2017.9.28(木)
「あっははは、まあいい格好だこと……」
「ひゃっははは!!」
美津の高笑いに呼応して、周りの牢からも若い女の嬌声が巻き起こった。
眉を寄せたお蝶が固くその目を閉じ合わせる。
両足を左右に縄で引き絞られて、土間の上で丸裸のまま大の字にその身体が押し開かれたのである。
抜けるような白い肌があちこち泥で汚れたものの、返ってそれが油の乗った女体の美しさを引き立てているようにさえ見える。
縄の張り具合を確かめた春花と秋花は、意味深な笑みを浮かべてお蝶の横に腰を降ろす。
「ふふ……」
春花の右手がやおらお蝶の乳房を掴み込んだ。
誇らしく上向きに盛り上がった乳房が、春花の指で膨らみを増しながら小さく弾む。
「悔しいけど、こんないい女にはめったにお目にかかれないよ」
そう言いながら秋花の右手が下腹部の茂みを逆撫ですると、黒々と盛り上がった繊毛が蝋燭の灯りに艶々と輝いた。
「ふふふ……じゃあとりあえず、このお乳の先を固く立たせてあげようか……?」
そう言って春花が艶やかな唇をお蝶の乳首に近づけた時、
「待て」
鷹の声に思わず春花と秋花は顔を上げた。
「そいつはもうそれでいい。お前たちはもう休んで明日の京行きに備えるんだ」
鷹は美津たちに向かって不機嫌そうに顎をしゃくった。
「ええ……?!」
不満そうな表情を浮かべた春花に、片膝から立ち上がった秋花が肩をすくめる。
「春ちゃん、もうお開きだってさ。お楽しみはまた後日、……さあ行くよ」
春秋花姉妹は、何気なく鷹の様子を窺いながら出口の方へと姿を消した。
続いて鷹の後ろへ廻った美津は、すれ違いざまにふとその足を止める。
「ふふ、まさかあんた……、まだあいつに未練があるんじゃないだろうね……?」
その言葉に振り向いた鷹が美津を睨みつける。
「うっふふふ……」
鋭い眼差しを苦笑いで
やがて美津の足音も聞こえなくなり地下牢は再び静寂に包まれる。
鷹は格子戸を抜けてゆっくりとお蝶に近付いて行った。
「久しぶりだね……」
お蝶の脇に佇んだまま鷹はぽつりとつぶやいた。
固く閉じていたお蝶の目が薄っすらと開く。
「もうやがて、20年か……」
そう言いながら腰を降ろす鷹からお蝶は目を顔を背ける。
片膝をついた鷹がお蝶の全身に視線を巡らせた。
「あの頃あたしたちは、まだ大人になる途中だった……」
その日の修行を終えて谷川で水浴びをする少女たちの光景が、ぼんやりと鷹の脳裏に浮かんだ。
夕日に光る黒髪に手拭いを使いながら、鷹は渓流に佇む一人の少女を見つめていた。
真白な肌に川の水がきらきらと輝いて、なだらかに膨らみを帯びたその身体に鷹はそっとため息をつく。
河原の大きな岩の上に上がると、その少女は濡れた身体を惜しげもなく夕日に晒した。
鷹は改めて自分の身体に視線を落としてみる。
胸こそ少し膨らみ始めてはいたが、色黒でぎすぎすした身体。
胸の内に微かな痛みを感じたまま鷹は腰を上げる。
「お蝶。余分に持ってきたからこれ使いなよ」
「え……? あ、ありがとう……」
お蝶はその顔に愛くるしい笑みを浮かべると、差し出された白い手拭いを受け取った。
岩の上で立ったまま、お蝶は両手を上げてその黒髪を手拭いに包んだ。
しかしふと自分の身体に視線が注がれているのに気付くと、お蝶はくるりと鷹に背を向ける。
「ねえ鷹……。あたし昨夜のことは忘れるから、あんたも……ね?」
急に鷹は熱く顔が火照るのを覚えた。
色白でなで肩の美しい体つきと、思わず
鷹も筋肉質で伸びやかな肢体の持ち主ではあったが、自分にはないお蝶の女らしい美しさにある種の憧れを抱いていた。
そしていつの頃からだろう、その憧れが胸を締め付ける感覚に変わり始めたのである。
次第にそれがはっきりとした形を取り始めて、まだ若い昂ぶりを身体に感じるまま、鷹はお蝶を思い浮かべながら自分を慰めることがあった。
そして昨夜夜半はとうとうその思いが募って、隣で寝息を立てているお蝶の身体に手を伸ばしてしまったのだ。
しばらく夢うつつで自制していたお蝶も、とうとう股間に伸びた鷹の手を掴んだ。
“だめだよ鷹、こんなこと”
お蝶は身を起こして、二三人を挟んで離れた場所に寝床を移した。
それから一年も経たぬうち、すでに伊賀の“くのいち”として名の売れた姉のお通と比較されるのに嫌気がさした鷹は、外の世界を求めて伊賀の里を飛び出していったのである。
ふと我に返った鷹は改めてお蝶の横顔を見た。
「年月は経ったけど、あんたのことは分かってるつもりだ。今あんたが誘いに乗って仲間になると言っても、それがどこまで信用できることか……」
相変わらず横を向いたままのお蝶の顎を鷹は右手で掴んだ。
無理やり振り向かせたお蝶の目と鷹の目が向き合う。
「今までのお蝶のままじゃあ、あんたは仲間にはなれないのさ」
「え……?」
思わずつぶやきを漏らしたお蝶に鷹は片頬を緩める。
