2012.7.14(土)
み「おまいら……」
由「ウソですって。
あ、美弥ちゃんは本気だったかも。
Mikikoさん、顔赤い。
きっと今、血圧150くらいありますよ」
み「180はあるわい!」
由「うそー。
わたしの2倍じゃないですか。
切れますよ」
み「誰のせいだ」
由「お酒飲んでるんじゃないですか?」
み「ど素面じゃ。
あ、そうだ。
お祝いのお酒、買ってあるんだった」
由「へー。
気が利いてるじゃないですか」
み「やかましい!
何で主賓が、自分の祝い酒を買っとかにゃならんのだ。
しかも自腹で」
由「ここで飲むんですか?」
み「お祝いごとには、乾杯がつきものでしょ」
由「今、思いついたでしょ」
み「やっぱ進行は、イベント会社とかに頼めば良かったな。
司会付きで」
↑このコンビにお願いしたい。
由「どこにそんなお金、あるんです?」
み「ボランティアでやってくれる会社って、無いのかな?」
由「会社じゃないでしょ、それじゃ」
み「とにかく、乾杯しよう」
弥「お酒、どこに置いてあるんですか?」
み「楽屋のバッグ」
弥「バッグにお酒なんか入れて来たんですか?」
み「リュックに入れて背負ってきた」
由「あ、あのダサいリュック、Mikikoさんの?」
み「やかましい。
取ってきてよ」
由「わたしが?」
み「主賓に取って来いって言うの?」
弥「わたしが取ってきます」
み「やっぱ、美弥ちゃんはいい子だね。
ファンが多いのもわかるよ」
由「それって、わたしと比べてるんですか?」
み「そう聞こえた?」
由「誰だって聞こえます。
じゃ、わたしも一緒に行ってこようかな」
み「ちょと、2人して行くことないでしょ。
トイレじゃ無いんだから。
1人残されたら、間が持たないわよ」
由「じゃ、行ってきま~す」
里「ちょーっと、待ったぁ」
み「何だ?」
里「いつまで待たせるんですか!」
み「誰、あんた?」
里「くぉら。
今や、裏の主役と呼ばれる美里さんに、なんてー口の利き方でぃ」
由「あんた、酔っ払ってるんじゃないの?」
里「楽屋にあったリュックに、けつまずいたら……。
痛いのなんのって。
危うく、爪剥がすとこだった。
で、いったい何が入ってるのかと思って、開けてみたら……」
弥「人のリュック開けちゃったの?」
里「開けちゃった。
そしたら何と、お酒が入ってた」
み「なにっ。
まさか、そのリュックって、ひょっとしてわたしの?」
里「知りません」
弥「里ちゃん、そのお酒って……。
今、ジーンズの後ろに挿してるヤツ?」
里「そうそう。
これこれ。
ひょっとしてこのお酒って、Mikikoさんのですかぁ?」
み「ぎぃえぇぇぇ。
わたしの大事なお酒が……。
減ってるぅぅぅぅ」
里「ちょっと、ムンクの顔マネ止めてくださいよ」
み「好きでやってるんじゃないわい。
き、貴様ぁ。
飲みおったな!」
里「お酒ってのは、飲むもんでしょーが」
み「人のリュックから酒を出して飲んだら……。
ドロボーだろ!」
里「あんまり待たせるから悪いんですよ。
でもこのお酒、甘い。
梅酒ほどじゃないけど。
Mikikoさん、こんなの飲んでたら、糖尿になりますよ」
み「寝る前に、毎晩ちびっと飲む分には問題ないの」
里「それって、養命酒の飲み方じゃないんですか?」
み「やかましい!
梅酒と違って、砂糖が入ってるわけじゃないんだから、大丈夫なの」
里「砂糖入れないのに、どうして甘いんですか?」
み「知らんわい」
由「何から出来たお酒なんです?」
み「原材料は……。
米、米麹、そして、清酒。
ほら、ここに書いてあるでしょ」
由「清酒?
材料が清酒なんですか?」
み「そう。
清酒に、米と麹を加え、更に醸したお酒。
スサノオノミコトが、ヤマタノオロチに飲ませた『八塩折之酒(やしおりのさけ)』が、これだって言われてる」
由「お酒の名前は、何て云うんです?」
み「恐れ多くも……。
貴醸酒さまにあらせられる」
里「は?
