2014.12.19(金)
■
由美は、美弥子と連れ立って病院に来ていた。
とは言っても……。
具合が悪いわけでも、誰かの見舞いでも無い。
由美の叔母に呼び出されたのだ。
夏休みの帰省から、東京に帰って来たばかりだった。
休みはまだ残っている。
2人だけの夏季休暇を過ごすため、帰省を切りあげて帰って来たのだ。
当初からの約束だった。
「ほんとに何の用かしら?
電話で何も言ってくれないんだもの」
病院の前庭は、蝉の声に満ち溢れていた。
短い夏を惜しんでいるかのようだった。
まるで、自分の心の声みたいに思えた。
叔母の妙な用事で、残り少ない夏を邪魔されたくはなかった。
面倒事なら断ろう。
そう思っていた。
病院の正面入口を潜ると、広いエントランスホールになっていた。
劇場さながらに並んだ待合席は、ほとんど人で埋まっている。
毎日、忙しくて嫌になる……。
叔母はそう嘆いていた。
この様子では、昼食も満足に摂れないのではないか。
「涼しくないね」
外界の暑さのせいか、ホールの天井が高過ぎるためか、行き交う人が多すぎるのか……。
おそらく、そのすべてなのだろう。
ホールには、生温い空気が満ちていた。
「わかった。
待ち時間が長いからだ。
冷房が効いてると、きっと冷えちゃうんだよ。
ちょっと電話してみるね」
「病院で携帯使っちゃダメなんじゃない?」
「今はもう、大丈夫になったんだって。
医療機器の近くじゃなければオッケーって、叔母ちゃんが言ってた。
あ、もしもし。
叔母ちゃん?
今、病院に着いたとこ。
うん。
美弥ちゃんも一緒だよ。
4階?
わかった。
はいはい。
じゃね。
産婦人科棟のカフェテリアに来いって」
1階には大きな食堂があるが、エントランスから離れた棟には、喫茶と軽食が出来るカフェテラスもあった。
由美は、美弥子と連れ立って病院に来ていた。
とは言っても……。
具合が悪いわけでも、誰かの見舞いでも無い。
由美の叔母に呼び出されたのだ。
夏休みの帰省から、東京に帰って来たばかりだった。
休みはまだ残っている。
2人だけの夏季休暇を過ごすため、帰省を切りあげて帰って来たのだ。
当初からの約束だった。
「ほんとに何の用かしら?
電話で何も言ってくれないんだもの」
病院の前庭は、蝉の声に満ち溢れていた。
短い夏を惜しんでいるかのようだった。
まるで、自分の心の声みたいに思えた。
叔母の妙な用事で、残り少ない夏を邪魔されたくはなかった。
面倒事なら断ろう。
そう思っていた。
病院の正面入口を潜ると、広いエントランスホールになっていた。
劇場さながらに並んだ待合席は、ほとんど人で埋まっている。
毎日、忙しくて嫌になる……。
叔母はそう嘆いていた。
この様子では、昼食も満足に摂れないのではないか。
「涼しくないね」
外界の暑さのせいか、ホールの天井が高過ぎるためか、行き交う人が多すぎるのか……。
おそらく、そのすべてなのだろう。
ホールには、生温い空気が満ちていた。
「わかった。
待ち時間が長いからだ。
冷房が効いてると、きっと冷えちゃうんだよ。
ちょっと電話してみるね」
「病院で携帯使っちゃダメなんじゃない?」
「今はもう、大丈夫になったんだって。
医療機器の近くじゃなければオッケーって、叔母ちゃんが言ってた。
あ、もしもし。
叔母ちゃん?
今、病院に着いたとこ。
うん。
美弥ちゃんも一緒だよ。
4階?
わかった。
はいはい。
じゃね。
産婦人科棟のカフェテリアに来いって」
1階には大きな食堂があるが、エントランスから離れた棟には、喫茶と軽食が出来るカフェテラスもあった。
コメント一覧
-
––––––
1. Mikiko- 2014/12/19 07:44
-
律「じゃ、どうするのよ」
み「出来るだけ詰めるしかないでしょ」
老「確かに」
み「まず、普通にご飯をよそいます。
で、蓋を閉めたら……。
こーやって、左右に揺さぶるんです。
そうすると、ご飯が弁当箱の側面に打ちつけられて固まり……。。
隙間が出来るでしょ。
その隙間に、再びご飯を詰める。
そしてまた、こーやって、揺さぶるんです」
http://blog-imgs-60.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20141213185423ada.jpg
↑ホラー弁当、第2段。蓋を開けた瞬間の叫びを想像して作るんでしょうか?
