Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
単独旅行記Ⅲ(116)
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 なお、ここからは余談ですが……。
 吉良邸情報探索のからみで、ちょっとお時間を拝借。

 情報探索で思い出すのは、何と言っても“夜泣き蕎麦屋の十助”です。
 赤穂浪士の一人、杉野十平次です。
 吉良邸近くで夜泣きそばの屋台を開き、吉良邸の動向を探ってました。
夜泣きそば

 吉良邸の門番に大盛りサービスしたり、酒を振る舞ったりして取り入り……。
 代金代わりに水を所望して、邸内に入り込んだりもしたそうです。
 この蕎麦屋の常連客が、かねてより浅野贔屓の俵星玄蕃でした。
 玄蕃は、尾張藩の武士でしたが……。
 訳あって浪人し、吉良邸近くの横網(よこあみ)町で宝蔵院流の槍の道場を開いていました。
 玄蕃には、十助がただの蕎麦屋ではないことが、ひと目でわかりました。
 なぜなら、丼を差し出す指には、竹刀ダコがあったからです。
 しかし、鍛錬を積んだ武士が夜泣き蕎麦屋になろうというのは、そうとうな訳があるはず。
 玄蕃はあえてその訳を聞かず、蕎麦屋と客の付き合いを続けます。
 蕎麦屋の十助も、玄蕃を「先生」と呼び、親しみを持って接しました。

 そして、12月14日の夜。
 この日、玄蕃は自宅でひとり呑んでました。
 まさにそのとき!
 冴えきった冬の大気に乗って届いてくる、太鼓の音を耳にします。
 玄蕃の住まいから吉良邸までは、わずか1キロあまり。
 陣太鼓の音色は、はっきりと吉良邸方向から聞こえてきます。
 そしてその音色こそ、一打ち二打ち三流れ……。
 まさしく、山鹿流の陣太鼓にほかなりません。
 当時、吉良邸で何かあるとすれば、それは「赤穂浪士の仇討ちだ」というのは、江戸っ子なら百も承知のことでした。
 もちろん、玄蕃も知ってました。
 すぐさま、先祖伝来、俵弾正(たわらだんじょう)工夫の槍を掴んで飛び出します。
 九尺(2.7メートル)もある大槍です。
 ↓以下、三波春夫先生『元禄名槍譜 俵星玄蕃』の名ゼリフ。

『けいこ襦袢に身を固めて、段小倉の袴、股立ち高く取り上げし、白綾たたんで後ろ鉢巻眼の吊る如く、長押にかかるは先祖伝来俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、切戸を開けて一足表に踏み出せば、天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて行手は……。松阪町~!』

 このセリフの箇所では、毎回鳥肌が立ちます。

 さて!
 吉良邸に駆けつけると、まさに討ち入りが始まろうとするところでした。
 総大将の蔵之助を見つけ駆け寄り、助太刀を申し出ます。
 しかし、蔵之介には丁寧に断られます。
 敵を討つのは、浅野の家臣に限られた務めだからです。
 玄蕃もそれを悟り、槍を引きます。
 その折、目の前を駆け抜けていく浪士がひとり。
 その浪士が、振り向きざまに玄蕃に声をかけます。
 「先生!」
 その浪士こそまさしく、“夜泣き蕎麦屋の十助”その人でした。
 「おうッ、蕎麦屋かー」
 これが蕎麦屋の十助との今生の別れになることを、玄蕃は一瞬にして悟りました。
 玄蕃は、吉良邸に背を向けると、槍を構えて仁王立ち。
 もちろん、邪魔する者があれば、ひとりとして通さないという気構えです。
仁王立ち玄蕃

〽打てや響けや 山鹿の太鼓
 月も夜空に 冴え渡る
 夢と聞きつつ 両国の
 橋のたもとで 雪ふみしめた
 槍に玄蕃の 涙が光る

 それではお聞きください。
 ↓三波春夫先生による『元禄名槍譜 俵星玄蕃』、フルバージョンです。

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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ♪すがた蕎麦屋にHQ
    • 2016/11/16 09:49
    • ↑♪やつしてまでも
        しのぶ杉野よ せつなかろ
      二八そば
       値段が2×8=16、つまり一杯十六文だったから、と聞いたことありますがホントなんですかね。
       そういえば「按摩かみしも(上下)十六文」てのもありますね。上半身&下半身、つまり全身くまなく揉みほぐして16文。
       今でいうと十六文は……500円くらい?
       ということは、一文は30円ということかな。
      で、いやあ、
       たっぷり語っていただきましたなあ、俵星玄番。
       気持ちよかろ、「み」さん。
      ♪今宵名残に見て置けよ 俵崩しの極意のひと手
       これがはなむけ(餞)男の心 