ちょっと、Mikikoさん。
恥ずかすぃじゃないですか。
やめてくださいよ。
昼間っから、よくそういうこと言うの」
み「何が?」
里「騎乗……、って」
み「このバカタレが。
そんなこと考えるのは、おまいだけだ」
里「えー。
違いますよ。
由美ちゃんも同じこと考えてました」
由「考えてません!」
里「うそうそ。
目が、キラーンって輝いたじゃない」
由「誰が」
里「大好きなのよね。
美弥子さんの上に乗っかるの」
由「そんなことしてませんって!
怒るよ」
里「由美ちゃん。
いくら否定しても……。
美弥子さんの顔見れば、一目瞭然」
由「あ」
み「わかりやすい女」
里「お酒飲んでないのに……。
真っ赤っ赤♪」
み「美弥子、今、口開かないほうがいいよ。
何言っても、墓穴掘ると思うから」
里「じゃ、みんなで飲んで赤くなりましょう。
ほれ、ちゃんと人数分のシェリーグラス」
み「ベルトに下げて来るな!」
由「これも、Mikikoさんが用意したんですか?」
み「当たり前じゃ」
由「誰かに幹事、頼めば良かったのに」
み「バーチャルな人間に、幹事が頼めるかい」
里「ま、いいじゃないですか。
それじゃ、みなさん、グラスを持って下さい。
お注ぎしますよ」
み「ちょっと、入れすぎ!
乾杯酒なんだから、一口で飲み干せるくらいでいいの」
里「ケチ。
いいじゃないですか。
減るもんじゃなし」
み「減るもんだろ!
ものすごく減ってるじゃん!」
里「いじましいんだから。
こんなときくらい、太っ腹にならなくてどうするんです。
2,3本買っとけばいいのに」
み「こんな高い酒、何本も買えるか」
里「いくらするんです?」
み「聞いて驚くな。
なんと!
720ml1本で、3,150円(税込)だっ」
里「……」
み「驚いて、声も出ないか?」
里「拍子抜けです。
あんまり騒ぐから、もっとするのかと思った」
み「こんだけすりゃ、十分だろ」
里「ワインなんて、1本何万円とかあるじゃないですか」
み「ワインなんぞ、紙パックの698円で十分じゃ」
里「つまりは、味がわからないってことですよね」
み「同じワインだろ」
里「これだって、日本酒じゃないですか」
み「バカモン。
日本酒にして日本酒にあらず。
貴醸酒さまじゃ」
由「あ、これ美味しい」
み「こらっ。
乾杯前に飲むな!」
由「だって、おしゃべりが長いんだもの。
早く、乾杯してくださいよ」
里「カンパーイ」
み「お座なりにすな!
何に乾杯するか、唱えにゃならんだろ」
由「呪文みたい」
里「何に乾杯する?」
み「わたしの、1000回に決まってるだろ!」
由「わたしたちのでしょ」
み「ま、そうでもある」
里「それでは……。
不肖わたくしが、音頭を取らせていただきます。
えー、『由美と美弥子と美里』」
み「勝手に題名を変えるな!」
里「とにかく、連載1000回を祝して……。
お手を拝借。
三三七拍子~」
み「グラス持ってて出来るか!」
里「はい、じゃ、カンパーイ」
み「お座なりはやめいと言うに」
弥「乾杯。
あ、ほんと美味しい」
由「ん。
ほんとこれ、けっこうイケますね」
里「甘いでしょ?」
由「甘いけど……。
ベタッとした甘さじゃない。
甘みが、舌の上に残らないっていうか……。
サラっとしてて、スゴく飲みやすい」
み「だろー。
やっぱ、高いだけあるわ。
由「アルコール度数、どのくらいなんです?」
み「えーっと、どっかに書いてあるはず……。
あった。
16度以上17度未満」
由「日本酒より高いんですか?」
み「日本酒は、15度弱だから……。
少し高めくらいか。
オンザロックにすると、きっとちょうどいいな」
由「裏側に、なんか書いてある」
里「あ、それ聞こうと思ってたんだ。
Mikikoさん、何て書いてあるんですか?
ミミズが這ってるみたいな字で、読めやしない」
み「無教養なやつらじゃ。
文学部だろ?」
里「わたし、理系だもん」
み「そうだっけ?」
里「由美ちゃんたちは、文学部よね」
由「英文科だからわかんない」
み「科がどうの以前の、一般教養の問題。
吉井勇って歌人、知らない?」
由「美弥ちゃん、知ってる?」
弥「京都のことを歌った人じゃないですか?」
み「さすがに、その程度は知ってるね」
●かにかくに 祇園はこひし 寝(ぬ)るときも 枕のしたを 水のながるる
由「その歌が書いてあるんですか?」
み「これは、別の歌。
字面が違うだろ」
由「勿体ぶらないで、教えてくださいよ」
●わが胸の 鼓(つづみ)のひびき とうたらり とうとうたらり 酔へば楽しき
里「最後だけわかった。
酒飲みの歌」
み「簡単に片付けるな」
里「だって、途中がわかんないもん。
『とうたら』なんたらって、なんのことです?」
み「『とうたらり とうとうたらり』。
これは、鼓の音の擬音だよ」
里「えー。
鼓って、あの、『イョー、ポンポン!』って鼓でしょ?」
み「ま、そうだけど」
由「何でそんな音になるんです?
