以前フィルム切れで長い中断を挟みましたのに、また休憩とはこれ如何に。
Mikikoさんの「データが消えたのはもっといいものが書けるという啓示です」なんていう、思わず背筋が伸びそうなお言葉が聞こえて来そうですが、この度はしかるべき休憩ということでご容赦を願います。
私としてはすでにお話の半ばを過ぎた辺りと心得ますが、これまで登場させた人物を、私の頭の整理も兼ねてご紹介させていただきたいと存じます。
菊 54歳。女性。江戸生。陣内伊織の侍名を持っていた。
19歳の時、藩の密命により江戸屋敷の羅紗姫を国元まで送り届ける旅をした。
その旅で羅紗姫の子を授かる。(後の丹波藩主)
今は代筆などで生計を立てながら、江戸で長屋の一人暮らしを続けている。
昨今八十の依頼で、芝居本 元禄江戸異聞根来を書き始めた。
お蝶 58歳没。女性。伊賀生。元公儀隠密(伊賀 抜け忍)。
24歳の時、羅紗姫を守りつつ伊織と旅を共にした。
その後飯屋の手伝いなどしながら30年余り菊と苦楽を共にしたが、昨年夢うつつに伊織の名を呼びながら病でこの世を去る。
お美代 53歳。女性。江戸生。左官の女房。子供3人。
18歳で菊やお蝶、羅紗と共に丹波まで旅をした。
その時囚われの身となり、尾張白蝋の赤蛇尼に処女を奪われる。
今は家族と共に、菊と同じ長屋で暮らしている。
八十 59歳。男性。肥後生。元芝居小屋主。
借金で首が回らなくなり、菊の書いた芝居を最後に小屋を失った。
ビラ配りなどで糊口を凌いでいるところに興行の話があり、再び菊に芝居本の執筆を依頼する。
(芝居本『元禄江戸異聞─根来』)
菊 29歳。侍名 陣内伊織。北辰一刀流、居合の使い手。
実子である丹波の若君(鶴千代)が鷹一味に拉致され、再び伊織に身を変え若救出のため若狭へと向かう。
お蝶 34歳。昔のしのび仲間から丹波の若君がさらわれたことを知り、自ら取り上げた若君を救出すべく、再び伊織と旅を共にする。
羅紗 26歳。女性。丹波生れ江戸育ち。男性生殖機能を持つ。
16歳の時、伊織、お蝶、お通たちに守られ、江戸から国元の丹波まで送り届けられた。
鶴千代の父にして、お城の御台処を司る姫君。
若君を秘密裏に救出するため、大石桔梗を伊織の加勢に送り出す。
鶴千代 10歳。羅紗の子供。抜け荷の人質として、根来崩れで山賊まがいの鷹一味に拉致される。
初音 41歳。女性。上州生。羅紗の付き人。
15歳で藩江戸屋敷に上がって以来、羅紗姫の身の回りの世話をしている。
春秋花の淫牙にかかり、羅紗に対する育ての親以上の愛情に気付いてしまう。
大石桔梗 23歳。女性。江戸生。丹波藩士にして、今は亡き江戸家老大石の一子。
3年続けて御前試合の勝者となり、二天一流の使い手。
羅紗より鶴千代救出の密命を受け、伊織に力を貸すため単身若狭へと向かう。
蔓 31歳。女性。甲賀生。丹後お庭番(甲賀)
藩内の不穏な動きを調べるうち、抜け荷と丹波若君のかどわかしに繋がりがあることに気付く。
また、お役目に忠誠を傾ける大石桔梗の存在を知り、その無垢な人柄に惹かれるままに若救出の手助けをする。
帯刀紫乃 26歳。女性。会津生。会津藩士子女。巴流大長刀の使い手。
諸国武者修行の途中、他流試合の遺恨を受ける最中に伊織とお蝶に出会う。
華奢な風貌に似合わぬ伊織の腕前に驚くと共に、同性と知らぬまま初めてその女心を微かに揺らす。
自分の修行の糧にと伊織の助太刀を買って出る。
お美代 28歳。菊の子がかどわかしに会ったことを知り、大家のおかみを始め、長屋の女房連中に路銀を募って菊とお蝶を若狭へ送り出す。
