2009.9.12(土)
これは、第267回から第272回までのコメント欄で連載した、「ヤマタノオロチ(Ⅰ~Ⅴ)」を、『Mikikoのひとりごと』として、1本にまとめたものです。
みなさんも、ヤマタノオロチの神話はご存じのことと思います。
スサノオノミコトが、ヤマタノオロチを退治したって話です。
わたしも1冊、絵本を持ってます。
お話を、おさらいしておきましょう。
『Wikipedia』からの引用です。
---------------------------------------------
高天原を追放されたスサノオは、出雲国の斐伊川の上流の鳥髪に降り立った。
川上から箸が流れてきたので、川上に人がいると思って川を上ってみると老夫婦が泣いていた。
その夫婦はオオヤマツミの子のアシナヅチとテナヅチであった。
夫婦には8人の娘がいたが、毎年古志(こし)からヤマタノオロチがやって来て娘を食べてしまった。
今年もオロチのやって来る時期が近付き、このままでは最後に残った末娘のクシナダヒメも食べられてしまうので、泣いているのであった。
スサノオは、クシナダヒメを妻として貰い受けることを条件に、ヤマタノオロチ退治を請け負った。
スサノオはクシナダヒメを守るためにその姿を櫛に変えて髪に刺した。
そしてアシナヅチ・テナヅチに、強い酒を醸し、垣を作って8つの門を作り、それぞれに醸した酒を満たした酒桶を置くように言った。
準備をして待っていると、ヤマタノオロチがやって来た。
オロチは8つの頭をそれぞれの酒桶に突っ込んで酒を飲み出した。
オロチが酔ってその場で寝てしまうと、スサノオは十拳剣を抜いてオロチを切り刻んだ。
尾を切り刻んだとき、剣の刃が欠けた。
剣で尾を裂いてみると大刀が出てきた。
これは不思議なものだと思い、アマテラスにこの大刀を献上した。
これが天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)のちの草薙剣(くさなぎのつるぎ)である。
ヤマタノオロチを退治したスサノオは、宮殿を作る地を探して出雲国の須賀の地へやって来て、「ここに来て、私の心はすがすがしい」と言ってそこに宮を作った。
それでその地を須賀という。宮が完成したとき雲が立ち昇った。
そこで、「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」と詠んだ。
スサノオはアシナヅチを呼び、宮の首長に任じた。
---------------------------------------------
英雄が怪物を退治して、救い出した姫と結婚するという神話は、世界中に分布してます。
これを、ペルセウス・アンドロメダ型神話といいます。
ペルセウスとアンドロメダは、ギリシャ神話の登場人物です。
簡単に書くと、こういうお話。
アンドロメダは、波の打ちつける岩に、鎖で縛られてました。
親バカな母のとばっちりです。
母カシオペアが、娘の美貌は海の精霊たちに勝ると言い放ったため……。
海神ポセイドンの怒りに触れたのです。
おかげでアンドロメダは、化け鯨ケイトスの生け贄にされようとしてました。
そこへ通りかかったのが、ペルセウス。
ペルセウスは、退治したばかりのメデューサの首を携えてました。
メデューサは、見たものを石に変える魔物です。
首を見せられた化け鯨は石になり、アンドロメダは救われました。
で、ペルセウスとアンドロメダは、めでたく結ばれました、というお話。
ヤマタノオロチの神話も、典型的なペルセウス・アンドロメダ型神話と言えるでしょう。
さて、それでは……。
ヤマタノオロチとは、どのような怪物だったのでしょうか?