「もうすぐあんたはお蝶じゃなくなるんだ。分かるかい?」
不安げなお蝶の目が大きく見開かれた。
「ちくしょう!」
とうとう叫びを上げたお蝶に鷹はゆっくりと頷いた。
「でもまだお蝶のうちに、一度あたしが落としてあげるよ。どうやらあの伊織といい仲らしいが、どこまで忠義だて出来るか……」
鷹はお蝶の胸にゆっくりと顔を近づける。
「ふん! まだあたしに気があるんなら無駄だよ。あんたになんか……」
顎を上げたお蝶の冷たい眼差しにも構わず、鷹は鼻先でお蝶の右の乳首を二三度嬲るとゆっくりと口に含んだ。
静かに吸い離された乳首は、豊かな乳房のふくらみから微かに頭をもたげて濡れ光っていた。
「ふふ、あの時私を嫌がったけど、あんたのあそこは少し濡れてたんだよ。覚えてるかい?」
お蝶は再び鷹から顔を背けた。
「その指を舐めるのさえもったいなくて、あたしはあんたの臭いを嗅ぎながら気持ちよくなった。今夜はたっぷり舐めて、あんたを気持ち良くしてあげるよ」
一旦身を起こした鷹は、引き開けられたお蝶の両足の間に腰を降ろす。
着物が汚れるのも構わずその場で腹這いになると、お蝶の太ももの付け根の茂みに顔を近付けていく。
隠れた部分に温かい鷹の息を感じて、牢の石積みに目を細めながらお蝶は朱の唇を噛んだのである。
「く……」
固く目を閉じたまま、お蝶は強張った息を喉の奥に詰めた。
両脇から伸びた鷹の両手に乳房を揉み上げられて、その指先が戯れる乳首は先ほどとは比べ物にならないほど膨らみから弾き立っている。
背中の曲線が土間との間に隙間を作って、お蝶の柔らかみを帯びた裸体に小さな
溢れる熱い露を舐め上がった舌先が小さな強張りに纏いつく。
鷹の鋭い眼差しが下からじっとお蝶の表情を窺う。
それまでつれなく焦らしていた舌先が、今度はしつこく急所を嬲り続けた。
「ぐ……う……!!」
みるみるお蝶の首から上が赤く染まり上がった時、お蝶の股間から鷹の顔が離れた。
「あの夜もこうしたかった……。だがもうすぐ、あんたは今までのお蝶じゃなくなる。あたしが今夜、最後の引導を渡してあげるよ」
再び鷹の顔が伏せられた時、一糸まとわぬお蝶の裸身にぶるっと震えが走った。
お蝶の陰部に吸い付いたまま、鷹の頭が小刻みに揺れ動き続ける。
怒ったように弾き立った両の乳首が鷹の指先で弄ばれる。
強張った背筋を反り上げると、お蝶は縄で縛られた両手を握り締めた。
眉の間に苦し気な縦皺が刻まれる。
「ぐう!!!」
喉の奥で低いうなりを上げると、真っ白い下腹部の柔らかみがさざ波を打った。
歯を食いしばったまま、お蝶は熱い快楽の迸りに身を貫かれた。
「ん……く……!!!! ……ふう! ………はあ……はあ………」
身を弛緩させて熱い息を吐いたお蝶から、鷹はゆっくりと顔を上げる。
「よく声を上げなかったね……。やっぱり見込んだだけのことはある。しぶとい女だ」
お蝶の脇に身をずり上げると、鷹はお蝶の乳房に片頬を乗せた。
右手が下腹部の肌をなぞって陰毛の中に分け入っていく。
「ふふふ、まだまだ……。今度はもっと強く可愛がってあげるよ」
「う……!」
もうしとど濡れそぼったものを鷹の指に犯されるのを感じて、お蝶は絶望的な眼差しを冷たい石室の天井に向けたのである。
空に薄っすらと山の端が浮かび始めて、垂れ込めた霧が早朝の冷気に流れていく。
山肌の窪みに積まれた藁が微かに動いたかと思うと、中から農民の頬かむりが覗き出た。
注意深く周りに視線を巡らせた女は、ようやくそこから身を乗り出して隣の藁積みに身を寄せる。
「桔梗様、桔梗様……」
蔓の囁きに藁の一部が揺れ動くと、左右に頭を振りながら大石桔梗の顔が現れた。
「若様は……?」
その問いかけに桔梗は口の前で人差し指を立てる。
蔓が藁の中を覗き込むと、桔梗の胸にもたれたまま鶴千代はまだ小さな寝息を立てていた。
微かな笑みを浮かべて桔梗と蔓は顔を見合わせる。
「久しぶりに外に出た上に山歩きで、お疲れになったのであろう」
桔梗のささやきに頷くと蔓は再び口を開く。
「しかし今は早めに動く方が得策。いつまでも農民の姿では、長く移動するには不都合です」
「ふむ、お前の言うとおりだが、このままでは若のお御足もいつまでもつか分からぬ。丹波までの短い行程とはいえ、敵から逃げおおせるのは簡単なことではない……」
桔梗の言葉に俯いて考え込んだ蔓だったが、やがて頬かむりを取って藁くずをはたき落とした。
「分かりました。ではもうしばらくしましたら寄り付きの良い道まで出て、そこで商人の衣装と荷車を私が調達して参ります」
「蔓……」
桔梗はそう呟いて蔓の顔をじっと見つめた。
「桔梗様……、どうなさいましたか?」
「お前には何から何まで世話になって。すまぬ……」
じっと見つめて来る桔梗の瞳から蔓は目を逸らした。
青白くさえ見える蔓の顔がほんのりと赤らんだ様に見える。
