2014.5.24(土)
■
故郷の空は広い。
駅舎を出るなり、そう思った。
東京とは違い、高層ビルは数えるほどしかない。
平野の河口にある港街からは、山も見えなかった。
昔ながらの広く青い空が広がっていた。
美弥子は、同郷の作家が、この港街を描いた小説の冒頭を思い出していた。
『私は蒼空を見た。蒼空は私に泌みた。私は瑠璃色の波に噎ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかった』
この一節さながらに、泳ぎ出せそうなほどの真っ青な空だった。
夏休みの帰省だった。
こう言うと、地方出身の学生の習わしに、世間並みに従ったように聞こえる。
しかしこの春、東京に出たときには、もうこの街に帰って来るつもりなど無かったのだ。
ゴールデンウィークにも帰郷しなかった。
美弥子の人生にとって、この街は、忌まわしい思い出の染みついたページだった。
汚れたページを、2度と開きたくは無かった。
そんな美弥子に変化をもたらしてくれたのは、もちろん由美だった。
由美と出会い、過ごすことにより、忌まわしいページは次第に色褪せ、過去へと遠ざかっていった。
故郷に帰ってみようという気になったのは、その由美の帰省だった。
由美は、東海地方の公務員の家庭で育った。
一人っ子として、何不自由ない暮らしだっただろう。
一人娘を東京に送り出し、仕送りをしてくれる両親に、1学期の報告をするのは当然のことだ。
もちろん、2人とも、夏休み一杯を故郷で過ごすつもりは無かった。
夏休みの後半は、2人で旅行したりして楽しもうと約束していた。
美弥子が帰省の決意をしたのは、由美を東京駅で見送った後だった。
当初は、一人のマンションで、夏休みの宿題を仕上げてしまうつもりだった。
しかし……。
一人残された東京は、妙に寂しく感じた。
由美に出会う前は、一人でいることに、寂しさを感じることなど無かったのだが。
たしかに、自分は変わった。
その変化は、誰よりも美弥子が感じていた。
それなら、変わった自分に、故郷はどう見えるだろう。
忌まわしい記憶の染みついた街は、わたしにどんな顔を見せてくれるだろう。
そんな思いも、美弥子に帰郷を決意させた理由のひとつだった。
「だだいま」
美弥子は、空を見上げてつぶやいた。
同郷の作家の一節は、こう続く。
『私は窶(やつ)れていた。夏の太陽は狂暴な奔流で鋭く私を刺し貫いた。その度に私の身体は、だらしなく砂の中へ舞い落ちる靄のようであった。私は、私の持つ抵抗力を、もはや意識することがなかった。そして私は、強烈な熱である光の奔流を、私の胎内に、それが私の肉であるように感じていた』
降りそそぐ日差しは確かに強かった。
しかし美弥子には、凶暴なほどの光には感じられなかった。
何も知らない子供のころ、頭上に広がっていた空と同じに見えた。
光は美弥子を刺し貫こうとはせず、日傘の上で、サイダーみたいに爆ぜていた。
「大丈夫」
美弥子は、もう一度つぶやくと、真っ白な街へ歩き出した。
故郷の空は広い。
駅舎を出るなり、そう思った。
東京とは違い、高層ビルは数えるほどしかない。
平野の河口にある港街からは、山も見えなかった。
昔ながらの広く青い空が広がっていた。
美弥子は、同郷の作家が、この港街を描いた小説の冒頭を思い出していた。
『私は蒼空を見た。蒼空は私に泌みた。私は瑠璃色の波に噎ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかった』
この一節さながらに、泳ぎ出せそうなほどの真っ青な空だった。
夏休みの帰省だった。
こう言うと、地方出身の学生の習わしに、世間並みに従ったように聞こえる。
しかしこの春、東京に出たときには、もうこの街に帰って来るつもりなど無かったのだ。
ゴールデンウィークにも帰郷しなかった。
美弥子の人生にとって、この街は、忌まわしい思い出の染みついたページだった。
汚れたページを、2度と開きたくは無かった。
そんな美弥子に変化をもたらしてくれたのは、もちろん由美だった。
由美と出会い、過ごすことにより、忌まわしいページは次第に色褪せ、過去へと遠ざかっていった。
故郷に帰ってみようという気になったのは、その由美の帰省だった。
由美は、東海地方の公務員の家庭で育った。
一人っ子として、何不自由ない暮らしだっただろう。
一人娘を東京に送り出し、仕送りをしてくれる両親に、1学期の報告をするのは当然のことだ。
もちろん、2人とも、夏休み一杯を故郷で過ごすつもりは無かった。
夏休みの後半は、2人で旅行したりして楽しもうと約束していた。
美弥子が帰省の決意をしたのは、由美を東京駅で見送った後だった。
当初は、一人のマンションで、夏休みの宿題を仕上げてしまうつもりだった。
しかし……。
一人残された東京は、妙に寂しく感じた。
由美に出会う前は、一人でいることに、寂しさを感じることなど無かったのだが。
たしかに、自分は変わった。
その変化は、誰よりも美弥子が感じていた。
