2017.9.19(火)
「姫よ」
「あい」
「先ほど、姫は我に問われたのう」
「…………」
「兵部殿が精の液、飲みし我に子は出来ぬのか、とじゃ」
「まことにご無礼申し上げました」
無礼、と恭子(のりこ)が詫びたは、その問い掛けに続けて「その歳で」と付け加えたことにあった。
思い出した笹津由は、改めて微苦笑を面貌に浮かべた。が、そのことには触れず笑みを消し、そのまま師の口調で続ける。
「精の液と申すは……」
笹津由は大きく両脚を開いた仰臥位。
恭子はその笹津由の脚の間にあって端座。
笹津由は恭子を斜(はす)に見上げ、恭子は笹津由を見下ろす。だが、視線の向きとは逆に笹津由は師の、恭子は弟子の、それぞれの風情は崩してはいなかった。
「精の液と申すは、極めて弱きもの」
「弱し、と」
「さよう、熱きか冷たきか、湿れるか乾けるか……置かれし場所の在り様が、その生き死にに大きく関わり申す」
「場の在り様……」
「さよう、姫よ」
「あい」
「精の液は、何処にて生ずるものなりしや」
「無論、をのこ(男)が体内」
「左様、しかして精の液の好む場所は、をのこ(男)のその体内、に限られおり申す」
「をのこの……」
「精の液は……をのこの体内を離れては生くること叶わぬ、弱きものなのじゃ」
「…………」
「しかも、精の液の寿命は元々わずか数日」
「…………」
少しく伏せていた視線を恭子(のりこ)は上げた。直(す)ぐと笹津由の顔を見詰め、問い掛ける。
「精の液、さほどに弱きものならば、師よ」
我が言葉を遮る恭子の問い掛けに、笹津由は咎めることなく応じた。
「何かの」
「をみな(女)が体内に首尾よく注ぎ込まれたとしても、直(ただ)ちに滅し果つるのではありませぬか」
笹津由は、再び軽く笑み、恭子に応える。
「これは言葉が足りなんだ、許されよ」
「とんでもなき事に御座ります」
「姫よ」
「あい」
「今しがた、精の液の好む場所はをのこ(男)が体内のみ、と申し上げしが……」
「あい」
「正しくは、人の体内、と申し上ぐるべきであった」
「人の……」
「左様、すなわち精の液はをみな(女)が体内にても生きてゆけるのじゃ」
「をみなが体内にても……」
「左様、ただしをのこ(男)が体内よりは生き難し、とも聞き及ぶがのう」
「…………」
「いずれにせよ、精の液がをみな(女)の体内にて全く生きられぬとあらば、をみなが卵に合わさることなど出来申さぬわのう」
「左様に……ありまするなあ」
納得したか、恭子(のりこ)は軽く笑んだ。
笹津由は更に言葉を継ぐ。
「要するにじゃ、姫」
「あい」
「をのこ(男)の成せし精の液は……人の体内のみにて生くるもの、ということじゃ」
「あい」
「くどいようじゃが、をのこが精の液、人の体の外においては、一時(ひととき)たりとも生くること叶わぬ」
「あい」
「そこでじゃ、姫よ」
「あい」
「じゃから、じゃからこそ、精の液をば如何にしてをみな(女)が体内に注ぎ入(い)るるか、が大事のこととなるわけじゃな」
「……師よ」
「何か」
「ご無礼を承知でお伺いいたしたく」
「構わぬ、何じゃの?」
「師が先程為された如く……口より、では?」
再びみたび(三度)、笹津由は笑む。笑みながら即答した。
「精の液、をみな(女)が体内にても生くること能うとはいえ、体内の何処にてもよし、とは参らぬ」
恭子(のりこ)に言葉は無い。ひたすら笹津由の教えに聞き入る恭子であった。
「詳しくはすぐにお教え参らするが……口より飲みし精の液の向かうところは胃の腑、ここは精の液にとりて極めて生き辛(づら)き場所、瞬時に死滅し申す」
「故に、どれほど口より精の液を飲もうが、卵に出会うことなど断じてあり申さぬ」
「…………」
「よって、我(われ)が子を孕む気遣いも、無用の事におじゃるよ」
「もうご勘弁くだされ、師よ」
恭子と笹津由、見詰め合う全裸のをみな(女)二人は、同時に軽い笑い声をあげた。
「さて、姫よ」
暫時の後、笹津由は笑みを消し、言葉を改めた。
ここからが大事ぞ、そのような笹津由の言葉を聞いたかのように恭子も居住まいを正した。師に応ずるその声も、弟子のそれであった。
「あい」
「くどいようじゃが子を成すには、をのこ(男)の成す精の液ををみな(女)が体内に注ぎ入れねばならぬ」
「あい」
「何故かならば、精の液が合わさるべきをみな(女)が卵は、常にをみなが体内に有りて、体外には出て来ぬものにあるからじゃ」
「あい、さように御座りました」
「うむ、よって精の液は、をみなが体内に直(じか)に注ぎ入れねばならぬ」
「じか、に……」
「ここから、じゃ」