皮が緩んでるんじゃないですか?」
み「風情のないやつらじゃな。
能の『翁(おきな)』の冒頭で、翁がこれ唱えながら出てくるんだよ。
“とうたらり”と云えば鼓の音ってのは、一般常識」
由「えー。
そんなの常識じゃないですよ」
み「あー、嘆かわしい。
じゃ、あんたがたは、もう飲まなくてよろしい。
このお酒は、わたしが昼酒に飲む」
由「持って帰るんですか?」
み「当たり前だろ」
里「せこー」
み「やかましい。
とにかく、まだ挨拶が終わってないから……。
この瓶は、どっかに置いておこう。
えーっと……」
由「楽屋に置いてきたら?」
み「そんなことしたら……。
あっという間に、空っぽになってるだろ」
由「ちょっと、床に置くんですか?」
み「目の届くとこに置いとく。
さてと、楽屋にあと誰が残ってるの?」
由「叔母ちゃん、来てなかった?」
里「楽屋には、まだみたいだった」
由「急患でもあったのかしら?」
み「そこらで酒かっくらって、寝てるんじゃないの」
由「そんなわけないでしょ。
Mikikoさんじゃあるまいし」
里「あれ?
何の音」
由「ボールの音みたい」
里・由「あっ」
み「あぎゃ」
由「Mikikoさん……。
大丈夫ですか?」
由「まともに当たったよね。
頭」
里「ボールが当たった瞬間、顔がぶれたよ。
脳のダメージ、大きいかも」
由「潰れちゃったね。
カエルみたい」
里「でも、誰?
こんなボール投げたの?」
由「あ。
叔母ちゃん」
律「大あたり?
上手いもんでしょ」
由「投げたの、叔母ちゃん?」
律「そうだよ」
由「どうしたのよ、そのボール?」
律「持ってきたのよ。
能代駅のホームから」
由「え?」
律「今、『東北に行こう!』で行ってるの。
能代。
ちょっとばかり、1000回の挨拶して来るって行ったっきり……。
鉄砲玉よ。
シビレが切れて、戻ってみれば……。
なに?
舞台挨拶?
どうして、わたしを呼ばないのよ?
こら、寝てないで、ナントカ言え」
由「ちょっと、叔母ちゃん。
いくらなんでも、顔、踏んじゃ可哀想」
律「だったら、お尻蹴ってみて」
里「あ、わたしがやります。
せーの。
それ!」
み「あぎゃぁ」
由「今、刺さったわよ」
里「今日のパンプス、思い切りトンガってるからね」
み「な、な、何なのよ、この仕打は!」
里「あ、生き返った」
律「説明してちょうだい。
わたしを置き去りにしておいて……。
どうしてこういう席を設けてるわけ?」
み「アイタタ……。
だって、先生は毎回出てるわけでしょ。
コメントの方でさ。
一昨年の10月からだから、1年半以上出ずっぱりじゃない」
律「そりゃそうだけど。
出てるって言っても、コメントと本編は別でしょ。
だいたい、あの件の首尾はどうなったのよ?」
み「あの件って?」
律「野外デッキの一件よ。
わたしは、ちゃんと懐妊できたの?」
み「まだ考えてない」
律「頭、来た。
妊娠に備えて、好きなお酒も控えてるのに」
み「健康にいいじゃない」
律「夜が手持ち無沙汰でしょうがないの」
み「お茶飲んでれば?」
律「口寂しいから、いろんなもの飲んでるけど……。
おトイレが近くなって、不便なのよ」
み「それは、おかしいじゃない。
だって、お酒の方が利尿作用があるから、トイレは近くなるはずでしょ」
律「お酒なら……。
朝まで意識不明だから、トイレに起きることも無いの」
み「呆れた。
そのうち、おねしょするぞ」
律「するか!
ちょっと。
足元に置いてある瓶、何よ?
お酒じゃないの?」
み「それは、ダメ!」
律「やっぱりお酒だ。
なに、貴醸酒って?」
里「あ、グラス、ありますよ」
み「出すな!」
律「大丈夫。
このまま飲むから」
み「ラッパ飲み、すなー!」
律「うそ!
