2015.5.2(土)
雨が、ようやく小降りになってきた。
雷も、どうやら止んだようだ。
千穂が厨房の窓から外を覗いている。
「庭が海みたい」
田舎暮らしもいいな。
由美は心からそう思った。
その時だった。
玄関の方から、チャイムが聞こえた。
「あ、もうこんな時間。
ひょっとして、チェックインかな」
千穂は、厨房を駈け出して行った。
「大丈夫?」
由美は、改めて美弥子の顔を覗きこんだ。
「うん」
「起てる?」
美弥子は、由美に縋りながら、生まれたての子鹿のように起ちあがった。
「何かしら?」
美弥子は、玄関の方向に顔を向けて、耳を澄ましているようだった。
千穂の声が聞こえた。
甲高い声だった。
普通に客を迎える声では無い。
「行ってみよ」
2人は、同時に駆け出した。
「どうしました?」
「あ、お願い、バスタオル取ってきて」
美弥子が、踵を返して駆け戻っていった。
玄関の三和土には、女性と子供が立っていた。
女性は、おそらく今日の客だろう。
子供は涼太だった。
2人共、びしょ濡れだ。
あの驟雨に、まともに襲われたらしい。
「あー、ひどい目に遭ったわ」
「ご連絡くだされば、迎えに行きましたのに」
「いいのよ。
漁師町を、ブラブラ歩くのが楽しみなんだから。
はは。
こないだ来たばっかりなんだけどね。
でも、いつ来てもホッとするわ。
途中で涼太くんに会ってね。
一緒に歩いてたら、あの雨でしょ。
ちょうど軒先も無いような道で、あっという間に濡れネズミ」
雷も、どうやら止んだようだ。
千穂が厨房の窓から外を覗いている。
「庭が海みたい」
田舎暮らしもいいな。
由美は心からそう思った。
その時だった。
玄関の方から、チャイムが聞こえた。
「あ、もうこんな時間。
ひょっとして、チェックインかな」
千穂は、厨房を駈け出して行った。
「大丈夫?」
由美は、改めて美弥子の顔を覗きこんだ。
「うん」
「起てる?」
美弥子は、由美に縋りながら、生まれたての子鹿のように起ちあがった。
「何かしら?」
美弥子は、玄関の方向に顔を向けて、耳を澄ましているようだった。
千穂の声が聞こえた。
甲高い声だった。
普通に客を迎える声では無い。
「行ってみよ」
2人は、同時に駆け出した。
「どうしました?」
「あ、お願い、バスタオル取ってきて」
美弥子が、踵を返して駆け戻っていった。
玄関の三和土には、女性と子供が立っていた。
女性は、おそらく今日の客だろう。
子供は涼太だった。
2人共、びしょ濡れだ。
あの驟雨に、まともに襲われたらしい。
「あー、ひどい目に遭ったわ」
「ご連絡くだされば、迎えに行きましたのに」
「いいのよ。
漁師町を、ブラブラ歩くのが楽しみなんだから。
はは。
こないだ来たばっかりなんだけどね。
でも、いつ来てもホッとするわ。
途中で涼太くんに会ってね。
一緒に歩いてたら、あの雨でしょ。
ちょうど軒先も無いような道で、あっという間に濡れネズミ」
コメント一覧
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1. Mikiko- 2015/05/02 07:51
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み「当時は、コンピューター関係の会社に勤めててね。
フレックスタイム制だったの」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201504291849299f3.jpg
↑わたしは、バイトでしか押したことがありません。
み「だから、電車に乗りたくないって日には、歩くわけね」
律「タクシーに乗れば?」
み「金がかかるだろ。
酒臭いし」
律「タクシーが?」
み「わたしがよ。
同僚に、ロッカールームで、『あなた、酒臭いわよ』とか言われてましたからな。
タクシーに乗ったら、間違いなく臭うはずです」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20150429184957e07.jpg
↑会社に行っても、仕事になりません。休んだ方がはるかにマシです。でも、1度休んだら……。わたしを社会に繋いでいる糸が、プッツリと切れる気がしたのです。
律「呆れた女」
み「ま、歩けば酔い冷ましにもなるしね」
律「どこからどこまで歩いたの?」
み「住んでたところは、西新宿のもう少し西側のマンション。
住人には、新宿のお店に勤めてるっぽい女性や、アジアン系もいましたな」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201504291849306ee.jpg
み「わたしにとっては、最初で最後のマンション暮らしでした。
楽しかったなぁ。
家賃は高かったけど」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20150429184932627.jpg