それなら、変わった自分に、故郷はどう見えるだろう。
忌まわしい記憶の染みついた街は、わたしにどんな顔を見せてくれるだろう。
そんな思いも、美弥子に帰郷を決意させた理由のひとつだった。
「だだいま」
美弥子は、空を見上げてつぶやいた。
同郷の作家の一節は、こう続く。
『私は窶(やつ)れていた。夏の太陽は狂暴な奔流で鋭く私を刺し貫いた。その度に私の身体は、だらしなく砂の中へ舞い落ちる靄のようであった。私は、私の持つ抵抗力を、もはや意識することがなかった。そして私は、強烈な熱である光の奔流を、私の胎内に、それが私の肉であるように感じていた』
降りそそぐ日差しは確かに強かった。
しかし美弥子には、凶暴なほどの光には感じられなかった。
何も知らない子供のころ、頭上に広がっていた空と同じに見えた。
光は美弥子を刺し貫こうとはせず、日傘の上で、サイダーみたいに爆ぜていた。
「大丈夫」
美弥子は、もう一度つぶやくと、真っ白な街へ歩き出した。
コメント一覧
-
––––––
1. Mikiko- 2014/05/24 07:22
-
み「平日は、高校生と作業員で一杯だって言ってたからね」
律「あ、今日は日曜日か」
み「今日のお客は、観光客がほとんどじゃないの?」
律「見晴らしのいい店ね」
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20140521195836725.jpg
↑『ぽっぽ家』の窓から撮られた写真です。
み「駅の周りが、ぐるっと見渡せるな。
ま、見渡して大したものは無いけど」
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20140521195838fd7.jpg
↑金木駅から見た、五所川原方面。晴れてれば、岩木山が見えるのでしょうね。
律「さて、何にしようか」
み「まずは、“しじみラーメン”でしょ。
750円。
さすが、一番高いね」
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20140521195837199.jpg
律「わたしもそれにしようかな」
み「おんなじもの注文してどうするのよ。
別なのを頼んで、半分こでしょ」
律「あ、昨日もそうだったわね」
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2010120820100405e.jpg
↑覚えてます? 秋田市民市場『しな蕎麦 伊藤』で食べた“ラーメン”と“そのまんま冷やし”。
み「それが、2人旅のいいところ。
一度しか食べられない場所で、2種類の味を楽しめるわけだ」
律「3人なら、3種類じゃない。
あの鉄さんがいたら、3人だったのに」
み「死んだ子の歳を数えるでない」
律「死んでないでしょ」
み「案外、ああいうのが趣味なんじゃないの?」
http://blog-imgs-47.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20131107074850cac.jpg
律「それとこれとは別の話」
み「さて、もうひとつ、何にする?」
律「“ぽっぽラーメン”って何だろ?」
-
––––––
2. Mikiko- 2014/05/24 07:25
-
み「醤油だからダメ」
律「醤油味も、美味しいわよ」
み「“ぽっぽラーメン”は、たぶん石炭が入ってる」
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2014040207512094e.jpg
↑クッキーが載ってるかも?
律「そんなわけないでしょ」
み「一番安いから、たぶん、普通のラーメンだよ」
律「それじゃ、その下の“煮干しラーメン”」
み「それも、醤油でしょ」
律「“ぽっぽラーメン”と値段が同じよ。
これも、普通のラーメン?」
み「同じラーメンを、名前を変えて並べてどうするの」
律「わかった。
煮干しが載ってるのよ」
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201405211958391c3.jpg
↑ほんとに煮干しが載ってるラーメンは、ほとんど見あたりませんでした。こちらは、東京立川の『煮干しらーめん青樹(http://niboshiaoki.com/)』さんの“こってり煮干しらーめん”¥750。人気店だそうです。
み「そんなの、猫しか食わんわ」
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201405211958523c4.jpg
み「煮干しは、スープの出汁でしょ」
http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20140521195841c57.jpg
続きは、次回。
P.S. 本日は、ホテルの部屋から投稿しました。成功!