律「ほっぺたまで揺さぶらなくていいでしょ」
み「それを、隙間が出来なくなるまでやるわけ。
これで、見た目はさほど大きくはないが……。
ご飯が稠密に詰められた弁当が出来上がるわけ」
http://blog-imgs-60.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201412131854205c6.jpg
↑山口克昭『おしくらまんじゅう』(神戸市旧居留地十五番館)。
律「呆れた」
み「だが、この弁当を食べるときには、注意が必要なのです」
律「どんな?」
み「わたしの家からは、学校まで徒歩30分くらいかかったの。
わたしの中学は、学生鞄ではなく、青い色のリュックだった」
http://blog-imgs-60.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20141213185424e36.jpg
↑ちょっと違います。画像がほとんどありません。絶滅したんでしょうか。
律「格好悪ーい」
み「確かに。
特に、不良系の方々は、このリュックを背負うのが、ことのほかイヤだったようでね。
肩紐を、片っ方だけ引っ掛けたりしてた」
律「そのリュックとお弁当が、何か関係あるわけ?」
み「リュックに入ったお弁当は、30分かけて学校に運ばれる。
その道中で、稠密に詰められたご飯は、さらに揺さぶられ続ける。
すなわち、餅状に固まっていくわけよ。
さて、お立ち会い。
そしてついに、待ちに待ったお弁当の時間が来る。
蓋を開け、ご飯に箸を伸ばす……。
しかーし。
ご飯は、簡単には摘めないのです」
老「固まってるわけですな」
み「左様。
押寿司のようになっておる」
http://blog-imgs-60.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20141213185426b42.jpg
↑山口県岩国市『岩国寿司』。
み「押寿司には、切れ目が入ってるけど……。
わたしの弁当には入ってない」
律「当たり前だわ」
み「切れ目なしの押寿司に、箸を突き立てます。
ここで油断は禁物。
いくら腹が減っていても、がっついてはいけません。
丹念に箸先を使い、ご飯を切り取らにゃならん。
そうしないで、お箸を持ち上げようとすると……。
ご飯が、一枚板のまま持ち上がってくるのです」
律「バカバカしい」
み「乙女心にとっては、バカバカしいどころではなかったの。
だから、甘酸っぱい想い出なのじゃ。
プラスチックの箸が曲がって、折れそうになった」
http://blog-imgs-60.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20141213185421d91.jpg
↑プラ箸収集家。いろんな収集家がいるものです。
続きは、次回。
-
––––––
2. ハーレクイン- 2014/12/19 10:53
-
それぞれの夏を過ごした由美ちゃん美弥ちゃん。
東京に戻った早々、律子叔母さんの呼び出し。
降りしきる蝉の鳴き声。名残りの夏の光りの中、病院訪問です。
病院というのがどうもな、景気が上がりませが……。ま、これはしょうがないですね。
さて律子叔母さんの用事、何なんだろうね。
「お土産あげるから取りにおいで」なあんてんじゃないよね。
なんせ章題が「周旋屋律子」だもんなあ。
それとも、由美ちゃんが例の件で相談を持ちかけたんだろうか。
とりあえずの会見場は、病院のカフェテラスですか。
こ れもも一つ、不景気ですね。
-
––––––
3. ハーレクイン- 2014/12/19 10:56
-
確かに、弁当のごはんには必ず隙間が出来ていましたね。
山口克昭作『おしくらまんじゅう』。
見たことありません。
旧居留地十五番館は、阪神淡路大震災で壊滅しました。現在は再建されていますが、この像はどうなのかなあ。
今度行ってみるかな。
そういえば、神戸も長いこと行っていない。電車でしょっちゅう通過はしているんだけどね。
わたしらの頃の通学は、学校指定の手提げかばんで、サブザックは、皆いろいろなものを持っていました。
わたしは柔道部でしたので、柔道着を持って行くんですが、鞄に入れず剥き出しでした。ま、カッコ付けですね。柔道仲間は皆そうしていました。よく考えたら、わたしは白帯でしたのでカッコ悪かったなあ。当時は考え付きませんでした。
岩国寿司さんの押し寿司。
ネタは何だろう。まさかフグ……。
こちらで押し寿司といいますと、バッテラですね。サバの押し寿司です(あやめ)。
-
––––––
4. Mikiko- 2014/12/19 19:54
-
なるほど。
出所されたばかりの方には、あまり良い印象が持てないようですね。
わたしは入院したことが無いので、ちょっとばかり憧れがあります。
もちろん、死病で入院は嫌ですが、骨折くらいならね。
今回の病院には、モデルはいっさいありません。
ちょっと前に、テレビで『ナースのお仕事』を見たので、それが素になってるかもです。
中学の柔道。
男子は、体育の授業で柔道がありました。
柔道着は、上着と帯だけ備え付けのものがあったそうです。
でも、ズボンは無かったのだとか。
あれはやはり、人の穿いたズボンは穿きたくないからなんでしょうか?