↑こんな感じのマンションでした。1階がレンタルビデオ店でしたね。
律「いくら?」
み「7万5千円くらいした」
律「すごいじゃないの。
結構稼いでたのね」
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2. Mikiko- 2015/05/02 07:52
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み「スゴくありません。
早い話、身分不相応なところを借りたんです。
最後の2年くらい、暮らしたかな」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20150429184933811.jpg
↑まさしく、こんな間取りでした。
律「そこを出て、新潟に帰ってきたのね?」
み「さよです。
さすがに、1文も手元に残らない暮らしに、不安を覚えてね。
自分が、江戸っ子じゃないことが、はっきりとわかった」
律「なにそれ?」
み「宵越しの金を持たない生活ってこと。
やっぱりわたしには、冬に備えて蓄える越後人の血が流れてたわけよ」
律「なるほど」
み「で、このマンションから、虎ノ門にあった会社まで歩いたわけ」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20150429184935c07.jpg
↑中央の高層ビルは、『虎ノ門ヒルズ』。もちろん、わたしのいたころにはありません。
律「けっこうあるでしょ?」
み「あります。
まず、西新宿の高層ビル街を突っ切って、新宿まで出る。
途中に、十二社(じゅうにそう)って、面白い地名があって……」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20150429184952e9e.jpg
↑新宿中央公園の一角に鎮座する熊野神社にある案内板。
み「後で知ったんだけど、温泉があったんだよ。
十二社天然温泉」
http://blog-imgs-74.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201504291849545e5.jpg
続きは、次回。
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3. ハーレクイン- 2015/05/02 09:53
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しゅう-う。急に降り出し、間もなく止んでしまう雨。にわかあめ。
(広辞苑第六版)
以前に書いたような気がしますが……。
学生時代に単車で走っていて会ったことがあります、驟雨。怖ろしい勢いでね、よく「一寸先も見えない」と云いますが、まさにそれ。昼間だけどヘッドライトを点けたんですが(当時は点灯義務はまだありませんでした)そんなものなんの役にも立ちません。
「こりゃアカン」。たまたま川沿いを走ってましたので、近くの橋の下に走り込んで雨宿りしたんですが、そんなものもなんの役にも立たない。橋など無いかのように吹き込んできます、雨。すぐに止んだんですが、びしょ濡れのぐしょ濡れの、濡れネズミとはよく云ったというくらいの、体たらくでした。
で、雨上がりに虹でも出れば絵になったんでしょうがそんなことも無く、もちろん行先を訪ねるわけにもいかず、帰宅しました。夏でよかった。冬だったら死んでいたかもしれません。
わたしのことはどうでもよろしい。
雨の中、千穂民宿への訪問客は、なじみの女性客。なんと涼太とも仲良しこよし。さあ、どう展開するのでしょうか。
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4. ハーレクイン- 2015/05/02 09:57
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バイトで押したことはありますが、本業ではありませんねえ。
だいたいが、出勤チェックなんてない業界ですからねえ。授業開始のチャイムが合図のようなものです。万が一出勤していなければ、授業が臨時休講になるだけのこと。生徒はよろこび庭駆け回り♪ます。後日補講を行えばそれで事は済む。ハハのんきだね~。
酒でふらふらになったことなどありませんねえ。気持ちよくなるばかりです。ただ、生徒に「酒臭い」と言われたことは何度か(も?)あります。わたしは「コレ」で講師をやめました(ウソです)。
新宿西口とか、歌舞伎町とか、新大久保とか、このあたりの雰囲気を文章で味わいたい向きには、大沢在昌の警察もの『新宿鮫』シリーズがお薦めです。十二社も、死体と一緒に出てきます。
すげーマンション、と思ったらなんだ、ワンルームか。これで7万5千円! さすが東京ですな。
