2013.5.8(水)
由美は、パンプスの足裏に力を籠め、坂道に踏み出した。
自らを鼓舞するように、わざと前かがみになった。
と……。
その視線の先に、不思議なものが見えた。
ボール?
まさにそれは、球形をしていた。
オレンジ色のボールだ。
脇道から歩道に現れたボールは、車道側の縁石に当たって跳ねた。
そのまま、道路の傾斜に沿って、由美の方に転がって来る。
子供が取り逃がしたボールだろうか。
そんなことを考えた途端……。
ボールは、2つに増えた。
脇道から、もうひとつ現れたのだ。
同じように、縁石に当たって転がり始める。
捕球の体勢を取ろうとした刹那……。
ボールは、3つになった。
由美はようやく、先頭のボールの転がり方がおかしいことに気づいた。
小さく跳ねながら、舗石の目地を縫うように不規則な軌道を描いている。
完全な球形ではないようだ。
ようやく気がついた。
ボールでは無かった。
大きなオレンジだ。
ソフトボールほどもありそうだった。
加速度がついたら、片手では止められないかも知れない。
由美は、その場にしゃがみこみ、最初のオレンジを受け止めた。
手の平に、ずっしりとした重量を感じた。
うまい具合に、それに続くオレンジも、由美の脚元に転がりこんできた。
バッグを衝立にして、3つとも止めることが出来た。
「すいませーん」
頭上から声が降ってきた。
振り仰ぐと、大きなお腹を抱えた女性だった。
どうやらこの妊婦さんが、オレンジ爆弾を降らせた犯人のようだ。
後ろに身を反らせながら、懸命に坂を下りてくる。
「ごめんなさい。
破けちゃって」
片手に下げたレジ袋が、大きく裂けていた。
由美は、3つの大玉オレンジを抱え、起ちあがった。
「落としたのは、3つですか?」
「はい。
良かったわぁ。
あなたがいなかったら、どこまで転がって行ったかわからないもの」
自らを鼓舞するように、わざと前かがみになった。
と……。
その視線の先に、不思議なものが見えた。
ボール?
まさにそれは、球形をしていた。
オレンジ色のボールだ。
脇道から歩道に現れたボールは、車道側の縁石に当たって跳ねた。
そのまま、道路の傾斜に沿って、由美の方に転がって来る。
子供が取り逃がしたボールだろうか。
そんなことを考えた途端……。
ボールは、2つに増えた。
脇道から、もうひとつ現れたのだ。
同じように、縁石に当たって転がり始める。
捕球の体勢を取ろうとした刹那……。
ボールは、3つになった。
由美はようやく、先頭のボールの転がり方がおかしいことに気づいた。
小さく跳ねながら、舗石の目地を縫うように不規則な軌道を描いている。
完全な球形ではないようだ。
ようやく気がついた。
ボールでは無かった。
大きなオレンジだ。
ソフトボールほどもありそうだった。
加速度がついたら、片手では止められないかも知れない。
由美は、その場にしゃがみこみ、最初のオレンジを受け止めた。
手の平に、ずっしりとした重量を感じた。
うまい具合に、それに続くオレンジも、由美の脚元に転がりこんできた。
バッグを衝立にして、3つとも止めることが出来た。
「すいませーん」
頭上から声が降ってきた。
振り仰ぐと、大きなお腹を抱えた女性だった。
どうやらこの妊婦さんが、オレンジ爆弾を降らせた犯人のようだ。
後ろに身を反らせながら、懸命に坂を下りてくる。
「ごめんなさい。
破けちゃって」
片手に下げたレジ袋が、大きく裂けていた。
由美は、3つの大玉オレンジを抱え、起ちあがった。
「落としたのは、3つですか?」
「はい。
良かったわぁ。
あなたがいなかったら、どこまで転がって行ったかわからないもの」
コメント一覧
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1. Mikiko- 2013/05/08 07:28
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老「なるほど。
夏泊半島で根付いた椿の実は、対馬海流が運んで来たと?」
み「さようです。
あ、そうか。
太平洋側の椿も、対馬海流で運ばれてきたのかも知れないね。
津軽海峡を出た対馬海流は、親潮に押されて南下するわけじゃない」
http://blog-imgs-36.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20100109205731efd.gif
み「つまり、大船渡の椿は、日本海側から回ってきた椿なんだよ。
どないだ?、この説」
老「さてと、そろそろお暇しようかの」
み「なんだよ。
結局、何しに出てきたんだ?」