鷹 36歳。女性。伊賀生。伊賀の修行を経た後、根来の残党と共に反社会勢力に身を投じる。
鶴千代誘拐で抜け荷の窓口を作り、阿片密造による天下の騒動をもくろむ。
沙月女 28歳。女性。出生不詳。根来残党。
心技体の調和と、その頭の良さから鷹の右腕として仲間をまとめている。
蓬莱 26歳。女性。紀州生。根来残党。
子供の頃から沙月女と共に根来の山岳修行に励む。
生まれついての恵まれた身体に気功体術を会得し、その圧倒的な体力の強さは脱術時の天女の様な美しさに比して現生の仁王の様である。
飛燕 25歳。女性。出生不詳。根来残党。
生まれつき迷いや恐れの感情を持ち合わせていないかの様な忍びの者。
自分を鍛え上げることだけに生きる意味を見出している。
ただ同じ日陰者で、凄まじい女の煩悩をぶつけてくる椿にだけは、その氷の様な心が揺らぐ時がある。
春花・秋花 24歳。双子の女性。尾張生。尾張白蝋の生き残り。
貧農の口減らしに美夜叉に引き取られ、幼少の頃より忍びとして育てられた。その運動神経や勘の良さは、まさに美夜叉が白蝋の行く末を託すほどの秘蔵子である。
傭兵として裏社会に名を知られ始めていたが、丹波絡みの一件にその遊び心を掻き立てられたのは間違いない。
春蘭 25歳。女性。清国生。阿片密造組織の一員にして双鞭の使い手。
日本人の母を持ち日本語を話す。
阿片組織が単身日本へ送り込んだ才色兼備の逸材。
載寧 37歳。女性。清国生。阿片製造、阿片調教の専門家。
代々阿片の栽培…製造に携わる家の生まれで、阿片に身体的、精神的な耐性を持つ。
椿 22歳。小浜の天竜一家が治める置屋の女。元は若狭の田舎娘であったが、飛燕に情交を強いられるうちに女同士の熱い煩悩で結ばれる。
その内に秘めた激しい女の気性は、冷たい飛燕の心にも命の暖かみを伝えて来るのだった。
咲 33歳。若狭浪人の内儀。長い間仕官の適わぬ夫と子供を抱えて苦労していた時、ふとしたきっかけで手内職など及びもつかぬ手間賃でお竜に雇われる。
苦い涙を噛みながらも、お竜からその女ざかりの身体に肉の喜びを刻まれていく。
美津 35歳。女性。美濃生。公儀隠密(伊賀)。
若いころから、お蝶とは共に忍びの修行をした間柄。
鶴千代の拉致をお蝶に知らせるが、実は裏で鷹と繋がりを持っている。
以上恐縮ではございましたが、登場人物の紹介に紙面を使わせていただきました。
冒頭に記載しましたフィルム切れと言えば、思い出しますね。
突然映画の画面が消えたかと思うと、照明が点いて場内が明るくなります。
中断しますというアナウンスもなく、「あ~あ」なんて観客のボヤキが聞こえます。
そのうち突然ブザーが鳴ったかと思うと、再び暗くなって映画が再開されるという案配。
全国津々浦々を廻って来た強者のフィルムは、途中の修繕箇所で物語がちょいちょい飛ぶため、突然場面が変わって“あれ?”と思うことなどありました。
ある時、映写機が止まってライトの熱でフィルムが焼き切れる様子がスクリーンに映し出されるのを見たことがあります。
よく似たシーンは「ニューシネマパラダイス」の中にもありましたが、この映画の中では火事になり映写技師が失明してしまいます。
いずれにしても再開のブザーで客席が暗くなると、無駄話をやめた館内は再び静寂に包まれたものです。
パートカラーの映画では、いい場面に差し掛かって画面がカラーに変わると、それまで寝ていたオジサンが急に起き上がり、満を持してスクリーンに集中する様もご愛敬でしたね。
古い話でした。
売店で何かお買い求めになりましたか?
