2017.5.27(土)
律「あ、電車の中……」
↑実際の大湊線の車中です。乗車率は悪くないようです。
客「電車ではなく、気動車です」
律「どうやって下りるの?
窓から?」
み「まだ寝ぼけてるな。
次の『下北駅』で下りるんです」
律「下仁田?
何でそんなところにいるの?」
↑こんな太いんですね。土壌環境のせいか、下仁田以外では育たないそうです。
み「下仁田は群馬だろ!
下北です。
青森の下北半島」
↑衛星写真。思ってた以上に、柄の部分が細いです。
律「何でそんなところにいるの?」
み「脳が膿んでおる。
とにかく、次の駅で下りるんです」
客「お名残り惜しいです」
み「あなたとは、今生のお別れですな」
↑『とと姉ちゃん』の場面のようです。早くリタイヤして、朝ドラを見る生活がしたい。
客「寂しいこと言わないでくださいよ。
名刺を差しあげますから、気が向いたら連絡してください」
み「向かんと思うが」
客「そう言わずに。
どうぞ」
↑切符風名刺のサンプル
み「なんじゃこの肩書き。
『鉄道研究家』?」
客「仕方ないでしょ。
会社は退職しましたから」
み「名前だけにすればいいでしょ」
客「あまりにも余白だらけで、スカスカになっちゃうんですよ」
み「名前をデカデカと刷ればいいではないか。
勘亭文字かなんかで」
客「それじゃ、千社札ですよ」
↑ほんとに作ってる人がいました。
み「『鉄道研究家』って、何か資格持ってるの?
鉄道学部を出たとか」
客「そんな学部はありませんよ」
↑最近は、こんなキラキラ学部が増えてます。就活に不利だとか。
み「自由に名乗っていいわけ?」
客「学問は自由です」
↑ご存じ、『学問のすゝめ』の冒頭。なんだか、お寺で聞く『修証義』に似てます。
み「まぁ、いい。
いただいておいて……。
詐欺をするときに使わせてもらう」
客「やめてください。
あ、先生もどうぞ」
↑要らない名刺の使い方。
律「いただきます」
み「『下北駅』のバス乗り場って知ってる?
けっこう、タイトなのよ。
えーっと、この汽車が駅に着くのが、13:53分でしょ。
バスの発車が、14:05分」
客「12分もあるじゃないですか。
この列車も遅れてませんし、余裕ですよ。
這ってでも間に合います」
み「なんで駅で這わなきゃならんのじゃ!
トカゲじゃあるまいし」
↑リードをつけて、お散歩中。福岡市の大濠公園だそうです。
客「駅を出て、すぐ左がバス乗り場です。
どちらに行かれるんですか?」
み「それは秘密です」
↑鳥取のようです。
み「先生を驚かせたいから」
律「何よそれ。
ヘンなところに連れて行かないでよね」
み「立派なところです」
客「下北駅は、2009(平成21)年に新駅舎になってます。
綺麗な駅ですよ。
風情は無くなっちゃいましたが」
↑旧駅舎です。いい雰囲気です。
み「風情云々は、旅行者の勝手な言い草です。
地元民にとっては、綺麗で新しい方がいいに決まってる」
客「あと、下北交通のバスはICカードが使えませんから」
↑Suicaのペンギンくん。名前は無いようです。わたしは、Suicaの定期券を使ってます。バスにも乗れて、実に便利!
み「貨幣が流通してないのか?」
↑物々交換の図。
客「声が大きいですって。
現金は使えます」
み「あたりまえじゃ。
物納でバスに乗るんじゃ、面倒でしょうがない」
↑物納乗車の図。
み「使える現金は、日本国のものか?
まさか、石のお金じゃあるまいな」
↑『はじめ人間ギャートルズ』
客「いい加減にしないと、ホントに怒られますよ。
ほら、もう停まります。
荷物持ちましたか?
忘れ物はないですか?」
み「あ、これを忘れるとこだった」
客「それはわたしのバッグです」
み「おー、それは失敬。
似てるので間違えるところじゃった」
客「これに似た鞄は、まずありません」
み「冗談じゃ。
世話になったな。
あの世でまた会いましょう」
客「そんなこと言わないでくださいよ」
律「お世話になりました」
律「あの人、手を振ってるわよ」
み「あかんべーをしてやるか」
律「やめなさいよ。
別れって、寂しいものね」
み「ほとんど寝てたくせに」
律「ま、そうだけど」
み「発車した」
↑『下北駅』を発車する『大湊』行き快速(2007年の画像です)。
み「やっぱり、非電化はいいね。
架線が無くて、空がスカーンと開けてるし。
六角精児バンドの『ディーゼル』が聞きたくなった」
律「知らない」
み「同意は、期待してません」
律「あー、見えなくなっちゃった」
み「もらった名刺、捨てるか」
律「そんなこと言わないの。
せめて、帰るまでは持ってなきゃ」
み「ははは。
帰ったら捨てるわけね」
律「そうは言ってないわよ。
早く行きましょ。
時間、そんなにないんでしょ」
み「単線は、跨線橋が要らないから、乗り降りには便利だよね。
上りも下りも、必ず改札側のホームだから」
律「言ってることが、よくわからない」
み「説明省略。
おー、シンプルな駅。
改札から出口が見える。
迷う可能性、ゼロじゃ」
↑出入り口は、風除室(ふうじょしつ)になってますね。
↓反対側、ホーム方向を見た画像。
一番左に、みどりの窓口が見えます。
その向こうの開口部が、改札です。
み「ほんとに這って行けそうだな」
↑テレビから這い出る貞子。
律「やってみたら。
写真撮ってあげるわよ」
み「3,000円くれたら、這う」
↑タモリさんのイグアナ。なかなか厳しい姿勢ですよね。歳を取ったら難しいでしょう。
律「ホントに、矜持ってものが無いのかしら」
駅前に出ました。
↓2階部分のように見えるのは、吹き抜けの塔屋(とうや)です。
暖房効率、悪いんでないの?