老「わしも、ようわからんくなった。
それじゃ、あとで請求書を送ります」
み「いらんと言っとろうが!」
老「また会おうぞ」
み「あ、目が死んだ」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130504192614123.jpg
食「うーん。
ボク、居眠りしてました?」
律「そんなことないと思いますけど……。
何だかわたしにも、空白の時間があったような気がしますわ」
食「今、どこでしたっけ?」
み「椿山を過ぎたとこだよ」
http://www.youtube.com/watch?v=-wSrt05H-rw
↑側面展望『ウェスパ椿山→深浦』。0分39秒、林の向うにちらっと見えるのが椿山だと思います。
食「あぁ、そうでしたね。
この崖下に、海に沿って道路が走ってます。
今度は車で来て、ぜひ夕陽どきにドライブしてみてください」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130504192615bf5.jpg
↑右の三角山が椿山かな? ウェスパ椿山からの撮影のようです。
み「知らない場所を運転してて、景色なんか眺められるわけないだろ」
食「何でです?」
み「運転するだけでいっぱいいっぱいなのじゃ」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130504192615da7.jpg
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2. Mikiko- 2013/05/08 07:29
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律「わたしが乗せてあげるわよ」
み「先生のジャガーは車高が低すぎて、景色がよく見えないじゃないの」
http://blog-imgs-47.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20111118162633fc1.jpg
律「悪かったわね」
食「へー、ジャガーですか。
スゴいですね」
み「凶暴な女にお似合いの車だわ」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130504192615432.jpg
律「何ですって」
み「やっぱ、レンタカーにしようよ。
ミニバン」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130504192616882.jpg
み「眺めがいいから」
食「ミニバンの助手席なら、特等席ですよ」
律「ダメよ、この女は」
み「なんで!」
律「そういう時に限って、寝ちゃうんだから」
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130504192615c6e.jpg
律「1日はしゃぎ回った後の夕陽どきなんて……。
絶対起きてないわ」
み「遠足の小学生か!」
律「似たようなものでしょ」
食「あ、そろそろ、『みちのく温泉』ですよ」
み「おー。
ドアまで行かねば」
律「向こうの窓から、十分見えるわよ」
続きは、次回。
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3. ハーレクイン- 2013/05/08 11:03
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由美ちゃんのマンションの近くには、こんな坂道があったのか。知らなかった。
坂道をころがり落ちるオレンジ。
美しい光景だが、ソフトボール大とはでかいな。
グレープフルーツではないのか。
『時計じかけのオレンジ』というのがあったが、関係ないよな。
で、新登場人物、妊婦さん。
今後絡んでくるのか来ないのか。妊婦さんだもんなあ。どうなんだろ。
あ、ひょっとして律子先生の患者さんだったりして。
昨日書き忘れたけど、新章題のタイトルは『雨に唄えば』。
ジーン・ケリーですな。
♪I’m singin’ in the rain
Just singin’ in the rain
ま、それはともかく、この第104章の「場所」が倉沢邸。
「邸」ですってよ、お・く・さ・ま。
倉沢“宅”じゃあございませんのよ、「邸」!。
まあ、どんな大邸宅、どんなお屋敷なんでございましょ!
あ、ということはこの妊婦さん、倉沢さまの若奥様!!
