2017.5.13(土)
わたしを含めた参加者全員の疑問に応えるように、照明の色が変わった。
部屋の入口を振り向くと、史恵さんがスイッチの傍らに立っている。
天井中央に嵌めこまれた白色の蛍光灯が消され……。
代わって、天井角の赤色のスポットライトが灯っていた。
こんな照明があることは、今まで気づかなかった。
史恵さんはスイッチを離れると、舞台に身を移した。
舞台と云っても、大がかりなものではない。
床の間に毛の生えたようなものだ。
部屋の一辺が、半間(はんげん)ほど奥まり、板敷きになっている。
畳と地板の高さが同じ、踏込床(ふみこみどこ)という仕立てだった。
その床の隅には、カラオケ装置が置かれていた。
わたしが舞台と云ったのは、まさしくその板敷きが、カラオケステージとしても使われるだろうと思ったからだ。
史恵さんはカラオケ装置の向う側に回りこむと、機械を操作した。
音楽がかかった。
その曲調と、この赤色のスポットライト。
まさかと思ったが……。
そうとしか思えない。
曲名はわからないが、いわゆる“むせび泣くテナーサックス”というやつだった。
曲の一節の区切りと同時に、直立していた仲居さんが、いきなり身体をくねらせ始めた。
赤色灯に浮かびあがる観覧者の顔が、一瞬、ぎょっとした風に見えた。
その動きは、“作務衣を着た仲居”という、きっちりしたイメージを完全に裏切っていた。
くねくねと妙な振りをつけ、反らした指先を見あげたりする。
仲居さんは踊りながら、呆然とする観客を見下すように睥睨した。
決して、仲居が客に対する視線では無かった。
「わたしは、今、仲居ではないのよ」と宣言しているようだった。
そして、その主張を込めた両手を、宙に広げた。
両手の平は、作務衣の右脇に着地した。
そこには、合わせた襟を止める紐が結んである。
両の指先がその紐を摘まみ、引き広げた。
襟がはだける。
部屋の入口を振り向くと、史恵さんがスイッチの傍らに立っている。
天井中央に嵌めこまれた白色の蛍光灯が消され……。
代わって、天井角の赤色のスポットライトが灯っていた。
こんな照明があることは、今まで気づかなかった。
史恵さんはスイッチを離れると、舞台に身を移した。
舞台と云っても、大がかりなものではない。
床の間に毛の生えたようなものだ。
部屋の一辺が、半間(はんげん)ほど奥まり、板敷きになっている。
畳と地板の高さが同じ、踏込床(ふみこみどこ)という仕立てだった。
その床の隅には、カラオケ装置が置かれていた。
わたしが舞台と云ったのは、まさしくその板敷きが、カラオケステージとしても使われるだろうと思ったからだ。
史恵さんはカラオケ装置の向う側に回りこむと、機械を操作した。
音楽がかかった。
その曲調と、この赤色のスポットライト。
まさかと思ったが……。
そうとしか思えない。
曲名はわからないが、いわゆる“むせび泣くテナーサックス”というやつだった。
曲の一節の区切りと同時に、直立していた仲居さんが、いきなり身体をくねらせ始めた。
赤色灯に浮かびあがる観覧者の顔が、一瞬、ぎょっとした風に見えた。
その動きは、“作務衣を着た仲居”という、きっちりしたイメージを完全に裏切っていた。
くねくねと妙な振りをつけ、反らした指先を見あげたりする。
仲居さんは踊りながら、呆然とする観客を見下すように睥睨した。
決して、仲居が客に対する視線では無かった。
「わたしは、今、仲居ではないのよ」と宣言しているようだった。
そして、その主張を込めた両手を、宙に広げた。
両手の平は、作務衣の右脇に着地した。
そこには、合わせた襟を止める紐が結んである。
両の指先がその紐を摘まみ、引き広げた。
襟がはだける。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2017/05/13 07:53
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5月13日
本日は、『メイストームデー』だそうです。
直訳すれば、“5月の嵐の日”ですね。
なんとなく、外国風味ですが……。
実は、日本の記念日です。
別れ話を切り出すのに最適な日、別れ話を切り出していい日なんだそうです。
5月13日は、バレンタインデーから、88日目。
立春から88日目ごろ、その年最後に霜が降りる『八十八夜の別れ霜』にちなんだそうです。
なお、閏年では1日ずれるはずですが、記念日の日付は変わらないとか。
バレンタインデーのころは、寒さの底。
一緒にいて暖まりたくもなるでしょう。
それが、気候が良くなる5月には、鬱陶しくなるということじゃないでしょうか。
でも、この季節を無事に乗り切れば、6月12日は『恋人の日』。
ほんとうの恋人になれるということでしょう。
