2012.3.11(日)
「はがぁ」
香純の頚が、後ろざまに折れた。
指に塞がれていない片方の鼻孔が、宙に曝されていた。
細い綺麗な鼻孔だった。
肉の薄い鼻翼が、巣立ちする幼鳥のように羽ばたいていた。
「藤村さん……。
見て。
鼻の穴を吊られたわたしの顔を……。
上から見て」
命令口調ではなく、哀訴に近い声色だった。
由美は、われ知らず起ちあがっていた。
身長は、香純のほうが少し高いだろうが……。
香純は両脚を大きく開き、膝が折れていた。
香純の顔は、苦もなく見下ろすことができた。
整った顔が、苦しげに歪んでいた。
鼻孔を吊りあげられ、鼻柱には皺が寄っている。
口は半分開き、呼気が漏れていた。
天を迷っていた香純の視線が、由美を捉えた。
目蓋が下がり、半眼になっていた。
死んでいく人の眼差しに見えた。
「わたし、醜い?」
「綺麗です」
「ダメ!
醜いって言って!」
「……。
醜いです」
「ブタ女……。
このブタ女。
言って……」
「ブタ女……」
「もっと強く」
「ブタ女!」
「ふご。
ふごごご」
香純は、鼻濁音で応えた。
子豚が歓喜しているようだった。
尻が、細かく左右に動いていた。
尻尾があったら、千切れんばかりに振られていただろう。
「ふご!」
香純が、反動を付けるように仰け反った。
美弥子の指が、鼻から抜けた。
しかし、帰ろうとする指を、香純は逃さなかった。
大きく頚を振り戻し、指先を咥えたのだ。
香純の頬が、翳を孕んだ。
窪んでいた。
指を吸っているらしい。
美弥子は、頚をすくめるように表情を崩し、指を引こうとしていた。
指先を舐められ、くすぐったいのだろう。
しかし、指先の逃亡は許されなかった。
香純の口が追ってきたのだ。
香純の顔は、叔母の両脚の間から、大きく突き出していた。
香純の頚が、後ろざまに折れた。
指に塞がれていない片方の鼻孔が、宙に曝されていた。
細い綺麗な鼻孔だった。
肉の薄い鼻翼が、巣立ちする幼鳥のように羽ばたいていた。
「藤村さん……。
見て。
鼻の穴を吊られたわたしの顔を……。
上から見て」
命令口調ではなく、哀訴に近い声色だった。
由美は、われ知らず起ちあがっていた。
身長は、香純のほうが少し高いだろうが……。
香純は両脚を大きく開き、膝が折れていた。
香純の顔は、苦もなく見下ろすことができた。
整った顔が、苦しげに歪んでいた。
鼻孔を吊りあげられ、鼻柱には皺が寄っている。
口は半分開き、呼気が漏れていた。
天を迷っていた香純の視線が、由美を捉えた。
目蓋が下がり、半眼になっていた。
死んでいく人の眼差しに見えた。
「わたし、醜い?」
「綺麗です」
「ダメ!
醜いって言って!」
「……。
醜いです」
「ブタ女……。
このブタ女。
言って……」
「ブタ女……」
「もっと強く」
「ブタ女!」
「ふご。
ふごごご」
香純は、鼻濁音で応えた。
子豚が歓喜しているようだった。
尻が、細かく左右に動いていた。
尻尾があったら、千切れんばかりに振られていただろう。
「ふご!」
香純が、反動を付けるように仰け反った。
美弥子の指が、鼻から抜けた。
しかし、帰ろうとする指を、香純は逃さなかった。
大きく頚を振り戻し、指先を咥えたのだ。
香純の頬が、翳を孕んだ。
窪んでいた。
指を吸っているらしい。
美弥子は、頚をすくめるように表情を崩し、指を引こうとしていた。
指先を舐められ、くすぐったいのだろう。
しかし、指先の逃亡は許されなかった。
香純の口が追ってきたのだ。
香純の顔は、叔母の両脚の間から、大きく突き出していた。
コメント一覧
-
––––––
1. Mikiko- 2012/03/11 07:51
-
わたしたちが乗ったのは、4号車。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2012031006442325d.jpg
でも、これが先頭車両なんです。
わたしたちが座る座席の前方には、展望室のようなスペースがありました。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120310064423c69.jpg
さっきまで、鉄ちゃんの卵みたいな小学生が、かぶりつきで進行方向を見てました。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120310064423e9a.jpg
彼にとってこの旅は……。
生涯忘れられない思い出となるのかも。
彼の人生は、走り出したばかり。
彼の未来に、幸あれ!
