Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #206
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#206



「は、む……」

 恭子(のりこ)は、知らず声を漏らした。
 いや、声ではなかった。
 人の言の葉ではなかった。
 皇女(ひめみこ)恭子は、声にならぬ声を漏らした。
 それは喘ぎであった。
 呻きであった。
 恭子の女の肉が生まれて初めて漏らす、生々しい肉欲の証であった。
 笹津由は膝立ちである。
 その笹津由に向かい合う恭子の姿勢も自然、膝立ちになった。 
 互いに膝立ち、口と口を合わせる二人は、その両の腕(かいな)で相手の上体を抱え込んだ。
 恭子は、左右の腕で笹津由の胸のあたりを抱え込む。その両の掌を、笹津由の剥き出しの背の中程にしっかりと当てた。
 その恭子の両腕ごと、笹津由は同じく両の腕(かいな)で恭子の上体を包み込んだ。この上なく愛しいもの、珠かと思える皇女を、笹津由は優しく、強く、しっかりと抱きしめた。

 四本の腕は絡み合う蛇(くちなわ)か。いや、互いが互いを縛する縄か……。
 そも、くちなわ(蛇)は朽ち縄……。四匹の白き蛇は四筋の縄かと見え、恭子(のりこ)と笹津由、互いの上体を水も漏らさぬかに引き寄せた。そして……口。
 密着し動かぬ上体を余所(よそ)に、四枚の唇は……。
 いや、先ほどまで互いが互いを確かめるよう、触れ合い、往き交い、止まり、また動いていた唇は、今は動きを止めていた。二つの上体と同じく、離れてなるか、と密着していた。
 二つの口、唇は開いていたがその開きは見ては取れない。見えぬ隙間を通り抜け、笹津由の肉塊、舌は恭子の口内深くに侵入していた。

「う、ふ」

 恭子(のりこ)が再び呻いた。
 先程は漏れた、知らず漏らしたという風情であったが、この呻きは心中の思いを吐露していた。恭子は、あふれる思いをたっぷりと乗せ、呻いた。

(なんと)
(なんと……)
(なんと心地よき)
(かように)
(かように心地よきものとは)
(かように、口吸いとは)
(かようにも心地よきものか)
(唇の)
(笹津由が唇の)
(なんと)
(なんと柔らかき)
(なんと滑らかに)

「お、ふう」

(加えて)
(舌……)
(笹津由が、舌)
(知らなんだ)
(知らなんだ)
(口吸いとは)
(このようなことまで)
(ただ)
(ただ唇を合わするだけであると)
(ただそれだけであると)
(思うていた)
(知らなんだ)
(誰も、教えてくれなんだ)
(笹津由も)
(教えてはくれなんだ)

「ぐ、ぶ」

(舌……)
(舌が……)
(舌が、我が口内を……)
(舌が、動く)
(舌が、撥ねる)
(舌が……)
(笹津由が舌)
(舌が、我が舌を……)
(おおおお)

「ぐ、ぶうう」

(いや)
(今、教えてくれておるのか)
(そうなのじゃな)
(ささ……)
(師よ)
(母よ)
(わが、垂乳根の……)

「むう、う」

(しかし)
(しかしこの心地よさは)
(これは)
(聞いて、わかるものではない)
(これは、言の葉にては分らぬ)
(口吸い成してみて)
(成してみて初めて分る事)
(そうじゃな)
(そうじゃな、母よ)

「う、ぶ」

(それにつけても)
(笹津由が舌)
(なんと)
(なんとよく)
(よく動くことよ)
(堪らぬ)
(変幻自在)
(さような言の葉ありしが)
(まさに……)

「ふうう」

(蹂躙)
(そのような言の葉も)
(まさに)
(まさに蹂躙……)
(それが)
(それがまた)
(その思いが更に心地よし)
(お)
(おお)
(垂るる……)

 水も漏らさぬという風情に合わさる二つの口、四枚の唇。その狭間をすり抜け、一筋の無色透明な液が漏れ零れ出た。
 その液は、透明ではあるが澄んではいない。細かな泡を無数に含んでいた。
 その液は、無色ではあるが水ではない。粘性に富むその液は、軽く仰向く恭子(のりこ)の口元からゆったりと流れ下る。恭子の頬を、顎を、喉元を伝い降り、衿元から胸の内に吸い込まれて行った。
 その液は……唾(つはき)。
 恭子と笹津由と、二人の唾が溶け合い、混じり合い、一体となった……確(しか)と抱き合う二人を象徴するかのような、二人の絆の証であるかのような、液。絆の液はいつ絶えるとも知れず恭子の口元から漏れ零れ続けた。