み「おー、普通の町ではないか」
律「どんな町だと思ったのよ」
み「猿と人が半々に歩いてる」
↑タイです。猿の方が多いですね。
律「新潟も変わらないんじゃないの」
み「失敬な!
80万都市ですぞ」
↑また来ないかな。
律「全国的に、それを知ってる人は、ごく少数だと思うわ」
み「印象の薄い都市であることは確かでしょうが」
み「ま、新潟の話はいいです。
しかし、地方の小さな市の駅前って、どこも同じ感じになっちゃったね」
律「そんなにあちこち行ってないでしょうが」
み「『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で見てます」
↑『館山→会津若松』編。背後の建物は、館山駅。南国チックですね。
律「ほんとに小さくて可愛い駅舎ね」
み「ま、新しくなるのは良いことです。
バスは、あれだな」
律「ほんとに這って行けたわね」
律「行き先、見てもいいわよね」
み「どうぞ、見てください」
律「へー」
み「恐れ入ったか」
律「別に恐れ入りませんけどね。
ここから、バスで行けるのね」
み「見よ、この行き先表示。
おそらく、日本中のバスの中で……。
もっともインパクトのある表示じゃろう」
律「ま、確かに。
でも、こんな綺麗なバスで行けるってのが意外だった」
み「バスで行かなきゃ、なんで行くんじゃ」
律「白い杖付いて、鈴を鳴らしながら、険しい山道を登っていくってイメージね」
み「それじゃ、イタコの婆さんが来れんじゃろ」
律「イタコさんは、恐山に住んでるんじゃないの?」
↑こちらは、“イタコ”違いの「潮来花嫁さん」。転覆したら、惨事でしょうね。
み「通いです。
青森あたりから来るみたいよ。
しかも、夏と秋の例祭のときだけ」
律「あらそうなの。
秋の例祭っていつよ?」
み「確か、おとといの土曜日から、振替休日の今日までじゃないかな」
律「それで、こんなに盛況なのか」
み「でやんしょうね」
ここまで書いて、『下北駅』発のバスの時刻表を改めて確認したところ……。
わたしが調べた時と違ってました。
調べたのは多分、2011年ころだと思います。
この『東北に行こう!』の連載が始まったのは、2010年10月8日。
この時点から、恐山へのコースを考えてたとは思えませんが……。
それでも、翌年くらいには、おぼろな展望を持ったはず。
てことは、6年も前になります。
これだけ経ってしまえば、ダイヤも変わりますわな。
6年前の『下北駅』発の発車時刻は、14:05分でした。
それが今は、14:00分と、5分繰り上がってました。
↑“※臨”は、『リゾートあすなろ下北号』が運行される日のみの運転(月2回くらい)。
でも、大湊線の『下北駅』到着時刻は変わっておらず、今も13:53分でした。
つまり、6年前は12分あった乗り継ぎ時間が……。
今は、7分になってるわけです。
ま、駅の構造を考えれば……。
ホームに下りてから階段もなく、真っ直ぐ駅舎を抜けて左を向けば、すぐにバス停です。
列車が定刻に着いていれば、焦る必要もないでしょう。
問題は、列車が遅れたとき。
でも、雪は関係ありません。
なぜなら、11月から4月いっぱい、恐山は閉山になるからです。
ま、それ以外の時期でも、列車が遅れることはあるでしょうが……。
おそらく、そんなとき、バスは待ってくれてるはずです。
客を乗せずに空荷で発車したんじゃ、運賃収入ゼロですから。
さて、バスに乗りこみましょう。
律「座れて良かったわね」
↑2015年8月30日(日)11:10分(現在は11:15分)発の恐山行きバス車内。
み「確かに。
山道を、40分立ちっぱなしじゃ、厳しいわな。
途中で降りる客は、ほとんどいないだろうし」
律「乗客に、イタコさんはいないみたいね」
み「当たり前です。
イタコは、朝一番に向かってるはず。
開山時間は、朝6時だからね」
律「でも、ほんと普通の町って感じよね。
恐山っぽくないわ」
↓『下北駅』を出発する恐山行きバス。
↑ガラガラですね。
み「ここはまだ恐山ではないわ」
律「そりゃそうだけど、それなりの雰囲気があるのかと思った」
み「駅からそんな雰囲気だったら、うっとうしくてならんでしょ」
律「あっという間に家が見えなくなった。
山に分け入ってく感じ」
み「当たり前でしょ。
恐山は、山なんだから。
逆に、下北駅の裏側は、もうすぐに港です。
つまり、海抜ゼロメートル」
律「これは、立ってたら辛かったわね」
み「酔いそうじゃ」
律「止めてよね」
み「天玉そばが出るかも」
↑青森駅『八甲田』の天玉そば。かき揚げがデカい!
律「ぜったいに止めて。
次で降りなさい」
み「冗談でゲスよ」
下北駅を発車して、約30分、山の中でバスが停まります。
律「どうしたのかしら?