「私も桔梗様のお役に立てて嬉しゅうございます……。では、私は道の検討をつけて参ります。桔梗様たちはここで動かずに……」
そう言い残して歩いてゆく蔓の背中を、桔梗は眩し気に見送ったのだった。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2017/09/28 07:51
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山の端の霧
わたしは、生まれも育ちも平野で……。
山は、薄青いシルエットにしか見えないところで育ちました。
木々が見分けられるほど間近で山を見る機会は……。
旅行でしかありません。
『単独旅行記』では、高速バスや新幹線の中から眺めました。
あまりお天気に恵まれない旅が多いのですが……。
おかげで、木々を舐めるように動く霧は、たびたび見てきました。
でも、一番印象的だった風景は……。
子供のころ、家族旅行で行った旅館の窓からの眺めでした。
どこだったか、場所は忘れてしまいましたが……。
旅館の窓は、山の斜面に面してたんです。
真下には、渓流が流れてました。
この山の斜面を下りてきた霧が……。
生き物みたいに動いてたことを、はっきりと覚えてます。
窓際の広縁に置かれた椅子の柄まで思い出します。
この広縁、旅館では、お馴染みのスペースですよね。
窓に面した部分が板張りになってて、椅子が向かい合って置かれてます。
前にも書きましたが……。
あのスペースは、部屋に布団が敷かれたときの居場所として設けられたものだと思います。
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2. ハーレクイン- 2017/09/28 16:54
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>引導を渡してあげる
死者に手向ける、僧侶の最後の読経ですが、この道(どの道や)では無論イカせること。
が、お蝶姐さん、なかなか成仏しそうにありません。
小寺池続報
図書館に行ってきました。
初めてです(図書館が、ではなく小寺池図書館が)。
図書館の裏庭が小寺池、という位置関係にありまして、図書館裏のベランダから池が見渡せます。
このベランダには数客のベンチが置いてありまして、池の川風?に吹かれながら読書を楽しめます。
そのベンチには女性が一人、互いに言葉を交わすことなく、無論目と目を見交わすことも無く……。
驚いたのは、池の湖面?のそう、3分の2ほどでしょうか、びっしりと蓮の葉に覆われていたこと。以前はこんなのありませんでした。
残りの水面(でいいよな)には4か所噴水が。これが無ければ、水面全体が蓮に覆われるかもしれません。栽培してるのかなあ。
肝心の目的は、話題に出ました『新修隠語大辞典』これを見ること。
書物自体は確かにありました(そらあるやろ)が、これがハズレ。いわゆる隠語が五十音順に配列され、その現代語訳を付してあります(そらそやろ)が、逆は無いのです。
つまり、現代語から隠語を引くことは出来ません。これでは残念ながら、わたしの要には足りません。
蔵書は開架式(閉架もあるかもしれませんが不明)。書架の間をぶらぶら歩き、目についた本を2冊借りてハイさいなら、でした。
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3. Mikiko- 2017/09/28 19:55
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小寺池風景
↓こちらに、少し詳しく書かれてます。
http://www.kyoto-osaka.com/guide/spot/0097_k&t_pond.html
↓画像が、たくさんありました。
http://picbear.com/place/478144583
噴水の設置目的は、水中に酸素を取り入れるためじゃないでしょうか?
水深が浅いから、酸欠になりやすいんだと思います。
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4. ハーレクイン- 2017/09/28 22:06
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Re.小寺池風景
関係なさそうな画像もいくつかありますが……。
ついこないだ、という感じの画像です。
しつこいようですが、以前はあんなに蓮は繁茂していませんでした。
噴水はその通りでしょう。
観賞用とは到底思えません。
うちからは、バスを2本乗り継がねばなりませんが、歩く手間は、中央図書館よりこちらの方が少ない。館内の雰囲気もずっとよろしい。
散歩代わりに、今後も利用しますかね、小寺池図書館。