同じく、『Wikipedia』から。
『8つの頭と8本の尾を持ち、目はホオズキのように真っ赤で、背中には苔や木が生え、腹は血でただれ、8つの谷、8つの峰にまたがるほど巨大』
上記の絵本では、ヤマタノオロチは、こんなふうに描かれてます。
ちょっと、雰囲気違うみたいだけどね。
ときに……。
「股」が8つなら、頭は9つだろうと言う人がいるようです。
のび太くんも、ドラえもんに同じ質問をしてたようですね。
でも、これは当たりません。
「股」とは、分かれてる箇所を指す言葉ではないからです。
2本に分かれた道は、二股道と言いますよね。
決して一股道とは云いません。
つまり「股」の数を数えるとしたら、分かれてる箇所ではなく、分かれてる本数を数えるわけです。
なので、「ヤマタ」の頭は8本でいいわけ。
それじゃ、「股」の間の分かれてる部分は何かというと……。
それは当然、「股間」になるわけですね♪
「また」、脱線してしまいました。
ヤマタノオロチが何を象徴しているのか、ということには諸説あるみたいですが……。
一般的には、斐伊川の氾濫であると云われてます。
斐伊川の流域では、砂鉄を原料とした製鉄が盛んでした。
流れ出る鉄さびにより、川の水は常に赤かったそうです。
ヤマタノオロチのイメージで、「ホオズキ」や「血」など、「赤」が強調されてるのは……。
まさしく、その川を象徴したものだと。
つまり、斐伊川が毎年のように氾濫し、人々を呑みこむさまが、「ヤマタノオロチ」に象徴されてるのだと。
まぁ、もっともな説ですよね。
でも、細かいとこが気になるわたしには、ひっかかる箇所がありました。
お話の冒頭部分です。
『高天原を追放されたスサノオは、出雲国の斐伊川の上流の鳥髪に降り立った。
川上から箸が流れてきたので、川上に人がいると思って川を上ってみると老夫婦が泣いていた。』
鳥髪というのは、今の鳥上のことです。
鳥上の地は、斐伊川を遡った、船通山の山の中にあります。
「鳥上の滝」という名所があります。
船通山の標高は、1,142メートル。
鳥上の標高は、900メートルくらいだと思います。
8合目あたりですね。
さて、スサノオの目の前に箸が流れてきました。
標高900メートルの鳥上の、さらに上流からです。
ということは、老夫婦が住んでたのは、斐伊川の源流が湧き出るあたりじゃないでしょうか。
そんなとこで、洪水が起こると思います?
洪水ってのは、川の水が集まる中流以降で起こるものでしょ。
ヤマタノオロチが洪水の象徴なら、その被害を受けるクシナダヒメの一家は、山裾より下に住んでなきゃおかしい。
少なくとも、山の頂上あたりに住んでるってのは、かなり矛盾してる……。
引っかかったことがもうひとつ。
色彩的な違和感です。
鉄さび色の水を表すのに……。
「ホオズキ」や「血」というたとえは、ちょっとそぐわないんじゃないか……。
「ホオズキ」や「血」から連想される赤は、鮮明な赤ですよね。
赤さびで濁った川の色とは、ちょっと違う気が……。
これらのことに、ずっと引っかかりを持ちながらも……。
別に、改まって探求することもなく過ごしておりましたが……。
ある日のこと。
あるサイトの画像を見て……。
思わず叫んだのです。
「ヤマタノオロチだっ!」
画面にはまさしく、ヤマタノオロチが映ってたんです。
その時見た画像は、どうしても見つかりませんので、似たような画像を載せます。
もう1枚。
いずれも、溶岩流が山肌を流れ下る画像です。
どうです?
まさに、たくさんの頭を持つ、真っ赤なヘビに見えませんか?
『8つの頭と8本の尾を持ち、目はホオズキのように真っ赤で、背中には苔や木が生え、腹は血でただれ、8つの谷、8つの峰にまたがるほど巨大』
ひょっとしたらわたし、大発見したのではなかろうか……。
ドキドキしました。
で、「ヤマタノオロチ=溶岩流」という説が無いか、ネット検索したところ……。
がっくり……。
やっぱり、その説を唱えてる人がいたんです。
しかも偉い人。
寺田寅彦(1878~1935)という人です。
物理学者でありながら、夏目漱石の高弟。
随筆家としても有名な人です。
わたしが見つけたのは、「寺田寅彦随筆集」にあった「神話と地球物理学」という一文。
昭和8年8月に発表された文章です。
中に、次のような記述があります(原文に行分けはありません。全文はこちら)。
---------------------------------------------
高志の八俣の大蛇の話も火山からふき出す熔岩流の光景を連想させるものである。
「年ごとに来て喫うなる」というのは、噴火の間歇性を暗示する。