もちろんわたしたちも、あとで展望室に立ってみるつもり。
そのとき、まだあの小学生が占領してたら……。
ぶん殴ってやる。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120310064407046.jpg
とにかく今は、展望室よりトイレが先です。
座席と展望室の間には、トイレなんてありません。
で、当然わたしたちは、展望室とは逆、後ろ方向に歩き出したわけです。
車両端部の扉を開きます。
トイレが、ありました。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120310064407d61.jpg
-
––––––
2. Mikiko- 2012/03/11 07:52
-
しかしながら……。
使用中!
み「なんで使用中なんだ!
まだ発車したばっかりじゃないか!」
律「人のこと言えないでしょ。
どうする?
開くの待つ?」
み「待ってられない。
便秘女だったらどうすんの」
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120310064407adf.jpg
み「次、行くぞ、次」
律「そんなに切迫してんの?」
み「火急の事態じゃ」
http://blog-imgs-35.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2012012919394529a.gif
律「どうして、もっと早く行かないのよ」
み「バカをからかってたら……。
面白くて止められなかった」
律「悪いい女。
バチが当たって、きっと漏らすわよ」
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2012031006440762a.jpg
み「縁起でもないこと言わんといて」
律「漏らしたら、もう一緒に座らないからね」
み「ヒドい」
隣の車両に移ります。
律「そう言えばさ……」
み「何よ!」
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2012031006440657a.jpg
律「殺気立たないでよ」
み「すでに、とば口なの。
顔が覗いてるかも知れないの」
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120310064407abd.jpg
律「キタナイ人ね。
あのさ。
今見たら……。
ここって、3号車じゃない」
み「当たり前でしょ。
4号車の隣なんだから」
続きは、次回。
-
––––––
3. ハーレクイン- 2012/03/11 09:29
-
鼻吊りに続いて言葉責め、定番中の定番「この、ブタ女!」。
うーむ、やるのう香純め。
きちんとSMの王道を踏まえておるではないか。
しかしちょっと待て!
美弥ちゃんの指を吸う?!
おい、香純!
美弥ちゃんに手を出すことはならぬぞ!
なんせその子は堪え性がないんだからな。
-
––––––
4. ハーレクイン- 2012/03/11 09:56
-
「展望室」まであるのか「リゾートしらかみ青池」くん。
やるのう。
惜しむらくは、前に運転台がある事。当然運転手さんもおるわけだ。二階建てにすればもっと眺めがよかろうが、さすがにそれは無理か。
どっちにしても、一番前の椅子は鉄っちゃん専用席になってしまうと思うぞ。
先頭には必ずおるからなあ、きゃつらは。
JR東海道本線だろうが、大阪環状線だろうが、阪急京都線だろうが、神戸線だろうが、宝塚線だろうが……。
大阪市営地下鉄にだっておるのだ。地下鉄で前を見てもしょうがなかろう、と思うのだがな。
お。
「み」さんのうんこはともかく、「律」さんが新たな疑問を提出。
「ここって、3号車」。
それがどうした?!
待て、次回。
-
––––––
5. Mikiko- 2012/03/11 13:06
-
『くまげら』です。
五能線は非電化で架線が無いんだから……。
いっそ、3階建てくらいの車両にすればいいのにね。
あるいは、屋上をつくるとか。
前に、新潟駅を発着する車両は全部電車、みたいなことを書きましたが……。
大ウソでした。
新津駅から磐越西線に乗り入れる車両は、電車じゃありませんでした。
新津駅から喜多方駅までは、非電化だったんですね。
そう言えば、津川行きに、たまーに乗りますが……。
ほかの電車とは違ってました。
床が高いんです。
タラップから、1段上がる感じ。
床の下に、ディーゼルエンジンがあるんでしょうか?