飲みやすい。
イケてるわ」
み「こっち、よこせ」
由「叔母ちゃん、今どき言わないよ」
律「何が?」
由「イケてる」
律「そうなの?
じゃ、何て言うのよ」
み「よこせっての」
由「知らない」
律「なーんだ。
じゃ、いいんじゃないのよ。
イケてるでも。
ほら、Mikikoさ~ん、ここまで飛びあがって」
み「くっそー」
里「Mikikoさん、ほらこれに乗ったら?」
み「バスケットボールになんか乗れるか!」
律「ほら、スキあり~」
み「飲むなー!」
由「叔母ちゃん……。
性格悪くなったんじゃない?」
律「そうかしら」
み「Mikikoさん、涙目だよ」
律「もう。
お酒一杯くらいで泣かないでよ」
み「は、半分も減ってる」
律「わたしひとりで飲んだんじゃないわよー、だ」
里「Mikikoさん、もう、パーっと空けちゃえば?」
み「人の酒だと思って!
こんな高い酒自腹で飲んだの、生まれて初めてなんだぞ」
律「いちいち、いじましいわね」
フ「あのー」
律「どうしたの?」
フ「フロントに、お届け物が来てるんですけど」
み「何?
あ、わかった!
お酒だ。
誰なの?
わたしを驚かそうって……。
みんなでお金出し合って買ってくれたのね……。
う、うれしい」
由「わたし乗ってないけど。
美弥ちゃん知ってる?」
弥「いいえ」
由「叔母ちゃんは?」
律「禁酒中の身で、人にお酒贈るほど人間が出来てないわ」
み「それは今日、つくづくわかった」
フ「あのー。
お酒じゃ無いと思います」
み「なんだ、違うの。
それなら、フロントで預かっててよ。
今、大事な会の途中なんだから」
フ「ああいうお荷物は、フロントでお預かりできません」
み「フロントで預かれないって、どんなのよ?」
フ「こちらにお運びしていいですか?
ワゴンに載せて、扉の外まで持ってきてあるんです」
み「わかったわかった。
何だか知らないけど、入れてちょうだい」
里「何だろ?」
由「やっぱり、誰かからの贈り物じゃないですか?」
み「誰かって誰よ」
フ「すみませーん。
こちらです。
困るんです、こういうの持ちこまれると。
お目出たい席ばっかりなんですから」
み「ちょっと、それって……」
由「何が入ってるのかしら?
綺麗な布に包まれて。
すっごい豪華なラッピング」
み「あんたこれ、見たこと無いの?」
由「無いですよ。
何なんです、これ」
み「骨箱」
由「へ?」
み「骨壷の入った箱よ」
由「うそ!
誰の骨?」
由「知るか!」
里「Mikikoさん、これって嫌がらせかも」
み「くっそー。
どこのどいつだ!
まさか、大阪の予備校教師じゃあるまいな」
律「これから、わからない?
ほら、家紋が入ってる」
み「ほんとだ。
布も、金襴だし……。
どうやら、予備校教師じゃなさそうだね。
こんな金のかかるイタズラは、出来ないだろうからな」
由「イタズラだったら、ヒドい」
み「丸に桔梗か」
里「何がです?」
み「家紋よ」
み「誰か、心あたり無い?
ちょっと、美弥子、あんたどうしたの?
後退って。
顔が真っ白だよ」
弥「せ、先生……。
その家紋……。
先生の」
み「先生って、律子先生?」
律「うちのは違うわよ」
弥「お墓。
先生のお墓に付いてた家紋と同じ……」
み「ちょっと、美弥子。
なに震えてるのよ?」
弥「来た……。
帰ってきた」
由「美弥ちゃん、まさか先生って……。
そうなの?
そうなのね?」
み「おい、まさか……。
……、女教師?」
里「来たのよ!
Mikikoさんに恨み言を言いに!」
み「何で恨み言なんだよ!」
里「殺した恨みに決まってるでしょ。
それじゃ、わたしたちはこれで。
この箱は、Mikikoさんがお持ち帰りください。
さよなら~」
み「待って~」
里「何で着いて来るんですか!
主賓は残って」
み「あんな所に、ひとりで残れるか!
てなわけで、1000回記念番組、これにて終了!」
由「Mikikoさん、貴醸酒忘れてる」
み「ウソ!
誰か取ってきて~」
由「自分で行って下さい!」
み「人でなし!」
1000回のお祝い騒ぎも、これにてお開き。
2000回に向けて、また歩き始めます!