では休憩を終えて、本編に戻らさしていただきます。
暗くなりますので、お足もとにご注意を……。
(ブザーの音)
地下牢の土間に転がったお蝶を、鷹は忌々し気に見下ろした。
「やはりあの内儀が伊織だったか……」
鷹、沙月女、蓬莱、春秋花姉妹の五人が取り囲んだ真ん中で、依然として勝気なお蝶の目が一同を睨んでいる。
「ふん! 怖気のかけらも見せやがらない。食えない女だ」
吐き捨てる様にそう言うと、蓬莱は右足でお蝶の胴体を踏みつけた。
「うぐう!」
乱れた着物の裾から白い二の足が剥き出しになり、真白な肌が濡れた泥で汚れる。
蓬莱を右手で制すると、沙月女が鷹の顔を窺う。
「どうする鷹、猿轡を外して知ってることを吐かせるかい?」
「うむ、そうだな……」
顎に手をやって鷹が考えた時、
「あんたも知ってるだろう? そいつが自害なんてするもんかい」
格子の外から女の声がかかった。
ゆっくりと開く格子戸に鷹たちが一斉に顔を向ける。
「んぐう!!」
現れた女の姿に、お蝶の目が大きく見開かれた。
「ごめんよ、お蝶。あたしゃ、もうほとほと隠密奉公にゃ飽いちまってね……。ひと山当てたら、誰も知らない所で新しい暮らしをしたいんだ。先に抜けたあんたなら、あたしの気持ちも分かるだろう……?」
「遅かったな、美津……」
美津は涼し気な眼差しで、きつく結上げた黒髪に残る傘の跡を指で撫でつけた。
「ふふふ……。あ~あ可哀そうに、泥だらけになっちまって……」
そうつぶやいた美津の後から、荷運びの準備を終えた飛燕と春蘭も牢に入って来る。
美津は一同の顔を見回すと、改めて鷹に口を開く。
「猿轡があっても無くても、こいつには同じことさ。どんなに痛めつけても事が終わるまでは何も話しゃしないし、かと言って舌も噛まない。隙あらば寝首を掻こうと考えてるんだ。早い話が、この女は片づけちまうかどうかの話なんだよ。うふふふ……」
お蝶の横にしゃがみ込むと、美津はその頬に付いた泥汚れを指で払った。
「でもあたしなら、生かしとく方に賭けるね。味方にすれば本当に役に立つ奴さ。たぶん、丹波のお城にだって客人扱いで入れるはずだ……」
ゆっくりと立ち上がると、美津は改めて土間の上のお蝶を見下ろす。
「それにこの度は、荒馬慣らしのいい薬もあるじゃないか……」
「なるほど、わかった」
そう答えて、鷹は仲間を見回した。
「若を追うのは、沙月女、蓬莱、飛燕。だが、あまり城まで近づき過ぎるな。一度にお庭番の伊賀に取り巻かれる恐れがある」
鷹の言葉に合わせて、美津も一同を見回しながら大きく頷く。
「京まで荷を運ぶ警護は、私と春蘭、載寧、春花、秋花。それからお蝶も荷と一緒に積んでいく。いいな」
「わかった」
眼光鋭く返事を返した沙月女の横から、珍しく春蘭が長い足を前に運んだ。
春蘭は可愛い小顔にうっすらと笑みを浮かべている。
「どうした……?」
「荷の警護なら私がいなくても十分でしょう。調教の方は載寧に任せるとして、私は丹波の城に行こうと思うのですが」
「城に……?」
鷹は訝し気な表情を浮かべた。
「はい。私はまだあまり顔を知られていませんし、港を利用する清国商人として挨拶に行けば城に入れるかもしれません。後を追うばかりでなく、うまくすれば向こうで得物を待つことが出来るかと……。出来ねば京に向かうだけのこと」
鷹の片頬が緩んだ。
「よし。だが無理はするな。春蘭に限らず、他の者も手間取るようなら京で合流するんだ」
沙月女の目配せで、蓬莱、飛燕、春蘭は次々と地下牢から出て行く。
「ねえ鷹、ちょっと鍵をかけて外で見てておくれよ」
鷹の横から春花の声がかかった。
「こいつを荷と一緒に運ぶにしても、勝手に動けないように縄を解いて丸裸に剥くからさ。念のために一人は外にいた方がいいだろう?」
「あっはは……、そりゃいい考えだ」
美津の笑い声に表情を緩めながら、鷹は外に出て錠を降ろす。
「うぐうう!」
後ろ手の縄を残したまま小刀で帯を切られて、お蝶は悔し気なうめき声を上げた。
「ふふふ、大丈夫大丈夫。肌を傷つけないよう用心しながら着物を切ってやるからねえ」
「いい身体してるよお蝶は。霜降りの肌が手に吸い付くようでねえ……。あたしゃもう江戸でたっぷり味わったから、今日は遠慮しとくよ。あっはははは……」
次々と露わになる白い肌が土に汚れる様子を見ながら、鷹の目も何か怪しい輝きを宿し始めていた。
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1. Mikiko- 2017/08/31 07:50
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登場人物紹介
ありがとうございます。
読者も、たいへんに助かると思います。
ていうか……。
これだけの人物を動かしていらしたんですね。
いまさらながら、その構成力に感服です。
データを消してしまうことは、いくら注意していても、どうしても起きてしまいます。
これについて、吉行淳之介のエッセイに、たいへん感心したことが書いてありました。
吉行氏が、編集者だったころ。
ある作家の家で原稿を預かり、そのまま飲みに行ったそうです。
で、何軒か梯子した後、原稿を入れたクラフト封筒が、妙に軽いことに気がついた。
なんと……。
封筒の底が抜け、原稿が消失していたんです。
氏はもちろん、記憶をたどって道を引き返して探しましたが……。
どうしても見つかりません。
翌朝、縁を切られても仕方がないと腹をくくり、作家の家に謝りに行ったそうです。
作家は怒りもせず、原稿をもう1度書こうと言ってくれたとか。
吉行氏は、自分が逆の立場だったら、あんな態度を取れたか自信がないと書いておられました。
わたしは今、自分のパソコンだけでなく、ネット上にもバックアップを取ってます。
家が火事や災害で失われても、連載を続けられるようにするためです。
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2. 醜女- 2017/08/31 15:45
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醜い女達に犯される美人を見たいです!!