ここが恐山?」
み「車内放送は、『冷水(ひやみず)』だった」
み「年寄りだけ降りるのかな?
“年寄りの冷や水”」
律「みんな降りてくわよ。
若い人も。
あの、すみません」
乗「はい」
律「みなさん、どうされたんですか?」
乗「湧き水を飲みに降りるんですよ。
その間、バスは停まっててくれてます」
律「名水なんですね」
乗「“1杯飲めば10年若返り、2杯飲めば20年、3杯飲めば死ぬまで若返る”と云われてます」
み「にゃにゃにゃんと!
1杯、いくらです?」
乗「湧き水ですから、タダですよ」
み「どうせタダなら、飲んでみる価値はある」
律「“タダより高い物は無し”とも云うわよ」
み「確かに。
“死ぬまで若返る”って、どゆことだ?
消えて無くなるんでないの?」
律「4杯飲んだら死ぬとか」
み「ほんまきゃー!
しかし、20年若返るのは魅力じゃ。
2杯飲まねば」
み「降りるぞ」
律「わたしも」
み「あんたはもう、若がえらんでよろしい」
律「なんでよ!」
み「厚かましいヤツ」
律「あれね」
み「地蔵があるのが、微妙な雰囲気ですな」
律「こんこんと湧いてるわね」
み「水道引いてるんじゃあるまいな」
律「そういうことを言うと、バチが当たるわよ」
み「お、前が空いた。
わたしが汲んでやる」
み「ほれ、飲め」
律「自分で汲んだのは、自分で飲めばいいでしょ」
み「どうぞ、レディファーストです」
↑これが無意識に出来ないと、アメリカ人にはなれません。
律「あんたは、レディじゃないわけね」
み「とりあえず、今日のところは」
律「早い話、わたしに毒味させようということでしょ。
みなさん、美味しそうに飲んでらっしゃるじゃない」
み「人とは限らん」
律「ヘンなこと、言わないでちょうだい。
飲むから、柄杓、離しなさいよ。
お相撲じゃないんだから」
み「飲んだら、ごっつぁんですって言えよ」
↑#12は、気にしないように。
律「うーん。
ま、こんなものでしょう。
普通の水だわ」
み「どうやら大丈夫そうだな。
柄杓、柄杓」
↑アルマイトの柄杓。口を付けると、金臭いんですよね。でも、木製よりは清潔でしょう。
律「もう1杯飲まなきゃ。
20年、20年」
み「浅ましいヤツ」
律「でも、バスのない昔は、今来た山道を、みんな歩いて登ってきたのよね。
ここまで登って、この湧き水を飲んだら、さぞかし生き返る思いがしたでしょうね」
↑然り。
律「はい、柄杓」
み「3杯目は飲まないのか?」
律「何ごとも、ほどほどに」
↑然り。
み「人生、ギャンブルでしょ」
律「じゃ、あなた飲みなさいよ」
み「ところで、1杯って、どのくらいな分量なわけ?」
律「柄杓、1杯でしょうが」
み「入れる分量がまちまちでしょ。
“もっきり”で、1杯?」
律「なによそれ?」
み「酒飲みのくせに、知らんのか。
居酒屋なんかで、コップに日本酒が注がれるでしょ。
そのとき、縁ぎりぎりっていうか……。
表面張力で、縁から盛りあがってるくらいの注ぎ方を、“もっきり”って言うわけ」
律「零れるじゃないの」
み「コップは、枡の袴を穿いてるの。
零れたお酒は、枡が受けてくれる。
で、一口目は、盛りあがってるグラスの縁に、口で迎えにいくわけ。
そのときは必ず、ひょっとこの顔をしなければならぬ」
↑“ひょっとこ”の語源は、“火男”。かまどに火を付けるときの顔です。
律「なんでよ!」
み「口をとんがらせなきゃ、飲めないでしょ。
さらにその際、“おっとっとっと”と言わねばならぬ」
↑このときは、“おっとっとっと”と言ってはいけません。
律「馬鹿馬鹿しい。
早く飲みなさいよ。
バスが出ちゃうわよ」
み「じゃ、“もっきり”で3杯。
よーし、入ったな」
律「零れてるじゃないの」
↑手で飲むんすか! 一度もしたことないぞ。
み「袴が無いんだから、仕方ないでしょ。
いいかね、チミ。
顔から迎えに行くのじゃ。
おっとっとっと」
↑ひょっとこの顔をしてないので「NG」。
律「どうしてこう、恥ずかしいことが出来るのかしら。
早く飲みなさいって」
み「飲みでがある」
律「当たり前でしょ。
柄杓の縁まで入れて飲んでる人なんかいないわよ」
み「うーい。
飲んだぞ。
これが酒だったら、泥酔間違いなし」
律「あと2杯、飲むんでしょ」
み「の、飲めましぇん」
み「腹が、がぶがぶじゃ」
律「じゃ、1杯で止めときなさい」
み「ならん!
10年しか若返らないではないか」
律「ほら、バスがクラクション、鳴らしてる」
み「くそ!
せめて、もう1杯。
がぶ、がぶ」
↑ビールなら、いくらでも飲めるのが不思議です。
律「ほとんど、餓鬼道ね。
地獄行き決定だわ」
み「の、飲み干したぞ」
律「ほら、早く」
み「ゆ、揺らすな。
喉から出る」
↑スターリンのようです。
律「すみませーん。
遅くなりました。
ほら、早く乗りなさい」
み「ふー。
間に合った」
律「わたしたちを待ってくれてたのよ。
ほんとに恥ずかしいんだから」
み「腹の中が、ちゃっぽんちゃっぽん言ってる。
少し、出すかな」
律「止めなさい!