「それが目は酸漿なして」とあるのは、熔岩流の末端の裂罅から内部の灼熱部が隠見する状況の記述にふさわしい。
「身一つに頭八つ尾八つあり」は熔岩流が山の谷や沢を求めて合流あるいは分流するさまを暗示する。
「またその身に蘿また檜榲生い」というのは熔岩流の表面の峨々たる起伏の形容とも見られなくはない。
「その長さ谿八谷峡八尾をわたりて」は、そのままにして解釈はいらない。
「その腹をみれば、ことごとに常に血爛れたりとまおす」は、やはり側面の裂罅からうかがわれる内部の灼熱状態を示唆的にそう言ったものと考えられなくはない。
---------------------------------------------
まさに、そのまんまですよね。
斐伊川の氾濫なんて例えより、ずっと視覚的に近いじゃありませんか。
それにこの説なら、山の頂上近くがオロチに襲われるって疑問も氷解します。
溶岩流は、頂上から流れ下って来るわけですから。
ただ、この説でも説明し難い記述が、神話にはあります。
『毎年古志(こし)からヤマタノオロチがやって来て娘を食べてしまった。』
古志というのは、「越」のことです。
『Wikipedia』を引くと……。
「越国(こしのくに)とは、現在の福井県敦賀市から山形県庄内地方の一部に相当する地域を領した、古代の勢力圏である」
つまり、その越の国から出雲に、ヤマタノオロチはやってくるわけです。
この記述、単純な火山噴火説からは、説明がつきません。
もちろん、洪水説でも説明できませんけど。
なんとか説明できんもんか……。
考えました。
オロチは、越から出雲にやって来る……。
越と出雲を繋ぐもの……。
首を捻るうち……。
突如、閃きました。
あったんです。
越と出雲を繋ぐものが。
越と出雲を繋ぐもの……。
それは、火山でした。
ヤマタノオロチを生み出す火山こそが、越と出雲を繋いでたんです。
すなわち、火山帯です。
『Wikipedia』で「火山帯」を引くと、「白山火山帯」の記述があります。
「白山火山帯(はくさんかざんたい)もしくは大山火山帯(だいせんかざんたい)は、岐阜県と石川県の県境である白山から中国山地を通って九州北部まで延びる火山群である。中部地方部分を狭義の白山火山帯、中国地方以西を狭義の大山火山帯として区分する場合もある。主な火山は東から、白山、大山、三瓶山、由布岳、九重連山、雲仙岳などである」
越の国には、まさにこの白山があります。
「白山(はくさん)は、石川県、福井県、岐阜県の3県にまたがる成層火山。30万年から40万年前から火山活動を始め1659年(万治2年)の噴火が最も新しい(『Wikipedia』)」
神話の時代も、当然噴火していたはずです。
出雲の東、伯耆の国には、大山があります。
「大山(だいせん)は、鳥取県の大山町・伯耆町・江府町・琴浦町・米子市・倉吉市・北栄町・岡山県真庭市にまたがる国内有数規模の成層複成火山(『Wikipedia』)」
そして出雲の国には、三瓶山。
「三瓶山(さんべさん)は島根県のほぼ中央部、大田市にある大山火山帯に属する火山。2003年の活火山の定義見直しで活火山に指定された」
すなわち!
ヤマタノオロチは、白山火山帯の連鎖爆発を表現していたのです!
まず、越の国の白山で噴火が起きます。
それに誘発され、隣の火山が噴火する。
まるで導火線で繋がれてるかのように、火山帯に連なる火山が次々と噴火していきます。
そしてついに、隣の大山が噴火。
山のてっぺんを真っ赤に染めて、溶岩流が流れ下るのが見えます。
これを、出雲の国から見てたらどうでしょう。
噴火する山が、どんどんと出雲に近づいて来ます。
まるで、巨大な怪物が……。
8つの谷、8つの峰を乗り越えてやってくるように見えたんじゃないでしょうか?
実際、「越の国」という呼称には、山をいくつも越えて行くところという意味があったそうです。
さらに、神話の終わりにある記述も、火山を暗示してます。
『ヤマタノオロチを退治したスサノオは、宮殿を作る地を探して出雲国の須賀の地へやって来て、「ここに来て、私の心はすがすがしい」と言ってそこに宮を作った。それでその地を須賀という。宮が完成したとき雲が立ち昇った』
須賀は、雲南市大東町須賀として地名が残ってます。
スサノオとクシナダヒメを祭る須我神社があります。
ここの標高は、海抜200メートルくらいだと思います。
こんな低いとこに、雲が立ち昇るでしょうか?
わたしは、立ち昇ったのは水蒸気じゃないかと思うんです。
すなわち、温泉の湯煙!
実際、須賀神社の近くには、海潮温泉(うしおおんせん)があるんですよ。
温泉はまさに、火山からの贈り物ですよね。
いかがですか?
