00
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連載している週刊誌、ビッグコミックだったかな、のゴルゴの末尾には、そのブレーさんたちの氏名が列記されているそうです。
このあたりの気遣いはさすが、ですね。