2013.5.15(水)
「わたしも夏は、こういうサンダル履いてた。
考えてみれば、去年の夏だって履いてたのよね。
でもなんだか、遠い昔のことみたい。
もう一度履きたいな。
可愛いサンダル」
由美は、框の前に揃えられたスニーカーに目をやった。
妊婦は、お腹の重み以上の重責を抱えているのだと、改めて思い知った。
夫人の指先がようやく伸び、ストラップのホックが外れた。
「後ろ向かなくていいからね。
そのまま上がって」
夫人の言葉に甘え、揃えてもらったスリッパに足先を移す。
脱いだサンダルは、夫人が向きを変えてくれた。
「すみません」
「ほんとに可愛いサンダル。
久しぶりに玄関が華やいだわ」
夫人は立膝のまま、由美を見あげた。
頬に、さざ波のような笑みが浮かんでいた。
由美も、釣られて笑みを返した。
夫人に導かれ、ダイニングに通された。
「ありがとう。
重かったでしょ。
そこに置いてくださる?」
夫人に指差されたテーブルに、オレンジを下ろす。
ようやく両腕が解放された。
肘の内側には、汗が滲んでいた。
「暑っつ。
今、冷房入れるから」
スリッパの音を軽やかに立てながら、夫人が歩き出した瞬間だった。
フラッシュめいた光が、室内から影を奪った。
2人は、同時に動きを止めた。
刹那……。
轟音が鳴り響いた。
雷鳴だ。
「いや」
夫人が耳を押さえながら、その場にしゃがみこんだ。
由美は夫人に駆け寄ると、背中を守るように身を沈めた。
考えてみれば、去年の夏だって履いてたのよね。
でもなんだか、遠い昔のことみたい。
もう一度履きたいな。
可愛いサンダル」
由美は、框の前に揃えられたスニーカーに目をやった。
妊婦は、お腹の重み以上の重責を抱えているのだと、改めて思い知った。
夫人の指先がようやく伸び、ストラップのホックが外れた。
「後ろ向かなくていいからね。
そのまま上がって」
夫人の言葉に甘え、揃えてもらったスリッパに足先を移す。
脱いだサンダルは、夫人が向きを変えてくれた。
「すみません」
「ほんとに可愛いサンダル。
久しぶりに玄関が華やいだわ」
夫人は立膝のまま、由美を見あげた。
頬に、さざ波のような笑みが浮かんでいた。
由美も、釣られて笑みを返した。
夫人に導かれ、ダイニングに通された。
「ありがとう。
重かったでしょ。
そこに置いてくださる?」
夫人に指差されたテーブルに、オレンジを下ろす。
ようやく両腕が解放された。
肘の内側には、汗が滲んでいた。
「暑っつ。
今、冷房入れるから」
スリッパの音を軽やかに立てながら、夫人が歩き出した瞬間だった。
フラッシュめいた光が、室内から影を奪った。
2人は、同時に動きを止めた。
刹那……。
轟音が鳴り響いた。
雷鳴だ。
「いや」
夫人が耳を押さえながら、その場にしゃがみこんだ。
由美は夫人に駆け寄ると、背中を守るように身を沈めた。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2013/05/15 07:20
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み「いつごろよ、それ?」
食「西暦660年くらいですね」
み「げ。
大化の改新の15年後!」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130512191700ec7.gif
↑飛んでるのは、蘇我入鹿の首。
食「飛鳥時代ですね。
そのころ、阿倍比羅夫という、将軍がいました」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130512191645de0.jpg
↑ねぶたに描かれた阿倍比羅夫。
食「蝦夷討伐の大将ですね」
み「征夷大将軍だね」
食「阿倍比羅夫のころは、まだその呼称は無かったようです」
み「あらそう。
いつごろからの称号なの?」
食「奈良時代に入ってからですね。
あ、そうそう。
『東夷(とうい)』『西戎(せいじゅう)』『北狄(ほくてき)』『南蛮(なんばん)』ってご存じですか?」
み「中華思想だね。
中国が世界の中心で、その周りに野蛮人の国があるって思想でしょ」
http://blog-imgs-34.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2011090906243141a.png
食「まぁ、そうですね。
で、“征夷”ってのは、『東夷』を征討するという意味なわけです。
征夷大将軍は、「夷」征討に際し任命された将軍のことで、太平洋側から進む軍を率いました。
日本海側を進む軍を率いる将軍は、征狄将軍(もしくは鎮狄将軍)。
九州へ向かう軍隊を率いる将軍が、征西将軍(もしくは鎮西将軍)」
み「南がいないではないか」
食「南は太平洋ですから、行きようがないです」
み「むかしの太平洋側は、地の果てだったってことだね」
http://blog-imgs-53.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2012051807514733f.jpg
み「でも、中華思想の真似っこなんかしなくていいのにな」
食「中国は、その当時の圧倒的な先進国でしたからね。
で、日本書紀での記述です。
阿倍比羅夫は……。
大和朝廷に帰順の意を示した蝦夷たちを招いて……。
有馬の浜で大宴会を催したそうです」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201305121916458be.jpg
↑こういう芸はしなかったと思いますが。
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2. Mikiko- 2013/05/15 07:22
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食「この有馬の浜というのが……。
深浦の吾妻の浜ではないかと云われてるんです」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130512191644308.jpg
み「古代から、重要な港湾だったということか」
食「深浦町からは、縄文時代の遺跡もたくさん出てますからね」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201305121917001d8.jpg