まぁ、学者には相手にされないでしょうが……。
子供向けのSFなら書けそうでしょ。
もうひとつ、ヤマタノオロチのお話から思いついたアイデアをご披露します。
神話のこの部分からの発想。
『スサノオはクシナダヒメを守るためにその姿を櫛に変えて髪に刺した』
クシナダヒメが、小さい姿に変えられて髪に刺された、とするのが素直な解釈なのでしょうが……。
そうじゃないとしたらどうでしょう?
つまり、スサノオが、もともと巨大だったとしたら……。
実際、スサノオは「巨人神」だったという説もあるんです(注・巨人阪神ではない)。
スサノオの親世代は、イザナミとイザナギです。
この2人が、恐ろしく巨大だったことは明白です。
何しろ、性交により日本列島を産み落としたわけですから。
で、その子供であるアマテラスやスサノオも、親ほどではありませんが、巨人だった(らしい)。
スサノオが巨人神であったらしいことは、古事記の描写からもうかがわれます。
『その泣くさまは、青山は枯山なす泣き枯らし、河海はことごとに泣き乾しき』
『天に参のぼる時、山河こどごとに動み、国土皆震りき』
こういう描写から、巨大なスサノオを思い浮かべたとき……。
わたしの脳裏に浮かんだのは……。
搭乗型の戦闘ロボットでした。
古事記の描写は、駆動する巨大ロボットを彷彿とさせませんか?
で……。
古代の人には……。
パイロットが、ロボット頭部のコクピットに乗りこむ姿が……。
巨人が小さな人を、「髪に刺した」ように見えたのでは?
すなわち!
クシナダヒメこそが、戦闘ロボットのパイロットだったのだっ!
そうなると当然、ヤマタノオロチは怪獣じゃなきゃいけませんね。
こんな感じ?
なんだか、朝鮮人参みたいですけど……。
でも、色合いといい形状といい、溶岩流の化身に、見えなくもないでしょ?
これは、「酒井ゆうじの世界」というところで見つけたフィギア。
溶岩流の化身「ヤマタノオロチ」VS クシナダヒメが操縦する戦闘ロボット「スサノオ」!
いかがです?
こんなアイデア。
どっかで使ってくれないかなー。
と……。
ここまで書いて、また嫌な予感が……。
すでに、作られてるんじゃ……、って。
検索してみたら……。
はは。
ありましたね。
1994年製作のテレビアニメ、「ヤマトタケル」。
↓そこに出てくる、「魔空戦神」というロボットの名前が「スサノオ」でした。
操縦するヤマトタケルは、男の子でしたけどね。
うーむ、「スサノオ=巨大ロボット」説も、オリジナルじゃなかった……。
それなら、このアイデアはどうだ!
「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」を手にしたスサノオは……。
突然、その場で真っ裸になった……。
これは……。
誰も使ってくれんわな。
最後になりましたが……。
ヤマタノオロチって、何か別の怪獣にも似てませんか?
そう、キングギドラですね。
これも酒井さんの作。
実際キングギドラって、ヤマタノオロチを元に造られた怪獣なんですよ。
これでほんとにおしまいです。
長々とお付きあいくださり、ありがとうございました。
みなさんも、ヤマタノオロチの神話はご存じのことと思います。
スサノオノミコトが、ヤマタノオロチを退治したって話です。
わたしも1冊、絵本を持ってます。
お話を、おさらいしておきましょう。
『Wikipedia』からの引用です。
---------------------------------------------
高天原を追放されたスサノオは、出雲国の斐伊川の上流の鳥髪に降り立った。
川上から箸が流れてきたので、川上に人がいると思って川を上ってみると老夫婦が泣いていた。
その夫婦はオオヤマツミの子のアシナヅチとテナヅチであった。
夫婦には8人の娘がいたが、毎年古志(こし)からヤマタノオロチがやって来て娘を食べてしまった。
今年もオロチのやって来る時期が近付き、このままでは最後に残った末娘のクシナダヒメも食べられてしまうので、泣いているのであった。
スサノオは、クシナダヒメを妻として貰い受けることを条件に、ヤマタノオロチ退治を請け負った。
スサノオはクシナダヒメを守るためにその姿を櫛に変えて髪に刺した。
そしてアシナヅチ・テナヅチに、強い酒を醸し、垣を作って8つの門を作り、それぞれに醸した酒を満たした酒桶を置くように言った。
準備をして待っていると、ヤマタノオロチがやって来た。
オロチは8つの頭をそれぞれの酒桶に突っ込んで酒を飲み出した。