出したら、窓から捨てるわよ」
↑ほんとうにそうでした(今は違うと思いますが)。
み「あんたには、情けというものが無いのか」
↑良いネーミングです。〽沖で見たときゃ鬼島とみたが来てみりゃ八丈は情け嶋。
律「あんたは、情けないの一言よ」
↑水牛の群れに囲まれ、木の上に逃げるライオン。情けない。
律「とにかく、我慢しなさい。
ほら、可愛い橋がある。
綺麗ね。
太鼓橋だわ」
律「亀戸天神にあるのとそっくり。
藤の花が見事なのよね」
律「この橋も有名なんでしょ?」
み「だしょうな。
三途の川にかかる太鼓橋です」
↓恐るべき立て看板を発見。
ここでまむしに噛まれたら、三途の川を渡ったっきりになるんでしょうね。
律「三途の川を、バスで過ぎたわけ?」
み「左様じゃ」
↑金属製の手すりがバス道路だと思います。カラスは出来すぎですね。
み「すでにここは、あの世の領域なのじゃ」
律「どうしてそういう口調になるのよ」
み「イタコが乗り移った」
↑このフィギュア、わたしの枕元におわします。
律「気持ちの悪い」
み「イタコのテーマソングを歌う」
律「そんなの、あるわけないでしょ」
み「〽イタコぉの伊太郎、ちょっと見な~れば~」
律「バシ!」
み「叩くこと無いやろ」
律「不謹慎すぎ。
天罰が下るわよ」
み「降車ボタンを押さねば」
↑バスマニアに育つこと必定。
律「終点なんだから、停まるに決まってるでしょ」
み「そんな、いい加減なことではいかん。
こういうところでは、何ごとも手順が大事なのじゃ」
ピンポ~ン。
み「げ、押された」
律「前の方で、子供が押したのよ。
ほら、お母さんに怒られてる。
まったく同レベルなんだから」
み「くそ。
よくもわたしのボタンを押したな」
み「ああいうガキは、賽の河原で石積みをさせねばならん」
↑線路に積むな!
律「バカ言ってないで。
ほら、降りるわよ」
み「ごめんなすって。
ちょっくらごめんなすって」
律「人を追い抜かなくたっていいでしょ」
み「気が急く」
律「ほんとに恥ずかしいんだから。
運転手さん、いかほど?」
み「タコほど」
律「バシ」
み「叩くな!」
運「お客さん、『下北駅』からですね?」
み「うんにゃ。
『冷水』からです」
運「『冷水』で降りたじゃないですか」
律「バカ言わないの。
『下北駅』からです」
運「800円になります」
み「2人で?」
運「ひとりです」
み「先生、2人分出しといて。
細かいの、無いから」
律「無いわけないでしょ。
天玉そば食べたとき、ジャラジャラ言わせてたじゃないの」
み「人の財布を覗きおって」
律「早く払いなさい。
後ろが詰まってるんだから」
み「負かりませんよね?」
律「負かりません」
み「びた一文?」
律「早くしなさい!」
み「痛て!
だから、叩くなって言ってるでしょ」
律「蹴ってるのよ」
み「よけい悪いわ。
脳障害が出たらどうするんじゃ!」
律「すでに出てるでしょ」
み「にゃに!」
律「ほら、脚元に気をつけなさいよ。
あんたみたいな罰当たりは、ステップから転げ落ちかねないんだから」
み「いちいち、やかましい女じゃ。
よっこらしょっと」
律「そういう掛け声はやめなさい」
み「よし、無事降り立ったぞ。
この一歩は小さいが、人類にとっては大きな一歩である」
律「何それ?」
み「人類で初めて月面に降り立った、アームストロング船長の言葉じゃ」
律「関係ないじゃない。
でも、お天気で良かったわね」
み「確かに。
これで雨降りだったら、やってられんわな。
あの門が入口だな」
み「さ、行くぞ」
婆「これ、そこのお二人。
お待ちなさい」
み「待てとお止めなされしは、拙者がことでござるかな……」
↑幡随院長兵衛に「お若えの、お待ちなせえやし」と呼び止められた白井権八のセリフ。
み「で、出た。
だ、奪衣婆(だつえば)!」
↑三途の川の渡し賃(六文)を持たずに来た亡者の衣服を剥ぎ取る鬼婆。
婆「誰が奪衣婆じゃ!
そこの受付で、入山料を払いなされ」
婆「ほれ、みなさん、並んでおろうが」
み「あなた、人ですか?」
婆「見ればわかるじゃろ」
み「わからんから聞いておる」
婆「失敬なオナゴじゃ」
律「入場料ということですね」
婆「恐山は、テーマパークではないわ。
入山料じゃ」
律「おいくらかしら?」
婆「一人、500円じゃ」
み「負かりまへんか?」
婆「負からん!
恐山を値切るとは、この罰あたりめ」
婆「500円くらい払いなされ。
バス代より安いではないか」
み「確かに。
小一時間で、800円は高いよな。
東京だったら、そのくらいの時間、乗る路線もあるけど……。
みんな、210円均一だもんね」
↑まだ回数券が売られてるようです。新潟では、2013年9月で終了しました。
↑実際の大湊線の車中です。乗車率は悪くないようです。
客「電車ではなく、気動車です」
律「どうやって下りるの?