み「そのころまで遡るのか」
食「港としては、室町時代から賑わっていたようです」
み「ほー」
食「もっとも栄えたのは、やはり江戸時代でしょうね。
鰺ヶ沢(あじがさわ)、十三湊(とさみなと)、青森とともに、津軽藩の四浦に指定されました」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130512191644c66.jpg
↑本当にいい港ですよね。
み「北前船か」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130512191643a06.jpg
↑深浦港に現れた現代の北前船『みちのく丸』。
食「港がいいだけでなく……。
すぐ後ろが山でしょ。
そこから産する木材の積込港でもあったわけです」
み「なるほど。
京、大阪から荷物を積んで来て……。
帰りは、木材を積んで行くわけか。
往復ビンタで大儲けってことね」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2013051219164422f.jpg
↑深浦の廻船問屋。扇型の忍び返しがかっちょいーです。
続きは、次回。
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3. ハーレクイン- 2013/05/15 11:14
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章題が章題だから、いつ降り出すのかと思っていましたが、このタイミングですか。
ぴったりですねえ、測ったようですねえ。しかも雷付きですか。雷おこしは浅草土産(何を言っておるのだ、おまいは)。
ま、由美ちゃんはともかく、妊婦さんにジーン・ケリーの真似もできませんし、ここは室内で抱き合うしか、することありませんねえ。
♪I'm singing in the rain
Just singing in the rain
What a glorious feelin'
I'm happy again……
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4. ハーレクイン- 2013/05/15 11:16
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阿倍比羅夫像はもちろん想像図。
肖像画のわきゃないもんな。
「東夷」は「あずまえびす」かなあ、訓で読むと。
で、有馬の浜で大宴会。
有馬温泉じゃないんだ。
そらそやな、有馬温泉は山の中だもんな。
そういえば、わたしは競馬は全く知らないので恥をさらすのですが、「有馬記念」ってありますよね。あれを「競馬と温泉、何の関係が……」と思っていたことがあります。
十三湊。
一発で変換できたよ。有名なのか。十三湖となんか関係が……。
そのものだったりして。
北前船。
やはり一本マストだな。
危ねえぞお。
忍び返し。
“うだつ”だと思った。
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5. Mikiko- 2013/05/15 19:41
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「雨に唄えば」という章題なんだから……。
歌詞がフライングだくらいわからんもんかのぅ。
2回も書くか?、普通。
奇しくも本日は……。
夕方から雷が鳴り出し、夕立となりました。
雷鳴なんて聞いたのは、今年初めてではなかろうか。
やっぱり、何か持ってますね。
うだつは……。
家並みが続く町屋で、隣家との間に設けられる防火壁のことですね。
当然、木製ではあり得ません。
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6. ハーレクイン- 2013/05/15 20:09
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これ見ただけで反射的に歌いだしちゃうんだよ。
まさか本編に使うつもりとは思わんかったし。歌って、あんまりネタにしないだろ。
ま、しかし、それは誠に申し訳ないことでした。1回目で言ってくれればよかったのに。
今年初めての雷鳴。
日本海側では、雷なんてしょっちゅうだと思ってたよ。冬だけか。
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7. Mikiko- 2013/05/16 07:29
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2回もやるとは思わんかったわい。
日本海側の雷は……。
ハタハタが雷魚と呼ばれるとおり、ハタハタが岸に押し寄せる初冬に多いです。
夏場は夕立も滅多になく、雷は聞きませんね。
金沢もそうだったでしょ。
覚えておらぬのか?
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8. ハーレクイン- 2013/05/16 08:20
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初冬かあ。
「冬」だ、という記憶はあるのだがね。
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9. Mikiko- 2013/05/16 19:40
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“雪下ろしの雷”という異名があるのではないですか。
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10. ハーレクイン- 2013/05/16 20:39
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「雪下ろし」するんなら冬の真っ最中やろが、何で初冬やねん、と思ってしまいました。。
そうじゃなくて、「雪颪」。天が雪を降らせる、という意味なんですね。「いよいよ雪の季節が始まるぞ、心せいよ」と。
「雪下ろしの雷」。
知りませんでした。