オロチが酔ってその場で寝てしまうと、スサノオは十拳剣を抜いてオロチを切り刻んだ。
尾を切り刻んだとき、剣の刃が欠けた。
剣で尾を裂いてみると大刀が出てきた。
これは不思議なものだと思い、アマテラスにこの大刀を献上した。
これが天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)のちの草薙剣(くさなぎのつるぎ)である。
ヤマタノオロチを退治したスサノオは、宮殿を作る地を探して出雲国の須賀の地へやって来て、「ここに来て、私の心はすがすがしい」と言ってそこに宮を作った。
それでその地を須賀という。宮が完成したとき雲が立ち昇った。
そこで、「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」と詠んだ。
スサノオはアシナヅチを呼び、宮の首長に任じた。
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英雄が怪物を退治して、救い出した姫と結婚するという神話は、世界中に分布してます。
これを、ペルセウス・アンドロメダ型神話といいます。
ペルセウスとアンドロメダは、ギリシャ神話の登場人物です。
簡単に書くと、こういうお話。
アンドロメダは、波の打ちつける岩に、鎖で縛られてました。
親バカな母のとばっちりです。
母カシオペアが、娘の美貌は海の精霊たちに勝ると言い放ったため……。
海神ポセイドンの怒りに触れたのです。
おかげでアンドロメダは、化け鯨ケイトスの生け贄にされようとしてました。
そこへ通りかかったのが、ペルセウス。
ペルセウスは、退治したばかりのメデューサの首を携えてました。
メデューサは、見たものを石に変える魔物です。
首を見せられた化け鯨は石になり、アンドロメダは救われました。
で、ペルセウスとアンドロメダは、めでたく結ばれました、というお話。
ヤマタノオロチの神話も、典型的なペルセウス・アンドロメダ型神話と言えるでしょう。
さて、それでは……。
ヤマタノオロチとは、どのような怪物だったのでしょうか?
同じく、『Wikipedia』から。
『8つの頭と8本の尾を持ち、目はホオズキのように真っ赤で、背中には苔や木が生え、腹は血でただれ、8つの谷、8つの峰にまたがるほど巨大』
上記の絵本では、ヤマタノオロチは、こんなふうに描かれてます。
ちょっと、雰囲気違うみたいだけどね。
ときに……。
「股」が8つなら、頭は9つだろうと言う人がいるようです。
のび太くんも、ドラえもんに同じ質問をしてたようですね。
でも、これは当たりません。
「股」とは、分かれてる箇所を指す言葉ではないからです。
2本に分かれた道は、二股道と言いますよね。
決して一股道とは云いません。
つまり「股」の数を数えるとしたら、分かれてる箇所ではなく、分かれてる本数を数えるわけです。
なので、「ヤマタ」の頭は8本でいいわけ。
それじゃ、「股」の間の分かれてる部分は何かというと……。
それは当然、「股間」になるわけですね♪
「また」、脱線してしまいました。
ヤマタノオロチが何を象徴しているのか、ということには諸説あるみたいですが……。
一般的には、斐伊川の氾濫であると云われてます。
斐伊川の流域では、砂鉄を原料とした製鉄が盛んでした。
流れ出る鉄さびにより、川の水は常に赤かったそうです。
ヤマタノオロチのイメージで、「ホオズキ」や「血」など、「赤」が強調されてるのは……。
まさしく、その川を象徴したものだと。
つまり、斐伊川が毎年のように氾濫し、人々を呑みこむさまが、「ヤマタノオロチ」に象徴されてるのだと。
まぁ、もっともな説ですよね。
でも、細かいとこが気になるわたしには、ひっかかる箇所がありました。
お話の冒頭部分です。
『高天原を追放されたスサノオは、出雲国の斐伊川の上流の鳥髪に降り立った。
川上から箸が流れてきたので、川上に人がいると思って川を上ってみると老夫婦が泣いていた。』
鳥髪というのは、今の鳥上のことです。
鳥上の地は、斐伊川を遡った、船通山の山の中にあります。
「鳥上の滝」という名所があります。
船通山の標高は、1,142メートル。
鳥上の標高は、900メートルくらいだと思います。
8合目あたりですね。
さて、スサノオの目の前に箸が流れてきました。
標高900メートルの鳥上の、さらに上流からです。
ということは、老夫婦が住んでたのは、斐伊川の源流が湧き出るあたりじゃないでしょうか。
そんなとこで、洪水が起こると思います?