んまあ、可愛いお顔(かどうか、わかりませんが)をなすってらっしゃるのに、ご主人と毎晩やりまくっておられるわけですわねえ。
んまあんまあ、おうらやましいこと、おいやらしいこと。
をほほほほ。ごめんあそばせ。由美さん。
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4. ハーレクイン- 2013/05/08 11:09
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マスミンはね、ツバキに魅かれて出てきたんだよ。
♪こぼれ散る紅椿
流れにひきこんで
目が死んだ犬くん。
口も半開きだな。
しかし、そういう意図の画像なんだろうか。
>側面展望『ウェスパ椿山→深浦』。0分39秒、林の向うにちらっと見えるのが椿山だと思います。
ちらっともなんも。見えんぞ、椿山。
「みちのく温泉」ってなんだっけっと思ってまたまた調べてしまったが、ついこないだじゃん、話題に出たの。
「ウェスパ椿山駅」の前から送迎バスが出てる二つの温泉。一つはすでに解説!済みの「不老ふ死温泉」。
で、残る一つが「みちのく温泉」だったな。といっても、こちらも解説!済みだった。
「み」さんが騒いでいるのは見たいからだな。なにをってああた、あれしかおまへん仮名、万葉仮名。
(おまへん仮名はわざとです。いっつもこう変換しよるんだよ、パソの野郎)
しかし「みちのく温泉」。
読み返してみたら、大水車とか話題豊富なのに何で忘れてたんだろう。と思ったら入院中のことだった。このせい、ということにしておこう。
読み返しの収穫が一つ。神々が地上に下りてくる「こうりん」。これは漢字で「降臨」だが、ずっと“光臨”と書いておった。わはは。
ま、光臨は一般的に、人の来訪に対する尊敬語だから、近い語なんだけど、やはり神と人は違うよね。
でも、神は人を模して造られたんだよ(前之園陽子)
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5. Mikiko- 2013/05/08 19:50
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この話を書き始めたのは……。
『放課後のむこうがわⅡ』の連載前なんです。
1年以上前になりますね。
このお話を中断して、『放課後』に取り掛かったわけです。
なので、坂道とそこを転がるオレンジをイメージした経緯は……。
忘却の彼方です。
ソフトボールの直径は、約10センチ。
↓直径12センチの大玉オレンジがありました。
http://item.rakuten.co.jp/yaosan/orenji/
椿山。
↓木立の向こうに、山の形が見えるではありませぬか。
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201305081945096ea.jpg
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6. ハーレクイン- 2013/05/08 20:44
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今日、近所のスーパーへ行ったら、入り口を入ったところでオレンジの安売りをやっていたので、思わずかごに入れてしまいました。家人が目を丸くして聞いてきました。
「どないしたんあんた。気ぃでもおかしなったん?!」
じつはわたし、柑橘類で食べるのは温州ミカンのみ。オレンジをはじめ、グレープフルーツも、はっさくも、夏みかんも、めったに食べません。付き合いでたまに少し食べる程度、若い頃は横で食べられるのすら嫌でした。
それが、自分で買おうというのですから、家人が怪しむのも当たり前。
「いやあ、入院中の病院食でちょくちょく出てなあ。結構美味しいやん、オレンジ」
ま、これは嘘ではありません。が、直接の動機は「坂道を転がるオレンジ」のイメージでした。病院食云々の言い訳ネタを思いつかんと、説明に窮するところでした。
椿山。
わ、わからぬ……。
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7. Mikiko- 2013/05/09 07:40
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夫婦仲良くお買い物ですか。
よろしおますな。
オレンジはどうかわかりませんが……。
グレープフルーツはおもしろいです。
食べた後の種です。
発芽率がとても高いので……。
よく洗って植えれば、ほぼ確実に芽を出すと思います。
わたしのベランダには、そうやって生えたグレープフルーツくんが、デンと居座ってます。
もちろん鉢植えですが、幹の根元は、わたしの手首ほどに太くなりました。
凶悪に刺を伸ばしているので……。
うっかり触れません。
で、夏には、もうひとつ楽しみがあります。
蝶が卵を産み付けるんです。
もちろん、産んでるところを見たことはありませんが……。
幼虫が住み着きます。
でっかい葉っぱが、みるみる食べられていくのは、痛快でさえあります。
先っぽの方は、骨組みと刺が残るくらいに食べ尽くされます。
いつの間にやら幼虫が消え去ると、秋。
骨組みだけになった枝を剪定し、室内に取り込みます。
椿山は……。
心の目を開いて見よ。
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8. ハーレクイン- 2013/05/09 09:39
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とりたてて仲が良い、というわけではありませぬ。二人だと何かと便利と、そういうことですな。
で、その、Mikiko邸のグレープフルーツくんですが、果実は成るんですかな。鉢植えだし、どっちみち新潟では無理かな。
で、蝶が葉を食べる、と。
蝶の種類は何でしょうな。蝶というやからは食にうるさい、なかなかのグルメ。「うちらはこれしか食わん、他のんなんか食えるかい」という姐さん方が多いようですな。
で、なに、幼虫はいつの間にやら消え去るって……蛹とか、羽化するとことか、見たことないんですかあ。
モスラの羽化は見たでしょうに(茜・緑)
ま、昆虫は明け方に羽化する奴が多いですからなあ。成虫になるところを見たことないのも、むべ山風……ではなくて、むべなるかな。
そうか。
椿山は心眼に映ずるのであったか。
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9. Mikiko- 2013/05/09 19:48
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何が便利なんだ?