以前書きましたが、わたしは大阪市内にワンルームを借りていたことがあります。浮気用ではありません、仕事用です。家賃は4万円くらいでした。
場所は大阪のスラム、釜ヶ崎の近く。通天閣がよく見えました。天王寺動物園や『新世界』(ドヴォルザークではありません、しょぼい歓楽街)もすぐ近くでした。
それでは歌っていただきましょう。もず昌平作詞、三山敏作曲『釜ヶ崎人情』。歌うは三音英次。
♪立ちん坊人生 味なもの
通天閣さえ立ちん坊さ
だれに遠慮がいるじゃなし
じんわり待って出直そう
ここは天国
ここは天国 釜ケ崎
♪身の上話にオチがつき
ここまで落ちたというけれど
根性まる出しまる裸
義理も人情もドヤもある
ここは天国
ここは天国 釜ケ崎
♪命があったら死にはせぬ
あくせくせんでものんびりと
七分五厘で生きられる
人はスラムというけれど
ここは天国
ここは天国 釜ケ崎
>冬に備えて蓄える越後人の血
リスやヤマネの血ですな。
西新宿の十二社は、一大歓楽街だったそうです。
あ、まだ話は続きそうだな、十二社。
どうでもええけんど、わたしのパソにはないんだよ「十二社」という丹後。おっと、単語。こんな有名な地名を知らんか、アホパソめ。
今後もあるだろうからしょうがない。登録しましたよ「じゅうにそう」で。手間かけさせおって。
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5. Mikiko- 2015/05/02 19:30
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吉行淳之介の芥川賞受賞作の題名です。
“驟雨”という言葉は、この作品で知りました。
わたしは、後ろから雨に追いかけられたことがあります。
小学校6年生の夏休みの終わりでした。
走って逃げましたが、追いつかれて、ずぶ濡れになりました。
いっしょに走った友達数人と、なぜか大笑いをした思い出があります。
休講。
わたしも、大喜びした口です。
でも、今の学生は違うそうです。
休講にするなら金返せ、という発想だとか。
7万5千円のマンションは、家具付きでした。
ベッド、冷蔵庫、電磁調理器が付いてました。
収納なども作り付けでしたね。
十二社には、大きな池があったそうです。
ブラタモリでやったよね。
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6. きりしま- 2015/05/02 22:06
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もしや、あの女性?
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7. ハーレクイン- 2015/05/02 22:34
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いやな時代だなあ。
これ、誰のセリフだったかな。
あ、勝新か。座頭市。
「ああ、いやな渡世だなア」
十二社(「じゅうにそう」で一発変換できました、単語登録したもーん)の池は、埋め立てられて平地の駐車場になったそうです。
今はどうかな。新宿なんて場所で、そんなのいつまでもほっとかないよね。マンションかなんかになってるかもしれません。ブラタモの時はどうだったかなあ。
雨じゃなく「黒い雲から走って逃げる。追いつかれたら死ぬ。で、いずれ世界が終わる」、という漫画がありました。
作者は『みやわき心太郎(だと思います)』、タイトルは『未逃(みとう;これは確か)』。大学時代に漫画週刊誌(たぶん『漫画アクション』)で読みました。不気味で、スピード感があって、不条理なのに妙に論理的、という奇妙な作品でした。
これ、以前に書いたな。
もう一度読みたいものですが、みやわき氏の作品一覧を調べてもわからないんですよ。作者が違うのかなあ。
吉行淳之介『驟雨』、読んでみたいですね。図書館に行くかな。
半村良の短編集『雨やどり』を連想しちゃいましたよ。中身はかなり異なると思いますが。
吉行と半村。
時代は10年ほどずれますが、ほぼ重なりますね。来歴も作風も異なるのですが(たとえば吉行は芥川賞、半村は直木賞)どこか似通ったものを感じてしまいます。
吉行淳之介、1994年7月肺癌により病没、享年70。
半村良、2002年3月肺炎により病没、享年68。
大腸内視鏡検査レポート、明日じっくり書きましょう。
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8. Mikiko- 2015/05/03 08:10
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> きりしまさん
さてさて……。
いずれの女性のことでしょう?