洪水ってのは、川の水が集まる中流以降で起こるものでしょ。
ヤマタノオロチが洪水の象徴なら、その被害を受けるクシナダヒメの一家は、山裾より下に住んでなきゃおかしい。
少なくとも、山の頂上あたりに住んでるってのは、かなり矛盾してる……。
引っかかったことがもうひとつ。
色彩的な違和感です。
鉄さび色の水を表すのに……。
「ホオズキ」や「血」というたとえは、ちょっとそぐわないんじゃないか……。
「ホオズキ」や「血」から連想される赤は、鮮明な赤ですよね。
赤さびで濁った川の色とは、ちょっと違う気が……。
これらのことに、ずっと引っかかりを持ちながらも……。
別に、改まって探求することもなく過ごしておりましたが……。
ある日のこと。
あるサイトの画像を見て……。
思わず叫んだのです。
「ヤマタノオロチだっ!」
画面にはまさしく、ヤマタノオロチが映ってたんです。
その時見た画像は、どうしても見つかりませんので、似たような画像を載せます。
もう1枚。
いずれも、溶岩流が山肌を流れ下る画像です。
どうです?
まさに、たくさんの頭を持つ、真っ赤なヘビに見えませんか?
『8つの頭と8本の尾を持ち、目はホオズキのように真っ赤で、背中には苔や木が生え、腹は血でただれ、8つの谷、8つの峰にまたがるほど巨大』
ひょっとしたらわたし、大発見したのではなかろうか……。
ドキドキしました。
で、「ヤマタノオロチ=溶岩流」という説が無いか、ネット検索したところ……。
がっくり……。
やっぱり、その説を唱えてる人がいたんです。
しかも偉い人。
寺田寅彦(1878~1935)という人です。
物理学者でありながら、夏目漱石の高弟。
随筆家としても有名な人です。
わたしが見つけたのは、「寺田寅彦随筆集」にあった「神話と地球物理学」という一文。
昭和8年8月に発表された文章です。
中に、次のような記述があります(原文に行分けはありません。全文はこちら)。
---------------------------------------------
高志の八俣の大蛇の話も火山からふき出す熔岩流の光景を連想させるものである。
「年ごとに来て喫うなる」というのは、噴火の間歇性を暗示する。
「それが目は酸漿なして」とあるのは、熔岩流の末端の裂罅から内部の灼熱部が隠見する状況の記述にふさわしい。
「身一つに頭八つ尾八つあり」は熔岩流が山の谷や沢を求めて合流あるいは分流するさまを暗示する。
「またその身に蘿また檜榲生い」というのは熔岩流の表面の峨々たる起伏の形容とも見られなくはない。
「その長さ谿八谷峡八尾をわたりて」は、そのままにして解釈はいらない。
「その腹をみれば、ことごとに常に血爛れたりとまおす」は、やはり側面の裂罅からうかがわれる内部の灼熱状態を示唆的にそう言ったものと考えられなくはない。
---------------------------------------------
まさに、そのまんまですよね。
斐伊川の氾濫なんて例えより、ずっと視覚的に近いじゃありませんか。
それにこの説なら、山の頂上近くがオロチに襲われるって疑問も氷解します。
溶岩流は、頂上から流れ下って来るわけですから。
ただ、この説でも説明し難い記述が、神話にはあります。
『毎年古志(こし)からヤマタノオロチがやって来て娘を食べてしまった。』
古志というのは、「越」のことです。
『Wikipedia』を引くと……。
「越国(こしのくに)とは、現在の福井県敦賀市から山形県庄内地方の一部に相当する地域を領した、古代の勢力圏である」
つまり、その越の国から出雲に、ヤマタノオロチはやってくるわけです。
この記述、単純な火山噴火説からは、説明がつきません。
もちろん、洪水説でも説明できませんけど。
なんとか説明できんもんか……。
考えました。
オロチは、越から出雲にやって来る……。
越と出雲を繋ぐもの……。
首を捻るうち……。
突如、閃きました。
あったんです。
越と出雲を繋ぐものが。
越と出雲を繋ぐもの……。
それは、火山でした。
ヤマタノオロチを生み出す火山こそが、越と出雲を繋いでたんです。
すなわち、火山帯です。
『Wikipedia』で「火山帯」を引くと、「白山火山帯」の記述があります。
「白山火山帯(はくさんかざんたい)もしくは大山火山帯(だいせんかざんたい)は、岐阜県と石川県の県境である白山から中国山地を通って九州北部まで延びる火山群である。中部地方部分を狭義の白山火山帯、中国地方以西を狭義の大山火山帯として区分する場合もある。主な火山は東から、白山、大山、三瓶山、由布岳、九重連山、雲仙岳などである」
越の国には、まさにこの白山があります。
「白山(はくさん)は、石川県、福井県、岐阜県の3県にまたがる成層火山。30万年から40万年前から火山活動を始め1659年(万治2年)の噴火が最も新しい(『Wikipedia』)」
神話の時代も、当然噴火していたはずです。
出雲の東、伯耆の国には、大山があります。
「大山(だいせん)は、鳥取県の大山町・伯耆町・江府町・琴浦町・米子市・倉吉市・北栄町・岡山県真庭市にまたがる国内有数規模の成層複成火山(『Wikipedia』)」
そして出雲の国には、三瓶山。
「三瓶山(さんべさん)は島根県のほぼ中央部、大田市にある大山火山帯に属する火山。2003年の活火山の定義見直しで活火山に指定された」
すなわち!