窓から?」
み「まだ寝ぼけてるな。
次の『下北駅』で下りるんです」
律「下仁田?
何でそんなところにいるの?」
↑こんな太いんですね。土壌環境のせいか、下仁田以外では育たないそうです。
み「下仁田は群馬だろ!
下北です。
青森の下北半島」
↑衛星写真。思ってた以上に、柄の部分が細いです。
律「何でそんなところにいるの?」
み「脳が膿んでおる。
とにかく、次の駅で下りるんです」
客「お名残り惜しいです」
み「あなたとは、今生のお別れですな」
↑『とと姉ちゃん』の場面のようです。早くリタイヤして、朝ドラを見る生活がしたい。
客「寂しいこと言わないでくださいよ。
名刺を差しあげますから、気が向いたら連絡してください」
み「向かんと思うが」
客「そう言わずに。
どうぞ」
↑切符風名刺のサンプル
み「なんじゃこの肩書き。
『鉄道研究家』?」
客「仕方ないでしょ。
会社は退職しましたから」
み「名前だけにすればいいでしょ」
客「あまりにも余白だらけで、スカスカになっちゃうんですよ」
み「名前をデカデカと刷ればいいではないか。
勘亭文字かなんかで」
客「それじゃ、千社札ですよ」
↑ほんとに作ってる人がいました。
み「『鉄道研究家』って、何か資格持ってるの?
鉄道学部を出たとか」
客「そんな学部はありませんよ」
↑最近は、こんなキラキラ学部が増えてます。就活に不利だとか。
み「自由に名乗っていいわけ?」
客「学問は自由です」
↑ご存じ、『学問のすゝめ』の冒頭。なんだか、お寺で聞く『修証義』に似てます。
み「まぁ、いい。
いただいておいて……。
詐欺をするときに使わせてもらう」
客「やめてください。
あ、先生もどうぞ」
↑要らない名刺の使い方。
律「いただきます」
み「『下北駅』のバス乗り場って知ってる?
けっこう、タイトなのよ。
えーっと、この汽車が駅に着くのが、13:53分でしょ。
バスの発車が、14:05分」
客「12分もあるじゃないですか。
この列車も遅れてませんし、余裕ですよ。
這ってでも間に合います」
み「なんで駅で這わなきゃならんのじゃ!
トカゲじゃあるまいし」
↑リードをつけて、お散歩中。福岡市の大濠公園だそうです。
客「駅を出て、すぐ左がバス乗り場です。
どちらに行かれるんですか?」
み「それは秘密です」
↑鳥取のようです。
み「先生を驚かせたいから」
律「何よそれ。
ヘンなところに連れて行かないでよね」
み「立派なところです」
客「下北駅は、2009(平成21)年に新駅舎になってます。
綺麗な駅ですよ。
風情は無くなっちゃいましたが」
↑旧駅舎です。いい雰囲気です。
み「風情云々は、旅行者の勝手な言い草です。
地元民にとっては、綺麗で新しい方がいいに決まってる」
客「あと、下北交通のバスはICカードが使えませんから」
↑Suicaのペンギンくん。名前は無いようです。わたしは、Suicaの定期券を使ってます。バスにも乗れて、実に便利!
み「貨幣が流通してないのか?」
↑物々交換の図。
客「声が大きいですって。
現金は使えます」
み「あたりまえじゃ。
物納でバスに乗るんじゃ、面倒でしょうがない」
↑物納乗車の図。
み「使える現金は、日本国のものか?
まさか、石のお金じゃあるまいな」
↑『はじめ人間ギャートルズ』
客「いい加減にしないと、ホントに怒られますよ。
ほら、もう停まります。
荷物持ちましたか?
忘れ物はないですか?」
み「あ、これを忘れるとこだった」
客「それはわたしのバッグです」
み「おー、それは失敬。
似てるので間違えるところじゃった」
客「これに似た鞄は、まずありません」
み「冗談じゃ。
世話になったな。
あの世でまた会いましょう」
客「そんなこと言わないでくださいよ」
律「お世話になりました」
律「あの人、手を振ってるわよ」
み「あかんべーをしてやるか」
律「やめなさいよ。
別れって、寂しいものね」
み「ほとんど寝てたくせに」
律「ま、そうだけど」
み「発車した」
↑『下北駅』を発車する『大湊』行き快速(2007年の画像です)。
み「やっぱり、非電化はいいね。
架線が無くて、空がスカーンと開けてるし。
六角精児バンドの『ディーゼル』が聞きたくなった」
律「知らない」
み「同意は、期待してません」
律「あー、見えなくなっちゃった」
み「もらった名刺、捨てるか」
律「そんなこと言わないの。
せめて、帰るまでは持ってなきゃ」
み「ははは。
帰ったら捨てるわけね」
律「そうは言ってないわよ。
早く行きましょ。
時間、そんなにないんでしょ」
み「単線は、跨線橋が要らないから、乗り降りには便利だよね。
上りも下りも、必ず改札側のホームだから」
律「言ってることが、よくわからない」
み「説明省略。
おー、シンプルな駅。
改札から出口が見える。
迷う可能性、ゼロじゃ」
↑出入り口は、風除室(ふうじょしつ)になってますね。
↓反対側、ホーム方向を見た画像。
一番左に、みどりの窓口が見えます。
その向こうの開口部が、改札です。
み「ほんとに這って行けそうだな」
↑テレビから這い出る貞子。
律「やってみたら。
写真撮ってあげるわよ」
み「3,000円くれたら、這う」
↑タモリさんのイグアナ。なかなか厳しい姿勢ですよね。歳を取ったら難しいでしょう。
律「ホントに、矜持ってものが無いのかしら」
駅前に出ました。
↓2階部分のように見えるのは、吹き抜けの塔屋(とうや)です。
暖房効率、悪いんでないの?