> ハーレクインさん
今朝のニュースでやってましたが……。
群馬県が、教員採用試験の年齢制限を、事実上撤廃しました。
これまでは、39歳までだったんですが……。
59歳に引き上げたんです。
60歳で定年ですから、事実上制限が無くなったわけです。
というのも、今後、定年に達する教師が続々と出てきて……。
教員不足となることが明白だからだそうです。
時代も変わりましたね。
わたしらの就職時、教員は狭き門でしたから。
昨年、東京の街をバスで走ってて、新潟との明らかな違いに気づきました。
街中に、駐車場が無いんです。
新潟は、そこら中にコインパーキングがあります。
古い建物を取り壊しても、買い手が無く、駐車場にしておくしかないんでしょうね。
東京では、すぐに買い手が付いて、建物が建つのでしょう。
みやわき心太郎『未逃』。
↓『リイドコミック』に連載されてたようです(1978年)。
http://www9.plala.or.jp/usaya/miyasakuhin.html
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9. ハーレクイン- 2015/05/03 11:37
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わたしは教員になる気などこっから先もなかったので、気にしたことありませんでしたが、そうか、かつては狭き門だったんですか、教員(『狭き門』はジッド、わたしらは“ジイド”と覚えたけど)。
なりたい、という人の気持ちもも一つよくわかりません。そんな私が一応“人に教える職業”に就いたんだから、人生なんてわからんもんです。
でも、群馬の教員不足というのは「なり手が少ない」のか「子供が多い」のかどっちなんだろう。少子化はまだまだ続くのは明らかですから、なり手が少ないのかなあ。ひょっとして、群馬県では学校を増やし過ぎてたりして(なんでやねん!)。
駐車場問題。
東京の真ん中に少ないのは確かでしょうね。大阪も少ないですが、それは大阪市内だけでしょう。わたしの市なんかは↓こんな現状です。
府営などの公営住宅には、もちろん入居者用の駐車場があります。それに加えて「来客用の駐車スペース」も備わっています。ところが、近ごろこのスペースを廃止して、その跡地にコインパーキングを作っています。市内に公営住宅は多いですが、わたしの知っている限りですべての住宅がこうしています。で、住んでいる人に聞いたところ、かつての来客用スペースより、現在のコインパーキングの方がずっと駐車可能台数が多くなったそうです。
この原因はどうも……入居者で車所有者が減少しているからではないかと、わたしは考えています。それはつまり、高齢化の影響でしょうね。
過疎化の進む山村などのように、車が無ければ生活できないということは、こちらではありません。スーパーは歩いていけるほどの近くにあるし、バスなどの公共交通機関もまあまあ充実しているし、ショートステイやデイケアなどの施設はもちろん送り迎えしてくれるし……。
ということで、車が要らなくなってきているんですね。若い衆が多ければ、楽しみで乗る車、というのが多いんでしょうが、高齢化社会では免許返上が奨励されるほどですからねえ、車は減っていくでしょう。維持費だってばかにならないし。
ということで、公営住宅の駐車スペースが空く→コインパーキングにでもして少しでも稼ぐか、と行政は考えてるんじゃないでしょうか。
『未逃』情報、ありがとうございます。
みやわき作品には間違いなかったわけですね。単行本にはなっていないようですから、もう読めないかなあ。図書館を当たってみますかね、『リイド』のバックナンバー。
しかし、1978年……40年近く前の作品なんですね。
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10. Mikiko- 2015/05/03 12:30
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「なり手が少ない」わけでも、「子供が多い」わけでもありません。
かつて、子供が多かったときに採用された先生たちが、これから一気に定年を迎えるからです。
つまり、定年退職に伴う自然減が多すぎるのです。
車。
わたしも、一人暮らしになったら、手放すでしょうね。
車検に保険……。
とにかく、維持費が高すぎます。
『未逃』は、オークションにも出てないようです。
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11. ハーレクイン- 2015/05/03 16:50
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なるほど。
穏やかに人員削減を図る時の常套手段ですね。減った分の補充はしない、と。
いやいや、群馬ではそうじゃなくて人集めですか。
そんなに一気に定年なんですかねえ、団塊の世代はとっくに退職してるでしょうに。
あ、第二次ベビーブーム、団塊ジュニアの子たちのために増やした教員ということか。なら、群馬だけの問題じゃないよね。