ヤマタノオロチは、白山火山帯の連鎖爆発を表現していたのです!
まず、越の国の白山で噴火が起きます。
それに誘発され、隣の火山が噴火する。
まるで導火線で繋がれてるかのように、火山帯に連なる火山が次々と噴火していきます。
そしてついに、隣の大山が噴火。
山のてっぺんを真っ赤に染めて、溶岩流が流れ下るのが見えます。
これを、出雲の国から見てたらどうでしょう。
噴火する山が、どんどんと出雲に近づいて来ます。
まるで、巨大な怪物が……。
8つの谷、8つの峰を乗り越えてやってくるように見えたんじゃないでしょうか?
実際、「越の国」という呼称には、山をいくつも越えて行くところという意味があったそうです。
さらに、神話の終わりにある記述も、火山を暗示してます。
『ヤマタノオロチを退治したスサノオは、宮殿を作る地を探して出雲国の須賀の地へやって来て、「ここに来て、私の心はすがすがしい」と言ってそこに宮を作った。それでその地を須賀という。宮が完成したとき雲が立ち昇った』
須賀は、雲南市大東町須賀として地名が残ってます。
スサノオとクシナダヒメを祭る須我神社があります。
ここの標高は、海抜200メートルくらいだと思います。
こんな低いとこに、雲が立ち昇るでしょうか?
わたしは、立ち昇ったのは水蒸気じゃないかと思うんです。
すなわち、温泉の湯煙!
実際、須賀神社の近くには、海潮温泉(うしおおんせん)があるんですよ。
温泉はまさに、火山からの贈り物ですよね。
いかがですか?
まぁ、学者には相手にされないでしょうが……。
子供向けのSFなら書けそうでしょ。
もうひとつ、ヤマタノオロチのお話から思いついたアイデアをご披露します。
神話のこの部分からの発想。
『スサノオはクシナダヒメを守るためにその姿を櫛に変えて髪に刺した』
クシナダヒメが、小さい姿に変えられて髪に刺された、とするのが素直な解釈なのでしょうが……。
そうじゃないとしたらどうでしょう?
つまり、スサノオが、もともと巨大だったとしたら……。
実際、スサノオは「巨人神」だったという説もあるんです(注・巨人阪神ではない)。
スサノオの親世代は、イザナミとイザナギです。
この2人が、恐ろしく巨大だったことは明白です。
何しろ、性交により日本列島を産み落としたわけですから。
で、その子供であるアマテラスやスサノオも、親ほどではありませんが、巨人だった(らしい)。
スサノオが巨人神であったらしいことは、古事記の描写からもうかがわれます。
『その泣くさまは、青山は枯山なす泣き枯らし、河海はことごとに泣き乾しき』
『天に参のぼる時、山河こどごとに動み、国土皆震りき』
こういう描写から、巨大なスサノオを思い浮かべたとき……。
わたしの脳裏に浮かんだのは……。
搭乗型の戦闘ロボットでした。
古事記の描写は、駆動する巨大ロボットを彷彿とさせませんか?
で……。
古代の人には……。
パイロットが、ロボット頭部のコクピットに乗りこむ姿が……。
巨人が小さな人を、「髪に刺した」ように見えたのでは?
すなわち!
クシナダヒメこそが、戦闘ロボットのパイロットだったのだっ!