み「おー、普通の町ではないか」
律「どんな町だと思ったのよ」
み「猿と人が半々に歩いてる」
↑タイです。猿の方が多いですね。
律「新潟も変わらないんじゃないの」
み「失敬な!
80万都市ですぞ」
↑また来ないかな。
律「全国的に、それを知ってる人は、ごく少数だと思うわ」
み「印象の薄い都市であることは確かでしょうが」
み「ま、新潟の話はいいです。
しかし、地方の小さな市の駅前って、どこも同じ感じになっちゃったね」
律「そんなにあちこち行ってないでしょうが」
み「『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で見てます」
↑『館山→会津若松』編。背後の建物は、館山駅。南国チックですね。
律「ほんとに小さくて可愛い駅舎ね」
み「ま、新しくなるのは良いことです。
バスは、あれだな」
律「ほんとに這って行けたわね」
律「行き先、見てもいいわよね」
み「どうぞ、見てください」
律「へー」
み「恐れ入ったか」
律「別に恐れ入りませんけどね。
ここから、バスで行けるのね」
み「見よ、この行き先表示。
おそらく、日本中のバスの中で……。
もっともインパクトのある表示じゃろう」
律「ま、確かに。
でも、こんな綺麗なバスで行けるってのが意外だった」
み「バスで行かなきゃ、なんで行くんじゃ」
律「白い杖付いて、鈴を鳴らしながら、険しい山道を登っていくってイメージね」
み「それじゃ、イタコの婆さんが来れんじゃろ」
律「イタコさんは、恐山に住んでるんじゃないの?」
↑こちらは、“イタコ”違いの「潮来花嫁さん」。転覆したら、惨事でしょうね。
み「通いです。
青森あたりから来るみたいよ。
しかも、夏と秋の例祭のときだけ」
律「あらそうなの。
秋の例祭っていつよ?」
み「確か、おとといの土曜日から、振替休日の今日までじゃないかな」
律「それで、こんなに盛況なのか」
み「でやんしょうね」
ここまで書いて、『下北駅』発のバスの時刻表を改めて確認したところ……。
わたしが調べた時と違ってました。
調べたのは多分、2011年ころだと思います。
この『東北に行こう!』の連載が始まったのは、2010年10月8日。
この時点から、恐山へのコースを考えてたとは思えませんが……。
それでも、翌年くらいには、おぼろな展望を持ったはず。
てことは、6年も前になります。
これだけ経ってしまえば、ダイヤも変わりますわな。
6年前の『下北駅』発の発車時刻は、14:05分でした。
それが今は、14:00分と、5分繰り上がってました。
↑“※臨”は、『リゾートあすなろ下北号』が運行される日のみの運転(月2回くらい)。
でも、大湊線の『下北駅』到着時刻は変わっておらず、今も13:53分でした。
つまり、6年前は12分あった乗り継ぎ時間が……。
今は、7分になってるわけです。
ま、駅の構造を考えれば……。
ホームに下りてから階段もなく、真っ直ぐ駅舎を抜けて左を向けば、すぐにバス停です。
列車が定刻に着いていれば、焦る必要もないでしょう。
問題は、列車が遅れたとき。
でも、雪は関係ありません。
なぜなら、11月から4月いっぱい、恐山は閉山になるからです。
ま、それ以外の時期でも、列車が遅れることはあるでしょうが……。
おそらく、そんなとき、バスは待ってくれてるはずです。
客を乗せずに空荷で発車したんじゃ、運賃収入ゼロですから。
さて、バスに乗りこみましょう。
律「座れて良かったわね」
↑2015年8月30日(日)11:10分(現在は11:15分)発の恐山行きバス車内。
み「確かに。
山道を、40分立ちっぱなしじゃ、厳しいわな。
途中で降りる客は、ほとんどいないだろうし」
律「乗客に、イタコさんはいないみたいね」
み「当たり前です。
イタコは、朝一番に向かってるはず。
開山時間は、朝6時だからね」
律「でも、ほんと普通の町って感じよね。
恐山っぽくないわ」
↓『下北駅』を出発する恐山行きバス。
↑ガラガラですね。
み「ここはまだ恐山ではないわ」
律「そりゃそうだけど、それなりの雰囲気があるのかと思った」
み「駅からそんな雰囲気だったら、うっとうしくてならんでしょ」
律「あっという間に家が見えなくなった。
山に分け入ってく感じ」
み「当たり前でしょ。
恐山は、山なんだから。
逆に、下北駅の裏側は、もうすぐに港です。
つまり、海抜ゼロメートル」
律「これは、立ってたら辛かったわね」
み「酔いそうじゃ」
律「止めてよね」
み「天玉そばが出るかも」
↑青森駅『八甲田』の天玉そば。かき揚げがデカい!
律「ぜったいに止めて。
次で降りなさい」
み「冗談でゲスよ」
下北駅を発車して、約30分、山の中でバスが停まります。
律「どうしたのかしら?