言って笹津由は、己が陰(ほと)に改めて手を伸べた。左手の二本の指、中指(ちゅうし)と薬指(やくし)のみで複雑な陰門を器用に左右に掻き開く。膣前庭は、子を成したとは思えぬ淡い桃色。「ここ」と右手の示指の指す先には、穿たれたような洞(うろ)の口が垣間見えた。膣口であった。
恭子(のりこ)は目を凝らし見詰める。
(あれ)
(あれは)
(あの洞、は……)
(先ほど、我が指が)
(我が指が吸い込まれるが如く……)
恭子の指に、先ほどの感覚が鮮やかに蘇った。
(我が指を締め付けた、あの……)
恭子の目は、笹津由の膣口に吸いつけられた。射竦められたかに目が離せない。我が指先の記憶は痛いほどであった。恭子は知らず、声を漏らす。
「おお」
恭子の指の感覚を共に感じでもしたか、笹津由の口からも微かな声が漏れた。
「むう」
同時に、笹津由の陰(ほと)の洞(うろ)から、とろりとした質感の、澄んだ液が零れ出た。
陰(ほと)に縫い付けられていた恭子(のりこ)の視線は、目ざとくその液を捉えた。
「師よ……」
「むう」
「をみな(女)の液、に御座りまするなあ」
「左様」
「何触れずとも、出(いづ)る事ありまするのか」
「左様、をみなの液は、見詰めらるるのみにても……いや、心地よき記憶のみにても出(いづ)るもの、いまが今のようにの」
「おお」
「並べて、心の成す業に有ろうかのう」
「心の……」
「じゃから、如何に見られようと、触れられようと、心の通わぬ相手では出(いづ)る事あらず」
「不思議なることにありまするなあ、師よ」
「左様じゃのう」
恭子はふと思いついた。思いついたことは即座に口にする恭子であった。
「師よ」
「何か」
「尿(ゆまり)も、この洞(うろ)より出まするのか」
「いや、尿はここよりじゃ」
笹津由は、膣口を指していた示指の先を少し上に動かした。尿道口である。
恭子(のりこ)は更に目を凝らすが、うねる丘のような膣前庭に開く小さな尿の出口は見て取れない。
「よく……わかりませぬが」
「このあたりに開きおり申す、今少し目を近づけ、確とご覧(ろう)ぜよ」
言わるるまま、恭子は顔を寄せた。触れんばかりに近づいた恭子の顔のどこかが陰部に触れたか、恭子の顔を突き放すように笹津由の腰が跳ね上がった。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2017/09/19 10:18
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女官笹津由の実践的性教育講座
↑ここ数回のわたしのコメの表題、こんなのばっかし
と書かねばならぬほどに長引いております。
「性」教育ですから、無論エロっぽい話題もありますし、現に恭子と笹津由は既にスッポンポンです。所は禁裏の奥深く、きつく人払いしてあるとはいえ、時は真昼間。間違って誰かに覗かれぬものでもありません。
ありうべからざる状況ですが、これはあくまで「教育」。やらしい意図はかけらもありません。
しかし、この話はそもそもエロ話。
エロくないエロ話など、とっとと看板を下ろしての退場処分ものです。
かくてはならじ(聞き飽きたって)。
今回の末尾は「笹津由の腰が跳ね上がった」であります。無論、恭子にクリでも触れられた反応でしょう。
次回より、本格的エロシーンに突入、1,2回で野宮神社に戻る予定です。道代と志摩子が待ちくたびれていることでしょう(誰や、それ)。
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2. Mikiko- 2017/09/19 19:49
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このお話、平安時代でしたかね?
とすれば、建物は寝殿造り。
部屋を仕切るのは、屏風やスダレです。
廊下を通る者があれば、丸見えなんじゃないですか?
あ、誰か通るのがわかるようにする仕掛けが「鴬張り」なんでしょうか?
わかったって、間に合わない気もしますが。
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3. ハーレクイン- 2017/09/19 22:37
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寝殿造り
のイメージで書いています。
今みたく、細かな部屋割りなどありません。
六畳? 四畳半? 何それ? ですね。
もはや部屋、というより広間でしょうか。
しかし、ここは筆頭?女官、笹津由の威光。その「人払い」は徹底しております。廊下を通るものなぞあり得ませんが、万々が一覗く者是あれば、有無を言わさず、死罪!