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2. あんたも好きねえHQ- 2017/05/13 10:11
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踏込床
聞きはじめです。
どういうものかはよくわかりますが実物を見たことは……無いと思います。
普通の、床より少し高く鳴ったいわゆる『舞台』はよく見ますし、立ったこともあります。もちろんただ立つだけじゃなく、ちゃんと「芸」をしました。カラオケではありません。
で、史恵さんの掛けた曲
おそらく『タブー』でしょう。
ストリップティーズ、この場合お座敷ストリップのBGMの定番中の定番。あまりに定番すぎて、実際のストリップ小屋で掛かることはまず無いでしょう。わたしは聞いたことありません。
ドリフのカトちゃん、加藤茶の「ちょっとだけよ」のBGMと言った方が通りがいいでしょうか。
『メイストームデイ』
なんか由来は……究極の後出し、じゃなくて後付けのように思えるんですが。
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3. Mikiko- 2017/05/13 12:08
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床の間
『踏込床』という名称は、わたしも調べて知りました。
『タブー』。
↓テナーサックスだと思ってたら、なんと、トランペットでした。
https://www.youtube.com/watch?v=Tz8L1k93hFg
なお、わたしは、お座敷ストリップを見たことがありませんので……。
今回のシーンは、すべて想像です。
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4. ちょっとだけよHQ- 2017/05/13 14:31
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ペットの『タブー』
へええ、ですね。
雰囲気から云ってどう考えてもサックスなんですが(雰囲気で物言うな)。
ちなみに、例によって聞いた話ですが、世に数ある楽器の中、人の声に音質が最も近いのがテナーサキソホン(最もポピュラーなサックス)だそうです。
で、妄想ストリップ
明日が楽しみです。
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5. Mikiko- 2017/05/13 18:22
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むせび泣くテナーサックス
やっぱりこれは、昭和歌謡でしょうか。
石原裕次郎とか。
バスクラリネットも、いいですよね。
銭形平次。
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6. へぼフルートHQ- 2017/05/13 22:28
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むせび泣く裕次郎
『夜霧よ今夜も有難う』ですかね
バスクラ平次
♪ボボボブボボボ ボボボン ブボボボ
おーとーこだったら~
わたしは、舟木一夫の最高傑作だと考えています。
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7. Mikiko- 2017/05/14 07:44
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銭形平次
↓主題歌です。
https://www.youtube.com/watch?v=A44ZehP53xE
作詞は、関沢新一。
代表作は、美空ひばりの『柔』、都はるみの『涙の連絡船』、北島三郎の『歩』など。
また、脚本家としても活躍しており、『モスラ』『キングコング対ゴジラ』などを書いてます。
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8. ♪花のお江戸はHQ- 2017/05/14 09:51
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↑♪八百八町~
平次の作詞家は……
『モスラ』の脚本家。
庶民の好みを掴むのが巧みな方なんですかね。
まあ、そうでなきゃ演歌・歌謡曲は作れませんが。
つい今のニュースで……
元宝塚の女優、月丘夢路さんの訃報が伝えられました。
まだご存命だったんですねえ。
出演作は全くと言っていいほど知りません。なんでかなあ、で調べましたら、助演が多いから、かもしれません。
月丘夢路、本名井上明子。
享年95歳。