-
––––––
3. ハーレクイン- 2014/05/24 14:30
-
えーっ、美弥ちゃんって、新潟なん。
「両親に、1学期の報告をするのは当然のこと」
わたしは、そんな気遣いは全くしなかったなあ。
>凶暴な太陽の日差し
まあ、まだそれほどでもないけど、
昨日の京の青空は鮮烈だったなあ。
大丈夫かなあ、美弥ちゃん。
学生に「夏休みの宿題」なんてあるのか。
ま、文系だからなあ。
書いたんだけど、投稿しないまま二度寝しちまったよ。
さあ、今から『東北』のコメ書きだ。
-
––––––
4. ハーレクイン- 2014/05/24 14:50
-
昨日は土曜日だったからねえ、せんせ。
ぽっぽ家さんの窓から見える車両。
キハかな。
いや、単行だからなあ。さて。
しじみラーメン。
あれ?
味噌より塩の方が高いのか。
『しな蕎麦伊藤』さん。
何年前の話や。
物語世界では昨日だけど。
そうか「鉄」は死んだ子か。
んじゃ「小」くんも死んだ子だな。
>み「煮干しは、スープの出汁でしょ」
なんで、温度計が突っこんであるんだ。
ま、温度計は懐かしいけど。
-
––––––
5. Mikiko- 2014/05/24 19:32
-
ハンカチをどこかに落とし、帽子をどこかに忘れて来ましたが……。
ま、これは、わたしには常にあること。
お財布、パソコン、カメラ、携帯を無事に持ち帰れたことを、喜ばねばなりません。
関東と云いましたが、ほぼ東京圏です。
しかし、人の多いのには驚きました。
新潟とは比べ物になりません。
乗換駅のホームなんか、人が線路に零れそうでした。
わたしはもう首都圏では暮らせないなと、しみじみ感じました。
新潟に帰り、最寄り駅を出ると……。
人間の姿が見えない。
これがわたしの街なんですね。
わたしはすでに、こっち側の人間になってるということです。
ま、楽しかったです。
こういう機会、年に1回位あってもいいなと思いました。
-
––––––
6. ハーレクイン- 2014/05/24 20:43
-
Mikiさんがそっち側だとしますと、私はやはりこっち側でしょうか(なんのこっちゃ)。
いやいや、新潟駅の賑わいを私は知りませんから、うかつなことは言えませんね。
>関東と云いましたが、ほぼ東京圏
ということは、埼玉か神奈川かな。伊豆ということはあるまい。
>わたしはもう首都圏では暮らせない
何をおっしゃる、実際に首都圏で暮らしたお方が。
わたしが東京都に足を踏み入れたのは、ほんの数回です。
-
––––––
7. 淡雪- 2014/05/24 21:14
-
それと、忘れ物なしで、無事の御帰還なによりです。
今一番気候のいいときなんですが、小説みたいに暑い日が、すぐにやってくるんでしょうねえ。
髪を思い切ってショートにしました。
飽きちゃってたので、周囲の不評は何ともないんですが、まだ何となく落ち着きません。
-
––––––
8. ハーレクイン- 2014/05/24 22:50
-
何も無くても、周りからなんやかんや言われると聞いております。
大変ですねえ。
お元気なご様子。なによりです、
淡雪さま。
-
––––––
9. Mikiko- 2014/05/25 08:03
-
> ハーレクインさん
ターミナル駅の構内やホームの人混みには、恐ろしささえ感じました。
あんなところで大規模災害が起きたら……。
どうしようもないでしょうね。
救急車や消防車は、数が間に合わない。
そもそも、現場まで到着できないでしょう。
被災者の数に対し、救助者の数が圧倒的に足りなくないですよね。
逆に、人口の少ないところは、被災者の数も少ない。
そういうところで被災した方が……。
救助や支援を受けられる可能性が高いんじゃないでしょうか。
> 淡雪さん
知ってるメアド2つに挨拶状を出しましたが……。
両方とも、届きませんでした。
よろしかったら、使われてるメアドを教えてください。
関東はもう、夏になりかけでした。
ショートは、頭が軽くていいですよね。
頭痛や肩こりが楽になることもあるようです。
-
––––––
10. ハーレクイン- 2014/05/25 09:25
-
確かにねえ。
わたしなんかはまあ、慣れっこになっていますが、JR大阪駅や、その駅前の梅田地下街などの人混みは、冷静に考えるとすごいですね。
駅はともかく、震災があった場合の地下街がどうなるか、皆考えないようにしているのかなあ。津波も怖いですよね。地下街に津波が押し寄せたら……これはもう、悪夢ですね。











![[官能小説] 熟女の園](https://livedoor.blogimg.jp/mikikosroom2008/imgs/3/e/3e07a9c3.gif)





































































