ご同行、お願いしますね!
由「ウソですって。
あ、美弥ちゃんは本気だったかも。
Mikikoさん、顔赤い。
きっと今、血圧150くらいありますよ」
み「180はあるわい!」
由「うそー。
わたしの2倍じゃないですか。
切れますよ」
み「誰のせいだ」
由「お酒飲んでるんじゃないですか?」
み「ど素面じゃ。
あ、そうだ。
お祝いのお酒、買ってあるんだった」
由「へー。
気が利いてるじゃないですか」
み「やかましい!
何で主賓が、自分の祝い酒を買っとかにゃならんのだ。
しかも自腹で」
由「ここで飲むんですか?」
み「お祝いごとには、乾杯がつきものでしょ」
由「今、思いついたでしょ」
み「やっぱ進行は、イベント会社とかに頼めば良かったな。
司会付きで」
↑このコンビにお願いしたい。
由「どこにそんなお金、あるんです?」
み「ボランティアでやってくれる会社って、無いのかな?」
由「会社じゃないでしょ、それじゃ」
み「とにかく、乾杯しよう」
弥「お酒、どこに置いてあるんですか?」
み「楽屋のバッグ」
弥「バッグにお酒なんか入れて来たんですか?」
み「リュックに入れて背負ってきた」
由「あ、あのダサいリュック、Mikikoさんの?」
み「やかましい。
取ってきてよ」
由「わたしが?」
み「主賓に取って来いって言うの?」
弥「わたしが取ってきます」
み「やっぱ、美弥ちゃんはいい子だね。
ファンが多いのもわかるよ」
由「それって、わたしと比べてるんですか?」
み「そう聞こえた?」
由「誰だって聞こえます。
じゃ、わたしも一緒に行ってこようかな」
み「ちょと、2人して行くことないでしょ。
トイレじゃ無いんだから。
1人残されたら、間が持たないわよ」
由「じゃ、行ってきま~す」
里「ちょーっと、待ったぁ」
み「何だ?」
里「いつまで待たせるんですか!」
み「誰、あんた?」
里「くぉら。
今や、裏の主役と呼ばれる美里さんに、なんてー口の利き方でぃ」
由「あんた、酔っ払ってるんじゃないの?」
里「楽屋にあったリュックに、けつまずいたら……。
痛いのなんのって。
危うく、爪剥がすとこだった。
で、いったい何が入ってるのかと思って、開けてみたら……」
弥「人のリュック開けちゃったの?」
里「開けちゃった。
そしたら何と、お酒が入ってた」
み「なにっ。
まさか、そのリュックって、ひょっとしてわたしの?」
里「知りません」
弥「里ちゃん、そのお酒って……。
今、ジーンズの後ろに挿してるヤツ?」
里「そうそう。
これこれ。
ひょっとしてこのお酒って、Mikikoさんのですかぁ?」
み「ぎぃえぇぇぇ。
わたしの大事なお酒が……。
減ってるぅぅぅぅ」
里「ちょっと、ムンクの顔マネ止めてくださいよ」
み「好きでやってるんじゃないわい。
き、貴様ぁ。
飲みおったな!」
里「お酒ってのは、飲むもんでしょーが」
み「人のリュックから酒を出して飲んだら……。
ドロボーだろ!」
里「あんまり待たせるから悪いんですよ。
でもこのお酒、甘い。
梅酒ほどじゃないけど。
Mikikoさん、こんなの飲んでたら、糖尿になりますよ」
み「寝る前に、毎晩ちびっと飲む分には問題ないの」
里「それって、養命酒の飲み方じゃないんですか?」
み「やかましい!
梅酒と違って、砂糖が入ってるわけじゃないんだから、大丈夫なの」
里「砂糖入れないのに、どうして甘いんですか?」
み「知らんわい」
由「何から出来たお酒なんです?」
み「原材料は……。
米、米麹、そして、清酒。
ほら、ここに書いてあるでしょ」
由「清酒?
材料が清酒なんですか?」
み「そう。
清酒に、米と麹を加え、更に醸したお酒。
スサノオノミコトが、ヤマタノオロチに飲ませた『八塩折之酒(やしおりのさけ)』が、これだって言われてる」
由「お酒の名前は、何て云うんです?」
み「恐れ多くも……。
貴醸酒さまにあらせられる」
里「は?