そうなると当然、ヤマタノオロチは怪獣じゃなきゃいけませんね。
こんな感じ?
なんだか、朝鮮人参みたいですけど……。
でも、色合いといい形状といい、溶岩流の化身に、見えなくもないでしょ?
これは、「酒井ゆうじの世界」というところで見つけたフィギア。
溶岩流の化身「ヤマタノオロチ」VS クシナダヒメが操縦する戦闘ロボット「スサノオ」!
いかがです?
こんなアイデア。
どっかで使ってくれないかなー。
と……。
ここまで書いて、また嫌な予感が……。
すでに、作られてるんじゃ……、って。
検索してみたら……。
はは。
ありましたね。
1994年製作のテレビアニメ、「ヤマトタケル」。
↓そこに出てくる、「魔空戦神」というロボットの名前が「スサノオ」でした。
操縦するヤマトタケルは、男の子でしたけどね。
うーむ、「スサノオ=巨大ロボット」説も、オリジナルじゃなかった……。
それなら、このアイデアはどうだ!
「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」を手にしたスサノオは……。
突然、その場で真っ裸になった……。
これは……。
誰も使ってくれんわな。
最後になりましたが……。
ヤマタノオロチって、何か別の怪獣にも似てませんか?
そう、キングギドラですね。
これも酒井さんの作。
実際キングギドラって、ヤマタノオロチを元に造られた怪獣なんですよ。
これでほんとにおしまいです。
長々とお付きあいくださり、ありがとうございました。
コメント一覧
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1. マッチロック- 2011/03/30 16:21
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♪萌えあがれ~萌えあがれ~萌えあがれ~美弥子・・♪
おっと、ガンダムではありませんね。
ヤマタノオロチの話でした。
ヤマタノオロチの溶岩伝説やスサノウ巨大ロボット説等
忘れていた子供心を解放してくれたみたいです。
(スケベ心は既に解放され突っ走っていますが・・)
ここでコメントして分かりませんが・・・。
ずーと、物語中のある人物像に何かしらひっかる物を
感じていたのですが、それは「美弥子」のイメージ。
ギリシャ神話のお話が出てきますが、それを見て
自分なり納得しました。
蝋で作られたような肌などの体の特徴や夜、鏡を
見てはいけない(この部分メデューサ逆バージョン?)
メタルに光る目等、ギリシャ神話に出てくる女神像を
当てはめると自分の中ではピッタリ型にはまったように
すっきりしました。
あくまでも一読者の見解なので受け止め方は人に
よって千差万別(女版デビルマンとか身近にいる
気になる上司や同僚、友人等)だと思いますが
アテナやアンドロメダ、アフロディーテ(ビーナス)
などの女神の化身と考えれば、物語の裾の広がり
を感じ、また違った受け止め方を出来るように感じ
ました。(特にアフロディーテ(ビーナス)を当てはめ
るといいかも。なんたって愛と愛欲の神ですから!)
ところでスサノウ巨大ロボットの実写版はご存知
でしょうか?
東宝映画「ヤマタノオロチ」劇中に登場しています。
さすがに劇中ではスサノウを「ロボット」とは言って
いませんでしたが興味があればご覧あれ。
ちなみに上記のヤマタノオロチのフィギュアはその時の
デザインを元に作られています。
(興行的には失敗し、3話完結が1話で打ち切られました)
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2. Mikiko- 2011/03/30 20:09
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スサノオは初耳です。
機会があったら見てみたいものです。
しかし、実写のロボットは……。
予算が無いと、はなはだ切ないものになりますよね。
「鉄人28号」の実写版を、テレビで見たことがありますが……。
「がんばれロボコン」かと思いました。
たしか「マジンガーZ」に、女性型ロボットが出て来ましたが……。
美弥子の完成された身体には、あんなイメージもあるかもね。
ロボット同士の性交シーンも、書いてみたい気がするな。
ローション代わりに、油差すとかね。
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3. マッチロック- 2011/03/30 20:28
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ローション代わりに、油差す
ではなく
グリスを塗るのが該当と
思えます。
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4. Mikiko- 2011/03/31 07:28
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「油差す」は古かったか?
おばさんがバレるのぅ。
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5. 間 黒男- 2015/07/17 06:10
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「九尾狐」という韓流ドラマを思い出しました!
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6. 間 黒男- 2015/09/20 14:21
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…裸で何が悪い!
…慎吾、…シンゴー!