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2016/11/16 20:02
    • 二八そばの語源
       様々あるようです。
       確かに蕎麦の値段は16文でしたが、そうなったのは、19世紀以降。
       でも「二八そば」という言葉は、18世紀初頭から使われてたようです。
       むしろ、「二八そば」だから、シャレで値段を16文にしたんじゃないでしょうか。
       もう一つの説は、粉の割合。
       蕎麦粉が8割で小麦粉が2割の蕎麦が、「二八そば」。
       でも、この説もおかしい。
       割合を言う場合、普通、主材料を先に言います。
       つまり、「八二そば」となるはず。
       ですがなんと!
       江戸時代の蕎麦は、まさに「二八」だったそうです。
       すなわち、蕎麦粉が2割、小麦粉が8割。
       これで一件落着と思いきや……。
       なんと、「二八うどん」があることが判明。
       うどんは小麦粉だけで作りますから……。
       「二八」が粉の割合であるという説が通りません。
       で、ここでわたしが思いついたのが、セブンイレブン。
       つまり、「二八」は、営業時間なのではということです。
       でも、すぐに却下。
       「二つ」という時刻は無いからです。
       「四つ」から「九つ」までです(なんでじゃ?)。
       結局のところ、定説はないようです。
       蕎麦1杯、500円は高すぎでしょ。
       それじゃ、おかわり出来ませんよ。
       ↓こちらのサイトでは、264円になってます。
      http://www.teiocollection.com/kakaku.htm
       俵星玄蕃。
       三波春夫先生の歌唱は、芸の局地、まさしく“至芸”です。
       しかしながら、この俵星玄蕃、実在の人物ではありません。
       江戸時代の講談師の創作です。

    • ––––––
      3. それにSF作家もHQ
    • 2016/11/16 22:54
    • 二八論考
       いやあ、またも語っていただきました、二八そば。
       本来なら、さらにいちいち考察すべきところ、どうも傷跡が痛んで集中できぬ。
       やはり、退院が早すぎたかなあ。
      俵母趾、いや、俵星
       講釈師見てきたような嘘を言い、とはよく言ったものです。
       まさに至言。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2016/11/17 07:24
    • 江戸の時刻
       “九つ”から、“八つ”“七つ”“六つ”“五つ”“四つ”と下がり、また“九つ”に戻ります。
       なぜ逆順で、しかも“一つ”から“三つ”が無いのか調べました。
       9の倍数だったんです。
       9(9×1)→18(9×2)→27(9×3)→36(9×4)→45(9×5)→54(9×6)。
       この、十の位を省略して呼んでたんですね。
       昼と夜を、それぞれ6等分するので、“四つ(9×6)”で終わりで、また“九つ(9×1)”に戻るわけです。

    • ––––––
      5. 草木も眠るHQ
    • 2016/11/17 09:18
    •  ↑丑三つ時
        ついでに、↑これはどういうこと?
      9の倍数
       以前から気にはなってたんですよ。
       理屈はわかりました。
       が、なぜこんな表記法?になったのか、そのあたり全く理解不能です。
       はっきり言って……アホじゃねえ?

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2016/11/17 19:49
    • 丑三つ時
       江戸時代の時刻の表し方には、前述した『数(九つ~四つ)』による方法のほかに……。
       十二支による方法があります。
       数では「九つ~四つ」が2組になるわけですが、十二支ならいっぺんに表現できます。
       今の、12時間表示と24時間表示みたいなものでしょうか。
       で、十二支表示の各時刻は、さらに四等分されて表現されます。
       『丑』の刻であれば、『丑一つ』から『丑四つ』まであるわけです。
       つまり、『丑三つ時』と云うのは、『丑』の刻を4等分した内の3番目ということです。
       春分・秋分のときで、『丑三つ時』は、30分間ですね。
       お化けが出る季節では、もう少し長くなりますが。

    • ––––––
      7. 丑年生まれHQ
    • 2016/11/17 20:33
    • 丑三つ
       お見事です。
       秋分・秋分の日ですと、丑の時は午前1時~3時。
       この120分を4等分しますから、丑三つ時は午前2時~2時半。
       まさに草木も眠る……百鬼が夜行し、魑魅魍魎の跋扈する闇の刻限ですね。
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