電車が混むと、扉の前の低くなったスペースに落っこちることがあります。
-
––––––
6. ハーレクイン- 2012/03/11 15:40
-
げ。
ということで確認しました。『由美美弥』909回-『東北』347回にしっかり記載が。
>食「……この列車は『くまげら』」
うーむ。確かに。
何故「青池」くんと思い込んでおったのだろう。
青池や、十二湖や、五色沼の話題が散々出たからだろうな。
うーむ。不覚。
以前のコメも見たら、自分でも「くまげら」とちゃんと書いておったよ。
よーし。
名誉挽回、逆襲じゃ。
>五能線は非電化で架線がないんだから……。
いっそ、3階建てくらいの車両にすればいいのにね。
わはははは。
おろか者め。まさに素人の赤坂見附じゃ。
そんな背の高い車両、危なくて乗れんわ。
よいか。
鉄道の2本のレールの間隔を軌間(きかん;ゲージ)という。世界中の鉄道で様々な軌間が採用されておるが、きりがないので一切はしょる。
JR在来線の軌間は1,067mm。1mとちょっとだな。
「え、そんなに狭いの」と大概のおなごは思うはずじゃ。
そうなのだよ明智君。よって当然ながら左右の車輪の幅も1mちょっと。
このわずか1m幅の上に車体が乗っかって走っておるのだ、JRは。もちろん車体自体の幅はもっとあるがな。
でだ。この1m幅の上に3階建ての車両を建てたとしよう。容易に想像がつくであろ。
直線ならまだしも、カーブに差し掛かれば遠心力がかかり、車両はあっという間にカーブの外側へ転倒、脱線転覆じゃ。
いや、それ以前に、ちょっと横風が吹きつけただけでこけるのは目に見えておる。
よいか。こういった要素をきちんと力学的に計算して、車両のサイズというのは決められておるのだ。
鉄道総研の実力を甘く見るでないぞ。
ちなみに、世界で最も広い軌間は、ロシアに9mというのがあるらしい。ほんまかいな。これなら3階建ても十分可能だろうな。
ふむ。
磐越西線は非電化か。
前から思ってるんだけど、新潟-新津間の運行って、ややこしいというかめんどくさいというか。
羽越本線も、信越本線も、磐越西線も、全部新津を経由して新潟につながるんだよね。つまり新潟がぽこん、と飛び出しているというか……。新津を経由しないのは上越新幹線と、あと越後線くらいだよね。
ま、新潟を含め関東甲信越の鉄道網ってのは、凄くややこしいという印象なんだけど、その象徴が新潟-新津間のように思えます。全部新潟直結にすればいいのに、と思うんですけどね。
しかし「扉の前の低くなったスペースに落っこちる」って、なんかバスみたいですねえ。
バスもディーゼルエンジンだからなあ。
-
––––––
7. Mikiko- 2012/03/11 20:22
-
線路の幅が、そんなに狭いとは知らなんだ。
なんでそんな設計にしたんだ?
昔の日本人が、小さかったから?
幅が狭くても、列車が倒れない仕組みを考えてみました。
車輪を強烈な磁石にする、ってのはどう?
そうすれば、レールから離れないんじゃないか?
新津駅は、鉄道の一大拠点です。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120311201538166.jpg
大阪発のトワイライトエクスプレスも停車します。
新津を発つと、次はもう北海道の洞爺駅。
新津駅売り名物、三色団子。
http://blog-imgs-37.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120311201810c95.jpg
発売は、大正五年です。
-
––––––
8. ハーレクイン- 2012/03/11 21:35
-
やったあ。
Mikikoさんから1ポイント、ゲ~ット。
国際的な標準としての軌間は、1,435mmとされています。つまりJRの軌間は世界基準からいうと狭いんですね(こういう軌間を「狭軌」といいます)。
日本の鉄道はご存じのとおり、明治5年(1872年)、新橋-横浜間での開業が始まりですが、このとき軌間1,067mmが採用されました。
これは、軌間が広いほど建設費がかかること、より広い鉄道用地が必要になること、などが理由のようです。
つまり狭い日本、明治維新直後のビンボ国日本が、狭い軌間を採用させたわけですね。
で、当然のことですが、いったん線路が敷設されちゃいますと、その後に軌間を変えるなんてのは困難ですから、今に至るもJRの軌間は1mちょっとということになっているわけです。
新幹線は違いますよ。新幹線の軌間は国際規格の1,435mmです。
また、関西の阪急、阪神、京阪の大手私鉄。京都市営地下鉄、大阪市営地下鉄の阪急との相互乗り入れ路線、なども1,435mmを採用しています。
関西、広い。あ、関東にもありますがね、1,435mm。
鉄道模型にもいろいろな軌間のものがありますが、今のところ最も狭いのがTゲージと呼ばれるもので、何と線路幅3mm!!!