ここが恐山?」
み「車内放送は、『冷水(ひやみず)』だった」
み「年寄りだけ降りるのかな?
“年寄りの冷や水”」
律「みんな降りてくわよ。
若い人も。
あの、すみません」
乗「はい」
律「みなさん、どうされたんですか?」
乗「湧き水を飲みに降りるんですよ。
その間、バスは停まっててくれてます」
律「名水なんですね」
乗「“1杯飲めば10年若返り、2杯飲めば20年、3杯飲めば死ぬまで若返る”と云われてます」
み「にゃにゃにゃんと!
1杯、いくらです?」
乗「湧き水ですから、タダですよ」
み「どうせタダなら、飲んでみる価値はある」
律「“タダより高い物は無し”とも云うわよ」
み「確かに。
“死ぬまで若返る”って、どゆことだ?
消えて無くなるんでないの?」
律「4杯飲んだら死ぬとか」
み「ほんまきゃー!
しかし、20年若返るのは魅力じゃ。
2杯飲まねば」
み「降りるぞ」
律「わたしも」
み「あんたはもう、若がえらんでよろしい」
律「なんでよ!」
み「厚かましいヤツ」
律「あれね」
み「地蔵があるのが、微妙な雰囲気ですな」
律「こんこんと湧いてるわね」
み「水道引いてるんじゃあるまいな」
律「そういうことを言うと、バチが当たるわよ」
み「お、前が空いた。
わたしが汲んでやる」
み「ほれ、飲め」
律「自分で汲んだのは、自分で飲めばいいでしょ」
み「どうぞ、レディファーストです」
↑これが無意識に出来ないと、アメリカ人にはなれません。
律「あんたは、レディじゃないわけね」
み「とりあえず、今日のところは」
律「早い話、わたしに毒味させようということでしょ。
みなさん、美味しそうに飲んでらっしゃるじゃない」
み「人とは限らん」
律「ヘンなこと、言わないでちょうだい。
飲むから、柄杓、離しなさいよ。
お相撲じゃないんだから」
み「飲んだら、ごっつぁんですって言えよ」
↑#12は、気にしないように。
律「うーん。
ま、こんなものでしょう。
普通の水だわ」
み「どうやら大丈夫そうだな。
柄杓、柄杓」
↑アルマイトの柄杓。口を付けると、金臭いんですよね。でも、木製よりは清潔でしょう。
律「もう1杯飲まなきゃ。
20年、20年」
み「浅ましいヤツ」
律「でも、バスのない昔は、今来た山道を、みんな歩いて登ってきたのよね。
ここまで登って、この湧き水を飲んだら、さぞかし生き返る思いがしたでしょうね」
↑然り。
律「はい、柄杓」
み「3杯目は飲まないのか?」
律「何ごとも、ほどほどに」
↑然り。
み「人生、ギャンブルでしょ」
律「じゃ、あなた飲みなさいよ」
み「ところで、1杯って、どのくらいな分量なわけ?」
律「柄杓、1杯でしょうが」
み「入れる分量がまちまちでしょ。
“もっきり”で、1杯?」
律「なによそれ?」
み「酒飲みのくせに、知らんのか。
居酒屋なんかで、コップに日本酒が注がれるでしょ。
そのとき、縁ぎりぎりっていうか……。
表面張力で、縁から盛りあがってるくらいの注ぎ方を、“もっきり”って言うわけ」
律「零れるじゃないの」
み「コップは、枡の袴を穿いてるの。
零れたお酒は、枡が受けてくれる。
で、一口目は、盛りあがってるグラスの縁に、口で迎えにいくわけ。
そのときは必ず、ひょっとこの顔をしなければならぬ」
↑“ひょっとこ”の語源は、“火男”。かまどに火を付けるときの顔です。
律「なんでよ!」
み「口をとんがらせなきゃ、飲めないでしょ。
さらにその際、“おっとっとっと”と言わねばならぬ」
↑このときは、“おっとっとっと”と言ってはいけません。
律「馬鹿馬鹿しい。
早く飲みなさいよ。
バスが出ちゃうわよ」
み「じゃ、“もっきり”で3杯。
よーし、入ったな」
律「零れてるじゃないの」
↑手で飲むんすか! 一度もしたことないぞ。
み「袴が無いんだから、仕方ないでしょ。
いいかね、チミ。
顔から迎えに行くのじゃ。
おっとっとっと」
↑ひょっとこの顔をしてないので「NG」。
律「どうしてこう、恥ずかしいことが出来るのかしら。
早く飲みなさいって」
み「飲みでがある」
律「当たり前でしょ。
柄杓の縁まで入れて飲んでる人なんかいないわよ」
み「うーい。
飲んだぞ。
これが酒だったら、泥酔間違いなし」
律「あと2杯、飲むんでしょ」
み「の、飲めましぇん」
み「腹が、がぶがぶじゃ」
律「じゃ、1杯で止めときなさい」
み「ならん!
10年しか若返らないではないか」
律「ほら、バスがクラクション、鳴らしてる」
み「くそ!
せめて、もう1杯。
がぶ、がぶ」
↑ビールなら、いくらでも飲めるのが不思議です。
律「ほとんど、餓鬼道ね。
地獄行き決定だわ」
み「の、飲み干したぞ」
律「ほら、早く」
み「ゆ、揺らすな。
喉から出る」
↑スターリンのようです。
律「すみませーん。
遅くなりました。
ほら、早く乗りなさい」
み「ふー。
間に合った」
律「わたしたちを待ってくれてたのよ。
ほんとに恥ずかしいんだから」
み「腹の中が、ちゃっぽんちゃっぽん言ってる。
少し、出すかな」
律「止めなさい!