ちょっと、Mikikoさん。
恥ずかすぃじゃないですか。
やめてくださいよ。
昼間っから、よくそういうこと言うの」
み「何が?」
里「騎乗……、って」
み「このバカタレが。
そんなこと考えるのは、おまいだけだ」
里「えー。
違いますよ。
由美ちゃんも同じこと考えてました」
由「考えてません!」
里「うそうそ。
目が、キラーンって輝いたじゃない」
由「誰が」
里「大好きなのよね。
美弥子さんの上に乗っかるの」
由「そんなことしてませんって!
怒るよ」
里「由美ちゃん。
いくら否定しても……。
美弥子さんの顔見れば、一目瞭然」
由「あ」
み「わかりやすい女」
里「お酒飲んでないのに……。
真っ赤っ赤♪」
み「美弥子、今、口開かないほうがいいよ。
何言っても、墓穴掘ると思うから」
里「じゃ、みんなで飲んで赤くなりましょう。
ほれ、ちゃんと人数分のシェリーグラス」
み「ベルトに下げて来るな!」
由「これも、Mikikoさんが用意したんですか?」
み「当たり前じゃ」
由「誰かに幹事、頼めば良かったのに」
み「バーチャルな人間に、幹事が頼めるかい」
里「ま、いいじゃないですか。
それじゃ、みなさん、グラスを持って下さい。
お注ぎしますよ」
み「ちょっと、入れすぎ!
乾杯酒なんだから、一口で飲み干せるくらいでいいの」
里「ケチ。
いいじゃないですか。
減るもんじゃなし」
み「減るもんだろ!
ものすごく減ってるじゃん!」
里「いじましいんだから。
こんなときくらい、太っ腹にならなくてどうするんです。
2,3本買っとけばいいのに」
み「こんな高い酒、何本も買えるか」
里「いくらするんです?」
み「聞いて驚くな。
なんと!
720ml1本で、3,150円(税込)だっ」
里「……」
み「驚いて、声も出ないか?」
里「拍子抜けです。
あんまり騒ぐから、もっとするのかと思った」
み「こんだけすりゃ、十分だろ」
里「ワインなんて、1本何万円とかあるじゃないですか」
み「ワインなんぞ、紙パックの698円で十分じゃ」
里「つまりは、味がわからないってことですよね」
み「同じワインだろ」
里「これだって、日本酒じゃないですか」
み「バカモン。
日本酒にして日本酒にあらず。
貴醸酒さまじゃ」
由「あ、これ美味しい」
み「こらっ。
乾杯前に飲むな!」
由「だって、おしゃべりが長いんだもの。
早く、乾杯してくださいよ」
里「カンパーイ」
み「お座なりにすな!
何に乾杯するか、唱えにゃならんだろ」
由「呪文みたい」
里「何に乾杯する?」
み「わたしの、1000回に決まってるだろ!」
由「わたしたちのでしょ」
み「ま、そうでもある」
里「それでは……。
不肖わたくしが、音頭を取らせていただきます。
えー、『由美と美弥子と美里』」
み「勝手に題名を変えるな!」
里「とにかく、連載1000回を祝して……。
お手を拝借。
三三七拍子~」
み「グラス持ってて出来るか!」
里「はい、じゃ、カンパーイ」
み「お座なりはやめいと言うに」
弥「乾杯。
あ、ほんと美味しい」
由「ん。
ほんとこれ、けっこうイケますね」
里「甘いでしょ?」
由「甘いけど……。
ベタッとした甘さじゃない。
甘みが、舌の上に残らないっていうか……。
サラっとしてて、スゴく飲みやすい」
み「だろー。
やっぱ、高いだけあるわ。
由「アルコール度数、どのくらいなんです?」
み「えーっと、どっかに書いてあるはず……。
あった。
16度以上17度未満」
由「日本酒より高いんですか?」
み「日本酒は、15度弱だから……。
少し高めくらいか。
オンザロックにすると、きっとちょうどいいな」
由「裏側に、なんか書いてある」
里「あ、それ聞こうと思ってたんだ。
Mikikoさん、何て書いてあるんですか?
ミミズが這ってるみたいな字で、読めやしない」
み「無教養なやつらじゃ。
文学部だろ?」
里「わたし、理系だもん」
み「そうだっけ?」
里「由美ちゃんたちは、文学部よね」
由「英文科だからわかんない」
み「科がどうの以前の、一般教養の問題。
吉井勇って歌人、知らない?」
由「美弥ちゃん、知ってる?」
弥「京都のことを歌った人じゃないですか?」
み「さすがに、その程度は知ってるね」
●かにかくに 祇園はこひし 寝(ぬ)るときも 枕のしたを 水のながるる
由「その歌が書いてあるんですか?」
み「これは、別の歌。
字面が違うだろ」
由「勿体ぶらないで、教えてくださいよ」
●わが胸の 鼓(つづみ)のひびき とうたらり とうとうたらり 酔へば楽しき
里「最後だけわかった。
酒飲みの歌」
み「簡単に片付けるな」
里「だって、途中がわかんないもん。
『とうたら』なんたらって、なんのことです?」
み「『とうたらり とうとうたらり』。
これは、鼓の音の擬音だよ」
里「えー。
鼓って、あの、『イョー、ポンポン!』って鼓でしょ?」
み「ま、そうだけど」
由「何でそんな音になるんです?