ひとりの方が、よっぽど楽じゃないかね。
スーパーでも、口げんかしながら買い物してる夫婦を見かけます。
何で2人で来るのか、不思議でなりません。
グレープフルーツを日本で実らせるのは……。
積算温度の関係で、非常に困難のようです。
↓宮崎大学農学部が、実を2年続けて収穫したことが新聞記事になってました。
http://www.asahi.com/national/update/0222/SEB201302220001.html
柑橘系を食べる蝶。
検索したらわかりました。
アゲハチョウでした。
サナギは、よっぽど上手いところに隠れるのか……。
見つけたことがありません。
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10. ハーレクイン- 2013/05/09 20:23
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二人の方が、荷物を持つのに便利だろ。トイレットペーパーとかの大物があると特にね。
食材の場合、互いの好みの摺合せとか……ま、ほとんどわかってるんだけどね。「らっきょうは絶対買わない」とかね。
グレープフルーツ問題。
やっぱりねえ、原産地が熱帯だもんね。
しかし、積算温度だけの問題なら、温室か、ハウス栽培でもすれば何とかなるんじゃあないのかなあ。
ま、商業的にはペイせんかもしれんし、個人でそこまでやるのもね。
アゲハくんだったか。
デカいよ、幼虫も蛹も。色鮮やかだし。ま、緑だから一応保護色なんだけどね。
何で見つからぬ。真剣に探してないだろ、蚊が嫌だから。
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11. Mikiko- 2013/05/10 07:39
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何で、持たにゃならんのだ?
カートを押せばいいだけではないか。
グレープフルーツ。
↓日本でも、温室栽培では生産されてるようです。
http://www.grapefruit.co.jp/nouen/gf_itinen3.html
農業生産法人がやってるんだから、ペイしてるんでしょうね。
宮崎大学の方向性が、イマイチわからんです。
アゲハ。
今年は、よく見てみましょう。
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12. ハーレクイン- 2013/05/10 11:01
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そらカートはあるけんども、積み下ろしとかあるでしょうが。特にうちらは、スーパーは目の前。普段の買い出しは自転車で行くんだし。
宮崎大学はね、積算温度が低くても果実をつけるグレープフルーツ、つまり露地栽培できるやつを作ろうとしているみたいですね。
「グレープフルーツとマンダリンオレンジとの細胞融合」と書いてあったから、両種の雑種ということですね。しかし、“耐寒遺伝子”だけをグレープフルーツに導入するんじゃなくて、細胞どうしを丸ごと融合させちゃうわけだから、これはもはやグレープフルーツとは云えないと思うんですがどうなんでしょうね、宮崎大の国武センセ。
ま、問題は味だな。
しかし、マンダリンオレンジって寒さに強いのかなあ、と思ったら、マンダリンの原産地はインドのアッサム地方。ヒマラヤの麓ですね。
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13. Mikiko- 2013/05/10 19:34
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スーパーにチャリで行くという発想がありませんでした。
そう言えば、東京のスーパーは、ママチャリだらけでしたね。
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14. ハーレクイン- 2013/05/10 21:28
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>スーパーにチャリで行くという発想がありませんでした。
このあたりが地域性の違い、ということなんだろうね。
日本は広いなあ。