このTゲージ。当然のことながら車両もおそろしく小さい。指に乗るほど。
で、その重さも吹けば飛ぶようなものですので、レールにただ乗せるだけでは走りません。自重が軽すぎて、レールとの密着度がほとんどないからです。
で、どうするかというと、ふっふっふ。Mikikoさんご提案の磁石なんですよ。
車両に磁石を搭載して磁力でレールと密着させる。その上で車両に搭載したモーターで走ろう、という代物です。
なんかすごい世界ですよね。この世のものではない。半分、あの世に行ってしまってるような。この世とあの世をつなぐ鉄道の様な……Tゲージ。
ちなみに「T」はもちろん「Three」の頭文字です。
新津駅構内の画像。
鉄っちゃんは、この錯綜するレール群を「美しい」と感じるのです。
そうですねえ。
トワイライトエクスプレスは、新潟駅は通らないんですよねえ。
新津の三色団子か……。
-
––––––
9. Mikiko- 2012/03/11 22:06
-
1万ポイントまで、あと9,999ポイントですね。
がむばってください。
なーんだ。
磁石方式は、模型で採用されてるんだ。
でも、実車ではどうなんでしょう。
鉄くずなんかを引き寄せちゃって……。
すぐに走れなくなるだろうな。
カーブでスピードを保ったまま曲がれる……。
たしか、振り子式とかいう列車があるんじゃなかったっけ?
そんなら、人間振り子式ってのはどうだ?
カーブに差し掛かると……。
乗客がみんな、箱乗りするわけ。
新津駅は、昨日、三条に行く途中に通りました。
とにかく、線路だらけ。
筮竹を並べたようでした。
でも、駅前は……。
御多分にもれず、シャッター通りです。
-
––––––
10. ハーレクイン- 2012/03/11 22:52
-
>一万ポイントまで、あと9,999ポイント
なあんのこっちゃ。全く意味不明。
飲んでるからなあ。いつものことだが。
振り子式、ありますねえ。
たしか関西の僻地、和歌山県内を走る特急電車でも採用されていたか、と。
カーブでうまく曲がる工夫には、車両だけではなく、線路側にもあります。
線路を敷設してある地面を「路盤」といいますが、これに角度をつけるんですね。具体的にはカーブの内側に向けて路盤を傾ける。
このことで、ほれ、例の、二輪車の曲がり方「カーブの内側に向け車体を傾ける」と同じ効果が生じるのですよ。
振り子式もそうですが、要するに「遠心力をどう相殺するか」、これがカーブの曲がり方の工夫ですね。
>新津駅は……線路だらけ
それはそうでしょう。
あれだけの路線が集中する駅ですからねえ。
シャッター通りは淋しいですが。
非日常の旅人は行き過ぎるだけ。残される者は黙々と、淡々と日常を重ねるだけ……。
-
––––––
11. Mikiko- 2012/03/12 07:46
-
『Mikiko's Room』で1万ポイント貯めると……。
auのポイントと交換できるんだぞ。
路盤の傾斜ねー。
競輪場みたいな感じですかね。
設計、施工、メンテ……。
すべての面でタイヘンそうだな。
新津駅構内。
「排雪モーターカー除雪作業」という動画がありました。
http://www.youtube.com/watch?v=siJ7ixRy270&feature=results_main&playnext=1&list=PLBCB2051F1BEC411E
-
––––––
12. ハーレクイン- 2012/03/12 09:09
-
しかし、やっと1ポイントだからなあ。
1万ポイントは生きてるうちには無理だろうなあ。
>路盤の傾斜……競輪場みたいな感じ
そーそー、競輪場はバンク(bank)といいますね。銀行とはかんけ―ありません。
あれは初めて見たら結構たまげる。そのデカさ、というか高さというか……。
鉄道の路盤の傾きはカント(cant)といいます。傾けることを「カントをつける」などと表現します。
まちがってもcuntと書いてはいけません。