皮が緩んでるんじゃないですか?」
み「風情のないやつらじゃな。
能の『翁(おきな)』の冒頭で、翁がこれ唱えながら出てくるんだよ。
“とうたらり”と云えば鼓の音ってのは、一般常識」
由「えー。
そんなの常識じゃないですよ」
み「あー、嘆かわしい。
じゃ、あんたがたは、もう飲まなくてよろしい。
このお酒は、わたしが昼酒に飲む」
由「持って帰るんですか?」
み「当たり前だろ」
里「せこー」
み「やかましい。
とにかく、まだ挨拶が終わってないから……。
この瓶は、どっかに置いておこう。
えーっと……」
由「楽屋に置いてきたら?」
み「そんなことしたら……。
あっという間に、空っぽになってるだろ」
由「ちょっと、床に置くんですか?」
み「目の届くとこに置いとく。
さてと、楽屋にあと誰が残ってるの?」
由「叔母ちゃん、来てなかった?」
里「楽屋には、まだみたいだった」
由「急患でもあったのかしら?」
み「そこらで酒かっくらって、寝てるんじゃないの」
由「そんなわけないでしょ。
Mikikoさんじゃあるまいし」
里「あれ?
何の音」
由「ボールの音みたい」
里・由「あっ」
み「あぎゃ」
由「Mikikoさん……。
大丈夫ですか?」
由「まともに当たったよね。
頭」
里「ボールが当たった瞬間、顔がぶれたよ。
脳のダメージ、大きいかも」
由「潰れちゃったね。
カエルみたい」
里「でも、誰?
こんなボール投げたの?」
由「あ。
叔母ちゃん」
律「大あたり?
上手いもんでしょ」
由「投げたの、叔母ちゃん?」
律「そうだよ」
由「どうしたのよ、そのボール?」
律「持ってきたのよ。
能代駅のホームから」
由「え?」
律「今、『東北に行こう!』で行ってるの。
能代。
ちょっとばかり、1000回の挨拶して来るって行ったっきり……。
鉄砲玉よ。
シビレが切れて、戻ってみれば……。
なに?
舞台挨拶?
どうして、わたしを呼ばないのよ?
こら、寝てないで、ナントカ言え」
由「ちょっと、叔母ちゃん。
いくらなんでも、顔、踏んじゃ可哀想」
律「だったら、お尻蹴ってみて」
里「あ、わたしがやります。
せーの。
それ!」
み「あぎゃぁ」
由「今、刺さったわよ」
里「今日のパンプス、思い切りトンガってるからね」
み「な、な、何なのよ、この仕打は!」
里「あ、生き返った」
律「説明してちょうだい。
わたしを置き去りにしておいて……。
どうしてこういう席を設けてるわけ?」
み「アイタタ……。
だって、先生は毎回出てるわけでしょ。
コメントの方でさ。
一昨年の10月からだから、1年半以上出ずっぱりじゃない」
律「そりゃそうだけど。
出てるって言っても、コメントと本編は別でしょ。
だいたい、あの件の首尾はどうなったのよ?」
み「あの件って?」
律「野外デッキの一件よ。
わたしは、ちゃんと懐妊できたの?」
み「まだ考えてない」
律「頭、来た。
妊娠に備えて、好きなお酒も控えてるのに」
み「健康にいいじゃない」
律「夜が手持ち無沙汰でしょうがないの」
み「お茶飲んでれば?」
律「口寂しいから、いろんなもの飲んでるけど……。
おトイレが近くなって、不便なのよ」
み「それは、おかしいじゃない。
だって、お酒の方が利尿作用があるから、トイレは近くなるはずでしょ」
律「お酒なら……。
朝まで意識不明だから、トイレに起きることも無いの」
み「呆れた。
そのうち、おねしょするぞ」
律「するか!
ちょっと。
足元に置いてある瓶、何よ?
お酒じゃないの?」
み「それは、ダメ!」
律「やっぱりお酒だ。
なに、貴醸酒って?」
里「あ、グラス、ありますよ」
み「出すな!」
律「大丈夫。
このまま飲むから」
み「ラッパ飲み、すなー!」
律「うそ!