しかし、改めて思いますのは、こうした建物、室内の様相。さらには服装などをほとんど書けなかったことです。特に服装はねえ。脱がす楽しみ、というのを味わえなかったのは痛恨の極みです(それほどでも)。
今後コツコツと知識を蓄え、次の機会には必ず……(やめとけって)。
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4. Mikiko- 2017/09/20 07:25
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気になるのは……
寝殿造りでは、お風呂やトイレがどうなってたかです。
調べてみたところ……。
どうやら、専用の施設としては無かったようです。
お風呂は、部屋に桶を持って来ました。
といっても、中に浸かるわけではなく……。
行水のような感じでしょう。
↓トイレは、移動式の簡易トイレだったようです。
http://www.woodssite.net/remodel/HAKUBUTUKAN.html
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5. ハーレクイン- 2017/09/20 08:20
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行水
でしたか。
別棟の「湯殿」を考えてました。
イメージは、水戸黄門の由美かおるさんですね。
簡易トイレ。
おまる、みたいなのですかね。
宮中に琵琶湖疏水を引き込んで、厠を作りゃよかったのに(当時、疏水なんぞ影も形もないって)。
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6. Mikiko- 2017/09/20 19:46
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奈良県の纏向(まきむく)遺跡から……
水洗トイレの遺構が出てるそうです。
古墳時代前期(3世紀末~4世紀前半)ですね。
藤原京(飛鳥時代)でも出てます。
古代はむしろ水洗で、その後、だんだん流さなくなっていったみたいです。
ちなみに、厠は、川屋(川の上に作ったトイレ)から来てるとか。
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7. ハーレクイン- 2017/09/20 21:56
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川屋
白土三平『カムイ伝』に……畑地用の下肥を確保するため、川屋の横に“ボットン厠”をつくり、「こちらでうんこしてくれ」と誘う場面があります。
前コメ『川屋』と書いたつもりだったんだけどなあ。でないと、琵琶湖疏水がギャグにならないよね。
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8. Mikiko- 2017/09/21 07:31
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『カムイ伝』
『カムイ外伝』とは、どう違うんじゃ?
『カムイ伝』は、忍者や農民など、被差別者や弱者の権力闘争を描いたものとして……。
全共闘世代のバイブルとなったそうです。
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9. ハーレクイン- 2017/09/21 17:31
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カムイ外伝
カムイ伝の出演?者は100人は下らないでしょうが、メインは『百姓』正助と、『抜け忍』カムイでしょうか。
カムイは抜けた後、討っ手に襲われこれを退け続ける、という先の無い人生を歩むわけですが、このエピソードを単発で描き、これを纏めたのが『カムイ外伝』です。
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10. Mikiko- 2017/09/21 19:59
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『カムイ伝』
壮大な大河ドラマだったんですね。
しかし……。
抜け忍を、どこまでも追い続けるというのは、実に不毛なことです。
テリトリーの外に逃げれば、もう実害はないでしょうに。
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11. ハーレクイン- 2017/09/21 22:36
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不毛
と云えば不毛でしょうが、そして、確かに実害はないのですが……事はそういう問題ではないのです。それは『掟』。
「抜けること許さじ」は、忍びの世界の絶対的掟なんですね。組織の総力を挙げ、たとえどれほどの犠牲を払おうとも、抜け忍は抹殺する。掟とはそういうものです。
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12. Mikiko- 2017/09/22 07:29
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わたしが追っ手なら……
そのまま逃げてしまいますけどね。
返り討ちで殺されたと思われるでしょ。
それとも、見届け役みたいなのがいるんですかね?
もしそうなら、そいつも加勢した方が有利でしょうに。
ていうか、追っ手を1人1人放つのは、不合理です。
戦力の逐次投入というのは、兵法としては、愚策中の愚策です。
「組織の総力を挙げ」ということであれば、集団でかかればいいんです。
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13. ハーレクイン- 2017/09/22 09:36
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愚作の見本
戦力の逐次投入。
眉村卓が、畢生の大著『消滅の光輪』でそんなこと書いてました。
で、討っ手。
毎回、けっこうな人数で押し包むんだけどねえ、ことごとく返り討ちです。まあ、戦場はいつも山深い森林の中、とかですから、人海戦術もあまり効果は無いようです。
バックレ追っ手
そんな甘いものではありません。
今度は自分が抜け忍として追われるのが、関の弥太っぺです。
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14. Mikiko- 2017/09/22 19:41
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だから……
「毎回」というのが、戦力の逐次投入そのものですって。
いくらカムイだって、100人に一斉にかかられたら、どうしようもないでしょう。
ま、そこが漫画ですけどね。
忍者組織。
アホの集団としか思えません。
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15. ハーレクイン- 2017/09/22 23:04
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連載外伝
テーマは「カムイvs.忍者集団」。
これで毎回描かなあかんわけですから、物語全体で見れば、結果的に逐次投入になってしまうのは止むを得ません。
全兵力で一斉にかかったら、1回で終わってしまうではないか。それでは原稿料が稼げませんぜ。
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16. Mikiko- 2017/09/23 07:31
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そういうのを……
ご都合主義と云います。
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17. ハーレクイン- 2017/09/23 10:27
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ご都合主義の……
何が悪い。
面白ければ、それでいいのだ。