出したら、窓から捨てるわよ」
↑ほんとうにそうでした(今は違うと思いますが)。
み「あんたには、情けというものが無いのか」
↑良いネーミングです。〽沖で見たときゃ鬼島とみたが来てみりゃ八丈は情け嶋。
律「あんたは、情けないの一言よ」
↑水牛の群れに囲まれ、木の上に逃げるライオン。情けない。
律「とにかく、我慢しなさい。
ほら、可愛い橋がある。
綺麗ね。
太鼓橋だわ」
律「亀戸天神にあるのとそっくり。
藤の花が見事なのよね」
律「この橋も有名なんでしょ?」
み「だしょうな。
三途の川にかかる太鼓橋です」
↓恐るべき立て看板を発見。
ここでまむしに噛まれたら、三途の川を渡ったっきりになるんでしょうね。
律「三途の川を、バスで過ぎたわけ?」
み「左様じゃ」
↑金属製の手すりがバス道路だと思います。カラスは出来すぎですね。
み「すでにここは、あの世の領域なのじゃ」
律「どうしてそういう口調になるのよ」
み「イタコが乗り移った」
↑このフィギュア、わたしの枕元におわします。
律「気持ちの悪い」
み「イタコのテーマソングを歌う」
律「そんなの、あるわけないでしょ」
み「〽イタコぉの伊太郎、ちょっと見な~れば~」
律「バシ!」
み「叩くこと無いやろ」
律「不謹慎すぎ。
天罰が下るわよ」
み「降車ボタンを押さねば」
↑バスマニアに育つこと必定。
律「終点なんだから、停まるに決まってるでしょ」
み「そんな、いい加減なことではいかん。
こういうところでは、何ごとも手順が大事なのじゃ」
ピンポ~ン。
み「げ、押された」
律「前の方で、子供が押したのよ。
ほら、お母さんに怒られてる。
まったく同レベルなんだから」
み「くそ。
よくもわたしのボタンを押したな」
み「ああいうガキは、賽の河原で石積みをさせねばならん」
↑線路に積むな!
律「バカ言ってないで。
ほら、降りるわよ」
み「ごめんなすって。
ちょっくらごめんなすって」
律「人を追い抜かなくたっていいでしょ」
み「気が急く」
律「ほんとに恥ずかしいんだから。
運転手さん、いかほど?」
み「タコほど」
律「バシ」
み「叩くな!」
運「お客さん、『下北駅』からですね?」
み「うんにゃ。
『冷水』からです」
運「『冷水』で降りたじゃないですか」
律「バカ言わないの。
『下北駅』からです」
運「800円になります」
み「2人で?」
運「ひとりです」
み「先生、2人分出しといて。
細かいの、無いから」
律「無いわけないでしょ。
天玉そば食べたとき、ジャラジャラ言わせてたじゃないの」
み「人の財布を覗きおって」
律「早く払いなさい。
後ろが詰まってるんだから」
み「負かりませんよね?」
律「負かりません」
み「びた一文?」
律「早くしなさい!」
み「痛て!
だから、叩くなって言ってるでしょ」
律「蹴ってるのよ」
み「よけい悪いわ。
脳障害が出たらどうするんじゃ!」
律「すでに出てるでしょ」
み「にゃに!」
律「ほら、脚元に気をつけなさいよ。
あんたみたいな罰当たりは、ステップから転げ落ちかねないんだから」
み「いちいち、やかましい女じゃ。
よっこらしょっと」
律「そういう掛け声はやめなさい」
み「よし、無事降り立ったぞ。
この一歩は小さいが、人類にとっては大きな一歩である」
律「何それ?」
み「人類で初めて月面に降り立った、アームストロング船長の言葉じゃ」
律「関係ないじゃない。
でも、お天気で良かったわね」
み「確かに。
これで雨降りだったら、やってられんわな。
あの門が入口だな」
み「さ、行くぞ」
婆「これ、そこのお二人。
お待ちなさい」
み「待てとお止めなされしは、拙者がことでござるかな……」
↑幡随院長兵衛に「お若えの、お待ちなせえやし」と呼び止められた白井権八のセリフ。
み「で、出た。
だ、奪衣婆(だつえば)!」
↑三途の川の渡し賃(六文)を持たずに来た亡者の衣服を剥ぎ取る鬼婆。
婆「誰が奪衣婆じゃ!
そこの受付で、入山料を払いなされ」
婆「ほれ、みなさん、並んでおろうが」
み「あなた、人ですか?」
婆「見ればわかるじゃろ」
み「わからんから聞いておる」
婆「失敬なオナゴじゃ」
律「入場料ということですね」
婆「恐山は、テーマパークではないわ。
入山料じゃ」
律「おいくらかしら?」
婆「一人、500円じゃ」
み「負かりまへんか?」
婆「負からん!
恐山を値切るとは、この罰あたりめ」
婆「500円くらい払いなされ。
バス代より安いではないか」
み「確かに。
小一時間で、800円は高いよな。
東京だったら、そのくらいの時間、乗る路線もあるけど……。
みんな、210円均一だもんね」
↑まだ回数券が売られてるようです。新潟では、2013年9月で終了しました。