飲みやすい。
イケてるわ」
み「こっち、よこせ」
由「叔母ちゃん、今どき言わないよ」
律「何が?」
由「イケてる」
律「そうなの?
じゃ、何て言うのよ」
み「よこせっての」
由「知らない」
律「なーんだ。
じゃ、いいんじゃないのよ。
イケてるでも。
ほら、Mikikoさ~ん、ここまで飛びあがって」
み「くっそー」
里「Mikikoさん、ほらこれに乗ったら?」
み「バスケットボールになんか乗れるか!」
律「ほら、スキあり~」
み「飲むなー!」
由「叔母ちゃん……。
性格悪くなったんじゃない?」
律「そうかしら」
み「Mikikoさん、涙目だよ」
律「もう。
お酒一杯くらいで泣かないでよ」
み「は、半分も減ってる」
律「わたしひとりで飲んだんじゃないわよー、だ」
里「Mikikoさん、もう、パーっと空けちゃえば?」
み「人の酒だと思って!
こんな高い酒自腹で飲んだの、生まれて初めてなんだぞ」
律「いちいち、いじましいわね」
フ「あのー」
律「どうしたの?」
フ「フロントに、お届け物が来てるんですけど」
み「何?
あ、わかった!
お酒だ。
誰なの?
わたしを驚かそうって……。
みんなでお金出し合って買ってくれたのね……。
う、うれしい」
由「わたし乗ってないけど。
美弥ちゃん知ってる?」
弥「いいえ」
由「叔母ちゃんは?」
律「禁酒中の身で、人にお酒贈るほど人間が出来てないわ」
み「それは今日、つくづくわかった」
フ「あのー。
お酒じゃ無いと思います」
み「なんだ、違うの。
それなら、フロントで預かっててよ。
今、大事な会の途中なんだから」
フ「ああいうお荷物は、フロントでお預かりできません」
み「フロントで預かれないって、どんなのよ?」
フ「こちらにお運びしていいですか?
ワゴンに載せて、扉の外まで持ってきてあるんです」
み「わかったわかった。
何だか知らないけど、入れてちょうだい」
里「何だろ?」
由「やっぱり、誰かからの贈り物じゃないですか?」
み「誰かって誰よ」
フ「すみませーん。
こちらです。
困るんです、こういうの持ちこまれると。
お目出たい席ばっかりなんですから」
み「ちょっと、それって……」
由「何が入ってるのかしら?
綺麗な布に包まれて。
すっごい豪華なラッピング」
み「あんたこれ、見たこと無いの?」
由「無いですよ。
何なんです、これ」
み「骨箱」
由「へ?」
み「骨壷の入った箱よ」
由「うそ!
誰の骨?」
由「知るか!」
里「Mikikoさん、これって嫌がらせかも」
み「くっそー。
どこのどいつだ!
まさか、大阪の予備校教師じゃあるまいな」
律「これから、わからない?
ほら、家紋が入ってる」
み「ほんとだ。
布も、金襴だし……。
どうやら、予備校教師じゃなさそうだね。
こんな金のかかるイタズラは、出来ないだろうからな」
由「イタズラだったら、ヒドい」
み「丸に桔梗か」
里「何がです?」
み「家紋よ」
み「誰か、心あたり無い?
ちょっと、美弥子、あんたどうしたの?
後退って。
顔が真っ白だよ」
弥「せ、先生……。
その家紋……。
先生の」
み「先生って、律子先生?」
律「うちのは違うわよ」
弥「お墓。
先生のお墓に付いてた家紋と同じ……」
み「ちょっと、美弥子。
なに震えてるのよ?」
弥「来た……。
帰ってきた」
由「美弥ちゃん、まさか先生って……。
そうなの?
そうなのね?」
み「おい、まさか……。
……、女教師?」
里「来たのよ!
Mikikoさんに恨み言を言いに!」
み「何で恨み言なんだよ!」
里「殺した恨みに決まってるでしょ。
それじゃ、わたしたちはこれで。
この箱は、Mikikoさんがお持ち帰りください。
さよなら~」
み「待って~」
里「何で着いて来るんですか!
主賓は残って」
み「あんな所に、ひとりで残れるか!
てなわけで、1000回記念番組、これにて終了!」
由「Mikikoさん、貴醸酒忘れてる」
み「ウソ!
誰か取ってきて~」
由「自分で行って下さい!」
み「人でなし!」
1000回のお祝い騒ぎも、これにてお開き。
2000回に向けて、また歩き始めます!
ご同行、お願いしますね!