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3. ハーレクイン- 2017/08/31 17:29
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フィルム切れ
に託しておられますが、要するにデータ消滅事故ということでしょうか。
パソの不調でしょうか、それとも外付けHDのクラッシュでしょうか。お見舞い申し上げます。
少し前のテレビドラマに『リッチマン、プアウーマン』てのがありました。
リッチマン・小栗旬は、ベンチャーIT企業の社長、プアウーマン・石原さとみは臨時雇いの女子社員という配役。
で、話の流れと、この二人の動きは、この際どうでもよろしい(おい)。
このIT企業の社員執務室の一角に壁(これが曰く付きですが今は省略)があり、伝言板(それはちょっとあんまりな)のように使われています。
話はここから。
で、その壁の書き込みの一つに↓こんなのありました。曰く、
「小まめ(祇園の舞妓に非ず;こら)の保存、それが君を救う」
わたし、↑これにいたく感銘を受けました。で、↓こう付け加え、メモ書きにしてパソに貼り付けてあります。曰く、
「小まめのプリントアウト、これも君を救う」
ついでにも一つ。
わたし、ハードディスクは一切信用しておりません。
吉行淳之介回顧録
こんなこと言うたらあかんのでしょうが、言わぬは腹ふくるる業。で、↓一言。
「そんなやつ、おれへんやろー」
それにしても『ニュー シネマ パラダイス』とは懐かしいです。
最後にもう一つ(まだあるんかい)。
ついこないだ見たテレビドラマで、↓こんなこと言ってました。
「人生はアップで見れば悲劇だが
ロングショットでは喜劇である」
(チャーリー・チャップリン)
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4. Mikiko- 2017/08/31 20:08
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ハードディスクに限らず……
機械は、必ず壊れるものです。
しかも、一番壊れてほしくないときに限って、壊れます。
さまざまな媒体にバックアップを取るよう、習慣づけるしかありません。
吉行談。
確かにねー。
密かにコピーを取ってたのかとも思いますが、当時、家庭には普及してなかったでしょう。
あ、カメラで撮ってたのかも?
カーボン式の原稿用紙だったりして。
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5. ハーレクイン- 2017/09/01 02:53
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>機械は、必ず壊れるもの
それを言っちゃあおしまいよ、おいちゃん。じゃなくて姐さん。(談;フーテンのハレ)。
HDを2台、パソにつないでいた頃はバックアップを取りまくってました。が、近頃は「まあいいか」でめったに取らなくなりました。
仕事用の文書類はもう増えなくなったし、昔のはプリントアウトがあるし。『アイリス』その他はMikiko’s Roomを見ればいいわけだし……。
送稿前の原稿さえ無事ならホントに「ま、いっか」です。
万一、送稿前のが消滅したら……とりあえず寝ます。
寝るは極楽金いらず、起きて働くたわけ者。寝て起きたら次の日(談:ハレ母)。
淳之介一件
もう一度書けばさらに良くなる、なんてのたまうお方もいますが、少なくともわたしはダメですね。
前に書いた事はどんどん忘れていきます。
〽忘却とは 忘れ去ることなり……
阪神がヤクルトに3連勝、首位広島とのゲーム差が5.5に縮まる……はともかく、サッカーW杯最終予選。
日本がなんとオーストラリアに2-0で勝利、W杯出場決定です。
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6. Mikiko- 2017/09/01 07:32
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バックアップは……
結局は、自己責任です。
取ってないときに限って、消失事件は起きます。
自動的にバックアップが取られてるという環境にすべきです。
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7. ハーレクイン- 2017/09/01 10:56
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自動保存
設定した覚えはないんですが、パソの野郎、勝手に保存しとります。
ただ、保存間隔がなんか一定しないんですよね。わたしの都合、じゃなく、パソの都合でやっとるようです。
やはり「小まめの保存、それが君を救う」
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