 笹津由が口を引こうとした。
 敏(さと)くもその気配を感じた恭子は、離れてなるか、とその笹津由の動きを追った
 憤(むずか)る嬰児をあやす様に、笹津由は恭子の背を片手で軽く数度叩いた。
 笹津由の手の動きの意図は、確かに恭子に伝わった。
 恭子の口は、それ以上は笹津由のそれを追わず、二人の口が少しく離れた。恭子の唇と笹津由の唇と、その間を繋いで唾(つはき)が糸を引いた。唾の糸は、二人を繋ぐ吊橋かと見えた。
 唾の糸を拭いもせず、笹津由が恭子に囁いた。

「姫……」
「あい」
「どうじゃな」
「…………」
「おそらく初めてにて有られようが……」
「今の……口吸いに御座るな」
「ご存知に有られたか、口吸いなる言の葉」
「あい」
「左様か」
「いつ、どこにて聞き覚えしかは存ぜぬが……」
「さも、有らん」
「あい」

 笹津由は、恭子(のりこ)の目を正面から捉えた。さらに問いを重ねる。

「では、姫よ……」
「あい」
「口吸いなる振る舞い、何のために為するものかは……如何に」
「なんの……ために……」
「左様」
「それは……」

 絶句するしかない恭子であった

「ならば、姫よ」
「あい」
「どうであったかの」
「どう……」
「どのように感ぜられたか、ということじゃが」

 恭子(のりこ)は目を上げた。先ほどの笹津由に習うよう、正面から笹津由を見返しながら即答した。

「気持ち良きに御座りました」
「気持ち良ろしき、と」
「あい」
「ふむ」

 笹津由は、軽く首を振った。縦に、である。笹津由は、弟子の応(いら)えに満足する師の如く、頷(うなず)いた。
 恭子は、間をおかずに問い返した。

「師よ」
「何かの」
「師も……お気持ちお良ろしきにあられましたか」
「無論」

 こちらも即答する笹津由であった。
 恭子は重ねて問い掛ける。

「師よ」
「おう」
「ならば師よ。口吸いとは、何のために為するものにありましょうや」

 さきほどの笹津由の問い掛けを、そのまま投げ返す恭子(のりこ)であった。
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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2017/08/01 08:58
    • >教えてくれなんだ
       『口吸い』を教えてくれなかったという、皇女恭子の慨嘆と云いますか、恨み言と申しましょうか……。
       まあこれは、現在?の恭子の年齢(今の中学生くらい、のつもりです)から云いますと微妙なところです。
       当時の慣例?から言いますとそろそろ……ともいえるのでしょうか。既に『月のもの』は見ている恭子でありますし……。
       ということでございまして、その恭子の恨みを埋め合わせますかのような、笹津由センセの実践的性教育講座。いよいよ本格的に始まりました。
       くどいようでがまずは定番『口吸い』です。
       接吻、キス(英)、ベーゼ(仏)、キュッセン(独)……各言語、必ずこの語はありますようで、人類に普遍的な愛の戯れ、なのでしょう。
       無論、『性教育』ということになりますと、接吻だけで済むものではありません。何回を費やすことかわかりませんが「行くとこまで行く」恭子と笹津由。エロシーン満載の『アイリスの匣』平安京編。
       次回、乞う!ご期待。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2017/08/01 20:01
    • 口吸い
       欧米では、挨拶代わりにキスをしたりします。
       でも日本の口吸いは、完全に性行為だったようです。
       なので、往来でキスをするなんてことは、絶対にあり得ません。
       往来で犬が番ってるようなものですから。
       星新一のショートショートに、キスを扱った秀逸なものがありました。
       『親善キッス』。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2017/08/01 21:43
    • 往来でキス
       やはり、肉食系のなせる業でしょうか。
       男どうしでもやるそうですが、これは抱き合って頬ずり程度。
       しかし、旧ロシアでは男どうしでも口を合わせあったとか。たまりませんな。
      『親善キッス』
       星新一はほとんどを読んでるはずなんですが、これは記憶にありません。ま、あれだけの数ですから……。
       そういえば、星新一『ショートショート1000』なんてのがあったはずです。
       さらにそういえば古いところで、ダニー飯田とパラダイスキング『電話でキッス』なんてのがありました。↓歌詞の一部、
       
       ♪電話じゃものたりない 

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2017/08/02 07:24
    • 路上キス現場
       わたしは、1度だけ見たことがあります。
       ↓顛末は、『単独旅行記Ⅲ(24)』で書きました。
      https://mikikosroom.com/archives/8160187.html
       電話で物足りたら、変態です。

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2017/08/02 14:39
    • 路上まぐわい
       を、みたことあります。
       犬の、ですが。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2017/08/02 19:41
    • ムリに引き離そうとすると……
       悲痛な声で鳴くそうです。
       バケツで水をかけましょう。

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2017/08/02 21:35
    • 近所のおっちゃんらは……
       尻尾を引っ張ったりしてました。
       周りはまさに黒山の人だかり。おっちゃんおばちゃん、ガキどもが円陣を組んで見守ってました。
       無論わたしもその輪の中に……。
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