では、下はどうするかというと、ジャージズボンなんですね。
想像してください。
上は柔道着で、下がジャージ。
江戸時代の農民みたいでした。
『岩国寿司』。
↓Wikiの記述です。
------------------------------------------------------
一度に3升から1斗入る大きな木枠の中に、サワラやアジなどの生魚の身をほぐして混ぜ込んだ酢飯の上に春菊などの青菜、岩国名産の蓮根、椎茸、錦糸卵などをのせ、これを何層にも重ね、サンドイッチ状にし、重石でしばらく押し固め、木枠を抜いて、一人前サイズに切り分ける。
-
––––––
5. ハーレクイン- 2014/12/19 21:54
-
観月ありさ主演ですな。
観月ありさはあまり好きじゃないので、一度も見たことありません。病院ものでコメディというのがな、やはりな、も一つ……。
看護婦もので印象に残っているTVドラマといいますと、石原さとみ主演の「Ns’(ナース)あおい」ですね。やはりわたしは、シリアスタッチのものが好みのようです。
>ちょっとばかり憧れが……
入院生活の最大の敵は「退屈」、これです。なんせやることがないもんね。大変だよ、まったく。
「ズボンがない中学柔道」
ま確かに、上着と帯があれば柔道は出来ます。極端な話、下がすっぽんぽんでもね。
岩国寿司。
ははあ、要するにちらし寿司を押し寿司にしたと、こういうことですかね。
それにしても1斗はすごいな。
-
––––––
6. Mikiko- 2014/12/20 08:07
-
けっこう見てました。
印象的だったのは、伊藤かずえですね。
黒縁眼鏡の野暮ったい女性が……。
眼鏡を外すと実は可愛かったという、少女漫画の王道パターンだったからです。
入院生活。
本を読めば良いではないか。
わたしなら、絶対退屈しない自信があります。
柔道より面白かったのが……。
高校の時の、男子の剣道授業ですね。
上は防具を着けてるんですが……。
下はやっぱり、ジャージでした。
珍妙この上ない。
足軽のようでした。
-
––––––
7. ハーレクイン- 2014/12/20 10:08
-
もちろん読んでいましたが、長期になると頭が疲れてくるのか、集中できなくなります。本はたくさん持って行ったのですが、入院末期にはほとんど読めませんでした。
何をやっていたかといいますと、まず新聞三紙(読売・毎日・日刊スポーツ)を舐めるように隅から隅まで読みます。TV・ラジオ欄も丹念に読みます。広告欄までじっくり見ます。これで結構時間が潰せます。
さらに「ペンシルパズル」というのが出版されていますので、これを買い込みました。
小冊子にペンで書き込みをする。いろんな種類があります。よく知られたものにクロスワードパズルがありますね。わたしがやったのは「スリザーリンク」、それと「ナンプレ」というやつです。
あ、病院の蔵書ですが、例によって漫画が主なんですけど、高校生向けの古典全集というのがありました。この中に例の『落窪物語』がありましたので読みました。ただ、訳文は平易過ぎても一つでした。
入院生活の最大の楽しみは食事でしたねー。
武道の授業。
わたしの高校でもありました。柔道と剣道です。ちゃんと武道場がありまして、柔道着・剣道の防具もたくさん備わってました。ま、やはりさすがに剣道用の袴までは無かったです。やはりジャージ。
以前に書きましたけど、「史上最弱の柔道家」のわたしでも、ど素人を相手にするとまさに無敵。気持ちよかったー。
その代り剣道は最悪。開始1秒で胴を抜かれ、あっさり敗退。みっともねえ。相手の野郎、剣道経験者だったんじゃねえか。